平成
24
年度 修士論文
AD
変換器テスト用信号発生技術の研究
指導教員 小林 春夫 教授
群馬大学大学院工学研究科
電気電子工学専攻
加藤 啓介
目 次
第1章 序論 3
1.1 研究背景・目的 . . . . 3
1.2 AWGによるテスト信号発生 . . . . 4
1.3 相互変調歪み(IMD : Inter-Modulation Distortion) . . . . 5
1.4 2トーンテスト信号の必要性 . . . . 6 第2章 従来信号発生方法 7 2.1 2トーン信号発生 . . . . 7 2.2 従来2トーン信号発生シミュレーション . . . . 8 第3章 ナイキストDACでの低歪み2トーン信号発生方法 10 3.1 提案手法1:位相切り替え手法. . . . 10 3.1.1 位相切り替え手法での信号発生方法 . . . . 10 3.1.2 位相切り替え手法の原理 . . . . 12 3.1.3 位相切り替え手法のシミュレーション . . . . 13 3.1.4 5次歪みへの拡張 . . . . 14 3.2 提案手法2:周波数切り替え手法 . . . . 16 3.2.1 周波数切り替え手法での信号発生方法 . . . . 16 3.2.2 周波数切り替え手法の原理 . . . . 16 3.2.3 周波数切り替え手法のシミュレーション . . . . 17 3.2.4 マルチトーンへの拡張 . . . . 18 3.3 提案手法3:位相 &周波数切り替え手法 . . . . 18 3.3.1 位相& 周波数切り替え手法での信号発生方法 . . . . 18 3.3.2 位相& 周波数切り替え手法のシミュレーション . . . . 19 3.4 提案手法4:高調波入力手法 . . . . 21 3.4.1 高調波入力手法での信号発生方法 . . . . 21 3.4.2 高調波入力手法のシミュレーション . . . . 23 3.4.3 3次・5次高調波入力手法 . . . . 25 第4章 デルタシグマDACでの低歪み2トーン信号発生方法 26 4.1 提案手法5:位相切り替え手法. . . . 27
4.3 提案手法7:位相 &周波数切り替え手法 . . . . 29 4.4 提案手法8:高調波入力手法 . . . . 30 第5章 実験 31 5.1 実験目的 . . . . 31 5.2 実験装置 . . . . 31 5.3 任意波形発生 . . . . 32 5.4 ナイキストDACでの低歪み2トーン信号発生 . . . . 33 5.4.1 実験条件. . . . 33 5.4.2 実験結果. . . . 34 5.5 デルタシグマDACでの低歪み2トーン信号発生 . . . . 37 5.5.1 実験条件. . . . 37 5.5.2 実験結果. . . . 38 第6章 結論 41 6.1 まとめ . . . . 41 6.2 今後の課題 . . . . 42 謝辞 43 業績 45
第
1
章 序論
1.1
研究背景・目的
一般的に、デバイス製造において、正常に動作しない不良品がある割合で現れてしまう。その ため、出荷前に、製造された通信用デバイスが良品か、不良品かを判別するための様々なテスト を行う必要がある。不良品を出荷することは信頼を落とすことになるため、テストを行うことは 重要な工程であり、高精度なテストが求められる。ミクスドシグナルSoCや通信用デバイスで重 要な構成要素としてAD変換器(ADC)があげられる。ADCの重要なテストの一つとして、線形 性テストがある。多くの通信用デバイスの線形性テストでは、2トーン信号成分 f1, f2 を入力する。その際、任意波形発生器(AWG : Arbitrary WaveformGenerator)を用いて信号を生成・入 力する。しかし、従来の信号発生アルゴリズムではAWGの非線形性により歪みも生成してしま い、通信用デバイスから出力される歪み成分がAWGのものか通信用デバイスのものかを判別す るのは不可能である。一方、AWGで生成する信号に歪み成分がなければ通信用デバイスの歪みだ けを見ることが可能なので線形性を評価できる。これを図1.1に示す。このような、高精度のテス トを行うには高性能の装置を用いれば良いが、高コストになってしまい、製造コストが削減され る一方で、テストコストは大きなウェイトを占める。そのため、本論文では、低性能・低コスト の装置を用い、適正なテストを行うための低歪み2トーン信号発生を目的とする。 図 1.1 従来信号発生方法と理想信号発生方法
1.2
AWG
によるテスト信号発生
AWG(Arbitrary Waveform Generator:任意波形発生器)は任意のアナログ波形を生成するた めに使用され、図1.2のようにDSPとDACで構成される。原理としては、DSPで任意のディジ タル波形を生成し、DACでディジタルからアナログに変換することで任意のアナログ波形出力を 得る。 図 1.2 AWGのブロック図 DACはアナログ回路なので製造ばらつきのために図1.3のように非線形性が存在する。理想的 なDACの場合、ディジタル入力とアナログ出力は比例つまり線形となるが、現実のDACの場合 はディジタル入力の2乗や3乗等に比例した項を持つため、非線形となる。入力の2乗の項が2次 歪み、3乗の項が3次歪みである。 図1.3 DACの非線形性
1.3
相互変調歪み(
IMD : Inter-Modulation Distortion
)
DSPで生成する波形に、周波数成分f1 とf2 の2トーン信号を用いる。まずDACに非線形性 がない場合を考えてみる。すると、AWGからは f1 とf2 の入力周波数成分のみのスペクトルが 出力される(図1.4(a))。次に、3次の非線形性がある場合を考える。このとき、入力周波数成分 のみでなく、2f1− f2, 2f2− f1 という入力周波数に近傍した周波数成分が発生する(図1.4(b))。 これを相互変調歪みといい、3次の相互変調歪みなのでIMD3という。相互変調歪みは、入力信号 成分 f1, f2 の値が近いほど、入力信号近傍に発生する。よって、アナログフィルタで取り除くの は困難となっており、AWGの信号発生においては重大な問題となる(図1.5)。 (a)歪みのないDAC (b) 歪みのあるDAC 図 1.4 相互変調歪みの生成 図 1.5 相互変調歪みの性質1.4
2
トーンテスト信号の必要性
通信用ADCの線形性テストには1.1節で示したように純粋な2トーン信号が要求される。ここ で、なぜ2トーン信号を用いるのかを説明する。通信用ADCは狭帯域かつ高周波の信号を受信す るものである。そのため、もし通信用ADCに非線形性があったとすると、1トーン信号を用いた 場合非線形性によって生じた高調波歪み成分は帯域外に出てしまう。すると、歪みがないかのよ うに見え、実際は非線形なのに線形だと判断されてしまう。つまり、線形性のテストが出来ない。 一方、2トーン信号を用いた場合、非線形性により帯域内に歪みが発生するため、非線形と線形の 判断を間違える恐れはない。よって線形性のテストには2トーン信号が用いられる。 図1.6 通信用ADCの線形性テストでの1トーン信号と2トーン信号の違い第
2
章 従来信号発生方法
2.1
2
トーン信号発生
DACには1.2節で説明したように非線形性が存在する。しかし、DC・2次のような偶数次の歪 みは比較的小さくすることができるので、3次の歪みが支配的である。そのため、本論文ではDAC の出力特性を次のように近似する。 Y (nTs) = a1Din(n) + a3Din(n)3 (2.1) ここで、DACのサンプリング周期を Ts、サンプリング周波数を fsとする(Tsfs = 1)。DSP からDACへの入力信号を次に示す。従来手法は図2.1のようになる。 Din(n) = A sin(2πf1nTs) + B sin(2πf2nTs) (2.2) 式(2.1)、(2.2)より次式が得られる。 Y (nTs) = 1 4 ( 4a1A + 3a3A3+ 6a3AB2 ) sin(2πf1nTs) + 1 4 ( 4a1B + 3a3B3+ 6a3A2B ) sin(2πf2nTs) − 1 4a3A 3sin (2π(3f 1)nTs) − 1 4a3B 3sin (2π(3f 2)nTs) − 3 4a3A 2B{sin(2π(2f 1+ f2))nTs− sin(2π(2f1− f2))nTs} − 3 4a3AB 2{sin(2π(2f 2+ f1))nTs− sin(2π(2f2− f1))nTs} (2.3) 図2.1 従来2トーン信号発生式(2.3)より、出力信号Y (nTs)には、DACの3次歪みによって入力信号では存在しないIMD3 成分 2f1+ f2, 2f2+ f1, 2f1− f2, 2f2− f1と高調波成分(HD3)3f1, 3f2が生成されることが分 かる。このうち、2f1− f2, 2f2− f1 は基本信号成分f1, f2 に近傍するためフィルタで取り除くの は困難であり、線形性テストで問題となる。
2.2
従来
2
トーン信号発生シミュレーション
従来方法での2トーン信号発生をMATLABによるシミュレーションで検証する。シミュレー ション条件を表2.1に示す。また、Simulink図を図2.2に示す。Simulinkで出力したデータをフー リエ変換し検証する。 表2.1 従来手法のシミュレーション条件 DAC出力特性 Y (nTs) = Din(n)− 0.005Din(n)3 入力信号 Din(n) = sin(2πf1nTs) + sin(2πf2nTs) 入力周波数 f1 65 入力周波数 f2 72 サンプリング周波数fs 214 図2.2 従来手法のSimulink図図2.3 従来手法のシミュレーション結果
シミュレーション結果を図2.3に示す。横軸を正規化周波数、縦軸をスペクトルの大きさを表 す。シミュレーションでも基本信号成分 f1, f2 の近傍にIMD3成分2f1− f2, 2f2− f1 が生成さ
第
3
章 ナイキスト
DAC
での低歪み
2
トーン信号
発生方法
この章ではDSPとナイキストDACで構成されるAWGを対象として、低歪み2トーン信号発 生方法を提案する。3.1
提案手法
1
:位相切り替え手法
3.1.1
位相切り替え手法での信号発生方法
この節では、位相切り替え手法の方法を説明し、式での理論解析を行う。この手法では図3.1の ように2つの信号を1クロック毎に切替え、インターリーブする。これを式に表すと次のように なる。 Din(n) = X1(n) in case n:even X2(n) in case n:odd (3.1) 式(2.1)、(3.1)より次式が得られる。 Y (nTs) = a1X1(n) + a3X1(n)3 in case n:even a1X2(n) + a3X2(n)3 in case n:odd (3.2) 図3.1 提案手法1、2、3での低歪み2トーン信号発生方法式(3.2)は次のように書き直すことができる。 Y (nTs) = 1 2(1 + (−1) n) a 1X1(n) + a3X1(n)3 + 1 2(1− (−1) n) a 1X2(n) + a3X2(n)3 (3.3) (−1)n = cos (nπ) = cos ( 2π ( fs 2 ) nTs ) (3.4) 位相切り替え手法では、DACに3次歪みがある場合+π/6,−π/6の位相を加えた次の2つの信 号をDSPからDACに入力する。 X1(n) = A sin ( 2πf1nTs+ π 6 ) + B sin ( 2πf2nTs− π 6 ) X2(n) = A sin ( 2πf1nTs− π 6 ) + B sin ( 2πf2nTs+ π 6 ) (3.5) X1では、f1が+π/6、f2が−π/6。X2では、f1が−π/6、f2が+π/6となっており、f1とf2 の位相の符号は逆の関係である。式(3.3)、(3.4)、(3.5)より次の出力信号が得られる。 Y (nTs) = √ 3 2 ( a1A + a3 4 ( 3A3+ 6AB2))sin (2πf1nTs) + √ 3 2 ( a1B + a3 4 ( 3B3+ 6A2B))sin (2πf2nTs) − 3 √ 3 8 a3A 2B sin (2π (2f 1+ f2) nTs) − 3 √ 3 8 a3AB 2sin (2π (f 1+ 2f2) nTs) + 1 2 ( a1A + a3 4 ( 3A3+ 6AB2))cos ( 2π ( fs 2 − f1 ) nTs ) − 1 2 ( a1B + a3 4 ( 3B3+ 6A2B))cos ( 2π ( fs 2 − f2 ) nTs ) − 1 4a3A 3cos ( 2π ( fs 2 − 3f1 ) nTs ) + 1 4a3B 3cos ( 2π ( fs 2 − 3f2 ) nTs ) − 3 8a3A 2B cos ( 2π ( fs 2 − 2f1− f2 ) nTs ) + 3 8a3AB 2cos ( 2π ( fs 2 − f1− 2f2 ) nTs ) + 3 4a3A 2B cos ( 2π ( fs 2 − 2f1+ f2 ) nTs ) − 3 4a3AB 2cos ( 2π ( fs 2 + f1− 2f2 ) nTs ) (3.6)
式(3.6)より、IMD3成分 2f1− f2, 2f2− f1とHD3成分3f1, 3f2がキャンセルされているこ とが分かる。この手法は式(3.4)から分かるように、信号を切り替えたことで新たにfs/2付近に スプリアスが発生している。しかし、これらのスプリアスは基本信号成分から遠く離れているた め、アナログフィルタで比較的容易に除去することができる。さらに、この手法の大きな利点は、 DACの非線形性を同定することが必要がなく、DSPのプログラム(AWGのメモリー)変更のみ でIMD3がキャンセルできることである。 今までは、DACの非線形性を同定したうえでキャリ ブレーションをかける必要があったが、この手法では必要ない。 また、プログラム変更のみなの で、ハードウェアを変える必要がない。 つまり、この手法は簡単に、かつ、低コストにテスト信 号を発生することができる。
3.1.2
位相切り替え手法の原理
この節では、位相切り替え手法の原理を説明する。式(3.5)の2つの信号をインターリーブさ せると、f1の位相差は−π/3、f2 の位相差は+π/3となる(図3.2(a))。このとき、IMD3成分 2f1− f2の位相差は次のように計算できる。 2· ( −π 3 ) −(+π 3 ) =−π (3.7) (a) f1, f2の位相 (b) キャンセル 図3.2 位相切り替え手法の原理つまり、f1とf2で打ち消しあう形になりIMD3をキャンセルすることができる(図3.2(b))。 IMD3とHD3の位相差をまとめたものを表3.1に表す。 表3.1 IMD3、HD3位相差まとめ スプリアス成分 位相差 IMD3 2f1− f2 −π 2f2− f1 +π 2f1+ f2 −π/3 2f2+ f1 +π/3 HD3 3f1 −π 3f2 +π 表(3.1)から分かるように、マイナスのIMD3とHD3はキャンセルされることが分かる。し かし、この手法では、プラスのIMD3成分はキャンセルすることができない。
3.1.3
位相切り替え手法のシミュレーション
位相切り替え手法での2トーン信号発生をMATLABによるシミュレーションで検証する。シ ミュレーション条件を表3.2に示す。また、Simulink図を図3.3に示す。Simulinkで出力したデー タをフーリエ変換し検証する。 表3.2 位相切り替え手法のシミュレーション条件 DAC出力特性 Y (nTs) = Din(n)− 0.005Din(n)3 入力信号 X1(n) = sin(2πf1nTs+π/6)+sin(2πf2nTs−π/6) X2(n) = sin(2πf1nTs−π/6)+sin(2πf2nTs+π/6) 入力周波数f1 65 入力周波数f2 72 サンプリング周波数 fs 214 シミュレーション結果を図3.4に示す。位相切り替え手法により、IMD3成分とHD3成分がキャ ンセルされている。信号を切り替えることによりfs/2付近にスプリアスが発生しているが、アナ ログフィルタで比較的容易に除去することができる。図3.3 位相切り替え手法のSimulink図 図3.4 位相切り替え手法(提案手法1)のシミュレーション結果
3.1.4
5
次歪みへの拡張
位相切り替え手法は、DACの5次歪みまで考えた場合への拡張も可能である。DACの出力特 性は次のようになる。 Y (nTs) = a1Din(n) + a3Din(n)3+ a5Din(n)5 (3.8) また、入力信号には4つの信号をインターリーブさせる。 Din(n) = X1(n) in case n = 4k (k = 0.1.2...) X2(n) in case n = 4k + 1 X3(n) in case n = 4k + 2 X4(n) in case n = 4k + 3 (3.9)X1(n) = A sin ( 2πf1nTs+ 4 15π ) + B sin ( 2πf2nTs− 4 15π ) X2(n) = A sin ( 2πf1nTs+ 1 15π ) + B sin ( 2πf2nTs− 1 15π ) X3(n) = A sin ( 2πf1nTs− 1 15π ) + B sin ( 2πf2nTs+ 1 15π ) X4(n) = A sin ( 2πf1nTs− 4 15π ) + B sin ( 2πf2nTs+ 4 15π ) (3.10) 5次まで考慮することにより、必要となる位相の種類は増える。3次歪みと5次歪みを同時にキャ ンセルするために必要となる位相は、3次歪みをキャンセルする±π/6と5次歪みをキャンセルす る±π/10の組み合わせである。 +π 6 + π 10 = + 4 15, − π 6 − π 10 =− 4 15 +π 6 − π 10 = + 1 15, − π 6 + π 10 =− 1 15 (3.11) そのため、考慮する次数を増やしていくと、必要となる位相の種類、信号の数も増えていくこと になる。また、N次歪みをキャンセルしようとしたとき、必要となる位相は±1/(2N)で表せる。 シミュレーション結果を図3.5に示す。 (a)従来手法 (b) 位相切り替え手法 図3.5 5次歪みまで考慮した場合の2トーン信号発生
3次、5次で発生したIMDが提案手法によりキャンセルされている。しかし、fs/4付近にもス プリアスが発生している。このようにインターリーブ数を増やすことで、発生するスプリアスも 増えていく。よって、サンプリング周波数を大きくすることで、より基本信号成分から遠くにス プリアスを発生させる必要がある。
3.2
提案手法
2
:周波数切り替え手法
3.2.1
周波数切り替え手法での信号発生方法
この節では、周波数切り替え手法の方法を説明し、式での理論解析を行う。この手法では図3.1 のように2つの信号を1クロック毎に切替え、インターリーブする。周波数切り替え手法では、次 の2つの信号をDSPからDACに入力する。 X1(n) = A sin (2πf1nTs) X2(n) = B sin (2πf2nTs) (3.12) 式(3.3)、(3.4)、(3.12)より次の出力信号が得られる。 Y (nTs) = ( 1 2a1A + 3 8a3A 3 ) sin (2πf1nTs) + ( 1 2a1B + 3 8a3B 3 ) sin (2πf2nTs) − 1 8a3A 3sin (2π (3f 1) nTs) − 1 8a3B 3sin (2π (3f 2) nTs) + ( 1 2a1A + 3 8a3A 3 ) cos ( 2π ( fs 2 − f1 ) nTs ) + ( 1 2a1B + 3 8a3B 3 ) cos ( 2π ( fs 2 − f2 ) nTs ) − 1 8a3A 3cos ( 2π ( fs 2 − 3f1 ) nTs ) − 1 8a3B 3cos ( 2π ( fs 2 − 3f2 ) nTs ) (3.13) 式(3.13)より、IMD3成分2f1− f2, 2f2− f1 がキャンセルされていることが分かる。HD3成 分はキャンセルすることができない。この手法でも信号を切り替えているため、fs/2付近にスプ リアスが発生するが、アナログフィルタで除去できるものと考える。3.2.2
周波数切り替え手法の原理
この節では、周波数切り替え手法の原理を説明する。この手法は、図3.6のように1トーン信号 を切り替えて2トーン信号としている。そのため、2つの信号は相互変調することがなくIMD3は 発生しない。また、DACの歪みの次数をどこまで考えても発生させる信号は変わらない。図3.6 周波数切り替え手法の原理
3.2.3
周波数切り替え手法のシミュレーション
周波数切り替え手法での2トーン信号発生をMATLABによるシミュレーションで検証する。シ ミュレーション条件を表3.3に示す。また、Simulink図を図3.7に示す。Simulinkで出力したデー タをフーリエ変換し検証する。 表3.3 周波数切り替え手法のシミュレーション条件 DAC出力特性 Y (nTs) = Din(n)− 0.005Din(n)3 入力信号 X1(n) = sin(2πf1nTs) X2(n) = sin(2πf2nTs) 入力周波数f1 65 入力周波数f2 72 サンプリング周波数fs 214 図3.7 周波数切り替え手法のSimulink図 シミュレーション結果を図3.8に示す。周波数切り替え手法により、IMD3成分がキャンセルさ れている。信号を切り替えることによりf /2付近にスプリアスが発生しているが、アナログフィ図3.8 周波数切り替え手法(提案手法2)のシミュレーション結果
3.2.4
マルチトーンへの拡張
周波数切り替え手法は容易にマルチトーンへの拡張をすることができる。4トーン信号を発生さ せることを考えた場合、DSPからDACへの入力は次のようになる。 X1(n) = A sin (2πf1nTs) X2(n) = B sin (2πf2nTs) X3(n) = C sin (2πf3nTs) X4(n) = D sin (2πf4nTs) (3.14) 2トーン信号発生の方法にf3とf4の1トーン信号を加えた、4つの信号をインターリーブする。 出力信号の式は複雑なため割愛する。シミュレーション結果を図3.9に示す。周波数切り替え手法 により、IMDのない4トーン信号が発生されていることが分かる。しかし、トーン数を増やすと インターリーブ数も増えるため、サンプリング周波数を高くする必要がある。3.3
提案手法
3
:位相
&
周波数切り替え手法
3.3.1
位相 & 周波数切り替え手法での信号発生方法
この手法は、3.1節と3.2節で説明した提案手法を組み合わせたものである。入力信号は、次の ようになる。 X1(n) = A sin ( 2πf1nTs+ π 6 ) X2(n) = B sin ( 2πf2nTs− π 6 ) X3(n) = C sin ( 2πf1nTs− π 6 ) X4(n) = D sin ( 2πf2nTs+ π 6 ) (3.15)(a)信号付近 (b) fs/2まで 図3.9 低歪み4トーン信号発生のシミュレーション結果 1トーン信号で、かつ、+π/6と−π/6の位相を持たせた4つの信号をインターリーブする。出 力信号の式は複雑なため割愛する。
3.3.2
位相 & 周波数切り替え手法のシミュレーション
位相&周波数切り替え手法での2トーン信号発生をMATLABによるシミュレーションで検証 する。シミュレーション条件を表3.4に示す。また、Simulink図を図3.10に示す。Simulinkで出 力したデータをフーリエ変換し検証する。 シミュレーション結果を図3.11に示す。位相&周波数切り替え手法により、IMD3成分とHD3 成分がキャンセルされている。信号を切り替えることによりfs/2,fs/4付近にスプリアスが発生し ているが、アナログフィルタで比較的容易に除去することができる。表3.4 位相 &周波数切り替え手法のシミュレーション条件 DAC出力特性 Y (nTs) = Din(n)− 0.005Din(n)3 入力信号 X1(n) = A sin(2πf1nTs+ π/6) X2(n) = B sin(2πf2nTs− π/6) X3(n) = C sin(2πf1nTs− π/6) X4(n) = D sin(2πf2nTs+ π/6) 入力周波数f1 65 入力周波数f2 72 サンプリング周波数fs 214 図3.10 位相 &周波数切り替え手法のSimulink図 図3.11 位相 &周波数切り替え手法のシミュレーション結果
3.4
提案手法
4
:高調波入力手法
3.4.1
高調波入力手法での信号発生方法
この節では、高調波入力手法の方法を説明し、式での理論解析を行う。この手法では図3.1のよ うに、2トーンの基本周波数信号f1,f2に加え、3倍の高調波(3次高調波)信号3f1,3f2をDAC に入力する。入力信号は次のようになる。 Din(n) = A sin (2πf1nTs) + B sin (2πf2nTs) + C sin (2π (3f1) nTs) + D sin (2π (3f2) nTs) (3.16) 図3.12 提案手法4での低歪み2トーン信号発生方法 これは、パワーアンプのプリディストーションのコンセプトに近い。入力した3次高調波信号 は、DACの歪みによってIMD3を発生させる。この発生させたIMD3が従来手法のIMD3の逆 位相であれば、互いに打ち消しあいキャンセルされるという原理である。式(2.1)、(3.16)より、 出力信号は次のようになる。Din(n) = ( a1A + 3 4a3 (
A3+ 2AB2+ 2AC2+ 2AD2− A2C))sin (2πf1nTs)
+ ( a1B + 3 4a3 ( B3+ 2A2B + 2BC2+ 2BD2− B2D))sin (2πf2nTs) + ( a1C + 3 4a3 ( C3+ 2A2C + 2B2C + 2CD2))sin (2π (3f1) nTs) + ( a1D + 3 4a3 ( D3+ 2A2D + 2B2D + 2C2D))sin (2π (3f2) nTs) + 3 4a3 (( −A2C + AC2)sin (2π (5f 1) nTs) + ( B2D + BD2)sin (2π (5f2) nTs) ) − 1 4a3 ( C3sin (2π (9f1) nTs) + D3sin (2π (9f2) nTs) ) + 3 4a3 (
−A2B + 2ABC)(sin (2π (2f
1+ f2) nTs)− sin (2π (2f1− f2) nTs))
+ 3 4a3
(
−AB2+ 2ABD)(sin (2π (f
1+ 2f2) nTs) + sin (2π (f1+ 2f2) nTs)) + 3 4a3 ( −B2C + 2BCD)(sin (2π (3f 1+ 2f2) nTs) + sin (2π (3f1− 2f2) nTs)) + 3 4a3 (
−A2D + 2ACD)(sin (2π (2f
1+ 3f2) nTs)− sin (2π (2f1+ 3f2) nTs))
− 3
2a3ABC (sin (2π (4f1+ f2) nTs)− sin (2π (4f1− f2) nTs))
− 3
2a3ABD (sin (2π (f1+ 4f2) nTs) + sin (2π (f1− 4f2) nTs))
− 3
2a3ACD (sin (2π (4f1+ 3f2) nTs)− sin (2π (4f1− 3f2) nTs))
− 3 2a3BCD (sin (2π (3f1+ 4f2) nTs) + sin (2π (3f1− 4f2) nTs)) − 3 4a3BC 2(sin (2π (6f 1+ f2) nTs)− sin (2π (6f1− f2) nTs)) − 3 4a3AD 2(sin (2π (f 1+ 6f2) nTs) + sin (2π (f1− 6f2) nTs)) − 3 4a3C 2D (sin (2π (6f 1+ 3f2) nTs)− sin (2π (6f1− 3f2) nTs)) − 3 4a3CD 2(sin (2π (3f 1+ 6f2) nTs) + sin (2π (3f1− 6f2) nTs)) (3.17) 式(3.17)より、IMD3成分 2f1− f2, 2f2− f1 の係数がゼロになるように、入力する3次高調 波信号の係数 C,Dを決定する。IMD3成分の係数は次のようである。 3 4a3AB (−A + 2C) = 0 3 4a3AB (−B + 2D) = 0 (3.18) 式(3.18)より、係数C,Dは次のようになる。 C = A 2 , D = B 2 (3.19) IMD3は3次歪みの項でしか発生しないため、式(3.19)から分かるように、入力する3次高調 波信号の係数はDACの1次歪み係数 a1、3次歪み係数 a3に依存しない。よって、DACの非線
形性を同定する必要がない。式(3.17)、(3.19)より、IMD3がキャンセルされた式は次のように なる。 Din(n) = ( a1A + 3 8a3 ( 2A3+ 5AB2))sin (2πf1nTs) + ( a1B + 3 8a3 ( 2B3+ 5A2B))sin (2πf2nTs) + ( A 2a1+ 1 32a3 (
27A3+ 30AB2))sin (2π (3f1) nTs)
+ ( B 2a1+ 1 32a3 ( 27B3+ 30A2B))sin (2π (3f1) nTs) − 3 16a3 ( A3sin (2π (5f1)) + B3sin (2π (5f2) nTs) ) − 3 16a3 ( A3sin (2π (7f1)) + B3sin (2π (7f2) nTs) ) − 1 32a3 ( A3sin (2π (9f1)) + B3sin (2π (9f2) nTs) ) − 3 4a3A 2B (sin (2π (4f 1+ f2) nTs)− sin (2π (4f1− f2) nTs)) − 3 4a3AB 2(sin (2π (f 1+ 4f2) nTs) + sin (2π (f1− 4f2) nTs)) − 3 8a3A 2B (sin (2π (4f 1+ 3f2) nTs)− sin (2π (4f1− 3f2) nTs)) − 3 8a3AB 2(sin (2π (3f 1+ 4f2) nTs) + sin (2π (3f1− 4f2) nTs)) − 3 16a3A 2B (sin (2π (6f 1+ f2) nTs)− sin (2π (6f1− f2) nTs)) − 3 16a3AB 2(sin (2π (f 1+ 6f2) nTs) + sin (2π (f1− 6f2) nTs)) − 3 32a3A 2B (sin (2π (6f 1+ 3f2) nTs)− sin (2π (6f1− 3f2) nTs)) − 3 32a3AB 2(sin (2π (3f 1+ 6f2) nTs) + sin (2π (3f1− 6f2) nTs)) (3.20) 式(3.20)を見ても分かるように、3次高調波を入力したためスプリアスが多く発生している。 しかし、IMD3よりも基本周波数から遠いため比較的容易にアナログフィルタで除去することが 可能である。
3.4.2
高調波入力手法のシミュレーション
高調波入力手法での2トーン信号発生をMATLABによるシミュレーションで検証する。シミュ レーション条件を表3.5に示す。また、Simulink図を図3.13に示す。Simulinkで出力したデータ をフーリエ変換し検証する。 シミュレーション結果を図3.14に示す。高調波入力手法により、IMD3成分がキャンセルされ ている。3次高調波入力によりスプリアスが発生しているが、アナログフィルタで比較的容易に除表3.5 高調波入力手法のシミュレーション条件 DAC出力特性 Y (nTs) = Din(n)− 0.005Din(n)3 入力信号 Din(n) = sin (2πf1nTs) + sin (2πf2nTs) + 0.5 sin (2π (3f1) nTs) + 0.5 sin (2π (3f2) nTs) 入力周波数f1 65 入力周波数f2 72 サンプリング周波数fs 214 図 3.13 高調波入力手法のSimulink図 図 3.14 高調波入力手法のシミュレーション結果
3.4.3
3
次・5 次高調波入力手法
この手法は、前節の高調波入力手法に加え、5次高調波信号を入力するものである。DSPから DACへの入力信号は次のようになる。 Din(n) = A sin (2πf1nTs) + B sin (2πf2nTs) + C sin (2π (3f1) nTs) + D sin (2π (3f2) nTs) + E sin (2π (5f1) nTs) + F sin (2π (5f2) nTs) (3.21) 出力信号の式からIMD成分がゼロになるように、入力する3次・5次高調波信号の係数C,D,E,F を決定する。IMD成分は基本周波数成分に近いものから優先的にキャンセルするようにする。こ の時、係数は次のようになる。 C = E = A ( −1 ±√3) 2 , D = F = B(−1 ±√3) 2 (3.22) 符号が±となっているが、[−−]だと基本周波数成分が減衰してしまい、[+−],[−+]だと基本周 波数成分のスペクトルの大きさがf1とf2で異なってしまうため、[++]を選択する。 図3.15 3次・5次高調波入力手法のシミュレーション結果 シミュレーション結果を図3.15に示す。3次・5次の高調波信号を入力することにより、3次高調波 信号を入力で発生していたIMD成分4f1−3f2,4f2−3f1がキャンセルされている。6f1−5f2,6f2−5f1 にスプリアスが発生しているが、4f1− 3f2,4f2− 3f1よりも基本周波数成分から離れているため、 アナログフィルタでの除去がより容易である。第
4
章 デルタシグマ
DAC
での低歪み
2
トーン信
号発生方法
この章では、デルタシグマDACを用いた低歪み2トーン信号発生方法を提案する。信号発生方 法は前章で説明した提案手法1,2,3,4をデルタシグマDACへ適用する(図4.1)。今までデルタシ グマ変調器で低歪みの信号を発生するために用いられていたダイナミックエレメントマッチング や自己校正は、追加のハードウェアが必要であった。しかし、提案手法はDSPプログラムを変更 するだけで低歪みの信号発生を可能にする。このことを、MATLABのシミュレーションで検証 する。 図4.1 提案手法5、6、7での低歪み2トーン信号発生方法今回はAWGでデルタシグマDACを用いることを考える。また、この方法はSoC内の既存DSP
とDACのテストモードでの実装を考慮しているため、デルタシグマDACを図4.2のように考 える。
デルタシグマ変調には、2次のエラーフィードバック変調回路を用いる(図4.3)。この変調回路 はアナログで構成した場合、ミスマッチによって正確に2倍の乗算ができず雑音が発生してしま う。デジタルであれば、2倍のパラメータ値を正確に実現できるため、簡単かつ単純に2次のノイ ズシェーピングができる。 図 4.3 2次のエラーフィードバック変調回路
4.1
提案手法
5
:位相切り替え手法
提案手法1をデルタシグマDACへ適用する。従来手法のシミュレーション結果を図4.4に示す。 また、提案手法5のシミュレーション結果を図4.5に示す。 図4.4 従来手法のシミュレーション結果 デルタシグマ変調をしているので、ノイズシェーピングの効果が現れている。また提案手法5に より、IMD3成分とHD3成分がキャンセルされていることが分かる。しかし提案手法を用いるこ とにより、基本信号成分付近のノイズフロアが上昇している。これは、fs/2付近にスプリアスが 発生したことにより、ノイズが回り込みを起こしていると考えられる(図4.6)。そのため、fs/2 付近のノイズを減少させるようにマルチバンドパスフィルタを適用する(図4.7)。マルチバンド図4.5 位相切り替え手法(提案手法5)のシミュレーション結果 パスにするために、エラーフィードバックの遅延量を−1から−2に変える。シミュレーション結 果を図4.8に示す。 図4.6 ノイズの回り込み (a)シングルバンドパス (b) マルチバンドパス 図 4.7 バンドパスフィルタ
図4.8 マルチバンドパスの適用 図4.8より、マルチバンドパスを用いてfs/2付近のノイズを減少させることで、基本信号成分 付近のノイズフロアが減少していることが確認できる。
4.2
提案手法
6
:周波数切り替え手法
提案手法2をデルタシグマDACへ適用する。提案手法6のシミュレーション結果を図4.9に示 す。IMD3成分がキャンセルされていることが分かる。 図4.9 周波数切り替え手法(提案手法6)のシミュレーション結果4.3
提案手法
7
:位相
&
周波数切り替え手法
提案手法3をデルタシグマDACへ適用する。提案手法7のシミュレーション結果を図4.10に 示す。IMD3成分とHD3成分がキャンセルされていることが分かる。図4.10 位相 &周波数切り替え手法(提案手法7)のシミュレーション結果
4.4
提案手法
8
:高調波入力手法
提案手法4をデルタシグマDACへ適用する(図4.11)。提案手法8のシミュレーション結果を 図4.12に示す。IMD3成分がキャンセルされていることが分かる。 図4.11 提案手法8での低歪み2トーン信号発生方法 図4.12 高調波入力手法(提案手法8)のシミュレーション結果第
5
章 実験
5.1
実験目的
3章、4章で説明した提案手法を用いることによって、従来手法で発生するIMD3をどの程度減 少させることができるのかを実機で確認する。提案手法はDSPのプログラム(AWGのメモリー) を変更するだけで良いので、既存のAWGで検証することが可能である。実験は、従来に比べ低 歪みな2トーン信号を発生させることを目的とする。5.2
実験装置
実験装置は図5.1のAWGとスペクトラムアナライザを使用する。AWGはアジレントテクノロ ジの33220Aを使用する。AWGの仕様は表5.1、スペクトラムアナライザの仕様は表5.2のように なっている。実験はAWGでアナログ信号を生成し、それをスペクトラムアナライザに出力し各 周波数成分を計測する。AWGの生成する信号のデータは、下記で説明するアジレントテクノロジ の任意波形生成ソフトウェア「Waveform Editor」によって作成し、PCからAWGへ転送する。(a) AWG:Agilent 33220A
表5.1 AWG(Agilent 33220A)の仕様 サンプリング点数 [点] 2∼64k 最大サンプリングレート[Sa/s] 50M 周波数範囲[Hz] 1u∼6M 電圧範囲 [Vpp] 10m∼10 振幅分解能[bit] 14 表5.2 スペクトラムアナライザ(ADVANTEST R3267)の仕様 周波数範囲 [Hz] 100∼8G 分解能帯域幅[Hz] 1∼10M
5.3
任意波形発生
AWG(Agilent 33220A)で任意波形を生成するためには任意波形生成ソフトウェア「Waveform Editor」による操作が必要である。「Waveform Editor」はアジレントテクノロジが無料で配布し ているソフトウェアである。「Waveform Editor」は一周期分の任意波形のデータを生成し、その データをAWGへ転送する。そして、AWGではその一周期分の任意波形を繰り返し出力すること で、任意のアナログ信号を作り出すことが可能である。「Waveform Editor」での任意波形生成に は以下の3種類のプロセスが必要である。 サンプリング点数の決定、 波形データ(電圧値)の 作成、 振幅・周波数・オフセットの決定、の3種類である。任意波形生成を順番に説明する。ま ず、サンプリング点数を表5.1の値から選択する。その次にサンプリング点数分の波形データ(電 圧値)をmatlab等で作成し、それをテキストデータに変換する。このとき、波形の振幅を1に正 規化する必要がある。次に、図5.2のようにそのテキストデータを、「Waveform Editor」にイン ポートする。インポートが終わると、最後にその波形データに振幅・周波数・オフセットの情報 を与える(今回はオフセット0で行う)。これらの準備ができたら、PCからAWGへ波形データを 転送する。これらの操作によって任意波形を生成することができる。
図5.2 テキストデータから「Waveform Editor」へのインポート
5.4
ナイキスト
DAC
での低歪み
2
トーン信号発生
5.4.1
実験条件
入力信号として、従来手法、位相切り替え手法、周波数切り替え手法、位相&周波数切り替え 手法、高調波入力手法を用いる(図5.3)。信号のデータは12bitになるようにMATLABで生成 した。実験条件を表5.3に示す。 図5.3 ナイキストDACの実験で用いる信号 表5.3 ナイキストDACでの低歪み2トーン信号発生の実験条件 入力周波数f1 [Hz] 200k 入力周波数f2 [Hz] 220k 入力振幅[Vpp] 0.8∼2.0 (0.2刻み) サンプリング周波数[Sa/s] 10M5.4.2
実験結果
1.2Vpp時のスペクトラムアナライザの様子を図5.4から図5.8に示す。横軸に基本信号成分、縦 軸にIMD3の大きさをとり、実験結果をまとめたものを図5.9に示す。また、IMD3の減少値の平 均を表5.4に示す。 図5.4 従来手法の実験結果(1.2Vpp時) 図5.5 提案手法1:位相切り替え手法の実験結果(1.2Vpp時)図5.6 提案手法2:周波数切り替え手法の実験結果(1.2Vpp時)
図5.7 提案手法3:位相& 周波数切り替え手法の実験結果(1.2Vpp時)
図5.9 従来手法と提案手法1,2,3,4の実験結果 表5.4 提案手法1、2、3、4によるIMD3の平均減少値 提案手法 IMD3平均減少値 [dB] 位相切り替え手法 11.2 周波数切り替え手法 10.6 位相& 周波数切り替え手法 11.3 高調波入力手法 10.5 提案手法1では、IMD3成分2f1− f2, 2f2− f1とHD3成分。提案手法2では、IMD3成分。提 案手法3では、IMD3成分とHD3成分。提案手法4では、IMD3成分2f1− f2, 2f2− f1。それぞ れの提案手法で従来手法よりIMD3成分が小さくなっている。また、その平均減少値は10∼11dB であり、提案手法は十分効果があるものだといえる。 シミュレーションでは、提案手法でIMD3を完全にキャンセルすることに成功している。しか し、実験では完全なキャンセルはしていない。その原因としては、次のことが考えられる。本論 文では3次歪みのみを考えていたが、実際にはより高次の歪みもあること。AWGの内部構造や遅 延など、シミュレーションで再現できていないことがあること。信号の切り替えで、データの値 が大きく飛んでしまうことによる歪みがあること、である。 本論文では2次歪みを考慮していないが、実際には存在するため、実験結果では400kHz付近に スプリアスが発生している。位相切り替え手法を用い、加える位相を変えることで2次歪みを減 少させることも可能である。
5.5
デルタシグマ
DAC
での低歪み
2
トーン信号発生
5.5.1
実験条件
入力信号として、従来手法、位相切り替え手法、周波数切り替え手法、位相&周波数切り替え 手法、高調波入力手法を用いる(図5.10)。信号のデータは7bitになるようにMATLABで生成 した。実験条件を表5.5に示す。この実験では、マルチバンドパスを用いてはいない。 図5.10 デルタシグマDACの実験で用いる信号 表5.5 デルタシグマDACでの低歪み2トーン信号発生の実験条件 入力周波数f1 [Hz] 1.0M 入力周波数f2 [Hz] 1.1M 入力振幅[Vpp] 0.8∼2.0 (0.2刻み) サンプリング周波数[Sa/s] 50M5.5.2
実験結果
2.0Vpp時のスペクトラムアナライザの様子を図5.11から図5.15に示す。横軸に基本信号成分、 縦軸にIMD3の大きさをとり、実験結果をまとめたものを図5.16に示す。また、IMD3の減少値 の平均を表5.6に示す。 図5.11 従来手法の実験結果(1.2Vpp時) 図 5.12 提案手法5:位相切り替え手法の実験結果(1.2Vpp時)図5.13 提案手法6:周波数切り替え手法の実験結果(1.2Vpp時)
図5.14 提案手法7:位相& 周波数切り替え手法の実験結果(1.2Vpp時)
図 5.15 提案手法8:高調波入力手法の実験結果(1.2Vpp時)
提案手法1、2、3、4と同様に、提案手法5、6、7、8を用いることで従来手法よりIMD3成分 が小さくなっている。また、その平均減少値は約6dBである。
図5.16 従来手法と提案手法5,6,7,8の実験結果 表5.6 提案手法5、6、7、8によるIMD3の平均減少値 提案手法 IMD3平均減少値 [dB] 位相切り替え手法 6.47 周波数切り替え手法 6.83 位相& 周波数切り替え手法 5.96 高調波入力手法 9.30 提案手法5、6、7、8は6dBである。これは、従来手法でデルタシグマを用いた場合のIMD3が、 ナイキストより小さいためである(図5.17)。さらに、使用したスペクトラムアナライザのノイズ フロアが約90dBmであったため測定限界であったと考えられる。
第
6
章 結論
6.1
まとめ
本論文では、AWGを用いて通信用ADCの非線形性テストをするための低歪み2トーン信号発 生アルゴリズムとして、位相切り替え手法、周波数切り替え手法、位相& 周波数切り替え手法、 高周波入力手法を提案した。理論解析とシミュレーション、実験をすることにより、提案手法の 有効性を確認した。 これらの手法は、DACの非線形性を同定する必要がなく、DSP のプログラム(AWG のメモ リー)変更のみで可能である。さらに、DACの周波数が高いほど効果的であり、それほど線形性 を必要としないため、半導体デバイスのトレンドにマッチしたものである。 3次歪みが支配的なシステムを考慮した時、従来手法と提案手法の出力スペクトルを表6.1に示 す。従来手法で問題となっていた2f1− f2,2f2− f1は、提案手法によりキャンセルされている。提 案手法はHD3やfs/2付近にスプリアスが発生するが、IMD3より基本信号成分から離れている ためアナログフィルタでの除去が容易になる。しかし、発生するスプリアスを基本信号成分から より遠くにするためには、サンプリング周波数を上げる必要がある。 本論文では、既存のAWGを用いて低歪み2トーンテスト信号を発生させるというものであっ たが、これから新しく生み出されるAWGにも適用されていければと考えている。 表6.1 出力スペクトルの比較 手法 キャンセル 発生スプリアス 従来 2f1− f2, 2f2− f1 位相切り替え 2f1− f2, 2f2− f1 3f1, 3f2 around fs/2 周波数切り替え 2f1− f2, 2f2− f1 2f1+ f2, 2f2+ f1 around fs/2 位相 &周波数切り替え 2f1− f2, 2f2− f1 2f1+ f2, 2f2+ f1 3f1, 3f2 around fs/4, fs/2 高調波入力 2f1− f2, 2f2− f1 3f1− 2f2, 3f2− 2f1 4f1− 3f2, 4f2− 3f1 around 3f1, 5f1, 7f1, 9f16.2
今後の課題
本論文では、AWGを用いて低歪み2トーンテスト信号を発生した。しかし、その目的としては 通信用ADCの線形性テストに用いることである。そのため、発生させた低歪み2トーン信号が実 際にテスト信号として用いることができるのかを評価していくことが必要である。現在ADCを 取り寄せて測定しているが、出力データがうまく取れない状態である。よって、ADCからの出力 データ取得、取得したデータの評価方法決定、そして評価をすることが課題となる。謝辞
本研究を進めるに当たり、御指導・御鞭撻を頂きました小林春夫教授に謝意を表します。また、 本研究に対し大変有意義なご意見・ご討論を頂きました半導体理工学研究センター(STARC)の アナログテスト容易化研究グループの関係者の皆様に謝意を表します。最後に、本研究をサポー トして頂きました名古屋大学新津葵一講師、安部隆文氏、村上正紘氏、新井薫子氏をはじめ、日々 の研究を支えて下さった小林研究室及び高井研究室の皆様に謝意を表します。参考文献
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[8] K. Kato, K. Wakabayashi, T. Yamada, H. Kobayashi, O. Kobayashi, K. Niitsu, “Low-Distortion Two-Tone Signal Generation with AWG”, IEICE Workshop on Circuits and Sys-tems, Awaji-Shima, Japan (Aug. 2012).
[9] K. Kato, F. Abe, K. Wakabayashi, C. Gao, T. Yamada, H. Kobayashi, O. Kobayashi, K. Niitsu“Two-Tone Signal Generation for Communication Application ADC Testing”, The 21st IEEE Asian Test Symposium, Niigata, Japan (Nov. 2012).
[10] K Kato, M. Murakami, F. Abe, Y. Arai, H. Kobayashi, T. Matsuura,S. Mohyar, K, Ramin, O. Kobayashi, K. Niitsu, N. Takai,“Low-Cost High-Quality Signal Generation for ADC Testing”, IEEE International Test Conference, (Special Poster Session), Anaheim, CA (Nov. 2012).
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[12] S. C. Cripps, Advanced Techniques in RF Power Amplifier Design, pp.153-195, Artec House (2002).
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Mixed-Signals, Sensors and Systems Test Workshop, Santa Barbara, CA (May 2011).
[15] F. Abe, K. Kato, H. Kobayashi, O, Kobayashi, N. Takai, K. Niitsu, ”Analog Filter for Low-Distortion Sinewave Generation Using Arbitrary Waveform Generator” IEEJ Technical Meeting of Electronic Circuits, ECT-12-075, Kumamoto, Japan (May 2012).
[16] C. Gao, K. Wakabayashi, K. Kato, F. Abe, H. Kobayashi, O. Kobayashi, T. Matsuura, K. Niitsu, N. Takai, “Digital-to-Analog Converter Architecture for Low Distortion Signal Generation”, IEEJ Technical Meeting of Electronic Circuits, ECT-12-20, Yokosuka, Japan (March 2012).
付録:業績
<原著論文>
(1) K. Wakabayashi, K. Kato, T. Yamada, O. Kobayashi, H. Kobayashi, F. Abe, K. Ni-itsu, ”Low-Distortion Sinewave Generation Method Using Arbitrary Waveform Genera-tor”, Journal of Electronic Testing : Theory and Applications,Special Issue on Analog, Mixed-Signal, RF, and MEMS Testing, Springer,vol.28,Issue. 5, pp.641-651 (Oct.2012) (2) Jiani Ye, Zachary Nosker, Kazuyuki Wakabayashi, Takuya Yagi, Osamu Yamamoto,
Nobukazu Takai, Kiichi Niitsu, Keisuke Kato, Takao Ootsuki, Isao Akiyama, Haruo Kobayashi, ”Architecture of High-Efficiency Digitally-Controlled Class-E Power Ampli-fier”, Key Engineering Materials, vol.487, pp.273-284 (Dec. 2011)
<国際会議発表論文>
(1) Kazuyuki Wakabayashi, Takafumi Yamada, Satoshi Uemori, Osamu Kobayashi, Keisuke Kato, Haruo Kobayashi, Kiichi Niitsu, Hiroyuki Miyashita, Shinya Kishigami, Kunihito Rikino, Yuji Yano, Tatsuhiro Gake, ”Low-Distortion Single-Tone and Two-Tone Sinewave Generation Algorithms Using an Arbitrary Waveform Generator”, IEEE International Mixed-Signals, Sensors, and Systems Test Workshop,Santa Barbara, CA (2011.03) (2) T. Yamada, O. Kobayashi, K. Kato, K. Wakabayashi, H. Kobayashi,T. Matsuura, Y.
Yano, T. Gake, K. Niitsu, N. Takai, T. J. Yamaguchi, ”Low-Distortion Single-Tone and Two-Tone Sinewave Generation Using ΣΔ DAC”, IEEE International Test Conference (poster session) , Anaheim, CA (2011.09)
(3) Jiani Ye, Zachary Nosker, Kazuyuki Wakabayashi, Takuya Yagi, Nobukazu Takai, Ki-ichi Niitsu, Keisuke Kato, Takao Ootsuki, Osamu Yamamoto, Isao Akiyama, Haruo Kobayashi, ”Architecture of High-Efficiency Digitally-Controlled Class-E Power Ampli-fier”, IEEJ International Analog VLSI Workshop (AVW 2011), Bali, Indonesia (2011.11) (4) Keisuke Kato, Fumitaka Abe, Kazuyuki Wakabayashi, Takafumi Yamada,
Haruo Kobayashi, Osamu Kobayashi, Kiichi Niitsu, ”Low-IMD Two-Tone Signal Gener-ation for ADC Testing”, IEEE InternGener-ational Mixed-Signals, Sensors, and Systems Test Workshop,Taipei, Taiwan (2012.03)
(5) K Kato, M. Murakami, F. Abe, Y. Arai, H. Kobayashi, T. Matsuura,S. Mohyar, K, Ramin, O. Kobayashi, K. Niitsu, N. Takai, ”Low-Cost High-Quality Signal Generation for ADC Testing”, IEEE International Test Conference, (Panel 2 Poster), Anaheim, CA (2012.11)
(6) Keisuke KATO, Fumitaka ABE, Kazuyuki WAKABAYASHI, Chuan GAO, Takafumi YAMADA, Haruo KOBAYASHI, Osamu KOBAYASHI, Kiichi NIITSU, ”Two-Tone Signal Generation for Communication Application ADC Testing”, The 21st IEEE Asian Test Symposium, Niigata, Japan (2012.11)
<国内会議発表論文>
(1) 加藤啓介、小林春夫任意波形発生器での2トーン信号相互変調歪みのデジタル補正電子情報 通信学会 ソサイエテイ大会、大阪2010.09 (2) 山田貴文、若林和行、上森聡史、小林修、加藤啓介、小林春夫デルタシグマDAC信号発生 回路でのデジタル歪補正技術電気学会 電子回路研究会、山梨2010.10 (3) 若林和行、上森聡史、、山田貴文、小林修、加藤啓介、小林春夫、新津葵一、松浦達治ADC テスト信号生成のためのAWG非線形性補正技術第64回FTC研究会、岐阜2011.01 (4) 山田貴文、若林和行、上森聡史、加藤啓介、小林修、新津葵一、宮下博之、小林春夫.高次 ∆Σ DAC信号発生回路での歪キャンセル・ノイズ低減技術電子情報通信学会 総合大会、東 京(東日本大震災の影響により中止,学会認定発表扱い)2011.03 (5) 若林 和行 、山田 貴文、加藤 啓介、上森 聡史小林 修、小林 春夫、新津 葵一、山口 隆弘任 意波形発生器での非線形性補正アルゴリズムと実測による検証電気学会 電子回路研究会、 防衛大学校(東日本大震災の影響により中止,学会認定発表扱い2011.03 (6) 叶 佳霓、Nosker Zachary、若林 和行、八木 拓哉、山本 修、高井 伸和、新津 葵一、加藤 啓介、大朏 孝郎、秋山 功、小林 春夫デジタル制御E級電力増幅器の検討電気学会 電子回 路研究会、防衛大学校(東日本大震災の影響により中止,学会認定発表扱い)2011.03 (7) 加藤 啓介、若林 和行、山田 貴文、小林 春夫、小林 修、新津 葵一任意波形発生器を用いた 低歪み2トーン信号発生技術第24回 回路とシステムワークショップ、 淡路島2011.08 (8) 安部文隆、加藤啓介、若林和行、小林修、小林春夫、新津葵一インターリーブを用いた低歪 み2トーン信号発生技術電気学会電子回路研究会、ECT-11-084、長崎2011.10 (9) 安部文隆、加藤啓介、若林和行、小林春夫、小林修、新津葵一ADCテスト用低歪み信号発 生技術電気学会栃木・群馬支所主催 研究発表会、ETG-11-18、群馬2012.02 (10) 安部文隆、加藤啓介、若林和行、小林春夫、小林修、新津葵一任意波形発生器を用いた低歪 み信号発生技術電子情報通信学会 第28回 シリコンアナログRF研究会 中央大学2012.03 (11) 高 川、若林 和行、加藤 啓介、安部 文隆、小林 春夫、小林 修、松浦 達治、新津 葵一、高井 伸和低歪み信号発生用DA変換器アーキテクチャ電気学会 電子回路研究会、ECT-12-020、 横須賀2012.03(12) K. Kato, F. Abe, K. Wakabayashi, C. Gao, T. Yamada, H. Kobayashi, O. Kobayashi, K. NiitsuTwo-Tone Signal Generation for Testing of Communication Application Devices第
25回 回路とシステムワークショップ、 淡路島2012.07
(13) 安部 文隆、加藤 啓介、小林 春夫、小林 修、高井 伸和、新津 葵一任意波形発生器を用いた低 歪み信号発生技術でのアナログフィルタ要求性能電気学会 電子回路研究会、ECT-12-075、 熊本2012.10
(14) 村上 正紘、新井 薫子、Mohyar Nizam Shaiful、安部 文隆、加藤 啓介、小林 春夫、松浦 達治、小林 修、新津 葵一 、高井 伸和任意波形発生器を用いたノイズシェーピング技術電 気学会 電子回路研究会、ECT-12-085、熊本2012.10