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ミトコンドリア脳筋症児の麻酔経験

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Academic year: 2021

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54 臨床報告

臨鱗、3繍63網1貫〕

ミトコンドリア脳筋症児の麻酔経験

東京女子医科大学 麻酔科学教室 シミズ ヒロコ スズキ ヒデヒロ フジタ マサオ

清水 博子・鈴木 英弘・藤田 昌雄

東京女子医科大学 第一生理学教室 キタ ノ シン イチ ロウ

北野慎一郎

東京女子医科大学 小児科学教室

ハヤシ キタ ミフクヤマユキオ

林 北見・福山幸夫

(受付 昭和63年7月7日) はじめに 本邦では,高乳酸血症を呈する患者の麻酔につ いての報告は少ない.今回,私共は原因精査のた めに行った肝・筋生検の麻酔を経験したので,考 察を加えて報告する. 症 例 患者は6歳女児.在胎37週で2340gにて帝王切 開で出産した.仮死はなかったが,黄疽のために 光線療法を行った.発育,発達は正常である.生 後10カ,月から4歳の時に有熱時痙攣発作があっ た.6歳を過ぎた頃から,視力障害を先行するて んかん発作があり,外来にて経過観察中で抗てん かん薬を服用中である.家族歴としては,兄に頻 回の熱性痙攣がある以外特記すべき事項はない. 今回,原因精査のための肝・筋生検目的にて入院 となった.検査所見では,Hydroxybutyric dehy− drogenase(HBD)366RU(正常値37∼167RU), Creatine phosphokinase(CPK)196mu/ml(正 常値18∼99mu/ml),乳酸63.5mg/d1(正常値 3.3∼14.9mg/dl),ピルビソ酸1.20mg/dl(正常値 0.30∼0.94mg/dl)と高値を示し,動脈血分析で は,pH 7.312, HCO…18.9mmol/1, BE−6.3と代 謝性アシドーシスを呈した. 麻酔前投薬は,麻酔導入1時間前にベントバル ビタール25mg経口投与,30分前に硫酸アトロピ ン0.25mg,塩酸ヒドロキシジン25mgを筋注し た.サイオペソタール50mgにて入羽後,・・ロセ ソ・笑気(GOF)で緩徐導入,局麻剤をスプレー 後挿寒し,GOFにより麻酔を維持した.術後の経 過は安定しており,心電図上にも異常は認められ なかった。輸液量は195ml/h,尿量は約0.5ml/h/ kgと少なめであった.輸液としては,:最初にブド ウ糖加乳酸加リンゲル液80ml,次に5%ブドウ糖 と生理食塩水混合液(1:1)115miを使用した. 術中の動脈血分析によれば,pH 7.369, HC鉱19.6 mmol/1, BE−4.8と軽度代謝性アシドーシスを 呈した.麻酔からの覚醒は速やかで,生検終了後 間もなく抜管し帰室した. 手術後の経過は順調で,10日後に退院したが, 乳酸値は依然高く,アシドーシスを呈した.肝・ 筋生検の結果,チトクロームC酸化酵素欠損症に よるミトコンドリア脳筋症との診断であったが, その後の治療にもかかわらず1年6ヵ月後に死亡 した. 考 察 ミトコンドリアの機能異常を伴う筋疾患を初め Hiroko SHIMIZU, Hidehiro SUZUKI and Masao FUJITA〔Department of Anesthesiology, Tokyo

Women’s Medical Co11ege〕,Shinichiro KITANO〔Department of Physiology, Tokyo Women’s Medical

College〕, Kitami HAYASHI and Yukio FUKUYAMA〔Department of Pedeatrics, Tokyo Women’s

Medical College〕:Anesthetic management of a child with mitochondrial encepnalomyopathy

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55

表1 ミトコンドリアミオバチーの分類

A.生化学的異常が明らかとなったもの 1)ミトコンドリア基質転送異常

a.Carnitine欠損症(筋型,全身型)

b.Carnitine palmitoyl transfarase(CPTI, II)欠 損症

c.Carnitine+CPT欠損症 2)ミトコンドリア基質の利用異常

Pyruvale dehydrogenase complex(PDHC)欠損

3)電子伝達系の異常

a.Cytochrome c oxidase(aa,)欠損症

b.Cytochrome aa,十b欠損症

c,Cytochrome b欠損症

d.NADH酸化の異常(NADH CoQ reductase欠

損) 4).エネルギー維持と伝達の異常 a,基礎代謝充進を伴うもの(Luft病) b,ミトコンドリアATPase欠損 B.形態学的異常 1)ミオパチー症状のみのもの 2)中枢神経症状を伴うもの(MELA*, Fukuhara生な ど) 3)進行性外眼筋麻痺を伴うもの(Kearns−Shy症候群な ど)

*mitochondrial encephalomyopathy and lactic acidosis

て報告したのは,1962年LuftらであったD.次い でShyらによりミトコンドリアの形態異常を伴 う筋疾患が報告され2),その後ミトコンドリア脳 筋症についても知られるようになった.ミトコン ドリアの異常を伴う疾患群は,現在でも病因論的 分類を可能にするほどにはその本質が明らかにさ れていないが,ミトコンドリア筋症は表1のごと く分類されている3>. ミトコンドリアは2つの主な基質をエネルギー とするが,その1つはglucose−6−phosphateより 由来するピルビン酸であり,もう1つは遊離脂肪 酸である.両者はいずれもミトコンドリアに入り アセチルCoAとなってクエン酸回路に入り,電 子伝達系を経てエネルギーを産生する.電子伝達 系に関わる酵素の異常があると,解糖によって生 成された還元型nicotinamide adeninedinu− cleotide(NADH)の二酸化が妨げられ, adenosine triphosphate(ATP)産生も抑制を受ける.細胞 内ATP濃度の減少により,解糖系の律速酵素の 1つであるphosphofructo−Kinase(PFK)は活性 化され,ピルビン酸生成反応が促進される.また, ピルビン酸のアセチルCoAへの転換はpyruvate dehydrogenase complex(PDHC)によって行わ れるが,NADHの再酸化が妨げられると,この反 応も抑制されピルビン酸濃度が上昇する.このピ ルビン酸濃度の充進は一次的ないしは二次的に乳 酸値を上昇させ高乳酸血症をきたし,代謝性アシ ドーシスとなる. 麻酔を施す上で問題となるのは,この高度のピ ルビン酸・乳酸蓄積による代謝性アシドーシスで あり,その結果,細胞活動全般の抑制を来す.従っ て,今回のように診断目的の検査のための麻酔で は,その代謝性アシドーシスの治療が最も重要な ポイントである.治療薬としては,重曹やtris一 〔hydroxy−methyl〕一amino−methane(THAM)が 用いられているが,最近,ジクロル酢酸投与によ り良好な治療成績を得た,という報告もある4).ジ クロル酢酸はPDH活性を高めることにより,ピ ルビン酸の代謝を図ると考えられている. ところで,乳酸加リンゲル液はアシドーシス予 防効果を持つ輸液として広く使用されているが, この使用にも問題がある.輸液中の乳酸はナトリ ウムとの塩として存在している.市販の輸液中に 含まれる乳酸ナトリウムはL型とD型のラセミ 体をなしており,L型は肝臓で代謝され重炭酸ナ トリウムに転換され,代謝性アシドーシスの治療 効果を持つのに対し,D型は食物,腸内細菌叢に 由来し,L型に比べその代謝ははるかに遅い,と考 えられている.しかしながら,乳酸の肝臓での代 謝については疑問もあり,ミトコンドリア重詰症 児への乳酸加リンゲル投与によるpHの低下の報 告もあり5),その使用には充分な注意が必要であ ろうと思われる.今回の症例では,総輸液量195m1 のうち,ブドウ糖・生理食塩水(1:1)混合液 115mlと,ブドウ糖加乳酸加リンゲル液を80ml用 いたが,そのためのpHの低下は認められなかっ た. 次に,麻酔医による過換気も注意を要する.過 換気による動脈血中の炭酸ガス分圧の低下は肝血 流を減少させ,PDHの酵素活性を低下させ, pH の上昇によりPFK活性の八進が起こり,乳酸の 増加をきたす可能性があるからである. 一1133

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56 さらに,てんかん発作に対し長期投与されてい る抗痙攣薬による肝における酵素誘導も乳酸・ピ ルビン酸の代謝上,問題となると思われる. 以上,高乳酸血症・てんかん発作・代謝性アシ ドーシスを呈したミトコンドリア脳筋症(Mito−

chondrial encephalomyopathy and lactic

abidosis, MELA)児の麻酔経験を若干の考察を加

え報告した.

文 献

1)Lnft R, Ikkos D, Palmieri G et al:Acase of

severe hyper metabolism of nonthyroid origin and a defect in the manintenance of mitochon一

.drial respiratory control:Acorrelated clinical,

biochemical and morphological study. J CIin Invest 41:1776−1804, 1962

2)Shy GM, Gonafas NK, Perez M;Two child・

hood myopathies with abnorlnal mitochondria

I.Megaconial myopathy. II. Pleoconial myQpathy, Brain 89:133−158,1966

3)埜中征哉:ミトコンドリアミオパチー.Medical Way 10:2−5,1985

4)Stacpoole PW, Harman EM, Curry SH et al: Treatment of lactic acidosis with dichlor・

oacetate. N Engl∫Med 309:390,1983

5)郷律子,坂田正策,加藤道久ほか:ミトコンド

リア脳筋症の麻酔経験,臨床麻酔 11:57−61,

1987

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