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特集 NIS 諸国の企業と地域 1996 年に 経済特区についての大統領令 が制定され それまで使われていた 経済自由特区 (Free Economic Zone / Свободная экономическая зона) ではなく 経済特区 ( Special Economic Zone /

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はじめに

国の社会・経済発展の1つのツールとして、 経済特区、工業団地(インダストリアル・パ ーク)、テクノパークなどを設置し、域内への 進出に対して税の優遇措置を適用したり、土 地やインフラを安価に提供したりすることで、 特定の地域・分野への投資を誘致する政策が あり、ロシアや旧ソ連諸国で導入・実施され ている。当会ではこれまでロシア、ウクライ ナの経済特区に関する調査を行い、報告書も 作成してきた。 近年この経済特区政策が中央アジアやコー カサスにも広がっている。例えばカザフスタ ンでは、「経済多角化」、「イノベーション」、「地 域開発」といった一連の経済政策のスローガ ンを掲げる中、共和国内の10か所に経済特区 を設置し、積極的に開発を行っている。 (一社)ロシアNIS貿易会では2013年11月に カザフスタンの10か所の経済特区のうち3か 所を訪問する視察団を派遣した。筆者も団員 の一人としてこの視察団に参加し、まだ日本 ではあまり情報が広がっていないカザフスタ ンの経済特区に関する貴重な情報を収集する ことができた。すでにインフラ整備などが完 了し、入居企業が活発に生産活動を行ってい る経済特区もあれば、インフラ整備の段階に あり、少しずつ進出企業の誘致に力を入れよ うとしている経済特区もあり、その発展段階 は様々である。本稿ではこの度の視察団によ る経済特区訪問の結果を踏まえて、カザフス タンの経済特区について全般的な制度や政策 と各特区における現状を報告する。 なお、本報告では一般に公表されている法 律や政策文書の他に、現地訪問で入手した資 料や担当者の発言なども引用しており、一部 に発言者及び筆者の主観的な内容が含まれて いる。また、これらの情報はすべて2013年11 月時点のものであり、その後の進展や変更に 対応できていない場合があることを予めご了 承いただきたい。

1.カザフスタンの経済特区政策

(1)経済特区の誕生 カザフスタンでは1990年代初めに最初の経 済特区が誕生した。ジェズガズガン州、タル ディコルガン州、コスタナイ州、アルマトィ 市に最初に設立され、その後、アティラウ州、 東カザフスタン州、カラガンダ州、マンギス タウ州などにも広がり、9つの経済特区が誕 生した。しかし、これらの経済特区は法律や 制度がきちんと整備されず、また汚職の蔓延 により予算が適切に利用されなかったためほ とんど機能しなかった。

カザフスタンの経済特区政策と現状

ロシアNIS経済研究所 研究員 中馬 瑞貴 ■ Research Report ■

NIS諸国の企業と地域

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1996年に「経済特区についての大統領令」 が制定され、それまで使われていた「経済自 由 特 区 (Free Economic Zone / Свободная экономическая зона)」ではなく、「経済特区 ( Special Economic Zone / Особая (или Специальная) экономическая зона)」という言 葉が使われるようになった。経済特区の効率 性や機能性を向上させるために、2007年7月 に「カザフスタンにおける経済特区について の共和国法(以下、2007年経済特区法)」が制 定され、より厳密に経済特区について法基盤 が確立した。さらに2011年7月には2007年経済 特区法が廃止され、新しい「カザフスタンに おける経済特区についての法律(以下、2011 年経済特区法)」が制定された。 以下、2011年経済特区法および経済特区を管 轄する主要国家機関であるカザフスタン共和 国産業・新技術省の傘下にある国家輸出・投 資庁「KAZNEXINVEST」から提供された経済 特区についての資料に基づいてカザフスタン の経済特区制度を概説する。 (2)経済特区とは? 2011年経済特区法によると、経済特区は「厳 密に定められた境界を持つカザフスタン共和 国の領域の一部であり、同区においては優先 的な事業分野の遂行を目的とした経済特区に かかる特別な法的制度が施行される」と規定 されている。「特別な法制度」とは2011年経済 特区法の他、共和国の税法典、関税法典、土 地法典、労働・雇用法など、経済特区が活動 するための諸条件を規定した法律のことであ る。つまり、経済特区とは特別な税制、関税 制度、土地制度、雇用制度が適用される一定 の確立された領域ということだ。特別な法制 度によって認められる特権が適用される経済 特区の存続期間は経済特区の設立から25年と 定められている。つまり、経済特区への入居 企業がいつ入居したかということに関係なく、 設立から25年が経過すると、経済特区は廃止 される。経済特区が廃止された後、経済特区 の入居企業は土地法が定める方法によって、 その区画を買い付ける権利が与えられる。 経済特区設立の目的は「高度な生産性と競 争力を持つ最新鋭の生産の開発、様々な経済 分野や地域への投資・新技術の誘致、国民の 就業率の向上」である。すなわち、経済特区 の導入は国家の経済政策の柱となっている 「経済多角化」、「イノベーション」、「地域開 発」を実現するためのツールとなっているこ とがわかる。 (3)経済特区の管理と運営 経済特区の設置、活動に関する国家政策の 基本方針を立案するのは共和国政府であり、 カザフスタン共和国産業・新技術省が実質的 な調整機関である。州の行政府やアルマトィ 市・アスタナ市行政府も経済特区の活動に関 する国家政策の実施者であり、同時に経済特 区の設置を申請することができる。 また、より質の高い管理・運営を実現する ために、それぞれの経済特区にはそれぞれの 経済特区管理会社が設置され、実質的な経済 特区の管理・運営を行う。経済特区管理会社 の機能は以下のように定められている。 1) 経済特区の活動に関する国家機関との協力 2) 補助的な事業を遂行する者に対する土地区画 の利用(転貸借)提供、インフラ施設の賃貸借 (転貸借) 3) 事業遂行契約の締結および解約 4) 経済特区入居企業からの年次報告に基づく、経 済特区の事業成果報告書の提出 5) 経済特区入居企業の誘致 6) インフラ建設、そのほかの事業の遂行を目的と した投資誘致 7) 経済特区の入居企業に引き渡されていない土

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地区画におけるインフラ建設の遂行 8) ワンストップ窓口の原則に則したサービスセ ンターの活動に必要な窓口の運営 9) 経済特区に搬入された商品の実際の消費状況 の確認 10) 事業契約の条件遂行に対するモニタリング 管理会社は合弁企業の形をとり、共和国や 州政府だけでなく、国内外の法人も管理会社 となることができる。 社会事業公社 カザフスタンでは国家戦略 や国家政策を現地で推進するための公社とし て「社会事業公社(SPK)」と呼ばれる組織が 各地に存在する。SPKは共和国政府によって創 設され、州政府出資の下で運営されている。 各州におけるビジネスや経済活動の促進と外 国投資の誘致を目的とし、官民パートナーシ ップの制度に基づき、共和国及び州のイノベ ーションや投資誘致プロジェクトの実現、地 下資源の管理、価格の安定維持、住宅建設や 修理など多岐にわたる事業を行っている。経 済特区との関連では、インフラ整備など、国 家予算を使って実施する事業に対して、SPKを 通じて予算が融資される場合がある。ただし、 SPKは全州に設置されているわけではなく、経 済特区が設置されているところに必ずあるわ けでもないので、SPKを経由して共和国予算が 提供されるというのはカラガンダ州など一部 の州にだけ見られる仕組みである。 (4)10の経済特区 2013年末現在、カザフスタンには10の経済 特区が存在する。「アスタナ新都市」(アスタ ナ市)、「アクタウ港」(アクタウ州)、「イノベ ーション・テクノパーク(ITパーク)」(アルマ トィ市)、「Ontustik」(南カザフスタン州)、 「国家石油化学産業パーク」(アティラウ州)、 「Burabay」(アクモラ州)、「ホルゴス・イース ト・ゲート」(アルマトィ州)、「サルィアルカ」 (カラガンダ州)、「パヴロダル」(パヴロダル 州)、「タラズ化学パーク」(南カザフスタン州)。 以下、図1でカザフスタンの経済特区の位置 を表した。 各経済特区には優先分野が定められており、 たとえば経済特区「アクタウ港」は軽工業、 化 学 工 業 、 金 属 工 業 が 優 先 分 野 で あ り 、 「Burabay」は観光、「ホルゴス・イースト・ゲ ート」はロジスティックである。 これらの経済特区の中には、2007年経済特 区法が定められるよりも前からテクノパーク や工業団地として存在していたものもあり、 開発状況は様々である。例えば、Ontustikや Burabayでは100%インフラ整備が終わってい るのに対して、パヴロダルやタラズではまだ ほとんど始まっていない。アスタナ新都市や ホルゴスではすでに経済特区の運営が行われ ているが、Burabayやアクタウ港はまだこれか らである。 カザフスタンの経済特区は区画が定められ ているだけでなく、その地域の特徴を生かす ために誘致の分野が定められている。地下資 源が豊富にとれるアティラウではその資源 (石油)を利用した石油化学パークが置かれ ており、中国とのロジスティック協力プロジ ェクトが進むホルゴスはロジスティック分野 の経済特区となっている。 2013年11月末時点で、カザフスタンの全10 経済特区の登録企業は495社。そのうち、稼働 しているのが107社でほとんどがITパークに登 録された企業だ。そして建設中が87社となっ ている。地下資源利用者、賭博ビジネス従事 者など、経済特区の入居企業として申請する ことが不可能な業種もあるが、国内企業であ れ、外国の法人であれ、経済特区の入居企業 となることができる

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図1 カザフスタンの経済特区

1. 経済特区「アスタナ・ニューシティ」(Astana New City SEZ)/アスタナ

◇目的:新首都の発展、新企業育成 ◇分野:建設、機械製造、自動車

2. 経済特区「アクタウ港」(Sea Port Aktau )/ア クタウ ◇目的:地域経済発展、世界経済へのアクセス構築 ◇分野:建設、機械・設備 3. 経済特区「ITパーク」(IT Park) /アルマトィ ◇目的:情報技術発展、ハード・ソフトウェア生産 ◇分野:ソフトウェア開発、ハードウェア生産 4. 経済特区「南」(Ontustyk)/南カザフスタン州 ◇目的:紡績工業の発展 ◇分野:繊維・被服製造、皮革 5. 経済特区「国営石油化学工業団地」(National Industrial Petrochemical Park)/アティラウ ◇目的:新技術導入による石油化学工業の発展 ◇分野:石油化学 6. 経済特区「ブラバイ」(Burabay)/アクモラ州 ◇目的/分野:観光業発展 7. 経済特区「ホルゴス―東の窓口」(Khorgos Eastern Gate)/ホルゴス ◇目的/分野:ロジスティクス拠点の整備 8. 経済特区「サルィアルカ」(Saryaka)/カラガ ンダ州 ◇目的:金属・冶金工業の発展、世界的メーカー の誘致 ◇分野:金属・冶金、機械製造 9. 経済特区「パヴロダル」(Pavlodar)/パヴロダ ル ◇目的:化学・石油化学工業の発展、同分野の高 付加価値輸出向け製品生産の発展 ◇分野:化学・石油化学 10. 経 済 特 区 「 ケ ミ カ ル パ ー ク ・ タ ラ ズ 」 (Chemical Park Taraz)/タラズ

◇目的/分野:化学工業の発展

※カズネクスインベスト資料より。太字・下線(地 図中では星印)が視察団で訪問した経済特区。

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2.各経済特区の特徴

2013年11月に当会が派遣したカザフスタン 経済特区視察団では、前述の10の経済特区の うち、経済特区「パヴロダル」(パヴロダル州)、 経済特区「サルィアルカ」(カラガンダ州)、 経済特区「ITパーク」(アルマトィ市)の3か 所を訪問した。各経済特区および入居企業を 視察し、管理会社等と面談を行い経済特区の 現状や今後の展望などについて話を聞いた。 以下では、彼らのプレゼンテーション資料や 面談内容をもとに各経済特区の現状について 紹介する。また、経済特区内外の工場の視察 も行ったので、それらについても個別に触れ ることにする。 (1)経済特区「パヴロダル」 特区概要 経済特区「パヴロダル」は人口 74万6,200人、面積12万4,800㎢、カザフスタン 北東部に位置し、ロシアと国境を接するパヴ ロダル州に設置された経済特区である。 パヴロダル州は燃料エネルギー産業、金属 生産、化学産業などが発展しており、それら の加工製品をロシア、イタリア、中国、トル コ、日本などに輸出している。「2010~2014年 のカザフスタン共和国産業イノベーション発 展促進プログラム」の中で、総額89億ドル、 169の工業関連のプロジェクトがパヴロダル で実施されている。 そのプロジェクトの一つとして2011年に設 立されたのが化学・石油化学分野を優先分野 とする経済特区「パヴロダル」である。化学 分野の発展に必要な原料である塩の生産地で あり、水も豊富にあるパヴロダル州にはすで にソ連時代に化学工場が建設されていた。ま た、ロシア・シベリアから運ばれてくる石油 を精製するための製油所もソ連時代から稼働 している。パヴロダル製油所では硫酸が多く 含まれるシベリア産の石油を精製し、硫酸を 抽出して建材に利用したり、ポリマーやオク タンを生産したり、石油コークスを生産した りと化学分野および石油化学分野の発展の基 盤がすでに構築されている。 経済特区「パヴロダル」では2012年4月に 経済特区予定地のFSが行われ、経済特区のイ ンフラ開発に280億テンゲが必要と算定され た。2013年に設計や様々な書類の手続きが進 められ、2014年からインフラ建設のために共 和国予算35億テンゲが拠出されることになっ ている。 経済特区「パヴロダル」の敷地の総面積は 3,300haであり、そのうち1,200haが入居企業に 提供され、残りの2,100haでインフラが整備さ れる。2013年11月時点でまだインフラ整備の段 階であったが、すでに45の入居企業が登録さ れており、その投資総額は16億ドルに達する と言われる。石油コークスの生産、ポリエス テルおよび建材の生産、一般化学品の生産な ど、すでに7つのプロジェクトがスタートし ている。 例えば、中国との合弁企業である「ヒムプ ログレス」はアルミ産業用の石油コークスの 生産を行う会社であり、年産205,000tを予定 している。2014年第1四半期に経済特区内で の工場の完成を予定している。 経済特区「パヴロダル」の入居企業に対し ては所得税、資産税、土地税、土地代、付加 価値税、関税などがすべて免除される。他に も、管理センターがワンストップ窓口を設置 し、様々な手続きを一括で実施できるように したり、整備を進めている産業インフラを無 料で提供したりと、様々な特権を受けること ができる。 経済特区「パヴロダル」管理会社のバイグ ジン社長は外国投資誘致を今後、積極的に展 開すると同時に経済特区の管理・運営にも外

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国企業が参加することが望ましいと語り、管 理会社と外国企業とのパートナー関係の構築 にも強い関心を示していた。 CAUSTIC 経済特区「パヴロダル」の主要 企業は「CAUSTIC」である。ソ連時代にパヴ ロダルに建てられた化学工場を基に、電線、 配管設備、自動車道路、消防施設、研究施設、 管理棟など既存のインフラ設備をすべて継承 する形で2001年から新しい工場の建設を開始 した。2002年にAO「CAUSTIC」が設立された ものの、実際にプロジェクトへの融資が開始 されたのは2008年であった。ようやく工場が 完成し苛性ソーダの生産がスタートしたのは 2011年であった。 同社は濃度の異なる苛性ソーダを生産して お り 、 そ の 生 産 能 力 は100,000 t を 誇 る 。 RUSAL、ENRC、アルセロールミタルなどを顧 客としているが、潜在的な生産能力に対して、 実質的な需要が少なく、現在は年間約30,000 tしか生産していない。一方、「CAUSTIC」の 資料によると、カザフスタン国内では60,000 t以上の苛性ソーダの需要があるにもかかわ らず、44,000t以上を主にロシアから輸入して いる(2012年の数値、CAUSTIC社提供資料)。 経済特区の開発が進み、化学・石油化学関連 企業が入居し、「CAUSTIC」に対する需要が増 えることを期待していると、同社のフォミチ ェフ財務部長が語っていた。 実際、経済特区「パヴロダル」に入居が決 まっている企業はどれも「CAUSTIC」社に隣 接して建設されている。2013年6月には鉱山 開発のために苛性ソーダを必要としているカ ザフスタン原子力公社「KAZATOMPROM」と 提携し、生産を拡大するための共同プロジェ クトに着手することに合意した。 「CAUSTIC」は、経済特区の発展を見越し、 2014年から2017年にかけて生産能力を拡大す る予定であり、苛性ソーダを年産60,000t、塩 素を年産50,000tに拡大することを目指して いる。生産を拡大するための設備の能力増強、 すなわち、近代化実現のための、戦略的な投 資家を探している最中であるそうだ。 CAUSTICの工場内の設備 カザフスタン・アルミニウム精錬工場 経済特 区「パヴロダル」ではサブゾーンを形成する 計画があり、そこでは生産能力25万t/年の カザフスタン・アルミニウム精錬工場で生産 されるアルミを使ったアルミ精製と非鉄金属 生産が優先分野と考えられている。 同工場は2010年に操業が開始された中央ア ジアで最新鋭のアルミニウム精錬工場である。 中国製のラインとフランス製のラインを使用 している。 視察団が経済特区「パヴロダル」を訪問し た翌日、サギンタエフ・カザフスタン共和国 第一副首相(当時、地域発展大臣を兼任)が パヴロダルを訪問した。第一副首相の訪問の 主要な目的の一つが経済特区の視察であった ようで経済特区内や州の行政府全体にせわし ない雰囲気が漂っていた。しかし、そのよう な忙しい日程にもかかわらず、第一副知事と の簡単な面談の機会も設定され、インフラ整 備が始まったばかりの経済特区「パヴロダル」 に外国投資を誘致しようという積極的な努力 が感じられる訪問であった。

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(2)経済特区「サルィアルカ」 特区概要 経済特区「サルィアルカ」はカ ザフスタンの東部に位置する人口約136万人、 面積約42万8,000㎢のカラガンダ州に設置され た経済特区である。カラガンダでは今後10年 間の州の経済成長の優先課題として、製造業、 鉱業、農業、電力、建設・建材などを戦略的 分野と位置付けており、経済特区における優 先的な産業分野は鉄鋼、金属加工である。特 にタングステン、バナジウム、モリブデンと いったレアメタルの分野に関心を寄せており、 日本に対する期待が大きい。 経済特区「サルィアルカ」は2011年11月に設 立された。敷地の総面積は534haで、インフラ の設置に294ha、プロジェクトの実施用に240ha があてられている。視察団が訪問した2013年11 月時点ですでに13のプロジェクトが経済特区 の枠内で実施されており、未使用の土地はわ ずか40haしか残っていなかった。今後も入居企 業が増えた場合に土地が不足すると考えられ るため、サブゾーンとして周辺の開発を進め、 敷地を拡大する計画が検討されている。 経済特区「サルィアルカ」ではインフラ整 備が既に始まっており、第1と第2フェーズ で電力供給設備の設置、管理センターの創設、 鉄道や道路の開通、通信網の敷設などに総額 189億テンゲが拠出され、完了している。現在 は第3フェーズの段階にあり、一部の鉄道や 橋の建設と水処理設備の完成を目指している。 経済特区「サルィアルカ」に工場を建設す ると、水道やガスなどのインフラがわずか1 日で完備できる(特区外の場合、1か月~数 年)。ということを、管理会社のイヴァノフ社 長が解説した。一方、カラガンダには経済特 区外にもたくさんの工場があり、電力が常に 不足している。にもかかわらず現在は経済特 区内で発電が行われていないため、域外から 取り入れなければならず、この点にコストが かかっている。電力問題の解決のために域内 に発電所を建設することが今後の課題となっ ているそうだ。 経済特区「サルィアルカ」の管理会社「カ ラガンダ・インベスト」が特区の管理・運営 を行っているが、前章で紹介したとおり、カ ラガンダ州には社会事業公社「サルィアルカ」 が存在し、インフラ整備に必要な共和国予算 などは公社から拠出されている。 ビョーメル・アルマトゥーラ ビョーメル・アル マトゥーラは総面積4.3haの土地に10億5,000万 テンゲの投資を予定するドイツ資本の会社で、 バルブ生産工場を経済特区「サルィアルカ」 に建設中だ。2014年第1四半期に操業開始予 定で35人の雇用を確保し、年産15,000t(15 億テンゲ)を予定している。 ビョーメル・アルマトゥーラは2011年12月に 経済特区入居企業となり、2013年までにすで に700万テンゲの投資実績がある。 工場の建設はカザフスタンの業者が行って おり、そのほとんどはカラガンダにある。従 って、経費節約を実現することができている。 カラガンダの建設業者の技術は十分に高く、 現地ドイツから工事の進捗状況を確認しに来 た代表団も高く評価しているという。ビョー メル・アルマトゥーラの工場で生産されるバ ルブは主にカザフスタン国内向けであり、産 業用に使われる。 ビョーメル・アルマトゥーラの製品

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イゾプリュス・中央アジア 前述のビョーメ ル・アルマトゥーラのすぐ隣で、総面積12.3ha の土地に総額15億テンゲの投資を予定してい るドイツ資本の会社イゾプリュス・中央アジ アは、断熱性のパイプを生産するための工場 を経済特区内に建設中である。製品は水道や 暖房設備、石油ガス輸送用に使われる。 ビョーメル・アルマトゥーラの敷地から見た隣で建 設中のイゾプリュス・中央アジア イゾプリュス・中央アジアは2014年第1四 半期に工場を完成させ、7月から操業開始を 予定している。年産2万t(22億5,000万テン ゲ)を実現する予定。原料となる鉄はカザフ スタン、ロシア、ドイツと様々なところから 輸入するが、生産設備はすべてドイツから納 入する。 製品の市場は主にカザフスタン国内だが、 ロシアへの輸出も視野に入れて展開している。 様々な優遇措置を受けるための条件として、 外国人労働者と地元の労働者を同数雇用する ことになっている。 ヒョンウ・中央アジア ヒョンウ・中央アジア はカザフスタンの「ISSファイナンス」と韓国 との合弁会社で、総面積4.3haの土地に総額31 億8,200万テンゲを投資する予定だ。現在建設 中の1棟を含め、全部で4つの生産ショップ を建設する予定になっている。 建設中のヒョンウ・中央アジアの工場 同社は断熱材付のパイプの生産工場を建設 中であり、2013年12月末に試作品を生産し、 2014年春から本格生産を開始する。年産2万 9,000t(9億6,900万テンゲ)を予定している。 生産設備はドイツ製、日本製、韓国製を導 入し、130人の雇用を確保する予定である。ス チールパイプの他に、パイプの固定に必要な プラスチック製品や断熱材などのパーツも生 産するため、全部で4つの生産ショップを建 設する予定。 まもなく完成を予定している経済特区「サルィア ルカ」内の排水設備

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(3)経済特区「ITパーク」 特区概要 アルマトィ市の中心から離れた アラタウ村に設置されている経済特区「イノ ベーション・テクノパーク(ITパーク)」は2007 年経済特区法や2011年経済特区法制定前の 2003年8月に設立が決定され、2006年9月に 開所式が行われた。カザフスタンで現存する 中ではもっとも古くから運営されている経済 特区の一つである。設立当初は「情報テクノ パーク」と名付けられており、2011年に「イノ ベーション・テクノパーク」に改名された。 敷地面積163haに情報技術、通信機器、電子 機器分野の企業を中心に誘致が行われた。 2003年から2011年の第1フェーズでインフ ラの整備が行われると同時に、生産ショップ が次々に設立されたが、2011年の時点ではわず か30%しか入居企業がおらず、ほとんど空っ ぽであった。しかし、2010年に大統領のイニ シアチヴを受けて「ITパーク」のマスタープラ ンが策定され、2011年5月には大統領自らIT パークを訪問した。その結果、ITパークへの参 加企業が拡大し、2013年6月時点で150社以上 が登録済みとなっている。実際に稼働を始め ている企業はすべてではないが、すでに第1 フェーズで建設された生産ショップは100% 埋まっている。 経済特区「ITパーク」では、2020年までに参 加企業を250社にまで増やし、そのうちの外国 企業の数を現在の4社(イスラエル、ロシア、 フランス、韓国)から60社に増やすことを目 指している。また、輸出可能な製品の生産企 業が1社しか存在していないので、経済特区 の収入の40%を輸出から得られるようにする ことも今後の重要な課題の1つである。と管 理会社のコンディバエフ社長が語った。 経済特区「ITパーク」では、第2フェーズと して、140haの土地のインフラ整備がすでに始 まっている。2013年には34億テンゲが拠出さ れた。 第2フェーズのメインプロジェクトとなっ ているのはカザフスタン・英国工業大学の石 油ガスエンジニアリング・情報技術研究所の 建設である。これは石油会社の融資によって 設立される民間の研究所で研究開発およびエ ンジニアリングが主要な業務となっている。 7haの土地に1,700㎡のオフィスを設立し、 7つの研究ラボと3棟の住宅施設を建設する 予定である。「ITパーク」内の企業では多くの 職員がアルマトィ市内から通っているが、か なり離れているために、1日数時間しか職場 にいなかったり、週に数日しか出勤してこな かったりする。この問題を解消するために、 経済特区全体として従業員の住宅の整備を重 視している。 経済特区「ITパーク」では他にも、LGの工 場やHEWLETT-PACKARDとカザフスタンと の合弁によるイノベーション・サービスセン ターの建設などが検討されている。これらの 第2フェーズは2015年に完了する予定である。 モニターと電子掲示板で歓迎を受ける経済特区 「ITパーク」管理会社の受付

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ELTEX AL ATA U ELTEX ALATAUは 50%ロシア資本の会社で通信機器を生産して いる。「ITパーク」で生産された製品はカザフ スタン国内向けの他、中央アジア各国や中東 へ輸出している。「ITパーク」での生産に対し て関税および所得税は免除されているが、ほ かの税金は課されている。 ELETEX ALATAUの生産現場 税制優遇措置について、コンディバエフ社 長の発言はたいへん興味深かった。ITパークの 入居企業には税の優遇措置が適用されておら ず、税負担の軽減が重要な課題となっている そうだ。すべての経済特区で関税、所得税だ けでなく、資産税や付加価値税の免除も行わ れているのではないのかという日本側の質問 に対して、社長は法的にはそのように定めら れているが、実際に実現できているところは おそらく少ないと説明した。そして少なくと も「ITパーク」ではすべての税の免除は行って いない、とのことであった。

おわりに

今回の視察では3か所しか訪問していない が、経済特区が始まったばかりで整備がなか なか進んでいない「パヴロダル」、始まったば かりではあるが、すでにある程度進捗してい る「サルィアルカ」、すでに長期的に存在して いる「ITパーク」と様々な段階の特区を見るこ とができた。それぞれに抱える問題があると いうことを考慮すると、カザフスタンの経済 特区政策そのものがまだ発展段階にあると言 えるだろう。 カザフスタンに限らず、ロシア・旧ソ連の 経済特区は政策や法律があっても実質的な運 用の段階で、地域的な格差が生じることがあ るので、実際に現地へ足を運んで直接見て、 話を聞く機会が得られる場合には、今後も積 極的に情報提供していきたいと思う。

【参考資料】

 拙著「カザフスタンのイノベーション政策」『ロ シアNIS調査月報』2013年4月号  T.F.カイゴロツェヴァ「カザフスタンの経済特区」  K.A.ネフマトゥリナ「Role of Special Economic

Zone in Development of the Republic of Kazakhstan」 『Middle-East Journal of Scientific Research』15 (11), 2013

 「Special Economic Zones」(PPT版、国家輸出・ 投資庁「KAZNEXINVEST」提供資料)

参照

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