149
?
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
?
第
J
l
J
l
章
?
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-近江の中小企業の海外進出
1
は じ め に
この主主では,わが国の海外直接投資の動向と,企業が海外に進出する際の理 論的条件について若干の考察を加えた後,質問表と電話インタビューを通じて 得られた資料に基づいて滋賀県の中小企業の海外進出の現状と課題について検 討する。2 海外進出の概念
まず海外進出の概念を明らかにしておこう。企業が海外に進出する場合には 資本の移動を伴う。そのため,通常,企業の海外進出と海外直接投資は互換的 にイ変われることが多い。本稿においてもこれに従うこととする。 海外直接投資は,マクロ的には国際間の長期資本移動のー形態と位置ずけら れる。それは,間接投資,すなわち,金融市場,資本市場,為替市場等を通じ て,利子や,配当または売却収入を目的とした投資と区別される。企業レベル でみると,海外直接投資は投資先で事業経営または経営参加を行うことを目的 とする資本の投下であり,その主な形態には,海外子会社の設立,既存外国企 業の買収,海外企業への資本参加(合弁企業),海外支庖・事務所の設立等があ る。3
日本の海外直接投資の動向
戦後ゼロからスター卜した日本の海外直接投資は,その残高において1990年 度には2,014億ドルに達し,米国の4,215億ドルについで世界第2位の地位をし めるまでに拡大した。日本企業の海外進出は1985年以降特にめざましし 90年 単年度では世界の対外投資に占める日本のシェアーは22.1% (480億ドル)と米 国(シェアー15.4%,334億ドル)を大きく引き離している。その結果, 日本の海 外生産比率(囲内生産に占める海外生産の比率)も大幅に上昇し, 85年度の3.0% から90年度には 6.4%に増加し, 91年度には6.9%まで拡大することが見込まれ ている。しかし,日本の海外生産比率は, 米 国 の 海 外 生 産 比 率23.8% (89年 度),旧西独の17.3%(86年度)をそれぞれ大きく下回っている (r我が国企業の海 外事業活動j各年版)。世界の対外投資における日本の投資の趨勢から見ても,ま た,円高への対応や恒常的な貿易黒字を緩和するという観点からも, 日本の海 外生産比率は今後さらに上昇することが予想される。 ここで戦後日本の製造企業の海外直接投資の軌跡と海外事業展開の特徴を簡 単に見ておこう。まず,海外直接投資の軌跡であるが,それは大きく 5つの段 階に分けることができる。第一段階は日本の海外直接投資が再開された1951年 から1960年代末までである。この時期,特に 60年代前半までの日本は外貨準備 が不足していたため,海外直接投資も商社の海外法人の設立など輸出入拠点の 確立や, 日本経済の復興・発展に不可欠な天然資源の確保を目的としたものが 中心であり,製造企業の海外進出は繊維,木材などごく一部の分野に限られて いた。この時期には,製造企業は主として商社の介在により輸出をする形で海 外展開を図っていた。 第二段階は, 日本の海外直接投資が本格的に行われ始めた1970年代前半であ り , 日本の海外直接投資の環境が著しく好転した時期に対応する。海外直接投 資を促進させたいくつかの王要な環境の変化にはつぎのようなことがある。ま ず,ニクソン・ショック (71年8月),スミソニアン協定(同 12月),変動相場市]1へ第11章近江の中小企業の海外進出 151 の移行 (72年6月一73年3月)という国際通貨体制の大きな変容があったことであ る。その結果,対ドル円相場は71年末には 1ドル308円に,そして,変動相場制 移行後は200円代へと推移していった。しかし,それにもかかわらず輸出は堅調 で, 日本の外貨準備は増加し国際収支の黒字基調が定着した。このような趨勢 の中で, 72年6月には海外投融資に対する第4次の自由化措置が取られ,海外 直接投資の規制は大幅に緩和された。第二に,高度成長期を経て国際的に力を つけてきた日本の製造企業は,円高基調と規制緩和に助けられ,自前の海外販 売拠点の確立を急、いだことである。その結果,急速に商社離れが起こった時期 である。第三に, 73年の石油ショ ック後のインフレにより国内の労働賃金が上 昇したたことであるo そのため,主として労働集約型産業が安価な労働力を求 めてアジア諸国を中心に海外進出を図った。 さらに,この時期は,アジア諸国 の輸入代替政策,工業化政策が進捗し,海外投資の受け入れが自国の経済政策 推進に貢献すると判断される場合それを歓迎する政策を打ち出した時期とも重 なる。そのため, 日本企業の海外直接投資に対する関心は大いに喚起きれるこ とになった。パスに乗り遅れまいと同業者が競って海外に進出するという,い わゆるバンドワゴン効果が見られるようになったのもこの時期である。 第三段階は, 70年代後半から80年代前半にかけてである。この時期には日本 の工業製品の対欧米輸出が飛躍的に拡大し,欧米との聞で,いわゆる貿易摩擦 が発生した。そのため,これを回避する目的で,アジアへの進出に力11え,欧米 諸国への製造企業の進出が活発化した。この時期は, 日本の経済界が,海外生 産においても欧米諸国と対等に競争できるという自信を深めた時期でもある。 第四段階は, 85年のプラザ合意による通貨調整の結果円高が急速に進行し輸 出採算が低下したことと, 92年にはEC統合が実現する運びとなったため,欧米 への現地生産シフトと豊富な労働力を求めたアジアへの投資が中小企業を含め て増大したH寺期である。加えて,このl時期には投資受け入れ国における現地部 品調達率の向上が政治問題化してきた。そのため,すでに海外に進出していた 企業は,進出先で部if占供給メーカーの育成を積極的に進めると共に,気心の知 れた囲内の下請け・部品メーカ一等に海外進出を働きかけることにより,現地
部品調達率の向上をめざす。その結果,下請け中小企業の海外直接投資が進み, 直接投資の裾野は飛躍的に拡大した。このように中小企業が海外直接投資に本 格的に参加するのは主として第四段階以降である。 1990年代に入って,いわゆるバブルが崩壊したため85年以降の急速な海外直 接投資はややその速度を緩めて来ている。また, 日本企業の海外直接投資に対 する姿勢も市場拡大・輸出代替をふまえつつも,採算性と国際的な経済要因を より慎重に考慮したものへと変化しつつある。これは80年代にはみられなかっ た投資態度であり, 日本の海外直接投資はバブル崩壊後第五期に入ったといえ る。今後, 日本企業は海外直接投資の決定に当たって,第五期にみられるよう な慎重な態度を維持するのではないかと考えられる。 とはいえ, 日本企業の海 外直接投資は,長期的には主として以下
2
つの要因により,下請け企業や中小 企業を含て広範な地域に生産立地を求めて暫増傾向をたどるものと予想される。 すなわち,東欧社会の西欧社会への接近, ASEAN諸国やアジアNIEsの力強い 経済発展,中国の「社会主義市場経済政策」の推進等, 日本の投資を引きつける 要因と,円高,貿易黒字,時間短縮, 3K忌避,現地調達率問題,そして,蓄積 された経営資源,特に人材の活用等, 日本企業を押し出す要因がそれである。 以上,戦後日本の海外直接投資の流れから分かるよ 7に, 日本企業の海外事 業展開は,おおよそ以下のようなプロセスを通じてそのフロンティア を拡大 してきたという特徴を持つことが伺える。(
1
)
天然資源の供給源の確保および商社を中心とする国際流通網の整備・確 立。製造企業は主として生産と国内販売に特化,輸出は商社に依存。(
2
)
製造大企業による自社輸出製品の販売拠点の確立。 (3) 製造大企業による輸出補完的な海外生産拠点の確立。比較優位を求めた 一部中小企業の海外生産の開始。 (4) 製造大企業による輸出代替的な海外生産拠点の確立・拡大。現地調達率 の向上を目的とした製造企業の下請け・部品供給メーカーの海外生産。 それでは,中小企業の海外直接投資は具体的にどのような形で行われている のであろうか。第11j章 近江の中小企業の海外進出 153
4
中小企業の海外直接投資の展開
中小企業の海外進出は, 80年代前半にも見られたが,先にみたように85年の 円高の進展以来急速に増加した。91年3月末現在の日本企業全体の投融資残高 に占める中小企業の残高は9.6%にすぎないが,海外直接投資を行っている企業 のうち中小企業は2l.1%を占めるに至っているr
(
第21回我が国企業の海外事業活 動.1)。さらに,投資件数でみれば,その増加率は86年から88年の間特にめざまし く88年には総投資件数に占める中小企業の割合は50%を超えた(図11-1)。しかし
89年以降中小企業の投資件数は減少傾向にあり,その割合も50%を下回る ようになった。これは,わが国の経済環境の変化のほかに, 89年より投資対象 案 件 が1,000万円超から3,000万円超に変更されたため, 3,000万円以下の投資案 件 が 公表された資料から除外きれていることと無関係とは考えられない。やが 図11-1 わが国企業の海外投資件数の推移 (件) (%) 3,000r
2,725 70(左目盛り) 海外投資何二数 2,500卜 600-0中小企業 9 ~ 50x---x全規模 2,000ト
(右目盛り) [y' ¥.?
/
1,625i
40D-占海外投資件 1,500ト
数全体に占 30 める中小企 500 卜 3o26--3G36』『?4Y7F30守~~/' 599 6191
10 318 10 019808182838485868788899091(年) 資料・全規模=大蔵省統計,中小企業=通商産業省調べ (注) 1 新規証券取得(現地法人の新設または新規資本参加)件数のみを対象としている。 2 中小企業の投資何数の中には,大企業との共同投資および個人投資を合む。 3.1984年4月より,対象案件を投資綴300万円超からI千万円超に変更,また,89年 7月より 1千万円超から 3千万円超に変更したため,連続しない。 4. 全規模は年度,中小企業は暦年の件数を比較したもの。 (t~,所:平成 4 年度 『中小企業白書J 37頁)て環境が回復すれば再び中小企業の海外投資が上昇に転ずることは十分予想さ れるo 地域別には, 87年まではアジアNIEsを中心とするアジア地域への投資が進ん だが, 88年以降北米への進出が増加すると共に, アジアにおいては, アジアNIEs から ASEAN諸国にその中心が移りつつある。また中国への進出も堅実に推移 しており, アジアにおける進出地域の分散化が進んている。さらに, 近 年
EC
統 合に向けて注目が集まっているヨ ロッパ諸国への投資も増加傾向にあり, 進 出先の多様化が進んでいる (平成 3年度 『中小企業白書j)。 図11-2 中小企業の海外投資件数の地域別構成比 81年 86年 北米44.2 北米 50.3 、、 、、 、 、 、、 、 、 、 北米 30.5 その他0.8 進出の目的を地域別にみると, 欧米諸国へは現地市場に対する製品ないしは 部品供給を目的とした進出や情報収集のための進出が多い。 アジアNIEsに対し ても近年は現地市場重視の進出が労働力確保等コスト・ダウンを目的とした進 出を上回っており, アジア NIEsへの進出が欧米型の消費立地型の進出へと変化 しつつある。 ASEAN諸国へは労働力確保と現地・第三国および日本市場への第11章 近 江 の 中 小 企 業 の 海 外 進 出 155 製品・部品供給を目的とする進出が多く, コスト・ダウン目的の進出がアジア NIEsから ASEANや中国へと移ってきている m992ジェトロ白書j)。このよう に80年代を通じて中小企業の海外進出は,進出目的と進出先の多様化が進みつ つある。 では,企業が海外に進出するに際して,経営上どのような条件が整っている ことが望ましいのか。ごく簡単に触れておこうo
5
海外進出の条件
企業が成功裡に経営を行うためには,その企業に競争上の優位性があること が前提となる。競争優位は,一般にその企業の持つ経営資源の質によって決ま るとされている。すなわち,経営方式,技術力,明文化しにくい経営ノウハウ, 人的資源,金融力,情報収集カ等が優れていることが不可欠な要件となる。通 常これを「企業特殊的優位性J
という。そして,I
企業特殊的優位性」を十分活 用するためには,その優位性が企業内に十分蓄積されていることが必要となる。 一方,企業が海外で事業展開しようとする場合には,対象とする国あるいは 地域における「国家ないしは地域特殊的優位性J
が問題となる。「国家ないしは 地域特殊的優位性」を判断する要因としては,企業活動に必要な天然資源・人 的資源の賦存,交通・通信・電力・工業用水・港湾等のインフラ・ストラクチ ャーの整備状況,投資優遇制度, 日本からの輸出に対する障壁の存在,政治 ・ 経済体i!JlJ,文化・社会・宗教的距離等があげられる。企業はこれらの要因を考 慮、して,特定の固に国内よりも{憂位に(あるいは同等に)企業活動を行う条件が 整っているかどうかを判断するのである。 企業に特殊的な優位性があっても,事業活動を展開しようとする海外の国や 地域に日本で事業を展開する場合よりも{夏位性が認められないときは, 企業は 海外直接投資よりも輸出を選好する。また,企業に特殊的優位性があっても, その優位性を支える経営力,人的資源,技術力等の経営資源の内部蓄積が十分 でない場合や,対象とする国や地域に十分な優位性が認められない場合には,企業は海外進出をすることによって組織を内部化する代わりに,企業の持つ技 術優位性のみを,ライセンス契約やフランチャイズ契約の形で海外に提供する ことがある。しかし,技術契約等に基づく海外事業展開は,その技術の非公開 性の故に,その漏洩防止のために思わぬ管理費用がかかる場合がある。技術開 発には莫大な費用と, 優れた人的資源が必要であるため,それを不法に真似ら れた場合の損失は計り知れない。したがって,企業内部に優位性を持つ経営資 源が十分蓄積されており, かつ,事業を展開しようとする固ないしは地域に特 殊的な優位性が認められるときには,企業は技術契約よりも直接投資を好むこ とが多い。すなわち,企業は出来れば自己資本100%,さもなければ経営主導権 のある合弁企業の形で優位な経営資源をパッケ ジとして海外に移転し,自社 の管理のもとで企業経営を展開するにれを企業活動の組織内部化インセンティヴ という)ことによって,
r
企業特殊的優位性」と「国家 (地 域)特殊的優位性」 の双方を有効に活用し,かつ,管理費用を最小化することが可能であるからで ある。 このように,企業の海外事業展開を「企業特殊的優位 性J
,r
国家 (地 域)特 殊的優位性jおよび「内部化インセンティヴjの3つの変数により説明する理 論は,海外事 業展開の3つの形態,すなわち, 輸出, 技術提携,海外直接投資 を同時に説明しうる 1つの代表的な理論となっている1)。6
滋賀県の中小企業の海外進出
以上を念頭に,滋賀県の中小 企業の海外進出は, わが国の中小企業の海外進 出の趨勢に沿っているのか,また,理論的整合性を持っているのか。以下その 特徴を考察することとする。 (1 ) 滋賀県の中小企業の特徴と海外進出 調査の対象となった企業は,今回の調査企業l38社のうち,海外進出に関して 無回答であった 4社を除いたl34社である。このうち海外直接投資を行っている第11章 近 江 の 中 小 企 業 の 海 外 進 出 157 企業は
7
社(
5
.
2
%
)
,現在海外進出を検討中の企業は3
社(
2
.
2
%
)
,直接投資を 伴わない形で海外と関係のある企業は3
社(
2
.
2
%
)
となっている。 滋賀県の中小企業の海外進出比率が全国的な観点からみて,大きいのか,小 さいのか,また,都道府県別順位としてどのような位置を占めているのかにつ いては,時間の制約があって調査できなかった。しかし,上述のごとし1
9
8
5
年以降のわが国の中小企業の海外進出の拡大化傾向からみて,滋賀県の中小企 業の海外進出は,必ずしも積極的であるとはいえないと思われる。 回収されたアンケートから推測される理由は,滋賀県の中小企業が強い地場 志向・保守志向を持っていることによるところが大きいと考えられることにあ る。まず,経営者の経歴を見ると,創業者本人が4
9
名(
3
9
.
5
%:
%は有効回答数 に占める割合,以下同じ),子供35
名(
2
8
.
2
%
)
,孫15
名(
1
2
.
1
%
)
,兄弟姉妹1
名(
0
.
8
%
)
,養子・女婿3
名(
2
.
4
%
)
,その他 親 族 が7
名(
5
.
6
%
)
となってお り, 合 計 で88.6%
の経営者が創業者ないしはその一族によって占められている。ま た, 経営者の性格を見ると,自らを「保守的で、ある」と判断している人は5
4
名(
4
0
.
3
%
)
に達し,r
人並はずれた経営意欲を持っている」と答えた人(
5
2
名3
8
.
8
%)を上回っている。さらに,r
文書でのコミュニケーションは不得手である」 とする経営者も5
7
名(
4
1.9
%
)
にのぼる。 このような経営者の性格は,企業の性格を家産的なものとする。すなわち, 滋賀県の中小企業の総括的な性格は,敢えてリスクをおかして企業活動を拡大 させることを旨とせず,家産を維持し,その発展を願うという志向性が強いと いえよう。経営戦略の側面からもこのことは裏付けられる。すなわち,r
多角化・ 新分野への進出・国際展開を考えているJ
企業は2
0
社(14
.
5
%
)
にすぎず,r
適 正規模の維持J
(
7
6
社,5
5
.
1
%
)や「エンド・ユーザーへの密菊
J
(
6
8
社,4
9
.
3
%
)
を重視している企業が多い。また,財務戦略についても,r
過大な借金をしな い」ことを旨としている企業は76
社(
5
5
.
1
%
)
であるのに対し,r
財テク等によ る別途収入の確保を考えている」企業はわずかに3
社(
2
.
2
%
)
にとどまってい る。 このような性格を持つ滋賀県の中小企業の経営活動には 2つの顕著な特徴が認められる。その 1つは経営活動の国内,特に近畿圏への集中である。すなわ ち,滋賀県内を主たる拠点とする企業は
1
0
4
社(
8
l.2
%
)にのぼり
,取引先が県 内および京阪神地区に限られている企業が,購買活動においては8
8
.
0%
,販売 活動においては7
5
.
4%
を占めている。これに中京地区と関東地区を加えると, 購買において9
4
.
6%
,販売においては93.5%
に達し,近畿を中心として関東に いたる地域を対象とした取引の割合が圧倒的に大きいことが分かる。海外の取 引先については質問事項が用意されなかったので具体的な数値は不明である。 しかし,r
その他地域jに取引先を持つ企業が購買活動で5.2%
,J仮売活動で6
.
2
%であることから見て,海外の取引先はそれ以下であることは明らかである。 滋賀県の中小企業の経営活動に占めるl
i
翁出入の割合は極めて小さいのである。 第二の特徴は,依存型ないしは共生型経営の比重が高いということである。 すなわち,総売上に占める受注品の割合が7l.5%
という高率であり,標準品は28.5%
にとどまっている。このことは,r
今日企業が存続している最大の外部要 因は何か」についての8
つの質問項目(
3
項目回答)の中で「親企業・取引先の 指導・援助」を指摘する企業が6
6
社(
4
7
.
8
%
)
と最高値を示したことによっても 支持される。ちなみに第二,第三の要因は,それぞれ「旺盛な商品需要J
5
2
社(
3
7
.
7
%)
r
好運に恵まれたJ
4
4
社(
3
l.9%
)
であった。 滋賀県の中小企業にみられる以上2つの経営活動の特徴から,海外進出につ いて滋賀県の中小企業が以下3つの特徴を持っていることが推量される。第一 に,滋賀県のほとんどの中小企業は自社の主体的な意思決定により環境の異な る海外へ進出することには消極的であること。第二に,滋賀県の中小企業の海 外展開のプロセスは先に述べた輸出→海外販売拠点の確立→現地生産という大 企業を中心とする日本企業の海外事業展開プロセスとは異なっていること。そ して,第三に,すでに海外に進出している滋賀県の中小企業は,必ずしも「企 業特殊的優位性」の蓄積と進出先の「国家(地域)特殊的優位性」を認めた上 で海外進出を決定したのではないのではないか,ということである。 では,海外進出を行っている滋賀県の中小企業にはどのような特徴が認めら れるのであろうか。第11章 近 江 の 中 小 企業の海外進出 159
(
2
)
進出企業のプロフイール 滋賀県の中小企業l34社の中で海外直接投資を行っている企業は7社である が,このうちl社は県外に本拠地をおくグループ企業の滋賀工場である。工場 長との電話インタビューによれば,海外進出はグループとして行っており,詳 細は不明であるとのことであった。したがって,この企業を対象から除き6
社について考察する。 表11-1に示すように 6社の内,海外に 2つの事業拠点を持っている企業が l社あり,他の 5社は 1拠点のみである。この内の1拠点は滋賀県の中小 企業 2社による合弁企業である。したがって,この 2社を含めて調査対象とした滋 賀県の中小企業の内,海外事業を行っている企業は6社 6拠点である。これら 企業の産業分野は,いずれも製造業である。その事業活動は自社製品の製造お よび販売であり,販売活動のみを目的として海外進出した企業はない。進出先 における企業規模は, A社とB社-1を│徐き現地の基準でも中小企業に属するo まず進出時期を見てみよう。 最も早〈海外に進出した企業はA社の1964年で ある。当時の日本は,まだ外貨不足時代で,海外直接投資に対する規制が厳し し特別な理由がない限り製造業の海外進出は困難で、あった。インタビューに よれば, A社には進出先の当局と特別な関係があったということであった。 A 社は,前述の日本企業の海外直接投資の第一段階に進出した製造業としては, 全国的にも数少ない例といえよう。E杜は第三段階に海外に進出した企業で, 中小企業の海外進出としては早い部類に属するo 他の3社は,いずれも 1985年 のプラザ合意以後の進出であり,中小企業の海外投資件数が飛躍的に増加した 第四段階に対応している。 進出先は,アジアのみであり, しかも,韓国,シンガポールおよびマレーシ アがそれぞれ2件ずっとなっている。進出時期でみると,韓国が最も早<,つ いで,シンカ、、ポール,マレーシアへと投資先が若干多様化してきている。これ は, 日本の対アジア投資が,安価な労働力を求めてアジアNIEsから, ASEAN へとシフトしつつあることに対応している。 つぎに進出形態であるが, 100%自己資本による進出は,A社とB社 lの2件表11-1 滋 賀 県 中 小 企 業 の 海 外 直 接 投 資 A社 B社 1 B社 2 C(atb)社I1 D杜 E社 進 出 年 次 1964 1986 1991 1988 1987 1979 進 出 地 域 韓国 ンンガポール マレーシア マレーンア 韓国 〆ンガポール 海 外 進 出 理 由 現 地 政 府 現地パートナーの要請 労働力確保 労働力不足 親企業の進 の 要 請 市場の確保 現地パートナー 出に伴って 出資金(百万円)21 240 51 49 100 26 30 自 己 資 本比率(幼 100 100 4031 80/20 4941 3051 従 業 員 数 1200 400 110 40 80 56 ( )内日本人 (1) (6) (0) (3) /(0) (0) (1) 現 地 製 造 品 目 家電完成品 家 電 用 家 電 用 ノ-i:Jレフ 繊 維 製 品 同 ル ト 基 布 モ ー タ ー モ ー タ ー 販売市場(%) 現 地 地 場 99 25 20 第三国 70 10061 10061 10061 対日 l 5 80 経 営 成 果 売 上 大 幅 達 成 大 幅 達 成 大 幅 達 成 目 標 以 下 目 標 以 下 達 成 経 常 利 益 大 幅 達 成 大 幅 達 成 大 幅 達 成 目 標 以 下 目 標 以 下 達 成 本社資本金(百万円) 10 98 454/50 50 45.5 本 社 業 態 貿易・下請 R&D.専門 R&D・専門 専門 下請家業型 /専門 受注品割合(%)1) 65 90 100/80 60 100 本 社 常 用 従 業 員 51 290 145/70 30 83 創 業 ・社 長 年 齢 S.29・68 S.23・62 S.37・59 S.29・67 T.8・62 S.36・66 (注) 1) C社は滋賀県の中小企業a社とb社の合弁企業。 a社とb社の内訳区分は/で表示。 2) 進出時の実勢レ トによる円換算。 3)出資比率40%はB社のシンガポール法人による出資。残りの60%の内20%は大手商社の7 レーンア法人, 40%は現地パートナーの出資。 4)残りの51%は韓国の複数パ トナーの出資。 5)残りの70%の内, 30%は日本の主要取引先の出資。 40%は繊維関係の商社の出資。 6) 工場が輸出特区に立地しているため,現地市場向けの製品も含め統計上すべて第三国向け 輸出として計上される。 7) 日本の本社工場における生産活動に占める受注品の割合(表11-2および表 11-3において も同様)。
第 11章近江の中小企業の海外進出 161 であり,他の
4
件は合弁形式を取っている。そのうちD
社は進出先の複数の出 資者との合弁企業であり,現地ノぞートナーの出資比率が合計で51%となり,経 営の主導権は韓国側にあるとのことである。B社-2の場合は, 40%がB社 1の 出資であり, 20%は日本の大手総合商社のマレーシア法人が出資している。残 りの40%はマレ‘シアのパートナーの出資となっているが,マジョリティーは 日本側にあり,経営の主導権はB社にある。E社の出資比率は30%であるが, 残りの70%は日本における主要最終納入先 (30%)と取扱い商社 (40%)が出資 している。C(a+b)社は日本のa社と b杜の合弁企業であるが,進出主体は中間 財メーカーのa社であり a社が海外生産を開始するため a社に下請けとし て素材を納入しているb社が一定のノウハウの提供と20%の出資を引き受けた というo 従って,実質上の経営はa社が行っているとのことであった。よって, 以後C(a十b)社をa社が代表する 1社として取り扱うこととする。 では,これらの企業はいかなる理由で海外進出をしたのであろうか。まず注 目されるのは「現地パートナーの要請」が2社3拠点と進出理由としては最も 多いことである。このうち l社2拠点は日本の主要取引先企業の現地法人から の要請によるものである。このl社に 「系列親企業の進出に伴って」を理由と している 1社を加えると 5社のうち2社 3件 (B社一1,B社一2,E社)が主要 取引先の海外進出に付随する形で海外進出をしたことが分かる。このことは, 上述の出資構成を見てもほぼ想像できることである。 これら 2社の進出経緯を今少し具体的にみておこっ。投資受け入れ国,特に 発展途上国においては,産業の裾野を広げるため,部品の現地調達率向上に対 する現地政府の要請が増大している。しかしながら,現地に当該部品を供給す る企業が存在しないか,あるいは,地場企業の製品が経済的ニーズに殆ど応え られない状態で,かつ,その分野の育成が自国の経済発展にとって重要で、ある 場合,現地政府は技術移転を促進する目的て、当該部品供給メーカーを海外から 誘致し, こ れを創始産業として認め,一定期聞の免税・減税等の優遇措置を講 じる政策を採っている。一方,すでに海外に進出している主要取引先(その多く も同様の理由から優遇措置を受けて進出した)は,現地政府による部品の現地調達率向上の要請に加え, 日本での労働力不足・労働コスト上昇により部品を日本 から輸入したのでは採算が採り難くなったため,これを現地調達に切り替える 必要に迫られることになった。このように,現地政府の政策的理由と現地へ進 出した主要取引先の経営上の理由から,これら企業は日本における部品供給メ ーカーに海外進出を打診するに至った。これを受けて,部品メーカーはその納 入先企業と更に密接な関係を維持するために,創始産業の適用を受けて海外進 出に踏み切ることになったといつのが B社およびE社の進出理由となってい る。 「現地ノfートナーの要請」により進出した他のl社はD社であるo 同社は韓国 の複数の取引企業から資金提供の申し入れがあったため,これら企業との合弁 の形で海外進出をしたケースである。進出の目的は,より廉価な労働力の確保 と取引拡大にある。 D社の製造品目は標準化された繊維の完成品であるため創 始産業の適用は受けていない。 A社の進出理由は,
I
現地政府の要請」によるものである。具体的には,現地 (韓国)の在日領事館より自国の経済建設のため進出してほしいとの要請があっ たとのことである。A
社が進出した1
9
6
4
年には,韓国には外資導入法は制定さ れていなかったが(
1
9
6
6
年に制定),A
社は進出に際して資金援助等の優遇措置を 講じられたという。 C社は,創始産業の適応を受けてはいるものの,取引先や特定のパートナー の要請ではなく,労働力不足への対応と市場の拡大を目的として自らの経営戦 略に基づいて海外進出を決定した企業である。家産維持型・依存型の中小企業 が多い滋賀県においては,極めて主体性のある海外進出といえよう。 以上の経緯から,海外に進出している滋賀県の中小企業は 1社を除き自社 独自の経営戦略に基づいて海外進出を決定したのではないということ,また, まず輸出によって海外市場を開拓・拡大し,その市場を確保することを目的に 現地に販売拠点を確立した後に海外生産に踏み切ったものでもないということ が明らかとなった。このことから,上記6
節(1)に述べた2つの推量,すなわち, 「滋賀県のほとんどの中小企業は自社の主体的な意思決定により環境の異なる海第11章近江の中小企業の海外進出 163 外へ進出することには消極的であること」および「滋賀県の中小企業の海外展 開のフ。ロセスは輸出→海外販売拠点の確立→現地生産という大企業を中心とす る日本企業の海外事業展開プロセスとは異なっていること」は,ほほ、支持され るということができる。 では,海外に進出した滋賀県の中小企業の経営状態はどうであろうか。
(
3
)
海外経営の実態 i) 事 業 活 動 海外に進出している 5社は製品の生命循環の観点からみれば,すべて「標準 化 段 階J
にある製品を生産している2)。韓 国 に 進出している 2杜 (A社と D社) は完成品を,他の3社 (B社,c
社, E社)は中間財を生産している(表11-1参 照)。まず完成品を生産している2
社についてみてみる。A
社は日本から技術部 長1名のみを出向させ扇風機, ミキサー,ジューサー,換気扇,井戸ポンプ等 のアッセンブリーと日本 か ら 進出した大手家電メーカーの下請けとしてプレス 加工を行会っている。部品の現地調達率は約90%で,主要部品だけを日本の本社 工場から輸入している。 製品の99%は現地市場を対象に販売されている。A社 の製品は,技術的にかなりの程度標準化されているため,現地企業に対して技 術・ノウハウ面での競争優位はあまりない。また,現地市場で地場企業の製品 と競争しなければならないため, 日本よりも低廉な労働力を活用しても労働コ スト面では地場企業と同じ条件となり,現地でのコスト優位性は認められない。 しかしながら, A社の進出経緯からも推察されるように, A社は有力な人脈を 活用し現地市場で独自の販売ネット ・ワークを確立しており販売は順調に推移 しているとのことであった。 D社は, 日本人駐在員は置かず,縫いぐるみ,寝装品,縫製品等の生産を行 っている。原材料は100%現地で調達している。D
社 のj仮売先は20%が 現 地 市 場, 80%が日本市場となっている。現地市場における販売については,合弁ノf ートナーに任せているとのことであるが,現地市場を対象とする場合には,製 品の性格上, A社以上に生産技術面と労働コスト面においては競争優位性は認められない。また, 日本への輸出についても,成熟商品であるだけに,デザイ ンやアイディアなど若干の差別化要因はあるとしても,より廉価な労働力を使 った ASEAN諸国等からの賃金格差貿易には対抗できない状態にある。 中間財を生産している3社もかなり成熟段階にある製品の生産に従事してい る。これら3社のうち2社は自社の企業タイプを R&D.専門型と分類してお り,他のl社は下請家業型と分類している。まず R&D・専門型企業から見てみ よう。
B
社はシンガポール法人,マレーシア法人ともエアコンおよび洗濯機用 のモーターを製造している。モータ一自体はかなり標準化された製品類型に属 するものの B社は自社のR&D部門で開発したモーターを製造しており,その 工作機械も自社で開発 ・設計・fljiJ作した最新鋭のものを現地で使用していると のことであった。最新鋭の機械を現地に導入した理由は,頻繁なジョブ・ホッ ピングに対応するためであるといっ。すなわち,機械設備のメインテナンス以 外には高度な技能の蓄積の必要性を極力排除し,非熟練労働者でもマニュアル によって正確に操作できることを狙らったものであるという。日本からは,社 長l名のほか製造担当2名,技術・品質管理担当, 資材 ・計画担当,経理・総 務担当,各1名をシンガポール法人へ出向させ手堅く経営を管理するという布 陣を敷いているo マレーシア法人へはシンガポールから週に1
-2
度目本人出 向者 が出向いて経営に当たっているとのことである。製品は地場市場のほか, タイ,中国,米固などに事業を展開している日本の大手電機メーカー数社へ, それぞれの仕様に合わせて全量納入している。 C (a十b)社の製造品目はパルプであり,これもかなりの成熱製品といえる。 日本ではb社で開発した特殊なゴムとa
社で開発した特殊な弁体を使用し業界 でも評価の高い特殊なバルブを制 作している。 しかし, マレーシア工場では, これよりやや単純な標準化されたパルブを生産しているとのことである。日本 からは,工場長のほか製造担当および営'業担当の計3名を出向させ経営に当た らせている。C杜におけるパルプの制作は手作業によるところが多いため,労 働コストの高低が経営の鍵を握る重大な要因となる。先に述べたとおりC社が 廉価な労働力確保を進出の主要目的の1
っとする所以である。確かに進出当初第11章 近江の中小企業の海外進出 165 の
8
7
年にはC
杜の立地した工業団地には6
社の日本企業があったに過ぎず,進 出の目的は叶えられたかに見えた。しかしその後, 日本企業のマレーシア進出 が急増し92年には50社がひしめく状態となった。そのため,日本企業間での現 場労働者の引き抜きが激しくなり,廉価な労働力の雌保はもはや望み難<,現 在 は 労 働 コ ス ト アップに悩んでいるとのことである。また,現地での原材料・ 部品の調達は,ゴム以外に比較優位性はなく,高度な技術を必要とする部品は 日本や台湾から,その他をインド等,よりコストの安い固から輸入しているが, 調達コストは上昇傾向にあるという。C
社の今1
つの進出目的は市場の拡大に あるが,製品は特定の企業との長期契約によるものではなし現地て営'業マン を雇用し約70%
を現地市場に,残りをタイ,シンガポール,インドネシア,香 港,オーストラリア等に独自の販売活動を通じて輸出している。 E社は下請け家業型の企業に分類されている。その生産品目はベルト基布で あり,業界では標準商品ではあるが, 一般には特殊素材ということができる。 E社は当初, 日本において永年にわたり下請け企業として緊密な取引関係にあ る日本最大手のベルト会社のシンガポール工場に製品を納入するため進出した が,その後,同ベルト会社のオーストリア,米国,フィリピン,タイおよびイ ンドネシア工場への納入も引き受けているという。進出当初から2年聞は本社 から技術担当者を派遣していたが,技術移転もほぼ終わり,派遣のコス ト負担 もかなりに上るため,現在は常駐者はいないとのことであった。原材料は,主 としてパキスタンから,半製品は米国と日本から輸入しているという。 i i) 経営成果 海外に進出している滋賀県の中小企業5
社6
拠点のうち,売上, 利益とも目 標を大幅に上回っている企業は 2杜3拠点, 目標通りの企業が1社l拠点, 目 標に達しない企業は2社 2拠点となっている(表11-1参照)。このような経営成 果は決して偶然の産物ではなく,ある共通した特徴が認められる。経営成果の 高いA
社とB
杜そして目標通りのE
社についてまず考察する。これらの企業に 共通することは,第一に,自社の出資比率が100%
であるか, 日本側の出資比率 の合計が1
0
0
%
であるかのいずれかであり,経営の主導権は進出企業にあるということである。そのため,自社の経営戦略をそのまま笑行することが可能な体 制にある。第二に,製品の販路が確立していることであるo A社の場合は現地 に有力な販売ルートが確立きれていることはすでに見たとおりである。またA 社の社長は自ら進出先の韓国の歴史,文化,社会を詳しく研究し,経営の向上 や販売ルートの維持・拡大に努めているとのことであった。 B社とE社につい てはすべて受注品の生産であり,自らマーケティング活動をする必要は殆んど ない。そのうえ,納入先企業が海外各地で積極的な事 業展開を行っているため, 要求に応じた品質・価格・納期を提供する限りそれに対応して業績は自然に伸 びる仕組みになっている。さらに,納入先企業の現地工場が近隣に立地してい るため,絶えず納入先のニーズの変化に対応することが可能である。 一方, 経営成果が目標に達していないC社およびD社においては上記の第一 および第二の条件のいずれか,ないしは,両方を欠いていることが認められる。 このことは, 自社の製品に優位性があっても,一般に人的資源に余裕のない中 小企業においては,価値観や習慣などの異なる経営環境の中で自ら販路を開拓 しそれを維持・拡大することがいかに困難であるかを物語っているといえよう。 C社はこのケースに該当する。 D社の場合は,出資比率がマイノリティーであ るため,自社の経営戦略を実行することが困難で、ある上に,地場市場における 販路についてもパートナーにまかさざるを得ない状態である。さらに,財務・ 経理面でも十分な管理が出来ない状態にあることが想像される。出資比率がマ イノ リティーであり,かつ,版売チャネルが確立していない場合には,よほど の技術的優位性と経営資源の蓄積がない限り,市場の拡大を可能にし所定の経 営成果を上げることは困難で、あるといえよっ。事実C杜においては現状維持を いかにはかるかが最大の課題となっており,
D
社においてはできれば撤退した いということであった。 第三に,c
社とD
社の海外進出動機が,低廉な労働力確保にあったことであ る。確かに進出当初はこの条件は満たされていたが,進出先国の経済発展が予 想、を超える早きで進捗したため,数年を経ずしてこれが誤算となってしまった ことが共通点としてあげられる。すでに第 4節でみたように,コスト・ ダウン第11章近江の中小企業の海外進出 167 を目的とした日本の中小 企業の海外進出は,アジアNIEsから ASEAN諸国や 中国へと移ってきている。アジアNIEsやASEAN諸国(特に7レーシアとタイ) では経済発展が急速に進展しているため,上記第一,第二の条件が満たされな い場合,コス ト・ ダウンを目的とした進出が成果を納めることはかなり困難と なってきているのが現状であるといえよう。 なお,現地に日本から相応の人材を駐在させているB社とC社では,交代派 遣要員に困難を来たし始めているとのことであった。 以上から,海外に進出している滋賀県の中小企業は経営成果の良否にかかわ らず,また,パートナ一等の要請による進出であるか否かにかかわらず,進出 企業に「企業特殊的優位性jがあるとしてもその蓄積は十分とはいえず,また, 「国家(地域)特殊的優位性」を認めた進出であるとしても労働コスト以外の優 位性について十分な分析がなされた上での進出ではないということができょう。 海外に進出している滋賀県の中小企業が,進出当初「企業特殊的優位性」と 「国家(地域)特殊的優位性」の両者の存在を十分確認して進出を決定したとは いえないのではないかという,上記6節(1)に述べた第三の推論はほぽ支持され るようである。 (4) 海外進出を検討中の企業 我々の調査では現在海外進出を検討中と回答した企業が3社あることは先に 述べた。表11-2に示されているように,これらはいずれも R&D型の企業であ り,独自に開発した優れた技術により特殊用途に使われる製品を制作している。 これらの製品は,製品の生命循環過程の観点からみれば,いずれも「新製品段 階
J
にある。F
社は精密i
l!iJ定工具を生産している。これは歯車などのミクロン単位の誤差 を測定する工具で,品質管理には欠くことの出来ない製品であり, 家電,自動 車,工作機械等,広い産業分野で使用されている。現在のところ日本には同種 の工具を生産している企業は他にI杜しかない。世界的にも英国とドイツにあ わせて数社あるだけといっ。同社の製品は自社の人的資源の制約もあり専門商表11-2 海外進出を検討の滋賀県中小企業 F社 G社 Hネ土 進出地域 中国(暫定) 韓国(瞥定) 未定 海外進出現由 取引商社の要請 海外同業者とのバランス 市場拡大 内外市場の確保 内外市場の確保 進出形態 考慮中(ライセンスまたは日本側出資100%の合弁形態) 製造予定品目 精密測定工具 超高分子ポリエチレン 籾殻連続炭化プラント 販売市場 現地地場市場・第三国市場・日本市場 本社資本金(百万円) 6 32 50
本社業態 R&D.専門 R&D・専門 R&D
受注品割合(%) 55 50 90 常用従業員 55 114 25 創業・社長年齢 S44・53 S37・46 S16・37 社を通して輸出されているが, 日本企業の海外進出に伴って輸出需要は増加し ている。今後も相当の伸びが見込まれるという。このような趨勢にあって同社 の製品の取扱い商社から,海外進出について打診があったため,その可能性を 検討中というのが現状である。同社は海外進出の戦略として,まず,商社を通 じて少なくともアジア全域に十分な市場を確保した上で,市場の潜在力も大き しかっ,労働力の豊富な地域に生産拠点を確立するという方式をとりたいと している。しかし, 海 外直接投資の形とするか,技術供与の形とするかは未定 とのことである。海外直接投資の場合は,中国が有力な候補地となるが,生産 過程で要求される技術が高いため,現地の人的資源で果たしてこれがこなせる かどうかを見きわめる必要があるという。 G杜は超高分子ポリエチレンを生産している。この製品は, 自動車,電機等, 広範な産業分野で使用されているコンヴ、ェイアーの下に敷く方、イ ド・レールの 被覆,ビールや食品等の充填前の整列コントロール,石炭や鉄鉱石のホッノfー の内面ライニングなど,集導コントロールが必要な分野で広〈使用されている。 日本での競合企業は7社であるが,海外市場では日本企業よりも,むしろ,米
第11章近江の中小企業の海外進出 169 国およびドイツ企業と競合関係にあるとのことであった。同社の海外展開は日 本の大手プラント ・メーカーの要請に始まる。現在販売委託の他に,先方から 引き合いのあった台湾,オース トラリア等の顧客を軸に海外市場の拡大をめざ しており,十分市場が確保できた段階で海外に生産拠点を確立する方針である という。しかし,温度や湿度管理等,作業環境が品質に大きく影響するため, 進出先の選定には慎重な検討を要するとのことであった。現段階では進出先と して韓国を lつの候補地と考えているが,進出地をどこにするか,そして,海 外直接投資と技術供与のいずれの形とするかはまだ詰めていないとのことであ る。 H社は環境保全関連機器の大手企業と対等の技術提携により籾殻連続炭化プ ラントを開発した企業である。このプラン卜は籾殻や柳子殻等の農業廃棄物を 炭化し,それを土壌改良等に使用するものであり,有機農業の復活が叫ばれて いる今日極めて意味のあるプラントであるといえる。現在同種のプラントの製 作技術を持つ企業は世界には同社の他にはないとのことである。プラントはH 社では生産せず,外部企業に技術を提供し生産させているとのことである。現 在対象としている市場は圏内だけであり,海外市場についての調査はしていな いとのことであった。しかし,アジア一帯は稲作地帯であり,また,相
s
子原料 および同製品の世界最大の供給地でもある。そのため,同プラン トの潜在需要 は極めて大きいと予想される。ただ現段階では,アジア諸国では農業廃棄物の 人工的なリサイクルとい7概念がまだまだ未発達であるため,商社を通じて市 場開拓の努力をした後,情報入手等の目的で駐在員事務所を開設し,十分な検 討を経て海外進出を決定するとのことであった。H社においても進出形態まで は検討していないのが現状である。 以上から分かるようにこれら3社には共通した特徴がみられる。第一に,こ れらの企業は技術商において,いはば独占的優位性を持っていることである。 しかも,第二に,需要が広範な産業ないしは地域にわたることである。しかし, 第三に,企業組織全体を見た場合,技術力以外の経営資源が十分に蓄積されて いるかについては疑問無しとはしないこと。そのため,第四に,版売面については,
G
社をやや例外として,かなりの程度商社に依存していることである。 第五に,海外進出に踏み切る前に十分な市場を確保する姿勢が強いことである。 そして,第六に,海外進出をする場合は取引商社等との合弁形式とし,そこを 地場および、第三国市場への供給拠点にしたいとすることである。 これら 3社の海外展開プロセスは,先に述べたように,まず商社を通じて市 場を確保した後に海外進出を図るという日本の大企業の初期における海外展開 のパターンによく似ている。その意味で,これら3
社はすでに海外に進出して いる滋賀県の中小企業とはやや性格を異にしており,自社の「技術特殊的優位 性」をふまえ,進出先の「国家(地域)特殊的優位性」を十分検討した上て、¥ 慎重に海外進出を決定しようとする志向が強いことが伺える。もし実現すれば、, 滋賀県では新しいタイプの主体的な企業進出といえよう。また,これら 3杜の 海外進出に対する慎重な姿勢は 3節で述べた今後予想される日本企業の海外 直接投資の姿勢にも呼応するものといえよう。 これらの企業の技術は, 当分アジア諸国による自主開発は望めないと考えら れる。しかも,進出先における技術の 「模倣ラグ」 はかなり大きいと考えられ る。そのため,進出する場合には恐らく創始産業条項が適用されるであろう。 したがって,自社開発の技術を大切にする意味からも,技術供与ではなく日本 側資本100%による進出が望ま しいといえよう。ただ,技術が特殊であるだけ に,組織内の技術移転にもかなりの困難が伴うことが懸念される。技術者の継 続的派遣と現地の人材育成の促進が,進出後の課題となろう。 (5) 海外直接投資を伴わない海外展開 表11-3に示すように回答を得た滋賀県の中小企業の中には海外直接投資を伴 わない形で海外と関係を持っている企業が3社ある。これらの企業の製品はい ずれも標準化段階ないしは成熟段階にある。I
社は鉄鋼鍛造品を生産しており,その95%
を下請けとして国内企業に供給 しているが,残りの5%
を米国へ直接輸出している。同社は輸出開始当初から 日本国籍の在米日系人1名と契約し,輸出先との契約事務や輸出品に対する評第11章近江の中小企業の海外進出 171 表11-3 滋賀県中小企業の海外直接投資を伴わない海外展開 Iヰ':1: J社 K社 関係開始年次 1975 1990 1989 関係国 米国 米国 中国 海外展開理由 現地市場の仰:保 現地取引先の要請 安1ifiiな原材料確保 関係内容 情報収集 OEM提携 技術指導 出資金
。
。
。
派遣人員 日系人l名と契約。
。
関係固との取引 輸出 輸出 輸入 本社資本金(百万円) 55.25 146.05 200 業 布l 鉄鋼鍛造品製版 空調機ボイラー製lJ反 絹織物製造・卸 業 態 下請 専門 伝統・老舗・専門 受注品割合(%) 95 100 20 常用従業員 150 540 130 創業・社長年齢 S31・47 S47・65 M23・621
i
l
i
i
の把握の他に日米通商問題等一般的な経済情報を収集・提供させている。報 酬契約は固定給プラス成約等の請負給としているとのことであった。J
社は,ある大手重工系の空調機器と汎用ボイラーの専門系列企業である。 その製品の一部を米国の T社 へ OEM(相手ブランドによる供給)契約により提供 している。 日本からは技術者l名を派遣し輸出品のアフター ・サービスを行っ ている。 K社は治賀県でも有数の老舗で,地場産 業として伝統のある絹織物の製造と 卸を営・んでいる。昨今原料の絹が国内で品薄となり価格が高騰したため,その 対応策として,供給源を絹の産地である中国に求めたというのが海外とのかか わりの経緯である。具体的には,中国産の絹が高品質志向の日本人の晴好に合 いにくいため,単純な輸入形態はとらず, 日本から機械を提供し,技術指導を 行うことにより,安価で、良質な原料の確保に努めているという。技術者は常駐きせず,必要に応じて出張させているという。安価な原料を海外から調達する というK社の経営戦略は,伝統ある地場産業の事業展開の lつの方向を示唆し ているようでもある。 なお 3社共今後資本提携をする意図はないとのことであった。
7
課 題
以上,滋賀県の中小企業の中で海外進出を行っている企業,進出を検討中の 企業,および直接投資を伴わない形で海外と関係を持っている企業について, やや詳しく考察してきた。滋賀県には先に述べたょっに一般に家産維持型の中 小企業が多いため,これら企業が今後海外進出を積極的に展開する可能性は多 くはないであろう。しかし,一方,下請けないしは受注品依存型の企業もかな りの数に上るため,納入先の企業の海外進出に伴って,海外進出を要請される ケースは徐々に増えることが予想、される。また, R&D型企業も育ってきてお り,独自技術をもって,海外進出を図る企業も暫増するであろうo すでにその 兆候は上にみたとおりである。 そこで,すでに海外進出を行っている滋賀県の中小企業の実態と筆者が別途 に行った幾つかの実態調査で明らかとなったことの中で,中小企業が今後海外 に進出するに当たり経営上特に留意すべきであると考えられることを以下若干 述べておきたい。 (1) 優位性の分析と進出形態 圏内で成功している企業を見ると,そこには「企業特殊的優位性」が認めら れる。しかし,中小企業の場合,それは「技術面」あるいは「小回りがきく」 ことや「特殊な分野」における優位性といったことに限られることが多い。経 営組織面や,情報収集カ,人的資源の蓄積,規模や範囲の経済性といった面で は必ずしも十分な優位性があるとは言い切れない。海外進出をする場合,自社 の優位性がどのようなものであり,それがどの程度持続的に発揮できるかを十第11章近江の中小企業の海外進出 173 分分析しておく必要がある。また,進出先を検討する際,企業化調査 (F巴asibil -ity Study)の一環として,進出先の「国家(地域)特殊的優位性」の特性につい てさまざまな角度から,綿密な調査・分析をし,その優位性の将来の推移をも 予測しておくことが望まれる。そして,
I
企業特殊的優位性」と「国家(地域) 特殊的優位性」のどの側面を重視し,それをどのよっに活用するのかを十分検 討した上で進出形態を決定することが賢明であるといえよう。 例えば, 100%自己資本で進出する場合でも,販売面については,すでに確立 された販売チャネルを持っている企業とタイ・アップすることが望まれる。中 小企業においては独自に海外市場を開拓するため多大のコストを投入するより も,限られた人的資源や物的資源を他の分野で有効に活用する便益が大きいこ とが少なくないためである。ただし,タイ・アップする企業との聞に十分な信 頼関係が確立されていることが不可欠となる。 危機管理についても同様のことがいえる。最近海外において日本人出向者が 悪質な事件に巻き込まれるケースが暫増している。自社の社員がこのような事 件に遭遇しないという保障はどこにもない。不幸にしてこのような事件が発生 したとき,どのような捜査体制・ 支援体制を組むのか。海外進出企業では,そ の対応策を全社的に十分検討しておくことが緊要となってきている。しかし, 中小企業は一般に情報収集能力や資金能力,組織力において優位性があること が少ないため,満足な体制を取ることができないのが実状であろう。したがっ て,この点からも,海外進出にあったては永年信頼関係にある企業の協力・支 援があることが望ましいといえよう。 また,安価な労働力という進出先の優位性を求めて海外進出をする場合は, それが, どの程度持続的に供給可能か。労働力の質的水準はどうか。労働コス トが上昇したときはどうするのか。その時点で対応策を講じるのか,第二,第 三の進出候補地を一方で、絶えず検討しておくのか,あるいは, 当初から撤退を 前提として,短期的に成果を上げる計画で単発的に進出するのか。これらのこ とについてあらかじめ検討しておくことが肝要で、あろう。(2) パートナーの選択について 現地企業等と合弁の形で海外進出する場合は,そのパートナーの選択を慎重 に行うことが肝要で、ある。 一般に企業が海外に進出する際には,経営支配権を 確保する意味で自国資本100%で進出することが望ましいといえよう。しかし 進出先の外資導入法の規定等により,これが出来ないときは投資受け入れ国の 資本との合弁企業の形をとらざるを得ない。しかもその場合,投資国の資本が マイノ リティーとなるケースが多い。外国企業との合弁の場合は,彼我の役割 分担および権限と責任関係を事前に十分話し合い,合意事項を明文化しておく ことが重要で、ある。希望する形で合意が得られないときは,海外進出を再検討 すべきである。安易に合弁相手および合弁内容を決定することは,事 業の成否 に極めて大きな影響を及ぽすことを認識しておく 必要があろう。 l段│床な形での 合弁は紛争の原因となることを銘記すべきである。なお,理由には触れないが, 合弁相手が現地政府または間関係機関である場合は特に注意を要ーする。 また,技術提携の形をとる場合においても,えてして発展途上国では技術の 持つ価値や意味に対する考え方が先進国とは異なるため,思わぬ被害が発生す る可能性がある。技術提携相手を慎重に検討するとともに,技術契約の内容に 誤解の生じないようにしておくことが肝要で、ある。 (3) 日本からの中間管理職派遣要員について 日本の海外経営においては,製造業の現場レベルにおける経営方式は相当程 度うまく機能しているというのがかなり一般的な評価である。しかし,現場レ ベルの経営の成功は,現地の現場労働者の聞で自然発生的にもたらされるもの ではない。 整理・整頓 ・清潔といった職場規律の確立,現場の声を吸い上げそれを現場 運営に生かすことによる現場労働者の参加意識の向上, これらの成果としての 高品質・低不良率の実現などは, 日本から派遣された中間管理者層が彼らの機 能と能力を十分発揮することによって初めて可能になるものといえる。すなわ ち,現場レベルにおける経営の成否は,中間管理職の機能と能力に大きく左右
第 11j章 近江の中小企業の海外進出 175 されるというのが現実であるといえる。 し か し そ の 機 能 は多重的・複合的で あるため,簡単には海外へ移転で、きない。それだけに日本人出向者の役割は大 きい。 しかし納入先の要請等による,いわば依存的な形で海外に進出する場合に は, 日本からの適格交替要員の不足が海外経営の大きな課題となる。その理由 のlつは,滋賀県の中小企業の従業員には,地元在住の長男や兼業農家が多く, 長期にわたって家を離れられないという事情がある。また,派遣経費の負担も 大きい。このような条件のもとで,いかにして,技術,人事管理,財経,資材 管理,品質管理等の海外派遣要員を養成し,海外事業を経営して行くのか。企 業はこの点を十分考慮、して海外展開を行うことが望まれる。 lつの代替案は,管理職のポストの現地化を促進することであろう。確かに 人の現地化は現地政府の求めるところでもあり,段階的にはその方向へ向かう ことが望ましい。しかし,現地化を急いだあまり,技術面にとどまらず経営全 体に姐舶を来たした事例は少なくない。もって他山の石とすべきである。 (4) 現場従業員への対応 海外進出をしている滋賀県の中小企業においては,給与体系は現地の体系を 採用し,ある程度刺激給などを導入して,生産性の向上を図っているという。 この方向は,間違っていないと考えるが,現場労働者の管理に対して3つのこ とを提案しておきたい。その1つは,欧米企業のように,現場労働者を現場限 りにとどめおくのではなし能力に応じて昇進させるというインセンティウゃを 持たせること。第二に,雇用が完全に保証されているのではないという緊張感 を与えること。筆者の他の研究では,雇用が保証されていると感じている従業 員の企業への貢献意欲は,そうでない人よりも小きいことが分かっている3)。 概 してアジアの従業員は,企業帰属意識を持ち難いものであることを認識してお く必要があろう。第三に,アジアの従業員は, 日本人のように,黙って努力す ればやがては報われるという感覚を持っていないということである。したがっ て,彼らの成果に対して,かなり短期的に報いる必要があろう。アジアにおい
ては,昇給を年2回あるいは3回行っている地場企業もあることに留意すべき である。 (5) 現場従業員の採用に関する問題 滋賀県の中小企業には家産型の企業が多いため,おそらく地縁・血縁を頼つ ての採用が今でもかなり広く行われていると想像される。アジアにおいては, この慣行はいまだ一般的といってもよい。管理者の採用は,新聞広告などを通 じ慎重に面接を行った上で決定されるのが通例であるが,現場労働者の採用 は現地人従業員にまかされることが多い。その場合,現地人従業員の縁故者が 採用されることが少なくない。このよ7な経緯で採用された人は,企業に対し てよりも,むしろ,紹介者にある種の恩義を感じることになる。彼らは,概し て血縁・地縁への帰属意識が強い。したがって,紹介者を中心に現場経営がう まく機能することがある。しかし,他方,このような形で採用された人が多く なれば,そこに
1
つの非公式な集団ができ,セクショナリズムや不正が発生し 易くなる。そのため,現地人スタッフに紹介を依頼するときは,その人の資質 をよく理解した上でなされなければならない。現場経営に組踊を来さないため にも,この辺りを十分心得ている現地労務担当者を確保することが鍵となろう。 (6) 現地尊重の姿勢 企業が海外に進出する以上,所定の利益を確保することは重要で、あるが,そ の前に,あるいは,そのためにも,現地を理解し現地社会に愛着を持つことが 重要で、あることを最後に強調しておきたい。 日本は明治以来脱亜入欧の精神のもとで欧米先進諸国に追いつくべく努力を 重ねてきた。そのためか, 日本人の多くはいまだに欧米人に対して潜在的に劣 等感を持っている反面,近隣の諸国に対してはある種の優越意識を持っている ことは否めない。そもそもいかなる民族でもこの種の二面的意識を持っている と言われているが, 日本企業のアジア諸国への進出が増加し, 日本のプレセツ スが大きくなるに従って, 日本人の横柄な態度が目につくようになってきた。第 11章近江の中小企業の海外進出 177 筆者自身もアジア諸国のレス トランやパーでわがもの顔に振る舞う日本企業の 駐在員の姿を見て,何度か肩身の狭い思いをした経験を持っている。アジアに おいて経営一流,企業二流,駐在員三流などといわれる所以である。 滋賀県の中小企業の進出先は現在のところアジア地域に限られているが,ア ジア地域は第二次世界大戦中に戦場となったところが多しそれぞれの国民の 日本人に対する怨嵯の念は未だに消え去っていないことを忘れてはならない。 王室同士の関係が深<,戦火の広がりの少なかったタイにおいてすら同じこと がいえる。「戦場にかける橋」で有名なクワイ・リヴ、ァー沿いのカチャナブリを 起点とする泰緬鉄道建設に当たっての日本軍のタイ人および連合軍捕虜に対す る残忍・非道な行為を, 日本人観光客以外を対象とする観光ツアーではカ