ドイッと欧州共同体を比較して
古 屋 等
1 問題設定 られている。さらに,指令が各構成国の国内法に よる置き換えを必要とする点をも考慮するならば,
欧州共同体を定める三共同体設立条約,単一欧 共同体法の実現はひとえに構成国にかかっている 州議定書,マーストリヒト条約,そしてアムステ ということができよう(3)。
ルダム条約の締結にいたる一連の過程において, このうち共同体法の執行は委員会によっても行 欧州は資源の共同管理から経済通貨統合へ,さら われるが,そのような共同体による直接執行はむ には共通外交・安全保障,司法・内務協力など, しろ例外をなしており,共同体法の実現は,もっ 政治的な統合に向けた際限のない統合をとげつつ ばら構成国の行政機関による間接執行を通じて行 ある。さらに,東欧諸国との公式な加盟交渉を問 われる。またこれに対する監督権限も,委員会に 近に控えて,欧州は地域的にも,欧州連合として ごく限定された範囲において認められているにす の実質を確立しつつある。そのような中にあって, ぎない。さらに,組織的にも,各加盟国の行政機 欧州連合はどこまで権限を広げるのか,すなわち 関の自立性が認められており,いかなる機関によっ 加盟国の主権はどこまで留保されるべきか,また て処理されるべきかは,各国内法において定めら 最終的には連邦国家をめざすのかなど,統合の将 れた行政機関の構成の別に応じて,国ごとに異な 来には解決されるべき根本的な問題が残されてい ることになる。したがって,このような共同体と る( )。 構成国の間での執行権限の分離,ならびに,その 欧州連合を連邦国家とみるか国家連合とみるか, 処理にあたる組織(機関)の分立は,共同体の任 その法的性質をめぐってはさまざまな議論が存在 務の実現に障害ともなりうるのであって,そのた しているが(2),その権能についてみる限り,欧 め,その一体的かつ効率的な処理のために,行政 州連合は基本条約で定められた固有の目的に関し 機関相互の連絡・調整・協力が必要とされなけれ てのみ権限を有することは明らかである。欧州共 ばならない。行政機関相互の協働(Zusammenar一 同体についていえば,共同体は,EC条約によっ beit)が必要とされる理由がここにある(4>。
て与えられた権限および目的の範囲内で行動し, このような協働には,委員会と構成国の行政機 その任務の遂行のために設置された欧州議会,理 関との垂直的協力のみならず,構成国の行政機関 事会,委員会(Kommission)などの諸機関は, 相互間での水平的協力が含まれる。また内容的に
この条約により与えられた権限の範囲内で行動す も,職務の遂行に必要な行政情報の提供から,職 る(EC条約5条,7条)。このうちECレベルで 務遂行に際しての支援・補助などきわめて多岐に の立法は,共同体の任務の多様化・拡大に伴って わたっている。しかし基本条約には,そのための 大量化しており,規則(Verordnung),指令 一般的包括的な規定を欠いており,特定の領域に
(Ri6htlinie)などの定立を通じて,共通の法域 限定して,また,規則や指令を通じて個別的に定 の形成に大きな役割を果たしている。これに対し められているにすぎない。したがって,行政上の て,法執行の任務はもっぱら共同体構成国に委ね 協働のための要件と手続を詳細に定立する必要に
迫られているということができる。この点に関し 的な共同体の原理を通じて考察することができる て参考にしうる制度として,ドイッの基本法35条 と考えられるのであって,また協力関係の分析と に定められた職務共助(Amtshilfe)の制度をあ 検討を通じて,ドイツにおける職務共助の概念的 げることができる。これは,ドイツの連邦制的国 な内容を,欧州共同体におけるそれに生かすこと 家構造に基づく連邦とラント,ならびに,ラント ができるように思われる。そこで本稿では,以上 相互間での執行権の分立に由来する制度であると のような考察のための予備的な準備として,全体 いうことができ,連邦領域における行政機能の一 的な問題の概略のみをあげるにとどめたい。
体的な行使を確保するために必要な官庁(Beho一
rde)相互の協力義務が,行政手続法4条以下に H 連邦国家におけるラントの国家性 規定されている㈲。
ドイツにおける協働的な連邦国家を推進するた 基本法は20条1項において,ドイツ連邦共和国 めの基盤は,職務共助制度にのみ求められるもの は,民主的かつ社会的な連邦国家であると規定す ではなく,そのほかにも連邦とラントの自立性を る。ここで連邦国家とは,国家全体としての連邦 尊重しつつ,その協調的な行政体制を推進する制 が,個別のラントを包括する国家であり,連邦を 度は多く存在する。また職務共助の概念自体,行 構成する個々のラントも国家として,国家的な属 政機関の相互関係を規律する原理のうち,ごく限 性を有するところに特色がある。そのような国家 定された要件の下で認められる補完的な協力,援 性は,ラントが連邦と同様に国家の基礎法として 助関係を示す概念にすぎず,全体的な協力関係を 独自の憲法を有し,その統治の組織および権限に 包括する概念ということはできない。したがって, ついて別個の規定をなしうる点に存する。したがっ
「協力」(Kooperation)それ自体の概念分析と法 て立法,行政および司法にわたって,ラントは固 的性質の考察が必要とされるものの,欧州共同体 有の組織と権限を有することになるのであって,
での行政機関の協力関係を説明するにあたって, このような連邦国家制の中核は,ラントが固有の ドイツの法学者たちの多くは職務共助の概念を用 「権能」(Kompetenz)をもつところに最大の特 いて行う傾向にあることが注目されてよい(6)。 色があるということになる(8>。
したがって,行政上の協働を支配する憲法上の指 ただし,ラントは連邦との間で国家全体として 導原理の考察を通じて,全体としての協力関係の の権力を分かっており,したがって水平的な分立 あり方を包括的に検討することができると解され のみならず,垂直的な権力分立が行われている点 るのである。 に特色がある。このような分立は基本法では,立 この点に関して,ドイツの連邦国家体制を支え 法権については70条において,執行権については る行動の指針として,「連邦誠実」(Bundestreue) 83条において,裁判権については92条において規 もしくは「連邦友好的な行動の原則」(der Grund一 定されている。しかしこのような権限規定に際し satz bundesfreundlichen Verhaltens),あるい て,基本法30条の規定が大きな役割を果たしてお は忠実な協働(Loyale Zusammenarbeit)をあ り,「国家の権限の行使および国家の任務の遂行 げることができるσ}。この原理は基本法に明示 は,この基本法が特段の定めをなさず,または許 的に規定されているわけではないが,連邦憲法裁 していない限りにおいて,ラントの責務」である。
判所の判決を通じてその内容を具体化されてきて この規定は国家権力の配分の判定において,ラン おり,またこれに対応する内容を,欧州共同体で トの推定(優位性)を導く規定であると解されて は,その基本条約の10条に求めることができると いる(9)。
されている。したがって,連邦制的な国家構造下 このうち,立法権については連邦に重心が置か における行政の協働のあり方を,このような友好 れており,ラントは,この基本法が連邦に立法の
権限を付与していない限度において,立法権を有 行う場合には,連邦法が連邦参議院の同意をえて している(70条1項)。この領域に関しては,基 別段の定めをしていない限り,その遂行にあたる 本法は連邦の専属的立法権(73条),ラントによ 官庁の組織および行政手続を定めるのはラントの
る権限の行使を連邦による立法権が行使されてい 権限とされており(84条1項),また連邦委任行L ない場合に限定する競合的立法権(74条,74条a), 政の場合にも,同様の要件の下に別段の定めのな および連邦の大綱的立法権(75条)によって,ラ い限り,官庁の組織を定めることはラントの事務
ントの権限は大幅に制限されている。また,ラン とされている(85条1項)。したがって,「行政」
トの立法権に関しても,対外的な外交権を有する の概念には単なる法律の適用のみならず,その処 連邦による欧州共同体における立法行為により, 理にあたる組織上,あるいは手続上の自律権が含
ラントの権限を侵害する場合があり,この点に関 まれているのであり,ラントはその事務の遂行に しては新たに設けられた基本法23条により,ラン 際して,自らこれにあたる場合のほか,これをゲ トへの一定の配慮がなされており,また共同体で マインデあるいは公法上の団体,または私法的に の地域委員会(der Ausschu B der Regionen) 遂行する自由を認められているとされる(13)。
の設立(263条)など,ラントの主張を実現した
諸策が施されている(1°)。 皿 連邦国家における法律の執行 一方でドイッにおける行政は,ラントに重心が
置かれており,ラントは,この基本法が別段の定 このようにドイツの連邦国家制の下における行 めをなし,または別段のことを許していない限度 政は,連邦上の全体的な利害を連邦が法律で統合 において,その固有の事務として連邦法律を執行 的に規律する一方で,その具体的な執行は,その する(83条)。すなわち,ラントはその固有の立 任務にあたる組織を含めてラントに委ねられてお 法権に基づくラント法を執行する任務のみならず, り,このようなラントを中心とした執行権の行使 連邦法をも執行する任務を課せられているのであ (ラントの執行権の推定の原理)は,ドイッの連 り,連邦固有の行政は,基本法87条以下に定めら 邦制的国家構造を支える基礎として,基本法の変 れた外交,連邦財政,連邦水路行政,海運行政, 更によっても変更することは許されない(20条3 連邦郵便,連邦国防軍,連邦国境警備隊などに限 項,79条3項)。したがって,連邦法の実効性は 定されている。したがって,ラントには広範な執 ラントによる運用にかかっているわけであるが,
行権が認められているのあって,連邦法を固有の 連邦はラントに対して強力な指揮監督権を有する 事務として執行する場合のほか,連邦の委任によ わけではない。なぜなら,連邦とラントはそれぞ り連邦法を執行する場合が含まれている。後者に れ対等な国家であって,両者の上下関係を認める は,連邦高速道路行政,連邦道路行政,空港建設 ことはできないのみならず,それぞれ固有の憲法 許可を含む航空行政,原子力発電所または核燃料 に基づく組織と権限を有するところから,相互の 再処理工場の認可を含む原子力エネルギー行政な 自立(律)性が最大限に尊重される必要があるか どがあてはまる(1 )。 らである⑯。しかしながら,このような権力の
連邦法を固有の事務として執行する場合,連邦 垂直的分立に基づく国家機能の不全が回避される の委任により執行する場合ともに,連邦はラント 必要は当然あることはいうまでもない。そのため に対して監督権を有しているが,連邦委任行政の に,行政上の国家的な一体性を確保するため,あ 場合には,連邦の監督は執行の合法性と合目的性 るいは,ドイツの連邦制的国家構造を維持する上 の審査に及ぶのに対して(85条4項),固有の事 で必要ないくつかの手だてが施されている。基本 務の場合には合目的性の審査に限定されてい 法35条において定められた職務共助(Amtshilfe)
る(12)。またその執行について,固有事務として の制度がそれである。
同条1項によれば,連邦およびラントのすべて は相手方が連邦官庁であるとラントの官庁である の官庁(Beh6rde)は,相互に法的援助(Rechts一 とを問わない。したがって,複数の官庁が共通の hilfe)および職務上の援助(Amtshilfe)を行う 目的のために協力するというイメージからは乖離 義務を有する。本条にいう官庁には裁判所も含ま することになるが,この制度は,前述したドイッ れるところから,執行権を行使する行政官庁に関 の連邦制的構造に基づく国家権力の分離,とりわ しては,もっぱら職務共助が問題になることにな けラント領域における行政の地域的分離に基づく る。また2項および3項では,いわゆる災害援助 弊害を除去するために不可欠の制度とされてい
(Katastrophenhilfe)に関して,ラント警察と連 る(17)。
邦国境警備隊との協働を定めている。警察行政は このような職務共助の内容は,ドイッの連邦国 ラントの固有事務として最も典型的な例であるが, 家制を強く反映したものとなっている。まず職務 とりわけ公共の安全および秩序の維持,ならびに, 共助は,官庁による「要請」に基づいて提供され 自然災害または災厄事故に関しては,連邦全体と ることを要件とする。要請によらずに提供される しての一体的な活動が必要とされるところから, 援助は自発的援助(Spontanshilfe)として区別 連邦とラント,あるいはラント相互間における支 がなされている。職務共助は同一ラント内の官庁 援関係が定められたものである。欧州のレベルに 間においても提供されるため,この点に関しては おいても,欧州連合条約にいたって,構成国にお 除外するとしても,連邦とラント間,あるいはラ ける司法および警察に関する内部協力に関する規 ント相互間においてなされる場合に,要請を前提 定が設けられ,欧州の統一的な活動の強化を目的 とするということは,それぞれの自立性を尊重し として,アムステルダム条約によってその内容の た結果であるということができる。また,職務共 強化策が施されたことは周知の通りである(15)。 助が,それぞれの官庁の権限や管轄を前提とし,
ただし,基本法35条2項,3項の定める警察に その変更をもたらすものではないということ,す おける協力は,行政の執行における事実上の援助 なわち他のラント等の職域に,あるラント官庁の について規定したものであり,警察援助あるいは 権能が拡大するわけではないという職務共助の特 執行援助として,職務共助とは明確な区別がなさ 質,および,要請を受けた官庁より提供される補 れている。すなわち職務共助は,基本法35条1項 助的な援助については,当然に当該官庁の管轄お により,とりわけ行政手続法4条以下において, よび権限を前提とし,その補助的な行為の部分に その基本的な内容と要件が具体化されているので ついてはこの官庁が責任を負うという責任分担に あるが,その概念として,一方の官庁の法的行為 関しても,それぞれの自立性に対する配慮がなさ を完成させるために提供される,他の官庁による れた結果であると考えられる。すなわち,要請を 補完的な援助とされている(16)。したがって,手 受けた官庁は,要請をなした官庁のために活動す 続の主体に変更はもたらさないのであって,基本 るのであるが,組織的あるいは手続的に,要請し 手続を遂行する官庁は,同時に最終的な責任主体 た官庁に組み入れられるわけではない。要請を受 であり,行政処分を行う事前の段階において,法 けた部分に限って,固有の権限と責任のもとに手 律上(管轄の欠如)あるいは事実上(人員・施設 続が行われるからである(18)。
の不足)の理由に基づく処分の不能を回避するた このように考察してみると,職務共助が必要と めに,その要請に基づいて,職務共助の提供を受 される憲法上の根拠として,明示的な規定はない ける権限が認められている。当然に他の官庁から が,連邦憲法裁判所の判決を通じて導かれた「連 要請を受けた場合には,その職務の不全あるいは 邦誠実」(Bundestreue)の原理と,これと結び 地域の福祉に重大な影響がもたらされない限り, ついた「連邦友好的な行動の原理」(der Grund一 職務共助を提供する義務を負うのであって,これ satz bundesfreundlichen Verhaltens)をあげる
ことができる。ここで連邦誠実とは,連邦的な国 互間における水平的な協力(連携・調整)は不可 家体制における権力の垂直的・水平的分立を前提 欠である。とくに法律の執行に関しては,その主 として,連邦およびラント,ならびにラント相互 体性はラントに依存される以上,連邦国家として 間において,友好的な(連邦)共同体として行動 の一体性を確保するために,職務上の協力は欠く する義務をそれぞれが有し,その権限や,場合に ことができないものとなる。とりわけ,後述する よっては財源を他の団体の利益に配慮して行使す ように,欧州の共同体法の執行に関しても,ラン べきことを内容とする原理である(19)。したがっ トの権限が問題になるところから,以上のような て,まず,連邦制的な紐帯への悪害を回避するた 協力関係はより問題とされるといえよう。
めに,その権限の行使に一定の制限が内在すると
いうことを内容とする。しかしこのような消極的 IV 欧州共同体における行政の協働関係 な限界のみならず,より積極的な,同盟的な関係
の維持のための行動の指標も内容としており,均 欧州共同体は基本条約に定められた範囲に限っ 等取扱いの義務のほか,相互に意思を疎通させ, て,構成国から主権の委譲を受けた制限的な権能 この義務の形成のために発せられた法律を維持し, のみを有する共同体である(EC条約5条)。そ 誠実に執行する義務も含まれる。 の専属的な権能に属しない分野に関しては,措置
したがって,連邦は基本法によって認められた の目的が構成国によっては十分に達成されず,規 その権能を行使するに際して,ラントの利害に配 模や効果からみて共同体による方がよりよく達成 慮する必要があり,またラントは,連邦法その他 できる場合に限って,共同体により必要な措置が の執行に際しても,連邦全体の利益を十分に発揮 執られる補完性の原則の適用がある。そこで,E するように配慮する義務を有する。その際に相互 C条約2条ならびに3条に基づいて,個別の条項 の意思疎通は,たとえば協議・交渉といった意見 で定められた特定の領域(たとえば農業,自由移 の交換による調整を通じて行われ,その具体的な 動,経済・通貨政策など)に関して,欧州共同体 例は,基本法23条に定められたラントの立法権に の使命を実現するために,理事会を中心として必 影響を及ぼす欧州の立法に際して,連邦政府によっ 要な立法措置がなされており,それは規則,指令 て行われる連邦参議院を通じた調整にあらわれて といった形で実現されている。このような共同体 いる。また,基本法32条2項および3項において の立法は,その統一の進展に伴って,量および質 定められた外交関係の処理に関する連邦およびラ ともに拡大・深化の途上にある。ただし,指令に ントの連携(条約締結に際してのラントの意見聴 関しては,構成国の国内法による置き換えを必要 取,および,連邦政府の同意に基づくラントの条 とするところから,とくにドイッでは,その立法 約締結)もこれに属するものである伽)。 権の所在をめぐって,連邦かラントか解釈上の問
このような連邦誠実,友好的な連邦国家の原理 題がある(21)。
による協力的な連邦国家を形成するために,基本 一方で,その具体的な執行に関しては,共同体 法では以上のような意思の疎通による相互の連絡・ の行政をつかさどる委員会の権能は限定されてお 調整のほか,積極的な相互支援・協力義務として, り,この機関は,共同体内部の組織・人員・財源 35条の法的援助,職務共助や災害援助,91条の警 の管理を除いては,対外的な執行権を認められた 察援助のほかに,相互の共通の任務として,連邦 領域はきわめて限定されている。すなわち,競争 全体の福祉の向上のための共同任務が91条a以下 法の領域に属する分野や,農業,移動,通商政策 に定められている。したがって,連邦制の下にお における個別措置に関して直接執行の権限を与え ける国家全体の機能性を確保するうえで,連邦お られているものの,その任務の大半が,構成国の よびラント間における垂直的,ならびにラント相 行政によって行われる間接執行の形態がとられて
いる(22)。したがって,共同体法の目的の実現は る(85条1項)。すわなち,EC条約81条および ひとえに構成国にかかっており,その政府以下の 82条では,構成国における競争阻害行為の禁止,
行政機関によって適切に処理されなければならな 支配的地位の濫用禁止の定めが置かれているが,
い。その場合,共同体法の執行にあたる組織およ 委員会はこれらの適用を確保するために,以上に び手続の定立権は構成国に認められている。そこ 違反すると推測される事実を,構成国の所轄の機 で,委員会としては,共同体法運用の実効性確保 関と連絡して調査を行う権限が認められている。
のために何らかのコントロールを必要とするが, したがってこの場合は,法の実効性を確保するた しかし,拘束力のある一般的あるいは特殊の指揮 めに,委員会による調査と構成国による情報提供 権はこれに認められていない㈱。 が行われることになるが,このような調査は構成
このような共同体法の執行にかかわる加盟国の 国の要請に基づく場合のほか,委員会が職務とし 自立性に基づく弊害を除去し,構成国間における て行う場合が含まれている。よって,狭義の職務 その一元的な執行と,統一的な運用を確保するた 共助の概念からは外れる場合も存在するが,行政 めに,欧州司法裁判所によって展開された指導原 上の協働のシステムとして重要な役割を果たして 理である,差別取扱いの禁止と効率性の要請の適 いる(26)。
用がある。すなわち構成国は,共同体法を自国法 また,構成国間の水平的協力を定めた指令とし と区別することなく,同様の慎重性をもって実施 て,費用,農産物輸出入関税(Abschopfungen)
する義務を有する。また,共同体法が現実に不可 および関税の徴収に際しての相互支援について定 能になるような自国法の適用を行ってはならず, めた1976年3月15日の指令(Richtlinie 76/308 共同体の利益が十分に配慮されなければならな /EWG),直接税および付加価値税の分野での構 い團。ただし,これらはあくまで構成国内部に 成国の所轄官庁相互間での職務共助について定め おける共同体法の実施の実効性を確保するための た1977年12月19日の指令(Richtlinie 77/799/
要請であって,構成国を超えた共同体法の一体的 EWG)をあげることができる⑳。これらは,こ な適用・運用のためには,より積極的な行動のた れまでに何度か修正を経ているが,前者は官庁相 めの指針が必要とされなければならない。 互の徴収義務を,後者は指令に列挙された税の確 そこで,このような欧州共同体の連邦制的構造 定に必要な情報提供を,所轄の官庁に命じること に基づく行政機能の一体性を確保するために,基 を本質としている点において変更はない。ただし 本条約ならびに各種の規則および指令を通じて, 前者は,ドイッ行政法でいう執行援助に類似し,
きわめて個別的にではあるが,委員会ならびに構 また後者は要請に基づかない自発的な,むしろ自 成国間における協働の定めが置かれている。それ 動的な情報提供を定めている点において職務共助
らは,行われる形態の面において,まず,委員会 とは区別されることになる。ただしこの分野は,
と構成国の間で行われる垂直的協力,構成国の行 欧州共同体職務共助法(EG−Amtshilfegesetz)
政機関相互の間で行われる水平的協力に分類する として国内法に具体化されており,情報提供の限 ことができ,さらに時間的な点において,継続的 界ならびに要請の拒否に関する手続が定められて 協力と単発的協力に分けることができる。またそ いることが注目される囲。
の対象は,日常的な職務上知り得た情報の提供か
ら,証明書または基礎データの伝達,行政行為の V 今後の検討課題 発布や徴収の実施,事案の調査や監視など広範に
わたっている㈱。 以上の考察から明らかなように,欧州共同体に このうち代表的なものとして,まず基本条約に おける行政上の協働がすべて職務共助の概念によっ 定められた委員会による調査をあげることができ て理解できるわけではない。むしろその範囲を超
えて,全体的な共通目的の実現のために採られる 像を練る時がきた」),田中俊郎rEU拡大の見通 あらゆる手段を含むように考えられる。ただし, し」および中西優美子rEU機構改革の見通し」
以上の問題を職務共助として,あるいは行政上の 『海外事情』(2000年11月)2頁および13頁以下。
協働として取り扱う論者は,その根拠をEC条約 (2)この点に関して,戸田典子rEC統合とドイッの の10条に求めていることが注目されてよい(29)。 連邦制一地域主義への展望」レファレンス497号 本条は,この条約または共同体の機関の行為に基 (1992年)6頁以下,山根裕子『新版EU/EC法一 つく義務の遂行を確保するために,各構成国が, 欧州連合の基礎』(有信堂・1995年)9頁,岡田俊 一般的または特別のすべての適切な措置をとり, 幸「ドイッ連邦憲法裁判所のマーストリヒト判決」
かつ共同体の任務の達成を容易にすべきことを定 石川明・櫻井雅夫編rEUの法的課題』(慶磨義塾 めている。この規定は必ずしも構成国の所轄官庁 大学出版会・1999年)193頁以下,Bernd の行動に対する明確な基準を与えるものではない Martenczuk, Die differnzierte Integration が,欧州司法裁判所の判決を通じて,構成国にお und die fδderale Struktur der Europaischen ける共同体法の差別的取扱いの禁止とならんで, Union, Europarecht 2000, S.355;Ingolf per一 欧州共同体の機関に対する支援義務が明らかにさ nlce, Europaische Union:Gefahr oder れているという。したがって,垂直的な協力のみ Chance ft[r den Foderalismus in Deutsch一 の根拠であり,水平的な協力についてはさらに別 1and, Osterreich und der Schweiz?, DVBl の理由が必要とされると主張する論者も存在する 1993,S.920.
が(3°〉,この10条の規定は,欧州共同体における (3)EU(EC)法に関する一般的な概説として,デ 機関と構成国との間の友好的な協力関係を支配す イヴィッド・エドワード/ロバート・レイン著
る「共同体誠実」(Gemeinschaftstreue)を表す 庄司克宏訳『EU法の手引き』(国際書院・1998年),
規定であると解されている。 広岡隆『欧州統合の法秩序と司法統制』(ミネルヴァ したがって,欧州連合を連邦国家制への過渡期 書房・1998年),岡村発『ヨーロッパ法』(三省堂・
と想定するならば,このような国家構造を支配す 2001年),石川敏行「ドイッ法」比較法研究54巻 る基本原則として,ドイツ基本法20条を通じて確 (1992年)23頁以下参照。
立されている連邦誠実,友好的な連邦国家の原理 (4)Eberhard Schmidt−A B mann, Strukturen と比較することが可能であり,その分析を通じて, des Europaischen Verwaltungsrechts:Eiル ドイツにおける行政上の協働関係の理論を欧州共 leitende Proble、nskizze, in:Schmidt.ABmann 同体レベルへ反映させ,またその協働の形態を, /Hoffman匪Riem(Hrsg.),Strukturen des
ドイツの職務共助を中心とした協力関係と比較し Europaischen Verwaltungsrechts,1999, S.10;
て分類できるように思われる(31)。また共助の対 ders, Verwaltungskooperation und Verwa1一 象の多くが欧州のレベルでも情報の提供であるこ tungskooperationsrecht in der Europa1schen とを鑑みるならば(EC条約284条),ドイツの行 Gemeischaft, Europarecht 1996, S.270;
政手続法4条以下にならって,その要件と限界を Magiera, Die Durchsetung des Gemeinsch撫 個人情報保護と関連づけて体系化できるように思 ftsrechts im europalschen Integrati・nsproze一 われる。以上のような構想の下に,連邦国家にお B,DOV 1988, S.173ff.;Danwitz, Die Eigen一 ける行政上の協働関係について,今後検討を進め verantwortung der Mitgliedstaaten fOr die ていきたいと考えている。 DurchfUhrung von Gemeinschaftsrecht,
DVB11998, S.421ff..
注 (5)Josef Isensee, Idee und Gestalt des F6dera一
(1)朝日新聞2001年8月20日(月)朝刊社説(「未来 lismus im Grundgesetz u。脳Walter Rudolf,
Kooperation im旦undesstaat, in:Josef Isen一 るのを原則とする(山田晟『ドイッ法概論1(第 see/Paul Kirchhof(Hrsg.),Handbuch 3版)』(有斐閣・1985年)71頁)。山本佐門「ド des Staatsrechts der Bundesrepublik Deutsch一 イツ連邦制の特色と課題」北海学園大学法学研究 land Band IV,1990, S.517ff. u. S.1091ff.; 36巻3号(2001年)171頁以下, Mangoldt/Klein Bernhard Schlink, Die Amtshilfe,1982,62ff.; /Starck, aa.0., S.805ff.(v. Wolfgang
Klaus Wesse1, Verfassungs−und verfahrens− Marz);Horst Dreier, a.a.0., S.585ff.(v.
rechtliche Probleme der Alntshilfe im Bun− Ingolf Pernice);Michael Sachs, a.a.0,, S.
desstaat,1983, S.69ff.拙稿「行政機関相互の協 988ff.(v. Wilfied Erbguth);Schmidt−Bleib一 力関係一ドイツ行政手続法(VwVfG)における treu/Franz Klein, a.a.O., S.662ff.(v. Brock一 職務共助(Amtshife)をめぐって一」茨城大学人 meyer);Karl−Heinz Seifert/Dieter H6mig,
文学部紀要社会科学論集31号(1998年)83頁以下, a.a.O., S.212ff。(v. H6mig).
ならびに,同「職務共助の要件と情報提供の限界」 (10)岡田俊幸「ドイツ憲法の〈ヨーロッパ〉条項一 同32号(1999年)123頁以下参照。 基本法第23条をめぐって」前掲『EUの法的課題』
(6) Mangoldt/Klein/Starck, Das Bonner 129頁以下,戸田・前掲「EC統合とドイッの連邦 Grundgesetz Band 24.Aufl.,2000, S.1170(v. 制」6頁以下, Mangoldt/Klein/Starck, a.
Thomas von Danwitz);Gert Meier, Euro− a.0., S.426ff.(v. Claus Dieter Classen);
paische Amtshilfe −Ein StUtzpfeiler des Horst Dreier, a.a.0., S.325ff.(v. Pernice);
Europaischen Binnenmarktes−, Europarecht Michael Sachs, a.a.O., S.864ff.(v. Rudolf 1989,S.237ff.;Wolfgang Hoffmann−Riem, Streinz);Schmidt−Bleibtreu/Franz Klein,
Strukturen des Europaischen Verwaltungs− a.a.0., S.579ff.(v. Brockmeyer).
rechts−Perspektiven der Systembildung, in: (11)山田・前掲書74頁,戸田・前掲「西ドイッにお Schmidt−ABmann/Hoffmann−Riem(Hrsg.), ける連邦制」63頁, Willi Bluemel, Verwaltun一 Strukturen des Europaischen Verwaltungs− gszustandigkeit, in:Handbuch des Staatsre一
rechts,1999, S.356. chts, S.857ff..
(7)本稿皿以下参照。 (12)戸田・前掲「西ドイツにおける連邦制」63頁。
(8)戸田典子「西ドイツにおける連邦制」レファレ (13) ドイツ連邦共和国基本法における「行政」の概 ンス455号(1988年)51頁以下,Mangoldt/Klein 念について, Mangoldt/Klein/Starck, Das
/Starck, a.a,0.,S.15;Horst Dreier(Hrsg.), Bonner Grundgesetz Komrnentar Band 34.
Grundgesetz I(ommentar Band II,1998, S. Aufl.,2000, S,276ff.(v. Hans−Heinrich Tru一
118(v.Karl−Peter Sommermann);Michael te);Horst Dreier, Grundgesetz Komlnentar Sachs(Hrsg.),Grundgesetz Kolnmentar 2. Band III,2000, S.12ff(v. Georg Hermes);Aufl.,1999, S.760(v. Michael Sachs); Michael Sachs, a.a.O,, S.1557(v. Armin Bruno Schmidt−Bleibtreu/Franz Klein, Dittmann);Schmidt−Bleibtreu/Franz Klein,
Kommentar zum Grundgesetz 9.Aufl.,1999, a.a.0., S.1291(v. Schmidt−Bleibtreu).
S,516(v.Hans Bernhard Brockmeyer); (14)後述する連邦誠実に関連して, Mangoldt/
Karl−Heinz Seifert/Dieter H6mig(Hrsg.), Klein/Starck, Das Bonner Grundgesetz Grundgesetz fUr die Bundesrepublik Deutsch− Kommentar Band 24.AufL,2000, S.23(v.
land Taschenkommentar 4.AufL,1991, S. Sommermann);Horst Dreier, Grundgesetz 182(v.Seifert). Kommentar Band H,1998, S.122ff.(v. Bau一
(9)すなわち,国家権力はラントによって行使され er);Michael Sachs, a.a.0., S.764ff.(v.
Sachs);Schmidt−Bleibtreu/Franz Klein, a. /Klein/Starck, Bonner Grundgesetz Band
a.0.,S.1291(v. Schmidt−Bleibtreu). 3, S。291ff.(295f,)(v. Trute);Horst Dreier,
(15)庄司克宏「アムステルダム条約におけるEUの Grundgesetz Kommentar Band 3, S.7f.(v.
法的構造」前掲『EUの法的構造』43頁以下, Hermes)参照。
「
blaus Dieter Ehlerlnann, Engere Zusammen− (22)Magiera, a.a.0., S.175;Schmidt−A B Inan,
arbeit nach dem Amsterdamer Vertrag: Strukturen des Europaischen Verwaltungs.
Ein neues Verfassungsprinzip?, Europarecht rechts, S.18;Heinrich Siedentopf/Christoph 1977,S.362ff.. Hauschild, Europaische Integration und die
(16)職務共助の概念ならびに要件について,拙稿・ dffentlichen Verwaltungen der Mitglied一 前掲「行政機関相互の協力関係」87頁以下,なら staaten, DOV 1990, S.445ff.;Mangoldt/
びに,Schlink, a.a.0., S。204ff.;Wessel, a.a. Klein/Starck, a.a.0., S292f.(v。 Trute);
0.,S.38ff.参照。 Horst Dreier, a.a.0., S.5f.(v. Hermes).
(17)その意味で職務共助は,基本法30条および83条 (23)Magiera, a.a.0., S.182参照。なおECにおけ によって,ラントに包括的な行政上の管轄が与え る委員会の任務ならびに機能について,Thomas
られたことの必然的な結果である(Mangoldt/ Oppermann, Europarecht,1991, S.124ff.;
Klein/Starck, a.a.0., S.1149(v. Thomas Peter Fischer/Heribert Franz Koeck, Euro一
von Danwitz)。同旨Horst Dreier, a.a.0., parecht 2.Aufl.,1995, S.350ff.参照。
S.754(v.Hartmut Bauer);Michael Sachs, (24)Magiera, a.a.0., S,177.
a.a.O., S.1087(v. Erbguth);Karl−Heinz (25)Schmidt−A B man, Europarecht 1996, S.275 Seifert/Dieter H6mig, a.a.0., S.266(v. ff.;ders.,Das Allgemeine Verwaltungsrecht H6mig). von den Herausforderungen neuer europai一
(18)拙稿・前掲「行政機関相互の協力関係」93頁以 scher Verwaltungsstrukturen, in:Herbert 下,同「職務共助の要件と情報提供の限界」125頁 Haller(Hrsg.),Staat und Recht:Festsch一 以下参、照。 rift f血r Gunter Winkler,1997, S.995ff.(1003
(19)Mangoldt/Klein/Starck, a.a.0., S.22(v. ff.);Meier, a.a.0., S.240.
Sommermann);Horst Dreier, a.a.0., S. (26)Schmidt−A B man, Europarecht 1996, S276
122f.(v. Bauer);Michael Sachs, a。a,0., S. f.;Meier, a.a,0., S.238;Hoffmann−Riem, a.
764f.(v. Sachs);Schmidt−Bleibtreu/Franz a.O., S.356;Dieter H. Scheuing, Europare一
Klein, a.a.0。, S.519(v. Brockmeyer)・;Karl− chtliche Impulse fUr innovation Ansaze im
Heinz Seifert/Dieter H6mig, a.a.0., S.183 deutschen Verwaltullgsrecht, in:Hoffmann一(v.Seifelt). Riem/Schmidt−Aβman(Hrsg.), Innovation
(20)Mangoldt/Klein/Starck, a。a.O., S.25(v. und Flexibilitat des Verwaltungshandelns,
Sommermann);Horst Dreier, a。a.0., S. 1994, S289ff.(331ff.).
123u.124ff.(v. Bauer). (27)Schmidt−A B man, Europarecht 1996, S.278
(21)すなわち,基本法83条はラントが連邦法を固有 ff.;Meier, a.a.0., S.238f.;Hoffmann−Riem,
の事務として遂行することを規定するが,共同体 a.a.0., S.356参照。
法は連邦法とは区別されるところから,この原則 (28)Mangoldt/Klein/Starck, Bonner Grund一 がそのまま当てはまるのか,あるいは,連邦とラ gesetz Band 2, S.1172(v. Danwitz);Berndt
ントの立法権限の配分の原理にしたがって,これ Runge, Das Steuerbereinigungsgesetz 1986:
を指令に適用するべきかの問題である。Mangolt EG−Amtshilfe−Gesetz, Der Betrieb 1986, S.
191ff.参照。
(29)Schmidt−A B man, Europarecht 1996, S.294 f.;Meier, a.a.0., S245;Hoffmann−Riem, a.
a.0.,S.356;Mangoldt/Klein/Starck, a.a.
0.,S.1172(v. Danwitz).
(30)Meier, a,a.0., S.244f.。
(31)この点に関して有益な示唆を与えてくれるもの として,つぎの文献がある。Michael LOck,
Die Gemeinschaftstreue als allgemeines Rechtsprinzip im Recht der Europaischen