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ドイツにおける文化財・文化遺産について : アスマンの『想起の空間』をもとに

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Academic year: 2021

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(1)ドイツにおける文化財・文化遺産について ―アスマンの『想起の空間』をもとに . 来に向けたメッセージを発信するの か、二つの立場がありえよう。ニー チェが、生に役立つ記憶と生にとっ て疎遠な歴史を対峙させて以来、繰 り返されてきたこの両者の二項対立 を、アスマンはむしろ相補的な関係 としてとらえなおし、集団的記憶と 結びついた「機能的記憶」と記憶の 記憶たる「蓄積的記憶」に分け、選 別され解釈されてアイデンティティ を形成する前者の背景には、無定形 な集塊の記憶としての後者があると する。 文化財という言葉から連想される 通り、これは各時代の支配者から見 た価値観にしたがって集積されるべ き文化アーカイブであり、支配者の 権威を確認・誇示するものとしての 政治的な意味合いが強くなる傾向が ある。歴史的資料としての記憶の集 積物のなかから選択し、整理し、物 語や神話に再構成するナショナルな 意識には、文化記憶の集団的アイデ ンティティ強化の意図が窺える。い わば正史としての文化財が前景化す るのは、国家や民族のアイデンティ.  土 屋 勝 彦. . 名古屋市立大学大学院人間文化研究科. ド イ ツ 語 で 文 化 財 は Kulturgut 、 と呼ばれる 文 化 遺 産 は Kulturerbe が、文化財の下位範疇として、文化 アーカイヴ、文化財保護建築物、儀 礼・慣習、保護文化財、無形文化財、 文化記念物、文化風景、世界遺産など が含まれる。文化財を考える上で欠 かせない理論書として、ドイツでは アライダ・アスマン氏の『想起の空 間』(安川晴基訳、水声社、二〇〇七 年 ) を 挙 げ る こ と が で き る。 本 稿 は、この著作を紹介しながら、文化 財の根源的な諸問題を考える試みで ある。 いわゆる「想起された過去」とは、 過去についての客観的な知識と同一 視される「歴史」ではなく、過去を 照らし出し、その意味を探求する現 在の解釈や、国民アイデンティティ の形成に関わる政治的原形質である という。過去の歴史的形成物を発見・ 保存し分類・整理し継承する文化財 保護の考えに対して、それをたんな る客観的な歴史資料として保存・提 示することに意味を置くのか、「想起 の文化」財として解釈し、現在と未. ティ探求と自己確認・正当化の動機 づけが前提になるからであろう。ア スマンは、こうした機能的記憶の弊 害を避けるために、蓄積的記憶に絶 えずフィードバックすることで、布 置されたイデオロギーからの解放と 批判的、相対的視点の確保を図るべ きだとする。文化財の収集価値基準 が、文化選択的視点からなされるの はやむを得ないにせよ、そこから漏 れてしまう蓄積的記憶の膨大な資料 を残す必要性もある。その場合、文 化財の価値を測る基準をどこに置く べきか充分に議論がなされるべきで あろう。 アーカイヴという言葉は、始まり、 起源、支配のほかに官庁や役所を意 味 す る ア ル ケ ー に 由 来 す る と い う。 アーカイヴを成立させているのは書 記システムと書字技術であり、それ によって王権の支配経済と管理を可 能 に し た。 そ の 役 割 は 保 存、 選 別、 公開性を特徴とする集合的知識の蓄 積装置といえる。さらにアスマンは、 文化財と放射性有害物質が所蔵され る条件の近似性を指摘するが、実際 フライブルク近郊にある銀山廃坑に 「国民文化遺産」が保管されており、 文化的記憶がタイムカプセルとして 未来に託されている。こうした文化 的記憶の保護は、ユネスコの「世界の 記憶」プロジェクトにつながってお. 58.

(2) り、蓄積されたデータをアーカイヴ 化し国際的ネットワークで結ぶこと を目指す。そこでは儀礼、習俗や舞 踊、唄など口承文化の音声映像アー カイヴも含まれるが、それらは一時 蓄積装置という限界を持つ。 以上、アスマンの著作をもとに文 化財や文化遺産をめぐる思想的課題 について若干検討したが、最後に文 化財の現在的課題ともいえる公開性 と公共性について付言すれば、ドイ ツ文化財保存の専門家が指摘するよ うに、さまざまの共同作業への組み 込みを国民レベルで実現することに より、集団的記憶の一翼を担いうる 公共の意識を育てる試みがなされて いるという。またアンゼルム・キー ファーやジークリット・ジグルドソ ンのような文化的記憶とメディアを テーマとする芸術家の諸作品を見れ ば、文化記憶の公共性を考えるうえ で 大 い に 参 考 と な る だ ろ う。 ホ ロ コーストの記憶を視覚化したベルリ ンのホロコースト記念碑もその一例 といえよう。 ホロコースト記念碑 1. ホロコースト記念碑 2. 59.

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