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ブランコヤドリバエの寄生行動に関する生態学的研究

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Academic year: 2021

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Title

ブランコヤドリバエの寄生行動に関する生態学的研究( 内容

の要旨 )

Author(s)

中村, 達

Report No.(Doctoral

Degree)

博士(農学) 乙第009号

Issue Date

1997-03-14

Type

博士論文

Version

publisher

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12099/2254

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

(2)

氏 名(本籍) 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月 日 学位授与の要件 学 位 論 文 題 目 審 査 委 貞 中 村 達 (茨城県) 博士(農学) 農博乙第9号 平成9年3月14日 学位規則第4粂第2項該当 プランコヤドリバェの寄生行動に関する生態学的 研究 主査 信 州 大 学 教 授 森 本 尚 武 副査 信 州 大 学 教 授 俣 野 敏 子 副査 岐 阜 大 学 教 授 櫻 井 宏 紀 副査 静 岡 大 学 教 授 西 垣 定治郎 副査 静 岡 大 学 教 授 廿日出 正 美 論 文 の 内 容 の 要 旨 本種は多くの鱗廼目害虫の幼虫、特にヤガ科害虫の有力な天敵昆虫である。しかし、 本種と同じ捕食寄生性天敵として既に実用化されている多くの寄生蜂に比べて、ヤドリ バエ類は、基礎的な生態や行動的特性の研究が遅れているために、多くの農林害虫の有 力な天敵としてその利用が有望視されているにもかかわらず、未だ実用化に至っていな い。 そこで、本研究は、先ず室内での累代飼育法の確立から始まった。この飼育法の成功 によって、従来未知であった本種の生態・行動の特性を明らかにすることが出来、さら に害虫の密度の高低や害虫の存在形式に対応した本種の効率的繁殖のパターンと生態・ 行動の特性との関係を明らかにすることが出来た。このような基礎的な研究成果を基に して、本種を有効な生物的防除手段として利用するための方策について考察を行ってい る。 その結果、 (1)野外から採集されたブランコヤドリバエをアワヨトウ幼虫を寄主として室内で 飼育し、発育、交尾、産卵及び寿命など、従来未知であった本種の生活史の特 性を明らかにした。さらにこれらの生活史の研究結果を基に、交尾率など室内 での累代飼育に必要な条件を種々改良し、同系交配による悪影響を避けるため に循環交配法を採用することによって、本種の室内での累代飼育に成功した。

(2)この飼育法の成功によって、本種成虫の産卵行動パターンを詳しく調べること

が可能になった。その観察から、雌成虫は寄主の頭・胸部に集中して産卵する 傾向がみられた。寄主は腹部に産下された卵を口器で破壊することと、この部

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位に産下された卵の羽化率が低いことから、頭・胸部への集中産卵は、寄生の 防衛行動による選択庄の結果と考えられた。 (3)寄主あたり産卵数が羽化成虫に及ぼす影響、及び雌の体のサイズと寿命・産卵 数との関係を調べ、寄主あたり産卵数とその寄主から羽化する娘たちが産卵す ると期待される総産卵数を基に、母雌が適応度を最大にできる寄主あたり最適 産卵数を求めた。その結果、雌成虫は1寄主から最大適応度を得るためには寄 主あたり約10卵、1卵からそれを得るためには寄主あたり1卵を産むべきで あることが明らかになり、寄主密度及びその時点での雌の保有成熟卵数によっ て、母雌は最大適応度を得るために、寄主あたり産卵数を1∼10の範囲で変 化させるものと予測された。 (4)単位面積あたりの寄主密度により寄主との遭遇頻度は変化し、これによって寄 主あたり最適産卵数は変化するはずである。そこで、(3)で求めた寄主あた り産卵数と実際に雌が産下する卵数との関係を、寄主を与える時間々隔及び寄 主を一度に与える数を変えて調べた。また、雌成虫が寄主に近づいてその場を 離れるまでの時間及び1回の産卵数も調べた0.その結果、寄主あたり産卵数は 寄主との遭遇頻度が高い場合、1(期待値)に近づいたが、逆にこれが低い場

合には期待値との即こ大きな隔たりがあった。これは体のサイズの小さな成虫

を過大評価した可能性があると考えられた0パッチ内滞在時問は、寄主を与え る時間々隔が短い場合、パッチあたり寄主密度の上昇とともに長くなったが、 寄主を与える時間々隔が長くなると、パッチあたり寄主密度に影響されず、パ ッチ離脱に時間固定戦略をとっているものと推定された01/回の産卵数はパッ チあたり寄主密度の上昇及び時間々隔の延長とともに増加したが、同じ時間々 隔でも寄主密度の上昇とともに増加することから、掛ま寄主密度を認識して1 回の産卵数を調節していることが明らかになった。 (5)本種は寄主の寄生程度及び寄主との遭遇頻度により、既寄生寄主への産卵を回 避していた。つまり、寄主との遭遇頻度が低い場合、雌成虫は既寄生寄主に対 して産卵回避しないが、これが高い場合には産卵回避行動を示した0すなわち 雌成虫は保有成熟卵によって産卵数を決定しているのではなく、寄主密度に応 じて、自らの産卵数を調節していた0既寄生寄主の寄生程度を識別し、寄主と の遭遇頻度により産卵数を調節する能力が存在することはヤドリバエでは初め ての知見である。 (6)一方、内部寄生性で、産卵後も寄主が成長を掛ナる寄生様式(koinobiont)を とる寄生蜂では、寄主範囲は狭く、それぞれの寄主種に対して種特異的な生化 学的適応を発達させている。同じkoinobiontであるにもかかわらず広い寄主 範囲を持つブランコヤドリバエでは、それぞれの寄主種に応じた細かい産卵戦 略を獲得するより、多くの寄主種に対応できる戦略をとる`よう進化してきたも のと考えられた。すなわち本棟は、既寄生寄主の識別を特定の寄主種に対して 正確に行うのではなく、多くの寄主種に対応できる大まかな寄主識別を行い、 寄主密度(寄主遭遇頻度やパッチあたり寄主密度)に応じた産卵数の調節をす

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ることにより、包括的にみて最も適応度を高めることができる繁殖戦略を獲得 したものと考えられた。 以上のことから、本種を鱗週目、ヤガ科の害虫の生物的防除手段として利用するに当 たって、害虫密度や環境要因に対応して本種の繁殖戦略を最大限に発揮させるための方 策についても考察及び提言を行った。 審 査 結 果 の 要 旨 近年環境保全の観点から、世界的に注目されている害虫の生物的防除の実用化に関す る研究が進みつつある。しかし、有力な天敵類による効果的な利用に関する基礎的分野 には未知の点が多く、生物的防除の実用化については生態学者や応用昆虫学者の間で 種々論議を呼ぶところである。 本論文で扱っている捕食寄生性天敵のブランコヤドリバエは、ヤガ科の多くの大害虫 に対する有力な生物的防除手段として世界的にその利用が有望視されている天敵昆虫で

ある。そのために従来からその利用に関して幾多の試みがなされ、利用が模索されて久

しいが、未だ実用化には至っていない。これは、本種が寄生蜂に比べて、その生態や行 動などに関する基礎的研究が遅れていることによるものである。 そこで、本論文は先づ本種の基礎生態や行動を明らかにする上でネックになっていた、 室内での累代飼育法を確立することから始まる。それによって本種の多くの生態や行動 の特性、特に産卵や寄生行動を明らかにし、本種を野外へ生物農薬として放飼するにあ たって、害虫密度の高低に対応した本種の効果的な利用法について考察を行ったもので ある。 論文の内容は、緒言以下2∼5章及び総合考察の合計6章から成り、第2章及び第3 章は、本種の生態や行動の特性を明らかにするための研究成果であり、ついで第4章及 び第5章は、本種を野外へ放飼し、生物的防除を効率的に行うための理論的・実証的研 究成果である。最後に第6章の稔合考察では、害虫個体群における本種の繁殖戦略の特 性から、生物的防除の実用化について考察を行ったものである。すなわち、第2章では、 本種の発育、交尾、産卵及び寿命など基本的な生活史に関する諸特性を明らかにした上 で、交配方法を工夫することによって、室内で累代飼育方法の開発を行っている。さら に、この飼育法によって、第3章では害虫個体群への産卵の行動パターンや産卵の日周 性及び寄主上での産卵部位など本種の産卵行動を明らかにした。ついで第4章では、寄 主あたりの産卵数が本種の子孫の種内競争や繁殖能力に及ぼす影響と、雌成虫にとって

最大適応度を獲得できる寄主あたりの最適産卵数を理論式から導き、それを実験的に証

明した。第5章では、寄主の時間的・空間的分布と産卵数の関係及び末寄生と既寄生の 識別能力の存在を明らかにした。最後に第6章では、生物的防除手段として既に実用化 が進んでいる寄生蜂の研究例と比較しながら、害虫密度や環境要因に対応した本種の最 適繁殖戦略ひいては、本種の生態・行動特性を最大限に発揮させた効率的な生物的防除

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の方策について考察している。 以上、審査委貞一同詳細な内容の吟味を行い、本論文は、従来から有力な天敵として その利用が有力視されながら、未だ実用化に至っていなかったブランコヤドリバエにつ いて、極めて困難であるとされていた飼育法を確立し、それによって詳細な生態・行動 の特性を解明することができ、害虫の効率的な生物的防除手段の確立に大きく貢献する ものとして高く評価した。さらに本種は世界各地に分布していることから、本論文の新 しい知見と、実用化への提言は、日本のみならず広く世界各国での広大な農地での生物 的防除に適用できるものである。別に行った学力確認試験の結果と併せて、審査委貝全 員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の学位論文として十分価値あるものと 認め、合格とした。 学位論文の基礎となる学術論文の発表雑誌名 NakamuraSatoshi(】994)Ⅰ}arasitjzationandLitもIlistoryParametersofExorista jqDOnica(Diptera:Tachinidae)UsingtheCommonArmyworm,Pseudaletia separata(Lepidoptera:Noctui(1ae)asaHost.Appl.Entomol.Zoo].29(2):]33-140 NakamuraSatoshi(1995)OptimalClul;ChSizeLbrMaximizjngReproduct二jveSuccess inaParasitoidFly,Exoristajaponica(Diptera:Tachinidae).Appl.Entomol・Zool・ 30(3):425-4:‡1 NakamuraSatoshi(1996)InbreedingandRotationalBreedingoftheParasitoidFly, 寧xoristaj?POmica(Diptera:Tachinidae),forSuccessiveRearing・Appl・Entomol・ Zool.31(3):433-441 NakamuraSatoshi(1997)OvjpositionalBehaviouroftheParasitoidFly,Exorisね j?POPica(Diptera:Tachinidae),intheLaboratory:DielPeriodicil‥yandI∃gg -DistributiononaHost.Appl.Entomol.Zool.32(1)(Accepted)

参照

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