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笑い学研究 26(2019.8) 海外研究動向 笑い学 - 海外での研究動向 笑いに関する研究は世界中でおこなわれています 本欄では 英語で発表された笑い学の最近の研究成果をご紹介しています 笑いに関する研究は 医学 心理学 社会学 哲学 文学 言語学 動物行動学など 多様な学問領域の専門雑誌に掲載

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Academic year: 2021

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《笑い学-海外での研究動向》

 笑いに関する研究は世界中でおこなわれています。本欄では、英語で発表された笑い学 の最近の研究成果をご紹介しています。笑いに関する研究は、医学、心理学、社会学、哲 学、文学、言語学、動物行動学など、多様な学問領域の専門雑誌に掲載されています。本 号では、英文雑誌に掲載された日本在住の研究者による論文も含めました。幅広い分野で 展開されている世界の研究動向について共有することで、国内での笑い学の研究がさらに 発展することにつながればと考えています。  本号では計9本の研究論文についての紹介記事を掲載することになりました。記事の執 筆には、5名の研究者にご協力いただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。 (編集委員会) Frontiers in Psychology 10: 259 (2019) 日本人の微笑:一般的日本人の基本情動にみられる顔面表情

W. Sato, S. Hyniewska, K. Minemoto, S. Yoshikawa  ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲は、日本文化の礼節と奥ゆかしさに魅了されて「日 本人の微笑」と題した随筆を残した。実証研究によると、日本人の笑顔は控えめらしい。 筆頭著者の佐藤弥は、感情と社会的相互作用のメカニズムに関する心理・神経科学的研究 の成果を、世界に向けて精力的に発信している研究者だ。この論文でSatoらは、日本の青 年男女を対象に、表情の比較実験を行った。仮説は、基本情動理論だ。基本情動理論とは 「喜び、怒り、恐怖などの基本的な情動は人類共通」という考えかただ。基本情動と表情 は密接に結びつくので、基本的な表情も普遍的だと考えられる。つまり、笑顔は万国共通 というわけだ。本当だろうか?その答えを得るための手がかりを示したのがSatoらの実験 だ。Satoらは、人々の喜びや怒りの表情を記録した。といっても、実際に怒らせたり怖い 目にあわせたりするわけにはいかない。そこで、腹がたつ場面や怖い場面を想像してもら い、表情を記録する手法をとった。その結果、すべての情動において顔の動きは控えめで、 表情の区別も比較的曖昧だった。恐怖の表情に至っては、怒りや嫌悪や悲しみの表情と大 差なかった。日本人は顔の筋肉を大きく動かせないのだろうか?いや、そんなことはない ようだ。写真の人物と同じ表情を作る実験では、参加者はちゃんと大げさな表情も真似す ることができた。つまり、大げさな表情を作る能力はあるが、控えめにふるまっているの だ。海外で提唱された学説が日本にそのまま当てはまるとは限らない。Satoらは、実証研 究による理論の見直しが必要だと述べている。 (紹介:森田亜矢子)

海外研究動向

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European Journal of Humour Research 6 (1): 12-35 (2018) 宗教はユーモア感覚を形成するか? ―信仰によるユーモア認識の比較研究 K.-H. Ott, B. Schweizer  宗教に関するユーモアがトラブルを引き起こすケースが近年増加している。なかでも、 シャルリ・エブド襲撃事件をはじめ、ユーモアをめぐり異なる宗教が対立する例が耳目を 集めている。そうしたなか、信仰する宗教によって(あるいは信仰の有無によって)ユー モア感覚に違いが生じるか疑問に思ったことのあるひとは少なくないだろう。本論文は、 異なる宗教観をもつ人々にジョークを鑑賞・評価してもらい、認識の差異や傾向を考察す るものである。ジョークには、宗教と無関係のもの、宗教に関するもの、宗教的且つ不敬 なものが用意された。本調査は、アメリカのウェブサイト上でアンケート形式で実施され、 1000を超える回答を得た。その結果、ヒンドゥー教信者がユーモアに対してもっとも寛容 な姿勢を示し、他方、もっとも不寛容なのはキリスト教信者であることが明らかとなった。 昨今の事件の影響からユーモア理解に乏しいと考えられがちなイスラム教信者は、比較的 寛容ながら、不敬なジョークに不快感を示す割合が高かった。無神論者は不敬なジョーク も楽しんだ。しかしながら、全グループにおいて、不敬なジョークは面白さを減じる傾向 が観察された。 (紹介:石田 聖子)

Journal of Personality and Social Psychology 116(6): 966-988 (2018) 理想の笑顔:笑顔の社会的評価における文化差―理想感情の役割―

J. L. Tsai, E. Blevins, L. Z. Bencharit, L. Chim, H. H. Fung, D. Y. Yeung.  望ましい感情のありかたは「理想感情(Ideal Affect)」と呼ばれる。その内実は文化 によって異なるらしい。理想感情は、理想の表情を規定する。一連の調査によると、国民 に選ばれるリーダーは、その国の理想感情を反映した笑顔をみせるという。日本や香港や 台湾などのアジア系の人々は穏やかな笑顔を好む傾向があり、ヨーロッパ系アメリカ人は、 はじけるような満面の笑顔を好むらしい。Tsaiらのこの研究は、香港の人々とヨーロッパ 系アメリカ人を対象に、興奮した笑顔(excited smile)と穏やかな笑顔(calm smile)の 印象評価を比較する3つの実験を行っている。その結果、どちらの笑顔に好感(affiliative, agreeable, extraverted)を持つか、両者の違いが浮かびあがった。結果はおおむね仮説ど おり。就職試験を模した調査では、香港の人々は穏やかな笑顔の人物を採用し、ヨーロッ パ系アメリカ人は興奮した笑顔の人物を採用する傾向があった。多文化共生社会を迎える 今日において、重要度を増す研究だ。

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Scientific Reports 8(1): 4905 (2018) 隠れたシグナルの進化

P. E. Smaldino, T. J. Flamson, R. McElreath  人間の社会性は、相互援助や発展的なコミュニケーションから生じる利益を基盤として いる。しかし、世の中には多様な規範や好みが存在しているため、相互援助は単純明快と はいかず、コミュニケーションの意味も曖昧なものになる。このような状況下では、協力 を得るためにあえて曖昧な意味のシグナルを使うという方略が出現する。著者らは、こう した方略を隠れたシグナル(covert signaling)と呼んだ。それは例えば、ユーモアに埋め 込まれた隠し言葉のような、「分かる人には分かる」表現のことである。つまり、意味が 伝わる対象者が限られており、その人たちには理解されるが、それ以外の人には注意を払 われない言動のことである。この論文では、こうした隠れたシグナルが、相互援助を通し て得られる利益を効率的に得るために出現し、さらに、使用に伴って発展(進化)してい くことを、数理モデルを用いた数値シミュレーションによって検証した。哲学に端を発し、 実証研究へと発展してきたユーモア研究にも、新しい時代が到来しているようだ。 (紹介:野村 亮太) Frontiers in Psychology 8: 2342 (2018) 笑い声の曖昧さ:笑いの解釈は社会的文脈によって明確になる

W. Curran, G. J. McKeown, M. Rychlowska, E. André, J. Wagner, F. Lingenfelser  笑い声がどのように社会的機能を果たしているかについて、2つの考え方が提案されて いる。一つは、笑い声は、笑う人の感情状態についての情報を持っており、聞き手がそれ を解読するという考え方だ(表象伝達理論)。もう一つの考え方は、笑い声自体は明確な 情報を持たない曖昧なものだと捉える。笑い声は、社会的文脈や言語情報などの追加の情 報を伴うことによって、聞き手の感情状態に影響を与えるという考え方だ(感情誘発理論)。 同じ笑い声が、付随する情報によって聞き手にポジティブな感情もネガティブな感情も引 き起こし得るということである。この研究は、この2つの見方のどちらが正しいかを検討 しようとしている。笑い声の音声付き映像の真実性を判定してもらう実験をおこなってい る。実際の笑い声と、別の場面の笑い声に入れ替えた映像を比較したところ、笑い声の強 さが同じであれば、笑い声を入れ替えても真実性の判定が変化しないという結果となった。 感情誘発理論の方を支持する結果だと議論されている。文脈の影響については積極的に検 討されておらず、やや不十分ではあるが、未解決の重要な問題を扱う研究だ。 (紹介:松阪 崇久)

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Frontiers in Psychology 9: 4 (2018) 境界性パーソナリティ障害における笑われることへの恐れ C. Brück, S. Derstroff, D. Wildgruber  本研究は、境界性パーソナリティ障害(以下、BPD)における笑われ恐怖症(笑われる ことへの恐れ; gelotophobia)の発症率の高さについて調査した結果をまとめている。BPD の特徴として、他者から拒絶されることに対して強い不安を抱く傾向があるが、その要因 の一つに他者の情動や意図を理解する難しさが指摘されている。そのため、笑いを敵意や 拒絶のサインと捉える誤った解釈をしてしまう可能性が高い。BPDと診断された女性30名 (臨床群)とBPDではない女性30名(非臨床群)に、笑われ恐怖症を測定するのに広く用 いられる質問紙であるGELOPH <15>への記入を求めた。その結果、臨床群で笑われ恐怖症 傾向がみられた者は86.67%、非臨床群では6.67%であり、自閉スペクトラム症、統合失調症、 気分障害との関連を検討した先行研究と比較しても、BPDにおける笑われ恐怖症の割合が 大きかった。協力者が女性のみであったため、今後は男性のデータでも明らかにする必要 はあるものの、BPDと診断された者の笑われ恐怖傾向が高い要因として、他者から拒絶さ れることへの恐れから、笑いを拒否のサインと見なしてしまうことが考えられる。 (紹介:伊藤 理絵)

Journal of Counseling Psychology 65(4): 463-473 (2018)

精神力動的心理療法におけるクライエントの笑い:笑いごとではない

S. Gupta, C. E. Hill, D. M. Kivlighan Jr.  本論文は、対人関係の問題や不安またはうつを有する33人のクライエント(男性15人、 女性18人、平均年齢36.98歳)を対象に、博士課程に在籍するセラピスト16人(男性6人、 女性10人、平均年齢30.12歳)が行った精神力動的心理療法(個別セッション計330回)の中 にみられた笑いを詳細に観察、分析したものである。セッション中の笑いは1ケース平均3.5 秒であり、クライエントに生じた笑いは、「陽気(お互いにその瞬間を楽しむ笑い)」「丁寧 さ(礼儀正しい笑い)」「反射性(新たな気づきが生じた笑い)」「軽蔑(敵意や不承認を表 す笑い)」「緊張(緊張緩和の笑い)」の5つに特徴づけられた。また、治療の経過において 笑いの特徴や量に変化は見られなかったものの、クライエントの愛着スタイルによって笑 いが異なっており、愛着回避傾向の高いクライエントでの笑いは「軽蔑」が多くなっていた。 さらに、新たな気づきと関連する「反射性」の笑いが生じるとクライエントはそのセッショ ンをより肯定的に評価していた。  私自身も日頃の心理療法を実施していく中で、新たな気づきと共に生ずる「反射性」の 笑いを創造できるよう、引き続き模索していきたい。

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Frontiers in Psychology 8: 2043 (2017)

笑われ恐怖症のアセスメントのための絵画版検査の検証

W. Ruch, T. Platt, R. Bruntsch, R. Ďurka  笑われ恐怖症(gelotophobia)の人は、親和的で無害な笑いを悪意のある脅迫的なものと 誤って解釈してしまうと言われている。半投影法により笑われることへの恐れを試行的に 測定した研究でも(Ruch et al., 2009)、笑われていると予想できる状況が描かれたイラスト (絵画版Geloph)について、笑われ恐怖症の人の方がそうでない人よりも恐れの反応が強 く引き出されることが確認されていた。もしその傾向が笑われ恐怖症の人に本当に当ては まるならば、笑われ恐怖症のアセスメントとして、笑いに対する典型的な反応に狙いを定 めて評価することが可能となるだろう。笑われ恐怖症を主観的に評定するための標準的な 質問紙にGELOPH<15>(Ruch & Proyer, 2008)があるが、質問紙調査では笑われ恐怖症 の人が笑いに対して抱く自由な回答を得ることが難しい。本研究では、半投影法検査であ る絵画版Gelophの信頼性と妥当性を検討し、より標準化された検査項目と採点手続きを開 発した。先行研究では20枚の図版が用いられていたが、最終的に9枚に絞ることで、信頼 性と妥当性を高めることができた。笑われることへの恐れを評価する合理的で妥当なアセ スメントとなり得る絵画版Geloph<9>が提案された。 (紹介:伊藤 理絵)

Royal Society Open Science 5(8): 180491 (2018) ヤギもヒトの笑顔を好む

C. Nawroth, N. Albuquerque, C. Savalli, M.-S. Single, A. G. McElligott  犬や馬など、ヒトと生活や仕事を共にする動物たちはヒトの表情を理解できることが知 られている。では、犬や馬ほどヒトと日常的なコミュニケーションをおこなっていない、 他の家畜たちはどうなのだろうか?この研究は、ヤギがヒトの表情を区別できるかどうか を調べている。見知らぬ人の笑顔と怒りの表情の写真をヤギに見せた時に、どのような反 応が見られるかという実験をおこなっている。結果は、ヤギたちは最初に笑顔の写真に近 付くことが多く、笑顔の写真の近くにより長くいて見つめたり、鼻で触れたりするという ものだった。とくに、笑顔の写真が右側に掲示された場合に、そのような傾向が見られた という。これらの結果は、ヤギもヒトの笑顔と怒りの表情を見分けることができ、笑顔を より好むことを示している。ただし、ヤギたちがどうやってこのような傾向を持つように なったかは、まだわかっていない。ヒトとのコミュニケーションの経験を通して学んだも のなのか、あるいは生まれつきそのような能力が備わっているのか、今後の検討が必要だ。 (紹介:松阪 崇久)

参照

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