地域の生涯学習推進に果たす大学の役割†
〜大学と市町村の意識の比較を通じて〜
原 義彦*
秋田大学教育文化学部
本稿は,大学が地域における生涯学習支援を行う際の手がかりを得るために,大学の具 体的な生涯学習支援の役割について大学からみた重要性と市町村からみた期待の双方から 分析し,今後,大学が地域の生涯学習推進において,どのような役割をいかに果たしてい けばよいかにっいて検討した.さらに,その役割を果たせるような大学と市町村の連携の 方向性の提示も行った.その結果,次のような結論が得られた.大学が重要であると考え ており,また市町村からの期待が高い内容には,公開講座の充実,中高生対象のセミナー,
教職員を市町村の事業の講師等に派遣すること,学生の社会貢献活動の推進等があり,こ れらの具体化は大学及び市町村にとって意義がある.一方で,それ以外の支援の内容も,
大学からみた重要度,市町村からの期待度のちがいを考慮して具体化を図っていく必要が ある,さらに,大学が市町村と連携して生涯学習支援を行う際に必要なことは,大学と地 域が連携しようとする姿勢をもっことである.
キーワード:生涯学習支援,大学,市町村,連携
1 本論文の目的と研究方法
(1)本論文の目的
本稿1)は,大学が果たす生涯学習支援にっいての 研究の一環として,地域の生涯学習推進に果たす大 学の役割を大学と市町村を対象とした意識調査をも とにして明らかにし,その実現に向けた大学と市町 村の連携の方向性を示すことを目的としている.
大学の役割には,従来から教育と研究の二っがあ り,今後もこれらは大学の本来的な役割であること は言うまでもない.これに加えて,2005(平成!7)
年1月の中央教育審議会答申r我が国の高等教育の 将来像」の中で言われているように,大学には教育 と研究の役割と同時に,「社会貢献(地域社会・経 済社会・国際社会等,広い意味での社会全体の発展 への寄与)の重要性が強調されるようになって」い る.さらに,この答申では,「国際協力,公開講座
2006年1月23日受理
†The Role of University for the Support of Lifelong
Leaming
*Yoshihiko HARA,Faculty of Education and Human Stu(1ies,Akita University,Akita
や産学連携等を通じた,より直接的な社会貢献が求 められるようになっており,こうした社会貢献を,
言わば大学のr第三の使命』としてとらえるべき時 代となっているものと考えられる」とも示されてい
る.社会貢献を「第三の使命」ととらえることにっ いては議論の余地があるが2),いずれにせよ社会貢
献は大学の重要な役割として位置づけられるように なっている.
大学は,今後,このような社会貢献への期待に応 えるべく,具体的な実践に取り組んでいく必要があ るだろう.生涯学習支援の観点からいえば,大学に は,公開講座をはじめとした市民一般を対象とした 学習機会の提供,現職教員等の研修機会の提供,社 会人学生の受け入れ,地域の生涯学習講座の講師・
指導者としての教員の派遣など,さまざまな支援方 策の展開が求められる.
そのためには,大学が果たす生涯学習支援をどの ように展開すればよいかにっいての知見が示されて いると有効である.大学が生涯学習支援を展開する とき,例えば,地域社会は具体的にどのようなこと を大学に期待しているのかといった支援の内容面の
知見や,市民への効果的なPRの方法など方法面に 関する知見などは重要な手がかりとなるだろう,
そこで,本稿では,このような大学が生涯学習支 援を行う際の手がかりを得ることを目的として,大 学目身が重要であると考えている具体的な大学の生 涯学習支援の役割と,地域社会を構成する1っであ
る市町村が大学に期待する役割の双方を明らかにし,
その役割を果たせるような大学と市町村の連携の方 向性を検討する.
なお,大学の生涯学習支援方策に関わるこれまで の研究についてみると,大学の生涯学習支援の必要 性が強調されている中にあって,そのための視点や 方法を実証的な調査研究に基づいて示しているもの はわずかである3).その中には,例えば,大学教員 が大学公開講座の講師や学外での講演等の講師を引
き受けることに影響のある要因の解明を行った研究
(原1999),大学教員,市町村,市町村教育委員会,
小・中・高等学校等の大学の生涯学習支援にっいて の意識調査を通じて大学と地域との連携方策を示し た研究(上條他2000)などがある.前者は大学公 開講座や地域における講演等の講師を果たすという 個別の生涯学習支援についての研究であり,後者は 大学と地域の連携方策という生涯学習支援の方法的 側面を取り上げた研究である。本稿での検討は,こ れまでの研究を継続するものであるが,生涯学習支 援の内容的側面について,市町村からの期待ととも 大学側の意識も取り入れた分析を行うところに新た な意義がある,
(2)研究方法
本研究では,地域の生涯学習推進における大学と 市町村の連携の方向性を検討するにあたって,大学 が行う生涯学習支援の内容を中心として社会貢献に 関わる具体的な役割を示す項目を設定した.これら の内容について,大学がどれだけ重要であると考え ているか,および市町村は大学に対してどれだけ期 待しているかの両面から役割の検討を行った.さら に,大学が市町村と連携してその役割を果たしてい くときに必要な大学の環境整備の内容を,大学と市 町村の意識の比較を通じて行った.
なお,この分析では,「大学一地域連携による生 涯学習研究会」が行った全国の大学・短期大学の生 涯学習・大学開放担当者を対象にした調査(以下,
「大学調査」とする.)と市町村の生涯学習・まちづ くり担当者を対象とした調査(以下,r市町村調査」
とする.)4)のデータを利用した.
2 大学の役割についての大学と市町村の意識
(1)大学からみた大学の役割の重要性
この調査では,具体的な大学の役割を示す29項目 を取り上げ,大学調査ではその重要性の程度にっい て,市町村調査ではそれへの期待にっいて回答を得 ている.図1は,大学が考える大学の具体的役割の 重要性にっいての結果である.「非常に重要である」
とする比率が最も高いのは「5実践に役立っ専門的 知識・技能を有する人材養成」であり,その比率は 56.0%である.「重要である」とする比率(40.0%)
と合わせると96.0%に達している.「非常に重要で ある」の比率がこれに次いで多いのが「6大学の研 究成果をわかりやすく住民に公開すること」で,
「重要である」も加えると96.0%である.このほか,
「非常に重要である」が50%を越えているものには,
「3人間性豊かな人材の育成」(54.5%),「4幅広い 教養を身にっけた人材の養成」(56.0%),「2実際 的,または実践に直結する研究の推進」(52,5%)
がある.これをみると,大学は専門性を実践に生か せる人材養成,教養を身にっけた人材養成など,人 材の養成をとても重視しているということがわかる.
さらに,「非常に重要である」と「重要である」
の比率を合わせてみてみよう.図1は,この合計の 数値の大きい順でこれらの項目を示している.この
うち,上位7位までの項目で,この比率が95%を越 えている.このうち,「非常に重要である」の比率 が50%を越えていた5項目のうち4項目はここでの 上位4項目を占めているが,それ以外では第5位が
「7公開講座の充実」,第6位が「23学生の社会貢 献活動(ボランティア活動等)を推進」,第7位が
「11大学教職員を市町村へ講師や助言者として派遣」
となっている.このように,「重要である」までに 広げてみると,人材養成に加えて,地域と直接的に 関わりをもっ公開講座,学生の社会貢献活動の推進 等の生涯学習支援を重要だと考えていることがわかる.
全体的な傾向として,取り上げた29項目のすべて で「非常に重要である」と「重要である」の合計が 75%を超えており,全般的にはどの項目も重要であ ると考えられているといえるが,各項目の「非常に 重要である」という比率は,50%台から10%台前半 までの項目があり,項目間で重要性の意識にばらつ きがみられる。
2実際的、または実践に直結する研究の推進 5実践に役立つ専門的知識・技能を有する人材養成
6大学の研究成果をわかりやすく住民に公開すること 4幅広い教養を身につけた人材の養成 7公開講座の充実
23学生の社会貢献活動(ボランティア活動等)を推進 11大学教職員を市町村へ講師や助言者として派遣 3人間性豊かな人材の育成 25複数の大学・短大が連携してコンソーシアム 10中・高校生を対象にした講演会やセミナーの実施 24留学生と地域社会との交流をすすめること ・ 29地域の活性化のためのブログラムを開発・提供 8公開講座を市町村で行うこと 1 13生涯学習や教育の最新の動向等について情報提供 14生涯学習の推進に関わる相談に対応すること 12大学教職員が市町村の各種委員会の委員に τ基礎的、理論的な研究の推進
28卒業生が仕事上の相談に訪れることができる環境 26地域の共通課題に学生・教職員が取り纏むこと 16自治体職員や教員が定期的に大学で研究や研修 27地域文化を全国に発信するさいの手助け 9住民向けの講演会を実施すること
T5自治体職員や教員の研修の機会を大学が設ける 17社会人入学の定員を増やすこと 18学部や大学院に夜間開講の授業を設けること 20他大学・短大との単位亙換を進めること 帰
19公開授業の実施(一般の方が学部の授業を聴講)
21学部、大学院で取得できる資格、免許を増やすこと 22資格や免許を認定する講習を実施すること
綾非常に璽要である 聾重要である あまり重要でない O全く盤要でない
(%)
図1 大学が考える大学の役割の重要度
(2)市町村からみた大学の役割に対する期待 次に,市町村は大学の役割に関する具体的項目に ついて,大学に対してどれくらいの期待をしている のかをみてみることにしよう.図2は,図1で示し たものと同じ項目について,市町村の期待の程度を 表したものである.すべての項目の中で「大いに期 待している」という比率が最も高い項目は「23学 生の社会貢献活動(ボランティア活動等)を推進」
(67.3%)であり,この比率が60%を越えているの はこの項目だけである。これをみると,市町村から は学生の地域貢献活動への期待が大きいということ がいえる.これに次いで比率の高いのは,「3人間 性豊かな人材の育成」(59.7%),「7公開講座の充 実」(59.4%)がある.このほか,「大いに期待して
いる」という比率が50%を越えている項目は,「11 大学教職員を市町村へ講師や助言者として派遣」
(58,5%),「4幅広い教養を身にっけた人材の育成」
(56.6%),「5実践に役立っ専門的知識・技術を有 する人材の育成」(56.3%),「13生涯学習や教育の 最新の動向等について情報提供」(54.7%)がある.
これらをみると,学生の社会貢献活動の推進のほか に,実際に役立っ専門性を身にっける等の人材養成 とともに,教員の講師や助言者としての派遣,公開 講座等の生涯学習支援への期待も大きいといえる.
また,「大いに期待している」と「少し期待して いる」の比率を合計してみると,最も高いのは,「5 実践に役立っ専門的知識・技能を有する人材養成」
(94,3%)である.これに続いて比率の合計が高い
5実践に役立つ専門的知識・技能を有する人材養成 4幅広い教養を身につけた人材の養成 23学生の社会黄献活動(ボランティア活動等)を推進
13生涯学習や教育の鍛新の動向等について情報提供
7公闇講座の充案 諭 3人聞性豊かな人材の費成 11大学教職員を市町村へ購師や助書者として派選 9住民向けの講演会を実施すること 29地域の活性化のためのプログラムを開発・提供 1
10中・高校生を対象にした講演会やセミナーの実施 8公開講座を市町村で行うこと 2実際的、または実践に直結する研究の推進 1 24留学生と地域社会との交流をすすめること 奪4生涯学習の推進に関わる相談に対応すること 25複数の大掌・短大が連携して識ンソーシアム
6大学の研突成果をわかりやすく住民に公開すること ・ 22資格や免許を認定する請習を実施すること ・
τ9公開授業の輿施(一般の方が学部の授業を聴講)
26地域の共通課題に学生・教臓員が取り組むこと 1基礎的、理論的な研究の推進 ・ 〜7地域文化を全園に発偲するさいの手助け ・ 12大学教職員が市町村の各種委瀦会の委員に 15自治体職員や教員の研修の機会を大学が殿ける 21学部、大学院で敢穆できる資格、免許を増やすこと ・ 17社会人入学の定員を増やすこと 誌 18学部や大学院に夜闘醐講の授業を設けること ・・
28卒業生が仕事上の相談に訪れることができる環境 諭 16自治体職畏や教員が定期的に大学で研究や研修 一 20他大学・短大との単位互換を進めること .
㏄α怠㏄㏄βαβσ石Bα︒㏄5日α︒3㏄3㏄9Bコ﹂盃璽日濁罰むコ遷2日ヨ⊃玉⊃雪⊃n1.3
一 属天薦垣樽じ鷺iるー一閲『
し、『、、黛赫り翌骸ていない、.
霞歩窃鋸評じぞ1蔦 一一 −−一 口全く期博していない
1.3
(%)
図2市町村からみた大学の役割への期待
項目をみると,「4幅広い教養を身につけた人材の 養成」(91.7%),「23学生の社会貢献活動(ボラン ティア活動等)を推進」(91.2%),「13生涯学習や 教育の最新の動向等にっいて情報提供」(90.5%)
など「大いに期待している」比率が50%を越えてい る項目のほとんどで,この上位7項目を占めている.
他方,「大いに期待している」と「少し期待して いる」の比率の合計が70%未満になっている項目に は3項目ある.それは,「28卒業生が仕事上の相談 に訪れることができる環境をっくること」(68.3%),
「16自治体職員や教員が定期的に大学で研究や研修 を行えるようにすること」(64.1%),「20他大学・
短大との単位互換を進めること」(63.5%)である.
このことから,今回取り上げた項目の中で,大学 への期待が比較的大きい項目とそうではない項目が あることがわかる.この点は,図1でみた大学が考 える重要性の意識とは異なる点である.
(3)大学からみた具体的項目の重要度と市町村から の期待の関係
ここまでは,大学が行う具体的な項目にっいて,
大学側が考える重要性の意識と市町村からの期待に っいてそれぞれ個別にみてきた.さらに,ここでは 各項目にっいて大学が考える重要性と市町村の期待 の状況を同時に把握することで,今後,大学が果た す生涯学習支援の具体的な役割について検討してみ ようと思う.
そのため,まず大学側が考える各項目の重要性の 度合いの点数化を行った.具体的には,各項目の重 要性について,「非常に重要である」「重要である」
「あまり重要ではない」「全く重要ではない」という 回答にそれぞれ3点,2点,1点,0点の点数を与 え,回答のあったサンプルごとに重要性の度合いを 表す点数を算出した.その点数のサンプル全体での 平均値を,大学が考える大学の役割の重要度とした.
一方,市町村からみた大学の役割への期待について も同様な方法で,期待の度合いを表す点数化を行っ た.すなわち,「大いに期待している」「少し期待し ている」「あまり期待していない」「全く期待してい ない」という回答にそれぞれ3点,2点,1点,0 点の点数を与え,市町村からみた各項目の期待度を 算出した,
図3は,各項目の大学が考える役割の重要度を X,市町村からみた各項目の期待度をYとして,
その分布を表したものである.X軸とY軸の交点 は2.0である.点数化の経緯から,X軸とY軸でと もに2.0より大きい領域は重要度または期待度が高 い領域,2.0より低い領域は重要度または期待度が 低い領域である.したがって,たとえば図の右上の 領域である第1象限にある項目は,大学から重要で
あると考えられており,かっ市町村からの期待も大 きいということになる.第2象限は大学側が考える 重要度は低いが市町村からの期待度は大きい領域,
第3象限は重要度も期待度も低い領域,第4象限は 重要度は高いが期待度は低い領域である.
まず,重要度も期待度も高い第1象限の項目の分 布をみてみよう(図3).この領域には全体の6割 程度の項目が分布している.この領域の中でも右上 にある項目ほど重要度も期待度も高いが,「5実践 に役立っ専門的な知識・技術を有する人材の養成」
「4幅広い教養を身にっけた人材の養成」「3人間性
22資格や免許を認定する講習を
○
実施すること
13生涯学習や教育の最新の動 向等について情報提供を行う』
2.5
26防災・環境美化等、地域の 共通課題に学生・教磁員が取り
組むこと
15自治体職員や教員の研修の
機会を大学が設けること _ ◆19公開授葉の実施(一般の方 が学部の授業を聴講できるよう
にすること)
27地域文化を全国に発信する
〜
さいの手助けをすること
と
8公開講座を市町村で行うこと 9住民向けの講演会を実施する こと
セ デ の めくボラ ら ぼにあロつす なね コ
10中学生や高校生を対象にレ 4幅広い教養を身につけた人材 た講演会やセミナーを実施する の養成
7
の のためのプロ
の グラムを醗し、撒すること
Y
一
1.5 21学部、大学院で取得できる 資格.免許を増やすこと
18学部や大学院に夜間開講の 授策を設けること
/○
綴轡雌換
16自治体職員や教員が研究員 等の形で、定期的に大学で研究 や研修を行えるようにすること
1︐5
の〆/欝灘域社会との交流
◆
㊥ 1基礎的、理論的な研究の推進
◆
2実際的、または実践に直結す る研究の推進
ゆ
6大学の研究成果をわかりやす く住民に公開すること
X
2 0 ゆ
・・ 鍛鞭轡
14生涯学習の推進に関わる相 談に対応すること
17社会人入学の足員を増やす こと
28卒叢生が仕事上の相談に訪 れることができる環境をつくる こと
2.5
25複数の大学・短大が連携し てコンソーシアムなどをつく
り、地域貢献を進めること
Xl大学が考える大学の役害1』の重要度 Y:市町村からみた大学の役割としての期待度
図3 大学が考える重要度と市町村からの期待度でみた項目の分布
豊かな人材の育成」がみられる.これらはいずれも 人材の育成に関する項目で,大学として最もその重 要性を認識し,かつ市町村からも最も期待が大きい 状況にあるといえる.また,「7公開講座の充実」
も大学が考える重要度,市町村からの期待度が全体 の中では大きい.これと同様に,「10中学生や高校 生を対象にした演奏会やセミナーを実施すること」
「11大学教職員を市町村の事業の講師や助言者とし て派遣すること」「8公開講座を市町村で行うこと」
などの学習機会提供に関わる項目もこの領域に分布 している.また,「23学生の社会貢献活動(ボラン ティア活動等)を推進すること」もみられ,大学と 市町村のそれぞれの意識が比較的高いことがわかる.
さらに,「2実践的,または実践に直結する研究の 推進」「6大学の研究成果をわかりやすく住民に公 開すること」「1基礎的,理論的な研究の推進」な ど研究とその公開に関わる項目などがみられる.特 にこの3項目の中では,前2者の大学が考える重要 度は市町村からの期待度の点数よりも大きくなって
いる.
この領域に対して,大学の考える重要度は低く,
かつ市町村からの期待は大きい第2象限では,「22 資格や免許を認定する講習を実施すること」「15自 治体職員や教員の研修の機会を大学が設けること」
など社会人の職業に関わる知識,技術等の向上に関 わる項目がみられる.
この領域とは正反対である重要度の認識は高いも のの期待が低い第4象限にみられるのは,「28卒業 生が仕事上の相談に訪ねることができる環境をっく
ること」「17社会人入学の定員を増やすこと」など 社会人が大学に関わりをもてるような環境整備に関 わる内容の項目がみられる.この第2および第4象 限は大学が考える重要度の意識と市町村による期待 度の意識のずれがみられる領域であるので,実際に 支援を行う場合はこの点を考慮しなければならない
だろう.
最後に,重要度も期待度も低い第3象限では,
「20他大学・短大との単位互換を進めること」「16 自治体職員や教員が研究員等の形で,定期的に大学 で研究や研修を行えるようにすること」などが分布
している.
(4)考察
さらに,これまでに示した大学の具体的な役割に っいての大学側の重要度と市町村からの期待度の分
析が,大学が生涯学習支援の役割を果たしていくこ とに与える意味を考えてみたい.
まず第1に,大学が果たす多様な生涯学習支援の 役割の中で,まずは大学も重要性を認識し,かつ市 町村からの期待も大きい第2象限の内容を優先的に 具体化することが,大学および市町村の双方にとっ て最も意義のあることといえる.前にも見たように,
この領域には,公開講座や中高生を対象としたセミ ナー等の直接的な生涯学習支援の項目のほか,人材 養成,研究の推進,学生の社会貢献活動に関する項 目が見られる.したがって,これらの項目にかかわ る具体的な取り組みを図っていくことが期待される が,必ずしもそれぞれ個々の項目ごとに具体策を考 えていく必要はなく,それぞれを関係づけて取り組 んでいくことの方が現実的である.例えば,実践に 直結する研究の推進を図るとともに,その成果を公 開講座やセミナーを通して広く地域の人々に理解を してもらうような取り組みが考えられる.これは,
社会貢献が第三の使命かどうかという議論とも関連 するが,研究に基づく社会貢献の典型であろう.こ のほか,実践に役立っ専門性を身にっけた人材養成 を行うことの1っとして学生の社会貢献活動を推進 すること等もある。このような関係づけはこれまで にも行われているものもあるだろうが,ここで示さ れた具体的な項目間の新たな組み合わせを考えるこ ともできるだろう.
第2は,第1象限以外の領域に分布する項目の扱 い方に関することである.第1象限以外に分布する 項目も生涯学習支援の内容であり,重要度や期待度 が高くないからといって,支援の必要がないという
ことにはならない.例えば,大学が考える重要度は 低いが市町村からの期待は高い「22資格や免許を 認定する講習を実施すること」(第2象限),重要度
は平均よりやや高いが期待はやや低い「17社会人 入学の定員を増やすこと」(第4象限)等の項目も,
生涯学習支援の内容として必要であることに変わり はない.ただし,その具体化にあたっては,程度の 差ではあるが重要度と期待度にはそれぞれちがいが あるので,それらを配慮していくことが必要であろ
う.
そのための留意点はいくっか考えられるが,それ ぞれの領域で共通することは,図の分布の仕方でい うと,できるだけ第1象限の方向に移動するような 働きかけが有効ではないかといえる.すなわち,重
要度が低ければ,重要性を意識するような環境づく りや,期待度が低ければその向上への取り組みにも 配慮していくということである,
第3は,項目の分布上の移動に関わることである.
時間を追って各項目がどのように推移していくかを 把握しながら,役割の具体化を図っていくことが求 められる.このうち,いうまでもなく期待度の推移 への配慮が特に求められるだろう.社会貢献が大学 の取り組む重要課題となっていることを考えれば,
大学に対する期待を常に把握し,例えば,期待が高 まりつつある項目があれば,それに敏感に対応して いくことが必要だと思、われる.
3生涯学習支援に向けた大学と市町村の連携の体 的方策
大学がどのような生涯学習支援の役割を果たして いくべきかにっいては,これまでのような重要度と 期待度の分析によって明らかになったが,それがす ぐに実現に結びつくものではない.一般に,生涯学
習支援の役割の実現を図るためには,財政的な整備 のほか,さまざまな環境を整える必要がある.これ は,大学と市町村との関係の中での生涯学習支援の 具体化についても同様である.ここでは,大学と市 町村が連携することで,大学の生涯学習支援が進め やすくなることから,大学と市町村の連携という点 を一例に,生涯学習支援の役割の具体化のための方 策を例示してみようと思う.
大学調査と市町村調査の中で,今後の大学と市町 村の連携で必要な条件あるいは重要な点であると思 われる11項目を取り上げて調査を行っている.図4 は,それらの項目の重要性について,市町村および 大学のそれぞれでの結果を示したものである.まず,
市町村の回答をみると,「非常に重要である」とす る比率が最も高いのは「11大学と地域が交流・連 携しようとする姿勢」で,その比率は58.0%である.
また「非常に重要」に「重要」の比率を加えた比率 が最も高いものもこの項目で,その値は96,9%にも 達している.「非常に重要」に「重要」の比率の合
11大学が地域と交流・連携しようとする盗勢 10大学と地域とが情報交換をする場や機会 1教職員の馨門分野に関する幣報 7地域貢献への教熾員の熱憲に関する構籔 8地域の実惰に対する教職員の理解度に関する情報 9問い合わせ・打ち含わせの窓口に関する情報 ま 6講節・助雷者として利用可能な日程に関する情報 ・
3講諦謝金や旅費に関する情韓 囎。
4講師・助言者として行う話の難易度に関する情報 3講節や助雷者としての経験に関する情報 席 2教職員の教育・研究のレベルに関する情報 多
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2教職員の教育・研究のレペルに関する情報 蹴鞭繍、鮎1P 4講節・助言者として行う話の難易度に関する情報 一継轍 7地域貢蹴への教織員の熱憲に開する情報 藤・』
5講師謝金や旅費に関する情報
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(%)図4 大学と地域の連携・協力のために必要なこと
計が次いで高いのは,「10大学と地域とが情報交換 をする場や機会」(90,4%),「1教職員の専門分野 に関する情報」(89.2%),「7地域貢献への教職員 の熱意に関する情報」(88.4%),「8地域の実情に 対する教職員の理解度に関する情報」(88.4%)等 である.
一方,大学の回答では,「11大学と地域が交流・
連携しようとする姿勢」を「非常に重要」と考える 比率は63。0%で最も高い.しかし,「非常に重要」
と「重要」を加えた比率でみると,「10大学と地域 とが情報交換をする場や機会」が最も高く,その比 率は98.0%になっている.「1教職員の専門分野に 関する情報」(97.9%)はこれに次ぐ項目で,その 後は「11大学と地域が交流・連携しようとする姿 勢」(97.0%),「9問い合わせ・打ち合わせの窓口
に関する情報」(95.0%)などが続いている.
さらに,大学の役割についてみたときと同様に,
これらの項目の重要性の度合いを点数化し,市町村
と大学の意識の比較を試みようと思う。「非常に重 要」「重要」「あまり重要でない」「重要でない」の 回答にそれぞれ3点,2点,1点,0点を与え,回 答のあったサンプルごとの点数を求め,その平均を 市町村の場合と大学の場合とでそれぞれ求めた.そ の結果をグラフに示したのが図5である.
第1象限は,大学も市町村も重要であると考える 度合いの高い領域である.「11大学と地域が交流・
連携しようとする姿勢」は双方において重要性の度 合いは高い,また,「8教職員が地域の実情をどれ だけ理解しているかに関する情報」「1教職員の専 門分野に関する情報」などの教職員に関する情報に 関わる項目,それに「10大学と地域とが情報交換 をする場や機会」「9問い合わせ・打ち合わせの窓 口に関する情報」などがみられる.
第2象限は大学が考える重要性は低く,かつ市町 村の重要性の意識が高い領域である.ここにみられ
る項目は,「6講師・助言者として利用可能な日程
lY
器糠蕎騨磯O
l a51
ま ぎがルぷとダ ロ ぱし ようとする
織講篇て行う鴨
7教職員が地域貢隊に熱慰があ るかどうかに関する情報
◆
5講師謝金や旅費に関する情報
○
1.0
1,5
3講師や助言者としての経験10 関する情報
略o
2)教鐵貴の教育・研窒のレベ◆
ルに関する情報
1,5
10大学と地域とが情報交換を
8教職黄が地域の実情をどれだ する場や機会 ○ け しているかに するゆ
臨画へ
蕃教職員の専門分野に関する情
4 報よ
zO 2,5 X
X=大学が考える重要性の度含 Y:市町村が考える麓要性の度合
図5 大学と市町村の連携協力に必要(または重要)な項目の分布
に関する情報」r7教職員が地域貢献に熱意がある かどうかに関する情報」「4講師・助言者として行
う話の難易度に関する情報」「5講師謝金や旅費に 関する情報」「3講師や助言者としての経験に関す る情報」である.これらはいずれも市町村が大学教 員を市町村の生涯学習事業に講師として招贈する際 に必要な具体的な項目である.市町村の意識の高さ に対して大学側の意識が低いことに留意する必要が あるだろう.
最後に,第4象限に分布する項目はなく,大学に おいても市町村においても重要性の意識がともに低 いのが「2教職員の教育・研究のレベルに関する情 報」である.
おわりに
大学と市町村の連携を図るためには,単に一方の 期待のみに着目して対応することには目ずと限界が ある.っまり,大学が一方的に市町村の期待や要望 を受け入れることには無理があるということである.
それを克服するためには,市町村との連携における 大学の主体性や大学が重要であると考えること,大 学だからできることや大学しかできないことといっ た大学固有の役割や大学の独自性などを考え合わせ た検討がなされるべきであろう.その意味で,本稿 においては,大学と市町村の大学の役割や連携のた めの環境整備にっいての意識の比較を行ったことは,
今後の連携の在り方を考える上で1っの材料を提示 できたと考えている.
その一方で,多くの課題も残されている.それは,
例えば,ここで得られた結果をどのように具体化す るかに関わる課題とともに,調査そのものに関わる 課題や調査結果の更なる分析に関わる課題がある.
例えば,今回利用した大学調査の調査対象は大学の 生涯学習担当部局職員であった.大学で生涯学習に 関する業務を担当する職員は,全般的に他の職員よ りも生涯学習支援にっいての意識が高いことが予想 される.今回の調査結果はそのような前提で解釈を しなければならない.大学職員の中でも,例えば学 長や理事など大学の経営にかかわる人が調査対象で あれば,生涯学習支援への意識も当然異なるであろ う.また,一般の教職員でもその意識には大きな開 きがある.本研究で示した大学側の意識というのは,
まだ限られた職員の意識によるものであり,これが 大学の総意ということではない.同じことは市町村
調査にも言えることである.そのような意味で,こ こでの調査は限られた範囲によるものなので,調査 対象を広げた検討をしていくことが必要である.
また,調査結果の分析についても,大学の設置者
(国立大学法人,公立,私立等),所在地,学部の種 類や数などによって意識に違いがみられるだろう.
このような点にっいてもより深い検討が必要である.
注
1) 本稿は,平成15年度文部科学省研究委託事業 「生涯学習推進のための地域政策の調査研究」の 一環として,全国生涯学習市町村協議会が受託し て行った「大学と地域の連携によるまちづくりの あり方に関する調査研究」の成果をまとめた報告 書の一部(原2005)を加筆修正したものである.
2) 社会貢献を大学の「第三の使命」することは,
社会貢献が大学の役割の一っであることを明示す る意味において意義があるが,「第三の使命」と 言うことで大学の役割に順位付けを行い,却って 本来的な役割である教育と研究を重視し,社会貢 献はそれに次ぐ「第三の使命」と認識することに もっながりかねない.これに対して,大学の研究 と教育の役割が社会から大学に付託されたもので あるとすると,大学が地域社会に貢献するという ことは「第三の使命」ではなく,もともと大学の 研究と教育という役割に内在している(伊藤 2001)とする考え方がある.このように考えれば,
社会貢献は,研究および教育と別個のものではな く,教育と研究を通じて行われるもの,あるいは その延長線上にあるものということになる.その ような考え方に基づいて社会貢献の必要性を示す 方が,実際に大学の社会貢献が推進すると考える こともできる.
3) このことが,大学によっては,生涯学習支援の 必要性を感じながらも実際に取り組めないでいる こと,あるいは,生涯学習支援に取り組んではい るものの地域からの期待に十分に応えられていな いことなどの理由の1っとなっていると考えられ
る.
4) 調査の概要は次の通りである.大学調査にっい ては,対象:全国の大学・短期大学の生涯学習担 当部局職員,サンプリング方法とサンプル数:生 涯学習担当部局をもっ大学・短期大学の中から国 立大学を中心に167校を抽出,調査方法:郵送法,
調査時期:2004年3月,回収数:104,回収率
(有効回収率):62。3%(62.3%).市町村調査は,
全国生涯学習市町村協議会加盟の市町村(退会市 町村も含む)を対象とした全数調査で,配付数:
220,調査方法:郵送法,調査時期:2004年3月,
回収数:160,回収率(有効回収率):72.7%(72,7
%).
引用・参考文献
伊藤彰男(2001)「開かれた大学づくりと知の創発」,
文部省生涯学習政策局,三重大学『第12回大学開 放の在り方に関する研究会 第6回生涯学習実務
者会議 報告書』,pp.23−29.
上條秀元,原義彦(2000)r提言1宮崎大学と地域 との連携方策とその可能性」,宮崎大学生涯学習 教育研究センター『調査研究報告書 宮崎大学へ の期待と今後の地域との連携方策にっいて』,pp.
40−45.
原義彦(1999)r大学が行う生涯学習支援の要因分 析一大学教員の公開講座,学外での講演への関 わりを中心として一」,宮崎大学生涯学習教育研 究センター『生涯学習研究』第4号,pp.25−38.
原義彦(2005)「市町村と大学との連携についての 意識及び連携のための課題〜市町村と大学の意識 調査を通じて〜」,文部科学省生涯学習政策局 rr生涯学習推進のための地域政策の調査研究」報 告大学と地域の連携によるまちづくりのあり方
について』,pp.25−32。
Summary
The present paper examines what university can offer to the community in the field of the support of lifelong learning.It is normal that there are differences between what the commu.
nity expects university to offer an(l what univer−
sity regards as important to offer to the community.The greatest effect will conceivably be brought about by clarifying what the commu.
nity expects university to offer but university is not aware of.The results of the research showed that what the community expects of the university included the offering of a greater variety of open courses to the community,the PrOvision of instructions to junior an(l senior high school stu(lents,the participation of the faculty in various programs that are run by the community,and the students activities for the community It is also reported the areas where there was a gap in perception between university
and the community.The paper concludes by
arg・uing that the key to success is the willingness to cooperate of both parties.
Key Words:Support of Lifelong Leaming,
University,Community,Cooperation
(Receive〔l Jεlnuary23,2006)