アジ研ワールド・トレンド No.254(2016. 12)
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特 集
蔡英文政権の成立と
台湾政治の今後
台湾は国際政治の現実の下、地
域経済統合への参加において劣勢
に立たされ続けてきた。現在、ア
ジア太平洋諸国のなかで、台湾は
地域経済統合への参加において最
も
後
れ
を
と
っ
て
い
る。
そ
の
た
め、
台湾の輸出が不利になるばかりか、
台湾の産業と経済の発展も一定の
影響を受けている。馬英九政権の
時代、台湾は中国との二国間協議
を積極的に進め、二〇一〇年に台
湾と中国は
「経済協力枠組み協定」
(ECFA)を締結した。その後、
二〇一三年にはニュージーランド、
シンガポールとFTAを締結して
いる。しかし、ECFAに続けて
中台の政府間で合意に達したサー
ビス貿易協定は、発効させること
ができず、台湾の地域経済統合へ
の参加は壁にぶつかることになっ
た。
●
T
P
P
参
加
へ
の
意
欲
と
課
題
台湾の新政権がスタートした後、
中国と台湾の政府間の交流は中断
状態にあり、これは今後台湾が地
域経済統合に参加するうえで悪影
響を及ぼすだろう。現在、台湾の
新政権は地域経済統合への参加戦
略の軸足を「環太平洋パートナー
シ
ッ
プ
協
定
」
( T
P
P
) に
置
い
て
いる。その主な理由は、TPPは
アメリカ主導であり、政治的なセ
ンシティヴィティが小さいからで
ある。しかも、TPPは台湾の与
野党がともに加盟に賛成している
唯一のFTAであり、政治上の抵
抗が少ないことから、新政権は積
極的に推進しているのである。
ただし、TPPへの加盟には代
価を支払う必要がある。まず、農
産物の輸入を開放すれば、農家の
反発を招く。
特にラクトパミン
(飼
料の添加物)を使用した豚肉の輸
入の開放に対しては、すでに養豚
農家の強い反発を招いている。こ
れに対しては、新政権は養豚農家
と意見交換を続けるとともに、具
体的な対応措置を打ち出さなけれ
ば、解決することができないだろ
う。豚肉だけでなく、台湾は現在、
二〇品目の農産物に対して、関税
割当あるいは特別防衛措置を講じ
ているが、TPP加盟後には関税
と保護措置を撤廃する必要がある。
これは台湾の農業に対して大きな
打
撃
と
な
り、
な
か
で
も
米、
小
豆、
ニンニクは影響を受けるだろう。
顧
瑩
華
台湾新政権
の
地域経済統合
へ
の
参加
に
向
け
た
戦略
と
試練
農業問題のほか、国内法規の調
整
と
透
明
化
も
重
要
な
作
業
で
あ
る。
それには知的財産権、著作権、食
品安全や動植物防疫検査などが含
まれ、法改正を進める必要がある。
八月初め、行政院は郵政法、特許
法、薬事法などの法改正作業を決
定した。今後はTPPの規則に適
合させるため、さらに多くの法規
について調整が必要となる。現在、
市場の開放と法規の調整について、
新政権は利害関係者と意見を交わ
し
て
い
る
ほ
か、
一
般
市
民、
学
生、
労働者、そして立法院とのコミュ
ニケーションも強化している。
TPPへの加盟は、内部の問題
を解決する必要があるだけではな
く、多くの対外的な試練にも向き
合う必要がある。まず、アメリカ
や
日
本、
そ
の
他
の
T
P
P
加
盟
国・
交渉国の支持を取り付ける必要が
あ
る。
ア
メ
リ
カ
に
つ
い
て
い
え
ば、
ラクトパミンを使用したアメリカ
産豚肉の輸入解禁が台湾に対する
基本的な要求であり、それが台湾
がTPPに加盟するチケットとな
る。日本については、二〇一一年
三月の原子力発電所の事故以来禁
止されている、福島など東日本五
県の食品の輸入を解禁することが、
台湾が好意を示す最良の方法とな
2010 年 6 月 29 日、 台 湾 と 中 国 は
ECFA に調印した(写真:海峡交流基
金會)
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るだろう。こうした取り組みがな
ければ、日米両国の台湾のTPP
加盟への支持を取り付けるのは難
しく、日米の支持がなければ、台
湾のTPP加盟は木に登って魚を
探すようなものであり、まずもっ
て不可能である。
ただし、日米が台湾の加盟を強
く支持したとしても、その他の加
盟国・交渉国が台湾の加盟を支持
するか否かは、やはり中国の出方
次第である。なぜならば、中国と
TPPのその他の加盟国・交渉国
はいずれも外交関係を有し(台湾
は
い
ず
れ
と
も
外
交
関
係
が
な
い
)、
しかも中国とそれら加盟国・交渉
国の経済および貿易関係は緊密で
あるからである。日本とアメリカ
以外のTPPの加盟国・交渉国の
うち、五カ国にとって中国は最大
の貿易相手国である。このことが
示すように、中国のこれらの国に
対する影響力を軽視することはで
きない。
●
中
国
の
強
大
な
影
響
力
筆者が長年、台湾と中国の経済
および貿易関係に関する研究と実
務に従事してきた経験に基づいて
観察する限り、台湾が中国の国際
社会における影響力を軽視できな
いことは確かである。二〇〇〇年
に誕生した民進党政権も、他国と
のFTAの締結に積極的に取り組
んだ。その結果、台湾は国交のあ
る中米の五カ国と四つのFTAを
締結したものの、そのほかのFT
A
は
ま
っ
た
く
締
結
で
き
な
か
っ
た。
このように、当時の民進党政権は
八年にわたって努力したにもかか
わらず、何の成果も上げられなか
ったのである。
中国の経済力は一六年前に比べ
てより強大になっていて、今と昔
では比較にならない。その国際社
会への影響力も急速に増している。
台湾と中国の経済や貿易のパワー
の
隔
た
り
は
ま
す
ま
す
大
き
く
な
り、
台湾が今回も一六年前のような戦
略をとれば、効果はまず見込めな
いだろう。台湾は中国といかに平
和的に付き合うのかを考えるべき
であり、そうすることによっては
じめて、台湾が他の国と連携する
ことに対する中国の懸念を払拭す
ることができ、台湾の地域経済統
合への参加にもプラスに働く。
現在、台湾と中国の政治的なム
ードは良くないが、時間とともに
改善していくか否かは、やはり中
台首脳の知恵にかかっている。台
湾と中国が手を握れば双方にプラ
スとなるが、袂を分かてば双方に
マイナスとなるからである。台湾
と中国は今後も対話を続け、互い
に相手を思いやるべきである。中
国が台湾により多くの国際的な活
動の空間を与えてはじめて、台湾
は中国に対して共感を持ち、中台
が平和的に付き合う未来が実現す
るのである。
●
新
政
権
お
よ
び
台
湾
が
進
む
べ
き
途
台湾と中国の関係がどのように
発展するにしても、台湾は前に進
み続けなければならないのであり、
台湾の新政権はそのためにTPP
加
盟
に
向
け
て
努
力
す
べ
き
で
あ
る。
最終的に加盟できなかったとして
も、加盟を推進する過程で経済的
な改革という目的を果たすことが
できるのであれば、TPP加盟は
台湾にとって取り組む価値がある。
台湾がTPPに加盟できるか否
かは、米中の力比べの結果次第で
あるという見方がある。アメリカ
の実力が依然として中国を大きく
上回るようであれば、台湾がTP
Pに加盟するチャンスは大きくな
るが、そうでなければ望みは薄い
というのである。それは台湾の宿
命であり、変えることはできない
のかもしれない。
しかし、それでも台湾は自ら努
力し、自身の経済力を高めること
によって、地域経済統合に参加で
きない状況下においても、少なく
とも生存し続け、相応の影響力を
発揮することができる。新政権は
発足後、各種の改革を着実に進め、
台湾の投資環境を改善するととも
に、移行期正義の旗の下、
「族群」
(
エ
ス
ニ
ッ
ク
グ
ル
ー
プ
)
間
の
調
和
を促し、労資間の衝突を減らして
いく必要がある。それこそが台湾
の幸福となる。
良好な中台関係がなければ、台
湾の国際的な活動範囲は限られて
しまい、たとえアメリカが台湾に
協力しようと考えているとしても、
台湾は高い代償を払わなければな
らないことを、台湾は理解すべき
である。ただより高いものはない
の
で
あ
る。
台
湾
の
今
後
の
発
展
は、
やはり台湾人の知恵にかかってい
る。台湾の内部が団結できなけれ
ば、地域経済統合への参加が望め
ないばかりか、ポピュリズムによ
る頑迷な言い争いが際限なく続く
なかで、台湾は衰退の道を歩むこ
とになるだろう。
(
こ
え
い
か
/
中
華
経
済
研
究
院
区
域発展研究中心
研究員兼主任)
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