「保険金需要分析を通じた地震保険制度の現状と課題に関する一考察」

政 策 研 究 大 学 院 大 学 ま ち づ く り プ ロ グ ラ ム MJU08051 菊 池 裕 美 子

保 険 金 需 要 分 析 を 通 じ た 地 震 保 険 制 度 の 現 状 と 課 題 に 関 す る 一 考 察

＜ 要 旨 ＞ 本 論 で は 家 計 向 け の 地 震 保 険 制 度 を と り あ げ る 。 こ こ で は 、 家 計 の 地 震 保 険 金 需 要 に お い て 保 険 料 率 が 規 律 的 な 働 き を し て い る の だ ろ う か と の 問 題 意 識 か ら 、 期 待 効 用 最 大 仮 説 に 基 づ き 過 年 度 の 地 震 保 険 統 計 を 用 い た 実 証 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 保 険 料 率 が 地 震 リ ス ク に 相 応 し て い な い 場 合 は 保 険 需 要 が 過 大 と な っ て い る こ と が 導 か れ た 。 保 険 制 度 に お け る 適 正 な 資 源 配 分 の た め に は 、 保 険 料 率 が 家 計 の リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス に 対 す る 規 律 と し て 機 能 す る こ と が 必 要 で あ る 。 そ の た め に は 、 保 険 料 率 の 適 正 化 と 、 保 険 料 率 が 市 場 メ カ ニ ズ ム に お い て 決 定 さ れ る 環 境 を 整 備 す る こ と が 不 可 欠 で あ る 。

目 次 １ 序 章 ... 1 １-１ 自 然 災 害 と リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト ... 2 １-２ 本 論 の 構 成 ... 3 １-３ 既 往 研 究 と 本 論 の 分 析 手 法 ... 4 １-３ -１ 保 険 金 需 要 の 既 往 研 究 ... 4 １-３ -２ 地 震 災 害 に 関 連 す る 支 援 制 度 等 の 既 往 研 究 ... 4 ２ 地 震 保 険 制 度 の 概 要 ... 6 ２-１ 制 度 創 設 の 経 緯 ... 6 ２-２ 地 震 保 険 制 度 の 目 的 ... 7 ２-３ 地 震 保 険 制 度 の 特 色 ... 7 ２-３ -１ 営 利 の 追 求 ... 7 ２-３ -２ リ ス ク の 時 間 分 散 と 集 積 の 回 避 ... 9 ２-３ -３ 保 険 料 率 の 法 的 位 置 づ け ... 11 ２-４ 保 険 料 率 と そ の 算 出 方 法 ... 12 ２-５ 地 震 保 険 制 度 に 対 す る 政 府 関 与 に つ い て ... 17 ２-５ -１ ミ ク ロ 経 済 学 の 基 本 原 則 ... 17 ２-５ -２ 「 市 場 の 失 敗 」 の 領 域 ... 17 ２-５ -３ 自 然 災 害 の 巨 大 リ ス ク と 保 険 市 場 ... 18 ３ 地 震 保 険 契 約 の 実 績 ... 21 ４ 地 震 保 険 の 需 要 分 析 ... 25 ４-１ モ デ ル の 特 定 ... 25 ４-２ 保 険 需 要 関 数 の 解 釈 ... 27 ４-３ 推 計 式 の 設 定 ... 28 ４-４ 推 計 方 法 、 使 用 デ ー タ の 説 明 ... 29 ４-５ 推 計 結 果 の 予 測 ... 32 ４-６ 推 計 結 果 ... 34 ５ 地 震 保 険 制 度 の 望 ま し い 方 向 性 ... 36 ５-１ 保 険 制 度 の あ り 方 に つ い て ... 36 ５-２ 制 度 改 善 （ 案 ） と し て ... 37 ５-２ -１ 地 震 保 険 料 率 の 法 的 位 置 づ け ... 37 ５-２ -２ 総 支 払 限 度 額 の 設 定 に つ い て ... 38 ５-２ -３ リ ス ク の 長 時 間 分 散 に 対 す る 支 援 の あ り 方 ... 38 ５-２ -４ リ ス ク の 長 時 間 分 散 に 係 る 共 同 行 為 の 位 置 づ け ... 39 ５-２ -５ 所 得 再 分 配 的 側 面 へ の 関 与 ... 39 ５-２ -６ そ の 他 、 制 度 改 正 に あ た っ て 考 慮 す る 点 （ そ の 1） ... 39 ５-２ -７ そ の 他 、 制 度 改 正 に あ た っ て 考 慮 す る 点 （ そ の 2） ... 40 ６ 結 び ... 41 参 考 文 献 ... 41

1 3 １ 序 章 わ が 国 は 地 震 大 国 と い わ れ て お り 、 国 土 面 積 に 比 し て 地 震 の 発 生 回 数 や 活 火 山 の 活 動 分 布 が 世 界 的 に も 高 い 部 類 に あ る と さ れ て い る 。1 _{近 年 で は 、1993 年 7 月 に 発 生 し た 北 海} 道 南 西 沖 地 震 （ 死 者 ・ 行 方 不 明 者 230 名 ）、1995 年 1 月 に 発 生 し た 阪 神 ・ 淡 路 大 震 災（ 死 者 ・ 行 方 不 明 者 6,433 名 ） を は じ め 、 宮 城 県 、 新 潟 県 、 福 岡 県 な ど 日 本 各 地 で マ グ ニ チ ュ ー ド 6 以 上 の 地 震 が 発 生 し て い る 。2 _{ま た 、 今 後 数 十 年 の 間 に も 、 数 回 の 内 陸 直 下 型 地} 震 と 東 海 、 東 南 海 ・ 南 海 の 海 溝 型 地 震 が 発 生 す る と も い わ れ て い る 。 こ の よ う な 自 然 条 件 の 上 に 、 東 京 ・ 名 古 屋 ・ 大 阪 の 三 大 都 市 を 中 心 と す る 多 核 多 圏 域 型 の 大 都 市 が 形 成 さ れ て い る 。 特 に 、 東 京 都 区 部 を 中 心 と す る 東 京 と そ の 周 辺 部 に は 人 口 、 政 治 機 能 は 言 う に 及 ば す 、 経 済 の 中 枢 機 能 が 集 中 し て い る 。 相 対 的 に 小 規 模 な 地 震 に も 関 わ ら ず 都 市 機 能 の 全 体 に 直 接・間 接 の 被 害 を も た ら す 都 市 型 災 害 の 様 相 で 明 ら か な よ う に 、 都 市 の 成 長 と 経 済 的 発 展 の 過 程 に お い て 自 然 災 害 に 対 す る 頑 健 性 を 確 保 す る こ と は 容 易 で は な い 。4 _{齊 藤 （2002） et.alも 指 摘 し て い る よ う に 、 人 口 や 富 の 分 布 が 地 域 的 に 偏 在 す} る よ う に な っ た こ と が 、 一 回 あ た り の 自 然 災 害 に よ る 経 済 的 な 損 失 を 飛 躍 的 に 拡 大 さ せ て い る 。5 我 々 の 置 か れ て い る 社 会 は 、 自 然 災 害 に 限 ら ず 常 に 不 確 実 性 を 含 む リ ス ク に 直 面 し な が ら 、 経 済 活 動 を 行 う こ と を 余 儀 な く さ れ て い る 。 好 む と 好 ま ざ る と に 関 わ ら ず 、 我 々 は リ ス ク に 直 面 し 、 こ れ に 対 応 し て 選 択 す る 行 動 が リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト で あ り 、 そ れ ら が 地 表 面 の 都 市 構 造 を 構 成 し て ゆ く 。 本 論 で は 家 計 向 け の 地 震 保 険 制 度 を と り あ げ る 。 こ こ で は 、 家 計 の 地 震 保 険 金 需 要 に お い て 保 険 料 率 が 規 律 的 な 働 き を し て い る の だ ろ う か と の 問 題 意 識 か ら 、 期 待 効 用 最 大 仮 説 に 基 づ き 過 年 度 の 地 震 保 険 統 計 を 用 い た 実 証 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 保 険 料 率 が 地 震 リ ス ク6_{に 相 応 し て い な い 場 合 は 保 険 需 要 が 過 大 と な っ て い る こ と が 導 か れ た 。 保 険 制 度 に} お け る 適 正 な 資 源 配 分 の た め に は 、 保 険 料 率 が 家 計 の リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス に 対 す る 規 律 と し て 機 能 す る こ と が 必 要 で あ る 。 そ の た め に は 、 保 険 料 率 の 適 正 化 と 、 保 険 料 率 が 市 場 メ カ ニ ズ ム に お い て 決 定 さ れ る 環 境 を 整 備 す る こ と が 不 可 欠 で あ る 。 1 内 閣 府「 日 本 の 災 害 対 策 」： 世 界 の 0.25％ の 国 土 面 積 に 対 し 、マ グ ニ チ ュ ー ド 6.0 以 上 の 地 震 の 発 生 回 数 は 世 界 （912 回 ） の 20.8％ （ 190 回 ） を 占 め る 。 地 震 回 数 は 1996 年 ～ 2005 年 の 合 計 。 2 _{気 象 庁 HP} 3 _{地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 地 震 調 査 委 員 会 （ 2005）} 4 _{中 林 一 樹 ・ 瀬 野 徹 三 （ 2007）} 5 _{永 松 （ 2004） で 、 経 済 発 展 と 災 害 の U カ ー ブ 現 象 の 考 察 が あ る 。} 6 _{田 村 （ 2008） pp.72-74 は リ ス ク の 定 義 に つ い て 、 危 険 事 故 に よ っ て 損 害 が 発 生 す る 可 能 性 を 「 危 険} 性 」 す な わ ち 「 リ ス ク 」 と し て い る 。 田 村 （2008） は 、 こ れ に 近 い も の と し て 、 田 辺 （ 2005） に よ る リ ス ク 定 義 「 リ ス ク ＝ 損 害 規 模 ×発 生 頻 度 」 を 紹 介 し て い る 。 本 論 で は 、 こ れ ら を ふ ま え 、 地 震 リ ス ク を 地 震 災 害 に よ る 危 害（ 損 失 ）の 生 ず る 確 率 変 数 と す る 。地 震 リ ス ク は 、地 震 動 の 発 生 過 程 の よ う な 地 理 的 条 件 に よ る も の 、発 生 す る 地 域 の 市 街 地 条 件 に よ る も の 、そ れ ら の 影 響 を 受 け る 個 別 の 家 屋 の 条 件 に よ る も の 、 全 て を 包 含 す る も の で あ る 。

１-１ 自 然 災 害 と リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト の 手 法 に は 、「 拒 否 」（avoidance）、「 被 害 軽 減 」（ reduction）、「 移 転 」（transference）、「 受 容 」 （ acceptance）の 四 手 法 が 挙 げ ら れ る 。7 _{前 の 二 点 は リ ス} ク ・ コ ン ト ロ ー ル 、 後 の 二 点 は リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス に 分 類 さ れ る 。 図 １ の 円 は 災 害 に よ る 社 会 全 体 の 富 の 損 失 を あ ら わ し て い る 。 リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル は 社 会 全 体 で 生 起 す る 富 の 損 失 を 軽 減 す る の に 対 し 、 リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス は 社 会 全 体 で の 富 の 損 失 の 配 分 を 変 更 す る も の で あ る 。8 _{こ の よ う に 、 各 制 度 が リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト の ど の 手 法 を 用 い る か} で 社 会 全 体 の 富 の 損 失 に 対 し て 果 た す 機 能 が 決 定 的 に 異 な る 。 図 1 リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト 手 法 の 比 較 （ 出 典 ） 小 林 ・ 横 松 （2002） よ り 転 載 例 と し て 、 全 て の 家 計 に と っ て の 生 活 基 盤 で あ る 家 屋 を 取 り 上 げ る 。 地 震 災 害 に 対 す る 家 屋 の リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト に は 次 の よ う な も の が 挙 げ ら れ る 。 公 的 セ ク タ ー に よ る も の と し て は 、 地 方 公 共 団 体 の 作 成 す る ハ ザ ー ド マ ッ プ に よ る 災 害 危 険 区 域 の 情 報 開 示9_{、 危} 険 区 域 か ら の 移 転 促 進 、 建 築 基 準 法 の 改 正 に よ る 住 宅 の 耐 震 性 能 基 準 の 引 き 上 げ 、 住 宅 の 耐 震 化 工 事 へ の 補 助 金 交 付 、 政 府 系 金 融 機 関 の コ ミ ッ ト メ ン ト に よ る 共 済 事 業10_{、 地 震 保} 険 の 政 府 再 保 険 事 業 、 災 害 復 興 公 営 住 宅 の 現 物 支 給 や 被 災 者 生 活 再 建 支 援 金 の 給 付 制 度 等 7 _{永 松 ・ 秦 （ 2003） 、 財 務 総 合 政 策 研 究 所 （ 2006）} 8 _{小 林 ・ 横 松 （ 2002）} 9 _{2006年 （ 平 成 18年 ） 3月 の 地 震 防 災 特 別 措 置 法 の 改 正 に よ り 、 都 道 府 県 及 び 市 町 村 に 地 震 ・ 津 波 防 災} マ ッ プ 作 成 の 努 力 義 務 が 課 せ ら れ た 。 洪 水 ハ ザ ー ド マ ッ プ に つ い て は 、2005年 （ 平 成 17年 ） の 改 正 水 防 法 第15条 に よ り 想 定 被 害 区 域 を 含 む 市 町 村 の 長 に よ る 開 示 義 務 が 定 め ら れ て い る 。市 町 村 に よ る 洪 水 ハ ザ ー ド マ ッ プ の 公 表 状 況 数 は 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 公 開 が568団 体 、 印 刷 物 の 配 布 等 に よ る 公 表 が 852団 体 で あ る 。 市 町 村 に よ る 津 波 ハ ザ ー ド マ ッ プ は 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 公 開 が111団 体 、 公 表 団 体 が 248団 体 で あ る 。な お 、公 開 ・ イ ン タ ー ネ ッ ト 公 開 数 は「 ハ ザ ー ド マ ッ プ 実 態 調 査（ 平 成19年 2月 ）」以 降 市 町 村 か ら の 情 報 を 平 成20年 11月 30日 時 点 で 更 新 し た 市 町 村 数 で あ り 、 実 際 の 公 表 ・ イ ン タ ー ネ ッ ト 公 開 市 町 村 数 と は 異 な る 。 一 方 、 市 町 村 に よ る 地 震 防 災 マ ッ プ の 整 備 は 、 平 成19年 11月 時 点 で 133団 体 よ り 公 表 さ れ て い る 。 市 町 村 数 は 国 土 交 通 省 ハ ザ ー ド マ ッ プ ポ ー タ ル サ イ ト に よ る 。 1 0 _{JA 共 済 の 建 物 更 正 共 済 、 全 労 災 の 自 然 災 害 保 障 付 火 災 共 済 、 同 地 震 災 害 等 見 舞 金 が あ る 。}

3 1 の 政 府 関 与 が あ る 。1 _{こ れ に 対 し 、 家 計 に よ る も の と し て は 、 危 険 区 域 か ら の 移 転 、 住} 宅 の 耐 震 化・免 震 化 、被 災 時 の 生 活 再 建 費 用 相 当 額 の 貯 蓄（ 自 己 保 険 ）、地 震 保 険 の 購 入 な ど が あ る 。 以 上 を 分 類 し た の が 図 ２ で あ る 。 リスク・マネジ メント リスク・コ ントロール リスク・ファイナンス 拒 否（回避 ） 被害 軽減（緩 和） 移転 受容 図 2 リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト の 分 類 （ 出 典 ） 永 松 （2005）、 財 務 総 合 政 策 研 究 所 （ 2006） よ り 作 成 ま た 、 公 的 セ ク タ ー に よ る リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト へ の 関 与 は 、 後 述 す る 負 の 外 部 不 経 済 に 代 表 さ れ る 「 市 場 の 失 敗 」12_{を 前 提 と す る 。 リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル に よ る 関 与 は 、 外 部} 不 経 済 の 内 部 化 を 目 的 と す る 制 度 の 機 能 が 最 大 限 に 発 揮 さ れ る か が 問 わ れ て く る 。 一 方 の リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス は 、 基 本 的 に は リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル と 異 な り 外 部 不 経 済 の 総 量 規 制 や 内 部 化 を 機 能 目 的 と し て 有 さ な い 。 そ の た め 、 移 転 の 対 象 と な る リ ス ク の 性 質 や そ の 社 会 的 位 置 づ け に よ り 、 公 的 関 与 の 内 容 ・ 程 度 は 可 変 的 に 推 移 す る 。 地 震 リ ス ク 移 転 に 係 る 公 的 セ ク タ ー の 関 与 は 、 対 象 と す る リ ス ク の 頻 度 ・ 規 模 が 市 場 で 移 転 可 能 な も の で あ る か 、 保 険 数 理 上 の 公 平 な 費 用 負 担 に よ る リ ス ク 移 転 が 実 現 可 能 で あ る か 、 公 的 セ ク タ ー の 関 与 が 他 の リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト 手 段 の 目 的 を 阻 害 す る こ と が な い こ と 、 以 上 の 三 点 に 留 意 し た 制 度 運 用 が 求 め ら れ る 。 １-２ 本 論 の 構 成 本 章 で は 、 既 往 研 究 に お け る 地 震 保 険 制 度 に 関 す る 議 論 に つ い て 整 理 し 、 本 論 の 分 析 手 法 を 特 定 す る 。 第 ２ 章 及 び 第 ３ 章 で は 、 保 険 制 度 に お け る リ ス ク と 保 険 料 率 の 位 置 づ け に つ い て 、 政 府 関 与 を 中 心 に 現 行 制 度 を 概 観 す る 。 第 ４ 章 で は 、 期 待 効 用 最 大 化 理 論 か ら 導 か れ る 家 計 の 保 険 金 需 要 に お け る 保 険 料 率 の 位 置 づ け に つ い て 考 察 を 行 う と と も に 、 過 年 度 の 地 震 保 険 統 計 に よ る 需 要 分 析 を 行 う 。 第 ４ 章 で は 、 現 行 制 度 下 の 保 険 料 率 が 家 計 の リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス に 規 律 を 与 え る も の と し て 機 能 し て い な い こ と を 取 り 上 げ 、 第 ５ 章 で リ ス ク 移 転 に 係 る プ ラ イ シ ン グ を 市 場 で 実 現 す る た め に 取 り う る 施 策 に つ い て 検 討 を 行 う 。 1 1 _{永 松 （ 2005） は 、 公 的 な 補 償 制 度 も 広 い 意 味 で リ ス ク の 「 移 転 」 に 該 当 す る と し て い る 。 予 め 、 地} 震 等 で 被 災 し た と き の 救 済 措 置 が 納 税 者 に 対 し て（ 法 を 通 じ て ）提 示 さ れ 、納 税 者 は 税 負 担 と 引 き 換 え に 政 府・地 方 公 共 団 体 の 救 済 措 置 に よ り 損 害 補 償 を 図 る と い う 点 で は 、保 険 と 同 様 に リ ス ク 移 転 策 と み な す こ と が 妥 当 で あ ろ う 。 1 2 _{N.G.マ ン キ ュ ー （ 2005） pp.16-17}

１-３ 既 往 研 究 と 本 論 の 分 析 手 法 １-３ -１ 保 険 金 需 要 の 既 往 研 究 家 計 の 保 険 金 需 要 分 析 は 、 生 命 保 険 の 購 入 判 断 に お け る 家 計 の 危 険 回 避 度 の 推 計 を 対 象 と し た も の が 多 く 見 ら れ る 。 こ れ は 、 家 計 の 危 険 選 好 の 分 析 に よ り 、 家 計 の 需 要 に 応 じ た 保 険 商 品 の 設 計 が 可 能 と な る た め で あ る 。13 _{危 険 回 避 度 へ の ア プ ロ ー チ は 、 家 計 の 保 有} 資 産 と 人 口 属 性 別 に よ る 計 測 を 行 っ た 森 平 ・ 神 谷 （2005） et.alが あ る 。 保 険 以 外 の 分 野 で は 、 地 震 リ ス ク の 家 賃 ・ 地 価 形 成 へ の 影 響 （ 割 引 率 ） の 推 計 結 果 に よ り 家 計 ・ 企 業 の 危 険 回 避 性 向 を 分 析 し た 山 鹿 ・ 中 川 ・ 齊 藤 （2002a）(2002b)、賃 金 ・ 家 賃 形 成 へ の 地 震 発 生 確 率 の 影 響 （ 暗 黙 価 格 ） を 分 析 し た 直 井 ・ 瀬 古 （2003）が あ る 。い ず れ も 、 地 震 リ ス ク に 対 す る 割 引 率 （ プ レ ミ ア ム ） か ら 家 計 ・ 企 業 の 危 険 回 避 性 向 を 定 量 的 に と ら え よ う と す る も の で あ る 。 災 害 保 険 の 購 入 行 動 に お け る 曖 昧 性 が 家 計 の 意 思 決 定 に 及 ぼ す 影 響 を 分 析 し た も の と し て は 藤 見 ・ 多 々 納（2005）が あ り 、家 計 は 地 震 リ ス ク に 関 す る 客 観 的 情 報 を 手 に す る 場 合 で も 、 必 ず し も 危 険 回 避 行 動 を と ら な い こ と が 報 告 さ れ て い る 。 既 往 研 究 に み ら れ る よ う に 、 リ ス ク 移 転 及 び リ ス ク 受 容 の 場 面 で 、 家 計 が 危 険 回 避 性 向 を 有 す る こ と は 広 く 一 般 の 認 識 に 適 う と こ ろ で あ る 。 と は い え 、 個 別 の リ ス ク 移 転 の 場 面 に お い て 、 家 計 が 取 り う る 行 動 が リ ス ク に 対 し て 危 険 回 避 的 ・ 中 立 ・ 危 険 愛 好 的 の い ず れ の 態 度 を 取 る か 、 そ し て そ の 程 度 を 事 前 に 把 握 す る こ と は 、 デ ー タ の 制 約 か ら 非 常 に 困 難 で あ る 。 そ の た め 、第 ４ 章 で は 、家 計 の 危 険 回 避 性 を 一 定 と 仮 定 し て 家 計 の 保 険 需 要 分 析 を 行 う 。 な お 、 本 章 で は 保 険 集 団 の マ イ ク ロ デ ー タ で は な く 都 道 府 県 単 位 で 平 均 化 さ れ た 家 計 デ ー タ を 対 象 に 保 険 金 需 要 分 析 を 行 う 。 サ ン プ ル ・ デ ー タ が 平 均 化 さ れ て い る 場 合 は 、 家 計 の 危 険 回 避 性 向 に つ な が る 情 報 は 捨 象 さ れ る 可 能 性 も 否 め な い こ と か ら 、 危 険 回 避 度 を 一 定 と す る 分 析 は 妥 当 と 解 さ れ る 。 １-３ -２ 地 震 災 害 に 関 連 す る 支 援 制 度 等 の 既 往 研 究 地 震 リ ス ク の 移 転 に 係 る 社 会 制 度 全 般 に つ い て は 、 市 場 シ ス テ ム と 公 的 シ ス テ ム の 視 点 か ら 分 析 し た も の に 齊 藤 （2002）、 中 川 （ 2005） が あ る 。 齊 藤 （ 2002） は 、 家 計 や 企 業 の 自 然 災 害 リ ス ク に 対 す る 危 険 回 避 行 動 を 前 提 に 、 そ の 危 険 回 避 行 動 に 規 律 を 与 え る 市 場 メ カ ニ ズ ム の 整 備 が 必 要 で あ る と し て い る 。 特 に 地 震 の 巨 大 リ ス ク を 民 間 保 険 市 場 に お い て 時 間 分 散 す る こ と が 困 難 で あ る と 指 摘 し て い る 。 そ こ で 、 政 府 引 受 け に よ る 高 レ イ ヤ ー 領 域 の 再 保 険 キ ャ パ シ テ ィ を 充 実 さ せ る こ と で 、 政 府 が 時 間 分 散 の 役 割 を 担 う 施 策 に 合 理 性 を 見 出 し て い る 。 住 宅 被 害 の 軽 減 策 と 事 後 補 償 の 両 立 を 図 る 立 場 か ら の 政 府 施 策 の 研 究 に は 目 黒 ・ 高 橋 （2001） et.al、 永 松 （ 2002）、 永 松 ・ 秦 （ 2003） が あ る 。こ れ ま で に 、 阪 神 ・ 淡 路 大 震 災 等 に お け る 家 屋 の 倒 壊 被 害 に 関 す る 研 究 に よ っ て 、 耐 震 性 能 基 準 を 満 た さ な い 建 物 の 倒 壊 に よ る 道 路 閉 塞 、 火 災 の 発 生 、 市 街 地 の 延 焼 拡 大 な ど の 外 部 不 経 済 が 指 摘 さ れ て い る 。 家 1 3 _{森 平 ・ 神 谷 （ 2005）}

5 屋 の 耐 震 化 は 外 部 不 経 済 の 削 減 に つ な が る た め 、 政 府 に よ る 個 人 の 家 屋 の 耐 震 化 支 援 は こ の 限 り に お い て 必 要 と い う 見 解 が あ る 。14 _{こ れ ら の 文 脈 か ら 、 目 黒 ・ 高 橋 ら は 現 行 の 耐} 震 性 能 基 準 を 満 た し て い な い 家 屋 を 保 有 す る た め の 相 対 的 コ ス ト の 引 き 上 げ に つ い て 、 し か る べ き 耐 震 補 強 を 済 ま せ た 建 物 が 被 災 し た 場 合 に 、 建 て 直 し を 含 め て 被 災 建 物 の 補 修 費 用 の 一 部 を 行 政 が 負 担 す る こ と を 保 証 す る 制 度 を 提 案 し て い る 。15 _{ま た 、 目 黒 は 「 大 都} 市 震 災 軽 減 化 特 別 プ ロ ジ ェ ク ト 」 で 、 米 国FEMAの 洪 水 保 険 制 度 や 米 国 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 のResidential Retrofit Programを 紹 介 し 、 地 震 災 害 に お け る 保 険 制 度 を 利 用 し た 耐 震 補 強 等 の リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル の 推 進 を 説 い て い る 。 そ し て 、 自 治 体 に よ る 補 償 に 基 づ く 耐 震 補 強 推 奨 制 度 、 耐 震 補 強 実 施 者 を 対 象 と し た 共 済 制 度 、 地 震 動 に よ る 被 害 を 免 責 と す る と い っ た 新 し い 地 震 保 険 シ ス テ ム の 提 案 を 行 っ て い る 。16 一 方 、 永 松 ら は 事 後 補 償 の 基 金 制 度 を 創 設 し 、 そ の 一 部 を 事 前 対 策 の た め に 投 資 す る 新 制 度 を 提 案 し て い る 。 事 前 対 策 と 事 後 対 策 の 資 金 需 要 が ト レ ー ド オ フ の 関 係 に あ る こ と に 着 目 し 、 資 金 需 要 に 応 じ た 資 源 配 分 を 可 能 と す る 国 民 共 通 の 基 金 制 度 を 社 会 制 度 の 第 一 層 と し て 整 備 し 、 地 震 保 険 を 第 一 層 の 追 加 的 な リ ス ク 移 転 ツ ー ル と 位 置 づ け て い る 。 以 上 の 既 往 研 究 で は 、 劣 勢 の 耐 震 性 能 を 有 す る 家 屋 が も た ら す 外 部 不 経 済 を い か に 削 減 す る か と い う リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル の 施 策 体 系 に リ ス ク 移 転 制 度 を 組 み 入 れ る こ と を 意 識 し た も の と 言 え よ う 。 し か し 、外 部 性 の 調 整 は 基 本 的 に リ ス ク・コ ン ト ロ ー ル が 担 う べ き 問 題 で あ り 、リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス は 地 震 災 害 が 生 じ た 場 合 の 厚 生 損 失 を 保 険 機 能 に よ っ て 最 小 化 す る も の と な る 。 そ れ ぞ れ に お い て 損 失 の 最 小 化 を 図 る こ と が で き な い 場 合 は 、 適 宜 、 所 得 再 分 配 的 観 点 か ら 必 要 な 補 正 を 行 う の が 基 本 的 な 役 割 分 担 と な る 。 上 記 の 整 理 に よ れ ば 、 リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス は リ ス ク に 応 じ た 保 険 料 率 の 設 定 な ど 保 険 数 理 に 従 っ た 制 度 の 設 計 が 行 わ れ て い る こ と が 基 本 で あ り 、 リ ス ク 分 散 が 民 間 主 体 で は 困 難 な 場 合 や 、 情 報 の 非 対 称 性 に 起 因 す る 逆 選 択 問 題 が 無 視 で き な い 場 合 に 、 保 険 加 入 の 仕 方 に つ い て 公 的 な 関 与 が 行 わ れ れ ば よ い も の で あ る 。 ま た 、 リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル に つ い て 適 切 な 制 度 が 設 計 さ れ て い れ ば 、 リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス に お け る 外 部 性 の 調 整 機 能 へ の 関 与 は 、 非 常 に 限 定 さ れ た も の と な る 。 さ ら に 、リ ス ク・フ ァ イ ナ ン ス は 、市 場 機 構 を 介 在 し て 民 間 が 主 体 と な っ て 担 う リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト で あ る 。 リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル と リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス の 役 割 分 担 が 適 切 に 図 ら れ な け れ ば 、 民 間 市 場 に 対 す る 公 的 な 関 与 が 大 き な も の に な っ て し ま う 。 上 述 し た よ う に 所 得 再 分 配 の 側 面 か ら は 災 害 の 事 後 的 な 局 面 で の 金 銭 的 保 障 に 関 す る 公 的 関 与 は あ り う る 。 そ れ で も 、 公 的 セ ク タ ー に よ る 事 後 的 補 償 が 事 前 の 危 険 回 避 行 動 に 与 え る ネ ガ テ ィ ブ な 側 面 に つ い て は 十 分 な 熟 慮 が 必 要 で あ る 。 1 4 _{永 松 （ 2002） 、 永 松 ・ 秦 （ 2003）} 1 5 _{目 黒 ・ 高 橋 （ 2002）} 1 6 _{大 都 市 震 災 軽 減 化 特 別 プ ロ ジ ェ ク ト 報 告 書}

既 往 研 究 を 含 め 、 こ れ ま で の 事 後 的 補 償 施 策 の 実 施 段 階17_{に お い て も 、 災 害 リ ス ク ・ マ} ネ ジ メ ン ト に お け る リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス の 役 割 分 担 は 必 ず し も 明 確 に は な さ れ て こ な か っ た 。18 _{本 論 は 、 リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス の 本 来 の 役 割 に 沿 っ た 地 震 保 険 制 度 を 構 築 す る} と い う 視 点 に 立 っ た 場 合 に ど の よ う な 制 度 設 計 が 望 ま し い か と い う こ と を 議 論 し て ゆ く も の で あ る 。 ２ 地 震 保 険 制 度 の 概 要 地 震 保 険 市 場 の 分 析 に 先 立 ち 、 戦 前 か ら 1966 年 の 地 震 保 険 制 度 の 創 設 ま で の 間 に み ら れ た 議 論 に つ い て 以 下 、 概 観 す る 。 次 い で 、 現 行 制 度 の 特 徴 と 、 民 間 市 場 に お け る 実 現 が 困 難 と さ れ る 地 震 の 巨 大 リ ス ク の 時 間 分 散 と 集 積 の 回 避 に つ い て 考 察 を 行 う 。 あ わ せ て 現 行 保 険 制 度 に 対 す る 政 府 関 与 の 位 置 づ け に つ い て も 言 及 し て ゆ く 。 ２-１ 制 度 創 設 の 経 緯 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （2008a） で 明 治 以 降 の 地 震 保 険 制 度 創 設 を め ぐ る 議 論 の 紹 介 が な さ れ て い る 。 以 下 は そ の 内 容 で あ る 。 わ が 国 に お け る 最 初 の 保 険 制 度 の 提 案 は 、 明 治 初 期 に 政 府 が 招 聘 し た ド イ ツ 人 経 済 学 博 士 ポ ー ル ・ マ イ エ ッ ト に よ る 国 営 強 制 保 険 案 と さ れ る 。 本 案 は 、 当 時 、 政 府 内 で ド イ ツ 流 の 国 営 保 険 制 度 を と る 立 場 と イ ギ リ ス 流 の 民 営 保 険 制 度 を め ぐ る 二 つ の 立 場 が あ っ た が 、 諸 外 国 に お け る 保 険 業 界 へ の 政 府 関 与 の 多 く が 監 督 機 能 に 限 定 さ れ て い た こ と か ら 採 用 さ れ な か っ た 。 そ の 後 は 、 司 法 省 顧 問 レ ー ス レ ル が 保 険 民 営 論 に 立 脚 し 、 地 震 災 害 を 補 償 す る 保 険 の 必 要 性 を 唱 え た 。 な お 、 明 治 以 降 の 度 重 な る 震 災 は 、 地 震 保 険 制 度 の 必 要 性 を 繰 り 返 し 社 会 に 提 起 す る 契 機 と な っ た 。 関 東 大 震 災 （1923 年 （ 大 正 12 年 ）） で は 火 災 保 険 の 地 震 免 責 条 項 を 無 効 と し て 火 災 保 険 金 の 支 払 い を 求 め る 訴 訟 が 社 会 問 題 化 し 、 震 災 以 降 に 地 震 保 険 創 設 の 問 題 が 本 格 的 に 議 論 さ れ る よ う に な っ た 。19 こ の と き に 、 火 災 保 険 の 地 震 免 責 条 項 の 無 効 と 保 険 金 支 払 い を 求 め る 世 論 の 声 に 押 さ れ て 、 国 内 保 険 会 社 は 政 府 か ら 最 長 50 年 を 借 入 期 間 と し て 約 6 千 万 円 を 借 り 入 れ 、 自 己 資 金 と あ わ せ て 見 舞 金 約 8 千 万 円 を 給 付 し て い る 。 火 災 保 険 の 罹 災 契 約 金 額 が 約 16 億 円 、 保 険 会 社 の 総 資 産 は 約 2 億 円 で あ っ た こ と を み る と 、被 害 額 が 巨 額 で あ っ た こ と が う か が 1 7 _{被 災 者 生 活 再 建 支 援 制 度 の 改 正 過 程 に お け る 議 論 は 「 DRI 調 査 研 究 レ ポ ー ト NO.4」 （ 2004）} （pp.98-124） に 詳 し い 。 1 8 _{規 制 改 革 会 議 （ 2007） で は 地 震 保 険 制 度 の 見 直 し に つ い て 、 耐 震 性 が 高 く 安 全 な 建 物 に 対 し て は 低} い 保 険 料 率 を 設 定 す る こ と を 通 じ て 、新 築 で あ れ 改 修 で あ れ 、家 計 の 耐 震 化 促 進 へ の イ ン セ ン テ ィ ブ を 付 与 す る こ と が 重 要 と し て い る 。ま た 、保 険 料 率 の 法 的 位 置 づ け に つ い て も 、事 前 の 自 主 的 な 耐 震 化 を よ り 促 進 す る よ う 見 直 す べ き と し て い る 。 1 9 _{政 府 試 案 は 国 営 論 、 強 制 保 険 制 度 、 政 府 出 資 法 人 に よ る 地 震 保 険 基 金 な ど で 、 い ず れ も 政 府 関 与 を} 前 提 と し た も の で あ っ た 。

7 え る 。 な お 、 見 舞 金 目 的 の 政 府 借 入 金 の 返 済 が 完 了 し た の は 、1950 年 （ 昭 和 25 年 ） で あ る 。 巨 大 災 害 に よ る 経 済 損 失 に 対 す る 見 舞 金 の 支 払 い 後 に 、 保 険 会 社 の 資 本 が 回 復 す る ま で に 長 期 間 を 要 し た も の と 想 像 さ れ る 。 現 在 の 地 震 保 険 制 度 は 、1964 年 （ 昭 和 39 年 ） に 発 生 し た 新 潟 地 震 後 に 開 催 さ れ た 保 険 審 議 会 （ 会 長 ： 石 坂 泰 三 氏 ） の 答 申 を 受 け て 、1966 年 （ 昭 和 41 年 ） の 地 震 保 険 法 の 制 定 に よ り 創 設 さ れ た も の で あ る 。20 _{因 み に 、 わ が 国 の 災 害 対 策 に 係 る 法 制 度 と し て 災 害 救} 助 法 が 制 定 さ れ た の は 戦 後 の 1947 年（ 昭 和 47 年 ）で あ る 。21 _{明 治 以 降 、自 然 災 害 に よ} る 被 害 損 失 補 償 の 手 段 と し て 保 険 制 度 が 早 い 段 階 か ら 注 目 さ れ て い た 歴 史 的 背 景 は 、 政 府 の 災 害 対 策 に も 影 響 を 与 え て い る も の と 考 え ら れ る 。22 ２-２ 地 震 保 険 制 度 の 目 的 地 震 保 険 法（ 昭 和 41 年 5 月 18 日 法 律 第 73 号 、平 成 11 年 12 月 22 日 法 律 第 160 号 ）（ 以 下 、「 法 」と い う 。）の 目 的 は 、「 保 険 会 社 等 が 負 う 地 震 保 険 責 任 を 政 府 が 再 保 険 す る こ と に よ り 、 地 震 保 険 の 普 及 を 図 り 、 も つ て 地 震 等 に よ る 被 災 者 の 生 活 の 安 定 に 寄 与 す る こ と 」 （ 法 第 １ 条 ） と あ り 、 家 屋 ・ 家 財 の 損 失 に 応 じ た 保 険 金 支 払 い を 行 う も の と あ る 。 本 法 は 、 制 度 目 的 を 地 震 災 害 に よ る 資 産 損 失 補 償 で は な く 、 被 災 者 の 生 活 の 安 定 に あ る と し て い る 点 が 、 一 般 の 損 害 保 険 と は 異 な る 。 第 １ 条 で い う 「 被 災 者 の 生 活 の 安 定 」 が 震 災 復 興 過 程 に お け る 一 日 も 早 い 居 住 機 能 の 回 復 に あ る と す れ ば 、 確 か に 被 災 者 の 経 済 活 動 を 正 常 化 し て ゆ く 過 程 で 最 も 重 要 な 部 分 と い え る 。 し か し 、 保 険 機 能 が リ ス ク 分 散 と 資 産 の 損 失 補 償 に あ る こ と を 考 え れ ば 、 こ の よ う な 制 度 目 的 の 設 定 は 政 府 関 与 の 根 拠 を も 曖 昧 か つ 不 安 定 な も の と し て い る よ う に 見 受 け ら れ る 。 そ こ で 次 節 以 降 で は 、 地 震 保 険 制 度 の 特 殊 性 と 巨 大 リ ス ク に 対 す る 政 府 関 与 に つ い て 概 観 し て ゆ く 。 ２-３ 地 震 保 険 制 度 の 特 色 ２-３ -１ 営 利 の 追 求 地 震 保 険 の 制 度 目 的 に 高 い 公 共 性 が 見 ら れ る こ と か ら 、 政 府 の 再 保 険 に 係 る 地 震 保 険 契 約 の 保 険 料 率 は 、「 収 支 の 償 う 範 囲 内 に お い て で き る 限 り 低 い も の で な け れ ば な ら な い 」（ 第 5 条 ） と あ り 、 保 険 事 業 は 「 ノ ー ・ ロ ス 、 ノ ー ・ プ ロ フ ィ ッ ト 」 原 則 に よ る も の と さ れ て 2 0 _{戦 時 中 の 戦 時 特 殊 損 害 保 険 法 （1944 年 (昭 和 20 年 )） に よ る 地 震 保 険 制 度 を 除 く と 、 一 般 家 計 を 対} 象 と し た 地 震 保 険 制 度 の 創 設 は 現 行 制 度 が 初 め て と な る。 2 1 _{以 上 、 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （ 2008a） pp.Ⅱ 5-10 か ら の 一 部 抜 粋 、 加 筆 。} 2 2 _{明 治 以 降 、 保 険 に よ る リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト は 都 市 部 で 急 速 に 普 及 し た よ う で あ る 。 田 村 （ 2008）} （pp.112-114） は 、 玉 井 （ 1986） と 小 林 （ 1998） に よ る 江 戸 で 火 災 損 害 軽 減 策 の た め に 使 わ れ て い た 「 土 蔵 」 が 明 治 期 18～ 20 年 前 後 に 消 滅 し た 理 由 を そ れ ぞ れ 火 災 保 険 ・ 銀 行 預 金 の 登 場 と す る 説 を 紹 介 し て い る 。 防 火 の た め に 建 物 を 耐 火 構 造 と す る か （ リ ス ク ・ コ ン ト ロ ー ル ） 、 銀 行 預 金 ・ 火 災 保 険 （ リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス ）で 資 産 補 償 を 図 る か で 、都 市 住 民 が 後 者 を 選 択 し て い っ た 結 果 、土 蔵 が 消 滅 し て い っ た と さ れ る 。

い る 。 保 険 料 率 の 内 訳 を 図 ３ に あ ら わ す 。 保 険 料 率 は 、 保 険 金 支 払 い の 原 資 に 相 当 す る 純 保 険 料 と 経 費 に 相 当 す る 付 加 保 険 料 か ら 構 成 さ れ る 。 付 加 保 険 料 は 保 険 会 社 の 社 費 及 び 代 理 店 手 数 料 で あ り 、 社 費 は 更 に 営 業 費 と 損 害 調 査 費 に 区 分 さ れ る 。 営 業 費 は 保 険 会 社 へ の 実 態 調 査 に 基 づ き 算 出 さ れ る 。 損 害 調 査 費 は 保 険 金 支 払 い 目 的 の た め に 保 険 会 社 が 行 う 調 査 に 要 す る 費 用 で あ る 。 損 害 調 査 費 は 、 保 険 会 社 か ら 再 保 険 を 目 的 と し て 出 資 ・ 設 立 さ れ た 日 本 地 震 再 保 険 会 社 （ 以 下 、 「 地 再 社 」 と い う 。 ） に 請 求 さ れ 、 地 再 社 が 積 み 立 て る 準 備 金 に よ り 負 担 さ れ る 。 一 般 の 損 害 保 険 の 場 合 は 付 加 保 険 料 に 保 険 会 社 の 利 潤 が 含 ま れ る が 、 現 行 制 度 で は 政 府 再 保 険 事 業 の 対 象 と な る 保 険 契 約 の 付 加 保 険 料 に は 保 険 会 社 の 利 潤 相 当 は 織 り 込 ま な い も の と さ れ て い る 。23 保険 料率 純保険料 率 付加保険料率 社 費 社 費 営業 費 代理店 手数料 損害調 査費 図 3 保 険 料 率 の 分 類 （ 出 典 ） 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （2008a） よ り 作 成 保 険 が 市 場 で 取 引 さ れ る 財 で あ れ ば 、 一 般 的 に ノ ー ・ ロ ス で あ る こ と は 損 保 会 社 の 経 営 上 、当 然 と さ れ る 。 堀 田 （2003）は 地 震 保 険 と 同 様 に ノ ー ・プ ロ フ ィ ッ ト 原 則 に よ る 自 賠 責 保 険 を 取 り 上 げ 、 当 該 原 則 に よ り 中 小 保 険 会 社 に と っ て 保 険 集 団 の 危 険 選 択 を 行 う 必 要 が な く 確 実 に 事 務 手 数 料 を 獲 得 で き る た め 、 （ 保 険 会 社 の ） 一 定 の 経 営 の 安 定 性 の 確 保 に つ な が る と 指 摘 し て い る 。 ま た 、 民 営 保 険 会 社 に 制 度 運 営 を 任 せ な が ら も 、 利 益 を 認 め な い こ と は 経 営 効 率 へ の イ ン セ ン テ ィ ブ を 損 な う 可 能 性 が あ る と し て い る 。 む し ろ 適 正 利 潤 を 認 め る こ と で 経 営 効 率 が 高 ま る の で あ れ ば 、 最 終 的 に は 契 約 者 利 益 に つ な が る こ と も 考 え ら れ る た め 、 経 営 効 率 化 が 被 災 者 救 済 に 反 す る こ と が な い よ う に 標 準 化 す る と い っ た 監 督 業 務 に 政 府 が 関 与 す る 必 要 性 を 説 い て い る 。24 _{個 々 の 被 保 険 者 が 負 担 す る 保 険 料 （ リ} ス ク ・ プ レ ミ ア ム ） は 理 念 的 に は 移 転 リ ス ク に 見 合 っ た も の で あ る （ 保 険 料 公 平 の 原 則 ） べ き と し 、 そ こ に 適 正 利 潤 は 含 ま れ な い と す る 理 念 は 、 保 険 の 成 立 要 件 か ら 一 歩 踏 み 込 ん だ も の で あ ろ う 。25 2 3 _{損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （ 2008a） Ⅲ 章} 2 4 _{堀 田 （ 2003） 、 原 点 は 西 島 （ 2000） 。} 2 5 _{堀 田 （ 2003） （ pp.3） ： 給 付 ・ 反 対 給 付 均 等 の 原 則 は 、 給 付 （ 保 険 金 ） と 反 対 給 付 （ 保 険 料 ） の 間} で 、リ ス ク の 大 き さ を 媒 介 に し て 、個 別 の 保 険 契 約 に つ い て 両 者 が 等 し い こ と を 求 め る も の で あ る 。保 険 料 を P、地 震 危 険 度 をw、保 険 金 を Iと す る と き 、PwIと な る 。保 険 取 引 に よ り 保 険 契 約 者 は 不 確 実 な リ ス ク （ 損 害 発 生 の 可 能 性 ） を 確 定 し た 保 険 料 に 置 換 す る こ と に な る 。

9 ２-３ -２ リ ス ク の 時 間 分 散 と 集 積 の 回 避 地 震 保 険 制 度 に 関 す る 答 申（ 昭 和 40 年 4 月 23 日 ）（ 以 下 、「 答 申 」と い う 。）に よ れ ば 、 地 震 リ ス ク の 長 期 時 間 分 散 と （ 保 険 ） 損 害 の 過 大 な 集 積 を 回 避 す る こ と は 民 間 単 独 で は 困 難 で あ る と の 考 え か ら 、 次 の 政 府 関 与 が 措 置 さ れ た 。 （ １ ） 再 保 険 ス キ ー ム に よ る 長 期 時 間 分 散 保 険 は 、 引 受 リ ス ク を 増 や し て 大 数 の 法 則 と 中 心 極 限 定 理 が 強 く 働 け ば 働 く ほ ど 、 保 険 契 約 者 か ら 収 受 し た （ 純 ） 保 険 料 の 総 額 で 支 払 保 険 金 額 総 額 を 賄 え る 確 率 は 高 ま っ て ゆ き 、 保 険 者 の 実 質 的 な リ ス ク 負 担 は 逓 減 し て ゆ く 。 こ の リ ス ク の 集 散 （ リ ス ク の 集 積 及 び 分 散 ） は 必 ず し も 一 時 点 で 行 う 共 時 的 分 散 に よ る 必 要 は な く 、 長 時 間 に わ た る 通 時 的 分 散 に よ る こ と も 可 能 で あ る 。 保 険 契 約 者 （ リ ス ク ・ ヘ ッ ジ ャ ー ） 間 の リ ス ク の 共 時 的 分 散 が 十 分 に は 行 え な い 場 合 は 、保 険 引 受 者（ リ ス ク・テ イ カ ー ）間 の 分 散（ 再 保 険 ） も 併 行 し リ ス ク の 消 化 を 図 る 。 し か し 、 そ れ で も 十 分 に 保 険 カ バ ー を 提 供 で き な い 場 合 に 、 ヘ ッ ジ ャ ー 間 ・ テ イ カ ー 間 で の 通 時 的 分 散 を 図 る こ と に な る 。26 法 第 3 条 に よ り「 政 府 は 、地 震 保 険 契 約 に よ つ て 保 険 会 社 等 が 負 う 保 険 責 任 を 再 保 険 す る 保 険 会 社 等 を 相 手 方 と し て 、 再 保 険 契 約 を 締 結 す る こ と が で き る 」 と あ る 。 こ の た め に 、1966 年 （ 昭 和 41 年 ） に 国 内 唯 一 の 家 計 地 震 保 険 専 門 会 社 で あ る 地 再 社 が 設 立 さ れ た 。 地 再 社 は 、 家 計 を 含 む 一 般 の 契 約 者 か ら 直 接 に 保 険 を 引 受 け る 保 険 会 社 （ 以 下 、 「 元 受 社 」 と い う 。 ） の 地 震 保 険 契 約 の 全 責 任 を 再 保 険 特 約 （ 地 震 保 険 再 保 険 特 約 A） に よ り 引 き 受 け る 。地 再 社 は 当 該 特 約 に よ り 引 き 受 け た 責 任 を 均 質 化 し 、負 担 額 に 応 じ て 再 々 保 険 し 、 そ の 残 余 を 保 有 す る 。 政 府 と 地 再 社 の 再 々 保 険 は 地 震 保 険 超 過 損 害 額 再 保 険 契 約 に よ る 。 本 方 式 （Excess of Loss Cover） は 、 保 険 事 故 （ 地 震 保 険 の 場 合 は 地 震 被 害 に よ る 家 屋 ・ 家 財 の 損 壊 、 消 失 、 流 出 ） に よ る 損 害 額 が 一 定 額 （ レ イ ヤ ー ） を 超 え た 場 合 に 、 一 定 の 限 度 額 ま で の 損 害 額 を 再 保 険 金 と し て 支 払 う も の で あ る 。 元 受 社 、 地 再 社 及 び 政 府 の 間 の 契 約 関 係 を 示 し た の が 図 ４ で あ る 。 保険料 保険料 保険料 契約者A 契約者B 契約者C 元受 保険会社等 保険料 地再社 地震 保険契約 の締結 地 震保険 再保 険特約 （全額 再保険） A特約 C特約 地震保険 超過損害額 再保険契約 （再々保険） 保有 政府 （特別会計） B特約 地 震保険 再保 険特約 （再 々保険 ） 図 4 地 震 保 険 の 再 保 険 ス キ ー ム （ 出 典 ） 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 HP、 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （ 2008a） に よ り 作 成 2 6 _{吉 澤 （ 2006） pp.76、 89-90}

政 府 再 保 険 事 業 が 保 険 市 場 に お け る リ ス ク 分 散 機 能 を 補 完 的 且 つ 限 定 的 に 引 き 受 け る も の だ と す れ ば 、 そ の 役 割 は 固 定 的 な も の と す る 事 由 は な い 。 む し ろ 、 （ 再 ） 保 険 市 場 の 状 況 に 応 じ た 可 変 的 な も の と な る 。 市 場 機 能 を 補 完 す る 目 的 で 政 府 関 与 が 必 要 と さ れ る 場 合 に 、 政 府 関 与 の 範 囲 は （ 再 ） 保 険 市 場 の あ り よ う に よ っ て 決 定 さ れ る 。 （ ２ ） 支 払 総 限 度 額 の 設 定 に つ い て 法 第 ４ 条 に よ り 、一 回 の 地 震 等 に よ っ て 保 険 会 社 全 社 が 支 払 う 保 険 金（ 総 支 払 限 度 額 ） に 制 限 が 設 け ら れ 、 全 保 険 会 社 が 支 払 い 義 務 を 負 う 保 険 損 害 額 が 一 定 金 額 を 超 過 し た 場 合 に 、 保 険 の 眼 目 で あ る 受 取 保 険 金 が 削 減 さ れ る こ と に な っ て い る 。 こ れ は 主 に 四 つ の 目 的 か ら 措 置 さ れ て い る 。 第 一 に 、 保 険 者 （ 保 険 会 社 ・ 政 府 ） の 負 担 能 力 は 有 限 で あ る こ と 、 第 二 に 、 地 震 保 険 は 原 則 自 動 付 帯 を 建 前 と し て お り 被 保 険 者 の 保 険 料 負 担 が 過 大 と な る こ と は 適 当 で は な い こ と 、 第 三 に 、 非 常 に 高 額 の 個 人 資 産 に ま で 国 が 関 与 す る 保 険 で 救 済 す る 必 要 は な い こ と 、 そ し て 第 四 に 、 巨 大 災 害 に よ る 保 険 損 害 の 集 積 回 避 で あ る 。27 _{第 二 点 目 は 、 地 震 保 険 の 原 則 自 動 付 帯 を 強 制 保 険 に 近 い も の と と ら え 、 保 険 料} の 家 計 負 担 額 の 絶 対 額 を 縮 小 す る 必 要 性 を 主 張 し た も の と 解 さ れ る 。 平 成 20 年 4 月 現 在 の 総 支 払 限 度 額 は 5 兆 5,000 億 円 で あ る 。 総 支 払 限 度 額 は 関 東 大 地 震 級 の 巨 大 な 地 震 が 発 生 し た 場 合 に 保 険 金 の 支 払 い に 支 障 の な い よ う に 定 め ら れ て い る と い わ れ る 。28 _{法 第 4 条 に よ り 総 支 払 限 度 額 が 削 減 さ れ る 場 合 は 、 保 険 金 総 額 に 対} す る 総 支 払 限 度 額 の 保 険 会 社 及 び 政 府 の 負 担 限 度 額 の 割 合 を 各 契 約 の 保 険 金 額 に 乗 じ て 得 た 金 額 を 支 払 保 険 金 と す る 。 人 口 と 富 の 集 中 す る 大 都 市 地 域 ほ ど 総 支 払 限 度 額 を 超 過 す る 保 険 損 害 が 生 ず る 可 能 性 は 高 く 、保 険 金 給 付 額 が 削 減 さ れ や す い 構 造 に な っ て い る 。 図 5 は 、 過 去 の 保 険 金 額 （ 実 績 ） と 官 民 の 負 担 限 度 額 を グ ラ フ に し た も の で あ る 。 総 支 払 限 度 額 と 政 府 負 担 は 保 険 金 額 の 増 加 と 共 に 推 移 し て い る 。 （ ３ ） 付 帯 割 合 と 加 入 限 度 額 の 設 定 に つ い て 個 人 資 産 の 全 て を 国 が 関 与 す る 保 険 に よ っ て 救 済 す る 必 要 は な い と の こ と か ら 、 一 災 害 に よ る 損 害 の 集 積 を 避 け る 必 要 性 を 勘 案 し 、 保 険 加 入 金 額 は 火 災 保 険 金 額 の 30％ ～ 50％ に 制 限 さ れ て い る 。 加 入 限 度 額 は 、 居 住 用 建 物 5,000 万 円 、 生 活 用 動 産 は 1,000 万 円 で あ る 。29 2 7 _{損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 (2008a)Ⅱ -13 に 一 部 加 筆 。} 2 8 _{損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （ 2008a） pp.Ⅱ -31} 2 9 _{制 度 創 設 時 の 付 帯 割 合 は 30％ で あ っ た が 、1980 年 制 度 改 正 に よ り 30％ ～ 50％ の 範 囲 に 拡 大 さ れ た 。} こ れ に 伴 い 、 加 入 限 度 額 が 引 上 げ ら れ て い る 。 な お 、 こ の と き の 制 度 改 正 は 1978 年 の 宮 城 県 沖 地 震 に お け る 半 壊 ･一 部 損 の 被 害 が 地 震 保 険 の 補 償 対 象 と な ら な い こ と に 端 を 発 し た と さ れ る 。 制 度 改 正 で は 半 損 担 保 も 導 入 さ れ た 。 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （2008a） pp.Ⅱ ‐ 18

11 保険金額と官民負担額の推移 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 10,000 S49 S51 S53 S55 S57 S59 S61 S63 H2 H4 H6 H8 H10 H12 H14 H16 H18 H20 事業年度 保険金額（100億円） 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 支払限度額（億円） 保険金額 損保負担額 政府負担額 総支払限度額 第1レイヤー（上限） 第2レイヤー（上限） 図 5 損 保 会 社 ・ 政 府 の 負 担 金 額 の 推 移 （ 出 典 ） 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （2008a）、 地 震 保 険 統 計 集 （ 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 ） に よ り 作 成 （ 注1） 保 険 金 額 は 、 各 年 度 末 の 保 険 契 約 の 保 有 残 高 に よ る 。 （ 注2） 保 険 金 額 、 一 回 の 地 震 等 に つ い て の 保 険 金 支 払 限 度 額 、 損 保 ・ 政 府 負 担 額 は 名 目 価 額 で あ る 。 （ 注3） 第 一 レ イ ヤ ー は 、 損 保 会 社 50％ ・ 政 府 50％ の 負 担 領 域 で あ る 。 （ 注4） 第 ニ レ イ ヤ ー は 、1974 年（ 昭 和 49 年 ）に お い て は 損 保 会 社 0％・政 府 95％ の 負 担 領 域 、1975 年 （ 昭 和 50 年 ） 以 降 は 損 保 会 社 5％ ・ 政 府 95％ の 負 担 領 域 で あ る 。 ２-３ -３ 保 険 料 率 の 法 的 位 置 づ け 「 損 害 保 険 料 率 算 出 団 体 に 関 す る 法 律 」（ 昭 和 23 年 法 律 第 193 号 ）（ 以 下 、「 料 団 法 」と い う 。）30_{に 基 づ き 損 害 保 険 料 率 算 出 会（ 現： 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 ）（ 以 下 、「 機 構 」と い} う 。） が 設 立 さ れ 、 地 震 保 険 料 率 の 算 出 を 行 う こ と と な っ た 。 当 機 構 に よ る 地 震 保 険 料 率 の 算 出 は 、料 団 法 第 7 条 の 3 に よ り「 私 的 独 占 の 禁 止 及 び 公 正 取 引 の 確 保 に 関 す る 法 律 」（ 昭 和 22 年 法 律 第 54 号 ）（ 以 下 、「 独 禁 法 」と い う 。）第 8 条 第 1 項（ 第 1 号 及 び 第 ４ 号 に 係 る 部 分 に 限 る ）の 適 用 除 外 で あ る 。こ れ に 関 連 し て 、保 険 業 法 第 101 条 第 1 項 第 1 号 に よ り 、地 震 保 険 法 に よ る 地 震 保 険 種 目 に 係 る 損 害 保 険 会 社 の 共 同 行 為 は 独 占 禁 止 法 の 適 用 除 外 と さ れ て い る 。31 堀 田（2003）に よ れ ば 、機 構 に よ る 地 震 保 険 料 率 の 算 出 と 損 害 保 険 会 社 間 の 共 同 行 為 が 独 禁 法 の 適 用 除 外 で あ る 理 由 は 、 保 険 料 の 算 出 の た め に 全 社 的 共 同 行 為 を 通 じ て で き る だ 3 0 _{料 団 法 は 、 損 害 保 険 料 率 算 出 団 体 の 業 務 の 適 切 な 運 営 を 確 保 す る こ と に よ っ て 、 損 害 保 険 業 の 健 全} な 発 達 と 保 険 契 約 者 等 の 利 益 を 保 護 す る こ と を 目 的 と し て 制 定 さ れ た も の 。 3 1 _{公 正 取 引 委 員 会 HP}

け 多 く の 統 計 デ ー タ を 収 集 す る 必 要 が あ っ た こ と 、 巨 大 リ ス ク を 引 き 受 け る 場 合 に は リ ス ク 分 散 ・ リ ス ク 平 均 が 必 要 で あ っ た こ と 、 国 民 生 活 の 安 定 の た め に は 保 険 市 場 の 安 定 が 優 先 さ れ る べ き で あ っ た こ と32 33_{、 な ど を 挙 げ て い る 。 ま た 、 保 険 業 法 第 101 条 第 1 項 第 2} 号 で は 、 保 険 リ ス ク の 交 換 を 行 う 相 互 交 換 型 の 再 保 険 の 組 成 に つ い て 独 禁 法 適 用 除 外 と し て い る 。 こ の よ う な 規 制 条 件 下 で 、 現 機 構 は 火 災 保 険 ・ 傷 害 保 険 等 の 参 考 純 率 及 び 地 震 保 険 等 の 基 準 料 率 の 算 出 と 会 員34_{へ の 提 供 、 自 賠 責 保 険 の 損 害 調 査 、 リ ス ク 分 析 ・ 研 究 の デ ー タ バ} ン ク 業 務 等 を 行 っ て い る 。 参 考 純 率 は 、 機 構 が 算 出 す る 純 保 険 料 率 部 分 の 料 率 で 、 会 員 の 自 社 保 険 料 率 を 算 出 す る 際 の 基 礎 と し て 使 用 す る こ と が で き る も の で あ る 。 基 準 料 率 は 、 純 保 険 料 率 と 付 加 保 険 料 率 か ら 構 成 さ れ る 。 前 者 は 将 来 の 保 険 金 の 支 払 い に 充 て ら れ る と 見 込 ま れ る 部 分 の 保 険 料 の 保 険 金 額 に 対 す る 割 合 を い い 、 後 者 は 保 険 事 業 を 営 む た め の 事 務 費 率 の 保 険 金 額 に 対 す る 割 合 を い う 。料 団 法 第 2 条 第 6 号 に よ り 、会 員 は 機 構 が 算 出 し た 基 準 料 率 を 自 社 の 保 険 料 率 と し て 使 用 す る 旨 を 所 管 官 庁 に 届 け 出 る こ と に よ り 、 保 険 業 法 に 基 づ く 認 可 を 取 得 し た も の と み な さ れ 、 自 社 の 保 険 料 率 と し て 使 用 す る こ と が で き る 。 損 害 保 険 分 野 に お け る 保 険 カ ル テ ル は 、 一 般 的 に は 「 政 府 規 制 と 競 争 政 策 に 関 す る 研 究 報 告 書 」（1991）35_{に み ら れ る よ う に 、 純 保 険 料 率 に つ い て は 保 険 数 理 的 に 合 理 性 の あ る} 料 率 を 算 出 す る こ と の 意 義 は あ っ た と し て も 、 付 加 保 険 料 率 に つ い て は 損 保 会 社 の 経 営 効 率 が 直 接 反 映 さ れ る た め 、 当 該 料 率 を カ ル テ ル に よ る 共 同 決 定 と す る こ と は 競 争 政 策 上 問 題 が あ る と さ れ て い る 。 ２-４ 保 険 料 率 と そ の 算 出 方 法 地 震 保 険 は 他 の 災 害 と 比 べ て 発 生 頻 度 が 低 く 、 ま た 地 震 被 害 の 不 確 実 性 か ら 過 去 の 被 害 デ ー タ だ け で は 料 率 算 出 を 行 う こ と は 困 難 と さ れ て い る 。 そ の た め 、 地 震 保 険 の 料 率 の 算 出 に あ た っ て 、 将 来 発 生 が 予 想 さ れ る 地 震 が 発 生 し た 場 合 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を も と に 地 震 被 害 の 予 測 が 行 わ れ て い る 。36 3 2 _{「 保 険 理 論 と 保 険 政 策 」 堀 田 一 吉 （ 2003） pp.245。 原 典 は 長 谷 川 （ 1998） pp.100～ 107。} 3 3 _{堀 田（ 2003）pp.246：1996 年 12 月 の 日 米 保 険 協 議 合 意 を 経 て 、1998 年 の 料 団 法 の 改 正 に よ り 算 出} 会 料 率 の 遵 守 義 務 が 廃 止 さ れ た 。損 害 保 険 料 率 算 出 会 の 役 割 は 任 意 自 動 車 保 険 、火 災 保 険 及 び 傷 害 保 険 に つ い て 遵 守 義 務 の な い 標 準 約 款 及 び 参 考 純 率 を 作 成 算 出 す る こ と 、自 賠 責 保 険 及 び 地 震 保 険 に つ い て は 基 準 料 率 を 算 出 す る こ と と な っ た 。 3 4 _{損 害 保 険 料 率 算 出 機 構（ 2008b）： 機 構 を 構 成 す る 会 員 と は 、保 険 業 法（ 平 成 ７ 年 法 律 第 105 号 ）第} 2 条 第 4 項（ 定 義 ）に 規 定 す る 損 害 保 険 会 社 及 び 同 条 第 9 項 に 規 定 す る 外 国 損 害 保 険 会 社 等 を い う 。生 命 保 険 会 社（ 保 険 業 法 第 2 条 第 3 項 に 規 定 す る 生 命 保 険 会 社 及 び 同 条 第 8 項 に 規 定 す る 外 国 生 命 保 険 会 社 等 ）に つ い て も 、障 害 、疾 病 、介 護 分 野 の 保 険 の 引 受 け を 行 う 範 囲 に お い て 損 害 保 険 会 社 と み な さ れ 、 会 員 と な る こ と が で き る 。2008 年 7 月 現 在 の 機 構 会 員 は 38 社 で あ る 。 3 5 _{「 損 害 保 険 会 社 の 独 占 禁 止 法 関 連 資 料 集 」 （ 1995） （ 社 ） 日 本 損 害 保 険 協 会} 3 6 _{地 震 保 険 料 率 算 出 機 構 （ 2008a） 第 Ⅲ 章}

13 被 害 予 測 は 、 想 定 被 害 地 域 に お け る 地 震 動 の 大 き さ の 予 測 、 地 震 動 の 大 き さ に よ る 建 物 の 被 害 率 （ 損 壊 率 ） の 予 測 と 地 震 火 災 及 び 津 波 に よ る 被 害 率 （ 焼 失 率 又 は 流 失 率 ） の 予 測 か ら 構 成 さ れ る 。 こ れ ら に 被 害 地 域 の 現 在 の 地 震 保 険 契 約 状 況 を 加 味 し て 予 想 支 払 保 険 金 の 計 算 を 行 い 、 一 年 あ た り の 予 想 支 払 い 保 険 金 を 求 め る 。 こ れ を 地 震 保 険 の 契 約 保 険 金 額 で 除 す こ と に よ り 、 純 保 険 料 率 が 求 め ら れ る 。37 _{付 加 保 険 料 率 の う ち 社 費 は 保 険 会 社 へ} の 調 査 に よ り 算 出 さ れ る 。 こ の よ う な 過 程 を 経 て 算 出 さ れ た 保 険 料 率 は 都 道 府 県 別 に ４ 段 階 か ら な る 等 地 区 分 に 分 か れ 、 目 的 と な る 資 産 の 構 造 区 分 （ 木 造 ・ 非 木 造 ） に よ り 異 な る 。 非 木 造 区 分 の 保 険 料 率 は 木 造 区 分 の 約 半 分 に 設 定 さ れ て い る 。 そ の 他 、 家 屋 の 耐 震 性 能 に 応 じ て 10％ か ら 30％ の 割 引 制 度 が 設 け ら れ て い る 。38 但 し 、 構 造 区 分 別 の 保 険 料 率 は 、 対 象 と な る 家 屋 の 耐 震 ・ 耐 火 性 能 に 応 じ た 設 定 と は 異 な る 。 建 築 時 期 や 耐 震 基 準 に 関 わ り な く 、 構 造 別 に よ り 耐 震 性 能 は 異 な る 。 阪 神 ・ 淡 路 大 震 災 に お け る 地 震 保 険 金 の 支 払 い 実 績 で は 、 家 屋 の 全 壊 ・ 半 壊 状 況 は 木 造 ・ 非 木 造 で お お よ そ 2： 1 の 割 合 で あ り 、 構 造 別 の 料 率 設 定 は 一 見 す る と 現 実 的 と い え る 。39 _{し か し 、} 家 屋 被 害 の 状 況 を 仮 に 倒 壊 に よ る も の に 限 定 す る と し て も 、 被 害 は 地 震 動 の 大 き さ ・ 速 度 と 耐 震 性 能 に よ り 決 定 す る と 考 え れ ば 、 構 造 別 保 険 料 率 に 対 し て 割 引 制 度 に よ り 補 正 を す る の で は な く 、 家 屋 の 耐 震 性 能 に よ る 段 階 的 な 保 険 料 率 を 採 用 す る こ と が 望 ま し い 。40 最 近 で は 、2007 年 （ 平 成 19 年 ） 改 正 に お け る 震 源 デ ー タ 及 び 被 害 予 測 手 法 の 変 更 に 伴 う 基 準 料 率 の 全 面 的 な 見 直 し が 行 わ れ て い る 。2007 年 改 正 に お い て は 、都 道 府 県 別 間 の 地 震 リ ス ク が よ り 詳 細 に 分 析 さ れ 、表 1 の と お り 基 準 料 率 が 細 分 化 さ れ た 。2007 年 改 正 に よ る 主 な 変 更 内 容 を 以 下 に ま と め る 。41 3 7 _{地 震 保 険 料 率 算 出 機 構 （ 2008a） 第 Ⅲ 章} 3 8 _{割 引 制 度 に は 建 築 年 割 引 率 （ 昭 和 56 年 以 降 に 建 築 さ れ た 家 屋 に つ い て 10％ の 割 引 と す る ） 、 耐 震} 等 級 割 引 （ 等 級 1～ ３ に つ い て 、 10％ ～ 30％ の 割 引 と す る ） 、 免 震 建 築 物 割 引 、 耐 震 診 断 割 引 が あ る 。 3 9 _{佐 伯 琢 磨 ・ 翠 川 三 郎 （ 2001）} 4 0 _{地 震 保 険 料 率 算 出 機 構 記 者 発 表 資 料 （ ニ ュ ー ス リ リ ー ス No.2008－ 0028,2008 年 （ 平 成 20 年 ） 11} 月 28 日 ） ： 現 在 、 金 融 庁 長 官 に 提 出 さ れ て い る 地 震 保 険 基 準 料 率 の 変 更 に 関 す る 届 出 （ 審 査 中 ） に よ れ ば 、建 物 の 構 造 区 分 の 判 定 基 準 の 変 更 が な さ れ 、こ れ に 伴 い 基 準 料 率 の 変 更 が 予 定 さ れ て い る 。ツ ー バ イ フ ォ ー 工 法 建 物 の よ う な 枠 組 壁 工 法 建 物 や 省 令 準 耐 火 建 物 は 基 準 料 率 が 30％ 程 度 引 下 げ と な る 。 省 令 準 耐 火 建 物 は 、 独 立 行 政 法 人 住 宅 金 融 支 援 機 構 の 業 務 運 営 並 び に 財 務 及 び 会 計 に 関 す る 省 令 第 39 条 第 3 項 に 定 め る 耐 火 性 能 を 有 す る 構 造 の 建 物 と し て 、同 機 構 の 定 め る 仕 様 に 合 致 す る も の 又 は 同 機 構 の 承 認 を 得 た も の を い う 。ま た 、外 壁 が コ ン ク リ ー ト 造 の 木 造 建 物 で 準 耐 火 建 築 物 又 は 省 令 準 耐 火 建 物 に 該 当 し な い も の と 、 土 蔵 造 建 物 は 基 準 料 率 が 50％ 程 度 引 上 げ ら れ る 。 耐 震 ・ 耐 火 性 能 に 応 じ て 保 険 料 率 が 決 定 さ れ る 方 向 性 は 、 む し ろ 望 ま し い も の と 考 え ら れ る 。 4 1 _{地 震 保 険 料 率 算 出 機 構 記 者 発 表 資 料 （ ニ ュ ー ス リ リ ー ス No.2006-0005、 2006 年 （ 平 成 18 年 ） 5 月} 19 日 付 資 料 ）

表 1 2007 年 10 月 改 定 時 の 等 地 区 分 及 び 構 造 別 保 険 料 率 都道府県 等地区分 木造区分 非木造区分 都道府県 等地区分 木造区分 非木造区分 北海道 2 1.27 0.65 三重 4 3.06 1.69 青森 2 1.27 0.65 滋賀 2 1.27 0.65 岩手 1 1.00 0.50 京都 2 1.27 0.65 宮城 2 1.27 0.65 大阪 3 1.88 1.05 秋田 1 1.00 0.50 兵庫 2 1.27 0.65 山形 1 1.00 0.50 奈良 2 1.27 0.65 福島 1 1.00 0.50 和歌山 4 3.06 1.69 茨城 3 1.88 0.91 鳥取 1 1.00 0.50 栃木 1 1.00 0.50 島根 1 1.00 0.50 群馬 1 1.00 0.50 岡山 2 1.27 0.65 埼玉 3 1.88 1.05 広島 2 1.27 0.65 千葉 4 3.06 1.69 山口 1 1.00 0.50 東京 4 3.13 1.69 徳島 4 2.15 0.91 神奈川 4 3.13 1.69 香川 3 1.56 0.65 新潟 2 1.27 0.65 愛媛 3 1.88 0.91 富山 1 1.00 0.50 高知 4 2.15 0.91 石川 1 1.00 0.50 福岡 1 1.00 0.50 福井 1 1.00 0.50 佐賀 1 1.00 0.50 山梨 3 1.88 0.91 長崎 1 1.00 0.50 長野 2 1.27 0.65 熊本 1 1.00 0.50 岐阜 2 1.27 0.65 大分 2 1.27 0.65 静岡 4 3.13 1.69 宮崎 2 1.27 0.65 愛知 4 3.06 1.69 鹿児島 1 1.00 0.50 沖縄 2 1.27 0.65 （ 注 ） 保 険 期 間 1 年 、 保 険 金 額 1,000 円 当 た り の 基 本 料 率 で あ る 。 （ 出 典 ） 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （2008a） よ り 作 成 。 （ １ ） 震 源 デ ー タ の 変 更 制 度 発 足 時 は 、 想 定 さ れ る 地 震 発 生 の 規 模 や 被 害 地 域 に つ い て は 、 全 国 を 対 象 に 一 定 の 精 度 と 客 観 性 を 持 つ 超 長 期 間 の 震 源 デ ー タ と し て 理 科 年 表 を 用 い て い た 。 近 年 ま で は 、 手 法 の 継 続 性・連 続 性 の 観 点 か ら 理 科 年 表 が 用 い ら れ て き た が 、2007 年（ 平 成 19 年 ）10 月 改 定 の 料 率 以 降 は 、2005 年（ 平 成 17 年 ）3 月 に 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部（ 以 下 、「 推 本 」と い う 。） が 公 表 し た 「 確 率 論 的 地 震 動 予 測 地 図 」 が 採 用 さ れ て い る 。 （ ２ ） 被 害 予 測 手 法 の 変 更 図 6 は 地 震 保 険 の 純 保 険 料 率 の 算 出 フ ロ ー で あ る 。 地 震 動 に よ る 被 害 率 は 、 損 壊 率 、 焼 失 率 、 流 失 率 の 全 て に お い て 予 測 手 法 の 変 更 が 見 ら れ た 。 家 屋 の 損 壊 率 は 市 町 村 別 の 平 均 的 な 揺 れ に 基 づ く 算 出 か ら 、 約 1km メ ッ シ ュ 単 位 の 揺 れ か ら 算 出 す る 方 法 に 改 め ら れ た 。 市 街 地 の 焼 失 率 は 、 平 均 的 市 町 村 別 指 標 に 基 づ く 算 出 か ら 、 実 際 の 建 物 や 配 置 を 考 慮 し て 約 1km メ ッ シ ュ 単 位 で 被 害 予 測 を 行 う 方 法 に 改 め ら れ た 。津 波 に よ る 資 産 の 流 失 率 は 、地 震 の 規 模 を 震 源 か ら の 距 離 に よ る 津 波 の 高 さ を も と に 予 測 し て い た も の を 、 実 際 の 地 形 を 考 慮 し て 海 水 の 動 き を 計 算 し て 津 波 の 高 さ を 求 め 、約 1km メ ッ シ ュ 単 位 で 被 害 予 測 を 行 う 方 法 に 改 め ら れ た 。 従 前 の 予 測 手 法 に 比 し て 、 市 街 地 の 被 害 予 測 が よ り き め 細 か く な っ た と い え る 。

15 地震保険純保険料率の算出フロー 地震の発生 津波の 伝播計算 各メッシュの震源からの 最短距離計算 各メッシュの 浸水深計算 各メッシュの地震 による地表の揺れ計 算 流失率 （津波）の計 算 各メッシュの 浸水深計算 流失率 （津波）の 計算 損壊率 （壊れ）の計算 焼失率 （焼け）の計算 市町村の罹災率の計算 予想支払保険金の計算 1年あたりの予想支払保険金 地震保険純保険料率 日本周辺の 水深データ 全国1kmメッシ ュ（約40万地点） の位置（緯度、経度） 地震保険の 保有保険金 額 「確率論的地震動予測地図」作成に使用 されてい る地震（約73万震源モデル） 今後発生する可能性のある地震データ （マグニチュード、位置、震源形状、発生頻度） 地形・地盤データ （各メッシュの地震動増幅率、標高） 住宅・土地統計調査 事業所・企業統計調査 国勢調査 火災統計 住宅地図（GIS）など 図 6 地 震 保 険 純 保 険 料 率 の 算 出 フ ロ ー （ 出 典 ） 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （2008a） に よ り 作 成 （ ３ ） 保 険 料 率 の 位 置 づ け 地 震 動 や 被 害 予 測 の 技 術 的 向 上 に よ り 、 地 震 動 の 発 生 確 率 や 地 域 危 険 度 を 保 険 料 率 に 適 切 に 反 映 す る こ と が 徐 々 に 可 能 と な っ て き て い る 。 地 震 保 険 の 保 険 料 率 は 、 そ の 算 出 が 合 理 的 に 行 わ れ て い る 限 り は 、 対 象 地 域 ・ 資 産 が ど れ だ け 地 震 リ ス ク に 曝 さ れ て い る か を 表 す 指 標 と み な す こ と が で き る 。 地 震 被 害 予 測 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン と そ の 産 物 で あ る 保 険 料 率 は 、 よ り 詳 細 に 細 分 化 さ れ れ ば 、 長 期 的 に は 家 計 の 居 住 立 地 ・ 居 住 資 産 の 選 択 の 過 程 で 有 益 な コ ス ト 指 標 と な る 可 能 性 を 有 す る の で は な い か 。 制 度 創 設 か ら 2007 年 改 正 ま で の 構 造 別 保 険 料 率 を 図 ７・８ に ま と め た 。木 造 区 分 で は 、 1980 年 改 正 か ら 2001 年 改 正 ま で の 間 は 同 一 等 地 区 分 の 保 険 料 率 の 推 移 に 差 は 見 ら れ な い 。 2007 年 度 か ら は 、 同 一 等 地 区 分 で も 3 等 地 及 び 4 等 地 の 一 部 都 道 府 県 を 対 象 に 異 な る 保 険 料 率 が 採 用 さ れ て い る 。3 等 地 の 保 険 料 率 が 保 険 期 間 1 年 、保 険 金 額 1,000 円 に つ き 1.88 円 に 対 し て 香 川 県 が 1.56 円 で あ る 。4 等 地 の 保 険 料 率 が 保 険 期 間 1 年 、保 険 金 額 1,000 円 に つ き 3.13 円 に 対 し て 、徳 島 県 は 2.15 円 、千 葉 県 、愛 知 県 、三 重 県 及 び 和 歌 山 県 は 3.06 円 で あ る 。木 造 住 宅 で は 全 体 で 7.7％ の 引 下 げ 、個 別 に は 57％ 引 下 げ か ら 30％ 引 上 げ の 範 囲 で の 変 更 と な っ て い る 。一 方 の 非 木 造 区 分 で も 木 造 区 分 と 同 様 に 2007 年 改 正 に よ り 、3 等 地 及 び 4 等 地 の 一 部 都 道 府 県 を 対 象 に 異 な る 保 険 料 率 を 採 用 し て い る 。 3 等 地 の 保 険 料 率 が 保 険 期 間 1 年 、 保 険 金 額 1,000 円 に 対 し て 香 川 県 は 0.65 円 、 茨 城 県 、 山 梨 県 及 び 愛 媛 県 の 非 木 造 は 0.91 円 で あ る 。4 等 地 の 保 険 料 率 が 保 険 期 間 1 年 、保 険 金 額 1,000 円 に つ

き 1.69 円 に 対 し て 徳 島 県 及 び 高 知 県 の 非 木 造 は 0.91 円 で あ る 。42 保険料率（木造区分）制度改正の変遷（名目） 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 北 海 道 青 森 岩 手 宮 城 秋 田 山 形 福 島 茨 城 栃 木 群 馬 埼 玉 千 葉 東 京 神 奈 川 新 潟 富 山 石 川 福 井 山 梨 長 野 岐 阜 静 岡 愛 知 三 重 滋 賀 京 都 大 阪 兵 庫 奈 良 和 歌 山 鳥 取 島 根 岡 山 広 島 山 口 徳 島 香 川 愛 媛 高 知 福 岡 佐 賀 長 崎 熊 本 大 分 宮 崎 鹿 児 島 沖 縄 都道府県 保 険料率 1966年制度創設 1980年制度改正 1991年制度改正 1996年制度改正 2001年制度改正 2007年制度改正 図 7 （ 名 目 ） 保 険 料 率 （ 木 造 区 分 ） 制 度 改 正 の 変 遷 （ 出 典 ） 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （2008a） に よ り 作 成 保険料率（非木造区分）制度改正の変遷（名目） 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 北 海 道 青 森 岩 手 宮 城 秋 田 山 形 福 島 茨 城 栃 木 群 馬 埼 玉 千 葉 東 京 神 奈 川 新 潟 富 山 石 川 福 井 山 梨 長 野 岐 阜 静 岡 愛 知 三 重 滋 賀 京 都 大 阪 兵 庫 奈 良 和 歌 山 鳥 取 島 根 岡 山 広 島 山 口 徳 島 香 川 愛 媛 高 知 福 岡 佐 賀 長 崎 熊 本 大 分 宮 崎 鹿 児 島 沖 縄 都道府県 保険 料率 1966年制度創設 1980年制度改正 1991年制度改正 1996年制度改正 2001年制度改正 2007年制度改正 図 8 （ 名 目 ） 保 険 料 率 （ 非 木 造 区 分 ） 制 度 改 正 の 変 遷 （ 出 典 ） 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （2008a） に よ り 作 成 4 2 _{損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （ 2008a） 第 Ⅱ 章}

17 ２-５ 地 震 保 険 制 度 に 対 す る 政 府 関 与 に つ い て 以 下 で は 、 保 険 市 場 へ の 政 府 関 与 の 意 義 に 関 す る 考 察 を 行 う 。 ２-５ -１ ミ ク ロ 経 済 学 の 基 本 原 則 福 井 （2007） は 市 場 機 構 に 対 す る 政 府 介 入 を 次 の よ う に ま と め て い る 。43 _{す な わ ち 、} 市 場 機 構 に 対 す る 政 府 介 入 は 市 場 の 失 敗 を 前 提 と す る 。 市 場 の 失 敗 と し て 想 定 さ れ る ５ つ の 領 域 は 、「 公 共 財 」、「 外 部 性 」、「 取 引 費 用 」、「 情 報 の 非 対 称 」そ し て「 独 占 ・ 寡 占 ・ 独 占 的 競 争 」と さ れ る 。こ れ ら の 領 域 に お け る「 市 場 の 失 敗 」に 対 し て 、市 場 機 構 に 対 す る 様 々 な 形 ・ レ ベ ル で の 政 府 介 入 が 意 義 づ け ら れ て い る 。 う ま く 機 能 す る 市 場 機 構 に は 、 一 定 の 政 府 サ ポ ー ト が 必 要 不 可 欠 で あ る 。 現 に 、 保 険 を 含 め て 殆 ど の 市 場 は 政 府 の 関 与 か ら は 無 縁 の 存 在 で は な い 。し か し 、政 府 は 常 に 市 場 の 働 き を 改 善 す る こ と が で き る 存 在 で は な い 。 市 場 機 構 の 失 敗 と 政 府 介 入 の 結 果 も た ら さ れ る 市 場 機 構 の 歪 み に 対 し て は 、「 政 府 の 失 敗 」 を 未 然 に 防 止 す る た め の モ ニ タ リ ン グ ・ シ ス テ ム や 裁 量 性 の な い 客 観 的 な 統 制 基 準 の 策 定 を 予 め 設 け て お く こ と の 重 要 性 が 極 め て 大 き い 。 そ の う え で 、 な お 見 込 ま れ る 「 政 府 の 失 敗 」 が 、 政 府 が 介 入 し な い 場 合 の 市 場 の 失 敗 よ り も 大 き い 場 合 に は 、 む し ろ 政 府 が 介 入 せ ず 、「 市 場 の 失 敗 」 を 放 置 す る こ と が 合 理 化 で き る と し て い る 。 ２-５ -２ 「 市 場 の 失 敗 」 の 領 域 （ １ ） 財 と し て の 保 険 の 評 価 わ が 国 に お い て は 戦 前 よ り 、 地 震 災 害 に よ る 経 済 損 失 を 補 償 す る 地 震 保 険 の 不 存 在 が 問 題 視 さ れ て き た 。44 _{し か し 、保 険 商 品 そ の も の は 、例 え ば 衛 生 公 学 の 立 場 か ら み た 都} 市 内 の 緑 地 ・ 公 園 施 設 の よ う に 、 そ の 不 存 在 が 直 ち に 外 部 不 経 済 を も た ら す 公 共 財 と し て 位 置 づ け ら れ る も の で は な い 。 岩 田 ・ 八 代（1996）は 地 震 保 険 に つ い て 社 会 保 険 や 自 賠 責 保 険 と の 比 較 で 次 の よ う に ま と め て い る 。 す な わ ち 、 社 会 保 険 は 短 視 眼 的 な 行 動 を 取 る 国 民 に 対 し て 家 父 長 的 な 立 場 か ら 強 制 す べ き 価 値 財 で あ り 、 保 険 者 が 被 保 険 者 の 保 険 事 故 の 確 率 を 予 測 で き な い た め に 一 律 の 保 険 料 を 適 用 せ ざ る を 得 な い 結 果 、 事 故 確 率 の 高 い 人 々 の み が 加 入 す る と い う 逆 選 択 を 防 止 す る 必 要 が あ る 。 自 賠 責 保 険 に は 、 社 会 保 険 と の 共 通 点 も あ る が 、 自 動 車 事 故 に よ る 第 三 者 被 害 と い う 外 部 不 経 済 効 果 へ の 対 応 が 必 要 と さ れ て い る 。 そ の た め 両 者 に つ い て 強 制 保 険 を 通 じ た 政 府 関 与 が 正 当 化 さ れ て い る 。 し か し 、 地 震 保 険 は 純 粋 な 私 有 財 産 で あ る 個 人 の 家 屋 資 産 価 値 の 保 全 を 眼 目 と す る も の で あ り 、 社 会 保 険 や 自 賠 責 保 険 の よ う に 強 制 保 険 に よ る 政 府 関 与 を 必 要 と す る 財 に は あ た ら な い と し て い る 。 （ ２ ） 保 険 に お け る 逆 選 択 及 び モ ラ ル ・ ハ ザ ー ド に 対 す る 関 与 地 震 保 険 に 限 ら ず 、保 険 商 品 は 逆 選 択 と モ ラ ル・ハ ザ ー ド の 課 題 を 有 す る 。ど ち ら も 、 情 報 の 非 対 称 性 に 起 因 す る 市 場 の 失 敗 で あ る 。 保 険 者 と 被 保 険 者 と の 間 で 地 震 災 害 に よ る 損 失 の 程 度 や 損 失 の 発 生 確 率 に 関 す る 情 報 の 偏 在 が あ る 場 合 は 、 群 発 地 震 や 地 震 発 生 の 切 迫 性 が 叫 ば れ た と き な ど に 限 定 し て 地 震 4 3 _{福 井 （ 2007） pp.6-19} 4 4 _{損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 （ 2008a） pp.Ⅱ 5-10}