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医師の患者又はその遺族に対する顛末報告義務

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医師の患者又はその遺族に対する顛末報告義務

著者

阪上 武仁

雑誌名

法と政治

63

4

ページ

95(1184)-132(1147)

発行年

2013-01-20

URL

http://hdl.handle.net/10236/10383

(2)

論 説

医師の患者又はその遺族に対する

顛末報告義務

目次 第1 問題の所在 1 議論の現状 2 検討の対象 3 本稿で検討する課題 第2 患者が生存している場合の顛末報告義務の法的性質 1 検討の視点 2 民法645条(受任者による報告)を根拠とする考え方 3 診療契約上の付随義務を根拠とする考え方 4 診療契約上の顛末報告義務と弁明義務を分ける考え方 5 検討  保護法益  義務の発生根拠  診療契約における位置付け 6 結論 第3 患者が死亡した場合 1 検討の視点 2 不法行為責任が成立するとする考え方 3 医療訴訟における顛末報告義務の機能と契約責任構成を採るこ との必要性 4 契約責任を肯定する理論的根拠  診療契約上の義務とする考え方  第三者のためにする契約を包含しているとする考え方

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1 議論の現状 医療訴訟においては, 医療過誤による損害賠償請求のほか, 併せて医師 が診療経過や結果を説明する義務を怠ったことにつき, いわゆる顛末報告 義務違反として損害賠償請求がなされることがある。 同義務については, ①承諾を得るための説明義務, ②療養方法としての 説明義務及び③顛末報告のための説明義務に分類される説明義務のうち, (2)(3) 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 第1 問題の所在 ( 1 )  患者に対する顛末報告義務について遺族が相続するとする考 え方  診療契約の付随的義務とする考え方 ア 概説 イ 検討 ① 保護法益 ② 義務の発生根拠 ③ 診療契約における位置付け 5 結 論 第4 顛末報告義務の人的範囲 1 問題点 2 学説及び裁判例  議論の現状  相続構成による考え方  民法711条所定の者及び同条が類推適用される者に限定する 考え方 3 検討 第5 結語 (1) 本稿の完成には, 医療過誤訴訟における慰謝料についての検討を目的 とする「慰謝料研究会」及び関西学院大学司法研究科の「判例研究会」の 各先生方から多くの議論及び示唆をいただいたことを感謝する。 (2) 手島豊「医療と説明義務」中田裕康ほか編『説明義務・情報提供義務

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新しいタイプの説明義務である③の類型に属するものである。 (4) そして, 現在, 後述するとおり, これを肯定する裁判例がいくつか出さ れるに至っているが, 未だ最高裁判例はなく, 確立したといえる判例法理 もない状況にある。学説上も, 近時において, 顛末報告義務を完全に否定 する見解は少数説であるが, (5)(6) 学界の関心が必ずしも高い領域ではなく, (7) 法 的性質や医師が顛末報告義務を負う遺族の範囲等について, 十分明らかに されたとはいえない状況にある。 2 検討の対象 本稿で検討対象となる顛末報告義務とは, 医師が, 診療契約終了後, 患 者又は遺族に対し, 結果のいかんを問わず, その経緯及び結果を報告する 論 説 をめぐる判例と理論』(2007年)判タ1178号185頁, 下嶋崇 「各論⑤医療 判例分析 (58)」 同230頁, 手嶋豊「医事法入門 第3版」有斐閣(2011 年)196頁, 剱持淳子「医師の顛末報告義務」(2009年)判タ1304号35頁。 (3) 秋吉仁美「医療訴訟」青林書院(2009年)335頁は, 新しい説明義務 として, 手医療行為の結果を報告すべき義務としての顛末報告義務の他, 癌の告知のようにその時点での病状を適時適切に説明すべき義務, 転医を 勧告すべき義務, 病院の設備や専門的能力など医師付随情報について説明 すべき義務などがあるとされている。 (4) 従来, 医師の説明義務は①②に分類されていたが(藤山雅之編著「判 例にみる医師の説明義務」新日本法規〔2006年〕28頁), 新しい説明義務 の分類として, ③顛末報告のための説明義務が肯定されるようになった。 (5) 松井和彦 判例評論559号 9・171頁。なお, 顛末報告義務を否定する 見解として, 稲垣喬「医療過誤訴訟の理論」日本評論社(1985年)201頁, 米田泰邦「医事紛争と医療裁判 第2版」成文堂(1993年)128頁がある。 (6) 否定説に対する批判として, 岡林伸幸・名城法学(2000年)49巻4号 145頁がある。 (7) 学界の関心が高くない理由につき, 手嶋豊「治療の失敗に関する医療 関係者の患者への報告義務」信山社(2004年)古村節男ほか編「医事法の 方法と課題−植木哲先生還暦記念−」188頁。

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義務である。 ところで, 顛末報告義務は, 診療行為が不首尾な結果に終わった場面に おいて問題となることが多く, 論者によって若干文言が異なるものの一般 的に「診療行為によって不首尾な結果が生じた場合において, 医師が患者 又はその遺族に対し診療行為の経緯及び結果を報告しなければならないと する義務」 (8) とされている。 しかし, 結果が不首尾なものであることが前提とされてきたのは, 診療 行為の結果が良好な場合, 患者が医師に対し, あえて診療行為の経緯や結 果の説明を求めることが事実上少ない上に, 説明を求められた医師の側も 進んで説明するであろうことから, 法的責任として問題とならないにすぎ ない。 むしろ, 医師が患者に対して診療行為の経緯及び結果(以下「顛末」と いう。)を説明すべきである場合は, 結果が不首尾な場面に限られないは ずである。 (9) すなわち, 後に検討するとおり, 診療契約において, 患者は, その後の自らのライフスタイルを決めるために, 顛末の報告を受ける法的 利益を有するところ, それは結果が良好な場合も同様である。すなわち, 例えば, 治癒した場合のように結果が良好であっても, その後に安心して 疾病前と同様の生活を送る等のために, 診療行為のうち, 特に結果を知る ことで, 診療契約終了後のライフスタイルを決めることができるようにな 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (8) 新堂幸司「訴訟提起前におけるカルテ等の閲覧・謄写について」 (1978年)判タ382号16頁。 (9) 中村哲「医師の説明義務とその範囲」太田幸夫編『新・裁判実務体系 1医療過誤訴訟法』青林書院(2000年)97頁は, 不首尾な結果が生じてい ない場合には, 患者が精神的苦痛を被るのか疑問が残る, 仮に同苦痛が残 るとしても, それは通常, 法的保護に値する利益ないし権利に高められた ものではないことを理由に, 患者が医師に対して損害賠償請求できないと されている。

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るのである。 そして, 医療行為の専門性及び患者に対する診療行為の情報は医師が保 有しており, 患者は医師の説明なくして診療行為の顛末を知り得ないこと に鑑みれば, 診療行為の結果のいかんを問わず, 医師は, 患者に対し, 医 療行為の顛末を説明する義務を負うというべきである。 (10) そこで, 本稿では, 前述のとおり, 顛末報告義務につき, 診療行為が不 首尾な結果に終わった場合に限ることなく, 医師が, 診療行為終了後, 患 者及びその遺族に対し, 顛末を説明する義務を対象として検討する。 3 本稿で検討する課題 本稿では, 未だ判然としない顛末報告義務の法的性質について, 検討す るにあたり, ①診療契約の当事者である患者が生存している場合と②患者 が死亡した場合に分け, ②については, 顛末報告義務違反によって不法行 為責任のみならず, 契約責任までも追及しうるかという視点から, 各場合 における裁判例や学説を紹介しつつ検討する。 第2 患者が生存している場合の顛末報告義務の法的性質 1 検討の視点 診療契約の法的性質については準委任契約である。 (11) 患者が生存している 場合, 死亡の場合と異なり,準委任契約である診療契約が当然終了するこ とはなく, また, 顛末報告義務の対象が診療契約の契約当事者であること 論 説 (10) 結果が良好な場合における顛末報告義務は, 診療行為終了後の療養指 導義務に含まれることが多く, その場合には本文での説明義務の分類③で はなく, ②に分類されることとなるため, 本稿で検討する顛末報告義務の 問題とならないことが多いであろう。 (11) 前田達明・稲垣喬・手嶋豊「医事法」有斐閣(2000年)216頁。

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から, 契約責任であるとの結論を導きやすい。 (12) 以下では, 学説及び裁判例の考え方を概観した後, 顛末報告義務の法的 性質を明らかにするために, 保護法益及び同義務の発生根拠, 診療契約に おける位置付けの各視点から検討する。 特に, 保護法益を検討することは, 医師に対して顛末報告義務を課す必 要性を検討することであり, 義務の発生根拠を論じることは, 医師に対し て同義務を課すだけの法的根拠があるかを検討するという意義がある。 2 民法645条(受任者による報告)を根拠とする考え方 診療契約が準委任契約であることから, 民法645条を条文上の根拠とし て肯定する見解及 (13) び裁判例がある。 なお, 顛末報告義務が問題となった裁判例のうち, 患者が生存している 場合のものを〔別表1〕にまとめた。同表の裁判例エ, オ, カ及びキがこ の立場であり, 多数の裁判例の立場である(8例中4例)。 (14) いずれの裁判 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (12) 河上正二「医師の死因解明義務について−手続的訴訟物考−」有斐閣 (2007年) 平井宜雄先生古希記念・民法学における法と政策』604頁は, 医療契約を準委任契約とすると, 少なくとも患者の存命中は, 顛末報告義 務を委任事務処理の状況報告義務, 顛末報告義務(民法645条)に対応さ せて語ることが可能であるとされている。その他, 剱持淳子「医師の顛末 報告義務」(2009年)判タ1304号37頁。 (13) 金川琢雄・判例評論481号183頁, 松井和彦・判例評論559号11頁, 河 上正二・医事法判例百選61(2006年)132頁, 中村哲「医師の説明義務と その範囲」太田幸夫編『新・裁判実務体系1医療過誤訴訟法』青林書院 (2000年) 95頁, 鐘築優 「各論⑤医療 判例分析 (55)」 中田裕康ほか編 説 明義務・情報提供義務をめぐる判例と理論』(2007年)判タ1178号226頁。 (14) 裁判例オは, 民法645条を根拠となる旨明示していないが,「…医療機 関は, 患者に対し, 診療行為の受任者としての報告義務を負っていると解 される…。」 と判示していることから, 同裁判例も同条を根拠として い る と思料される。

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例も一般的に顛末報告義務が肯定される理由を述べていない。 (15) また学説においては, その実質的根拠として, 事務処理を委任者自身が コントロールするという委任者の本質的権利の保障, 事務処理に関する受 任者の義務違反の存否を明らかにして義務違反が存在する場合にはこれに 基づく責任追及の準備をするための情報提供の要請, これらの情報の必要 性にもかかわらず, 受任者が情報を有していることを挙げるものがある。 (16) また, 患者に生じた重大な悪しき結果の原因については患者にとって重大 な事実であることから, 患者が自己情報コントロール権としての知る権利 を有することを挙げるものもある。 (17) 3 診療契約上の付随義務を根拠とする考え方 顛末報告義務が診療契約の内容ではないことを理由として, 同義務を診 療契約上の付随義務であるとする裁判例もある。 (18) 〔別表1〕の裁判例ア, ウ及びクがこの立場である(8例中3例)。 いずれの裁判例も一般的に顛末報告義務が肯定される理由を述べておら ず, 民法645条との関係も不明である。 論 説 (15) 裁判例カは, 顛末報告義務の内容を導く上で, 医療の専門性, 医師の 説明なくして患者は不首尾な結果に終わった医療行為の影響を把握するこ との困難性, 顛末が事故の生命及び身体に直結する重要な情報として患者 が本来的に把握するべきものであること, 不首尾な結果に終わった当該治 療行為の結果が患者の生活の在り方に影響があることを挙げており, 顛末 報告義務を肯定する必要性と患者の利益についての判断が示されている。 (16) 松井和彦・判例評論559号11頁。 (17) 中村哲「医師の説明義務とその範囲」太田幸夫編『新・裁判実務体系 1医療過誤訴訟法』青林書院(2000年)97頁。 (18) 裁判例ウは, 同裁判例では「…診療契約上の債務ないしこれに付随す る債務として…。」と判示されており, 必ずしも付随義務と解していると は限られない。

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4 診療契約上の顛末報告義務と弁明義務を分ける考え方 治療行為の内容や経過の説明は, 診療契約に含まれた顛末報告義務であ るが, それを超えた患者や遺族の納得を得るための説明義務(弁明義務) は, 民法645条からは直ちに導けないとする見解がある。 この見解は, 弁明義務の根拠を患者又は遺族の知る権利に求め, 具体的 な事情如何によって弁明義務が信義則上肯定されうるとする。 (19) 5 検討  保護法益 ア 患者は, 通常, 疾病の治癒又は症状の改善などを目的として診療契約 を締結する。 もっとも, 診療契約が上記目的で締結されるものであるとしても, 診療 契約において医師が負う診療債務は, 結果債務ではなく手段債務である。 (20) そして, 医師が診療債務を履行するにあたって要求される注意義務は, 危 険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される。 (21) その内 容は, 具体的な個々の案件において, 債務不履行又は不法行為をもって問 われる医師の注意義務の基準となるべきものは, 一般的には診療当時のい わゆる臨床医学の実践における医療水準であり, (22) この臨床医学の実践にお ける医療水準は, 全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく, 診療に当たった当該医師の専門分野, 所属する診療機関の性格, その所在 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (19) 下嶋崇 「各論⑤医療 判例分析 (58)」 中田裕康ほか編『説明義務・ 情報提供義務をめぐる判例と理論』(2007年)判タ1178号230頁。 (20) 加藤良夫編「実務医事法講義」増田聖子執筆・民事法研究会(2005年) 87頁。 (21) 最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁。 (22) 最判昭和57年3月30日集民135号563頁, 最判昭和63年1月19日集民 153号17頁。

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する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられる。 (23) したがっ て, 具体的な医師の注意義務の内容は, 個々の事案によって決する他ない としても, 一般的には医師は患者に対し, 最善の注意義務を負っているの であるから, その目的実現のために実現を保証された患者の利益は, 医師 による当該疾患の診断・治療のために必要な最善の医療を受けることにあ る。 (24) ところが, 人間の生体機能は, 複雑であり, 支配不可能な要因を多く含 んでいることから予期しない不首尾な結果が生じることがある。 (25) したがっ て, 治癒又は症状の改善という患者が診療契約を締結するに至った目的が 必ず達成されるとは限らず, 患者が債権者として受け得る利益と診療契約 締結の目的に齟齬が生じる場合がある。 かかる齟齬が生じることはやむを得ないとしても, 診療行為の対象が患 者の生命・身体であること及びそれらに関する患者の情報が患者個人のセ ンシティブ情報に関わるものであることから, 患者が, 齟齬がある状態に なった顛末を知りたいと考えることは当然のことである。そして, 患者が 医師との間で診療契約を締結した理由は, 患者に生じた何らかの疾患につ き, 治癒又は症状の改善を目的として医師による治療を受けることにある から, 生存している限り, 診療契約終了後の生活があることは当然である。 そこで, 患者は, 診療契約終了後の顛末についての説明を受け, その後 のライフスタイルを決める必要がある。 (26) このようなライフスタイルを決め 論 説 (23) 最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁。 (24) 河上正二「診療債務について(覚書)」(2010年)法学74巻6号748頁 は, 診療契約における医師の具体的な債務は, 個々の診療プロセスの中で 生成・変化せざるを得ないという特質を有し(時系列の中での動態性), 予め確定することはできないとされている。 (25) 河上正二「診療債務について(覚書)」(2010年)法学74巻6号751頁。 (26) ライフスタイルを保護法益とする最初の見解として, 新美育文「癌患

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る必要性は, 上記第1のとおり, 結果が不首尾でない場合であっても同様 に存在する。 加えて, 結果が不首尾な場合, 患者が顛末の報告を受けることは, 患者 が, その結果を運命として甘受するか, 何らかの法的手段を採用するかを 決するにつき, 重大な意義を有している。 (27)(28) この選択をすることも, 診療契 約終了後の患者のライフスタイルを決めることの一つといえる。 このように顛末は, 患者の重要な法益である生命・身体に関わる情報で あるのみならず, 診療契約終了後のライフスタイルを決めるために不可欠 な情報である。 イ ところが, 医療行為は, 極めて専門的な行為であるから, 患者は自ら の生命身体に関することといえども, 行われた医療行為の内容, 医療行為 から結果発生に至る経緯, 結果すなわち現状の正確な理解のいずれもが難 しい。また, 患者の診療行為に関する情報は医師側にのみ存在する。 これらの医療行為の特殊性に鑑みれば, 医師による顛末の報告なくして, 患者がライフスタイルを決めることは難しい。そこで, 患者には, 診療行 為の結果如何を問わず, ライフスタイルを決めるために, 医師から顛末の 報告を受ける法的利益が存在するのである。 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 者の死亡と医師の責任−『期待権侵害』理論の検討」(1983年)ジュリス ト787号78頁がある。この見解は, 期待権侵害理論の被侵害利益として, ライフスタイルを挙げておられる。 (27) 手嶋豊「医師の顛末報告義務に関する学説・裁判例の最近の動向」 (1993年)民事法情報85号43頁。 (28) 手嶋豊「治療の失敗に関する医療関係者の患者への報告義務」古村節 男ほか編『医事法の方法と課題−植木哲先生還暦記念−』信山社(2004年) 193頁によれば, 医師に事故後の報告義務を課すことによって医療過誤訴 訟が誘発されるのではないかという懸念があるが, 現実は逆で, 患者は後 になって真実が明らかになった場合の方が訴訟を選択する傾向にあるとさ れている。

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ウ なお, 中村哲裁判官は,「…重大な悪しき結果を前提として患者に以 後いかなる人生を決定するかは患者の自己決定権と不可決に結びついてい るが, 同結果が生じた医療上の原因(疾病内容を含む)については, 自己 決定権と直接結びつくものではないと考えられる。」とされている。 (29) しかし, 不首尾な結果が生じた場合, 患者は, 結果のみならず結果に至 る経緯, すなわち原因についても説明を受けていなければ, 不首尾な結果 を運命として受け入れるか否かを決定するのに不十分である。患者がこれ らの決定をすることは, 上記アのとおりライフスタイルを決めることの一 つであるから, ライフスタイルを決めるために結果のみならず, その経緯 (不首尾な結果に至る原因)のいずれについても, 報告を受ける法的利益 はあるというべきである。 エ したがって, 顛末報告義務による保護法益は, 患者のライフスタイル を決めるために情報提供を受けることにある。  義務の発生根拠 ア 医療行為は, 上記イのとおり, 極めて専門的な行為であるから, 患 者は自らの生命身体に関することといえども, 行われた医療行為の内容, 医療行為から結果発生に至る経緯, 結果の正確な理解のいずれもが難しい。 また, 患者の診療行為に関する情報は医師側にのみ存在する。このような 医療行為の特殊性が診療契約において存在する以上, 診療契約の一方当事 者である患者を対等な立場にするためには, 医師の患者に対する情報提供 が不可欠である。 そこで, 患者の主体的地位を保障すべき医師の専門家の義務として, 医 師の患者に対する情報提供責任が肯定される。 (30) 論 説 (29) 中村哲「医師の説明義務とその範囲」太田幸夫編「新・裁判実務体系 1医療過誤訴訟法」青林書院(2000年)97頁。 (30) 加藤良夫編「実務医事法講義」石川寛俊執筆・民事法研究会(2005年)

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以上の医療行為の特殊性からくる医師の専門家としての情報提供責任か ら, 医師には情報提供義務が肯定され, その一つとして, 診療契約終了後 のライフスタイルを決めるための顛末報告義務が生じるのである。 なお, 同義務が生じるとしても, 医師は, 当該医療行為を自ら実施した 者であり, 当該医療行為に関する専門知識を有し, かつ, 診療録等の医療 記録へのアクセスも容易であることから, 医師に患者に対する顛末報告義 務を課すことは過度な負担を強いるものではない。 イ また, 民法645条が規定する受任者の報告義務の内容は, 委任事務処 理状況の経過及び顛末を明らかにすることにある。 (31) とすれば, 民法645条 は, 顛末報告義務を肯定する根拠となり得る。 ウ したがって, 顛末報告義務の実質的な発生根拠は, 患者の主体的地位 を保証するべき医師の専門家責任であり, 条文上の発生根拠は民法645条 にある。  診療契約における位置付け 患者は, 疾病の治癒又は症状の改善などを目的として診療契約を締結す るのであるから, その目的実現のために実現を保証された患者の利益は, 医師による当該疾患の診断・治療のために必要な最善の医療を受けること にある。かかる患者の利益実現のために医師が最善の医療を行うことが診 療契約の中核部分であり, いわゆる本来的債務であることに疑いはない。 これに対し, 顛末報告義務は, 患者が診療契約終了後のライフスタイル を決めるために認められる義務であるから, 診療契約に基づいて医師が負 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 176頁, 181頁。 同176頁では, 医師の義務につき, 診療過誤に関する責任 としての生命・身体への危険を防止し管理すべき義務, 情報提供に関する 責任としての専門家として患者の主体性を尊重すべき義務に二分されてい る。 (31) 新版注釈民法(16)債権(7)238頁。

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う上記本来的債務とは異なる性質を有している。 そうだとすれば, 顛末報告義務は, 診療契約を根拠として認められるも のの, あくまで同契約の付随義務として認められるものである。 したがって, 医師には, 診療契約の付随義務として, 顛末報告義務が認 められる。 6 結論 以上の次第で, 診療行為後の患者のライフスタイルを決めるために情報 提供を受ける法益を実現するために, 医師は, 患者に対し, 医師の専門家 としての責任及び民法645条を根拠に, 診療契約に基づく付随義務として の顛末報告義務を負うのである。 第3 患者が死亡した場合の顛末報告義務の法的性質 1 検討の視点 準委任契約である診療契約は, 患者の死亡により, 当然に終了する(民 法656条, 653条1号)。そして, 遺族は, 診療契約の当事者ではないこと から, 上記第2の場合と異なり, 医師の遺族に対する顛末報告義務が診療 契約上の責任であるとは, 直ちにはいい難い。 (32) 以下では, 医師の遺族に対する顛末報告義務について不法行為構成を論 じた後, 契約構成を採る必要性の存在を検討し, 契約構成による場合の理 論的根拠, ひいては契約構成とする場合の保護法益及び同義務の発生根拠, 診療契約における位置付けの各視点から検討する。 特に, 保護法益を検討することは, 医師に対して顛末報告義務を課す必 論 説 (32) 河上正二「医師の死因解明義務について−手続的訴訟物考−」有斐閣 (2007年) 平井宜雄先生古希記念・民法学における法と政策』605頁, 剱 持淳子「医師の顛末報告義務」(2009年)判タ1304号37頁。

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要性を検討することにとどまらず, 患者死亡の場合の遺族に対する顛末報 告義務が, 患者の法益の相続か, 遺族固有の法益かを決することになる点 で意義がある。 2 不法行為責任が成立するとする考え方 遺族は診療契約の当事者でないことから, 契約上の関係にまでは至らな いが, 医師と遺族の信頼関係が法的保護に値するまで成熟した場合には, 医師の遺族に対する顛末報告義務が生じるとして, 不法行為責任のみが問 題となるとする見解がある。 (33) 顛末報告義務が問題となった裁判例のうち, 患者が死亡した場合のもの を〔別表2〕にまとめた。同表の裁判例1, 2及び3は, この立場に立つ ものであり, その根拠として, 生命の重要性(裁判例1), 医療の専門性 (裁判例1, 3), 死亡の経過及び原因が医師にしか説明できないこと (裁判例1, 3), 医師と患者の間にある信頼関係(裁判例3)及び死体 解剖保存法の規定(裁判例2)を挙げている。 (34) 3 医療訴訟における顛末報告義務の機能と契約責任構成を採る必要性  上記2の見解は, 医師の顛末報告義務を契約責任と考えることに対し て, 顛末報告義務違反の効果として, 損害賠償義務が生じるにすぎないの であれば, あえて診療契約上の義務違反と構成する必要はなく, 不法行為 上の義務違反と構成するべきであると批判する。 (35) 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (33) 中野希世子「医療提供者の死因説明義務」(2007年)福岡大学法学論 叢51巻351頁。 (34) 裁判例3は, 裁判例2の控訴審であるが, 裁判例2が信義則の根拠す る死体解剖保存法が, 根拠とならないとしている。 (35) 中野希世子「医療提供者の死因説明義務」(2007年)福岡大学法学論 叢51巻351頁。

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 しかし, 顛末報告義務違反による損害賠償請求権は, 医療過誤による 損害賠償請求権と独立した訴訟物を構成するが, 顛末報告義務違反が主張 されるほぼ全ての訴訟において, 医療過誤による損害賠償請求と併合して 提起されている(23例中21例)。 (36) このことは, 遺族が患者の死亡に関する 顛末に疑問を持った場合, 遺族は医療訴訟を提起し, 第一次的に, 当該診 療契約に基づいて医師が行った診療行為の是非(医療過誤の存否)を問い, 第二次的に, 医師の信頼関係を損なうかのような対応の是非(医師の顛末 報告義務違反の存否)を問う。 それにより遺族は, いずれかの請求を通じ て不首尾な結果が生じるまでの一連の顛末を明らかにしたいと考えている ことの現われである。 (37) 実際の訴訟において, 遺族が医療過誤による医師の過失や損害との因果 関係を立証できない場合であっても, 顛末報告義務違反を追及することに より, 医師の診療行為が, 不首尾な結果に関与した内容, 程度等の事実関 係を示すことになる。 とすれば, 顛末報告義務は, 間接的に医師の義務違 反を問う代替手段としての機能を果たし得る。 (38) 論 説 (36) 別表2の全裁判例において, 顛末報告義務が医療過誤と併せて問題と されている。なお, 患者が生存している場合でも, 別表1のうち, 裁判例 カ及びクだけが, 医療過誤による損害賠償とは別個独立に請求されている。 もっとも, 裁判例カにおいては, その提起前に同一の医療事故に関する医 療過誤が別訴で争われている。 (37) 日本経済新聞2003年12月8日付によれば, 医療事故市民オンブズマン・ メディオが同年に実施したアンケートによれば, 弁護士を通じて証拠保全, 示談交渉, 提訴などの行動を採った主な理由は, 過誤を認めさせたかった が97.3%, 納得できる説明が欲しかったが96.5%とのことである。石川寛 俊「医療と裁判−弁護士として, 同伴者として−」岩波書店(2004年)52 頁から引用。 (38) 河上正二「医師の死因解明義務について−手続的訴訟物考−」有斐閣 (2007年) 平井宜雄先生古希記念・民法学における法と政策』613頁。

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以上のことから, 顛末報告義務は, 医療訴訟において, 医療過誤と共に, 患者の死亡に関する顛末を明らかにしたいという遺族の希望を実現する点 で共通の機能を有していることが分かる。 (39)(40)  かかる機能に鑑みれば, 医療過誤による損害賠償請求と顛末報告義務 違反による損害賠償請求は, 一つの法的手続の中で一体として解決できる よう考慮する必要がある。そして, 不法行為と債務不履行では消滅時効の 成否に違いが生じる。 にもかかわらず, 一方で医療過誤については, 不法 行為責任のほか契約責任も追及できるにもかかわらず, 他方で顛末報告義 務違反については, 不法行為責任しか追及できないのでは不十分である。 そこで, 同義務違反の場合にも不法行為責任のみならず, 契約責任の追及 も可能とする構成を採る必要がある。 4 契約責任を肯定する理論的根拠  診療契約上の義務とする考え方 医師の患者に対する報告義務(民法645条)の中に, 遺族に対する患者 の死因などの顛末報告義務が包含されているとする見解がある。 (41) この見解 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (39) 河上正二「医師の死因解明義務について−手続的訴訟物考−」有斐閣 (2007年) 平井宜雄先生古希記念・民法学における法と政策』615頁は, 診療過誤に関する立証責任等の問題として解決されるべき問題と, 診療過 誤の有無とは別に遺族が死因解明の機会を失ったことに対する補償の問題 との意識的整序が必要であるとされている。 (40) 私見においても, 機能的な共通性はあるが, 医療過誤においては, 医 師の診療行為自体の過失を問題とするのに対し, 顛末報告義務違反におい ては, 遺族に対する顛末報告義務違反の有無が問題となる点で, 両者はあ くまで異なるものであると考える。 (41) 鐘築優 「各論⑤医療 判例分析 (55)」 中田裕康ほか編『説明義務・ 情報提供義務をめぐる判例と理論』(2007年)判タ1178号227頁, 金川琢雄・ 判例評論481号186頁。

(18)

は, 医療行為が高度に専門技術的な性質を有する行為であること, 患者が 死亡するに至る経緯や死因については当該医師のみがこれをよく知る立場 にあること及び医療機関に対する遺族の信頼を根拠とする。 この見解は, 遺族に対する顛末報告義務も, 診療契約上の義務であると の考え方であり, 裁判例14及び15は, この立場である。同裁判例は, 遺 族に対する診療契約上の顛末報告義務を肯定する実質的根拠として, 医療 を受ける者との信頼関係を規定する医療法第1条の2, (42) 遺族が患者に悪し き結果が生じた原因を知りたいと考えることが自然の成り行きであること, 患者の生命や健康が, 患者の本人のみならず家族にとっても極めて重要な 保護法益であることを挙げている(それぞれ裁判例15。裁判例14は理由 を明示していない。)。 なお, 顛末報告義務違反による請求を認容した裁判例15は,「…患者の 生命や健康は,患者本人のみならず家族にとっても極めて重要な保護法益 であると考えることができ,また,医療機関には,診療契約(準委任契約) に基づいて患者本人又はその家族に診療内容を報告すべき義務があるから, 医療行為を経た後に悪しき結果が生じた場合には,患者本人又はその家族 はその原因の究明を試みることについても法的な利益を有していると解さ れる…。」とする。かかる判示部分は, 診療契約における遺族の実質的な 立場を考慮したものとして評価しうる。 しかし, 顛末報告義務が診療契約の本来的債務ではないことに鑑みれば, 同義務が診療契約上の義務であるとすることに無理がある。 論 説 (42) 医療法第1条の2第1項は,「医療は, 生命の尊重と個人の尊厳の保 持を旨とし, 医師, 歯科医師, 薬剤師, 看護師その他の医療の担い手と医 療を受ける者との信頼関係に基づき, 及び医療を受ける者の心身の状況に 応じて行われるとともに, その内容は, 単に治療のみならず, 疾病の予防 のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなけれ ばならない。」と規定する。

(19)

 第三者のためにする契約を包含しているとする考え方 医師の遺族に対する顛末報告義務につき, 端的に診療契約上の義務を肯 定するのではなく, 診療契約が, 第三者である遺族に対する顛末報告義務 を含む, いわば第三者のためにする契約であるとする裁判例がある。 すなわち, 裁判例11は, 患者の自己決定権, 病院側が情報を独占して おり, かつ, 情報へのアクセスが容易であること, 医療従事者の患者に対 する適切な説明を規定する医師法第1条の4の規定, (43) 受任者の委任者に対 する報告義務を規定する民法645条を根拠として, (44) 「…病院の開設者及び その全面的代行者である医療機関は, 診療契約に付随する義務として, … 医療行為が終わった際にも, その結果について適時に適切な説明をする義 務を負うものと解される。病院側が説明をすべき相手方は, 通常は診療契 約の一方当事者である患者本人であるが, 患者が意識不明の状態にあった り死亡するなどして患者本人に説明をすることができないか, 又は本人に 説明するのが相当でない事情がある場合には, 家族(患者本人が死亡した 場合には遺族)になることを診療契約は予定していると解すべきであるの で, その限りでは診療契約は家族等第三者のためにする契約も包含してい ると認めるべきである。患者と病院開設者との間の診療契約は, 当該患者 の死亡により終了するが, 診療契約に付随する病院開設者及びその代行者 である医療機関の遺族に対する説明義務は, これにより消滅するものでは ない。」とするのである。 この立場は, 遺族が診療契約の当事者ではないことを前提にしつつ, 医 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (43) 医療法第1条の4第2項は,「医師, 歯科医師, 薬剤師, 看護師その 他の医療の担い手は, 医療を提供するに当たり, 適切な説明を行い, 医療 を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」と規定する。 (44) 裁判例11では, 原審である裁判例9が挙げた医師法第21条の義務は, 行政法規上の義務であって, 診療契約上及び不法行為法上の義務ではない として, 顛末報告義務を認める上での実質的根拠足り得ないとしている。

(20)

師が遺族に対して診療契約に基づく顛末報告義務を負うことの理論的な説 明がなされている点で評価しうる。 しかし, 第三者のためにする契約とは, 契約から生ずる権利を第三者に 直接帰属させる契約をいい, (45) 受益者たる第三者が契約の受益の意思表示を することにより, 諾約者に対する請求権を取得する(民法537条2項)。 そして, 受益の意思表示がなされる以前は, 第三者の意思とは無関係に契 約が消滅しうる(民法538条)。ところで, 遺族が顛末報告を受けるため の受益の意思表示は, 遺族が医師に対して顛末の報告を求めることのはず である。しかし, 患者の死亡によって診療契約は終了していることから, 遺族は同契約の消滅後に受益の意思表示をしたにすぎない。かかる受益の 意思表示によって診療契約に基づく顛末報告義務が遺族のために生じると はいえず, 第三者のためにする契約と解することには無理がある。 (46)  患者に対する顛末報告義務について遺族が相続するとする考え方 患者が死亡した場合, 医師の患者に対する診療契約上の顛末報告義務に つき, 遺族が相続するとする見解がある。この見解は, 相続とする根拠に つき, 遺族に対する診療契約の付随義務の存在を肯定することは, 当然, 生存中の患者に対する義務の存在を認めていることに他ならず, 慰謝料請 求権と同じ意味での相続理論の介在があると説明する。 (47) この立場も上記と同様に, 遺族が診療契約の当事者ではないことを前 提にしつつ, 医師の遺族に対する顛末報告義務について理論的な説明がな されている点で評価しうる。また, 医師は相続人全員に対して顛末報告義 論 説 (45) 山本敬三「民法講義Ⅳ−1契約」有斐閣(2005年)71頁。 (46) 松井和彦・判例評論559号 9・174頁は, 停止条件付きの第三者のため にする契約という技巧的な法律構成を採る合理性はないとされている。 (47) 伊澤純「医療過誤訴訟における医師の説明義務違反(三)」(2001年) 成城法学65号184頁, 松井和彦・判例評論559号9・174頁。

(21)

務を負うことから, 医師が誰に対して顛末報告義務を負うかという問題に ついて明確である点も評価しうる。 しかし, 医師の患者に対する顛末報告義務につき, 遺族が相続するとの 見解に立った場合, 医師に対して顛末報告を求めることができる者の範囲 が, 理論上画一的に相続人全員となるが, (48) 下記第4のとおり, 広きに失す るものであって妥当ではない。  診療契約の付随義務とする考え方 ア 診療契約の付随義務とする見解及び裁判例 医師の遺族に対する顛末報告義務についても, 医師の患者に対する同義 務と同様, 診療契約に基づく付随義務とする見解がある。 (49) 裁判例9及び10 も同様の立場である。 その根拠としては, 診療契約の意思解釈, (50) 医師が診療内容についての報 告義務を負っていること及び顛末は診療を行った医師にしか説明できない ことが (51) 挙げられる。 また, 裁判例は, 診療行為に関する情報が医師側にしか存在しないこと 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (48) 中野希世子「医療提供者の死因説明義務」(2007年)福岡大学法学論 叢51巻350頁。 (49) 中村哲「医師の説明義務とその範囲」太田幸夫編『新・裁判実務体系 1医療過誤訴訟法』青林書院(2000年)95頁, 鐘築優 「各論⑤医療 判例 分析 (55)」 中田裕康ほか編 説明義務・情報提供義務をめぐる判例と理 論』(2007年)判タ1178号226頁, 岡林伸幸・名城法学(2000年)49巻4号 155頁, 加藤良夫編著「実務医事法講義」増田聖子執筆・民事法研究会 (2005年)97頁。 (50) 中村哲「医師の説明義務とその範囲」太田幸夫編『新・裁判実務体系 1医療過誤訴訟法』青林書院(2000年)95頁, 鐘築優 「各論⑤医療 判例 分析 (55)」 中田裕康ほか編 説明義務・情報提供義務をめぐる判例と理 論』(2007年)判タ1178号226頁。 (51) 岡林伸幸・名城法学(2000年)49巻4号155頁。

(22)

(裁判例9), 医師法第21条に基づく医師の公的役割(裁判例9), 患者 が生存している場合には顛末報告義務を負うにもかかわらず, 死亡した場 合には同義務を負わないとするのは不均衡であること(裁判例9), 医療 行為の専門性(裁判例10), 医師の説明なくして顛末を把握するのは困難 であること(裁判例10)を挙げている。 イ 検討 医師の遺族に対する顛末報告義務は, 診療契約の付随義務として肯定さ れると考えるべきである。なお, 診療契約の付随義務違反として, 契約責 任を肯定したとしても不法行為責任の成立を否定するものではなく, 不法 行為責任と契約責任が両立する。 そこで, 何故契約責任が肯定されるのか, ①保護法益, ②義務の発生根 拠及び③診療契約における位置付けにつき, 以下検討する。 ① 保護法益 患者は, 通常, 疾病の治癒又は症状の改善などを目的として診療契約を 締結する。もっとも, 医師が最善の注意義務を尽くして診療行為を行った 場合であっても, 不首尾な結果が生じることがある。かかる不首尾な結果 が生じた場合, 患者が, その顛末を知りたいと考えることは当然である。 そして, 患者は, その顛末についての説明を受け, 不首尾な結果を前提と して, その後のライフスタイルを決める必要がある。このことは上記2の とおりである。 ところで, 患者の家族のうち, 例えば, 患者の入院に付き添って面倒を みる, 患者の治療方針について患者と一緒に医師の説明を聴くなどしてい た者(このような者を本稿で「遺族」としている。)については, 患者と 医師の間の診療契約に密接に関与していることから, 患者の顛末に強い関 心を持っている。特にここで問題となっているのは, 患者の生命という重 大な法益に関する顛末であるから, 上記のような遺族が強い関心を抱くこ 論 説

(23)

とは当然のことである。 (52) このような遺族にとって, 患者が死亡した場合, とりわけ患者の死亡が 医療事故ではないかとの疑念を有する場合, 遺族は, 患者の死亡に関する 顛末を知ることにより, 患者の死亡という結果を運命として甘受するか, 何らかの法的手段を採用するかを決することができる。 とすれば, 遺族に 対する顛末報告は, そのような患者死亡後の遺族のライフスタイルを決め るきっかけとなる重大な意義を有している。 そして, 医療行為が極めて専門的な行為であること及び患者の対する医 療行為に関する情報が医師側に偏在することから, 遺族が患者の死亡に至 る経緯を理解し, 診療契約終了後のライフスタイルを決めるためには, 医 師の説明が不可欠である。 以上のことから, 診療契約終了後の遺族のライフスタイルを決める利益 は, 遺族固有の法的利益として保護されるべきものである。 (53) ② 義務の発生根拠 医療行為は, 極めて専門的な行為であるから, 遺族は, 患者に対して行 われた医療行為の内容, 医療行為から結果発生に至る経緯及び結果の正確 な理解のいずれもが難しい。また, 患者の診療行為に関する情報は医師側 にのみ存在する。このような医療の特殊性に鑑みれば, 遺族が患者の顛末 を理解するためには, 医師による説明は不可欠である。とすれば, 上記医 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (52) 中村哲「医師の説明義務とその範囲」太田幸夫編『新・裁判実務体系 1医療過誤訴訟法』青林書院(2000年)97頁は, 遺族は, 患者が死亡した 場合, 患者の死亡などという結果と重大な利害関係を有していることが多 く, 原則として, 死亡原因などにつき, 知る権利を有しているとされてい る。 (53) 別表2の裁判例のうち, 相続構成の主張がなされたものは, 裁判例4 のみであることから, 遺族は, 患者死亡後の顛末報告を受ける利益を, 遺 族固有のものと考えているものと思料される。

(24)

療の特殊性が, 遺族に対する顛末報告義務の発生根拠となる。 ところで, 診療契約における医師の主たる義務は, 医師が患者に対して 診断・治療をすることであり, 患者死亡後の医療機関の行為義務とは結び つきにくい。 (54) まして, 遺族は, 診療契約の当事者ではないことから, 遺族 に対する顛末報告義務の発生根拠を診療契約に求めることはできないので はないかとの疑念が生じる。 しかし, 遺族は, 上記①のとおり, 患者の入院に付き添って面倒をみる, 患者の治療方針について患者と一緒に医師の説明を聴くなどして, 患者と 医師の間の診療契約に密接に関与することがある。このような遺族は, 診 療契約を通じて, 患者の立場から, 医師から治療方針などについての説明 を受け, 患者のための療養指導を受け, 患者の疾病の治癒また改善に向け ての自助努力を助けてきたものであり, (55) 患者とは異なるが, 診療契約にお ける患者に近い立場を有する。そして, 患者に近い立場を有するに至った 遺族は, 当該診療契約を通じて医師と特別な社会的接触関係に入った者と いうことができ, 当該診療契約の付随義務として, 医師は遺族に対して顛 末報告義務を負うことになるのである。 このように契約当事者以外の者といえども, 医師と特別な社会的接触関 係に入ったと評価しうる遺族に対し, 診療契約上の付随義務としての顛末 報告義務を肯定することは, 契約上の保護義務である安全配慮義務の場合 と同様に認められる。 すなわち, 安全配慮義務に関する最高裁判決は, 元請負人と下請負人の 論 説 (54) 河上正二「医師の死因解明義務について−手続的訴訟物考−」有斐閣 (2007年) 平井宜雄先生古希記念・民法学における法と政策』607頁。 (55) 患者の家族が, 患者が医療を受ける場面で関与することを前提とする 法の規定として, 処方箋を交付する対象として「現にその看護に当たって いる者」(医師法第22条柱書本文),「家族」の相談に応じる努力義務(医 療法第6条の2第2項)等がある。

(25)

被用者という契約関係にない者の間であっても, 下請負人の被用者と元請 負人の被用者の作業内容などがほとんど同じであったという事実関係の下 において, 元請企業は「…下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の 関係に入ったもので, 信義則上, 右労働者(下請企業の被用者)に対し安 全配慮義務を負う…。」(括弧内は筆者記載)と判示している。 (56) 同判決にお いて, 元請負人が契約当事者間でない下請負人の被用者に対して安全配慮 義務を負うとした根拠は, 下請企業の被用者が, 元請企業の「…管理する 設備, 工具等を用い, 事実上上告人(元請企業)の指揮, 監督を受けて稼 働し, その作業内容も上告人(元請企業)の従業員であるいわゆる本工と ほとんど同じであった…。」(括弧内は筆者記載)ことにある。 診療契約では, 診療行為を受ける患者と受けない遺族とは, 診療契約に おいて「ほとんど同じ」であるとはいえない。 しかし, 遺族は, 診療契約を通じて, 患者と共に, 医師による治療方針 や療養指導などの説明を前提にして, 患者の疾病の治癒又は改善に向けて 努力し, 診療契約と密接に関わっている。とすれば, 患者のみならず, 遺 族にとっても, 患者の顛末は, 診療契約終了後のライフスタイルを決める ために必要な情報であるといえる。 かかる遺族の立場に鑑みれば, 患者が, 診療契約に基づいて, 患者自身 のライフスタイルを決めるために顛末報告を受ける法的利益を有するのと 同様, 遺族も, 診療契約に基づいて, 遺族固有の利益としてライフスタイ ルを決めるために顛末報告を受ける法的利益を有しているといえる。 とすれば, 医師には, 患者に対して顛末報告をするのと同じく, 診療契 約に基づいて医師と特別な社会的接触関係に入ったと評価しうる遺族に対 する顛末報告義務が発生するのである。 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (56) 最判平成3年4月11日判時1391号3頁。

(26)

③ 診療契約における位置付け 医師の遺族に対する顛末報告義務は, 診療契約における医師の本来的債 務が, 医師の患者に対して最善の医療を行うものであること, そもそも遺 族が診療契約の当事者でないことから, 診療契約の付随義務として肯定さ れる。 5 結論 以上の次第で, 遺族は, 患者の死亡後における自らのライフスタイルを 決めるために患者の顛末について報告を受ける法的利益を有する。 そして, 医師は, 遺族と特別な社会的接触関係に入った者として, 患者が診療行為 を受けるにあたって密接に関与していた遺族に対し, 診療契約の付随義務 を根拠としての顛末報告義務を負うのである。 第4 顛末報告義務の人的範囲 1 問題点 患者が死亡した場合, 医師は, 誰に対し, 顛末報告義務を負うことにな るのか。この問題は, 患者の家族のうち, 誰が, ライフスタイルを決める ために顛末の報告を受ける法的利益を有する「遺族」に該当するかの問題 である。 2 学説及び裁判例  議論の現状 この問題に関する議論は少なく, 明示されている考え方は, 相続構成に よるものと民法711条所定の者及び同条が類推適用される者に限定するも のしか見当らない。 論 説

(27)

 相続構成による考え方 医師の患者に対する顛末報告義務につき, 遺族が相続すると構成する見 解によれば, 相続人全員に対して医師の顛末報告義務が発生することにな る。 この見解は, 医師が顛末報告義務を負う対象者を一義的に決めることが できること, 医師の患者に対する顛末報告義務につき, その相続人が相続 するという構成を採ることから, 医師の遺族に対する顛末報告義務を契約 責任とすることについて問題が生じ難い点を評価できる。 しかし, 医師の遺族に対する顛末報告義務は, 上記第3のとおり, 患者 に近い立場を有するに至った遺族は, 当該診療契約を通じて医師と特別な 社会的接触関係に入った者ということができるので, 当該診療契約の付随 義務としての顛末報告義務が発生する。とすれば, 医師が顛末報告義務を 負う対象となる者は, 当該診療契約に基づいて特別な社会的接触関係に入っ た者にのみ, 顛末の報告を受ける法的利益を肯定すれば十分であるから, 顛末報告義務の人的範囲を相続人全員と捉えることは広きに失する。 また, 上記第3のとおり, 医師の遺族に対する顛末報告義務を契約責任 とすることは可能であることから, あえて相続構成を採る必要性はない。  民法711条所定の者及び同条が類推適用される者に限定する考え方 裁判例9及び11は, 近親者に対する損害賠償を規定している民法711条 所定の者及び同条が類推適用される者に限定するとしている。同各裁判例 によれば, 医師は, 同条の類推適用によって人的範囲に含まれる「被害者 との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し, 被害者の 死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者」 (57) のみならず, 同条所定の者に対 しても顛末報告義務を負うことになる。 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (57) 最判昭和47年12月17日民集28巻10号2040頁。

(28)

この裁判例は, 相続構成を採ることなく, 医師が顛末報告義務を負う対 象者を限定できることについて評価できる。 しかし, 民法711条が類推適用される者の場合, 実質的判断を行うこと によって人的範囲を限定的に解することができることから問題は生じない が, 民法711条所定の者であれば, 医師は同条所定の者全員に対して顛末 報告義務を尽くすべきことになる点で問題が生じる。例えば, 患者の生前 一度も患者を見舞ったことも医師の説明を聞いたこともない子が, 患者の 死亡後に突然現れたとしても, 医師と特別な社会的接触関係に入ったとは いえず, 診療契約の付随義務としての顛末報告義務を医師に課すことはで きないというべきであろう。 (58) 3 検討  顛末報告義務の人的範囲は, 医師が遺族に対して顛末報告義務を負う 根拠, すなわち, それぞれの事案に応じて診療契約を通じて医師と特別な 社会的接触関係に入った者と評価できる者に認めれば足りる。  このように顛末報告義務の人的範囲を相続人の範囲よりも限定した場 合, 医療過誤を理由とする損害賠償請求訴訟は患者の相続人全員が提起で きるのに対し, 同時に提起されることが多い顛末報告義務違反を理由とす る損害賠償請求訴訟は, 患者の相続人のうちの一部の者しか提起できない ことになる。 この帰結は, 医療過誤に基づく請求と顛末報告義務違反に基づく請求が 同一の機能を果たしていることに鑑み, 両請求の平仄を合わせるとする本 稿の方向性と矛盾するようにも思える。 論 説 (58) 例に挙げたような者の場合, 顛末を報告する道義的な責任は格別, 法 的義務としての顛末報告義務は生じないというべきであろう。

(29)

しかし, 患者の顛末は, 患者の生命・身体に関するセンシティブな情報 であり, 疾患の内容などによっては, 患者ができる限りその情報を知られ たくないと考えることも十分にありうるところである。かかる場合に本来 的には患者のセンシティブな情報である顛末は, 死亡した患者のプライバ シー権にも配慮して開示される必要がある。このような死亡した患者のプ ライバシー権と顛末報告を受ける利益の調整の問題は, 患者の看護に努め たり, 患者と一緒に医療行為に関する医師の説明を聴いたりした者につい ては生じ難いが, それまで患者の診療行為に全く無関係でいた者について は生じうる。 (59) また, 医師の側からみても, 診療契約に何ら関与することなく, 患者の 死亡後に突然現れた相続人に対してまで, 顛末を報告しなければ法的責任 を負うとすることは, 医師が負う法的責任の範囲が広きに過ぎるのではな かろうか。 (60)  やはり, 顛末報告義務が診療契約を通じて生成された遺族と医師の関 係を根拠とする契約責任であることに鑑みれば, 顛末報告義務の人的範囲 は, 遺族が患者に付き添って一緒に医師の説明を聞いて患者の治癒等に協 力していた等, 診療契約を通じて医師と特別な社会的接触関係に入った者 と評価できる者と評価できる場合でなければ, 顛末報告義務の人的範囲に 医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 (59) 死亡した患者のプライバシー権と遺族の顛末報告を受ける利益の調整 の問題は, 報告義務の対象となる顛末の内容が広ければ広いほど問題とな る場面が多くなる。 (60) 顛末報告義務の対象となる者を一律に判断できないと, 医師の側から みて, 誰に対して顛末を報告すれば足りるのかが不明確になり, 却って混 乱を招くとの意見もある。 (61) 民法 711 条所定の父母, 配偶者及び子は, 患者の安否を気にかけ, 医 師の説明を聞く等していることが多いであろう。とすれば, 私見のように 限定的に解したとしても, 医療過誤に基づく請求ができる者と相違が生じ ることは少ないであろう。

(30)

含まれないというべきである。 (61) 第5 結語 以上の検討により, 医師の患者又はその遺族に対する顛末報告義務が肯 定されるのは, 患者又は遺族が, 診療行為後のライフスタイルを決めるこ とについての法的利益を有するからである。 もちろん, 患者が診療行為後に自らのライフスタイルを決めることと遺 族が患者の死亡後に自らのライフスタイルを決めることとは, 事実上の意 味合いは異なるであろう。しかし, いずれにしても, 患者は診療契約の当 事者として, 遺族は診療契約を通じて医師と特別な社会的接触関係に入っ た者として, 診療契約終了後にそれぞれのライフスタイルを決めなければ ならない点では同一であり, これが法的利益として保護されるべきことに は変わりはない。 本稿では, 医師の顛末報告義務について, 診療契約終了後に患者又はそ の遺族が新たなライフスタイルを決める必要があることを中心とし, 同義 務の訴訟における機能を併せて検討した。 ところで, 顛末報告義務が問題となる場面として, 患者が生存している が意識不明の場合のように医師が患者に対して事実上顛末報告をすること ができない場合, 医師が患者の家族に対して顛末報告義務を負うかという 問題がある。この問題は, 患者死亡の場合に比し, より患者のプライバシー に対する配慮が必要であると思われることから, 今回は検討しなかった。 この問題については今後の検討課題としたい。 以上 論 説

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医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 別表1〕患者が生存している場合 番号 判 決・掲 載 誌 原告らと 患者との 関係 医療過誤 顛 末 報 成否 条文 患者又は遺族の主張の骨子 ア 浦和地判平成7年10月27日 判タ905号215頁 配偶者, 子1人 否定 − (患者生存中)医師が原告に対し, 患者の がんの程度について何ら具体的な説明をし なかった。 イ 山口地判平成14年9月18日 判タ1129号235頁 本人 肯定 709 医師は, 歯科衛生士の説明により, 原告の 上顎洞内に印象剤が迷入したことを疑いな がらこれを隠し, また, 迷入の有無が簡単 に判明するのにこれも怠り, 医療事故の報 告・説明をしなかった。 ウ 京都地判平成17年7月12日判時1907号112頁 本人, 両 肯定 415 本件病院は, 診療契約に基づき, 原告らに 対し, 診療行為や診療の顛末について調査・ 説明をする義務がある。 エ 東京地判平成19年5月17日TKC (文献番号 28131255) 本人 否定 − インフォームドコンセントは, 患者の自己 決定権を尊重するものであり, それが医療 に対する社会的信頼を高めることになると いう趣旨に照らせば, 医師は, 正しい診断 を下せなかったが, 後に正しい病名が明ら かになった時点で, 患者の求めに応じて, 自己の行った医療行為の内容や疾患を診断 できなかった理由を説明すべき顛末報告義 務を負う。 オ 東京地判平成20年1月21日 裁判所 HP 本人 肯定 709 被告病院の医師は, 本件バイパス手術の失 敗が明らかになった後である8月15日の時 点において, 原告に対し, 手術が失敗に終 わり, 手術をした血管の血行が途絶してい ることなど, 病状を正確に説明すべき義務 があった。 カ 大阪地判平成20年2月21日判タ1318号173頁 本人 主張なし − 原告は, 予期に反して重大な後遺症が残っ たにもかかわらず, 医師から診療録等に基 づく顛末報告義務を受けることもできなかっ たため, 自己の身体的不調の経過や原因を 知ることができず, 人格の尊厳を傷つけら れ, 多大な精神的苦痛を伴った。 キ 仙台地判平成22年9月30日TKC (文献番号 25442701) 本人, 配 偶者 否定 − 被告が, 原告(妻)の妊娠が発覚した際, 原告らに対し, 本件手術が失敗であった可 能性等に言及せず, かえって99.9%原告 (夫)の子ではない説明した。 ク 東京地判平成23年1月27日判タ1367号212頁 本人 主張なし − 被告は, 原告に対し, 診療契約に基づき, 治療内容について説明する義務をおってお り, その中には, 当然にカルテの開示請求 があった場合にはそれに応ずるなど診療情 報を提供する義務も含まれている。

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論 説 告 義 務 顛末報告 義務に関 する慰謝 料額 備 考 判決による顛末報告義務の法的性質の骨子 条文 治療行為を行うに先立って患者の承諾を得るために行われる 説明や, 診療行為としてなされる説明(医師法13条参照)等 の診療契約の内容をなす説明義務とは異なり, 診療経過を報 告するための説明, いわば納得のための説明義務とでもいう べきものであり, このような説明義務は, 診療契約の内容を なすものと解することはできず, 診療契約上の債務の履行に 付随する義務にすぎないものと解するのが相当である。 − 認めず 患者の生存時における 家族への顛末報告義務 が争点(結果として患 者は死亡している。)。 × 709 70万円 慰謝料額につき, 顛末 報告義務のみならず, 医療過誤も併せて算定 している。 受任者である医療機関ないし医師は,診療契約上の債務ない しこれに付随する債務として,患者の治療に支障が生じる場 合を除き,委任者である患者に対し,診療の内容,経過及び 結果を報告する義務がある…。 415 100万円 6歳の本人にのみ慰謝料 請求を肯定し, 両親につ いては診療契約の当事者 ではないことから否定。 もっとも, 人身損害との 関係で固有の慰謝料が肯 定されている。 患者と医師又は医療機関との間に診療契約が存在する場合, 医師又は医療機関は,患者に対し,診療行為の受任者として の報告義務を負っていると解することが可能である (民法 645条)。 − 認めず 医療機関は, 患者に対し, 診療行為の受任者としての報告義 務を負っているものと解される。 709 400万円 慰謝料額につき, 顛末 報告義務のみならず, 医療過誤も併せて算定 している。 診療契約とは,患者等が医師ら又は医療機関等に対し,医師 らの有する専門知識と技術により,疾病の診断と適切な治療 をなすように求め,これを医師らが承諾することによって成 立する準委任契約であると解され,医師らは民法645条によ り,少なくとも患者の請求があるときは,その時期に説明・ 報告することが相当でない特段の事情がない限り,本人に対 し診療の結果,治療の方法,その結果などについて説明及び 報告すべき義務(てん末報告義務)を負うといえる。 415 30万円 この訴訟の前に, 別訴 で医療過誤訴訟が提起 されていたが, 請求棄 却となっている。 診療契約の法的性質は準委任契約であると解されることから, 医師は,治療行為が不首尾な結果に終わった場合においても, 患者に対し,治療の経過及び結果についての顛末報告義務を 負うものと解される(民法656条,645条)。 415 709 150万円 顛末報告義務違反とし ての慰謝料は認めたが, 被告の弁済の抗弁を容 れて棄却判決である。 そのためか, 債務不履 行か不法行為かは特定 されていない。 被告は, (本件事情の下では), 診療契約に伴う付随義務ある いは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務とし て, 特段の支障がない限り, 診療経過の説明及びカルテの開 示をすべき義務を負っていたというべきである。 709 20万円

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医 師 の 患 者 又 は そ の 遺 族 に 対 す る 顛 末 報 告 義 務 別表2〕患者が死亡した場合 番号 判 決・掲 載 誌 原告らと 遺族との 関係 医 療 過 誤 成否 条文 患者又は遺族の主張の骨子 1 広島地判平成4年12月21日判タ814号202頁 配偶者,子2人 否定 ― 患者の死因が誤飲による窒息でない とすると, 被告らによる死因の解明 は誤ったものであり, 死因について の原告らへの事故の説明, 顛末も不 適切であった。 2 東京地判平成9年2月25日 判タ951号258頁(3の原審) 配偶者, 子2人 否定 ― 死因に関する遺族に対する説明不十 分, 死因が確定できないにもかかわ らず病理解剖を行う姿勢がなく, 家 族への問いかけもなかった。 3 東京高判平成10年2月25日 判タ992号205頁(2の控訴 審) 配偶者, 子2人 否定 ― 同上 4 東京高判平成11年9月16日 判タ1038号238頁 子2人 肯定 415 民法645条又は患者の診療契約上の 地位の相続により, 患者の解剖義務 及び解剖した上での死因説明義務が あった。 5 青森地裁八戸支判平成14年 1月30日 TKC (文献番号 28072331) 両親 否定 ― 原告らの要請にもかかわらず病理解 剖をしなかった。医師には, 病因検 索のために, 家族に対し, 病理解剖 を勧め, 実施すべき義務がある。 6 岡山地裁平成14年11月26日 判タ1138号212頁 配偶者, 子2人 否定 ― 死亡後も死因などの説明がなかった。 7 大阪地裁平成15年10月23日 判タ1173号247頁 配偶者 ( 提 訴 後 に死亡), 子3人 否定 ― 医療機関には, 遺族に対し, 死因に ついて適切な説明を行うべき信義則 上の義務がある。また, その前提と して, 死因を救命する義務がある。 8 甲府地判平成16年1月20日 判タ1177号218頁 配偶者, 子2人 否定 ― 被告は, 証拠保全前に, 患者の診療 録等の一部の記載を自ら改ざんした。 看護師らに指示して診療録等を改ざ んさせた。また本件訴訟において看 護師に偽証させた。

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