<翻訳>欧州委員会 緑書(GREEN PAPER)「EU のコー
ポレートガバナンスの枠組み」
著者
谷口 友一
雑誌名
法と政治
巻
62
号
3
ページ
289(1350)-316(1323)
発行年
2011-10-20
URL
http://hdl.handle.net/10236/8465
本委員会は,近年,市民に向けて,彼らの信頼を取り戻す強力かつ成功した 単一市場へのコミットメントを繰り返し表明した。文書 (Communication)「単 一市場法に向けて」は,「欧州の企業が,自社の従業員や株主だけでなく,広 く社会に対しても最大限の責任を負うということを示すことは,他の何にもま して重要である。」と述べた。 (1) コーポレートガバナンスと会社の社会的責任は, 単一市場において人々の信頼を構築する際に重要な要素である。それらはまた, 欧州の企業の競争力にも貢献する。なぜなら,よく運営された持続可能な会社 は,「アジェンダ2020」で設定された野心的な成長目標に寄与するための最上 位に位置づけられているからである。 (2) 会社の社会的責任の分野において,本委 員会は,すでに会社による非財務情報の開示に関する公開協議 (public consul-tation) を発し, (3) 企業が直面する社会的な問題に取り組むために今年の後半に は新たな枠組みのイニシアティブを提唱するであろう。 2009年9月5日の G20 財務大臣および中央銀行総裁共同声明は,持続可能 な成長を確保し,より強力な国際金融システムを構築するための措置が講じら れるべきことを強調した。コーポレートガバナンスは,有害な短期志向や過度 なリスクの引受けを抑制するための一手段である。 (4) 本緑書の目的は,前記の観 翻 訳
欧州委員会
緑書 (GREEN PAPER)
「EU のコーポレートガバナンスの枠組み」
【翻 訳】谷
口
友
一
訳 (1) 委員会から欧州議会,理事会,経済社会評議会および地域委員会への文書 「単一市 場法に向けて 高度に競争的な社会的市場経済のために 」 COM (2010) 608 final / 2, p. 27。 (2) 2010年6月17日の欧州理事会決議を参照,http://www.consilium.europa.eu/ueDocs/ cms_Data/docs/pressData/en/ec/115346.pdf で入手可能。 (3) 2011年1月に終了した「会社による非財務情報の開示」に関する協議,http://ec. europa.eu/internal_market/consultations/2010/non-financial_reporting_en.htm を参照。点から欧州の会社に対する現行のコーポレートガバナンスの枠組みについてそ の有効性を評価することである。 コーポレートガバナンスは,伝統的に会社が指揮および支配されるシステ ムと (5) して,会社経営者,取締役会,株主およびその他利害関係者との間の一連 の関係と定義される。 (6) 欧州連合における上場会社のためのコーポレートガバナ ンスの枠組みは,立法と,勧告 (7) やコーポレートガバナンスコードを含む「ソフ トロー」との組み合わせである。コーポレートガバナンスコードが,国内レベ ルで採用される一方,指令 2006 / 46EC は,上場会社が自社のコーポレートガ バナンス報告書でコードについて言及し,会社が当該コードの自社への適用に 関して「遵守または説明」 (8) に基づき報告するよう要求することでコードの適用 を促進する。 EU の良好なコーポレートガバナンスで最も重要な問題点を明らかにし,本 緑書を作成するために,本委員会は,異なる時価総額 (capitalisation) の水準 で,かつ異なる株式保有構造をもつ様々な加盟国や経済セクターから抽出した 上場会社に対して面談を行った。本委員会はまた,コーポレートガバナンスの 専門家や投資家団体および市民社会の代表者と会合を開いた。いくつかの重要 な問題は,2010年6月に採択された「金融機関のコーポレートガバナンスと報 酬政策に関する緑書」ですでに明らかになった。 (9) 例えば,株主の関与は,金融 機関だけでなく,会社一般にも重要である。 (10) しかしながら,金融機関は,有効 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (4) 例えば,OECD,コーポレートガバナンスと金融危機 結論と原則の履行を強化す る新たな良き慣行,2010年2月もまた参照。 (5) コーポレートガバナンスの財務的側面に関する委員会報告書(キャドバリー報告書), 1992年,p. 15,http://www.ecgi.org/codes/documents/cadbury.pdf で入手可能。 (6) OECD コーポレートガバナンス原則,2004年,p. 11, http://www.oecd.org/dataoecd/32/ 18/31557724.pdf で入手可能。 (7) コーポレートガバナンスの分野における EU の措置の一覧表として,附録2を参照。 (8) このアプローチは,コーポレートガバナンスコードからの離脱を選択する会社が,コー ポレートガバナンスコードのどの部分から離脱したかとそうする理由を説明しなければな らないことを意味する。 (9) COM (2010) 284,フィードバックステートメント 金融機関のコーポレートガバ ナンスに関する委員会緑書への回答の要約もまた参照,http://ec.europa.eu/internal_mar-ket/consultations/docs/2010/governance/feedback_statement_en.pdf で入手可能。 (10) 前掲の緑書,項目 3.5 および 5.5 を参照。
なリスク管理を確保する際に直面した特定の課題や自らが金融システムに引き 起こすおそれのあるシステミックリスクがあるために,特別な事例である。そ れゆえ,2010年6月の緑書で認識された解決策は,EU の会社一般に関連性が ないかもしれない。従って,本緑書は,良好なコーポレートガバナンスの本質 である以下の3つの課題に取り組む。 ・取締役会―実行性の高い,効率的な取締役会は,経営陣に異議を唱える (challenge) ために必要とされる。これは,取締役会が多様な意見,技能並 びに適切な専門家としての経歴を有する非業務執行の構成員が必要であるこ とを意味する。このような構成員はまた,取締役会の職務に快く十分な時間 を注ぎ込むと考えられる。取締役会の責務はリスク管理に対してあるので, 取締役会会長の役割は,とりわけ重要である。 ・株主―コーポレートガバナンスの枠組みは,株主が会社に関与し,経営者に その業績を説明させることを前提に構築される。しかしながら,大多数の株 主は,受動的であり,しばしば短期的な利益にのみ関心が向けられるという ことが判明している。それゆえ,より多くの株主が,持続可能な収益と長期 的な業績に関心をもつよう奨励しうるか否かと,彼らにコーポレートガバナ ンスの問題に関して,いかにしてより積極的になるよう仕向けられるかを検 討することは,有益なように思われる。加えて,異なる株式保有構造におい て,少数派の保護のような問題もある。 ・EU のコーポレートガバナンスの枠組みを補強する「遵守または説明」アプ ローチをどのように適用するか。最近の研究は,大多数の事例において,コー ポレートガバナンスコードの勧告から離脱する会社が公表した説明の情報の 質 (informative quality) が満足いくようなものではなく,多くの加盟国にお いて,コードの適用に関する監視が不十分であることを明らかにした。 (11) 従っ て,この状況を改善する方法を検討することが適切である。 翻 訳 (11) 加盟国におけるコーポレートガバナンスの監視と強制の実務に関する研究,http://ec. europa.eu/internal_market/company/docs/ecgforum/studies/comply-or-explain-090923_en.pdf で入手可能。
2つの予備的な質問もまた,検討に値する。 第一に,コーポレートガバナンスに関する欧州のルールは,「上場」会社 (すなわち,規制市場において取引することが認められた株式発行会社)に適 用される。それらは,一般的に会社の規模 (12) あるいは種類で区別しない。しかし ながら,いくつかの加盟国は,例えば,支配株主がまた経営者でもある中小規 模の上場会社に合わせた特有のコーポレートガバナンスコードをもつ。 (13) これら のコードは,小さな企業が履行するために会社の規模や構造を反映する複雑で ない勧告を含む。その他の加盟国では,すべての上場会社のために設計された コードが,中小会社に合わせた特定の条項を含む。 (14) 従って,質問は,EU が差 別化されたアプローチを有すべきか否かと,会社の種類や規模を超えて,いく つかのコーポレートガバナンス慣行の適用に関する潜在的な障害を考慮に入れ た最善な方法は何かである。 (15) 第二に,良好なコーポレートガバナンスはまた,非上場会社の株主にも重要 である。特定のコーポレートガバナンスの問題が,すでに私会社に関する会社 法の条項により取り組まれている一方,多くの領域は扱われていない。非上場 会社のためのコーポレートガバナンス指針 (guidelines) は,奨励される必要が あるかもしれない。つまり,とりわけ特定の非常に大規模な非上場会社の経済 的な重要性を考慮に入れると,適切かつ効率的なガバナンスは,非上場会社に とってもまた価値がある。さらに,上場会社に過度な負担を課すことは,上場 にそれほど魅力を感じなくさせるかもしれない。しかしながら,会社の直面す 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (12) しかし,例外がある。例えば,理事会指令 78 / 660 / EEC および 83 / 349 / EEC を改正 し,理事会指令 84 / 253 / EEC を廃止する年次計算書類および連結計算書類の法定監査に 関する2006年5月17日の欧州議会および理事会指令 2006 / 43 / EC(2006年6月9日付官報 L 157, p. 87)第41条1項第2パラグラフは,加盟国に上場会社である中小企業 (SMEs) に対して独立した監査委員会を設置しなくてもよいとすることを認める。 (13) 例えば,ミドルネクスト,中小規模会社のためのコーポレートガバナンスコード, 2009年12月を参照,http://www.middlenext.com/ で入手可能。 (14) 例えば,英国コーポレートガバナンスコードを参照,http://www.frc.org.uk/corporate/ ukcgcode.cfm で入手可能。 (15) 中小会社に対する負担削減の論理はまた,会計指令(理事会指令 78 / 660 / EEC およ び 83 / 349 / EEC)の継続した審査や,主に非上場会社を対象にする2010年に公表された監 査方針に関する緑書 COM (2010) 561 にも存在する,http://ec.europa.eu/internal_mar-ket/consultations/docs/2010/audit/green_paper_audit_en.pdf で入手可能。
る課題は非常に様々であるので,上場会社のために設計された原則は,簡単に は非上場会社に置き換えることができない。いくつかの任意的なコードが,す でに起草され,そして欧州 (16) または国内レベル (17) で専門的な機関によりイニシアティ ブが執られた。それゆえ,質問は,非上場会社のコーポレートガバナンスに関 して何らかの EU の措置が必要とされるか否かである。 質問:
1.
取
締
役
会
本緑書における「取締役会」の用語は,本質的に取締役の監督の役割を指す。 二層制において,この役割は,一般的に監査役会 (supervisory board) に与え られる。 (18) 「非業務執行取締役」の用語は,二層制の監査役会構成員を含む。 取締役会は,責任ある会社の発展のために不可欠な役割を有する。そして, 多くの点で,会長が果たす役割は,取締役会の機能と成功にかなりの影響を及 翻 訳 (1)EU のコーポレートガバナンスの措置は,上場会社の規模を考慮に入れるべ きか? どのようにして? 中小規模の上場会社のために差別化され,かつ均衡の とれた制度が制定されるべきか? もしそうであるなら,いかなる適切な定義,あ るいは境界があるべきか? もしそうであるなら,以下の質問に答えるときに適切 な場合には,中小企業にそれらを適用する方法を提示して下さい。 (2)いかなるコーポレートガバナンスの措置が,非上場会社のために EU レベル で講じられるべきか? EU は,非上場会社に対する任意的なコードの開発および 適用の促進に焦点を当てるべきか? (16) 欧州取締役協会連盟 (EcoDa),欧州の非上場会社に対するコーポレートガバナンス 指針と原則,http://www.ecoda.org/docs/ECODA_WEB.pdf で入手可能。 (17) 例えば,ベルギーにおいては,バイサコード 非上場会社に対するコーポレートガ バナンス勧告(http://www.codebuysse.be/downloads/CodeBuysse_EN.pdf),フィンランドに おいては,中央商工会議所のイニシアティブ 非上場会社のコーポレートガバナンスの改 善(http://www.keskuskauppakamari.fi/content/download/19529/421972),英国においては, 取締役協会,英国の非上場会社に対するコーポレートガバナンス指針と原則(http://www. iod.com/MainWebsite/Resources/Document/corp_gov_guidance_and_principles_for_unlisted_ companies_in_the_uk_final_1011.pdf))を参照。 (18) 本緑書は,異なる会社の機関や国内法に基づく取締役会レベルでの従業員の参加に割 り当てられた役割には影響しない。ぼすように思われる。この影響を考慮して,取締役会会長の地位と責任をより 明確に定義することは,有益であるかもしれない。 質問: その他の厳密な調査に値する項目は,取締役会が効果的に経営者の意思決定 に異議を唱えられる手段として,以下で検討される。 1.1. 取締役会の構成 取締役会の構成は,当該会社の事業に適していなければならない。非業務執 行取締役は,幅広い一連の基準,すなわち,長所,専門的な資格,経験,候補 者個人の資質,独立性および多様性に基づいて選任されるべきである。 (19) 構成員のプロフィールや経歴の違いは,取締役会の価値観,視点,能力に幅 を持たせる。 (20) それは,人材や専門知識のより幅広い層を導きうる。様々な指導 経験,国または地域的背景あるいは性別は,「集団思考 (group-think)」に取り 組むための有効な手段を提供し,新しい考えを生み出しうる。より一層の多様 性は,取締役会における更なる議論,監視,そして挑戦を導く。それは,もし かするとより良好な意思決定という結果になるが,これらの決定に達するには, 多くの時間を要するかもしれない。それゆえ,会長のコミットメントと援助が 不可欠である。 1.1.1. 専門的な多様性 多様な専門性は,効率的な取締役会の働きの鍵と考えられる。全体としての 取締役会が,例えばグローバル市場の複雑性,会社の財務目標,従業員を含む 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (3)EU は,取締役会会長と最高業務執行役員の役割および義務の明確な分離を 確保しようと努めるべきか? (19) いくつかの加盟国が,取締役会における従業員参加の体制を備えることは注目に値す る。 (20) 「取締役会における利害関係者の多様性の強化」,「エアフルト会議」シリーズ No. 1, 2008年3月,出版社社団法人欧州市民セミナー(エアフルト,ドイツ)。
様々な利害関係者への事業の影響を理解することを確保するために,幅広い専 門的な経歴が必要とされる。本委員会が面談した会社は,取締役会構成員を選 任する際に身元を確認する補足的なプロフィールの重要性を認めた。しかしな がら,これは,依然として一般的な慣行ではない。例えば,欧州の取締役会の 48%が,営業またはマーケティングのプロフィールをもつ取締役を有していな いし,監査委員会の37%は,最高財務役員 (CFO) または以前の CFO を含ん でいない。 (21) 技能と専門性の正確な評価は,新任の非業務執行取締役を選出する際に唯一 の最も重要な要素である。従って,取締役会で必要とされる正確な技能を明ら かにする採用方針は,当該会社を効果的に監視するための能力の向上を促進し うる。 1.1.2. 国際的な多様性 抽出した大規模な欧州の上場会社では,取締役会構成員の平均29%は,外国 人であった。 (22) しかしながら,欧州各国間で大きな格差があった。オランダが54 %で先頭に立つ一方,ドイツの取締役会構成員の8%だけが外国人であった。 今日でさえ,大規模な欧州の上場会社の4社に1社は,取締役会に外国人取締 役がいない。 ある会社は,国際的な会社として外国人の取締役会構成員の重要性を強調し たが,一方で,その他の会社が,異なる文化的背景や言語に由来する障害を明 白にした。外国人の取締役会構成員を有する会社においては,会社が各国に存 在することと自社の取締役会構成員が国際的であることとが一致する。自国以 外の市場に関する知識は,取締役会構成員の資格として外国人の候補者を選択 する際に重要な要素としてしばしば挙げられる。 翻 訳 (21) ハイドリックアンドストラグルズ,コーポレートガバナンスレポート2009 激動時 代の取締役会,参照の証券取引所に基づき13カ国で選抜した371のトップ企業を使用して いる。 (22) ハイドリックアンドストラグルズを参照。
1.1.3. 女性の登用( gender diversity) 経済上の意思決定における女性の登用の問題は,2010年9月の『男女平等戦 略20102015』 (23) で本委員会により包括的に,そして本委員会によってこの戦略 に加えられたフォローアップで取り組まれている。 (24) 本委員会の調査結果による と,EU の上場会社の取締役会(監査役会)における女性の割合は,現在のと ころ平均12%である。 (25) 女性の大卒者数の増加が,この点に関して重要な変化を 引き起こしていないということが判明している。 (26) その結果,多くの加盟国は, 取締役会における性別の均衡を確保するための措置を講じるか,あるいはそう するつもりである。 (27) 加えて,面談したいくつかの会社は,そのような要件が, 選考の手続きを職業化することを促進したと述べた。 女性の登用は,集団思考に取り組むために貢献しうる。女性は,異なるリー ダーシップの様式をもち, (28) より多く取締役会会議に出席し, (29) そしてグループの 集団的知性 (collective intelligence) にプラスの影響をもつということも判明し ている。 (30) 調査は,取締役会での女性の比率と会社の業績との間に正の相関関係 があることを示唆する。 (31) もっとも,企業の業績に対する女性の全体的な影響は, 確かにより微妙な差異である。 (32) これらの研究は,いかなる因果関係も立証しな いが,その相関関係は,経営や会社の意思決定における性別が均衡した事業例 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (23) 委員会から欧州議会,理事会,経済社会評議会および地域委員会への文書,『男女平 等戦略 20102015 ,COM (2010) 491 final。 (24) 委員会スタッフ作業文書『ビジネスリーダーシップにおける性別の均衡 ,SEC (2011) 246 final の詳細を参照。 (25) 欧州委員会,男女の意思決定に関するデータベース,http://ec.europa.eu/social/main. jsp?catId=764&langId=en。 (26) マッキンゼーアンドカンパニー,女性問題 2007年,2010年。 (27) 前掲の委員会スタッフ作業文書を参照。 (28) マッキンゼーアンドカンパニー,女性問題 2008年。 (29) アダムス,フェレイラ「取締役会内の女性たちとガバナンスおよび業績に関する彼女 らの影響」金融経済雑誌94号(2009)。 (30) ウーリー,チャブリス,ペントランド,ハシミ,マローン「ヒト集団の遂行における 集団的知性因子の根拠」,サイエンスエクスプレス,2010年9月30日。 (31) マッキンゼーアンドカンパニー,女性問題 2007年,フィンランド企業政策フォーラ ム,女性のリーダーシップと企業の収益性 EVA 2007年,結論:会社の業績と女性 の登用との関係,カタリスト 2004年。 (32) アダムス,フェレイラを参照。
を強調する。それでもなお,取締役会に女性を昇進させることは,一つの明白 に肯定的な効果をもつ。つまり,それは,会社の最も高度な経営および監督機 能のために利用可能な人材層を増やすことに貢献する。これは,今後5年間で, 本委員会が『意思決定における性別の均衡を改善するために目標としたイニシ アティブに注意を払う』であろうと,本委員会の『男女平等戦略』が強調する からである。 しかしながら,もし会社が,取締役職の適格性に繋がるキャリアパスを辿り たい女性にとって不可欠な男女間のワークライフバランスに貢献し,特に,経 営者職に対する助言,ネットワーク作り,そして適切な訓練を奨励する女性の 登用の政策を採用しないのであれば,取締役会における性別の均衡を確保する ための割当て (quotas) あるいは達成目標のような措置の導入では不十分であ る。そのような女性の登用の政策を導入するか否かの決定は,会社がすべきで ある一方,取締役会は,少なくともその問題を検討し,そして自らが行った意 思決定を開示するよう要求されるべきである。本委員会は,2010年9月の『男 女平等戦略20102015』や本緑書へのフォローアップでこれらの問題を検討す るであろう。 質問: 1.2. 効用と費やした時間 (time commitment) 非業務執行取締役の役割は,複雑さと重要性が増している。このことは,多 翻 訳 (4)採用方針は,取締役が適切な技能を有し,そして取締役会の多様性が適度で あるようにするために,会長を含む取締役のプロフィールについてより詳細である べきか? もしそうであるなら,どのようにして最善を達成しうるか,そして,そ れは,ガバナンスのどのレベル,すなわち,国内,EU あるいは国際レベルにおい てか? (5)上場会社は,自社が多様性の政策を有しているか否かを開示するよう要求さ れるべきか? もしそうであるなら,その目的と主な内容を述べ,そして定期的に 経過を報告するよう要求されるべきか? (6)上場会社は,取締役会においてより好ましい性別の均衡を確保するよう要求 されるべきか? もしそうであるなら,どのようにして?
数の国内コーポレートガバナンスコードや制定法にさえも反映されている。加 盟国は,非業務執行取締役が自らの任務に十分な時間を捧げるべきであるとい う原則を確立しようとしてきた。いくつかの加盟国は,さらに進んで,取締役 が就任できる取締役の任用 (mandates) 数を勧告するか,あるいは制限する。 任用数の制限は,非業務執行取締役が個々の会社を監視および監督するため に十分な時間の割当てを確保するように促す単純な解決策であるかもしれない。 その制限は,非業務執行取締役とその会社の個々の状況を考慮に入れなければ ならないであろう。それらは,グループ外または被支配の状態にない事業体 (non-controlled undertakings) (33) で就任するか否か,当人がまた業務執行の地位 に就任するか否か,通常の非業務執行者の任用あるいは会長職であるか否か, 追加された地位が上場会社と同じ要件を有する会社の監督機関で就任するか否 かを考慮すべきである。 質問: 1.3. 取締役会の評価 上場会社の非業務執行取締役または監査役員の役割に関する本委員会の2005 年勧告 (34) は,取締役会がその業績を毎年評価すべきであると述べた。これは,構 成員の地位,集団としての体制や働き,各取締役会構成員と取締役会委員会の 権限および有効性,そして取締役会が設定した業績目標をどのように達成した かの評価を含む。 外部の進行役 (facilitator) の定期的な使用(例えば,3年ごと)は,客観的 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (7)一人の非業務執行取締役が就任できる任用数を制限する EU レベルでの措置 があるべきだと思うか? もしそうであるなら,どのようにそれが形式化されるべ きか? (33) 規制市場において取引することが認められた有価証券の発行者の情報に関連した透明 性要件の調和化および指令 2001 / 34 / EC の修正に関する2004年12月15日の欧州議会およ び理事会指令 2004 / 109 / EC 第2条1項 (f) 号で定義される「被支配事業体」。また,連結 計算書類に関する指令 83 / 349 / EEC の第1条で説明される親子会社関係も参照。 (34) 上場会社の非業務執行取締役または監査役員の役割および取締役会(監査役会)委員 会に関する2005年2月15日の委員会勧告 2005 / 162 / EC。
な視点をもたらし,他の会社とベストプラクティスを共有することで取締役会 の評価を改善しうる。 (35) しかし,依然として,いくつかの国内市場における限ら れた数のサービス提供者だけしかいない。しかしながら,より大きな需要が, より良い供給を生み出すであろう。 本委員会が集めた証拠は,外部の評者が実際に取締役会の評価に価値を与え るのは,とりわけ危機の時か,あるいは取締役会構成員間の対話が頓挫した時 であることを示唆する。評価に対する会長の態度が,その成功の鍵であるよう に思われる。 本委員会勧告で言及した項目に加えて,その審査はまた,取締役会によって 受領された情報の質と適時性,説明の要請に対する経営者の対応,会長の役割 も含むべきである。 (36) 公開性 (openness) を奨励するために,ある程度の機密性 が維持されるべきである。よって,開示されるいかなる評価報告書も,その審 査の過程を説明することに制限されるべきである。 質問: 1.4. 取締役の報酬 概念として,コーポレートガバナンスは,本質的に所有と支配の分離から生 じる問題,特に株主と業務執行取締役との間のプリンシパル―エージェント関 係に焦点を当てる。取締役の報酬は,株主と業務執行取締役の利害を調整し, エージェンシーコストを低減するための道具として広く用いられている。近年 においては,通常,業績と責任に関連付けた変動報酬が,普及するようになっ た。しかしながら,業績と業務執行取締役の報酬との不釣合いもまた,明るみ に出た。不十分な報酬政策および / またはインセンティブ構造は,会社とその 翻 訳 (8)上場会社は,外部の評価を定期的に行うよう奨励されるべきか(例えば,3 年ごと)? もしそうであるなら,これはどのようにして行いうるか? (35) OECD,コーポレートガバナンスと金融危機:結論と原則の履行を強化する新たな良 き慣行,2010年2月24日,p. 20。 (36) D. ヒッグス,非業務執行取締役の役割および有効性に関する審査,2003年1月を参 照。
株主,その他の利害関係者から業務執行者への不当な対価の移転に繋がるかも しれない。そのうえ,短期的な業績基準の重視は,会社の長期的な持続可能性 に悪影響を及ぼすかもしれない。 本委員会は,3つの勧告で取締役の報酬に関連した問題に取り組む。 (37) 主な勧 告は,報酬政策および業務執行取締役と非業務執行取締役に関する個々の報酬 の開示,報酬報告書に関する株主の投票,独立した機能を有する報酬委員会, そして上場会社による業績と長期的な価値の創造を促進する適切なインセンティ ブである。委員会報告書 (38) は,多くの加盟国がこれらの問題に適切に取り組んで いないことを示す。他方で,情報開示や株主の投票に関する立法が加盟国間で 増加傾向にあるように思われる。2009年に,ヨーロッパコーポレートガバナン スフォーラムは,報酬政策および個々の報酬の開示がすべての上場会社に強制 されるよう勧告した。 (39) 同フォーラムはまた,報酬政策に関する拘束的または勧 告的な株主の投票や報酬政策の決定に係わった非業務執行取締役の更なる独立 性も勧告した。本委員会はまた,金融機関のコーポレートガバナンスに関する 2010年の緑書でこの問題について意見を聴取した。 (40) 本緑書における聴取の目的 は,以下のより詳細な質問について意見を受け取ることである。 質問: 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (9)報酬政策,年次報酬報告書(報酬政策が過去一年間にどのように履行された かに関する報告書),業務執行取締役と非業務執行取締役の個々の報酬の開示が強 制されるべきか? (10)報酬政策や報酬報告書を株主による投票に服すよう強制すべきか?
(37) 委員会勧告 2004 / 913 / EC,2005 / 162 / EC,および 2009 / 385 / EC。 (38) 委員会報告書 SEC (2007) 1022 および (2010) 285。 (39) 2009年3月23日のヨーロッパコーポレートガバナンスフォーラムによるステートメン ト。 (40) 当該聴取の質問 7.1 の回答者は,一般に取締役に対するインセンティブが,会社の長 期的かつ持続可能な業績を奨励するために適切に構築されるべきであると述べた。しかし ながら,その大多数は,上場会社の報酬構造について立法化の措置に反対した。それにも かかわらず,特定の回答者は,上場会社の取締役の報酬政策に関する更なる透明性や株主 の投票を歓迎すると述べた。
1.5. リスク管理 全ての会社は,自社の特定の事業分野がどうであれ,種々さまざまな外部的 または内部的なリスクに直面する。自社の特性(活動範囲,規模,国際的なエ クスポージャー,複雑性)に従って,会社は,自らを効果的に運営するための 適切なリスクカルチャーや体制を発達させるべきである。ある会社は,社会全 体に重大な影響を及ぼすリスクに直面するかもしれない。つまり,気候変動, (41) 環境(例えば,ここ数十年で目撃された多数の印象的な石油流出),健康,安 全性,人権等に関連したリスクである。他の会社は,重要な経済基盤を運用し ており,その混乱や崩壊は,国境を越えて大きな影響を与えうる。 (42) しかしなが ら,潜在的にそのようなリスクを発生させるかもしれない活動は,特定の分野 の立法や権限をもつ当局による監視に服する。このように,状況の多様性を考 慮に入れると,全ての種類の会社に対して「一つの型が全てに合う」リスク管 理モデルを提案することは可能でないように思われる。しかしながら,取締役 会がリスク管理の過程の適切な監督をしようとすることが重要である。 有効かつ首尾一貫しているためには,いかなるリスク政策も,明確に「トッ プから設定」される,すなわち,その組織全体のために取締役会によって決定 される必要がある。取締役会は,従っている戦略に応じて,所定の組織のリス クプロフィールを明確に定め,そして,リスクプロフィールが効果的に働くよ うにするためにそれを適切に監視する主たる責務を負うことが一般に認識され る。 (43) いくつかの側面は,既存の法律の枠組みの違い,例えば,取締役会が二層制 か,あるいは一層制かにより異なるかもしれない。それぞれの場合に,リスク 管理の過程に係わるすべての当事者の役割および責任を明らかに定義すること が不可欠である。つまり,取締役会,経営陣,そしてリスク管理に係わってい る事業スタッフすべてである。その仕事の内容 (descriptions) が,内外に認識 翻 訳 (41) 例えば,気候変動に対する会社出資のレジリエンス,温室効果ガス排出に関する規制 からの財務的またはその他の影響。 (42) EU「重要な経済基盤の保護」ウェブページ,http://europa.eu/legislation_summaries/ justice_freedom_security/fight_against_terrorism/jl0013_en.htm。 (43) 委員会の面談から。
されなければならない。 質問:
2.
株
主
コーポレートガバナンスにおける株主の役割は,2010年6月に公表された金 融機関のコーポレートガバナンスに関する緑書で取り扱われた。 2010年6月の緑書は,金融機関の経営者に説明責任を果たさせる際に,適切 な株主の関心を欠くことが,不十分な経営者の説明責任の一因となり,金融機 関における過度なリスクの引受けを促した可能性を認めた。多くの場合に,株 主は,これらのリスクの引受けから期待される利益が相当だと考え,それゆえ, とりわけ高いレバレッジにもかかわらず,暗黙のうちに過度なリスクの引受け を支持していたことが分かった。その理由は,株主が,そのような戦略の利点 から十分に利益を得る一方,株主持分の価値がゼロになるまでしか損失に関与 せず,その後の更なる損失は,その債権者によって負担されるからである(株 主の『有限責任』として知られる)。 過度なリスクの引受けに関して,金融機関の株主の行動は,その事業が複雑 かつ理解が困難であるために,特殊な事例であるかもしれない。それにもかか わらず,本緑書の準備中に集められた証拠は,株主の関与の欠如に関する2010 年の緑書の調査結果や欠如の理由もまた,所有が分散した上場会社の株主の行 動に大いに関連していることを示唆する。主要 (dominant) 株主あるいは支配 株主を有する会社において,主な課題は,確実に少数派株主の(経済的な)利 益が適切に保護されるようにすることであると思われる。さらに,会社に関与 することをいとわない少数派株主もまた,以下の障害に直面するかもしれない。 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (11)取締役会が,会社の「リスク選好」を承認し,それに対して責任を取り,そ してそれを株主に意味のある報告をすべきことに賛成か? これらの開示体制はま た,関連する重要な社会的リスクを含むべきか? (12)取締役会は,会社のリスク管理体制が有効であり,会社のリスクプロフィー ルに相応することを確保すべきことに賛成か?2.1. 適切な株主の関与の欠如 株主の関与は,一般的に,積極的に会社を監視し,会社の取締役会との対話 に参加し,必要があれば長期的な価値創造のために投資先会社のガバナンスの 改善に議決権行使や他の株主との協力からなる株主権を行使することと理解さ れる。短期志向の投資家の関与は,明確な影響をもつかもしれないが, (44) 株主の 関与は,一般的に株主への長期的な収益を改善する活動と理解される。 (45) それゆ え,本委員会は,関与に関心をもつのは,とりわけ長期的な投資家を考えてい る。 (46) 株主の関与の欠如に関するいくつかの理由は,2010年の緑書で公表されてお り,ここでは繰り返さない。フリーライダーの行動を含む,関与の費用,関与 に関する利益を評価することの難しさ,関与の結果に関する不確実性のような 理由のいくつかが,ほとんどの機関投資家に影響を与えているように思われ る。 (47) 2010年の緑書で,本委員会はまた,資産の所有者と運用者からなる機関投 資家が,自らの議決権行使の方針および記録を公表するよう要求されるべきか 否かを尋ねた。大多数の回答者は,そのようなルールを支持した。彼らは,公 開が投資家の意識を改善し,最終の投資家による投資の意思決定を最適化し, 投資家と発行者の対話を促進し,そして株主の関与を奨励するだろうと考えた。 従って,本委員会によって目下検討されている選択肢の一つは,株主の平等な 取扱いを尊重する一方で,議決権行使の方針の透明性およびそれらの履行に関 する一般的な情報開示のための枠組みである。 2.2. 資本市場の短期主義 革新的な製品や技術的な変化からなるここ数十年の資本市場の主要な発展は, 翻 訳 (44) 例えば,「アクティビスト」ヘッジファンドのような典型的な短期志向の機関投資家 による関与は,それがガバナンスの変化のための触媒として作用し,他の投資家間の意識 を高めることができるので有益かもしれない。 (45) 英国スチュワードシップコードを参照。 (46) 年金基金,生命保険会社,公的年金積立金および政府系投資ファンドのように,受益 者に対して長期的な義務をもつ投資家。 (47) 本緑書において,「機関投資家」は,すなわち顧客や受益者に代わって専門的に投資 するあらゆる機関として,広い意味に解される。
主に,資本市場の取引機能に集中し,より速くて効率的な取引を促進した。頻 度の多い取引や自動取引のような革新は,流動性の増大という結果になったよ うに思われるが,それはまた,株式保有の期間を短くすることを促した。過去 20年間で,投資の期間は,かなり短くなった。主要な証券取引所の売買回転率 (turnover) は,現在,市場全体の時価総額 (aggregate market capitalisation) の 年率150%であり,平均保有期間が8カ月であることを含意する。 同時に,投資の仲介は,長期的な投資家と彼らの資産運用者との間のエージェ ンシー関係の重要性が増加した。そのエージェンシー関係が,実際に市場にお ける短期主義の一因となり,それはまた,誤った価格形成,群集心理 (herd behaviour),ボラティリティの増大,上場会社の所有の欠如を引き起こすかも しれないと主張された。この問題は,項目 2.3 で説明される。 何人かの投資家はまた,短期主義への「規制の偏重」が長期的な投資家に, とりわけ長期的な投資戦略の採用を妨げていることを訴えた。利害関係者と本 委員会の予備的な協議の間に,より高い透明性とより効率的な市場評価を促進 するよう意図された支払余力 (solvency) や年金基金の会計規則が,意図しな い結果をもたらしたと言われた。 質問: 2.3. 機関投資家と資産運用者との間のエージェンシー関係 本委員会は,すべての投資家が投資先会社に関与する必要があるわけではな いことを認める。投資家は,関与しない短期志向の投資モデルを選ぶ自由があ る。 しかしながら,機関投資家(資産の所有者)と彼らの運用者との間のエージェ ンシー関係は,資本市場で高まる短期主義と誤った価格形成の一因となる。 (48) こ の問題は,長期志向の株主の怠慢 (inactivity) と特に関連性がある。 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (13)あなたの意見として,投資家間で不適切な短期主義の一因になるかもしれな い現行の EU の法的ルールを示し,そして,これらのルールが,そのような行動を 防ぐためどのように変更しうるかを提案して下さい。
2.3.1. 短期主義と資産運用契約 資産運用者の業績が評価される方法とその報酬および手数料に関するインセ ンティブ構造が,資産運用者に短期的な利益を求めるよう奨励するように思わ れる。多くの資産運用者は,短期的かつ相対的な業績に基づいて,選任され, 評価され,そして報酬が支払われているということが判明している(機関投資 家と本委員会との対話で確認された)。相対的な基準での業績評価は,彼らが 市場指標を上回ったか,あるいは下回ったかの範囲で,特に短い間隔で業績を 測定するために用いられている場合には,群集心理や短期的な視点を奨励しう る。本委員会は,資産運用契約の短期的なインセンティブが,資産運用者の短 期主義の大きな一因になり,それが,おそらく株主の無関心に影響を与えてい ると思う。 2010年6月の緑書への多くの回答者 (49) は,資産運用者に対するインセンティブ 構造のより一層の情報開示を支持した。それゆえ,質問は,長期的な機関投資 家と資産運用者の利益をより上手く連動させるための追加措置が適切であるか 否かである(例えば,一連の投資原則の発達)。 質問: 2.3.2. 信認義務の履行に関する透明性の欠如 自らの投資戦略,ポートフォリオの売買に関する費用,ポートフォリオの売 買の水準が合意を得た戦略と一致するか否か,関与の費用対効果等の資産運用 者による信認義務の履行についてのより一層の透明性は,資産運用者の活動が, 長期的な機関投資家や彼らのために長期的な価値の創造にとって利益になるか 翻 訳 (14)長期的な機関投資家のポートフォリオを運用する資産運用者に対するインセ ンティブ構造と業績評価に関して講ずべき措置があるか。そして,もしそうである なら,どのようなものか? (48) ポールウーリー,「なぜ金融市場は非常に非効率的で搾取されるのか そして,提 示された救済方法」金融の未来:LSE レポート 2010年。 (49) 賛成の回答者は,大部分は投資家,資産運用者,(金融サービス)産業およびビジネ スの専門家であった。
否かをより明確にさせることができる。 さらに,資産の所有者が,資産運用者に関与させる予定の投資先会社に対す る関与の水準や範囲についての情報および当該資産運用者による関与活動に関 する報告は,有益であるかもしれない。 (50) これらの問題に関するより一層の透明性は,機関投資家が自らの代理人をよ り上手く監視するのに役立ち,従って投資の過程により大きな影響を与えるで あろう。このように改善された監視の結果として,長期的な機関投資家は,ポー トフォリオの売買回転率の上限 (caps) を導入し,そして自らの資産運用者に 投資先会社のより積極的な管理人 (stewards) であることを要求する資産運用 契約を再交渉することを決定するかもしれない。 (51) 質問: 2.4. 機関投資家による関与へのその他の起こり得る障害 2.4.1. 利益相反 金融の分野における利益相反は,株主の関与の欠如に対する理由の一つであ るように思われる。機関投資家または資産運用者,あるいはその親会社が投資 先会社と事業関係をもつ場合には,利益相反がしばしば生じる。この例は,資 産運用部門の親会社がサービスを提供するか,あるいは株式を保有する会社に ついて,株主権の積極的な行使を見られたくない金融グループで確認され得る。 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (15)EU 法は,資産運用者が投資先会社に関与する戦略,費用,売買,そしてそ の範囲について,機関投資家による資産運用者のより効果的な監視を促進すべきか? もしそうであるなら,どのようにして? (50) また,金融商品市場指令 (MiFID) の審査に関する公開協議のパラグラフ 7.3.4. を参 照 , http://ec.europa.eu/internal_market/consultations/docs/2010/mifid/consultation_paper_en. pdf。 (51) 2010年1月31日に,ICGN の株主責任委員会は,資産の所有者と彼らのファンドマネー ジャーとの間の協定のために, 模範契約条件 (model contract terms) に関して実証例の募 集を公表した, http://www.icgn.org/policy_committees/shareholder-responsibilities-committee/-/ page/307/。
質問: 2.4.2. 株主の協力への障害 個人投資家,とりわけ分散したポートフォリオをもつ者は,いつも上手く関 与できるとは限らない。他の株主の協力は,彼らをより効率的にするのに役立 ちうる。 2010年緑書への多くの回答者は,協力した行動の現行の EU 法が,効率的な 株主の協力を妨げるかもしれないので,改正されるべきであると提案した。本 委員会は,協力して行動する場合のより明確かつ統一的なルールがこの点で確 かに有益であろうと認識する。株主の協力を促進するために他のアイディアが 提案された。つまり,ある者は,株主の協力の機会 (fora) を与えることを示 唆するが,一方で,他の者は,上場会社が,株主に特定の議事項目 (agenda items) に関する情報を公表し,他の株主から委任状を求めることができるよ うに自社のウェブサイトで特定の機能を設置するよう要求する EU の委任状勧 誘制度を提案する。 何人かの投資家は,国境を越える議決権行使が依然として問題であり,EU の立法により促進されるべきと述べた。株主権指令(2007 / 36 / EC)は,この 状況をかなり改善した。しかしながら,多くの加盟国における当該指令の移植 の遅さは,個々の最終的な投資家にとって,現実の影響が現在単に見かけだけ になっていることを意味する。さらには,特に国境を超える状況において,そ の足かせにより発行者と株主との間で,実際上関連情報の伝達に問題があるよ うに思われる。本委員会は,その障害に気づいており,証券法を調和させる時 に証券法のはたらきに関してこの問題を調査するであろう。 質問: 翻 訳
(16)EU のルールは,資産運用者の統治機構 (governing body) について,例えば その親会社から一定の独立性を要求すべきか,あるいは,その他の(立法的な)措 置が,利益相反に関する情報開示や管理を強化するために必要とされるか?
2.5. 議決権行使助言会社 (proxy advisors) 非常に分散した株式ポートフォリオを有する機関投資家は,彼らが投資先会 社の株主総会の議事項目に関して,どのように議決権を行使すべきかを詳細に 評価する際に実務上の障害に直面する。そこで,彼らは,議決権行使の助言, 議決権の代理行使,そしてコーポレートガバナンス格付けのような議決権行使 助言会社のサービスをしばしば利用する。従って,議決権行使に関する議決権 行使助言会社の影響は無視できない。そのうえ,機関投資家が,自国の市場の 投資よりも外国会社の投資のために議決権行使の助言により大きく依存すると 主張されている。結果として,議決権行使助言会社の影響は,国際的な投資家 の割合が高い市場でより大きいであろう。 議決権行使助言会社の影響は,いくつかの懸念を引き起こす。本緑書の準備 中に,投資家や投資先会社は,議決権行使助言会社がその助言の準備に関して 適用された手法について透明性が十分でないとの懸念を伝えた。より明確には, その分析手法が,企業に固有の特徴および / または国内法の特性,そしてコー ポレートガバナンスに関するベストプラクティスを配慮していないと言われる。 もう一つの懸念は,議決権行使助言会社が利益相反に直面することである。議 決権行使助言会社はまた,投資先会社へのコーポレートガバナンスの相談役と して行動する場合に,このことが利益相反を引き起こすかもしれない。議決権 行使助言会社が,自らの顧客(の一人)によって提案された株主の決議に助言 する場合にもまた利益相反が生じる。最後に,この分野における競争の欠如が, 部分的には,その助言の質およびそれが投資家のニーズを満たすか否かについ て懸念を引き起こす。 質問: 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (18)EU 法は,議決権行使助言会社がより透明であること,例えば,自らの分析 手法,利益相反,そしてそれらを運用するための自らの方針および / または自らが 行為規範を適用するか否かについて要求すべきか? もしそうであるなら,どのよ うにして最善を達成することができるか? (19)その他の(立法的な)措置,例えば,投資先会社にコンサルティングサービ スを提供する議決権行使助言会社の能力の制限が必要であると思うか?
2.6. 株主の特定 (identification) 株式の発行者に対する投資家の透明性 (52) の水準を高めることが,近年 EU の措 置で求められている。 (53) 提案者は,自社の株主を特定する手段が,発行者に彼ら との対話,特にコーポレートガバナンスの問題に関与できるようにすると主張 する。これはまた,一般的に,彼らが投資する会社の株主の関与を強めること ができる。 (54) 約3分の2の加盟国は,すでに発行者に自らの国内株主を知る権利 を認めている。 (55) 加えて,透明性指令 (56) および関連する国内の履行措置は,一定の 限度を超える保有についてある程度の透明性を定める。 (57) 他の者は,株主を特定するための欧州の手段を創造するという要請に反対す る。彼らは,情報伝達の現代的な方法が,コーポレートガバナンスの問題を株 主や潜在的な投資家に知らせ,そして彼らの見解を得ることが非常に容易になっ たと考える。株主に関するより一層の理解はまた,経営者の保身 (entrench-ment) を導く,すなわち,経営者が,自らの業務執行に異議を唱える株主のい かなる行動に対しても,彼ら自身をより一層守るのに役立ちうる。また,特定 の加盟国においては,仲介者が株主に関する情報を発行者に伝えることを禁ず るデータ保護のルールに結びついたプライバシーへの配慮がある場合もある。 翻 訳 (52) より詳細な情報として,委員会スタッフ作業文書「指令 2004 / 109 / EC の運用に関す る審査:新たな問題」委員会から理事会,欧州議会,欧州経済社会評議会および地域委員 会への報告書に付随する文書 「規制市場において取引することが認められた有価証券の 発行者の情報に関連した透明性要件の調和化に関する指令 2004 / 109 / EC の運用」 SEC (2009) 611, pp. 8894 を参照。 (53) この質問もまた,緑書金融機関のコーポレートガバナンスと報酬政策 COM (2010) 284 で提起された。しかしながら,それは,金融機関に限定された。 (54) 本委員会は,すでに透明性指令に関する協議で「空議決権行使 (empty voting)」に関 連した濫用のリスクを考察した。当該協議は,その問題が「基準日の捕獲 (record date capture)」にあることを示唆した。 (55) より詳細について,株主の透明性に関する ECB T2S タスクフォース,欧州における 株主の透明性制度の市場分析,2010年12月9日:http://www.ecb.int/paym/t2s/progress/ pdf/subtrans/mtg7/2010-t2s-tst-questionnaire-responseanalysis.pdf?d6cc9adf38f63d24897c94e 379213b81 を参照。 (56) 指令 2004 / 109 / EC。 (57) 2011年に予定された透明性指令の改正において,本委員会はまた,株式の保有と同じ 経済的効果をもつ長期の経済上の立場について開示要件の導入を構想している。
質問: 2.7. 少数派株主の保護 少数派株主の保護は,多くの理由からコーポレートガバナンスにおける株主 の役割と関係性がある。 少数派株主の関与は,欧州の会社の支配的なガバナンスモデルである支配株 主をもつ会社では相変わらず困難である。これは,「遵守または説明」のシス テムが,特に少数派株主の十分な保護が保証されないような会社で実現可能か 否かという問題を引き起こす。 第二に,現行の EU のルールが,支配株主(および / または,経営者)によ る潜在的な濫用に対して少数派株主の利益を保護するのに十分であるか否かと いう問題が生じる。 2.7.1. 支配株主あるいは主要株主が存在する場合の関与の範囲と「遵守また は説明」の機能 少数派株主の関与は,また典型的に取締役会も代表する主要株主あるいは支 配株主を有する会社でとりわけ困難である。支配株主をもつ会社において,少 数派株主の利益を効果的に代表することが難しいまたはできないということは, 「遵守または説明」の仕組みをあまり効果的にさせないかもしれない。株主の 権利を強化するために,特定の加盟国(例えば,イタリア)は,少数派株主に 数名の取締役会構成員の任命権を留保する。 質問: 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (20)コーポレートガバナンスの問題に関する対話を促進するために,発行者が自 社の株主を特定するために役立つ技術的および / または法的な欧州の仕組みの必要 性を認めるか? もしそうであるなら,これがまた,投資家間の協力のためになる と思うか? 詳細を用意して下さい(例えば,追求される目的,好ましい手段,頻 度,詳細の水準,費用の配分)。 (21)支配株主あるいは主要株主を有する会社において,少数派株主の利益を効果 的に代表するための追加的な権利が必要であると思うか?
2.7.2. 潜在的な濫用に対する保護
支配株主および / または取締役会は,多くの方法で少数派株主の利益を犠牲 にして会社から利得を搾り取ることができる。その主な方法は,「関連当事者」 取引 (‘related party’ transactions) を通じてである。
現行の EU ルールは,すでに関連当事者取引のいくつかの側面,基本的に会 計および開示の面を扱う。会社は,自社の年次計算書類に,当該取引の金額お よび性質その他の必要な情報を記載した関連当事者との取引に関する注記を含 むよう要求される。 (58) しかしながら,本緑書の準備中に行われた議論で,何名かの投資家は,その ルールが不十分であると主張する。彼らは,関連当事者取引の開示が全ての状 況において十分であるとはいえないし,常に適時性があるとは限らないと考え る。 一定の限度を超える場合には,取締役会が,関連当事者取引の期間および条 件に関する公平な意見を少数派株主に提供する独立の専門家を任命すべきこと が示唆されている。 (59) 重要な関連当事者取引は,株主総会による承認が必要であ ろう。株主総会と結びついた公表は,支配株主に一部の取引を思いとどまらせ, 少数派株主に当該取引の承認決議に反対する機会を与えるかもしれない。ある 者は,支配株主が議決から排除されるべきであると提案する。 質問: 2.8. 従業員の株式所有 自らが働く会社の長期的な持続可能性に対する従業員の利益は,コーポレー 翻 訳 (22)少数派株主に,関連当事者取引に対する更なる保護が必要であると思うか? もしそうであるなら,どのような措置を講じうるか? (58) 特定の会社形態の年次計算書類に関する条約第54条3項 (g) 号に基づく1978年7月25 日の第4理事会指令 78 / 660 / EEC 第43条1項 (7b) 号および連結計算書類に関する条約第 54条3項 (g) 号に基づく1983年6月13日の第7理事会指令 83 / 349 / EEC 第34条 (7b) 号を 参照。 (59) ヨーロッパコーポレートガバナンスフォーラムによる少数派の株主権に関するステー トメントを参照。
トガバナンスの枠組みが配慮しなければならない要素である。会社事業への従 業員の参加は,情報,懇談,取締役会への参加の形態が採られうる。しかし, それはまた,財務的な参加の形態,とりわけ株主になる従業員に関連しうる。 従業員の株式所有は,いくつかの欧州諸国では長い伝統をもつ。 (60) そのような制 度は,主に労働者のコミットメントとやる気を高め,生産性を向上し,社会的 な緊張を軽減するための手段と考えられている。しかし,従業員の株式所有も また,多様化の欠如からリスクが伴う。つまり,もし,会社が倒産した場合に は,従業員株主は,自らの仕事と蓄えの両方を失うおそれがある。しかしなが ら,投資家としての従業員は,長期志向の株主の比率を高める重要な役割を担 いうる。 質問:
3.
「遵守または説明」の枠組み
コーポレートガバナンスコードの監視と履行
会社および投資家への調査は,彼らの大多数が「遵守または説明」アプロー チをコーポレートガバナンスにおける適切な手段と考えていることを示す。 「遵守または説明」アプローチに基づいて,コーポレートガバナンスコードの 勧告からの離脱を選択する会社は,離脱に関して,詳細で,特定かつ具体的な 理由を与えなければならない。その主な利点は,柔軟性にある。つまり,それ は,会社が自社のコーポレートガバナンス慣行を自らの固有の状況に合わせる こと(自社の規模,株式保有構造,分野の特異性を考慮すること)を可能にす る。それはまた,会社に自社のコーポレートガバナンス慣行が適切であるか否 かを検討するよう奨励し,会社に達成する目標を与えることでより一層の責任 を負わせようと考えられている。それゆえ,「遵守または説明」アプローチは, 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (23)EU レベルで従業員の株式所有を促進するために講ずべき措置はあるか,そ して,それはどのようなものか? (60) 従業員の財務的な参加を促進するための枠組みに関する文書 COM (2002) 364 ,ペッパーⅣレポート:欧州連合加盟国および候補国の収益と企業の成果における従 業員の参加の指標,2008年。2009年秋に公表された加盟国のコーポレートガバナンスコードに対する監視と 強制のシステムに関する研究で示されたように,規制者,会社,並びに投資家 によって広く支持されている。 (61) しかしながら,EU における「遵守または説明」アプローチの一般的な導入 には困難があった。前掲の研究は,EU のコーポレートガバナンスの枠組みに 関する効率性を低減し,そのシステムの有用性を制限するという「遵守または 説明」原則を適用する際の重要な欠点を明らかにした。よって,いくつかの調 整が,コーポレートガバナンスコードの適用を改善するために必要であるよう に思われる。その解決策は,「遵守または説明」アプローチの原則を改めるべ きではなく,報告書の情報の質を改善することにより,それが効果的に機能す るように貢献すべきである。しかしながら,この解決策は,勧告を作成するよ りも立法に含めることで,EU レベルで一定の要件を強化する必要性を害する ことはない。 3.1. コーポレートガバナンス報告書で提供される説明の質の改善 前掲の研究によると,コーポレートガバナンスコードの勧告から離脱してい る場合には,会社のコーポレートガバナンス報告書の全体的な質は満足のいく ものではない。その説明は,選択し,当該会社の価値を評価するために,投資 家によって利用される。しかしながら,前掲の研究は,会社が勧告の不適用を 選択した事例の60%以上で,会社が十分な説明を提供しなかったことを明らか にした。会社は,何ら更なる説明もなく自社が勧告から離脱したと単に述べた か,あるいは一般的または限定的な説明だけを提供したかのいずれかであった。 すでに多くの加盟国では,この分野においてゆっくりではあるが徐々に改善 が見られる。会社は学んでおり,公的または私的な機関(金融市場当局,証券 取引所,商工会議所等)の教育活動によって,より良好な説明が,提供されて いる。しかしながら,勧告から離脱している会社によって公表される情報に関 して,より詳細な要件を導入することで,更なる改善が達成されうる。その要 件は,明瞭かつ正確でなければならない―多くの現在の問題点は,要求される 翻 訳 (61) 加盟国におけるコーポレートガバナンスの監視と強制の実務に関する研究,http:// ec.europa.eu/internal_market/company/ecgforum/studies_en.htm で入手可能。
説明の質について意見の誤解が原因である。 会社に対する正確性の要件の適例は,「当該会社が,自社のコーポレートガ バナンス報告書で遵守していないコードのルールを明確に述べ,不遵守の場合 についてその理由を説明し,そしてその代わりに採用された解決策を記述する ことである」と定めるスウェーデンのコーポレートガバナンスコードである。 (62) 会社が,特定の勧告からの離脱に対してその理由を開示するだけでなく,その 代わりに採用された解決策の詳細な記述を要求することは,むしろ適切である ように思われるであろう。 3.2. コーポレートガバナンスのより一層の監視 会社が公表するコーポレートガバナンス報告書は,適切な監視がなされてい ないように思われる。ほとんどの加盟国で,公表の義務を強制する責務は,投 資家に委ねられるが,彼らは,自らの加盟国の文化や伝統に応じて,しばしば ほとんど行動をとらない。金融市場当局,あるいは証券取引所とその他の監視 機関は,異なる立法上の枠組みの中で機能し,異なる実務を発展させている。 ほとんどの場合に,それらは,コーポレートガバナンス報告書が公表されたか 否かを確かめる正式な役割だけを有している。ほんの少数の加盟国は,公的ま たは専門の機関に提供された情報(特に,その説明)の完全性 (complete-ness) を検査させる。 もし,証券規制当局,証券取引所,あるいはその他の機関 (63) のような監視機関 に,入手可能な情報(とりわけ,その説明)が十分に有益かつ包括的であるか 否かを検査する権限が与えられていた場合には,「遵守または説明」は,更に 上手く機能しうる。しかしながら,監視機関は,開示される情報の内容に干渉 すべきでないし,あるいは会社によって選ばれた解決策に関する経営判断をす べきでない。監視機関は,ベストプラクティスを強調し,より完全な透明性に 向けて会社を押し進めるために,監視結果を公に利用可能にすることができる。 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂ (62) http://www.corporategovernanceboard.se/the-code/current-code,ポイント10.2 を参照。 (63) 法定監査の役割に関する協議が,以下で入手可能な独立の緑書を通じて開始されてい るため,会計監査人の役割はここでは議論しない。http://ec.europa.eu/internal_market/ consultations/docs/2010/audit/green_paper_audit_en.pdf
最も深刻な不遵守の場合における正式な制裁の行使もまた想定されうる。 (64)
監視を改善する一つの方法は,指令 2004/109/EC 第2条1項 (k) 号の意味 における規制情報としてコーポレートガバナンス報告書を定義すること,従っ て,同指令第24条4項に定められた国内の所管当局 (competent national au-thorities) の権限に同報告書を服させることがありうる。 監視機関が発展させた様々な実務に関して,ベストプラクティスに関する現 在の議論を向上させ,拡張させる大きな可能性がある。 質問:
4.
次
の
段
階
加盟国,欧州議会,欧州経済社会評議会およびその他利害関係人は,本緑書 で設定された提案に関して自らの見解を提示するよう要請される。回答は,遅 くとも2011年7月22日までに本委員会に届くよう以下のアドレスに送信されな ければならない:[email protected]。本緑書へのフォローアップと 受け取った回答に基づき,本委員会は,次の段階に関する決定を行うであろう。 いかなる将来の立法の提案または立法以外の提案も,会社にとって大きすぎる 経営上の負担を避けるためにその必要性を考慮する広範な影響評価 (impact assessment ) を伴うであろう。 回答は,インターネットで公表されるであろう。個人データと回答がどのよ うに扱われるかという情報について,本緑書に添付された明確なプライバシー ステートメントを読むことが重要である。 翻 訳 (24)コーポレートガバナンスコードの勧告から離脱している会社が,そのような 離脱に対して詳細な説明を提供し,そして採用された代わりの解決策を記述するよ う要求されるべきことに賛成か? (25)監視機関が,コーポレートガバナンス報告書の説明の情報の質を検査し,必 要に応じて会社にその説明を履行するよう要求する権限が与えられるべきことに賛 成か?もし賛成なら,それらの役割が厳密に何であるべきか? (64) 例えば,スペインでなされているように 加盟国におけるコーポレートガバナンス の監視と強制の実務に関する研究,p. 63 を参照。付記〕本稿は,2011年4月5日に欧州委員会が公表した緑書「EU のコーポレートガバナ ンスの枠組み “The EU corporate governance framework (COM (2011) 164 final)”」の翻訳 である(原文については,欧州委員会のウェブサイト http://ec.europa.eu/internal_market/ company/modern/corporate-governance-framework_en.htm より22ヶ国語が利用できる。)。 本稿は,主に英語の原文をもとに翻訳を行い,適宜仏語の原文も参照した。原文には,2 つの附録 (annex) が添付されている。これらの附録は,本文中にほぼ同じ内容のものが 含まれており,また紙幅の都合もあるので割愛した。 また,本稿との関係で,相原隆ほか訳「企業統治に関する2007年欧州委員会スタッフ報 告書」法と政治59巻3号(2008年)73頁以下,同「取締役の報酬に関する2007年欧州委員 会スタッフ報告書」同60巻3号(2009年)111頁以下も併せて参照されたい。 欧 州 委 員 会 緑 書 (G R EE N P A P E R ) ﹁ E U の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 枠 組 み ﹂