H本 管理会計学 会誌
管理会計学 第15 巻 2号
論 壇
目本型ホー ル ディ ン グス (純 粋持株 会社 制 )へ の 管理 会 計 の 貢 献 可 能 性
一わ が 国 管 理 会 計 研 究の研 究 方 向一
浅田 孝幸
〈論 壇 要 旨 〉
純 粋持株 会 社 制度の成立を う けて,日本企業の戦 略的組 織 再 構築とマ ネジメン ト・コ ン
トロ ール ・シ ス テムの リデザインが行 わ れ て い る.本 研 究で は,か か る 主題 を 元に 日本企 業の 管 理 会 計 研 究のなかで今 後 大 き な 研 究 課 題 に なると 思 わ れ る 戦 略 的 本 社 機 構のマ ネジ メン ト・コ ン トロ ール ・シ ス テ ム の現 状で の特 徴 と今 後の有 り様 につ い て理 論 と 実 例 を 交 えて説 明 を 試 み ものである.結 論 とし て戦 略 的 事 業 ポー トフ ォ リオ ・マ ネジ メン トが,全 体 をマ ネジ メン トする方 法論とし て依然 重 要 視 されてい る.し か し少 ない 資 源で大 き な 組 織 を 経営す る う えで は,多面的 利 害 関 係 者 と どの よ う な 価 値 観 とビ ジ ョ ン にた っ て経 営 者 は 対 話 して い くべ き なのか.また どの よ うな 新 た なマ ネジメ ン ト・コ ン トール シス テ ムが 求め られ るべ きだ ろ うか .ま さに今こそ 我々 に か か る研 究 課 題が問わ れ て い る と 思 わ れ る.
〈キーワー ド〉
純 粋 持 株会社 ,戦 略的本 社,エ ージ
ェ ン シー理論,取 引コ ス ト理論,場の理論,事業ポー
トフ ォ リ オ ・マ ネジメン ト
Sonie Contribution Possibility ofManagement Accounting
on ’Japanese Holdifigs Systems
Takayuki Asada
After Legal Authorization about the systems of “Pure Stock Holdings Companies ”inユ997, a number of Japanese companies try to redesign bQth Strategic Organizationai configuration and Management Control Systems. in this stUdy , we try to explain the today’
/S characteristics and fUtUre
of Management Control Systems from the vieWpoint of Strategic Headquarter Unit, which are
thought to be one oftomorroW ’s important research topics with using some positive theory and some
examples . ln conclusion , top managementS ef ‘‘Japanese holdings companies ” still place qn emphasis
on the theoly of “Strategic Business Portfolio Management” as a methodology of total systems management , However, even if top management would tワ to deiicately use scarce management resource and smartly manage 1 e−scale organization , toda ゾs Japanese companies have been
cornplex and gigantic beyond such technical tneans. How do ‘」Made in Japan”try to do a dialogue
with multi −stakeholders with what kinds of value and visions they would have?What kinds of new management control systems they should design? Now , they throw new research questions over us. Key Words
Pure Holding Company , Strategic Headquarter, Agency TheoTy, Tramsact三〇n Cost Theory,”BA ” theory, Business Management Portfoiio
2007年 2月 18 日 受 理 大 阪 大学 大 学院経 済 学研究 科
Accepted 18Februaly 2007
The Graduate School ofEconomics , OsakaUniversity
管 理 会 計 学 第15 巻 第 2号
は じ めに
失われた 10 年 (1990 年か ら2000 年 ) を経験 し た政 府 政策当 局は ,1945 年以 前に財 閥を中心に広 く利用 され て きた,純粋 持株会社制 (以下で は HD シ ス テ ム と 呼 称 す る) を,日 本 企業の新 た な グル ープ 経営方 法の選 択 肢 とし て ,1997 年の独 占 禁止法,第 9 条の 改正 を も
っ て解 禁 と させ た.し か し, こ の 改正 は,政 府の ね らい で ある と 思われ る 製 造 業 を 中心 と し た 戦略 再 構築の 目 的 とは別に, 純 粋持株制度の 利用 対象が 金融 ,NTT 関 連 などの 産業 防衛的 な も
のか らス ター トし,日本 企業の 90 年代の退潮阻止 と再 生の狙い を 実 現 す るた めの方 策に な る に は, さ らに 3つ の大 き な 制 度 変 更 を 待 っ こ と と なっ た. 1っ に は, 1999 年 (改正 商 法施 行 :株 式 交 換,株 式 移 転 制 度 ),2001 年の 種 類 株 式の発 行 な ど 商 法 改正 を う けて ,本 格的な 事 業 再生 ・事業分 割へ の道を開く諸 法 規 (組 織再編 税 制,連結納 税 制 度 )の 成立 .2 て)に は, グ
ロ ーバ ル競争 時代での 日本 企 業 のイ ン フ ラ でもあ る会社法お よ び その 関 連 制 度の 2006 年にお ける抜本 的 改正 (新 た な 企 業 制 度の創 設 を含む ).3 っ めは , 連 結 経 営の時 代 に 合っ た 連結会 計 制 度の 採 用 と時 価 会 計 などの 制度化に よ る 「含み 資 産 経 営」か らの 脱 却などの経 営の透明性 (コ
ーポレイ トガバナ ン ス ) を高め る一連の会計制度改革の実効 化で あ る,その う ち, 1 と3 は,
いずれ も 管理 会 計の トピ ッ クス とも 大い に関 連 し て お り,過 去にない研 究 課 題 な り研 究 トピッ
クス を わ れ わ れに提 供 した とい っ て も 過言 で は ない .し か し, この HD シス テ ム の 実 際の 採 用 は,必ずしも多く ない 、す なわ ち経営者に とっ てそ れほ ど大きな制度 的選択肢 とはなっ て お ら ず ,製造業を中心 に し た制 度採用よ りも,む し ろ,銀 行 ・金 融業を 中心に採用 されてい る現 状 で あ る (下 谷,2006 年).こ こで は, 製造業で の採 用事例 に検 討の対象を しぼ り, 管理会計が,
HD シス テ ムに お い て, どの よ うな戦略的マ ネジ メ ン ト機 能を提供 するべ き であるか , また今 後の 管 理 会 計 研 究へ の 貢 献・課 題 につ い て ,若 干の事 例 ・ヒ ア リン グ 調 査 を 元 に し た内 容 か ら, その 考察を 行 う もの で あ る,
1 . HI)の 必 要 性 と経過
純粋持 株会社制度の採 用が , 日本に おい て永 ら く, 日の 霞を見 なか っ た こ とは, それ を 必要 と しない事業環境で あっ た こ と.日本 企 業におい て,欧 米 流の 資 本の論 理が ,必ず しも 貫徹し ない 資本 市場 環境で あっ た こ と.ま た,そ の HD 制 度 に対 する過去 の記 憶か ら く る抵抗感 と言
っ た 戦後の民 主 主義思想に底 流する情 緒的 な もの も 関 連 して い ると言え よ う (下 谷, 2006 ).
こ の 必要 としない環境として は, 事業持株会社が基本的に設立 可能で あっ た こ とか ら, 日本 企 業の 多 く は,持 株 本 杜 を 設 け ないが, それに類似する役 割 を 親 企 業が もっ てい た こ と.す な わ ち,子会社 ・グル ープ 企
業へ の投 融 資のた めの意 思 決 定 と グループ事 業 評 価 といっ た 戦 略的な 本社機 能 (資源 配 分意思決 定 機 能 と事 業 業績評 価 機 能 )と価 値 連 鎖の 上 で 中 核 的 機 能 を事業持 株 会社が もっ てい た こと.子 会社で部品 を製造 し親企業で組 立 ・品質保 証 ・ブラン ド付 与そ れ に,研 究 ・開 発 を 行 うこ とで
, 事 業 活 動 とし て の本社機 能 と グル ープ 全 体の 資 源 配分 と 戦 略 立 案を 行 う戦略 機 能 と して の本 社 を う ま く使い 分けてき た と 言 える.
こ の 融 通 無 碍 な 体 制 その もの は, 実 質 的 には, グル ープ経営 をしな が ら,
一方で は,単 独 決算に よ る親 会 社 中 心の 業績評 価とい う本 質と 形式の 使い 分けに よっ て も, 日本 企業は環境変
日本 型ホール ディン グス (純 粋持 株 会社 制 )へ の管理 会 計の貢 献可 能 性
化へ の 柔 軟 性 と競 争 力 を 与え られて き た と言 える で あろ う.した がい , HD シス テム による,
グル ープ経営の戦略 的機能特化の た めの 本 社 と して の親 会 社 を 設 けるこ とは , これ まで の メ リ
ッ トで あっ た 形 式 と 実 質の使い 分け が難 し くなっ たとい う グロ ーバ ル な 制度へ の戦 後の 日本 的 制 度 の見 直 し 結果で も ある と 言 えるだろ う.
冒 頭で指 摘 した 3 点目の 指 摘の とお り, 連 結 会 計を前提 に し た グル ープ財 務 業績評価に連動 した 株価の 動 きは,経営 者へ の 圧 力 にな り始め たの は,銀 行 を 中心 と した メイン バ ン ク制 と株 式 持 合い の 同 時 的 な 解 消に大手企業が 直面 し た こ と に も多い に関 係 す るだ ろ う.か か る HD シ ステ ム を日本 企 業 が 採 用で きる ことは, 資 本 市 場を中心 と し た 外部環壌変化に対する積極 的な 対 応 と して の 意義づ け ら れ る (林 昇一
, 松 原,木村 幾也 等 ).1つ に は, グル ープ 経営で の 事業 別の リス ク を 本 社に及 ば ない ようにするため で あるQ . 2 つ め は,規模の 経営か らス ピー ドの 経 営に経 営 者 の重 心 が 移 っ たことで , 将 来の 成 長 可能性を維 持する グループ経営とス ピー ド経 営と を両 立 さ せ る仕 組み と して HD シス テ ム を意義づ ける もの である.3 っ め は, 事業合 併買 収 ・事業清算 ・事業創造 とい っ た新陳代 謝 を行 う方 法につ い て 選 択 肢 を 多 く確 保 するこ との 必 要 性で あ る.と りわ け,ア ウ ト・ア ン ド・イン に対 する M &A へ の対抗 と イ ン ・ア ン ド ・イ ン
へ の 取 り組 みの必 要 性 と そ の た めの戦 略 組 織 とし ての HD 役 割である. この よ う な一連の 動 き
は,会 計の 側面 か ら企業経 営を考え る と,これまで の 損 益 計算書を中 心に, 年 度 別の パ フ ォ ーマ ン ス (売 上 高 と営業利益 )を経 営の最 重要 な業績 基準 と考え る 経営
か ら,貸 借 対 照 表の 貸 方 サ イ ドの 自己資 本 と他 人 資 本のバ ランス , 自己資本に対 する, 包括利 益あ るい は税 引 後 当 期利 益とい っ た, 営業 利 益 業績のみ な らずに, フ ァイ ナ ン ス 面を考慮 し た 財務 業績を経営者が意識せ ざる を得 な く なっ た の で あ る (株 主資本 営 業 利 益 率 は,総 資 本 利 益 率 と財 務レ バ レ ッ ジとス プレッ ドの積 との 総和 に依 存 す る ).その大 き な 証 拠 は,株 主が これ ま で の 日本 法人株 主 中 心か ら, 外国法人の 株主の 大 幅な増加, 銀 行 株 主か らフ ァ ン ド運 営 会 社 ・ 組合な どの これま で とは異 なる行 動 原理 を もつ 法 人株主比率増加が顕 著で あ っ た こ とも 作 用 し
て い るとい え よ う.
HD シ ス テ ム の 本社設立 の グル ープ全 体か ら 見て期 待 さ れ るべ き 役 割 は, 資 本 市 場の 構 造 的 な 変化 に対 して, どの よ う な 戦略 的 ・構 造 的対 応機 能を企業は 用 意できる か とい うこ とで あ ろ う.そ れ は , 1 つ に は,統 治 機 構 と して戦 略 的 決 定 ・監 督 を 中心 に した 会 社 組 織 と 執 行 を 中 心 に した 事業会杜 組織へ の 戦 略的分離に よ る経 営透 明 性 向上 ,統 治 機 関の 確立 に よ る 資 本 市 揚か らの信 頼 性 の構 造 的 な 担 保で ある. 2 つ め は,顧客 ・供 給者 ・従業員とい っ た経 済 的 環 境の部 分と 地球温暖化 ・有害廃棄物に よ る 水質 ・大気 ・健 康 などの社 会 的 ・自 然環境を 含め た ス テイ ク ・ホ ル ダーとの 良 好 な 関 係 を 構築する た め の 意思決定お よ び監視機 関の 設 置へ の 取 り組 みで ある.3 っ めは, 成 長 と存 続へ の シ ス テ ム とし て のグル ープ ・マ ネ ジメ ン トの新た な 方 法 論の
確立 を志 向 す る動 きで は ない だ ろ うか .そ し て 4 つ め は, 戦 略的 人 的資源の グル ープ 全体へ の
配分 と彼 らの評 価お よ び 経営者 教育につ い て の HD シス テ ムの 役 割で あ ろ う.
この 内部機構の 再構築の 意義につ い て第 1 の視 点 と 2 の視 点 を 次 節で検 討 し,第 3 の視 点 を
4節で検討 しよ う.ま ず 理 論 的 企業組織研究か らHD シ ス テ ム の 意義 を み るこ と か らは じ める.
なお , こ れ につ い て は逆の 指 摘 も あ る.す なわ ち,一部の企 業
で 子会 社 を 上 場 して い る関 係 上, 親会社で あ る HD の市 場価値よ りも,子会社の 市場 価 値が高い とい うコ ング ロ マ リッ ト・ ディス カウン トの 現象 が 見 られ る とい うこ と で,事 業リス ク が む しろHD の ほ うが 高い とい う 現象も ある,