東南 ア ジア研 究 34巻 1号 1996年6月
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hMATSUMOTO*Amongallthevariousdramaticformsofwayang,includingwayangkulit,theearliestto appearwaswayangbeber.Wayangrefersto'ttheshadowsthatswayinmen'shearts,"while bebermeans"unrolling."A dalang (narrator) gradually unrollsalong scrollbearing picturesofthenarrativeheisexpounding.Thisisaccompaniedbyacontinuousperfor m-anceofgamelanmusic,interspersedwiththesongsofpesinden (femalesingers).This form wascreatedinthecourtoftheKedirikingdom (928-1222)inEastJavaandenjoyed ahighreputation;butgraduallyitfellfrom favorandwasreplacedbywayangkulit,which emergedfrom aroundthefifteenthcentury.Todaywayangbeberisperformedinonlytwo places,PacitaninEastJava,andWonosariinCentralJava.Inthispaper,Ishallpresenta fullpictureofwayangbeber,focusingonthefulltranslationofthedalang'snarrative(from theperformanceofPanjiAsmorobangun),andnoteitscorrelationswithotherformsof wayangaswellastouchuponthetrueessenceofwayangitself.
は
じ め
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ヮヤ ン ・ベベル は ワヤ ン ・クーリ (影絵芝居) を は じめ数 あ るワヤ ンの うち最 も古 く登場 した ワヤ ンの上演様式 であ る。 ワヤ ンは人間 の こころにゆれ る影, ベベル は繰 りのべ るの意 で,横 長 の紙 に描 かれた絵巻 を くり拡 げなが ら,ダラ ン (語 り手)がその絵物語 を説 き明か して い く。 ガムラ ン楽 曲 の伴奏 が たえずっづ き, ブ シ ンデ ン (女性歌手) の歌声 が ま じる。 語学者 によれば,ワヤ ン ・ベベル ・プル ウォは12世紀 ごろ紙 に墨一色 で措 かれて登場 し,14 世紀 ごろ彩色,ワヤ ン ・ベベル ・ゲ ドクが 16世紀 ごろ作 られ た とされ る。プル ウォは ラーマー ヤナ とマ- -バ ー ラタの物語 を素材 とす る もの, またゲ ドクは ジャワで生 れ た物語 パ ンジ, ダ マル ウラ ンな どか ら材 を採 った ものであ る。 しか し今 日ワヤ ン ・ベベル と して知 られ る もの は ほ とん どパ ンジ物語 に由来 し,上演 されて い るの はわずか に,東部 ジャワのパ チ タ ン県 と中部 ジ ャワの ウォノサ リ県 にあ る二 つだ けであ る。松本 :WayangBeber- 中部 ジャワ・Wonosari地方のワヤン・ベベルを中心に 写真1 ウォノサ リのワヤ ン・ベベル上演風景。 冒頭 〔1〕の部分。パチタンのワヤン・ベベル上演 は, これとはちがってダランが絵巻の後方に回 り,ガムラン奏者たちを背にして,絵巻の裏 側で語 る。 (306ページの写真参照)
その盛衰の諸状況
古代 イ ン ドの叙事 詩 ラーマ ーヤ ナ とマ- -バ ー ラ タは10世紀 末 にいた って,東部 ジ ャワ ・ クデ ィ リ王国 の王 ダルマ ヴ ァンシ ャ (在位991-1007年) が即位 す るや, その宮廷詩 人 たちに よ って盛 ん に翻案 ・抄訳 され ることにな る。1045年 に は 『アル ジュノの饗宴』,1157年 に は 『バ ラタユ ダの書』 な どの中世 ジ ャワ文学 を代表 す る長篇叙事詩 が登場す る。 これ らは ロ ンタル郁 子 の葉 に文字 と して, また絵 物語 と して措 かれた。 こ うした風潮 の うちに, やがて ロ ンタル梯 子 の葉 よ りは るか に大 きな面 積 を もつ紙 に描 かれて, ワヤ ン ・ベベルが誕生 す る。 国名 こそ変 わ るが, その一族 が継承 した クデ ィ リ (928-1222年), シ ンゴサ リ (1222-94 年),さ らに版 図 を広 めたモ ジ ョバ イ ト王国 (1294-1478年)はいず れ もヒン ドゥー教,仏教 を 奉 じ, ワヤ ン ・ベベル もまた ヒン ドゥー教 の聖典 で あ るマ- -バ ー ラタをその素材 と して花開 いた 。 一万 13, 4世紀以 降, イス ラム神秘主義 が ジ ャワ島北岸地 域 に じょじょに浸透 す る。その布 教者 たち ワ リ ・ソゴ (9人 の布教者 たち) は王国 の宮廷 を中心 にすで に人 口に胎灸 して いたマ - -バ ー ラタを見 て, この物語 を換骨奪胎 す ることによ りイス ラムの理念 をそ こに注入 しよ う とつ とめたのだ。 さ らに はその上演様式 を改変 しよ うとす る。 ここに絵巻 と しての ワヤ ン ・ベ ベ ル はそ の登 場 人物 が一 人 ひ と り絵 の中か ら採 り出 され,水 牛 の皮 に よ り細 工 され て ク リル (白い布 の幕)に投影 し物語 を展開 す るワヤ ン ・ク リ (影絵芝居 )へ と移行 す る ことにな る。そ の代表 的 な演 目が今 日もなお盛 ん に上演 され る 「デ ウ ォ ・ルチ」で,1450年 ごろの初演 とされ東 南 ア ジ ア研 究 34巻 1号 る。 デ ウォ ・ルチ とは, マ- -バ ー ラタの主役 たちで あ るパ ンダワ5王子 の次男 ビモの魂 の内 なる神 で, ビモは大海 のただ中で の瀕死 の きわ に この神 と出会 い,人生 いか に生 き, いか に死 ぬべ きか の内奥 の教 訓 を得 るので あ る。 こ う した場面 は本来 の マ- -バ ー ラタに は存在 しな い。 やが て時代 はモ ジ ョバ イ ト王 国 か らイ ス ラム教 を奉 ず るデマ ク王国
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年) に移 り, しだ いに登場人物 たちの顔貌 が はげ しく変 え られ る。 それ まで人 間 の 自然 な顔 に似 せて い た ものが, ワ リ ・ソゴたちによ り,偶像否定 のイス ラムの理念 に則 り, イ ス ラム神秘主義 であ ることか ら人形否定 にまで はいた らないなが ら, その顔 は鼻先長 く,人 間 の顔 には遵 いなか っ たが解剖学 的 には異様 な面貌 と して変質 して い ったのであ る。 ワヤ ン ・ベベル もワヤ ン ・ク リ もおな じ運命 をた ど り,今 日にいた ってい る。 今 日のバ リの ワヤ ン ・ク リの姿 は この変質 を と げ る以前 の形 で あ り, その証 明 は1
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世紀 にみ られ る東部 ジ ャワの ヒン ドゥー教遺跡群, た とえばチ ャンデ ィ ・ジャゴや チ ャンデ ィ ・ス ロウォノその他 の壁面浮彫 にみ るワヤ ン図像群 に明 らかであ る。 イス ラム教 を き らった ジャワの貴族 たちがその荷物 の底 に当時 の ワヤ ン人形 を しのぼせ, バ リ海峡 を渡 ったのだ。 イス ラム神秘主義 を はげ しく布教 す るワ リ ・ソゴたちは多方面 にわ た り一大文化改革 を敢行 した。 その一環 と して彼 らはイ ン ド産 でな く, ジャワその ものに存在 したパ ンジ物語 や ダマル ウラ ン物語 に も目をっ け, これ らを ワヤ ン ・ベベル ・ゲ ドクと して登場 させ たのであ る。 パ ン ジ物語 は クデ ィ リ王国時代, ダマル ウラ ン物語 はモ ジ ョバ イ ト王国時代 を背景 とす るが,今 日 その原典 は未詳 で,前者 は1
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年 の ものが最 も古 く,原典 はいずれ も幾世紀 か を遡 りうるはず とされ る。 パ ンジ物語 は主人 公 たちは同 じだが, 同工異 曲のお びただ しい展 開 を もつ 。 王女 チ ョン ドロ ・キ ロノ (別名 スカル タジ,別人 だが同魂 と して措 かれ るア ング レ ニ) を求 めて放浪 の旅 にで たパ ンジ王子 がつ いにはたが いを探 しあて,結婚 に こぎっ ける点 だ けは共通 す るが,放浪 のよ うすや地域 やその間 の登場人物 たちはさまざまであ る。主人公 を共 通 とす る同工異 曲の物語 の集積群 で あ るといえ る。 ダマル ウラ ン物語 は, モ ジ ョバ イ ト王国 の 未婚 の女王 ク ンチ ョノウ ングが反乱軍 の首領 メナ ジ ンゴに狙 われ, この時馬屋番 とな って いた ダマル ウ ラ ンが敵 を粉砕 し,女王 と結婚 す るはな しで あ る。 しか し時代 の趣 向 は斬新 な上 演様式 をみせ る ワヤ ン ・ク リへ と急速 度 に傾 いて い くので あ る。 これを受 けて ワヤ ン ・ベベル ・プル ウォもワヤ ン ・ベベル ・ゲ ドク も しだいに宮廷 か ら野 に降 り,上演 はほそぼそ と地方 で命脈 をた もつ しかな くな って,記録 によれば, マ クラム王国2
代 の王 セ ド・クラ ピア (在位1
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年)即位 の とき,ワヤ ン ・ベベルが魔除 け と して上演 され たのを最後 に,以来新 しく作 られ ることが な くな った と伝 え られ る。2
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松本 :WayangBeber- 中部 ジ ャワ・Wonosari地 方 の ワヤ ン ・ベ ベ ルを中心に
ウ ォノサ リの ワヤ ン ・ベベル
ウォノサ リは中部 ジャワ ・ヨブヤ カル タ (通称 ジ ョクジ ャ) の南方 山地 に在 る。 その絵巻物 の持主 は農業 を営 むサパ ル ・クロモ ・ス ン トノ氏 で,パ ジ ャン王国時代 (1528-75年)の6代 の祖 グノ ・クロモ氏 が国王 か ら拝領 した もので あ るとい う。 その上演 は, ワヤ ン ・ク リが結婚 や割礼 その他 の慶事 に催 され るの とは違 って, これ は病気 平癒 や雨乞 いのためで あ る。 しか もこの ワヤ ン ・ベベル はサパ ル氏 の住 む グ ララ ン村 か ら一歩 で も出す と票 りが あ るとい う。 ただ ヨグヤ カル タの王宮 か らのお召 しの さい は別 で あ る。 サパ ル氏 は ダラ ン (語 り手) で はない 。 ダラ ンは同 じ村 に住 む マル ト・スカル デ ィヨ氏 で, 今 日,上演 で きるの は この人 だ けで あ る。 同氏 は この上演 をみせて いただ いた1986年 11月 当 時 はウォノサ リ県 カ ラ ンモ ジ ョ郡 の地域 文化保存担 当官 で あ った。絵巻 は全4巻, 1巻 にそれ ぞれ4場面 が措 かれ,全部 で 16場面 で あ る。演 目は 『パ ンジ ・アスモ ロバ ング ン』 (別称 『ル ム ン ・マ ム ン ・マ ング ンウ ィジ ョヨ』)とい う。ワヤ ン ・ベベル ・ゲ ドクに属 す る。 ポ ノロゴ紙 に措 かれ,1巻 はぼ左右 5メー トル,高 さはほぼ 50セ ンチで あ る。上下 の端 がぼ ろぼ ろにな っ て い る。 太陽が照 りつ け る昼下 が りの上演 だ ったが, サパ ル氏 の家 の屋 内 は薄闇 の状態 で,し か もラ ンプはない。上演 の さいには通常 ラ ンプはつ けない との ことだ った。 写真2 ウ ォノサ リの ワヤ ン ・ベ ベ ル を保 存 す るサパ ル家 。 この家 の中で上 演 が 行 わ れ た。 1986年 11月。 写真3 手 前 右 が サパ ル氏 。 その後 中央 に座 す の か, ダ ラ ンの マ ル ト ・ス カ ル デ ィ ヨ氏 。 ほか ガ ム ラ ン奏 者 た ち と サパ ル家 の家族。東南 アジア研究 34巻1早 伴奏 のガムラ ンはス レン ドロ音階で, ブシ ンデ ン (歌手), ク ンダ ン (太鼓), グ ンデル, サ ロ ン, クムプル, ゴング (以上,青銅打楽器),による構成 で ある。 ブシ ンデ ンの歌 も, ガム ラ ン音楽 (曲名 はエ ングル ・エ ングル) ら, それぞれ一 曲だけで, それをひたす ら物憂 げに繰 り 返 す ばか りであ る。 ダランは朗 々た る音声 で,半 ば歌 うよ うに捻 るよ うに,手 に孔雀 の羽 の指 示棒 を もち, ときに絵 の部分 をまさ ぐる。 1巻分 を語 り終 え ると,両側 にいる助手 の手 をか り なが ら巻 き戻 して は,次 の巻 を とりだすので あ る。 第 1巻 の絵巻 は右か ら左-,第 2, 3巻 は 左 か ら右-,最後 の第4巻 目は右 か ら左 - と描 かれ, それにそ って絵巻 は繰 りのべ られ る。
ウォノサ リの ワヤ ン ・ベベル語 りの全訳
(荏 :文中 〔 〕内の数字は全16場面の語 りの部分を,一行あいた個処はガムランだけが鳴っているこ とを示す。) 地語 り ホ ン ・ミライ ン ・マス トゥ ・プル ノモ ・シ ドゥム。 おお, その昔, は じめには何 もな か ったが, まず は人間 の王 が,偉大 な る神 ヒヤ ン ・カ ン ・ムル ブ ン ・ジ ャガ ト・カ ロノによ っ て造 られた。 この世 は広 くひろ く限 りがな く, やがて男 の形,女 の形が現 われでた。 〔1〕
さて,天界 か らもた らされた被造物 はそのあた りを騒 々 しくさせ る兵士 たちだけで はな い。 ここに展開 され るワヤ ンの最初 の場面 はいず こか。 これ こそブ ロワ トゥの花園である。 その ときラデ ン ・パ ンジ ・アスモ ロバ ング ンはブロワ トゥの花園 に座 し, いち早 くこの花園 か ら逃亡 したい との思 いにゆれて いたのであ る。 彼 の傍 らには二人 の側近, キ ・プ レデ とキ ・ ポロソンコが従 い, やがて言葉がか け られ るのであ る。 パ ンジ 叔父上, プ レデ叔父, ポ ロソンコ叔父 よ。 プ レデ エエ工,何 で ございま しょう。 パ ンジ さて, そなたたち二人, そなた らはわが希 みによ りここに呼ばれた。 さ, そなた らは この ブロワ トゥの花園 よ り出立 しよ うとす る私 に随行 しなければな らぬ。 プ レデ エエ-- ラ ・ダラ。 ど うしたのです。 ど うしてその よ うな気 にな られ たのです。 あな たは明 日に, ライ ・クスマニ ン ・アユ ・デ ウ ィ ・スカル タジ ・ガル ・チ ョン ドロキ ロノとの婚 儀 を迎 え られ る。なにゆえ,この花園か ら逃亡 され よ うとす るのか。このわ しやそなたの父王, この クデ ィ リ国 の王宮 に久 しく座 を占めてい るわれ らは, ど うすればいいので しょう。 パ ンジ されば とはいえ,私 はいまやわが愛 の重 み を は っき り計 ることので きぬ デ ィア ジュ ン ・ガル ・チ ョン ドロキ ロノの言葉 に怖 れをかん じて いるゆえなのだ0 プ レテ ロ, ロ, そのわ けは? 290松本
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中部 ジ ャワ・Wonosari地 方 の ワヤ ン ・ベ ベ ル を中心 に パ ンジ 叔 父上, 私 はデ ィア ジュ ン ・ガル ・チ ョン ドロキ ロノへ の わが愛 の大 きさを披歴 した のだが, その ときガル はわが愛 の大 きさの返答 に対 して, つ ま り私 が小 山 は どな, た とえれ ば 限 りな く広大 な海 は ど もの デ ィア ジュ ン ・ガル ・チ ョン ドロキ ロノ- の愛 を感 じて い る とい っ たのだが, それが理解 され ない。しか も残念 なが ら, デ ィア ジュ ン ・ガル ・チ ョン ドロキ ロノ の私 へ の愛 の大 きさはただ, クク ・イル ンほ どのみ とい う。 (荏 :ク ク ・イル ンkukui
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は 黒 い爪 の意。 指先 のの びた爪 の部分 を さす。小 山 はいず れ崩 れ れ ば無 に返 りも しょ うが,黒 い 爪 の部分 は人 間 が生 きて い る限 りの びつづ け無 くな る ことが な い よ うに,無 限 の愛 を示 す比 境 を な して い るのだが, パ ンジに はそ の意 味 の深 さが理解 で きなか ったので あ る。 この比 喉 はマ - ーバ ー ラタよ りの ワヤ ン ・ク リの演 目 『コ ロブ ン ドノの死』 にお いて, アル ジュノの息 子 ア ビマニ ュが デ ウ ィ ・り タ リとの結 婚 に さい して, り タ リに よ って も使 用 され,著名 で あ る。) プ レデ ウェ ・ラ ・ダラ, --- --- ・--ア ヨ。 な るほ どその よ うな言葉 で したか。 -ヨ, 山 ほ どの もの とクク ・イル ンほどの ものか。 で, ど うされ るつ も りです? パ ン ジ 私 はブ ロワ トゥの花 園 を 出 たい。 遠 くを放 浪 し, 足 の向 くま ま気 の向 くま まに, たえ ず うろつ き歩 いて いた いのだ。 プ レデ ウェ- ラ, 父上 や長老 た ちを心配 さす ことにな る。 パ ンジ それ はそ うだが, あ とで困 る ことにな るよ りはいい。 よ くよ くに, デ ィア ジュ ン ・ア ング レ-の愛 につ いて考 え る と,私 の考 え との食 い違 いが大 きい。 あ とで き っと厄介 な ことに な る。 だか らい ま, 私 は この花 園 を出 た いのだ。 プ レデ 思 い とどま る こ とはな りませ ぬか。 パ ンジ な らぬ。 プ レデ ウ ェ ラ, され ば, ど うか私 ど もを伴 に連 れ られ ます よ うに。 〔2〕地 語 り い まや,ラデ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンはガル ・チ ョン ドロキ ロノ と結婚 す るはず が, その心 を怖 れ, 花婿 とな る ことを御 破算 し, 花園 か らただ ちに出発 しよ うとす る こ とが語 られ る。 パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ン出奔 の ニ ュー スは稲妻 の早 さで,全 国津 々浦 々 にひ ろが った。 パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンの結婚が 空 しくな った と, 国 中で叫 ばれ たので あ る。諸 国 の千 の王 た ち はみ な ラデ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンの逃 亡 を耳 に した。 場面 はかわ り, プ ミロコ国 の ことが語 られ よ う。 国王 プ ラブ ・プチ クスモ ロはその師 ル シ ・ プヤ ンアキ ンを さ し招 く。 この人物 は ブ ミロ コ国 の王宮前広 場 い っぱ い にひ しめ く兵 た ちを率 い る大 臣パ テ ィ ・ガ ジ ャブ ン トに随行 されて い る。 か くて プ ラブ ・プチ クスモ ロは語 るので あ る。東南 アジア研究 34巻1号 写真4 ウ ォ ノ サ リの ワ ヤ ン ・ベ ベ ル 〔2〕 の 部 分 。 プチクスモ ロ ウェ・--ジャガ ト・デウォ ・バ トロ。 伯父上,伯父上, わが師 な る伯父上, ル シ ・プヤ ンアキ ンよ。 プヤ ンアキ ン エエ--・何 で しょう。 王 はこのわ しを召喚 され ま したが。 プチクスモ ロ そなた もだ,パ テ ィ ・ガ ジャブ ン トよ。 ガ ジ ャブ ン ト はい,何 で ございま しょう。 いかな る目的で この私,パ テ ィ ・ガ ジャブ ン トを 召 され ま したか。 いま私 はこの国 の指導者 たち,将軍 や理事官 たちの多 くを ここに随行せ しめ ま した。 ど うか ご命令 を言 い渡 され ます よ う, 王 よ。 プチクスモ ロ ヨ, ヨ---伯父 よ, さ, さ, わ しは遠 くの伯父上 を さ し招 いた。 さ,近 くへ, もっと近 く- 。 ラデ ン ・パ ンジ ・アスモ ロバ ング ンとクデ ィ リの王女 ガル ・チ ョン ドロキ ロノ の結婚 が失敗 に帰 した との最新 のニ ュースだ。 ロ, このわ しは王 であ っていまだ結婚 してお ら ぬ。 よ くよ くに考 え,母上 と も相談 したが, わ しはパ ンジ ・アスモ ロバ ング ンの未亡人 にプロ ポーズ したい。未亡人 で もか まわぬ。 何 で もない。 それ どころか, ウ ィ ドワテ ィの化身 の女 た るガル ・チ ョン ドロキ ロノを手 に入 れた とあれば, わが王宮 の評判 は永遠 につづ き, わ しの貫 きず な 禄 を大 な ら しめ,世界 に公正 の秤 を導 き入 れえ よ うものを。(荏 :ウ ィ ドワテ ィは ジ ャワ女性 の 原像 ともされ,神格 を帯 び る。稲 の女神 で もあ り,ワヤ ン ・ク リ講演 日に登場 す る主要 な女性, 例 えば宇宙護持 の神 ウ ィス ヌの妻 デ ウ ィ ・ス リ, ラーマ ーヤ ナにお け るロモの妻 シ ン ト, マ - -バ ー ラタにお けるアル ジュノの妻 スムボ ドロ らに も入魂。絶世 の美女 であ り, つね にアル ンコ国 の怪 物 の王 ラウ ォノによ り,幾世代 を こえ嫁 に と狙 われ る。 しか しそのつ ど彼女 は ラ ウォノの欲望 を はねつ け るので あ る。) プヤ ンアキ ン お お,- --・-・・さよ うの ことな らば, さほ ど厄介 な こと もあ るまいよ。 パ テ ィ ・ガ ジ ャ! 292
松本 :WayangBeber- 中部 ジ ャワ・Wonosari地 方 の ワヤ ン ・ベ ベ ル を中心 に ガ ジ ャブ ン ト は, 何 で ござい ま しょう。 プ ヤ ンアキ ン いまや, 王 の命令 を うけた。 わ しは クデ ィ リ- プ ロポー ズにゆか ね ばな らぬ。 ガ ジャブ ン ト さて, カ ンジェ ン ・ル シ ・プヤ ンアキ ンのお望 み は, いか よ うで。 プ ヤ ンアキ ン そ なた はあ またの精鋭 を用意 す るの じゃ。 しか も秘密 にな。 わ しは クデ ィ リに 入 る。 そなた は街 を十重二十重 に包 囲 す るのだ。 クデ ィ リの街 に入 る ものが あ って はな らぬ。 それ は王宮 の花 に プ ロポー ズす るわ しの仕 事 を妨 げ るのだ。入 ろ うとす る者 あれ ば引 き戻 され よ。出 よ うとす る者 は構 いな し。丁重 に プ ロポー ズ して,か なえ られれ ば よい。だ めな らクデ ィ リ包 囲 を締 めっ け,兵 を あふ れ させ,戦 いの雄 叫 びを あげ るのだ。 ガ ジ ャブ ン ト され ば, わ れ らは師父 ル シのお言葉 に従 うのみ。 プヤ ンアキ ン それで よ い。 さて, お暇 を乞 う。 ど うか念願 とされ る ものが成功 しえ ます よ う に。 プ チ ク スモ D よろ しい。 伯父上,私 もお伴 しよ う。 出立 だ,伯 父上。 〔3〕地 語 り グムル ビュ ク と,ブ ミロコの兵 た ちの声 がす る。 すべ て の者 は さまざ まな武 器 を 用意 し,装 備 はたが い にぶつ か り, あふ れて鳴動 す る。 やがて クデ ィ リの王宮 の境界 に近 づ い たので あ る。 いまや ブ ミロコの兵 た ちの歩 み にかわ り, クデ ィ リの隈想 の部屋 で の あ りさまが語 られ るO 国王 プ ラブ ・プ ロウ ィジ ョヨが座 し,神 のみ前 に祈 りを捧 げ る。 とい うの もその娘 と不滅 の美 丈夫 との婚姻 に胸 ふ くらませ, ジュム ブル国 王 プ ラブ ・ア ミル フル と共通 の父 とな る喜 びを噛 み しめて いたか らで あ る。 ど うや らその祈 りがか なえ られ,突如 バ トロ ・ナ ロ ド (宇 宙支配 の神 バ トロ ・グル の代行神) が瞑想 の部屋 に降下 した。 サ ン ・プ ラブ ・ル ム ブ ・ア ンデ ィニ (プロ ウ ィジ ョヨの別 名) は驚 き, す ばや くサ ン ・プ ラブはサ ンヤ ン ・バ トロ ・ナ ロ ドに向 って拝 脆 す る。 プ ロウ ィジ ョヨ おお神 よ。 バ トロ ・ナ ロ ド。 バ トロ ・ナ ロ ドの ご来訪 に敬意 を表 します。 ナ ロ ド おお, お, コロ ド・コロ ド。 その敬 意 は受 け よ う。 そな た はわ しに挨拶 を した。 バ トゥユ ト (プ ロウ ィジ ョヨの従者 ) ェ ェ・・-・ナ ロ ドさん, よ うこそ ご無事 で。 ナ ロ ド エエ-- イ ヨ, バ ン トエ ッ トよ。 何 ひ とっ の不 足 もな くな。 うま くや って るかね, そ なたの且 那 の お守 り役 は? バ トゥユ ト エエ-- イ ヨ, 院憩 の うち にお いで にな った。 さ, 早 く, わが ご主 人 にお言 葉 を か け られ るよ う。 ナ ロ ド ェ エ--・イ ヨ, 王 よ。 プ ロウ ィジ ョヨ はい,何 で ございま しょう。
東 南 ア ジア研究 34巻1号 ナ ロ ド ヒヤ ン ・プ クル ン (神 の別称) が大地 に降下 して, そなたに近 づ いた。 とい うの もそ なたの際想 によ りカヤ ンガ ン ・ジュ ング リン ・サ ロコ (至高神 ブ トロ ・グルの天界) には騒動 がお こ り, ゴロゴロ (不穏 の状況 を意 味す る) とな ったO さればそなたの隈想 の 目的 は何 なの か,早 く言 われ よ。 プ ロウ ィジ ョヨ おお, そ うですか。 いまや私 はパ ンジ ・アスモ ロバ ング ンとわが娘 デ ノ (ぽ ち ゃぽ ち ゃとかわ いいの意)・スカル タジの結婚 を待 ち望 んで い るのです。したが って,ナ ロ ド さん,ど うか神 々の慈悲 によ り,この クデ ィ リ国 に安全 を与 え られ,すべてが何 の障 りもな く, うま くい きます よ うに。 ナ ロ ド エエ・-- エエ-- ラダ ラ, イ ヨ, ゲル, イ ヨ。 わ しはそなたの望 む ところを聞 き入 れ よ う。 しか しなが ら,残念 だが, そなた は混乱 しないよ う,転倒 しないよ うにな。 とい うの も そなたが ク ンデ ィク (小娘 の意)・スカル タジとパ ンジ ・アスモ ロバ ング ンの結婚 にあて たそ の 日は, まさに凶 日に当 た ってお る。 これ は これ は, 日が よ くないの じゃ。 プ ロウ ィジ ョヨ お, そ うですか。 ナ ロ ド ハ, しか し, やがて は うま くい く。何 で もあ りゃ しない。 しば らく待 っ の じゃ。 そ う あ らねばな らぬ。 そなた- のわ しの言葉 は これだ け じゃ。 で はわ しはス ロロ ヨ (プ トロ ・グル の天界 の別称) -戻 ると しよ う。 プ ロウ ィジ ョヨ わが敬意 を受 け られ ます よ う。 ど うか, この想 いが カ ンジェ ン ・ウル ン ・ル シ ・ナ ロ ドに届 きます よ う。 ナ ロ ド イ ヨ,受 けると しよ う。 地語 り ル シ ・ナ ロ ドはまばた きの うちにス ロロヨに戻 った。神 の口に した ことは必 ず成 るの だ。 バ トロ ・ナ ロ ドによ って与 え られ た指示 は高貴 に して真実 な る ものだ。場面 がかわ り, い まや ラギル ・クニ ン (パ ンジの妹) が慌 てて現 われ,伯父 に しがみつ く。 ラギルク二ン ああ,伯父 さま,私 は死 ぬ,伯父 さま。 プ ロウ ィジ ョヨ ど う した, ど う したのだ。 ラギル クニ ン。 なぜ そなた は息 せ ききって走 り, わが前 に倒 れ こんだのか。 ラギルクニン 私 の生死 をお まかせ します。伯父上 さま。 プ ロウ ィジ ョヨ 何 が あ ったのだ。 なぜ そなた はさよ うの ことを 口走 るのか。 ラギルク二ン はい,伯父 さま。 兄 パ ンジ ・アスモ ロバ ング ンが急 に花 園か ら姿 を消 され, 園 を守護 して いた兵士 たちに騒動 が起 ったのです。武将 たちは会議 を もち, あち こち-, みん な 兄 パ ンジ ・アスモ ロバ ング ンの足跡 を追 うことにな ったのです。 プ ロウ ィジ ョヨ エエ--・ラダラ。 され ば, サ ンヤ ン ・バ トロ ・ナ ロ ドのお言葉 どお りだ。気 294
松本 :WayangBeber- 中部 ジ ャワ・Wonosari地 方 の ワヤ ン ・ベ ベ ル を中心 に にす る こと もな い。 兵 たち は何 を会議 して お るのだ。 ぼんや り して お って はな らぬ。 わ しは命 令 す る。 王宮前 広場 - ゆ き, カカ ン ・プロ ジ ョノ トに言 うのだ。 息子 た ちみん な諸方 に散 らば り, そなたの見 パ ンジ ・アスモ ロバ ング ンの居場 所 を探 って まいれ, と。 地 語 り 息子 や兵 た ち は先 を争 って とびだ し, ラデ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンの行 くえ を 探 しにい く。 〔4〕地 語 り 場 面 がか わ って,クデ ィ リ国 の王子 た ちが居並 んで い る。四方 か ら集 って きた者 の指揮官 とな って い るの は誰 か。 これ こそ ラデ ン ・プロ ジ ョユ ド, また ラデ ン ・トゥロ ンゴブ トロといい, 彼 はい ま, 武装 に身 を固 めた ラデ ン ・バ グス ・ウム ンサ ンに伺 候 されて い る。 プ ロジ ョユ ド 弟 よ, ご機嫌 はいかがか な。 ウム ンサ ン はい, 兄上 に敬 意 を捧 げ ます。 プ ロジ ョユ ド パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンの安 寧 を保 っ た め, 当番 にあ た ってお る将兵 た ち, また兄弟 た ち は幾人 か な。 ウム ンサ ン 明 日, 結婚 を終 え られ る こ とにな って い る兄 ア スモ ロバ ング ンと姉 デ ウ ィ ・スカ ル タジのため,王宮 の諸 状況警護 に集 って い る兵 た ち,その仲 間 たちの数 は,数 え きれ ませ ぬ。 プ ロジ ョユ ド みなの者, よ くよ くに注意 を払 われ よ。 悪 しき障害 が あ って はな らぬ。 ウム ンサ ン 手 落 ちな きよ う, み な,武装 を整 えて お ります る。 地語 り この よ うに ラデ ン ・マ ス ・プ ロジ ョユ ドとそ の弟 が ラデ ン ・パ ンジとデ ウ ィ ・スカル タジの婚礼警護 につ いて話 して い る と き, 突如 グム ロジ ョグとラギ ル クエ ンがや って きて, ラ デ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンが王宮 か ら消 え た と告 げ る。 プ ロジ ョユ ド よ く見 れ ば, これ はデ ィア ジュ ン ・ラギル クエ ンで はな いか。 ラギ ル クニ ン はい, お兄 さま。 プ ロジ ョユ ド ロ, ど う したのだ。 わ が前 に現 われ て, その よ うに も鳴咽 し, すす り泣 きをつ づ け る とは。 ラギル ク二 ン こうな のです, お兄 さま。 私 は伯 父 王 プ ロウ ィジ ョヨさまか ら命令 され たので す。 パ ンジが昨夜花 園 か ら消 え, ど こにい るか誰 ひ と り知 らず, 騒動 が もちあが って い る こと を, みな さん にお知 らせす るよ うに と。 プ ロ ジ ョユ ド で, お父王 の ご命 令 は? ラギル ク二 ン あな た は兵 た ちのすべ てを解散 させ, 兄 パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンが ど こにい るか探 され ます よ うに と。
東南 ア ジア研 究 34巻1守 プ ロジ ョユ ド おお,-, イ ヨ, されば, さ,弟 グヌ ンサ リよ。 駿馬 キヤイ ・メ ゴノ ン ドを所 持す るはそなただ。 キヤイ ・メ ゴノ ン ドに騎乗 し, クデ ィ リ王宮 の内外 を巡 回 され るよ う。 グヌンサ リ か しこま りま した。兄上, ご命令 を実行 いた します。 地語 り さて と, まこと美丈夫 に して剛毅 な る ラデ ン ・マス ・グヌ ンサ リが クデ ィ リ王宮 の内 外 をへ め ぐるさまが語 られ る。 兵 たちはみな, その騎乗ぶ りの立派 さに驚 いたので あ る。 地語 り すべての兵 たちが, ラデ ン ・アスモ ロバ ング ンの行 くえを右往左往,探 しまわ るを余 儀 な くされ たあ りさまが語 られ る。 〔5
〕
地語 り このよ うに して, ラデ ン ・マス ・プロジ ョノ トの率 いる軍 隊が, プ ミロコか ら の, その兵 の数,数 え られぬ ブ ミロコか らの軍 隊 と遭遇 す ることが語 られ る。 しか しなが ら強 く賢明 な る武将 たちは, プ ミロコよ りのお びただ しい軍 隊 と出会 って も驚か ない。 ブ 三ロコの兵 たち エエ工,仲 間 たち,仲間 たちよ, そん なに押 さないで くれ。怖 るべ き重代 の武器 を差 した武将 が道 中 に立 ちふ さが って い る。 王宮 の重代 の武器 が怖 ろ しい炬 火 を放 っ て, き らめいて い るのがみえ る。 エエ工, てめえ は誰 だ。 工,道 の真ん中であえて大 き くの さ ば って いるてめえ は何者 だ。 プ ロジ ョユ ド イ ヨ, わ しはクデ ィ リ国王宮 の戦闘指揮官, プロジ ョノ ト (プロジ ョユ ドの別 名)。 そなた らの恥知 らず は クデ ィ リにまで も聞 こえてお るぞ。 兵 たち エ工, エ工, てめえが いず この王宮 にまで も音 に聞 こえ た プロジ ョノ トか。 われ らは ブ ミロコ国王 プラブ ・プチ クの戦闘指揮官 な るボポ ・グル ・ル シ ・プヤ ンアキ ンによ って率 い られた者 たちだ。 クデ ィ リに入 りたい。 それ とい うの もスカル タジがパ ンジと結婚 しない とい う明 らかなニ ュースをえたか らだ。恥 を さ らさぬ方 が よい。われ らが師ル シ ・プヤ ンアキ ンが, その結婚 をのぞむその弟子 プ ラプ ・プチ クに代 って プ ロポーズを Lにゆ くのだ。 プ ロジ ョユ ド ゥェ ・ラダラ。 さればなおの こと, クデ ィ リの王宮 に入 ることな らぬ。 この ラ デ ン ・マス ・プロジ ョユ ドを打 ち砕 くことがで きぬ うちはな。 兵 たち われ らが行動 の邪魔 だて しよ うってん だな。 プ ロジ ョユ ド 無駄 口たたいて はな らぬ。 その身 は砕 かれよ う。 〔6〕地語 り 一方,クデ ィ リ国 の王宮 には,ガル ・チ ョン ドロキ ロノにプロポーズす る千 の国 の王 たちが いた。 か くて王宮前広場 には人 が あふれ る。 ほど もな くクデ ィ リ国王 は謁見所 か ら 出て,言葉 を発 したのであ る。 296松本 :WayangBeber- 中部 ジ ャワ・Wonosari地 方 の ワヤ ン ・ベ ベルを中心に プ ロウ ィジ ョヨ おお, 申 し訳 ないが,諸 国 よ りの千 の王 たちよ。 どうか しば らく辛抱 され る よ う。 一人 の王 おお, か しこま りま した。 おお, クデ ィ リの王 よ,娘 さん は私 に与 え られ るのが よ い。 この私 こそ賢 明に して財宝 ゆたか な る唯一 の王だ。 他 の王 おお,王 よ,私 だ けです。私 こそ娘 さんを永遠 に妻 と して大切 にす る識見 に富 む王で あ ります。 プ ロウ ィジ ョヨ 申 し訳 ないが,諸国 の王 たちよ。 ど うか まず は辛抱 され るよ う。 いま ここに みな さん に申 しあげる。財産 も地位 もな く,た とえ乞食 で あろ うが,誰 あろ うと,わが娘 二二 ・ ガル ・チ ョン ドロキ ロノは嫁 にす ることがで きる。 但 し,条件 があ る。 王 たち それ は何。王 よ, その条件 とは? プ ロウ ィジ ョヨ されば, これが クデ ィリの長老 たち,息子 たちの相談 の結果 なのです。 つ ま り,諸 国 の王 たちの うち,一騎討 ちにお いて,わが息子 ラデ ン ・アヌ ンサ (グヌ ンサ リの別名) を打 ち負 か し,打 ち砕 さえた方 あれば,誰 で あろ うと, これ こそが娘 ガル ・チ ョン ドロキ ロノ を嫁 にす ることので きる方 なのです。 王 たち おお, 王 よ。 これ は諸国 の王 たちの戦場 とな って, クデ ィ リの王宮 を崩壊 せ しめ るこ とにはな りませ ぬか。 プ ロウ ィジ ョヨ そ うな った と して, これ は何 ほどの ことで もない。 王 たち されば,王 よ。 その ご子息 はいず こに。私 がお相手 っか まつ る。 プ ロウ ィジ ョヨ すで に向 こうに。 さあ,闘技場 に出 られ るよ う。 〔7〕地語 り か くて先 を争 い,諸 国 の王 たちはクデ ィ リ国 の闘技場 に出 る。そ こで まず は諸国 の王 たちはたが いに勝利 の呪文 の戦 いを展開 し, たが いに超能力 をみせ あい, その力 を披歴す る。 つ いには組 み打 ち とな る。 王 たちはみん な敗 れて,闘技場 をあ とにす る。 この戦 いの英雄 とな った者 はだれか。 これ こそ ブ ミロコ国 のパ テ ィ ・ガジャブ ン トだ ったので あ る。 とい うの も彼 の もっていた勝利 の呪文, その霊力 の根源 にあ ったのが怖 るべ きウェウェ ・プテ ィ (巨大 な乳房 を垂 れた女 の白い化 け物) だ ったので ある。 それがつねにパ テ ィ ・ガ ジャを守護 し,請 国の王 たち はこの怖 るべ きウェウェ ・プテ ィの姿 を見 るや,バ タンと倒 れ,力が失せ る。 ふ ら ふ らにな り,バ ラバ ラにな って倒 れ る。 パ テ ィ ・ガジ ャが大声 をあげ ると大地 は崩れ落 ちんば か りで ある。 王宮前広場 で見物 していたすべての民衆 もパ テ ィ ・ガ ジャの振舞 いを見 た。彼 ら だけで はない。天界 の神 々 もみな天 か ら,天界 の美女 たち も首 をのぞかせ, パ テ ィ ・ガ ジャの 奮戦 をみ る。 ただ一人, パ テ ィ ・ガ ジャは手 を叩 き,膝 をたたいて, カ ラカ ラと笑 う。 いまや, パ テ ィ ・ガ ジャとグヌ ンサ リの一騎討 ちだが, たちまちに して ラデ ン ・パ ンジ ・グ ヌ ンサ リは力 を失 い,態度 は尋常 で な く,水牛 の子 どものよ うによたよた してい ることが語 ら
東南 アジア研究 34巻1号 れ る。 ここにお いて, これ まで姿 を見せ ることのなか った クデ ィ リ国王宮 の守護者で あ り, あ らゆ る学 問 に精通 した一人 の高僧,彼 にはその危 険 の度 合 いが どのよ うか, すべてが見え る。 か くてす ばや く高僧 は ラデ ン ・パ ンジ ・グヌ ンサ リに近 づ き, この よ うに声 を発 す るのだ っ た 。 パ ンチ ャイル ワ, ど うした,美丈夫 よ。 グヌ ンサ リ おお, ど う した ことで しょう, バ ンチ ャイル師 よ。 クデ ィ リの王子 たち,属領 の 王 たち も,怖 るべ き呪文 を もつパ テ ィ ・ガ ジャブ ン トに対抗 しえ ませぬ。 パ ンチ ャイル ---,美丈夫 よ。あれ はウェウェ ・プテ ィの呪文 と名 づ け られ る者 の仕業 だ。 あれが毒 を吹 きか ける。毒 にあて られた者 は倒 れ る。 グヌ ンサ リ ああ, わが生死 は師 にお まかせ します。 バ ンチ ャイル エ工, かん たん な ことよ。 やがてそなた はパ テ ィ ・ガ ジャブ ン トの前 で死 んだ ふ りをす るのだ。 そ して悲 鳴を挙 げつづ け るのだ。 とい うの もウェウェ ・プテ ィは化 け物 だが 女 だ。そなたのよ うな美男子 を じっ くり見 た ら,きっと気 がおか しくな る。おか しくな った ら, わ しが奴 をや っつ ける。 や っつ けるの はかんたんな こと。 さ, す ぐにパ テ ィ ・ガ ジャに立 ち向 か うのだ。 グヌ ンサ リ おお, イ ヨ, お言葉 に従 います。 バ ンチ ャイル さ, さ。 地語 り はどな くラデ ン ・マス ・パ ンジ ・グヌ ンサ リはパ テ ィ ・ガ ジャブ ン トと対決 す るが, その体 はたちまちに大地 に崩 れお ちる。 彼 は殺 せ,殺 せ と叫 びをあげっづ けたので ある。 死 な 写真5 ウ ォ ノサ リの ワヤ ン ・ベ ベ ル 〔7〕 の部 分 。 298
松本 :WayangBeber- 中部 ジ ャワ・Wonosari地 方 の ワヤ ン ・ベベルを中心 に せ て くれ と叫 びっづ け る。 ウェウェ ・プテ ィはその体 に近 づ き, ぐる ぐる回 りなが ら, グヌ ン サ リのす ぼ ら しい美貌 に気付 き, 驚 いたのだ。美 しい武将 をみて, なお も全身 をな め るよ うに 見 回 し,心動 か され,憐 れみ をかん じた ことが語 られ る。 ウ ェウェ ・プテ ィは心奪 われ たので あ る。 この一 瞬, ウェウェ ・プテ ィは投 げ縄 を投 げ られ, バ ンチ ャイルによ ってか らめ と られ る。民 にか らまれ,その首 は締 めつ け られ,だん だん に締 めあ げ られ,つ いに ウェ ウェ ・プテ ィ は倒 れ, この ときその首 は切 れ る。 〔8〕地 語 り た ち まち に ウェウェ ・プテ ィの首 が落 ち,バ ンチ ャイル によ って大地 に押 しつ け られ た ことが語 られ る。 これ によ り当然 パ テ ィ ・ガ ジ ャブ ン トも力 を失 って倒 れ る。 その力 が 失 せ, か くて ジュ ンゴロ国 (パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンの国) の王子 たちや ラデ ン ・パ ンジ ・ グヌ ンサ リに よ って攻撃 され る。 ジュ ンゴロの王子 た ちが群 が り, パ テ ィ ・ガ ジ ャブ ン トのか らだ は引 き裂 かれ, もぎと られ, 西 -南 へ投 げ られ, 王宮前 広場 中 はパ テ ィ ・ガ ジ ャブ ン トの 血 で い っぱ い に な る。 肩 もひ きさか れ, あ ち こち-捨 て られ, あ た りの凶兆 のす べ て が消 え 去 った。 〔9〕地語 り パ テ ィ ・ガ ジ ャブ ン トが死 んで,なお空 中 にい る者 は誰 か。これ こそそ の弟子 の 死 に復 讐 しよ うとす るル シ ・プヤ ンアキ ンで あ る。 地 語 り ル シ ・プヤ ンアキ ンは戦 場 にすす みで る。 戦場 に死 ん だ その弟子 をみて大 いな る怒 り をか きたたせ たのだ。超能 力 きわ ま りな い僧 な るプヤ ンアキ ンは瞑想 に入 る。 これを見 たバ ン チ ャイル によ ってす ばや く, くりかえ し挑戦 され るが, その挑戦 に は動 ず る こと もな い。 ル シ ・プヤ ンアキ ンは院想 し,九孔 を閉 ざ し,脚 を組 む。か くて プヤ ンアキ ンの願 い は成 り, その姿 が消 え,突如 空 中 に飛 び, リンタ ン ・クム クス (- レ一撃 星 の よ うな星) とな る。 〔10〕地 語 り これ こそ大空 を尾 を ひいて飛 ぶ リンタ ン ・クム クスで あ る。 リンタ ン ・クム クス の威 力 とは何 か といえば, クデ ィ リ国 に疫病 を もた らす悪臭 の毒 をふ りま くことで あ る。 死人 の数 は数 しれず。 クデ ィ リ国 の星 占師 たち はみん な これ に対抗 す るべ く力 を尽 くす が, ル シ ・ プヤ ンアキ ンの超 能 力 に うちかつ ことがで きな い。 ル シ ・プヤ ンアキ ンの超 能 力 は この よ うで あ った。 場面 が変 って, さ きに クデ ィ リ国 を逃 亡 して身 を ひそめた ラデ ン ・パ ンジ ・アスモ ロバ ング ンが, い まや ル シ ・キヤ イ ・マ ング ンジ ョヨ, またの名 キヤ イ ・ル ム ン ・マ ング ンジ ョヨと名 を変 え て いた ことが語 られ る。 天界 のか ぐわ しい香 りが, この人 が ス ミナ ン山 にい る ことを示 して いた。 だが彼 は クデ ィ リ国 の騒 動 につ いて は知 らなか った。 299
東南 アジア研究 34巻 1号 写真6 ウ ォ ノサ リの ワヤ ン ・ベ ベ ル
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〕 の部 分 。 瞑想 の うち に,彼 は クデ ィ リ国 か らの逃 亡 は うかっ な ことだ った と, つ ま り婚約 者 ガル ・ チ ョン ドロキ ロノの言葉 はま こと彼 自身- の誠実 な愛 を内包 す る ものだ った と気付 いたので あ る。 ことわ ざにい う, どん なに大 きな洪水 に出会 って も生 きて い る限 り, クク ・イル ン (指先 のの びた爪 の部分) は成長 しつづ けると。 つ ま り山 は ときと して爆発 し,大海 は干上 るので あ る。 か くて突然 ラデ ン ・パ ンジ ・キヤイ ・ル ム ン ・マ ング ンジ ョヨの こころはな ごみ, まさ し く王女 な るライ ・ガル ・チ ョン ドロキ ロノを讃美 したので あ る。 さまざまな想念 を描 いたあ と, 院想 か らさめ, この時 その妹 クヌマニ ン ・アユ ・デ ウ ィ ・ラ ギル クニ ンが そ こにや って きた と語 られ る。 マ ング ンジ ョヨ さて と, よ くよ く見 るにわが前 に伺候 した もの は女 で あ るよ うな。 ラギル クニ ン お兄 さま。私 は ジュ ンゴロ国 の娘, ラギル クエ ンです。 マ ング ンジ ョヨ ロ, ラギル クニ ンか。 ラギ ル クニ ン はい。 マ ング ンジ ョヨ 何 の用だ。
ラギ ル クニ ン 私 は助 けを乞 うため, み前 に伺候 したのです。邪 まな高僧 が いて, クデ ィ リの 王 にな ろ うと して います。 ル シ ・プヤ ンアキ ンの魔術 によ りクデ ィ リは大騒動 です。 クデ ィ リ に怖 ろ しい毒 が ば らまかれ,疫病 が蔓延 して い るのです。 地語 り か くて ル シ ・マ ング ンジ ョヨは状況 を調査 しよ うとす る。 クデ ィ リはあ さ らか に暗黒 に覆 われてみえ る。 すべて は敵 の策 略 によ る ものだ。 隈想 しス ミラ ン山か ら,大空 に立 って い る敵 を は っき り見 ると,それ はま さに リンタ ン ・クムクス,長 く尾 をひいて飛期 す る星 で あ る。 300松本 :WayangBeber- 中部 ジャワ ・Wonosari地方のワヤ ン・ベベルを中心に キ ヤ イ ・ル ム ン ・マ ング ンジ ョヨは さ らに深 く限想 し, た ち まち に大 空 に駆 けの ぼ り, 巨大 な 屋 とな る。 そ の崖 の名 は リンタ ン ・ジ ョコとよばれ る。 地 語 り これ こそ リン タ ン ・ジ ョコ ・ク ロボの姿 で あ る。 夜 の大 空 で, よ り強 く光 り, よ り輝 いて み え るの だ。 か くて ル シ ・プヤ ンアキ ンの星 は悪 意 を もつ もの ゆえ, しだ い にそ の力 は弱 ま りを みせ よ うとす る。 リンタ ン ・ジ ョコ ・ク ロボ はい よ い よ光 り輝 くO リンタ ン ・クム クス の魔 力 が な お も毒 を放 て ば, リンタ ン ・ジ ョコ ・ク ロボの力 は解 毒 剤 をふ りま き, 毒 を消 して い ったので あ る。 リンタ ン ・クム クスの毒 にあ た ったす べ て の者 は リンタ ン ・ジ ョコ ・ク ロボの力 に よ って息 を吹 きか え す。 じょ じょに, じょ じょに リンタ ン ・クム クスは リンタ ン ・ジ ョコ ・ク ロボの力 に当 た って力 を失 って
い
く 。 そ して突然 夜 の大空 か ら消 え失 せ た ので あ る。 〔1
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地 語 り クデ ィ リ国 は もとの静 け さを と り もど し,平 和 で安 全 な国 にな る。 だ が,ル シ ・ プヤ ンア キ ンの怒 りはそれで収 ま る もので はなか った ことが語 られ る。 ル シ ・プヤ ンアキ ンは 大地 に降 って挑戦 した ので あ る。 さあ, クデ ィ リ国 の守 護 者 とな って あえ て戦 場 に出 る者 はだ れか。 い まや ル シ ・プヤ ンアキ ンが呪 文 を唱 え, 王宮 前 広場 に ま き散 ら して い る。 た ち まち に怖 るべ き巨火 が燃 え あが った。 火 はい よ い よ大 き くな る。 ル シ ・プヤ ンアキ ンはみず か らの冠 り もの を もぎ と り, 火 の ただ な か に投 げれ ば, それが美 しい ゴ レ人形 (木 偶 人形 ) の姿 とな り, それ は火 の中 で焼 か れ て い る デ ウ ィ ・ガル ・チ ョ ン ドロキ ロノの よ うにみ え る。 このす べ てが キ ヤ イ ・ル ム ン ・マ ング ンジ ョヨによ って見透 され る。 ル シ ・プヤ ンアキ ンの 好 計 が。 そ の と きキ ヤ イ ・マ ン グ ンジ ョ ヨは壷 を っ か み, 火 に向 って投 げ る。 す る と火 の中 で ラデ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンが デ ウ ィ ・ガル ・スカル タ ジを抱 いた形 が み えて くる。 だ ん だ ん に き らめ く光 が み え, 火 が しだ い に消 え て い く。〔
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〕地 語 り 火 が消 え るや,双 方 と も もとの形 に返 り,壷 はル シ ・プヤ ンアキ ンの冠 り もの と ひ とっ にな る。 そ の超 能 力 が敗 れ た のを悟 り, ル シ ・プヤ ンアキ ンの力 は萎 え る。 す ごす ご と クデ ィ リの王宮 前 広場 を あ とにす るので あ る。 い まや物語 りは変 り, ス メル山 に苦 行 所 を開 く老 いた る聖女 グステ ィ ・キ リスチが部下 の-ピダ ラ ンを伺 候 させ, ジュ ンガ ラと クデ ィ リ, また ム ワル マ ンの三 国 を光輝 あ ら しめ るよ う話 しあ って い る。 三 つ の国 の王 た ち は ラデ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンとデ ウ ィ ・ガル ・ス カ ル タ ジの結 婚 に よ り, よ り一 体 な ら しめ られ るよ うとの こ とで あ る。 この ときエヤ ン ・キ リス チ はそ の王座 よ り立 ちあが り, ジュ ンガ ラ, そ して クデ ィ リ- と向か お うとす る。 その歩 み は 301東南 ア ジア研究 34巻 1号 ま こ とす ばや く---0 〔13〕地語 り 騒 ぎが鎮 ま るや ラデ ン ・パ ンジ ・グヌ ンサ リは,クデ ィ リの王宮 に救 いの手 を さ しのべ た高僧 は真実 だれだ ったのか を知 ろ うとす る ことが語 られ る。 か くて ラデ ン ・パ ンジ ・グヌ ンサ リは ウム プル ・ウム ブル (職 の意) の競技 会 を催 す ので あ とう る。彼 は公示 す る,幾重 に も束′ね られ た膝 の職 を裂 くことので きた者 は,武将 で あれ僧 で あれ, 誰 あ ろ うと, デ ウ ィ ・スカル タジを妻 にす る ことがで きよ う, と。 クデ ィ リの王宮 は湧 き立っ 。 武将 た ち, 高官, 兵, 王子 や その仲 間 た ち は大 い に驚 き, ラデ ン ・パ ンジ ・グヌ ンサ リの意 図 が何 なのか を怪 しむ。 だが執 り行 われね ば な らぬ。 い ま Lも ラデ ン ・パ ンジ ・グ ヌ ンサ リの願 い に同意 した一 人 の僧 が現 わ れ る。 それ こそ ル シ ・マ ング ンジ ョヨで あ った。 クデ ィ リの王宮前広場 じゅうが, ジュ ンガ ラ, クデ ィ リ, ム ワル マ ン各 国 の将兵 た ちで い っ ぱ いにな り, 束 ね られ た藤 を二 つ に裂 くコ ンクールを見 よ うとす る。 また大 空 で は神 々が, 王 宮前広場 の一辺 にそ って立 て並 べ られ たあ また の藤 の職 を裂 こ うとす る一人 の男 の仕事 を見 よ うとす る。 藤 の臓 が整 え られ終 るや, ラデ ン ・グヌ ンサ リは言 葉 を発 す るので あ る。み な さん, よ うこそお出で にな られ た と。 ほ どな くラデ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンがす す みで て, あ またの臓 を二 つ に裂 こ うとす る。 臓 にそ って しっ らえ られ た膝 製 の橋 の上 を片足 で跳 びすす む や,超 能 力 の持 主 で あ り,世 の一 切 の教 え を修 め終 え た武 将 に して高 僧 で あ る ことか ら, ル シ ・マ ング ンジ ョヨはす べ て の膝 を た ち ま ち に して二 つ に裂 さえ て,橋 の まん 中 に立 って い る。 か くて見物 人 はみ な驚 き,大 空 に喝采 が ひ び きわ た るので あ る。 写真7 ウォノサ リのワヤン・ベベル 〔13〕の部分。 302
松本 :WayangBeber- 中部 ジャワ・Wonosari地方のワヤン・ベベルを中心に 〔14〕地 語 り デ ウ ィ ・スカル タジは闘技 に参加 した者 が ラデ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ン で あ ることを知 り, 父 と母 に告 げ る。 さあ, エヤ ン ・キ リスチ と手 をつ な ぎ, 王宮前広場 にい る ラデ ン ・パ ンジ ・アスモ ロバ ング ンを迎 え ま しょう, と。 〔15,16〕地 語 り 疾 したた らせ,ラデ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンはエヤ ン ・キ リスチ と父 母,そ して長 く会 うこ とのなか ったデ ウ ィ ・ガル ・チ ョン ドロキ ロノに迎 え られ る。乳 母 た ち, 女官 たち, みん な もラデ ン ・パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ンの帰還 を歓迎 す る。 か くて ワヤ ン ・ベベルの物語 は終 る。 ど うか この物語 が, 生 の完全性 をえ よ うと努 め る人 の ため の指標 とな りえ ます よ う。 キヤ イ ・ル ム ン ・マ ング ンジ ョヨの行為 は この よ うで あ り, こ こに私 の語 りの言葉 も終 る。
ウ ォノサ リの ワヤ ン ・ベベル付記
2時間近 くを語 り終 え た ダ ラ ンはぽつ りと咳 いた。 この語 りは, 先輩 ダラ ンか ら教 え られ た もので, ワヤ ン ・ベベル は教 え られ なか った部分 を 自分勝 手 な脚色 で語 り加 え る ことはで きな いのだ と。 したが って, この家 に あ る他 の絵巻 『ジ ョコ ・タル ブ』(天人 の羽衣 に似 た伝説 ) は 先輩 か ら教 え られ る機 会 が なか ったので,残 念 なが ら語 る ことがで きな い との こ とで あ った。 とす れ ば, こ こで は言 葉 の細 部 にお け る即 興 は可 能 と して も, ワヤ ン ・ク リで の よ うな思 い きった即興性,構 成 の変化, 当意即妙 の イメー ジは許 され な い。 上 演 に さい して ラ ンプは不要 だ とす る点 にかん して は, ワヤ ン ・ク リを は じめ とす るさまざ まな様式 の ワヤ ンが本 来 見 る もので な くダラ ンの語 りとガム ラ ン伴奏 を聴 くだ けで十分 なのだ との理解 が ここで も十全 に生 きて い る ことを患 い知 らされ るので あ る。 物 語 の中で, 星 が歴然 と主要 人物 にな りか わ る点 につ いて は, 彪大 な ワヤ ン ・ク リの演 目の 中 で も辛 う じて マ- -バ ー ラタの英雄 ビモが聖 な る星 の象徴 と語 られ る ことが あ る くらいで, それが敵 味方 とな って戦 うな ど と設定 され る ことは,絶 えて無 い。星 の登場 に, イ ン ドや イ ス ラムの 占星術 の ワヤ ン ・ベ ベル- の強 い浸透 が見 られ る。 一般 に は ジ ャワの人 び とは星 - の関 心、はほ とん ど示 さな いので あ る。パチタ ンの ワヤ ン ・ベベル
最後 の モ ジ ョバ イ ト国 プ ロウ ィジ ョヨ五世 (在位 1468-78年 )の王女 が あ る時 えた いの しれ ぬ病 いに伏 した。 この王女 の病 気 を治 したのが, ノ ロ ドル モ とよばれ る寡婦 で, 彼女 はそのお 礼 に王 か ら, 子 々孫 々 にわた って生活 の糧 をえ られ るよ うに と, ワヤ ン ・ベベ ルを拝領 した と い う。 この女 性 の 13代 の孫 が,現 在 この絵巻物 を所 有 す るサ ル ネ ン氏 で, 彼 自身 ダ ラ ンだが,東 南 ア ジア研 究 34巻 1号 い ま は令 息 が代 って ダ ラ ンをつ とめて い る とい う。 パ チ タ ンは東 部 ジ ャワの南 西 端 に位 置 す る。 村 の名 は グ ドムポルで あ る。 この ワヤ ン ・ベベルの演 目は 『パ ンジ ・ジ ョコ ・クムバ ンクニ ン』 で あ る。 さまざまな記録 によれ ばパ ンジ物語 を措 いた ワヤ ン ・ベベ ル ・ゲ ドク は 16世 紀 に登 場 す る とあ る こ とか ら, これが最後 の モ ジ ョバ イ ト国王 か らの拝領 とい う説 に は疑 問符 がつ くが, それ は と もか く, さ きに紹 介 した ウ ォノサ リの もの よ りは時代 が古 い ことだ けは確 か なよ うだ。 これ まで の ワヤ ン ・ベ ベ ル研 究 は ほ とん ど このパ チ タ ンの もの に集 中 して い る。 この ワヤ ン ・ベベル は6巻 か ら成 り,1巻 に4場面,つ ごう24場面 が描 かれ,1巻 の長 さははば 4メー トル,高 さは40セ ンチ, ガ ム ラ ン伴 奏 はルバ ブ (擦弦楽器 ), ク ンダ ン (太鼓 ), ク トゥ, クノ ン, ゴ ング (以 上 青銅打楽器 ) で構成 され る。 曲 は ウ ォノサ リの もの と同 じ く1曲 だ けで, そ の変 奏 を くりか えす だ け という 。 上 演 目的 は病 気平癒祈願 で あ る。以下 に,24場面 に分 けた物 語 の あ らす じを示 す ことに しよ う。 〔1〕 クデ ィ リ国 の プロウ ィジ ョヨ王 は王座 にあ って, 大 臣や将官 たち と協議 して い る。 そ こ に は ジ ョコ ・クムバ ンクニ ン (別名,パ ンジ ・ア スモ ロバ ング ン)もい る。問題 は王女 デ ウ ィ ・ スカル タジ (別 名, チ ョン ドロキ ロノ) が異 国 の王 ク ロノの求婚 を嫌 い, いず こと も しれず失 綜 して しま った ので あ る。 〔2
〕
スカル タジ探索 を命 じられ た ジ ョコ ・クムバ ンクニ ンは二人 の召使 いを連 れて出発。途 中 クロノ軍 に遭遇 す るが,身 を避 け る。 〔3〕
スカル タジはは るか に逃 亡 して, トゥム ング ンガ ン村 の市場 で物 売 りを して い る。 か ね 〔4〕
ジ ョコ一行 は鉦 や大鼓 を鳴 ら し踊 る旅 芸人 よろ しく村 々を回 り, やが て トゥム ング ンガ 写 真8 パチタンのワヤン・ベベル 〔4〕の部分。 (1983年パチタンのワヤン・ベベル ・カレンダーより)松本 :WayangBeber- 中部 ジ ャワ・W onosari地 方 の ワヤ ン ・ベ ベル を中心に ン村 の市 場 に入 る。 そ の大騒 ぎに, ス カル タジは ワ リンギ ンの大樹 のか げ にか くれ る。 これ を 知 った ジ ョコだが, 彼 はその ま ま養父 キ ・ ドゥマ ン ・クニ ンの村 へ 向か う。 〔5
〕
キ ・ ドゥマ ンは ジ ョコか らこれ まで のす べ て を き き, 慎 重 に とさ とす。 〔6〕
老 い た る女 魔 術 師 ム ボ ・ミン ドコが ク ロノか らの使 者 と して その妹 の テ ガ ロ ンの訪 問 を うけ, ク ロノの スカル タ ジ- の求 婚 を知 る。 ミン ドコ怒 り, 両 者 の戟 い とな る。 〔7〕
デ ガ ロ ン敗 れ, ク ロノへ の報 告 に戻 る。 〔8〕
スカル タジの兄 ゴ ン ドル ポが ジ ョコの家来 タワ ンアル ンか ら一 部 始 終 を き く。 〔9〕
ゴ ン ドル ポ は父 王 に スカル タ ジ発 見 の い き さつ を語 る。 クデ ィ リ国 王 はただ ち に ク ロ ノ に嫁 取 りの闘 技 を告 げ る。 ジ ョコに勝 利 した暁 に は ス カル タ ジを与 え よ う と。〔
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まず は ク ロノの部下 クポ ロ ロ ダ ンと ジ ョコの部 下 タワ ンアル ンの戦 い だ。 〔1
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この状 況報 告 を うけた ジ ョコ ・クムバ ンクニ ンは急 拠 クデ ィ リ国 へ か けつ け る。 〔12〕 クデ ィ リの王宮 前 広場 で は タワ ンアル ンが クポ ロロダ ンに圧倒 され,傷 つ く。〔
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〕
タ ワ ンアル ンはそ の弟分 ノ ロ ドゥル モの看 護 を うけて い る。〔
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やが て ジ ョコ と クポ ロ ロ ダ ンの戦 い。〔
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ジ ョコは勝 利 す るや休 息 の た め養 父 の も とへ去 るが, さ らに ク ロノ と戦 うべ く, 呼 び戻 され る。〔
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さ きの戦 いで傷 っ いた タワ ンアル ンが静 養 中, ジ ョコの使 い に よ り呼 び戻 され る。 〔17〕 一 方, ク ロノ王 は決 戦 に臨 み, まず 隈想 に よ って ス カル タジの兄 ゴ ン ドル ポの姿 に変 身 し, クデ ィ リ王宮 の女 の館 に忍 び こみ, スカル タ ジを泣 致 しよ うとす る。 彼 自身 の妹 に よ り卑 劣 だ と邪 魔 され るが振 りき り, そ の姿 の ま ま王宮 に侵 入 す る。 〔18〕 にせ の ゴ ン ドル ポが ス カル タ ジに近 づ く。 彼女 はそれ が贋 者 で あ り, ク ロノの変 身 だ と 気付 くが, しだ い に遣 いっ め られ る。 そ こ-本物 の ゴ ン ドル ポが現 わ れ, 戦 い とな り, 贋 者 は 敗 れ, 逃 走 す る。 〔19〕 両 軍 の はげ しい戦 いがっ づ く。 や が て ク ロノは タワ ンアル ンとの一 騎 討 ち に集 れ る。 〔20〕 クデ ィ リ軍 は クロノの拠 って いた広大 な幕舎 か ら財産 や女 ど もを奪 い とる。 〔21〕 ク ロ ノ王 の女 た ち はす べ て クデ ィ リの王宮 へ連 れ られ, ゴ ン ドル ポに預 け られ る。 〔22〕 王座 にあ る クデ ィ リ国王 プロウ ィジ ョヨは ゴ ン ドル ポか らあ またの戦 利 品 を受 け,こ こ に ジ ョコ とス カル タジの婚 儀 を宣 告 す る。 〔23〕 花 嫁 花婿 の あで や か な装 飾 を身 につ け終 え た二 人 が, プ ン ドポ奥 の正 面 に座 す。 〔24〕 ジ ョコ ・クムバ ンクニ ン (パ ンジ) とスカル タ ジの盛 大 な婚 礼 の儀 が催 され る。東南 アジア研究 34巻1号 写真9 ワヤ ン ・ベベル上演 中のサル ネ ン氏。半 開 きの絵 巻 は 〔8〕 の部分。 パ チ タ ンで。 (ルル ン ・プス トコ,1970年8月号より)
お わ
リ に
ワヤ ン ・ベベルはすべての ワヤ ンの原点 をなす上演様式 であ るといわれ る。12世紀 に登場 し,一時 は華や ぎ,やがて野 に下 った。語 りと伴奏音楽 を本質 とす るワヤ ン千年 の歴史の うち に, ワヤ ン ・ベベルはひそやかに, はるかな昔, そ して未来を見詰 め,その本質を見失 うこと への警告 を秘めて清例の地下水の きらめきを,今 日なおゆ らめかせつづ けているのであ る。 謝 辞 本稿 を仕上 げ るにあた って,チ ュ ・ス トヨ,M.ム ス タム,大和 田尚,加清 明子諸氏 の ご協力 をえた。厚 くお礼 申 しあ げ る。 最後 に, この一文 を ワヤ ンの世界 に並 々な らぬ関心 を示 されたいまは亡 き土屋健治氏 に捧 げ る。 参 考 文 献HarsonoHadisoeseno.1965.PendidikandanKebudayaan- WayangdanPendidikan.Jakarta:P&K
R
I.Haryanto,S.1988.PratiwinbaAdhiluhung,Jakarta:Djambatan. 松本 亮.1985.『悲 しい魔女』 東京 :筑摩書房.
.1994.『ワヤ ンを楽 しむ』東京 :め こん
PoerbatjarakaR.M.Ng.・,danT.Hadidjaja.1952.KepustakaanDjawa.JakartaI.Djambatan. Sayid,R.M.1980.SejwahWayangBeber.Solo:ReksaPustaka.
S(℃tarnoDh.;danTH.S(EWarnO.1979.WayangBeber,con.teraJokoKembangKuning.Solo:Yayasan BinaBudaya.
SriHandojoKusumo.1970.RelungPustakar だerumahDjokoKembangKuning.Solo:Jajasan PahemanRadyapustaka.
SriMulyon0.1975.Wayang-Asalusul,FilsafatdanMasaDepannya.Jakarta:PTGunungAgung. 306