原 著 〔東女医大誌 第64巻 第2号頁97∼101平成6年2月〕
ヒト血中corticotropin−releasing factor−binding
proteinのラジオイムノアッセイ
東京女子医科大学 第二内科学教室(主任 オオ モリ ナリ コ大 森 就 子
出村 博教授) (受付 平成5年10月6日)Radioimmunoassay for Corticotropin−Releasing Factor・Binding
Protein in Human P藍asmaNariko OMORI
Department of Medicine II(Director:Prof. Hiroshi DEMURA), Institute of Clinical End㏄rinology, Tokyo Women’s Medical College Plasma immunoreactive corticotropin−releasing factor・bind玉ng protein(CRF−BP)concentrations were determined by using a radioimmunoassay(RIA)for human CRFBP. Binding of CRFBP to the antiserum against the C−terminal fragment of CRF−BP was unaffected by human CRF. The basal plasma CRF−BP concentrat童on was 4ユ9±0.57 nmol/L(mean±SD). Plasma CRFBP levels were藍ower in patients with cushing’s syndrome than in normal subjects, but higher in patients with Addison’s disease. Thus, there was a negative correlation between the basal plasma level of CRF−BP and cortisol. These findings indicate that the CRF・binding site is not the C−term童nal side of CRF−BP and that plasma CRFBP levels are affected by plasma cortisol levels, at Ieast in chronic conditions. 緒 言ヒト血中には,adrenocorticotropic hormone
(ACTH)分泌刺激因子であるcorticotropin−
releasing factor(CRF)に特異的に結合する蛋白 CRF−binding protein(CRFBP)が存在する1)∼3).我々は以前,ラベルしたCRFとCRF−BPとの
binding assay法により, CRF−BPの分子量が約
38,000で,分子内にS−S結合を有する糖蛋白であ
ること鋤,糖質コルチコイドの抑制を受けるこ
と5),また,贋帯血中にも存在し,分娩直前に減少し,分娩後の新生児では1週間前後で回復するこ
と6),更にCRFはCRF−BPとの結合により,その
ACTH放出活性が不活化されること3),などを報
告した.ヒトでは,血中に存在するが,髄液中に
存在せず,ラット,ヒツジ,ウシ,ウサギの血中
には存在しないという種属特異性がある3).1988年置Behanらにより,ヒト血漿からCRF−
BPが単離され7),1991年, Potterらにより,322個 .のアミノ酸から成る一次構造が報告された8).また最近,CRF−BPmRNAがヒトの肝と胎盤,更に
ヒト,サルおよびラットの脳に存在することが明
らかとなった9).今回,CRF−BPのC末端に対する抗体を用いた
radioimmunoassay(RIA)を確立し,その基礎的
検討を行った. 対象と方法1.RIA
1)ペプチド
ヒトCRF−BPのC末端25個のアミノ酸から成
るフラグメントCRF−BP(298∼322)を用い,サ
イログロブリンとconjugateした後,家兎に免疫
して抗血清を作製した.更に,このフラグメント
をstandardとtracerに用いた. CRF−BP
(298∼322)のヨード化はヨードゲン法にて行っ
た.2)抗血清
CRF・BP(298∼322)に対する抗血清は最終希釈
1:10,000で使用した.外因性CRFに対する交
叉は見られなかった.3)Assay
(1) IncubationRIA用bufferとして,25mM Tris−saline, pH
7.5(0.1%ウシ血清アルブミン,5mM MgC12,
0.04%アジ化ナトリウムを含む)を用いた.CRF− BP(298∼322)を0∼1.000fmol/tubeの濃度で,standardとして用いた.検体の希釈曲線には,加
熱不活化したウマ血清を用いて調整した.Stan−
dardには, carrier proteinとして,上記のウマ血清50μ1を加え,更に抗体溶液を0.1mlずつ加え
た.次に,1251−CRF・BP(298∼322)0.1ml(約2,500cpm)を添加し, incubation volumeを0.5mlと
し,4℃で48時間incubationした. Assayは全て
duplicateで行った.(2)B/F分離
各チューブにphosphate・buffered salineで溶
解した0.2%ウシγ一グロブリン0.5m]と25%ポリエチレングリコール1m1を加え,3,000rpmで30
分間遠心し,上清を吸引除去し,pelletの放射活性 をγカウンターで測定した.2.ゲル濾過
本RIAが確かに血中CRF−BPを測定している
ことを証明するため,血漿をセファクリルS−200
のゲル濾過にかけ,CRF−BPの免疫活性のピーク
が,1251一ヒトCRFとCRF−BPの結合体のピーク
に一致するかどうかを検討した.3.対象
健常人23例,Cushing症候群(副腎腺腫による)
8例,アジソン病7例より,早朝空腹時に,EDTA
の入ったチューブに採血し,4℃にて冷却遠心後,
血漿を一20℃で凍結保存した.4.統計
有意差検定は,一元配置の分散分析法にて行い, p〈0,05を有意とした.結 果
1.標準曲線と血漿の希釈曲線(図1)
本RIAの検出感度は2fmol/tubeであり,標準
曲線のIC50は,60fmol/tubeであった.血漿CRF−
BPの最:小検出濃:度は,40pmo1/しであり,最高20nmol/しまで測定可能であった.一方,健常人血漿
の希釈曲線は,標準曲線と良好な平行関係を示し
た.Intra・aSSayおよびinter−aSSayは,それぞれ
5.7%,11.8%であった.2.CRFの影響(図2)
CRF−BPとその抗血清との結合に, CRFが影
響を与えるか否かを調べるため,assay系のstan−
dardまたはCRF−BPを含む検体(血漿)に,ヒト
CRF 10ngを添加し, B/B。比を検討してみたが,CRFの添加による影響は見られなかった.
BIBo
1.0 0.5 0 1芒至ヨ0μIPI・・m・ ■■岡一 Standard一98一
1 10 100 1000 Peptide(fmol/tube) 図1 CRF−BPの標準曲線と血漿の希釈曲線 B/BOtO
0.5 0.0 CRF(10ng) 一 十 一 十 一 十 Plasma(50μ1)一 一 十 十 一 一 Standard _ 一 一 一 十 十 (CRトBP=298「322)図2 CRF−BPのRIAに及ぼすCRFの影響
O.3 君 § 虐) 0.1
ND→
IgG ↓ _尋r Gel filtratlon chromatography of plasma Bound HSA 1251−hCRF ↓ ↓OVA
↓ 只 ノ へ / \ 〆 、/ \ !
ノ \、叡 ノ
Free 1251−CRF ↓ ’ 1 R !、 ノ 、ノ \
\ 、圃L噛 言 黒 ミ 6000 籠3
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2000歪) 20 30 Fraction number図3 血漿CRF−BPのゲル濾過
HSA:human serum albumin, OVA l ovalbumin, hCRF;ヒトCRF. 40 0 浮 目3.ゲル濾過(図3)
CRF−BPの免疫活性のピークは,1251−hCRFと.
CRF−BPの結合体の溶出部位の1フラクション
後に見られた.この1フラクションのずれは,
CRF・BPに1251一ヒトCRFが結合し,その分,分子
量が増加したためと思われた.4.ヒト血漿CRF・BP濃度(図4)
早朝空腹時の健常人23例の血漿CRF−BP濃度
は,4,19±0.57nmol/L(mean±SD)で,その範
囲は,3.31∼5.39nmol/しであった.副腎性Cush− ing症候群では,3.29±1.00nmol/しと健常人に比 べて有意に三値を示した(p<o.01).一方,Addis− on病群では,5.78±1.10nmol/しと有意に高値を 示した(p<0.01).考 察
CRF・BP(298∼322)をstandardおよびtracer
として用いたRIAにおいて,ヒト血漿の希釈曲線
は標準曲線と良好な平行関係を示し,その免疫活
性は,ゲル濾過によりCRF−BPであることが明ら
かとなった.一方,CRF−BPは,ヒトCRFと特異
的に結合するが,CRF−BPのassay系に,ヒト
CRFは何ら影響を与えなかった.ここで用いた
CRFBP抗血清はC端抗体であることから,
CRF−BPのCRFとの結合部位は, CRF−BPのC
CRF−BP (nmo11L) 10.0 5.0 0.0一「
● 齢。欝
巳ヰ
●3図4
*p〈0.01vs. norma1. Norma[ Cushing闘s Addlson’s syndrome disease (AdrenaD 血中CRF一弓P濃度の基礎値端側ではなく,N端側であることが示唆された.
このassay系における健常人血車中のCRF−
BP濃:度は,4.19±0.57nmo1/L(mean±SD)で
あった.また,LintonらのCRF−BP(1∼322)を
用いたassay系では,4.46±1.0㎜01/L9)とよく類似しており,この抗体のCRF・BP(1∼322)に
対する交叉率は,ほぼ100%に近いものと思われ
た.Cushing症候群における血中CRF−BP濃度は
低下で,Addison病では高値を示した.このこと
から,慢性のコルチゾール過剰状態では,CRF−BP
は三値を,慢性の副腎不全では高値を示すという
ことになる.これらの結果は,以前CRFとCRF−
BPとの結合能を用いて,血中CRFBPレベルと
コルチゾールレベルとの間に負の相関があること
を証明したが,その結果と一致する.また,Addis−on病の結果から,血中ACTHがCRF−BP濃度に
直接的な影響を与える可能性は少ないものと思わ
れた.CRFに対する影響に関しては,ヒト血中に
おいてヒトCRFのクリアランスに及ぼす影響は
余り強くないが10),ヒトCRFを急速投与すると
一過性にCRFレベルが低下すると言われ,これ
はCRF−BPがCRFと結合することにより,
dimerを形成するためと考えられている11).CRFおよびその標的細胞受容体は,中枢神経
系,胎盤,副腎,交感神経節,リンパ球,消化管, 膵臓,性腺系に広く分布し12)’3),また,2重免疫染色法により,CRFとCRF−BPは共存しているこ
とが確認されている14).一方,CRF−BPのヒト
・CRFに対する結合能は, CRF一レセプターの結合
能と同程度であることから3),CRF−BPがCRFレ
セプターの一部である可能性も残されている.し
かし,CRFレセプターは,ヒト,ヒツジのいずれ
のCRFとも結合するが, CRF・BPはヒツジの
CRFとは結合せず, CRF−BPがCRFレセプター
の一部である可能性は少ないものと思われる.
CRF−BPがCRFに対する特異的なアンタゴニ
ストであり,しかも脳に多く存在するこ.とから,neuromodulatorとしてCRFの中枢での作用に
何らかの影響を及ぼしている可能性も考えられ,
今後,更に検討されるものと思われる.
結 語ヒトCRF−BPのC末端フラグメントを用い
て,CRF−BPのRIAを確立した.血中CRF−BP濃
度は健常者に比し,Cushing症候群では低値を示
し,Addison病では高値を示したことから,漫性
的な血中コルチゾールレベルの変動に影響される
ことが示された. 稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 出村 博教授に深謝申し上げます.またこの研究に際 し,直接御指導頂いた須田俊宏助教授,佐藤雄二先生 に心より感謝致し,御礼申し上げます. 文 献 1)Orth DN, Mount CD=Specific high−af五nity binding protein for human corticotropin− releasing hormone in normal human plasma. Biochem Biophys Res Commun 143:411−417, 1987 2)Linton EA, Wolfe CDA, Beban DP et al:A specific carrier substance for human .corticotropin−releasing factor in late ges・ tational matemal plasma which could mask the ACTH−releasing activlty. Clin Endocrinol (Oxf)28:315−324, 1988 3)Suda T, Iwashita M, Tozawa F et a1: Char− acterization of corticotropin−releasing hor− mone binding protein in human plasma by chemical cross・linking and its binding during pregnancy. J CIin Endocrinol Metab 67: 1278−1183, 1988 4)Suda T, Sumitomo T, Tozawa F et al: Corticotropin・releasing factor is a glyco− protein. Biochem Biophys Res Commun 165: 703−707, 1989 5)Suda T, Sumitomo T, Nakano Y et a1: Glucocorticoids decrease a binding of corticotropin−releasing hormone・binding Pro− tein in human plasma. J CIin EndocrinQl Metab 71:913−917, 1990 6)Suda T, Iwashita M, Sumitomo T et al: Presence of CRH・binding protein in amniotic ’Huid and in umbilical cord plasma. Acta Endo− crinol 125:165−169, 1991 7)Behan DP,1.inton EA, Lowry PJ: Isolation of the human plasma corticotropin・releasing factor−binding protein. J Endocrinol 122: 23−31, 1989 8)Potter E, Behan DP, Fischer WH et al: Cloning and characterization of the cDNAs for human and rat corticotropin・releasing factor. binding proteins. Nature 349:423−426,1991 9)Lin.ton EA, Perkins AV, Woods RJ et al:. Corticotropin・releasing hormone・binding pro. tein(CRF・BP):Plasma levels decrease during the third trimester of normal human preg. nancy. J CIin Endocrinol Metab 76:260−262,1993
10)Suda T, Iwashita M, Ushiyama T et al: Responses to corticotropin−releasing hormone and its bound and free forms in pregnant and nonpregnant women. J CIin Endocrinol Metab 69:38−42, 1989 11)Woods RJ, Kennedy KM, Saphier PW et al: 一100一Dimerisation on circulating CRH-binding tein in the presence of its ligand may trigger clearance of the cortex. 75th Annual Meeting of the Endocrine Society (USA). Abstract : 362,
1993
12) Suda T, Tomori N, Tozawa F et al :
tion and characterization of immunoreactive
corticotropin-releasing factor in human tissues.
J CIin Endocrinol Metab 55 : 861-866, l984
13) Aguilera G, Millan AM, Hauger LR et al :
Corticotropin-releasing factor receptors :
tribution and regulation in brain, pituitary, and
peripheral tissues. Ann NY Acad Sci 512 : 48-66, 1987
14) Potter E, Behan DP, Lonton EA et al: The
central distribution of a corticotropin-releasing
factor (CRF)-binding protein predicts multiple sites and modes of interaction with CRF. Proc Natl Acad Sci SUA 89 1 4192-4196, 1992