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東日本大震災における保険当局の対応

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東日本大震災における保険当局の対応

鮫 島 大 幸

■アブストラクト

2011年3月11日に発生した東日本大震災においては,迅速な地震保険金の 支払いに向けた工夫,車両保険の免責への不満,液状化被害への損害査定方 法,原発周辺地域の家屋への損害査定など,様々な問題が発生した。行政と しては,損害保険会社との間で意思疎通のレベル,頻度を最大限に上げて,

支払い現場の知恵に基づく提案や創意工夫を促し,それを最大限尊重して実 現することにより,これらの課題を一つ一つ乗り越えて行った。

本稿は,これらの課題とそれへの対応の経緯を記録することに加え,今回 の震災対応を通じて得られた教訓,例えば,個別の契約者や,マスメディア,

議会等の関係者への丁寧な説明の重要性や,当局としても被災地を回って現 場の方々から直接声を伺うことの重要性などが,今後の災害対応に少しでも 活かされることを趣旨とするものである。

■キーワード

東日本大震災,金融庁,行政当局の対応

1.はじめに

筆者は,2011年3月11日の東日本大震災の発生当時,金融庁 監督局 保険

*平成24年3月19日の特別講演会 東日本大震災と保険業界の1年 (損害保険事 業総合研究所・日本損害保険代理業協会・保険毎日新聞社共催)における報告に よる。

/平成24年9月18日原稿受領。

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課において,損害保険会社の監督担当の課長補佐を務めており,地震保険金 の支払い等に懸命に取り組む損保各社からの相談,要望への対応や,損保各 社への要請,依頼等,行政としての震災対応の一端を担わせて頂いた。本稿 においては,当時の行政における対応を振り返り,〜震災関係の書類は,フ ァイルで3冊くらいに上った〜,その事実・経緯を記すと共に,その反省 点・改善点を記し,将来また必ずやって来るであろう震災に備え,損保各社 或いは関係当局の皆様にとって,少しでも参考になるよう願うものである。

2.当局の震災対応の経緯

⑴ 震災発生から3月末まで

3月11日午後2時46分の大地震発生時には,金融庁が入居している,37階 建の霞が関・コモンゲートビルも流石に激しく揺れたが,その10階に位置す る監督局 保険課の職員もやがて落ち着きを取り戻し,地震発生後の1,2 時間は,通常通りの業務が行われていたと記憶している。普段から保険課と 損保各社との間では,頻繁に電話連絡が行われていたが,震災直後の業務連 絡においても,東北地方の詳細な被害状況は未だ掴めていなかったため,

巨額の被害が出るのではないか との漠然とした虞はあったものの,先ず は落ち着いて対応しようと連絡を取り合っていた。(震災直後,電話での通 信には特に支障は感じなかった)。保険会社の中には,事前のアポイント通 り,役所に来られた方もいた。震災発生後,2時間ほどたつと,ニュース等 で東北地方の状況が入るようになり,損保各社からも,震災対応本部を立ち あげ,被災地支援の体制整備に着手した等の情報が寄せられると,保険課で も通常の業務は吹き飛び,震災対応が最優先のモードに入った。 もちろん,

保険会社の方との役所での会合予定は全てキャンセルし,既に到着されてい た担当者が無事でいらっしゃることや,帰社先等を,各社に連絡したことを 記憶している(夕方になると,電話がなかなか繫がりにくくなっていた)。

当日の夜には,自見庄三郎金融担当大臣と白川方明日本銀行総裁の連名で,

震災対応のための金融機関への協力の要請,特に保険会社に対しては 保険

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金の迅速な支払い 等を求める要請文が出された。災害発生時においては金 融当局からの要請が出されることは良くあったが,今回は金融担当大臣と日 銀総裁の連名となっており,尋常ならぬ震災への対応に万全を期す旨の強い メッセージを込めたものとなった。

震災翌日となる12日の土曜日は,地震においてはどの種目の保険で,どの ような損害をカバーする保険金が支払われるのかを確認した。今後,保険金 の支払いを巡って議論・紛争が起こることが予想され,どのような保険金が 払われ,払われないのかを把握しておかないことには,役所としても対応で きないと考えたからである。ある損保会社からは,地震の際に支払われる保 険金の一覧を整理しているとの話を聞いたため,依頼してそれを頂き,当局 としても大変参考にさせて貰った。また,その会社からは,阪神淡路大震災 時の対応についての記録も頂き熟読したのだが,メディア対策や,苦情対策 を一つずつ実に丁寧にしておられたことが印象に残った。その記録を見た時 には, なぜここまで,苦情や問い合わせに丁寧に対応するのだろう と,

ややいぶかしくも思ったものだが,緊急時には,噂や流言の類が流布しやす く,皆様の心の安定に気を配ることが非常に重要だということを後で痛感し,

先人が震災時に個別の問合せ対応を丁寧にされたのは理由あってのことだ と,実感した。

3月17日には,毎月中旬に開催されている定例の損保協会の理事会が開催 され,同時に 地震対策中央本部 が設置された。その会の理事会では,

損保が如何に被災地・契約者を支援できるか 等を巡って,損保各社の社 長の間で,真摯な意見交換が活発に為されたと聞いている。同日の夕方には,

損保協会長と監督局長との間で,今後の対応方針についての意見交換が行わ れた。当局からは, 家屋等の生活の基盤を失った被災者への対応では,金 融機関の中でも損害保険会社が重要な役割を期待されていること をお伝え しつつ,その上で, 巨額の支払いによる財務の影響はなく,財務は健全で ある という,一方の要請と,もう片方で, 保険金を迅速に支払う用意が ある という,両方の要請とのバランスを取ることが重要であり,震災当初

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は 迅速な支払い ことに重点を置き,安心感を出すことが重要であろうと コメントした。

3月20日頃には,為替市場では円高が進んでおり,1ドル70円台に突入し ていたが,その円高の理由として, 損保会社が地震保険金の支払いに備え てキャッシュを手元に置かなければならない,そのために保有する外債を売 っているからだ という噂が為替市場に流れていた。今,考えると確たる根 拠は無い訳であるが,当時は一定の信ぴょう性があったため,政府内でも高 いレベルで話題に上がった。保険課長が否定する等により,一応は収まった が,ことほど左様に,震災直後は,いろいろな噂に影響されやすいものかと 感じたものである。

3月中旬からは,金融庁としても,被災者に役立ちそうな情報であれば小 さな情報でも良いので,小まめに提供してゆく方針となり,金融庁のホーム ページやツイッターでの情報発信が始まった。銀行・証券・保険等の金融業 界を広く所管する金融庁全体の対応をみると,被災者が直ぐにでも必要とな るのは現金であるため,銀行担当部局が迅速な現金輸送のために被災地に緊 急車両を手配する等,比較的震災直後の対応が多かった一方で,保険金の支 払いを担う生保会社や損保会社は,震災による被害状況を確認できるように なる2週間ほど後までは,余り目立った動きは取れず,提供出来る情報もあ まり豊富ではなかったが,その分,今後の活動に対する保険会社や保険当局 に対する期待が強まったと感じた。

3月16日には,損保主要5社と,損保協会の担当役員クラスに金融庁に集 まって頂き,監督局の幹部から各社に対して,被災者に有益な情報発信に努 めることや,迅速な保険金支払いに努めて頂きたいこと,そのために必要な 保険規制の改善等の要望があれば,何でもいつでも金融庁に寄せてほしい等 を依頼した。保険監督当局と各社との間では,当然ながら様々なレベルでの 接触があったが,監督局幹部から主要5社の責任者に対して一度に要請する ことは余り行われていなかったため,非常時対応にかける当局の強い意気込 みが伝わった手ごたえを感じた。この要請に応じて,損保協会が中心となり

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損保各社から約50項目の規制緩和策を集め,まとめて提出して頂いた。約50 項目の全てが実現した訳ではないが, 代理店による損害査定 や, 被災者 が提出した写真による損害査定 等は,被災地支援に当たる損保関係者の真 摯な思いや現場の知恵から生み出された提案であり,採用・実現に繋がった 好例と考えている。監督局内においても,当局や損保の東京本社が机上で対 策を練るよりも,現場で被災者のために活動している,数多くの関係者から の要望を重視すべきとの考えが示されたため,我々末端の担当者レベルでも 損保からの意見聴取には本腰を入れて当たった。

3月の20日を過ぎると, 地震保険金の支払いが過去最大規模になる 旨 の報道が徐々に出始めた。2012年度予算案等が審議されていた国会において も,複数の議員から 巨額の保険金を支払って保険会社の経営は大丈夫か との質問が政府に対して出された。これは, 保険金の支払で,経営が傾か ない様,しっかり監督しろ という趣旨ではなく, 保険会社は,保険金支 払いに十分対応できる,保険会社は大丈夫だ,ということを金融庁からしっ かりと答弁して貰い,被災地の保険契約者を安心させたい。 という趣旨か らの質問であり,更に言えば 保険業界を応援したい。 という気持ちが伝 わる質問であったため,これに応えて金融庁からは 各社には十分な資本や,

地震保険金の支払いに備えた異常危険準備金があるので問題ない 旨を答弁 した。また,金融庁に対しても, なぜ生命保険金は地震が原因の場合でも 支払われるのに,火災保険では地震が原因の場合は支払われないのか とい う問い合わせがマスコミや一般の方から寄せられた。震災当初は, 火災保 険の地震免責条項 に理解が得られないことを強く懸念し,生命保険の約款 と,地震保険の約款の文言の差(=生命保険金は地震の場合,支払わないこ とが できる ,火災保険金は地震の場合は 支払わない との文言)を示 す対比表を作成して,庁内幹部まで意思統一し,一般の方やマスコミの方に 説明し,納得頂く作業を行った。

震災と同時進行的な事象であり,かつ今回の震災のかつて例が無い事情と して,福島第一原発の事故に伴う電力不足の懸念,更に計画停電の問題があ

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った。詳述すると,電力問題を所管する経産省 資源エネルギー庁が, ある 地域を順番に,計画的に停電させることにより電力需要を減少させ,電力不 足による制御不能の事態を避け停電危機を乗り切る 趣旨の 計画停電 を 提案してきた。金融庁に対しても,金融システムの維持等のため,計画停電 からの除外を希望する施設や場所等の情報提供依頼があり,金融庁からは手 形交換所や証券取引所のための情報システム,サーバー所在地など,日本全 体の金融システムの根幹に関わるシステム設置地域の計画停電の対象除外を 要請した。損保の情報システムについても, 地震保険の支払いのためには 損保会社のシステムは必要不可欠 と主張,要請したが,先述の金融インフ ラのためのシステムに比べ,なかなか容易には理解を得られなかったと記憶 している。その後,計画停電自体を行わない方向になり,結果的には地震保 険金の支払いに情報システムの停止が悪影響を及ぼす事態は避けられた。

また,損保会社の地震保険金の支払い責任・リスクに大きく影響する重要 な話であるが,3月末に損保協会の地震保険の担当チームから,地震保険の 官民負担額スキームをどうするか,金融庁に対して相談があった。具体的に は,今回の大地震によって民間損保の準備金はかなり減少することが見込ま れたにも関わらず,3月末までに何の措置も講じなければ,年度を新たにす る4月から,民間損保は地震発生前と全く同じ額の保険金を支払う責任を負 う事態になるため,官民負担割合が見直されるまでの暫定措置として, 地 震再保険を除いた各損保会社の負担上限額を,3月末時点の額(=保険金支 払いの分だけ減少した額)に維持・固定する という措置が講じられた。

暫定措置と並行し,民間損保が蓄えていた約1兆円の地震保険準備金が激 減する事態が想定されていたため,民間の支払責任額を準備金で賄える範囲 内に減らす作業が,3月のうちから続けられていた。損保協会の地震保険担 当チームが財務省に対して熱心に説明・交渉を行った成果として,民間損保 の支払責任額の減額の必要性が理解され,5月2日成立の補正予算において,

民間損保の支払い責任額が約1.2兆円から約7,000億円に減額された。その際 に, 地震保険金の支払いにより準備金が減る,従って,支払い能力が低下

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するため,民間の支払い責任も減額させる というコンセンサスが財務省と 損保業界との間に生まれ,かつ実行されたことは,2012年4月から,もう一 段の官民負担割合の変更にも良い影響を与えたと感じている。

3月末には,保険会社監督の責任者である保険課長が被災地を視察し,被 災者や保険金支払いに当たる損保会社社員等からの声を直接伺った。現場か ら寄せられた情報や要望のうち,その場で必要,有効だと判断したもの,例 えば 損保代理店による損害査定の支援 や 保険金支払い請求手続き・連 絡先の新聞・ラジオでの周知 については,即座に金融庁や損保協会・地震 対策本部に伝達され,迅速かつ柔軟な対応の一助になったものと感じている。

⑵ 4月から7月まで

4月になると,震災から約1月を経て必要な対策の変化に応じて,様々な 問題が出てきた。先ず, 自動車が津波で流されても,自動車保険・車両保 険では一切補償されない。地方において生活の足となる自動車を再調達でき ないので何とかせよ。 という声が,幾つかの全国紙・地方紙で報道される ようになった。呼応して,自動車ユーザーや政治家からも,金融庁 保険課 に対し, なぜ津波で流された自動車に対して,車両保険金が出ないのか。

何らかの対策を講じるべきではないか。 という要望・問合せが幾つか寄せ られるようになった。更に国会においても, 津波で流された車両について 車両保険金が支払われないのか,何らかの対策は講じられないか ,質問が 出された。この問題が表面化し始めた頃,自分自身も, 原則として地震・

津波は免責である車両保険おいて,地震・噴火・津波を補償する特約がある こと,しかも顧客全体の1%に対してのみ販売している ことの理由が腑に 落ちず,各主要損保会社に対して, 実際にどのような顧客層にこの 地噴 津特約 を販売しているのか 質問したのだが, 顧客のニーズやリスク特 性等から判断している 以上の明確な理由は得られなかった。既存の, 地 震・津波による損害は免責 である車両保険の契約について,契約内容を超 えて保険金を支払うことは不可能であるため,せめて,これから販売される

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車両保険については,地震・津波による車両損害も保障する商品を,なるべ く多くの顧客に販売できないか,保険課から主要損保5社に対して検討を依 頼した。これに応じて主要5社も前向きに検討して頂き,各社のリスク管理 上,可能な範囲で,具体的には,全損になった場合に限り50万円,中古車が 買える程度の金額を支払う商品を開発して頂き,2012年の1月以降,順次,

販売されることとなった。津波による車両損害により顕在化したニーズに基 づく商品が開発されたことは顧客にメリットのあることと考える。

4月の中旬頃になると,千葉県などで発生した大規模な液状化の被害に関 し,地震保険の損害査定基準の問題がクローズアップされた。地震保険と支 払基準が良く似た制度として,国が,被災建物の被害状況に応じ,50万円か ら300万円までの支援金を支払う 被災者生活支援制度 がある。当制度に おいても, 全壊・半壊・一部損,そして大規模半壊 と,地震保険と文言 が良く似ている支払い区分がある上に,液状化被害に関しては,それに適し た支払い基準を新たに設定することを,担当省庁である内閣府が4月の末に 発表していた。液状化被害に関する地震保険の損害査定についても,損保協 会の損害サービス担当の部署が,支払い現場の実態を踏まえた知恵と工夫を 出して頂き,液状化被害の為に支払い査定基準を抜本的に,時間を掛けて直 すことは避け,現行の査定基準の新たな解釈を示すことで,迅速に液状化被 害に対応されたと理解している。

5月になると,福島第1原発の周辺地域の地震保険契約者への保険金支払 い方法が問題となった。5月のゴールデンウィーク連休明けには,避難され ておられた方々が,防護服を着用の上で数時間程度,一時帰宅されることと なったが,そのような,自宅を見ることが出来る貴重な機会を,保険金のお 支払いに活用するというアイデアを損保協会から出して貰った。実際に一時 帰宅された方が,その記憶に基いてご自宅の損害状況を選択し,それに基づ き地震保険金を支払うという工夫であり,その案を聞いた際には, 現場を よく見ている損保の方々の知恵と,それを制度に反映させる組織力 に舌を 巻いたものである。その頃には,金融庁保険課の中でも,餅は餅屋に任せる

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べきであり,地震保険金の損害査定や支払いの工夫に関しては,現場を良く 知っている損保業界の方に知恵を出して頂き,それを最大限尊重することが 一番良いとの認識が共有されてきた。

6月になると,大地震発生から3カ月を迎え,地震保険金の支払い金額が 数千億円単位で伸び,1兆円を突破するのは確実だとの認識が損保業界やマ スメディアでも広がってきた。大震災の被害の甚大さが強調される一方で,

3か月で約1兆円もの地震保険金支払いの迅速性をたたえ,被災地経済への 貢献にも触れるトーンの記事もあり,損保業界への期待・感謝の高まりが,

現場担当者の士気を一層鼓舞したであろうと考えている。

7月に入ると,日本原子力保険プールによる,福島第1原発の原子力保険 の契約更改問題の検討が深まってきた。福島第1原発への原子力保険につい ては,損保業界20数社が加盟する原子力プールが共同で引き受けていたが,

2012年1月の契約更新期には,新たな保険は締結できないというスタンスを 固めつつあった。当然,原子力保険を所管する文部科学省等からは, なぜ 原子力保険を引き受けられないのか。 という問合せが寄せられた。原子力 災害への補償を担当する部署からすると,いざという時に保険を引き受けな い原子力プールに対する批判的な思いを抱くのは理解しうるものであったた め,プール事務局の方から,原子力保険を更改できない理由や事情を,各国 当局の意向等も示しながら最大限,丁寧に説明して頂き,最終的には,東京 電力が原子力保険の契約を更新する代わりに,1200億円を供託する形で収ま った。恒常的に発生する火災や自動車事故のようなリスクではなく,巨大地 震や,原子力損害,そして2011年秋に発生したタイ洪水被害も然りであるが,

稀に巨額の損害が集積して起こるリスクに対しては,損保会社は保険カバー を提供しづらいことについて,震災当時は,なかなか世論の理解を得ること が難しいと実感したものである。他省庁やマスメディアから金融庁に対して も疑問・批判が寄せられ,それに対しては, そもそも保険を引受けるかど うか自体が,損保会社のリスク管理,経営判断であり,無理に引受けると,

全ての契約者に損害保険金を支払えなくなる虞がある 旨を説明し,ある程

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度,納得して貰った。

3.反省点・改善点

上記を踏まえて,本節においては,震災発生後の約半年の行政対応を振り 返り,良かった点と反省点について,筆者個人としての考えを纏めておきた い。

まず良かった点としては,損保業界と金融庁保険課との間で密接にコミュ ニケーションができたことである。例えば,緊急を要する時には(尤も,震 災直後は全てが 緊急時 であったが),夜でも土日でも損保各社や損保協 会の担当者と連絡し,逆に当方に対しても連絡が入り,何でも相談できる関 係が構築されていたと認識している。もちろん,その過程では損保協会や損 保各社に負担を掛けてしまったのだが,平日の勤務時間を待たずに,1日或 いは数時間でも早く情報がやりとりされ物事が決まり,それによって損保業 界の創意工夫の発揮や,業界一致団結した取り組みが少しでも早く進む一助 になったのであれば,結果的に被災者,保険契約者のためになったのではな いかと考えている。

また,二つ目に,行政としては,損保各社,損保協会による創意工夫の発 揮,或いは全力での対応を邪魔することなく,いかにその能力を最大限活用 してもらうかに心を砕いたことが功を奏したと考えている。現場から離れて いる役所が観念論だけから保険金支払いの現場に介入することをせず,むし ろ,業界・現場から提案を受ける形で対策を進めたことが,迅速な保険金支 払いに繫がったのではないか。大臣レベルからも生保協会,損保協会の両協 会の会長に対して感謝を述べつつ更なる奮闘を期待・激励しており,それも 業界全体の団結はもちろん,保険金の迅速支払いに向けた自発的な動き,ス ムーズな対応を支えたと思う。

更に,特筆すべきは損保業界によるメディア対策であろう。損保協会を中 心に,テレビやラジオなど,あらゆるメディアに対して丁寧に地震保険の保 障内容や,保険金支払い手続きを説明して頂き,世論の理解を獲得したこと

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が有効だったと感じている。震災後にアメリカ軍による災害救助・復興支援 のための トモダチ作戦 でもそうであった様に,世論の評価,或いはバッ クアップを背景に,期待を背負って仕事をされるということになれば,損害 査定の現場の担当者の士気も上がるであろうし,働きがいも全く違ってくる であろう。メディアを通じ,世論が損保を応援する雰囲気ができたことが一 番大きかったと感じている。

逆に反省点であるが,まず自分自身が担当者として直接被災地に足を運び,

被災者,損保代理店,損保会社の現場の声や要望を直接お聞きする機会がな かなか持てなかったことが,残念であった。保険課長や審議官は3月末から 4月にかけて被災地を訪問し,有益な現場の話を担当者にも下ろしてはくれ たが,実務担当者の目から見ることで何か違うことを発見し,お役に立てた かもしれなかった。個人的には8月に仙台と福島を見たが,その時点でも瓦 礫が散乱し復興の途上だったことに鑑みると,4月,5月の段階で見ておけ ば,何か違う対策を工夫できたのではないかとも感じている。

また,震災発生当初は,地震保険や火災保険制度に対する理解が十分では なく,詳細について勉強しながら対応したことが,損保各社の実務担当者へ 迷惑を掛けしてしまったのではないかと思う。震災が起こる前の平時から,

いざという際に備えてしっかりと勉強しておくべきだったと反省している。

平時には余り関与せず,いざという時にしか使われない保険種目であるから こそ,早い段階から必要な知識を頭に入れておく必要性が高いと考えている。

その点,さすがに損保会社は危機管理や

BCP

(Business Continuity Plan 事業継続計画)への備えが十分であると感じたのだが,東京においても強い 揺れが発生した直後に,各損保の本社では対策本部が立ち上げられ,何をす ればよいかをリストアップして

TO  DOリストが作られた他,必要な人員

や物資を誰が何時運ぶか等,ロジスティックの面で極めて迅速な対応が取ら れた。

最後に,震災対応が一段落した後において,当局が取り組むべき,損保行 政としての課題に触れておきたい。地震保険金のみならず,その他の種目で

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の保険金支払いにより,損保会社の財務の健全性に少なからぬ影響が生じた ため,財務の健全性の確保が重要になるであろう。また,その一環として,

地震保険制度そのものも,大震災対応での経験を踏まえて,見直しが為され るべきであろう。例えば,今回の大震災においては,契約者からは 保険金 の支払い区分について一部損と半損では格差がありすぎる , マンション住 民にとっては,一部損の保険金では修理代にもならない 等の苦情が,損害 査定の担当者からは, 震災時においては査定の迅速性が重要であることを 痛感した との声が寄せられたが,こうした契約者や査定担当者の声を十分 考慮した制度改正が求められるであろう。

(筆者は経済産業省勤務,震災時は金融庁監督局保険課に在籍)

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