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lim_ _x→0 sinx/x=1が意味するもの : 高校数学「三角関数」の教材研究

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(1)

lim

x→0

sin x

x

= 1

が意味するもの

—–

高校数学「三角関数」の教材研究

—–

What it means to learn the equality lim

x→0

sin x

x = 1 at the study of trigonometric functions in the high-school mathematics

門 田 良 信( Yoshinobu KADOTA ) 和歌山大学教育学部数学専修 ( 2011年10月5日 受理) 高校三学年の数学では「微分・積分」を学習する。その最初の単元である「極限」に必ず現れる等式 lim x→0 sin x x = 1が 意味するものを,算数·数学教育の視点から考察することがこの小論の目的である。 この等式は,小学生以来直感的に説明されてきた円周の長さや円の面積の公式に証明を与えている。また,この式は古代 ギリシャ時代から考察されていて,円周率の計算法を生み出し,正弦関数表を作るときにも補間法として利用された。もち ろん微分・積分とも深い関係をもつ。 微分・積分を学ぶ準備としての例題に過ぎないのかも知れないが,図形や三角関数との関係で言えば中身の濃い式であ る。「何のために数学を勉強するのか?」という問いに答えることは難しい。しかし,この等式は「学んで良かった。」と思わ せる例の一つであると思われる。授業では,そのことに配慮した説明を付け加えて欲しいと考える。 キーワード: 弧の長さ,外接正n角形,三角関数,円周率,円の面積,古代ギリシャの数学,極限 1. はじめに 高校の数学では,数学Iで「三角比」,数学IIで「三角 関数と微積分の初歩」,数学IIIで「微分・積分」を学習 する。「微分・積分」の最初の単元である「極限」の内容 は,数列の収束と関数の極限である。 「極限」でどの教科書にも例題として扱われる等式 lim x→0 sin x x = 1が意味するものを,算数·数学教育の視点 から考察することが, この小論の目的である。この等式 は同じ中心角をもつ弧と弦の長さの比の極限を示してい る。そのことから展開する図形や関数に関する結果を,数 学史をひも解いて調べることによって数学教育に生かそ うと考えるものである。 この等式は,小学生の頃から直感的説明に終始してきた 円周の長さや円の面積,円周率について,解析的な証明を 与えてくれる。 また,この等式は三角関数に関する基礎として古代ギリ シャ時代から考察されている。もちろん,当時は三角関数 も関数概念も極限も無かった。(第4節 図4.1参照。)し かしこの等式は,アルキメデスの円周率の計算法を導く証 明に用いられている。また,プトレマイオスが正弦関数表 を作るときにも補間法として巧みに利用されている。 数学 IIIでは正弦関数の微分のための準備の一つに過 ぎないのかも知れないが,図形や三角関数との関係で言え ば中身の濃い式である。 この小論では上記の事実を説明した後に,最後の節で高 校の数学教育に生かすための方向性を考察する。微積分 との関係には触れない。 「何のために数学を勉強するのか?」という問いに答え          ることは難しい。その原因の一つは数学があまりに基本 的あるいは抽象的であり, それゆえに様々な応用をもつ ことにある。その中でこの等式は,生徒達に「数学を学ぶ 意義」を伝えてくれる好例であると考える。生徒たちが 「学んで良かった。」と思えるような, この等式から広が る数学あるいは数学史的説明を少しでも付け加えて欲し いと思う。 ところで,高校教育では,数学IIIは選択科目であり多 くの生徒は数学II,数学Bで数学の課程を修了してしま う。その場合には極限に関する説明を少しだけ加えて,数 学IIの三角関数や微積分を学習した後に,授業の中でこ の等式のもつ意味を伝えて欲しい。 この小論の構成を述べておく。 次の第2節ではこの等式の意味を明確にするために,教 科書にある証明を解説し,正多角形による円の近似定理の 一つを系として導く。 第3節ではこの等式についてさらに深く考察する。結 果として区分求積法による円周の長さの公式と面積の公 式を導く。この節は次節の準備となる。 第 4節では, この等式の原型と思われるアリスタルコ スの定理を三角関数を使って証明する。また,その定理が この等式に関するより詳細な結果をもたらすことを見る。 第 5節では, アルキメデスの円周率の計算法を説明す る。ユークリッド幾何学によって証明された逐次近似法 を使って,円周率が求められる。そこではこの等式が近似 法の正しさを導くことが理解できる。 第 6節では, プトレマイオスが正弦関数表を作るとき に補間法としてアリスタルコスの定理を利用したことを

(2)

説明する。 第7節は,議論のまとめとして,この等式を学ぶ意義に ついて数学教育の視点から考える。また,著者なりの数学 史的視点から,三角関数を学ぶ意義や面白さについて言及 する。 第3, 4節では,この等式の証明の一部を改良すること によって2節より豊富な結果を導いている。第5, 6節で はこの等式の応用を説明している。第3, 4節は三角関数 を使った理論であるが,これらの節をとばして読んでも5 節と6節の応用に関する本筋は理解できると思う。 2. 等式の意味 角の大きさを表すには度数法を使ってきたが,微分積分 を考える上では数学IIで学習する弧度法が便利である。 少しだけ説明しておきたい。 おそらく古代エジプトで測量士たちが活躍していた頃 から 円周の長さ 直径の長さ=一定の値 となることは知られていたと思われる。この一定の値を 円周率とよびπと表す。円の半径をr,円周の長さをと すれば,この関係は � = 2πr (2.1) と表される。πは3よりも少し大きい値となる。 いま, 半径1の円を考え 中心角 d◦をもつ弧の長さを �(d◦)とすると(2.1)より �(d◦) = 2π  d◦ 360  = π d◦ 180  (2.2) となる。しかしいつも180d◦ を計算するのは面倒く さい。 中心角と弧の長さは比例しているのだから,いっそのこ と半径1の円の中心角の大きさを弧の長さで直接表した 方が便利だろう。それには(2.2)から180πとすれば よい。新しい角度の単位,ラジアンを 180= π (ラジアン) (2.3) とする。つまり 1= π 180  (ラジアン), 1(ラジアン)= 180 π  = 57.29578 · · ·◦ と単位を変更する。 このとき, 中心角 x(ラジアン) をもつ弧の長さは (2.2) より �(x) = 2π x  = x ( 0 < x <= 2π ) (2.4) を満たすことになる。(図2.1(1)参照。)中心角1(ラジアン) をもつ弧の長さは1となる。(2.3)の変換の一部を表2.2 に示しておく。 図2.1 (1) (2) 角度 弧長 180◦ = π π y = ax 表2.2 度数法 1 30 45 約 57.3 60 90 弧度法 π 180 π 6 π 4 1 π 3 π 2 半径r中心角x(ラジアン)の扇形の弧の長さを�(x)と しその面積をS(x)と表す。弧の長さは半径に比例するか ら(図2.1(2)参照。) �(x) = 2πr× x = rx (2.5) S(x) = πr2× x = 1 2r�(x) (2.6) と表される。 この小論の主題となる等式を定理の形で与えよう。  定理2.1. 次の等式が成り立つ。 lim x→0 sin x x = 1 (2.7) 証明 (i) 中心を Oとする半径 1の円周上に任意の点 A, Bをとり, ∠AOB = xとして, 0 < x < π 2 のときを 考える。点AからOBに下ろした垂線をAH,点Bにお ける円の接線がOAの延長と交わる点をTとする。 図2.3 x tan x sin x 1 A T B O H このとき △AOBの面積<扇形AOBの面積 <△OBTの面積 となる。この関係を式で表せば(2.5)と(2.6)より 1 2 ·12· sin x < 1 2 ·12· x < 1 2 ·12· tan x となる。したがって sin x < x < tan x (2.8) が成り立つ。 各辺をsin x > 0で割り逆数をとると  1 < x sin x< 1 cos x より 1 > sin x x > cos x となる。lim x→0cos x = 1となることよりx > 0ならばx→ 0 のときsin x x → 1が成り立つ。 (ii) −π 2 < x < 0のときはx = −y, y > 0とおくと

sin x = − sin yとなるのでy > 0に(i)の結果を適用する

と(2.7)が示される。 以下では, 2点 X, Yを結ぶ線分の長さをXYと表す。 また X, Yが同一の円周上にあるとき, 弧XYの長さを XY

と表す。 [注意2.1] (1) (2.7)は,弧と弦の長さを比べていて lim x→0 AH AB

= 1 (2.9) を意味している。この事実は半径に関係なく成り立つ。 (2)証明では三角形や扇形の面積を考えているが, (2.9) は長さを比べている。そのカラクリは(2.8)にある。(2.8) は AH < AB

< BT (2.10) を意味している。極限概念を(2.8)に適用することによっ て定理2.1は導かれている。 半径1の円を切りとってできる扇形AOBの中心角を xとしておく。xn等分してできる弧 ABの分点を A = A0, A1, A2, · · · , An = Bとする。A

iAi+1= x n (弧度法) となる。弧 AiAi+1の中点を Mとすると, ∠ AiOM = x 2n となる。線分OMと弦AiAi+1は垂直だか らAiAi+1= 2 sin x 2n となる。 弦AiAi+1の総和2n sin x 2nnを大きくとればAB

= x (弧度法)を近似することが,次の系2.2から導かれる。 図2.4 A= A0 A1 A2 A3 B= An An−1 Ai Ai+1 x 2n 2 sin x 2n O O M M M M M  系 2.2. 任意の実数xについて次の等式が成り立つ。 lim n→∞2n sin x 2n = limn→∞2n tan x 2n = x (2.11) 証明 x = 0のとき(2.11)は0 = 0となって成り立つ。 x�= 0のとき(2.11)の極限の中身を変形すると 2n sin x 2n = x ⎡ ⎣sin � x 2n� x 2n � ⎤ ⎦ (2.12) となる。nを大きくとるとxn= x 2nは0に近づく。これ より(2.7)を適用すると(2.11)の前半の等式が示される。 tan xn= sin xn cos xn であり, nを大きくとるとcos xnは1 に近づく。(2.11)の前半の等式により後半の等式も成り 立つ。 [注意2.2] x = 360◦= 2π とおくと,2.2sin関数 に関する極限は「円に内接する正 n 角形の周の長さは, nを大きくすると円周の長さに近づく。」ことを示してい る。tan関数の極限の方は,円に外接する正n角形につい ても同様なことが言えることを示しているのだが,それは 次節で調べる。 弧度法を使ったことは定理や系に現れる式を簡単に記 述することに役立っている。しかし,次節以降では別の意 味での紛らわしさを避けるために, なるべく度数法を用 いることにする。古代ギリシャでも度数法を使っている。 弧度法を使うときには必ずそのことを明記しよう。 3. 円と接正n角形 この節では,円に内接する正n角形と外接する正n角 形の周の長さが,辺数を増やすときに( nを大きくとると きに )円周の長さに逐次近似していくことを, 系2.2よ りも詳しく示す。そのことから,円の面積の公式や円周の 長さの公式が得られる。 この節の目的は次の第4節の準備を行うことでもある。 理論的にこだわらない読者は,この節と第 4節をとばし て第5, 6節を直接読んでも筋書き的な理解はできるであ ろう。 半径1 の円の円周の長さを�,内接する正n角形の一 辺の長さをs0,周の長さを0とする。また,外接するす る正 n 角形の一辺の長さを s1, 周の長さを1 とする。 もちろん 0= ns0, 1= ns1 となる。正6角形の場合を描くと図3.1になる。 A1 B1 C1 O M A B C 図3.1 s0, s1が張る中心角は 360 n となる。中心角の 2等分 線OMを考えると図3.2(1)より s0= AB = 2 sin360 2n = 2 sin 180 n s1= A1B1= 2 tan180 n (3.1) と表される。 内接正n角形をそのままにして,外接正n角形だけを 180 n 回転させた図が図3.2(2)である。s1は2本の接線 を使ってs1= AB1+ BB1と表される。

(3)

説明する。 第7節は,議論のまとめとして,この等式を学ぶ意義に ついて数学教育の視点から考える。また,著者なりの数学 史的視点から,三角関数を学ぶ意義や面白さについて言及 する。 第3, 4節では,この等式の証明の一部を改良すること によって2節より豊富な結果を導いている。第5, 6節で はこの等式の応用を説明している。第3, 4節は三角関数 を使った理論であるが,これらの節をとばして読んでも5 節と6節の応用に関する本筋は理解できると思う。 2. 等式の意味 角の大きさを表すには度数法を使ってきたが,微分積分 を考える上では数学IIで学習する弧度法が便利である。 少しだけ説明しておきたい。 おそらく古代エジプトで測量士たちが活躍していた頃 から 円周の長さ 直径の長さ=一定の値 となることは知られていたと思われる。この一定の値を 円周率とよびπと表す。円の半径をr,円周の長さをと すれば,この関係は � = 2πr (2.1) と表される。πは3よりも少し大きい値となる。 いま, 半径1の円を考え 中心角 d◦をもつ弧の長さを �(d◦)とすると(2.1)より �(d◦) = 2π  d◦ 360  = π d◦ 180  (2.2) となる。しかしいつも180d◦ を計算するのは面倒く さい。 中心角と弧の長さは比例しているのだから,いっそのこ と半径1の円の中心角の大きさを弧の長さで直接表した 方が便利だろう。それには(2.2)から180πとすれば よい。新しい角度の単位,ラジアンを 180= π (ラジアン) (2.3) とする。つまり 1= π 180  (ラジアン), 1(ラジアン)= 180 π  = 57.29578 · · ·◦ と単位を変更する。 このとき, 中心角 x(ラジアン) をもつ弧の長さは (2.2) より �(x) = 2π x  = x ( 0 < x <= 2π ) (2.4) を満たすことになる。(図2.1(1)参照。)中心角1(ラジアン) をもつ弧の長さは1となる。(2.3)の変換の一部を表2.2 に示しておく。 図2.1 (1) (2) 角度 弧長 180◦ = π π y = ax 表2.2 度数法 1 30 45 約 57.3 60 90 弧度法 π 180 π 6 π 4 1 π 3 π 2 半径r中心角x(ラジアン) の扇形の弧の長さを�(x)と しその面積をS(x)と表す。弧の長さは半径に比例するか ら(図2.1(2)参照。) �(x) = 2πr× x = rx (2.5) S(x) = πr2× x = 1 2r�(x) (2.6) と表される。 この小論の主題となる等式を定理の形で与えよう。  定理2.1. 次の等式が成り立つ。 lim x→0 sin x x = 1 (2.7) 証明(i) 中心を Oとする半径 1の円周上に任意の点 A, Bをとり,∠AOB = xとして, 0 < x < π 2 のときを 考える。点AからOBに下ろした垂線をAH,点Bにお ける円の接線がOAの延長と交わる点をTとする。 図2.3 x tan x sin x 1 A T B O H このとき △AOBの面積<扇形AOBの面積 <△OBTの面積 となる。この関係を式で表せば(2.5)と(2.6)より 1 2 ·12· sin x < 1 2 ·12· x < 1 2 ·12· tan x となる。したがって sin x < x < tan x (2.8) が成り立つ。 各辺をsin x > 0で割り逆数をとると  1 < x sin x< 1 cos x より 1 > sin x x > cos x となる。lim x→0cos x = 1となることよりx > 0ならばx→ 0のときsin x x → 1が成り立つ。 (ii) −π 2 < x < 0のときはx = −y, y > 0とおくと

sin x = − sin yとなるのでy > 0に(i)の結果を適用する

と(2.7)が示される。 以下では, 2点X, Yを結ぶ線分の長さをXYと表す。 また X, Yが同一の円周上にあるとき, 弧XYの長さを XY

と表す。 [注意2.1] (1) (2.7)は,弧と弦の長さを比べていて lim x→0 AH AB

= 1 (2.9) を意味している。この事実は半径に関係なく成り立つ。 (2)証明では三角形や扇形の面積を考えているが, (2.9) は長さを比べている。そのカラクリは(2.8)にある。(2.8) は AH < AB

< BT (2.10) を意味している。極限概念を(2.8)に適用することによっ て定理2.1は導かれている。 半径1の円を切りとってできる扇形AOBの中心角を xとしておく。xn等分してできる弧 ABの分点を A = A0, A1, A2, · · · , An = Bとする。A

iAi+1= x n (弧度法) となる。弧 AiAi+1の中点を Mとすると, ∠ AiOM = x 2n となる。線分OMと弦AiAi+1は垂直だか らAiAi+1= 2 sin x 2n となる。 弦AiAi+1の総和2n sin x 2nnを大きくとればAB

= x (弧度法)を近似することが,次の系2.2から導かれる。 図2.4 A= A0 A1 A2 A3 B= An An−1 Ai Ai+1 x 2n 2 sin x 2n O O M M M M M  系 2.2. 任意の実数xについて次の等式が成り立つ。 lim n→∞2n sin x 2n = limn→∞2n tan x 2n = x (2.11) 証明 x = 0のとき(2.11)は0 = 0となって成り立つ。 x�= 0のとき(2.11)の極限の中身を変形すると 2n sin x 2n = x ⎡ ⎣sin � x 2n� x 2n � ⎤ ⎦ (2.12) となる。nを大きくとるとxn= x 2nは0に近づく。これ より(2.7)を適用すると(2.11)の前半の等式が示される。 tan xn= sin xn cos xn であり, nを大きくとるとcos xnは1 に近づく。(2.11)の前半の等式により後半の等式も成り 立つ。 [注意2.2] x = 360◦= 2π とおくと,2.2sin関数 に関する極限は「円に内接する正 n 角形の周の長さは, nを大きくすると円周の長さに近づく。」ことを示してい る。tan関数の極限の方は,円に外接する正n角形につい ても同様なことが言えることを示しているのだが,それは 次節で調べる。 弧度法を使ったことは定理や系に現れる式を簡単に記 述することに役立っている。しかし,次節以降では別の意 味での紛らわしさを避けるために, なるべく度数法を用 いることにする。古代ギリシャでも度数法を使っている。 弧度法を使うときには必ずそのことを明記しよう。 3. 円と接正n角形 この節では,円に内接する正n角形と外接する正n角 形の周の長さが,辺数を増やすときに( nを大きくとると きに)円周の長さに逐次近似していくことを, 系2.2よ りも詳しく示す。そのことから,円の面積の公式や円周の 長さの公式が得られる。 この節の目的は次の第4節の準備を行うことでもある。 理論的にこだわらない読者は,この節と第 4節をとばし て第5, 6節を直接読んでも筋書き的な理解はできるであ ろう。 半径1 の円の円周の長さを�,内接する正n角形の一 辺の長さをs0,周の長さを0とする。また,外接するす る正n 角形の一辺の長さを s1, 周の長さを1 とする。 もちろん 0= ns0, 1= ns1 となる。正6角形の場合を描くと図3.1になる。 A1 B1 C1 O M A B C 図3.1 s0, s1 が張る中心角は 360 n となる。中心角の 2等分 線OMを考えると図3.2(1)より s0= AB = 2 sin360 2n = 2 sin 180 n s1= A1B1= 2 tan180 n (3.1) と表される。 内接正n角形をそのままにして,外接正n角形だけを 180 n 回転させた図が図3.2(2)である。s1は2本の接線 を使ってs1= AB1+ BB1と表される。

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図3.2(2)で見る限り 0 < AB < AB



< s1だから, 0 < sinx 2 < x 2 < tan x 2 となって(2.8)が導かれそうであ る。見た目だけでなく理論的に考えてみよう。 図3.2 (図 3.1 の拡大図) A1 M s1 s0 M s0 (1) (2) s1 B1 B A O O B B1 A 180 n 180 n  補助定理 3.1. 半径 1の円に弧AB をとり, その中心 角をx > 0とする。n = 1, 2,· · · について an= 2nsin x 2n, bn= 2 ntan x 2n と定義すると次が成り立つ。 (1) an は弧 ABを 2n−1等分してできる2n−1個の弦 の長さの総和を表し 0 < an< an+1, lim n→∞an= AB



(2) bn は点 A, B での接線および弧ABを2n−1等分 してできる2n−1− 1個の分点における接線をつないでで きる折れ線の長さを表し bn> bn+1> 0, lim n→∞bn= AB



証明 xn= x 2n とおく。2xnxを2 n−1等分した中 心角になる。中心角2xnの扇形の弦の長さは2 sin xnで あり,それに弦の個数をかけたan= 2nsin xnは,小さな 扇形が作る弦の長さの総和となる。 (i) 2倍角の公式を使って 0 < sin x = 2 sinx 2cos x 2 < 2 sin x 2 = 2 sin x1 となる。これを続けていくと 0 < an= 2nsin xn< 2n+1sin xn 2 = an+1 を得る。 次の図3.3はn = 1, 2のときを描いたものである。a1= AB, a2= AM1+ M1B となる。a3 は AM2, M2M1, M1M2, M2Bの和となる。これよりanは 点Aから点B までを2n−1等分した分点M n−1 をつなぎ合わせた折れ 線の長さを表すことになる。 図3.3 sinx 2 x/4 sin x A B H1 O sinx 4 H0 M1(= M2) M2 M2 (ii) 0 < tanxn 2 < 1となるので2倍角の公式を使って bn= 2ntan xn= 2n 2 tanxn 2 1 − tan2 xn 2 > 2n+1tan xn+1= bn+1> 0 が導かれる。 次の図3.4はn = 1, 2のときを描いたものである。図 3.3のOA, OM1, OM2の延長と点Bでの接線との交点を それぞれT, P1, P2とする。これよりtan x = BT, b1= AP1+ P1B である。点A, 点B とその隣りの点 M1で の接線の交点を Q2とすると, b2は点A, Q2, M1, Q2(= P2), Bを結ぶ折れ線の長さとなる。これよりbnは点A, 点Bでの接線および2n−1等分してできる分点M n−1に おける接線をつなぎ合わせてできる折れ線の長さを表す。 図3.4 T 4 tanx 4 P2= Q2 P1 P2 M1 B O A Q2 (iii) 以下では xを弧度法で表しておくと, (2.4)より AB



= xである。 an は弧AB上の分点を結んだ折れ線の 長さだから, an< xとなる。an< an+1 より lim n→∞an= x0<= xとおく。同様に lim n→∞bn= x1> 0とおく。 扇形OABの面積をS,半径OA, OBとan, bnで示さ れる折れ線の作る多角形の面積をそれぞれS0(n), S1(n) とおくとS0(n) < S < S1(n)かつ S0(n) = 12ancos x 2n, S1(n) = 1 2bn となる。よってS0= lim n→∞S0(n), S1= limn→∞S1(n)とお くと S0= 1 2x0, S1= 1 2x1 (3.2) となる。一方bn= an  1 cos xn  だから S1− S0= 1 2  lim n→∞an  1 cos xn − cos xn  = 0 が成り立つ。よってS0 = S = S1かつx0= x1が成り 立つ。 いま x0 < xと仮定すると x1 < xとなり, (3.2)より S1 < S となって S0 = S = S1に矛盾する。以上より x0= x1= xが成り立つ。 [注意3.1]系2.2と補助定理3.1はよく似ているが異な る。その違いについて2つ程注意したい。 (1)系 2.2では与えられた扇形の弧をn等分してでき る弦の長さを考えたが,補助定理3.1では2n−1等分する ことを考えた。2n−1等分しておくとa n < an+1の関係 がすぐに導かれて大変有用である。系 2.2で同じことを 言うには後の系4.2(2)まで待たなければならない。 (2)定理2.1の証明では(2.8)を導くために,円の周の長 さと面積の公式である(2.5)つまり(2.1)と(2.6)を使っ た。しかし補助定理3.1の証明ではそれらを使わずに系 2.2とほぼ同等のことを導いている。(実際,証明(iii)で は扇形の面積Sを三角形による区分求積法で求めている。 また,証明(i)では長くなることをいとわなければ,弧の 長さxを一松[8]のように厳密に求めることも出来る。) したがって逆に,補助定理3.1から円の周の長さや面積 の公式を導くことも出来る。そのことを次の2つの系で 述べておく。  系 3.2. 定理2.1と系2.2は(2.5)や(2.6)に無関係に 成立する。 証明 補助定理3.1により(2.8)が成り立つことが次の ように示される。 sin x < 2 sinx 2 < AB



= x < 2 tan x 2 < tan x したがって,注意2.1(2)で述べたように(2.5)や(2.6)を 使わなくても定理と系は示される。  系3.3. 半径rの円の周の長さを�,面積をSとすると � = 2πr, S = πr2 (3.3) が成り立つ。 証明 2点A, Bを円周上の同一の点にとり� = AB



と おく。∠AOB= x = 360◦= 2πとして,半径rの円で考 える。 cn= 2nr sin x 2n, dn= 2 nr tan x 2n と定義すると補助定理3.1より � = lim n→∞cn= limn→∞dn= AB



= 2πr が成り立つ。{cn}, {dn}は円周の長さを多角形の周の 長さで測った値であり,左辺の2πrは弧度法と半径の比 によって得られたものである。 また, (3.2)は半径rの円でS0= 1 2r� を示している。 S0= Sにより(3.3)が示される。 系 3.3は円の面積を 2n−1等分した三角形の面積の総 和で近似している。そのことは小学校のときに習った次 の図3.5を思い出させる。 r r r πr 図3.5 (細分を続けると,円の面積は縦がr横 がπrの長さの長方形の面積に近づく。) しかし,本当に長方形になるだろうか。長さrの縦の 線が垂直に近づいていくのはよいが,横の線はかまぼこ型 をつないでいったもので,これが直線になって長さがちょ うど πrに一致するだろうか。円を 8等分してできる扇 形を図3.5のように並べ替えたものが次の図3.6である。  上下にできるかまぼこ形が半円周 でありその長さはπ, 内接正8角形 の各辺の和は 2本の線分の和 0と なり,外接正8角形の各辺の和1も そうなる。 0 1 図3.6 1/2 0/2 0/2 1/2 1では上下にできる大変小さな6個の二等辺三角形の 底辺の部分だけ重複して並んでいる。 この細分を続けると 0 2 と 1 2 は長さが一致してπr と なり,面積は(3.3)で求められる。この節で考えたことは 図3.5や図3.6の正しさを確かめたことになる。 4. アリスタルコスの定理 定理 2.1に関係した事実は大変古くから研究されてい た。その原型として数学史上で重要と思われるサモスの アリスタルコス(前310–230年)による定理を考えよう。 この定理は定理 2.1と系 2.2の収束の仕方を逐次的に導 いている。また,次の第5, 6節でも巧みに利用される。 今まで三角関数を使って来たが,それらが古代ギリシャ にあったわけではない。あったのは三角比を表すchord(x) とよばれるもので, 半径1の円の中心角xが張るの弦の 長さを意味していた。 図4.1 chord(x) x 1 現代の正弦関数と比べると次のようになる。 ⎧ ⎨ ⎩ chord(x) = 2 sinx 2 chord(2x) = 2 sin x 一方で, cos x, tan xに対応した記号ががなかったことは 不便だったろうと思われる。

(5)

図3.2(2)で見る限り 0 < AB < AB



< s1 だから, 0 < sinx 2 < x 2 < tan x 2 となって(2.8)が導かれそうであ る。見た目だけでなく理論的に考えてみよう。 図3.2 (図 3.1 の拡大図) A1 M s1 s0 M s0 (1) (2) s1 B1 B A O O B B1 A 180 n 180 n  補助定理 3.1. 半径 1の円に弧AB をとり, その中心 角をx > 0とする。n = 1, 2,· · · について an= 2nsin x 2n, bn= 2 ntan x 2n と定義すると次が成り立つ。 (1) an は弧 ABを 2n−1等分してできる2n−1個の弦 の長さの総和を表し 0 < an< an+1, lim n→∞an= AB



(2) bn は点 A, B での接線および弧ABを 2n−1等分 してできる2n−1− 1個の分点における接線をつないでで きる折れ線の長さを表し bn> bn+1> 0, lim n→∞bn= AB



証明 xn= x 2n とおく。2xnxを2 n−1等分した中 心角になる。中心角2xnの扇形の弦の長さは2 sin xnで あり,それに弦の個数をかけたan= 2nsin xnは,小さな 扇形が作る弦の長さの総和となる。 (i) 2倍角の公式を使って 0 < sin x = 2 sinx 2cos x 2 < 2 sin x 2 = 2 sin x1 となる。これを続けていくと 0 < an= 2nsin xn< 2n+1sin xn 2 = an+1 を得る。 次の図3.3はn = 1, 2のときを描いたものである。a1= AB, a2= AM1+ M1B となる。a3 は AM2, M2M1, M1M2, M2Bの和となる。これよりanは 点Aから点B までを2n−1等分した分点M n−1 をつなぎ合わせた折れ 線の長さを表すことになる。 図3.3 sinx 2 x/4 sin x A B H1 O sinx 4 H0 M1(= M2) M2 M2 (ii) 0 < tanxn 2 < 1となるので2倍角の公式を使って bn= 2ntan xn= 2n 2 tanxn 2 1 − tan2 xn 2 > 2n+1tan xn+1= bn+1> 0 が導かれる。 次の図3.4はn = 1, 2のときを描いたものである。図 3.3のOA, OM1, OM2の延長と点Bでの接線との交点を それぞれT, P1, P2とする。これよりtan x = BT, b1= AP1+ P1B である。点A,点B とその隣りの点 M1で の接線の交点をQ2とすると, b2は点A, Q2, M1, Q2(= P2), Bを結ぶ折れ線の長さとなる。これよりbnは点A, 点Bでの接線および2n−1等分してできる分点M n−1に おける接線をつなぎ合わせてできる折れ線の長さを表す。 図3.4 T 4 tanx 4 P2= Q2 P1 P2 M1 B O A Q2 (iii) 以下では xを弧度法で表しておくと, (2.4)より AB



= xである。 an は弧AB上の分点を結んだ折れ線の 長さだから, an< xとなる。an< an+1 より lim n→∞an= x0<= xとおく。同様に lim n→∞bn= x1> 0とおく。 扇形OABの面積をS,半径OA, OBとan, bnで示さ れる折れ線の作る多角形の面積をそれぞれS0(n), S1(n) とおくとS0(n) < S < S1(n)かつ S0(n) = 12ancos x 2n, S1(n) = 1 2bn となる。よってS0= lim n→∞S0(n), S1= limn→∞S1(n)とお くと S0= 1 2x0, S1= 1 2x1 (3.2) となる。一方bn= an  1 cos xn  だから S1− S0= 1 2  lim n→∞an  1 cos xn − cos xn  = 0 が成り立つ。よってS0 = S = S1かつx0= x1が成り 立つ。 いまx0< xと仮定すると x1 < xとなり, (3.2)より S1 < S となって S0 = S = S1に矛盾する。以上より x0= x1= xが成り立つ。 [注意3.1]系2.2と補助定理3.1はよく似ているが異な る。その違いについて2つ程注意したい。 (1)系 2.2では与えられた扇形の弧をn等分してでき る弦の長さを考えたが,補助定理3.1では2n−1等分する ことを考えた。2n−1等分しておくとa n < an+1の関係 がすぐに導かれて大変有用である。系 2.2で同じことを 言うには後の系4.2(2)まで待たなければならない。 (2)定理2.1の証明では(2.8)を導くために,円の周の長 さと面積の公式である (2.5)つまり(2.1)と(2.6)を使っ た。しかし補助定理 3.1の証明ではそれらを使わずに系 2.2とほぼ同等のことを導いている。(実際,証明(iii)で は扇形の面積Sを三角形による区分求積法で求めている。 また, 証明(i)では長くなることをいとわなければ,弧の 長さxを一松[8]のように厳密に求めることも出来る。) したがって逆に,補助定理3.1から円の周の長さや面積 の公式を導くことも出来る。そのことを次の2つの系で 述べておく。  系 3.2. 定理2.1と系2.2は(2.5)や(2.6)に無関係に 成立する。 証明 補助定理3.1により(2.8)が成り立つことが次の ように示される。 sin x < 2 sinx 2 < AB



= x < 2 tan x 2 < tan x したがって,注意2.1(2)で述べたように(2.5)や(2.6)を 使わなくても定理と系は示される。  系3.3. 半径rの円の周の長さを�,面積をSとすると � = 2πr, S = πr2 (3.3) が成り立つ。 証明 2点A, Bを円周上の同一の点にとり� = AB



と おく。∠AOB= x = 360◦= 2πとして,半径rの円で考 える。 cn= 2nr sin x 2n, dn= 2 nr tan x 2n と定義すると補助定理3.1より � = lim n→∞cn= limn→∞dn= AB



= 2πr が成り立つ。{cn}, {dn}は円周の長さを多角形の周の 長さで測った値であり,左辺の2πrは弧度法と半径の比 によって得られたものである。 また, (3.2)は半径rの円でS0= 1 2r� を示している。 S0= Sにより(3.3)が示される。 系 3.3は円の面積を 2n−1等分した三角形の面積の総 和で近似している。そのことは小学校のときに習った次 の図3.5を思い出させる。 r r r πr 図3.5 (細分を続けると,円の面積は縦がr横 がπrの長さの長方形の面積に近づく。) しかし,本当に長方形になるだろうか。長さ rの縦の 線が垂直に近づいていくのはよいが,横の線はかまぼこ型 をつないでいったもので,これが直線になって長さがちょ うど πrに一致するだろうか。円を 8等分してできる扇 形を図3.5のように並べ替えたものが次の図3.6である。  上下にできるかまぼこ形が半円周 でありその長さはπ,内接正 8角形 の各辺の和は2本の線分の和 0と なり,外接正8角形の各辺の和1も そうなる。 0 1 図3.6 1/2 0/2 0/2 1/2 1では上下にできる大変小さな6個の二等辺三角形の 底辺の部分だけ重複して並んでいる。 この細分を続けると 0 2 と 1 2 は長さが一致してπr と なり,面積は(3.3)で求められる。この節で考えたことは 図3.5や図3.6の正しさを確かめたことになる。 4. アリスタルコスの定理 定理 2.1に関係した事実は大変古くから研究されてい た。その原型として数学史上で重要と思われるサモスの アリスタルコス(前310–230年)による定理を考えよう。 この定理は定理 2.1と系 2.2の収束の仕方を逐次的に導 いている。また,次の第5, 6節でも巧みに利用される。 今まで三角関数を使って来たが,それらが古代ギリシャ にあったわけではない。あったのは三角比を表すchord(x) とよばれるもので,半径1の円の中心角xが張るの弦の 長さを意味していた。 図4.1 chord(x) x 1 現代の正弦関数と比べると次のようになる。 ⎧ ⎨ ⎩ chord(x) = 2 sinx 2 chord(2x) = 2 sin x 一方で, cos x, tan xに対応した記号ががなかったことは 不便だったろうと思われる。

(6)

Boyer[1]によれば, アリスタルコスの証明は現在に伝 わっていない。次の証明は著者が付け加えたものである。 今まで通り三角関数を使う。  定理4.1. 中心をOとする半径1の円の円周上に3点 A, B, Cを順にとり,弧AB, 弧BCの張る中心角をそれ ぞれx, y とする。0◦< x < y < 90◦となるとき 1 < sin y sin x < y x = BC



AB



< tan y tan x (4.1) が成り立つ。( (4.1)の y x は比だから度数法でも弧度法 でもかまわない。) 証明(i) 0 < x < y < 90◦ より0 < cos(y/2) cos(x/2) < 1とな ることに注意して2倍角の公式を使うと, 次の不等式を 得る。 sin y sin x= 2 siny 2cos y 2 2 sinx 2cosx2 < 2 sin y 2 2 sinx 2 これをくり返すとn = 1, 2,· · · について sin y sin x < 2 siny 2 2 sinx 2 < 2 nsin y 2n 2nsin x 2n (4.2) が成り立つ。 (4.2)でn→ ∞ にとり分子分母に補助定理3.1(1)を 適用すると sin y sin x < limn→∞ 2nsin y 2n 2nsin x 2n = BC



AB



= y x が成り立つ。 (ii) 0 < x < y < 90◦ より0 < tanx 2 < tan y 2 < 1と なるので 1 − tan2 x 2 1 − tan2 y 2 > 1 が成り立つ。これより2倍角の公式を使って次の不等式 を得る。 tan y tan x= 2 tany 2(1 − tan 2 x 2) 2 tanx 2(1 − tan 2 y 2) > 2 tan y 2 2 tanx 2 (4.3) (4.3)をn回くり返し使って次の不等式を得る。 tan y tan x> 2 tany 2 2 tanx 2 > 2 ntan y 2n 2ntan x 2n (4.4) (4.4)でn→ ∞ にとり分子分母に補助定理3.1(2)を 適用すると tan y tan x> 2 tany 2 2 tanx 2 > lim n→∞ 2ntan y 2n 2ntan x 2n = BC



AB



が成り立つ。以上により定理が示された。  系 4.2. (1) 0< x < y < π 2 = 90 とし, x, yを弧度 法で表すと次の不等式が成り立つ。 sin x x > sin y y , tan x x < tan y y (2) xn= x n とおくと次の不等式が成り立つ。 n sin xn< (n + 1) sin xn+1, n tan xn> (n + 1) tan xn+1 証明(1) (4.1)の左辺に sin x y > 0をかけると最初の不 等式が得られる。(4.1)の右辺に tan x y > 0をかけると第 2の不等式が得られる。 (2) xn+1< xn だから(2.12)の変形と(1)の結果を使 うと n sin xn= x  sinxn xn  < x sinxn+1 xn+1  = (n + 1) sin xn+1 が得られる。同様にしてn tan xnに関する不等式も得ら れる。 系4.2は系2.2で収束が単調となることを示している。 そのことは次の第5, 6節の理論で役立つ。 5. アルキメデスの円周率 シラクサのアルキメデス(前287–212)の方法によって 円周率の値を求める。定理 2.1の言い換えである系 2.2 が理論的に効いていることに注意してほしい。 第3節の記号を使って半径1の円を考えよう。図2.3の 弧ABは図3.1の弧AMとして描かれている。したがっ て(2.10)を2倍に延長した式は図3.1の記号を使うと AB < AB



< A1B1 (5.1) と表される。この式をn倍すると 0< � = 2π < �1 (5.2) が導かれる。つまり円周の長さは,その円に内接する正n 角形の周の長さよりも大きく外接する正n角形の周の長 さよりも小さい。 s0 = AB, s1 = A1B1 だから (5.1)と (3.1)を使って (5.2)を書き直すと n sin 180 n  < π < n tan 180 n  (5.3) が導かれる。計算に便利なように書き直すと n 2s0< π < n 2s1 (5.4) となる。 (2.11)においてx = 360◦(= 2π)とおくと, nが大きく なれば(5.3)の両側の項は π に近づいていくことが, 系 2.2によって保証される。その近づき方は, nの値を1つ 増すごとに改善されていくことが系4.2(2)によって解る。 アルキメデスは円に内接および外接する正6, 12, 34, 48, 96角形を使って円周率π の近似を得た。n = 6· 2m−1, m = 1, 2, 3,· · · とおいて (5.3)を計算したことになる。 もちろん,その時代には三角関数はなかったから,彼は独 自の工夫を施した。次の定理はその方法を示している。  定理5.1. 中心をOとする半径1の円周上に2点A, Bをとる。∠AOB < 180◦ となる側に弧AB の中点を とってMとする。点Mでの接線がOAおよびOBの延 長と交わる点をそれぞれA1, B1とする。点AからOB に下ろした垂線をHとする。 このときAH = aとおくと AB =�2(1 −1 − a2), (5.5) A1B1= 2 a(1 −1 − a2) (5.6) が成り立つ。(図5.1参照。点Cは定理5.2で考える。) A1 A M B1 B H O C a x x 1 図5.1 証明 AH = aよりピタゴラスの定理を使って OH =�1 − a2 を得る。よって BH = 1 −1 − a2 となる。再びピタゴラスの定理より AB = � AH2+ BH2 =�a2+ (1 −1 − a2)2 となり,これを計算して(5.5)が導かれる。 また A1B1 は点 Mでの接線だから OM に垂直であ

り, ∠A1MO =∠R = ∠AHBとなる。さらに ∠OA1M

= ∠OAB = ∠ABH となり, 2角が等しいので �ABH

�OA1Mは相似となる。よって A1M : OM = BH : AH である。 OM = 1, BH = 1−√1 − a2, AH = aを代 入して A1M = 1 a(1 −1 − a2)を得る。A 1B1= 2A1M より(5.6)が示された。 別証 ∠AOB = xとおくと ⎧ ⎪ ⎪ ⎪ ⎨ ⎪ ⎪ ⎪ ⎩ AH = sin x AB = 2 sinx 2 A1B1= 2 tan x 2 (5.7) となることは明らかである。 AH = aにピタゴラスの定理と三角関数の2倍角の公 式を適用すると OH =�1 − a2= cos x = 1 − 2 sin2x 2 よって(5.7)より 1 2AB 2 = 2 sin2x 2 = � 1 −1 − a2� (5.8) となり(5.5)を得る。再びピタゴラスの定理により 2 cos2x 2 = � 1 +�1 − a2� (5.9) を得る。(5.8), (5.9)を使ってtan2x 2 を計算すると, (5.7) より A1B1 2 = 4 tan2x 2 = 4 a2 � 1 −1 − a2�2 となって(5.6)が導かれる。  定理 5.2. 中心をOとする半径 1の円に内接および 外接する正n角形と正2n角形を考える。内接正n角形 の一辺の長さを2aとすると, 内接および外接する正 2n 角形の一辺の長さはそれぞれ (5.5), (5.6)で与えられる。 証明 定理 5.1の弧ABを2倍に延長して点Aの対称 点を Cとする。図 5.1で内接正 n角形の一辺の長さを AC = 2aと考えると, 内接および外接正2n角形の一辺 の長さはABおよびA1B1となる。 アルキメデスに習いn = 6· 2m−1, m = 1, 2, · · · とお いて πの値を少しだけ計算する。定理 5.2により,半径 1の円に内接する正n角形の一辺の長さを2aとおけば, 次々に求められる。 n = 6のとき 半径1の円に内接する正6角形の一辺の長さは1だか らAB = 1である。また∠AOB = 60だからa = AH = 3 2 である。この値を(5.6)に代入すると A1B1= 4 3 � 1 −1 −34 � = 2 3 となる。これより(5.4)の両端の値は3AB = 3, 3A1B1= 23となり, 3 < π < 2√3 = 3.464を得る。 n = 12のとき n = 6のときのAB = 1が図5.1のAC = 2aになる。 よってa =12 となる。この値を(5.5), (5.6)に代入すると AB = � � � �2 � 1 −1 −14 � =�2 −√3, A1B1= 4 � 1 −1 −14= 2(2 −√3) となる。これらを電卓で計算するとAB =0.517638, A1B1 = 0.5358982を得る。よって(5.4)の両端の値は6AB = 3.105828, 6AB = 3.2153904 となり3.105828 < π < 3.2153904を得る。 n = 24のとき n = 12 のときの AB = �2 −√3 が図 5.1の AC = 2aになるので, a =1 2 � 2 −√3である。以下の計算は省 略する。この場合は3.1326252 < π < 3.1596576となる。

(7)

Boyer[1]によれば, アリスタルコスの証明は現在に伝 わっていない。次の証明は著者が付け加えたものである。 今まで通り三角関数を使う。  定理4.1. 中心をOとする半径1の円の円周上に3点 A, B, Cを順にとり,弧AB,弧BCの張る中心角をそれ ぞれx, y とする。0◦< x < y < 90◦となるとき 1 < sin y sin x < y x = BC



AB



< tan y tan x (4.1) が成り立つ。( (4.1)の y x は比だから度数法でも弧度法 でもかまわない。) 証明(i) 0 < x < y < 90◦ より0 < cos(y/2) cos(x/2) < 1とな ることに注意して2倍角の公式を使うと, 次の不等式を 得る。 sin y sin x= 2 siny 2cos y 2 2 sinx 2cosx2 < 2 sin y 2 2 sinx 2 これをくり返すとn = 1, 2,· · · について sin y sin x < 2 siny 2 2 sinx 2 < 2 nsin y 2n 2nsin x 2n (4.2) が成り立つ。 (4.2)でn→ ∞ にとり分子分母に補助定理3.1(1)を 適用すると sin y sin x < limn→∞ 2nsin y 2n 2nsin x 2n = BC



AB



= y x が成り立つ。 (ii) 0 < x < y < 90◦ より0 < tanx 2 < tan y 2 < 1と なるので 1 − tan2 x 2 1 − tan2 y 2 > 1 が成り立つ。これより2倍角の公式を使って次の不等式 を得る。 tan y tan x= 2 tany 2(1 − tan 2 x 2) 2 tanx 2(1 − tan 2 y 2) > 2 tan y 2 2 tanx 2 (4.3) (4.3)をn回くり返し使って次の不等式を得る。 tan y tan x> 2 tany 2 2 tanx 2 > 2 ntan y 2n 2ntan x 2n (4.4) (4.4)でn→ ∞ にとり分子分母に補助定理3.1(2)を 適用すると tan y tan x> 2 tany 2 2 tanx 2 > lim n→∞ 2ntan y 2n 2ntan x 2n = BC



AB



が成り立つ。以上により定理が示された。  系 4.2. (1) 0< x < y < π 2 = 90 とし, x, yを弧度 法で表すと次の不等式が成り立つ。 sin x x > sin y y , tan x x < tan y y (2) xn= x n とおくと次の不等式が成り立つ。 n sin xn< (n + 1) sin xn+1, n tan xn> (n + 1) tan xn+1 証明(1) (4.1)の左辺に sin x y > 0をかけると最初の不 等式が得られる。(4.1)の右辺に tan x y > 0をかけると第 2の不等式が得られる。 (2) xn+1< xn だから(2.12)の変形と(1)の結果を使 うと n sin xn= x  sinxn xn  < x sinxn+1 xn+1  = (n + 1) sin xn+1 が得られる。同様にしてn tan xnに関する不等式も得ら れる。 系4.2は系2.2で収束が単調となることを示している。 そのことは次の第5, 6節の理論で役立つ。 5. アルキメデスの円周率 シラクサのアルキメデス(前287–212)の方法によって 円周率の値を求める。定理2.1の言い換えである系 2.2 が理論的に効いていることに注意してほしい。 第3節の記号を使って半径1の円を考えよう。図2.3の 弧ABは図3.1の弧AMとして描かれている。したがっ て(2.10)を2倍に延長した式は図3.1の記号を使うと AB < AB



< A1B1 (5.1) と表される。この式をn倍すると 0< � = 2π < �1 (5.2) が導かれる。つまり円周の長さは,その円に内接する正n 角形の周の長さよりも大きく外接する正n角形の周の長 さよりも小さい。 s0 = AB, s1 = A1B1 だから (5.1)と (3.1)を使って (5.2)を書き直すと n sin 180 n  < π < n tan 180 n  (5.3) が導かれる。計算に便利なように書き直すと n 2s0< π < n 2s1 (5.4) となる。 (2.11)においてx = 360◦(= 2π)とおくと, nが大きく なれば(5.3)の両側の項は π に近づいていくことが, 系 2.2によって保証される。その近づき方は, nの値を1つ 増すごとに改善されていくことが系4.2(2)によって解る。 アルキメデスは円に内接および外接する正6, 12, 34, 48, 96角形を使って円周率π の近似を得た。n = 6· 2m−1, m = 1, 2, 3,· · · とおいて (5.3)を計算したことになる。 もちろん,その時代には三角関数はなかったから,彼は独 自の工夫を施した。次の定理はその方法を示している。  定理5.1. 中心をOとする半径1の円周上に2点A, Bをとる。∠AOB < 180◦ となる側に弧AB の中点を とってMとする。点Mでの接線がOAおよびOBの延 長と交わる点をそれぞれA1, B1 とする。点AからOB に下ろした垂線をHとする。 このときAH = aとおくと AB =�2(1 −1 − a2), (5.5) A1B1= 2 a(1 −1 − a2) (5.6) が成り立つ。(図5.1参照。点Cは定理5.2で考える。) A1 A M B1 B H O C a x x 1 図5.1 証明 AH = aよりピタゴラスの定理を使って OH =�1 − a2 を得る。よって BH = 1 −1 − a2 となる。再びピタゴラスの定理より AB = � AH2+ BH2 =�a2+ (1 −1 − a2)2 となり,これを計算して(5.5)が導かれる。 また A1B1 は点 Mでの接線だから OM に垂直であ

り, ∠A1MO =∠R = ∠AHBとなる。さらに ∠OA1M

= ∠OAB = ∠ABH となり, 2角が等しいので �ABH

�OA1Mは相似となる。よって A1M : OM = BH : AH である。 OM = 1, BH = 1− √1 − a2, AH = aを代 入して A1M = 1 a(1 −1 − a2)を得る。A 1B1= 2A1M より(5.6)が示された。 別証 ∠AOB = xとおくと ⎧ ⎪ ⎪ ⎪ ⎨ ⎪ ⎪ ⎪ ⎩ AH = sin x AB = 2 sinx 2 A1B1= 2 tan x 2 (5.7) となることは明らかである。 AH = aにピタゴラスの定理と三角関数の2倍角の公 式を適用すると OH =�1 − a2= cos x = 1 − 2 sin2x 2 よって(5.7)より 1 2AB 2 = 2 sin2x 2 = � 1 −1 − a2� (5.8) となり(5.5)を得る。再びピタゴラスの定理により 2 cos2x 2 = � 1 +�1 − a2� (5.9) を得る。(5.8), (5.9)を使ってtan2x 2 を計算すると, (5.7) より A1B1 2 = 4 tan2x 2 = 4 a2 � 1 −1 − a2�2 となって(5.6)が導かれる。  定理 5.2. 中心をOとする半径 1の円に内接および 外接する正n角形と正2n角形を考える。内接正n角形 の一辺の長さを2aとすると, 内接および外接する正 2n 角形の一辺の長さはそれぞれ(5.5), (5.6)で与えられる。 証明 定理 5.1の弧ABを2倍に延長して点Aの対称 点をCとする。図 5.1で内接正 n角形の一辺の長さを AC = 2aと考えると, 内接および外接正2n角形の一辺 の長さはABおよびA1B1となる。 アルキメデスに習いn = 6· 2m−1, m = 1, 2, · · · とお いてπの値を少しだけ計算する。定理 5.2により, 半径 1の円に内接する正n角形の一辺の長さを2aとおけば, 次々に求められる。 n = 6 のとき 半径1の円に内接する正6角形の一辺の長さは1だか らAB = 1である。また∠AOB = 60だからa = AH = 3 2 である。この値を(5.6)に代入すると A1B1= 4 3 � 1 −1 −34 � = 2 3 となる。これより(5.4)の両端の値は3AB = 3, 3A1B1= 23となり, 3 < π < 2√3 = 3.464を得る。 n = 12のとき n = 6のときのAB = 1が図5.1のAC = 2aになる。 よってa = 12となる。この値を(5.5), (5.6)に代入すると AB = � � � �2 � 1 −1 −14 � =�2 −√3, A1B1= 4 � 1 −1 −14= 2(2 −√3) となる。これらを電卓で計算するとAB =0.517638, A1B1 = 0.5358982を得る。よって(5.4)の両端の値は6AB = 3.105828, 6AB = 3.2153904 となり3.105828 < π < 3.2153904を得る。 n = 24のとき n = 12 のときの AB =�2 −√3 が図 5.1の AC = 2aになるので, a = 1 2 � 2 −√3である。以下の計算は省 略する。この場合は3.1326252 < π < 3.1596576となる。

(8)

さらにn = 48, 96角形の場合も計算して,アルキメデ スは 3.140845 = 310 71 < π < 3 1 7 = 3.14285871 (5.10) となることを発見した。πの値を2つの近似値ではさん だ(5.10)は心配りが効いている。しかし,その計算は大 変骨が折れる。 6. プトレマイオスの正弦表 アレクサンドリアのプトレマイオス( Ptolemaios 後 100頃−178頃)は三角関数の加法定理を導いた。(それ で欧米ではこの公式をトレミーの公式とよぶようだ。) それを使って chord(x)の表(今日に言う正弦表)を作成 した。 彼の目的はその表を使って天体運動の解析を行うこと と世界地図を作成することにあった。天体運動や世界地 図での位置と距離を知るためには球面上の点を表す方法 が不可欠である。そのためにはchord(x)の値を正確に計 算する必要があった。その部分をKatz[3]にしたがって 見ていこう。

彼の表はchord(0)からchord(180)までをchord�1 2 � 刻みで作られた。これは正弦関数を 0 から90 までを1 4 �= 0.25 刻みで計算したことに相当する。 プトレマイオスがアルキメデスと同様に正6角形の辺 の長さから始めて2倍角の公式を使ったとすれば,次の角 度の正弦値を得たはずである。 60, 30, 15, 7.5, 3, 75, 1.875, 0.9375◦, 0.46875, 0.234375 (6.1) しかし, 一方でギリシャ数学は黄金比と正 5角形をよ く研究していた。詳しい説明は省略するが,図6.1のよう に半径1の円に内接する正5角形を描くと頂角が36 二等辺三角形がたくさん出来る。これより ⎧ ⎪ ⎨ ⎪ ⎩ sin 36= BH = 1 4 � 10 − 2√5 cos 36= OH =1 4 � 1 +5 となる。 図6.1 A E D C O M H M’ M O A B B 正6角形については sin 30= 1 2, cos 30= 3 2 だから加法定理により sin 6 = sin(36− 30) = 1 4 � 10 − 2√5 · 3 2 − 1 4 � 1 +√5 ·12 = 1 8 �� 30 − 6√5 −√5 − 1= 0.10453 が導かれる。 これより2倍角の公式を使って次の角度の正弦値が得 られる。 6, 3, 1.5, 0.75, 0.375, 0.1875 (6.2) (6.1)の代わりに (6.2)を計算したことは, 加法定理のお かげでかなり楽をしたことになる。

しかし, sin 0.5◦ sin 0.25 は求められない。(sin 3 の値からsin 3x = 3 sin x − 4 sin3xを使ってsin 1 が求

まると思うかも知れないが,一般の3次方程式は16世紀 まで解けなかったし,計算も面倒である。)そこで彼は第 4節の定理4.1(アリスタルコスの定理)を使った。 例えばx = 0.1875◦, y = 0.25 とするとき sin 0.1875◦= 0.00327249 sin 0.375◦= 0.00654494 が求められたとする。(4.1)より sin 0.25◦< 0.25◦ 0.1875◦sin 0.1875◦ =1.3333333×0.00327249 =0.00436332 となる。x = 0.25◦, y = 0.375◦ とすると再び(4.1)より sin 0.25◦> 0.25◦ 0.375◦sin 0.375◦ = 0.666667×0.00654494=0.004363292 となるので,これらの結果からsin 0.25◦= 0.004363とで きる。 あとは三角関数の加法定理などを使って,プトレマイオ スは小数点以下5桁までのchord表を作成した。 ところで,円に内接する正720角形を考え, (5.3)でn = 720 とおくと, sin 0.25◦ の値から円周率が次のように近 似される。 π = 720× 0.004363 = 3.141568 実際にプトレマイオスが得た値は π = 377 120= 3.1416 であり, (5.10)よりも詳細である。 7. まとめ (1)等式 lim x→0 sin x x = 1を学ぶ意義 この等式は「同じ中心角をもつ弧と弦の長さの比は,中 心角が 0に近づけば1になる。」ことを示している。そ のことは「円に内接(あるいは外接)する正n角形の周の 長さは, nが大きくなれば円周の長さに近づく。」ことを 意味する。アルキメデスは,円に内接する正 n角形の一 辺の長さから内接および外接する正 2n角形の一辺の長 さを求めることによって,円周率を反復して計算する方法 を発見した。 時を経て,それは様々な機械を生み出し,球技のボール となり,人工衛星を回収する道具となって,私たちの生活 の中にある。 小学校の算数で私たちは,円と正n角形との関係から 円の面積や円周率について学ぶ。中学校では,記号 πと 円柱や円錐の体積や表面積を学ぶ。その間,興味や関心を 引くためにアルキメデスの絵や3.141592· · ·の数字,和算 の円周率などが紹介されている。その段階までは図 3.5 や図3.6のような,直感力を頼りに指導上の工夫を重ねる 以外にない。 高校で三角関数を学ぶと, 円の解析ができるようにな る。しかし,三角関数の便利さや重要さはなかなか伝えら れない。生徒たちに「急にたくさんの公式が出て来てわ ずらわしい」と受け止められる心配がある。三角関数の 応用については十分に理解されないままに終わる懸念が 残る。 授業時数などの関係から事情はある程度分かるのであ るが,もっと生活との結びつきや学ぶことの意義が感じら れる数学の授業展開ができないかと思う。そして,この等 式の周辺には,そのような面白さを伝えられる教材が豊富 にあると考える。 例えば,この等式やアリスタルコスの定理は,直感的に 知っていた事実を三角関数を使って厳密に示していて,生 徒の数学観を深化させ学習した意義を感じさせると思わ れる。アルキメデスの円周率の値を求めるアルゴリズム は,ユークリッド幾何や三角関数と生活との結びつきを感 じさせてくれる。 円や球に関する公式の証明や補助定理 3.1や定理 5.1 で扱った帰納的方法などは,数学的に工夫された見方とし て面白い内容となる。区分求積法は発想を豊かにしてく れるし,数学史に関する話はその内容への理解を豊かにし てくれる。 また,数学の応用について,三角関数が天文学や地図の 作成,航海術などに使われることは,数学が生活に役立つ ことを具体的に伝えている。 (2) 3人のギリシャ数学者について アリスタルコスには円と弦に関する様々な研究がある ようである。[1]によれば,彼はこの定理を使って地球か ら見た太陽と月までの距離の比を求めた。彼の理論は正 しかったが,観測値に誤りがあったと伝えられている。 アルキメデスの円周率を求めるアルゴリズムは, Beck-mann[2]によって微積分による方法が発見されるまで約 1800年間使われた名品と言われている。また彼は, 区分 求積法を使って曲面の面積や立体の体積を求めた。古典 力学を使った様々な機械を作成したとも伝えられる。彼 の業績は数学史の中でも際立っている。(伊達[6], 林,齋 藤[7]参照。) プトレマイオスのchordを使った加法定理は貴重であ る。天文学と世界地図の方は,中世の世界観とそれ以後の 世界史に大きな影響を与えたようである。そういった話 も数学と人間の歴史が接点をもつ例として大変面白い。( [1]や[3]参照。) 古代ギリシャの数学者達はそれぞれに研究に個性が感 じられ,今日の意味での数学の世界だけに留まっていない 面白さがある。 一つだけ断っておきたいことは,この小論に出てきた数 学的発見についてはその発見者に諸説があることである。 この小論では一応[1]を参照したが,そのような事情には 配慮できていない。 (3)三角関数から見た数学史 古代から人間はものを数え量を測って生活してきた。 社会を形成し国家にまでなると, 土地を測量し地図を作 ることや天体を観察してこよみ暦 を作り時間を測る必要に迫ら れた。 ユークリッドの幾何学が生まれ,やがて三角法と三角関 数が盛んに研究されるようになる。三角関数は図形の性 質を数値に直して扱うから,様々なタイプの図形研究に適 応できたと考えられる。おそらく実用上最も重宝された 数学的方法であったであろう。数学史上では,三角関数は 曲線を表す関数の代表例としてあるいは運動力学の道具 として研究され,一般的な関数概念の形成や微分・積分の 発展に貢献した。 微分・積分と三角関数の結びつきは大変強い。内容の 半分は三角関数に関係すると思われるほどである。 その中でも,逆三角関数のテイラー展開から円周率を求 める方法は,よく研究されていてアルキメデスの方法に比 べても画期的である。また,円周率が無理数であることも 示される。微分・積分はそのような結果を一部にもつ広 範な理論であることが理解される。 数学史としては,円周率が超越数となることは,古代ギ リシャ以来の「三大作図問題」との関連で面白い。また, 金田[4]によるコンピュータによる円周率計算の話や齋藤 [5]によるアルキメデスの文献の復活なども興味深い。 ユークリッドの幾何学や解析幾何学と微分・積分をつ なぐ数学として,三角関数は数学史の中で重要な位置にあ ると思われる。 とくにこの等式は正弦関数の微分(sin x)= cos xの証 明に使われていて,微分への橋渡しの位置にある。その意 味でも古典的な数学を整理し,新たな数学への発展を促す

図 3.2(2) で見る限り 0 &lt; AB &lt; AB  &lt; s 1 だから , 0 &lt; sin x 2 &lt; x2 &lt; tan x2 となって (2.8) が導かれそうであ る。見た目だけでなく理論的に考えてみよう。 図 3.2 (図 3.1 の拡大図) A 1 M s 1 s 0 M s 0(1)(2) s 1B1 BA O O BB1A180◦180◦nn  補助定理 3.1

参照

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