中国・陜西省の新粉細工の伝統と発展
著者 馬 涛涛
著者別表示 Ma Taotao
雑誌名 博士論文要旨Abstract
学位授与番号 13301甲第4469号
学位名 博士(文学)
学位授与年月日 2016‑09‑26
URL http://hdl.handle.net/2297/46485
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
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学 位 論 文 要 旨
Dissertation Abstract
学位請求論文題名
Dissertation Title中国・陝西省の新粉細工の伝統と発展
(和訳または英訳)
Japanese or English TranslationTradition and Development of Wheat Cake in Shaanxi Province of China
人間社会環境学 専 攻(Division)
氏 名(Name) 馬 涛涛
主 任 指 導 教 員 氏 名(Primary Supervisor) 鏡味治也
(注)学位論文要旨の表紙 Note: This is the cover page of the dissertation a
中国・陝西省の新粉細工の伝統と発展
人間社会環境研究学専攻 学籍番号 1321072012 名前 馬涛涛 Abstract
Accompanying economic globalization,the cultural differences of each country and each nation decreased, so do as the our life differences. In addition, as the consequence of globalization, cultural diversity is being lost. Not only in developing countries , but also in developed countries, awareness and actions to protect the cultural heritage are ambiguous, as a result , both tangible and intangible cultural heritage is being lost. However, culture is consist of diverse contents. For example, folk culture includes a wide range of fields, in some cases, it also can be a distinguishing symbol recognizing from other culture. therefore, awareness of protecting diverse cultural heritage is growing all around the world, including China.
This paper,firstly aims to elaborate the reality of traditional culture in China Shaanxi Province, through a new powder crafted which has been the representative of both crafts and traditional food culture. Then using the approach of cultural anthropology to analyze the history of the new flour work, its production, its producer‘s life and so on. At last clarify the impact on inheritance of intangible Cultural Heritage caused by economic development.
中国・陝西省の新粉細工の伝統と発展
人間社会環境研究学専攻 学籍番号 1321072012 名前 馬涛涛
<論文概要>
経済のグローバル化の進展に伴って、各国・各民族の文化的差異が減少しているだけで はなく、我々の普通の生活において、食品、服装、生活環境などの差異も段々少なくなっ てきた。さらに、グローバル時代に入ると、文化の多様性が様々の要因(人的な開発、過 疎地域など)によって失われつつある。発展途上国のみならず、先進国においても、文化 財を保護する意識・行動は曖昧で、有形文化財、無形文化財が消失・消滅しつつある。
しかし、文化と一言でいっても、実際には多様な内容が含まれている。例えば、民俗文 化及び伝統的な民間文化は衣食住、生業、信仰、年中行事などに関する民俗風習、芸能な どに用いられる衣服、器具、家屋など幅広い分野と関わるだけではなく、場合によっては、
民俗文化は他国文化と区別する象徴ともなる。そのため、各国の人々には多種多様な文化 財を維持しようとする意識が高まっており、文化財に対する保護意識は世界レベルにおい ても広がっている。このような動きは発展途上国の中国でも見られる。
本論文は、中国陝西省における伝統文化の実態を整理しながら、伝統的な食文化であり 工芸品の代表とされている新粉細工を取り上げ、新粉細工の歴史、製作、製作者の生活実 態及び生活中の応用などを文化人類学の視点で分析したものである。そして、新粉細工を 切り口として、経済発展によって引き起された現代文明と伝統的文化との衝突や、農村部 からの若者の流出に伴い、伝承者の減少が齎されるなど、非物質文化遺産の伝承に与えた 影響を明らかにするとともに、最後は文化財を保護する視点から政策的な提言した。
本論文は 6 章から構成される。
第1章では、本論文の問題意識、問題制定、論文の構成と先行研究の概要を提示した。
第2章では、陝西省における伝統的民芸と新粉細工を分析した。
「祭品麺花」は祭礼に供える新粉細工で、人間の自然、先祖に対する民俗信仰の表現で ある。特に、年中行事の際、家屋を建てる際や上棟する時に使われている。「礼品麺花」
は贈り物としての新粉細工で、民間では、節句を迎える際と日常の付き合いの時によく贈 り合われる。特に出産した時、結婚する時、誕生日などを祝う時や、葬式をあげる時に新 粉細工が用いられている。
第3章では、渭南市における新粉細工の製作について整理した。さらに、現地調査とイ ンタビューしたことによって、新粉細工の製作者の生活状況、経済状況等を明らかにした。
第 4 章では渭南市における新粉細工の種類と用途を分析した。具体的に、伝統的な新粉 細工の使い方を整理しながら、地域における年中行事、通過儀礼、民間信仰と伝統儀式の 現地調査を通じて、新粉細工の種類と用途、村人に与えた影響について分析した。
第 5 章では、新粉細工の現代的活用の視点から新粉細工が都市部での応用について分析 した。更に、新粉細工教室の展開等の実例を通じて分析した。
第6章では、今までの考察はを踏まえて、粉細工を切り口として、経済発展によって引 き起した現代文明と伝統的文化との衝突や、地方の都市化問題における若者の流出による 伝承者の減少等の問題を明らかにするとともに、伝統文化の行き方を分析し、新粉細工を めぐって伝統的な民間文化の価値を考察した。
㊞
学位論文審査報告書
平成28年7月12日
1 論文提出者
金沢大学大学院人間社会環境研究科 専 攻 人間社会環境学 氏 名 馬 涛涛
2 学位論文題目(外国語の場合は,和訳を付記すること。)
中国・陝西省の新粉細工の伝統と発展
3 審査結果
判 定(いずれかに○印) 合 格 ・ 不合格
授与学位(いずれかに○印) 博士( 社会環境学・文学・法学・経済学・学術 )
4 学位論文審査委員
委員長 鏡味 治也 委 員 西本 陽一 委 員 上田 望 委 員 岩田 礼 委 員 中島 弘二 委 員
(学位論文審査委員全員の審査により判定した。)
5 論文審査の結果の要旨
本論文は、中国の黄河流域の農村部を中心に古くから制作されてきた、小麦粉を練って発酵 させ蒸したものを細工してつくる「新粉細工」を対象にしている。新粉細工は年中行事や通過 儀礼において、お供えとして供えられ、また贈り物として贈られ、その多くは食べられて消費 されるが、一部は飾りとしてしばらく飾られる、一般民衆の生活に深いつながりをもった食品 であり工芸品である。その製作者や民俗研究者を訪ねて制作方法や用途を取材し、年中行事や 通過儀礼をはじめとする民衆生活の様々な場面で使われるさまを活写し、さらに近年の都市部 でのレストランや民芸品を展示する施設での実演といった現代的な活用までも紹介して、その 文化的意義を検討しようとしたのが本論文である。
1章で問題設定と先行研究概観、調査手法の提示を行った後、2章では調査地域とした中国 陝西省の関中地方を紹介し、その新粉細工を含めた伝統民芸を概観している。陝西省はとりわ け新粉細工の伝統が豊かに残る地域と著者は位置づけ、そこで作られ使用される新粉細工の種 類を章の後半で紹介している。
3章は新粉細工の製作過程を詳述した章で、現在も製作を行っている製作者を村々に訪ね、
その製作過程や技法、道具を具体的に詳述し、地域的な差異も指摘している。章の後半では製 作者に焦点を当て、聞き取りした複数の製作者の生い立ちや生活状況を紹介している。この章 の内容は日本国内の査読付学術誌に個別論文としてすでに公刊されている。
4章が本論の中心で、関中地方で作られる新粉細工の種類と用途を、農村部での年中行事、
通過儀礼、民間廟での祭礼、棟上げ式などの伝統行事といった種々の場面ごとに、具体的かつ 詳細に描出している。このうち年中行事や通過儀礼、廟での祭礼(廟会)等の一部は、著者人 が実際に観察したデータも使って紹介している。この章の記述、とりわけ年中行事と通過儀礼 の包括的、網羅的な紹介によって、当該地域での一般民衆の日常生活の全体像が手に取るよう に示され、その折々に新粉細工が果たす役割が詳細に解説されて、人びとと新粉細工のつなが りが具体的かつ明瞭に提示される。この今日なお継承されている、陝西省関中地方の農村部の 一般民衆の民族誌的な生活誌の提示を、著者自身が新粉細工製作者や地域在住の民俗研究者か ら直接聞き取り、またその一部を筆者自身で観察することによって成し遂げた点が、本論文の もっとも学術的貢献の高い部分である。
5章では新粉細工の現代的活用をとりあげ、富平陶芸村というレストランや陶芸体験館をも つ施設での、陶芸による新粉細工の複製製作や、都市部にあるレストランを兼ねた民俗文化体
験館での新粉細工の実演・展示、また西安市群衆芸術館での新粉細工の展示を紹介している。
そして6章の考察では、新粉細工のもつ民俗的価値、美的価値、教育的価値、経済的価値を 指摘し、その機能から玩具兼観賞用、観賞用、食用、部分的食用の4タイプに、またその用途 からは贈答用、供物用、祭祀用の3つに、さらに形状からは輪型、動植物の形、人間の形など に分類して整理している。そして農村部にも広がる生活の近代化によって新粉細工に与えられ てきた価値や意義も変化し、とくに若い人のあいだで新粉細工についての知識や関心が薄れて きている一方、近年の政府の非物質文化遺産保護政策により、かつて迷信のたぐいと見られて いた新粉細工も文化資源としての価値を見直されるようになってきていることに触れ、伝統文 化に対する知識を深め、技術や使い道を継承していく必要があると提言している。
新粉細工のような民間の手工技芸は、記録や紹介はされることはあっても、本格的な研究の 対象とされることは少ないのが実状である。なかでも新粉細工のように高度な技術を要しない 製作物は、技術を伝承する徒弟制度のようなものもなく、それを用いる風習が廃れれば、簡単 に忘れ去られてしまう可能性が高い。そうした新粉細工の価値は、美的・技術的側面以上に、
伝統風習のなかで欠かせないものとして作られ使われてきた民俗的側面にこそある。その点を、
丹念な聞き取りによって農村部民衆の年間を通じた、また一生を通じた生活の中に描き出した 点に、本論の意義はある。確かにそうした新粉細工の用例をすべての年中行事や通過儀礼で実 際に観察したわけではなく、また民俗研究者からの聞き取りは「こうあるべきだ」という規範 的な色合いが強い印象も否めないが、複数の細工製作者からの聞き取りが、実際に細工がいつ どう使われるのかに関するデータの信頼性を高めている。
製作過程や用途の具体的な記述の豊かさに比べて、分析・考察部分が薄めであることは否め ない。細工の種類や用途の分類や、地域別の変異の比較は試みているものの、整理し、違いを 指摘するのにとどまっている。また新粉細工の伝統に対する、農村部と都市部の住民のあいだ での、また世代間での認識の違いなども、アンケートなどの客観的方法でなく、散発的な聞き 取りにもとづく印象論的な指摘にとどまっている。近年の中国政府の非物質文化遺産政策に言 及しているが、もう少しその現場レベルでの影響を検証できていればと惜しまれる。
しかしともすれば製作物や製作技法の紹介に終わりがちだった民間工芸の新粉細工の文化 的意義を、民衆生活の中に位置づけて探ろうとした本論は、じゅうぶんに学位授与にふさわし いものと審査員一同判断した。
以上