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交通政策基本法下の物流政策

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1. はじめに

平成27年12月に社会資本整備審議会,交通政策審議会より「今後の物流政 策の基本的な方向性等について」(以降「今後の物流政策」と略す)の答申が 出された。これは20年を目標年とした,中長期的な視野に立った物流政策 の展望を示したものである。これ以前に「国土のグランドデザイン

2050」

「国 土形成計画」「社会資本整備重点計画」「交通政策基本計画」等の国の計画や 方針が出されているが,この諸計画をより物流分野の課題に対応するように特 化させたものが「今後の物流政策」であると言ってよい。また,これまで5年 ごとに策定されてきた総合物流施策大綱は,より短期的な対応や方針を示すも のであり,今後は「今後の物流政策」に沿って策定されることとなる。

上記の「交通政策基本計画」は旅客,貨物を含めた総合的な交通政策の基本 方針を示したもので,「交通政策基本法1)」を具体化したものであるとされる。

本稿ではまず交通政策基本法における物流の位置づけを明らかにする。そして,

「交通政策基本計画」ならびに「今後の物流政策」を概観し,後者に示された 諸政策より,過疎地域の物流と環境問題への対応を取り上げるものとする。

物流とは一般に「生産と消費の間の物理的な側面,すなわち流通の物理的な 側面」と定義される。10年前後にアメリカより導入され,それまで別々に 行われてきた諸活動を物の流れに着目して統合したもの,これが物流である。

物流分野は輸送だけで完結するものでは決してなく,その担い手は物流事業者

第11巻第1号(15−30)

6年3月

交通政策基本法下の物流政策

二 村 真 理 子

1) 以下,省略しても問題がないと思われる部分においては「基本法」と略す場合がある。

―15―

(2)

に加えて製造業,小売業などの荷主なども含まれる。そこで,現代の社会環境 の変化を前提として,予算の制約や納税者間の公平の観点から,許容される範 囲内での実効性のある物流政策とは何かについて考察を行う。また,交通政策 基本法下の物流政策と,現在の物流業界やその活動が直面する諸問題について 考察を加える。

2. 物流分野における政策の位置づけ

近年の企業のサプライチェーンマネージメントの視点に立った物流活動など を考えれば,その担い手は物流事業者のみならず,荷主である小売の流通事業 者やメーカーのウェイトが大きいことが分かる。そして,政策の役割とは物流 事業者が活動するうえで必要な投資の実施やルール作りといったインフラの提 供を内容とする。同じ「物流」という言葉で表される内容であっても,そのレ ベルや意図するものは大きく異なることから,まずは宮下・中田

(2004)

に基 づいて整理を試みる。

極めて基本的なところから始めると,物流という経済・経営機能を構成する 活動は,①輸送,②保管,③荷役,④包装(工業包装),⑤在庫管理・発注,

⑥流通加工,⑦受注処理・物流情報処理という7つの活動で成り立っていると される。そして,輸送を含めたこれらの活動を組み合わせることで物流システ ムが構成されている。また,物流には同じモノの流れに関係するシステムでは あるが,視点の異なるマクロの物流とミクロの物流があるとされる。マクロの 物流は「社会経済的な視点から見た社会全体の物資の流れや取り扱い」を,ミ クロの物流は「企業経営的な視点から見た個々の企業の経営活動としての物 流」を指す。ミクロの物流システムとは①物流戦略,②物流計画,③物流組織,

④物流設備,⑤物流管理,⑥物流活動の6つで構成されるものとされており,

これらを総合して「企業の物流システム」とする。一方,マクロの物流システ ムとは,①物流政策,②物流社会資本,③物流産業(運輸業),④(荷主)企業,

⑤物流関連産業,⑥社会的物流標準,という6つの要素で構成される。

また,時にミクロの物流は流通・マーケティング問題であり,マクロの物流 は運輸・交通問題であるとの分類が行われることがあるという。すなわち,本 稿で対象とする物流とは後者のマクロの物流に含まれるものであり,「国や地 方の行政における物流政策とそれに基づく物流計画が基本に存在し,物流に関

―16―

(3)

係する標準化や統一化の基準作りと管理」を行い,「国全体や地域全体の物流 がどういう状況にあるのか,どういう方向に行くべきか」を示すことが使命と される。

また,物流政策は大きく物流産業に対する社会的規制,経済的規制などの市 場のルール作りと,道路や港湾,空港などの民間で供給されることが難しい社 会基盤の供給とに分けることができるだろう。そして後者については物流分野 のみならず,旅客,その他の地域政策などを盛り込んだうえで計画が行われ,

整備されることになる。

これは,物流分野に限ったことではないとは思われるが,物流政策には多分 に課題対応的な側面が散見される。そもそも,物流の概念の導入経緯が高度経 済成長期の国内の物資流動を効果的に捌くために,国の方針としてその解決策 を諸外国に求めたということからしても,社会経済の変化への対応という側面 が強いようである。宅配便に代表されるような新しいサービスの提供など,物 流分野における革新的イノベーションがほぼ民間主導で行われたのとは対照的 に,物流政策は主に上記の市場では供給されにくい社会基盤の整備,またその 市場のルール作り,さらに社会経済の環境変化から生じた課題への対応の側面 が強い。では,「交通政策基本法」の整備以降の「交通政策基本計画」「今後 の物流政策」の中では,新たにどのような考え方や政策が示されたのであろう か?

3. 交通政策基本法の概要とその特徴

交通に関する基本理念などを定めた「交通政策基本法」が平成25年12月に 施行された。平成14年ごろに「交通基本法」の検討が始まり,平成21年ごろ から議論が本格化,有識者などの意見収集を経て,平成23年に閣議決定に至 った。しかし,直後に発生した東日本大震災の影響で一度は廃案になるなど,

長きにわたる議論を経て,ようやく成立したと言える。

交通政策基本法の成立以前においても「国土形成計画法」「社会資本整備重 点計画法」に基づいて計画が策定されてきたわけであるが,さらに両法律の上 位に位置し,交通政策の基本理念を示したのが交通政策基本法である。同法は 第1章「総則」と2章「交通に関する基本的施策」から成り,その目的は第1 条に「基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め」「国及び地方

―17―

(4)

公共団体の責務等を明らかに」し,「交通に関する施策を総合的かつ計画的に 推進し」「国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ること」とされ る。

この「交通政策基本法」はあくまで基本理念であって,交通政策に関する考 え方,将来にわたっての方針を示したものである。基本的には従来の政策方針 を踏襲したものとなっているが,①今後は交通サービス維持のために国が積極 的に関与するとしている点,②交通分野における環境対応に関する言及が初め て行われた点,は特筆すべきであると思われる。

①については,国土交通省の示した「交通政策基本法の概要」の中の「まず,

国民等の交通に対する基本的な需要が適切に充足されることが重要であるとい う認識の下に」という一文を引用するのが適当であろう。すなわち,法律の主 眼が今後の交通サービスの維持に置かれていることがこの文章からも分かる。

実際,同法の議論や関心の中心は人口減少社会における,特に地方部で多くみ られる需要の減少による維持困難な交通サービスにあり,論文等の内容も地域 交通のあり方等を論じたものが多い。

さらに,既に引用した第1条の目的で「国及び地方公共団体の責務等を明ら かにする」ものであると宣言していることから,今後の交通サービス提供につ いては交通事業者任せにするのではなく国や地方公共団体が介入するというこ と,ただし交通事業者,国や地方自治体に加え,消費者の協力も必要であるこ とが謳われている。これは同時に公的なサポートはあるが単に国庫にフリーラ イドすることなく,地方自治体とその地域の利用者も責任を分担することで維 持していくとの宣言にもとれる。

②については,第1章の総則第4条に「環境負荷の低減」が,さらに第2章 の基本的施策に「交通にかかる環境負荷の低減に必要な施策」が明記されたこ とで,交通政策基本法の中に環境への配慮が初めて成文化された。環境分野に ついては従来の政策から大きく方針が変わるものではないが,今後行う交通分 野の環境関連の政策には法的な拠り所が出来たという点は重要である。

4. 交通政策基本法と交通権

交通政策基本法では喜多

(2014)

の指摘の通り,交通権には触れていない。

しかし,「交通権」という言葉は使用されていないものの,「交通に対する基本

―18―

(5)

的な需要が適切に充足されることが重要である」との文言は,地方部における 交通サービスの維持に対して政策的に対応するという意思を成文化したもので あるとも考えられる。

田邉

(2015)

では「移動制約者の最低限の公平性」に関する最低限の移動が

担保される必要があるかどうかの議論において,交通需要が派生需要であり,

本源的需要を満たすために購入される中間投入財であるという論点を挙げてい る。必ずしも同論文の筆者はこの主張に賛同しているわけではなく,むしろ移 動の「ミニマム基準を決める難しさ」や,「過剰な公平性に陥らないよう注意 が必要」との指摘を行っている。この「最低限の交通とは何か。そしてそれを 公的に維持すべきか。」という問題は交通政策基本法下の交通政策において大 きな問題となってくるところであろう。

そもそも,交通権やそれに準ずるような権利の根拠は,どこに求めるべきで あろうか。筆者は法律の専門家ではないが,この議論に何らかの手がかりを得 るため,憲法を見てみよう。交通や移動に関する権利の根拠となる可能性があ ると思われるのは,憲法22条の移動の自由,同13条の幸福追求権,同25条 の生存権であろう。まず同22条の身体を拘束されない権利,移動を禁止され ない権利は,その手段の提供を保証するものではないため,今回の議論として は不適当であろう。同13条はその内容について「個人の人格的生存に不可欠 な利益を内容とする権利の総体を言う」2)とされており,具体的に導き出され る権利の例として挙げられるのはプライバシーの権利,環境権,嫌煙権など,

精神的な幸福を指すものであることから,これも直接的に議論に当てはまるも のではない。よって本稿では,社会権3)の中の1つである同25条の生存権を 参考に議論を行うのが妥当であろう。長谷部

(2014)

によれば社会権は「国家 に対する積極的給付を求める権利」を含み,これは「人が生きるための最低限 の条件をすべての人に平等に保障することを目的とする」ものであるとされる。

しかし,「社会権を,憲法を直接の根拠として司法部門が実現することに慎重 な見解」があり,「給付の基準は,当該社会の経済,財政の状況や,他の公共 政策との優劣順位を勘案しつつ,国民を代表する政治部門が第1次的に判断す べき事柄」であるとしている。よって,具体的な立法こそが重要となる。

2) 芦部(2015)

3) 憲法25条の生存権,同26条の教育を受ける権利,同27条の勤労の権利,同28条の労働 基本権が社会権に分類される。(芦部(2015))

―19―

(6)

実際に憲法25条を見てみると,第1項では「すべて国民は,健康で文化的 な最低限度の生活を営む権利を有する」とし,さらに第2項で「国は,すべて の生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に勤め なければならない」としている。交通政策基本法という具体的な立法の成立で,

これを実現することがその内容となる。

しかし,交通政策基本法に「交通権」が明記されなかったことで,上記にあ るように「すべての人に平等に保障する」わけではなく,いわゆるユニバーサ ルサービスとして「あまねく公平に」提供されるべき対象では必ずしもないが,

基本的には地域交通の維持に努めるという姿勢を示すものと考えて良いだろう。

しかし,田邉

(2015)

でも指摘される通り,「最低限の基準」の設定は難しく,

またそれが可能であるとしても,維持のためには当然のことながら費用が発生 する。松中

(2015)

では交通政策基本法13条の財政上の措置に関する条文には,

具体的な措置については言及されていないこと,交通財源に対する基本的な考 え方や方針についても明確に示されていない点に触れ,財源の在り方に関する 議論が広く行われる必要性について指摘している。補助を受ける主体が効率的 な運営に努めることはもちろんのこと,それぞれの地域の資源を活かしたシス テムづくりが要求されるものと思われる。限られた財源を配分することになる わけであり,地方自治体の工夫や努力といった競争が国のサポートを引き出す 結果になるのかもしれない。

5. 交通政策基本法の中の環境政策

従来から環境に対しては,環境基本法に基づいて対応がなされてきたものと 思われるが,交通対策基本法には交通分野における環境への対応について成文 化された。具体的には第1章の総則第4条に「環境負荷の低減」が,さらに第 2章の基本的施策に「交通にかかる環境負荷の低減に必要な施策」が明記され,

内容は以下の通りである。

第4条 交通に関する施策の推進は,環境を健全で恵み豊かなものとして維 持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであるこ と及び交通が環境に与える影響に鑑み,将来にわたって,国民が環境の恵沢 を享受することができるよう,交通による環境への負荷の低減が図られるこ

―20―

(7)

とを旨として行われなければならない。

この条文は,環境基本法第1条の「現在及び将来の国民の健康で文化的な生 活の確保に寄与する」という文言,さらに同3条の「現在及び将来の世代の人 間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である 環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。」の 一節の表現を用いた文章となっている。私自身が法律を専門としていないため,

あくまで感想の域を出ないが,「人間の健康で文化的な生活」という文言は憲 法25条の「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有す る。」という条文を想起させるものである。

すなわち環境負荷の低減とは,健康で文化的な生活を持続するという目標に 鑑み,交通サービスの維持という目標を進めていくうえでの一種の制約条件と して示されているものと思われる。第4条で示された理念に比して,第23条 は対象とされる環境負荷,対応するための政策手段を含む,より具体的で説明 的な内容となっている。

第23条 国は,交通にかかる温室効果ガスの排出の抑制,大気汚染,海洋 汚染及び騒音の防止その他交通による環境への負荷の低減を図るため,温室 効果ガスその他環境への負荷の原因となる物質の排出の抑制に資する自動車 その他の輸送用機械器具の開発,普及及び適正な使用の促進並びに交通の円 滑化の推進,鉄道および船舶による貨物輸送への転換その他の物の移動の効 率化の促進,公共交通機関の利用者の利便の増進,船舶からの海洋への廃棄 物の排出の防止,航空機の騒音により生ずる障害の防止その他必要な施策を 講ずるものとする。

第23条に示された基本施策から,同法が念頭に置く主要な環境問題が「地 球温暖化」「大気汚染」「海洋汚染」及び「騒音」であり,旅客輸送,貨物輸 送の双方を対応すべき範囲としていることが分かる4)。貨物輸送への対策を,

少し説明を加えて具体的に列挙すると,環境負荷の少ない自動車の開発と普及 を促進すること,エコドライブなどにより利用段階での効率化を図ること,交 通混雑の解消や信号のコントロールなどによって交通流の円滑化を行うものと

4) 振動が入っていないのは気になる点である。

―21―

(8)

している。輸送機械器具の開発,普及については「自動車その他」とあるため,

鉄道や船舶の環境性能向上についても含みを持たせているが,やはり主眼は自 動車対策にあると言ってよいだろう。さらに,モーダルシフトと輸送効率の改 善の促進が必要と指摘されている。また最後に,船舶の海洋汚染,航空機の騒 音対策の必要性についても言及されている。これらの政策は,すでに実際に行 われているものであり,第23条から読み取れる環境政策とは,現在行われて いる対策の強化,継続である。

では改めて,交通政策基本法の成立によって,今後の環境対応にはどのよう な変化が想定されるのだろうか。交通政策を規定する法律の中に環境が制約と して示された事実は重く,他の政策分野と同様,今後の施策やその施策を実現 するための手段の法的根拠となることには違いない。また,第15条7項に

「交通政策基本計画の案を作成しようとするときは,あらかじめ環境保全の観 点から,環境大臣に協議しなければならない。」とあり,外部のチェック機能 も働くことについても評価すべきである。

環境負荷の低減が法的に交通政策の中に位置づけられた,ということですぐ に何かが変わるかといえば,おそらく従来通りの対応が続くものと予想される。

そこで,日本の環境政策の基本理念を定めた「環境基本法」から追加の情報を 得ることにしよう。この法律の下では,環境保護のための法的規制を行う際,

規制を行うための科学的根拠が不明確な場合には,「新たな知見によってその 不確実性が明らかにされるまで,規制を延期する」5)という対応を行うものと される。すなわち,日本では「予防原則」を取っておらず6),根拠が不明瞭な まま規制が厳しくなるとか,それによって従来通りの交通サービスが行えなく なるなどの,劇的な変化が生じることはないだろうし,あくまでも「健全で恵 み豊かな環境を維持しつつ,環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りな がら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨7)」とする。言 いかえれば,日本の環境政策においては,原則として「持続可能な発展」を旨 としており,新たな環境問題が生じない限りはこれまでの政策を継承するもの と予想される。

5) 交告他(2015) p. 152より引用。

6) ただし,地球温暖化と生物多様性の保全については,予防原則に基づく対策が必要である と明記されている。

7) 環境基本法第4条より抜粋。

―22―

(9)

一方,環境への対応は国際的な動向が国内政策に大きな影響を与えることも ある。例えば,地球温暖化への対応のように国内での目標設定のみで議論が終 わらない問題もあるわけで,温室効果ガス排出量の排出目標,さらには算出範 囲や方法まで国際的な議論の中で決まる部分が多分にある。環境エリアについ ては,基本法よりもむしろ大きな影響を及ぼすのは国際的な動向であり,この 動向に合わせた計画の追加,変更が必要になってくるはずである。

6. 交通政策基本法における物流

本稿におけるこれまでの基本法の議論は主に人の移動に関する議論を行って きた。では,物流ではどのように考えたらよいのだろうか。旅客に関する議論 における地域交通の維持に政策的に努めることは,貨物輸送さらには物流にお いてはどのような意味を持つのであろうか。

交通政策基本法に「物流」という言葉は用いられていないが,貨物輸送に関 する言及,そして本法律における物流に対する考え方がよく表れていると思わ れる部分は第2条と第16条であろう。

第2条 交通に関する施策の推進は,交通が,国民の自立した日常生活およ び社会生活の確保,活発な地域間交流及び国際交流並びに物資の円滑な流通 を実現する機能(下線は筆者が加筆した)を有するものであり,国民生活の 安定向上及び国民経済の健全な発展を図るために欠くことのできないもので あることに鑑み,将来にわたって,その機能が十分に発揮されることにより,

国民その他の者の交通に対する基本的な需要が適切に充足されることが重要 であるという基本認識の下に行われなければならない

第16条 国は,国民が日常生活及び社会生活を営むに当たって必要不可欠 な通勤,通学,通院その他の人又は物の移動を円滑に行うことができるよう にするため,離島に係る交通事情その他地域における自然的経済的社会的諸 条件に配慮しつつ,交通手段の確保その他必要な施策を講ずるものとする。

では,第16条の「自然的経済的社会的諸条件に配慮しつつ,交通手段の確 保その他必要な施策を講ずる」とは,具体的に何を求めているのだろうか。島

―23―

(10)

しょ部などに対する補助などは従来から行われてきたものであるし,やはり,

交通不便地域に関する議論が必要となるだろう。もし,物の移動を円滑に行う ための手段として,道路の整備を行えばトラック輸送が利用可能となるため問 題は解決した,ということになるのだろうか。

ここで問題とされるのが「買い物弱者」の存在である。過疎地域の人口密度 の低下によって生活圏内の商店が撤退した場合,地域の住民は何らかの交通手 段を使って遠方の商店まで買い物に出向く必要がある。このような場所すべて において基本法で維持される公共交通を使えるわけではないことは,想像に難 くない。実際,市街地から遠く離れた集落では,現在でも高いタクシー代金を 払って食料品や日用品を買いに行く生活が行われているとの話も聞く。今後の 少子高齢社会では,このような問題を抱える地域は今後ますます増加するもの と考えられるが,基本法では交通手段の維持よりもさらに一歩議論が進み,輸 送手段の確保のみならず,流通の維持のための工夫も求めているように読める。

ただし既に述べたとおり,物流とは流通の物理的な部分を指すものであり,商 店への輸送などのような

B to B

の物流の場合,その地域で営業を行うか否か の意思決定は,第2章で触れた企業経営の観点から発生するミクロの物流の範 疇である。

旅客に関する交通権やそれに準ずる政策と同様,物流に関連する行政サービ スの提供について憲法に照らして考えるとすれば,やはり25条の生存権を参 考にするのが適当であろう。最低限の生活のためには衣食が欠かせない要素で あるのは十分理解できるところであるが,基本法にある「物資の円滑な流通を 実現する機能」を確保するために,実際に政策は何をどこまで行うのだろうか。

7. 答申に見る今後の物流政策

平成27年12月の「今後の物流政策の基本的な方向性等について『危機を乗 り越え,自ら変わる,日本を変える〜「物流生産革命」と「未来に輝く物流へ の進化」への協同〜』」は中長期的な視点に立って,現在の日本の物流業界が 直面している諸課題を列挙し,その課題に対応するための政策手段について整 理を行ったものである。同答申は極めて広範にわたる数多くの問題を提起して おり,中長期的とはいえ現在の日本の物流が多くの課題に直面していることを 実感する内容となっている。

―24―

(11)

直面する課題の「物流を取り巻く変化への対応の必要性」には,物流業界に おいて最も大きい課題であると言っても過言ではない「人口減少・少子高齢化

・労働力不足」の問題,厳しい制約条件となるであろう「地球温暖化問題・エ ネルギー制約」,現代人のライフスタイルなどを背景とする「貨物の小口化・

多頻度化と顧客ニーズの多様化」など,8つの項目が挙げられており,これら の諸問題に対し「物流生産性革命の実現」と,「未来へ続く魅力的な物流への 進化」の2つの方針に分けた整理が行われている。

どの課題も対応が必要であるが,多くの課題について議論するのは紙面の都 合上不可能であるため,特に交通政策基本法の内容に関連すると思われる,過 疎地等における物流ネットワークの議論,さらに交通政策基本法に明記された 環境への対応に議論を絞ることにしたい。

7−1 過疎地等における物流ネットワークの構築

過疎地等における物流ネットワークの脆弱化の問題は,以下に示したような

①から④への段階的な問題の発生が指摘できるものと思われる。

①人口の都市部への集中による人口密度の低下

②人口密度の低下による,輸送段階における非効率の発生,費用の上昇

③労働力不足によるトラックドライバーの不足による費用の更なる上昇

④生活物資を提供する商店の撤退や宅配事業者のサービス提供困難地域の発生

答申では,トラックドライバーの不足が過疎地等の物流ネットワーク構築に深 刻な影響を与えるものとして,維持のためには何等かの対応が必要であると述 べている。では,過疎地域の物流を維持するために,政策的にどのような対応 が想定されているのだろうか?

答申によれば,①「小さな拠点」を核とした新たな輸送システムの構築,② 公共交通事業者の輸送力を活用した貨客混載,自家用自動車等を活用した有償 貨物運送,③関係者の合意形成や合意事項の実行の円滑化,④地域内外の関係 者や国民の物流に関する理解と協力,という4項目があげられている。

①では貨物輸送の共同化と生活支援サービスとの複合化による新たな輸送シ ステムの構築を促進することの必要性が指摘されている。平成26年度の「地 域を支える持続可能な物流システムのあり方に関する検討会」(国土交通省)

において紹介された「小さな拠点を活用した地域づくり」によれば,「小学校

―25―

(12)

区など,複数の集落が散在する地域において,商店,診療所などの日常生活に 不可欠な施設・機能や地域活動を行う場所を,歩いて動ける範囲に集め,周辺 集落とコミュニティバス等の交通ネットワークで結ぶことで,人々が集い,交 流する機会が広がっていく,集落地域の再生を目指す取組」であるとされる。

この取組では,必要な生活関連施設を集めた「小さな拠点」を整備し,物流事 業者と

NPO

の協働で物流ネットワークを維持しようというものである。②は 当該地域の既存の様々な車両の運行をマッチングすることで,共同化,複合化 を図るというものである。③は自治体の主体的な関与の下で地域の関係者の連 携と地域の特徴に応じた取り組みの必要性を指摘しており,協議会の設置や地 域リーダーの育成などを内容としている。④では,①〜③の取組において関係 者相互の理解を深めることが必要であるとの指摘を行っている。

全ての項目に共通しているのは,地域物流維持のためには自治体の積極的関 与が必要であり,その下で地域の関係者の連携に基づいた自主的な取り組みを 促す内容となっていることであろう。

では,国の役割とはどのようなものであるか。上記のような地方自治体によ る「全国各地における取り組み事例を収集・分析し,先進事例の発信等に努 め」「専門家や先進事例の紹介,物流事業者との橋渡し」といった支援を行う ものとしている。基本法にあった物流の維持は,国の責務としてではなく,地 方自治体が独自の基準で,それぞれの独自の資源を用いた効果的な方法で行わ れるものとされており,もう一歩進んだ「流通」の維持に関する施策は盛り込 まれなかったようだ。

すなわち,この課題に対する国の役割は先進事例に対する補助を含めた支援,

更に先進事例の情報発信がその内容とされている。また,自主的に取り組みを 行う意欲はあるが,人材が不足している地方自治体へのアドバイザーの派遣な ども行われるものと考えられる。さらに今後は,特定の地域に対する規制の緩 和や新しい技術を利用するための制度づくりなども重要な政策となりうるだろ う。たとえば,新技術としてドローンの活用なども将来的には検討されるはず であり,小さな拠点を活用すれば,より効率的な輸送システムの構築が可能と なるはずである。積極的に新技術を取り入れる自治体に対しては,社会実験と いう側面から補助を伴う支援も許容されるはずであり,自治体の意欲を引き出 すための効果的なインセンティブの設定が望まれる。

―26―

(13)

7−2 環境問題への対応

「今後の物流政策」の中の,環境問題とは地球温暖化の問題が主眼とされて おり,「地球環境対策への貢献」として以下の3つの方針が挙げられている。

①地球環境問題への取組の観点からのモーダルシフトの更なる促進

②地球環境問題に配慮した物流施設の整備・機材の導入

③環境対応車両の普及促進

①は排出原単位の大きいトラック輸送の削減を行うものである。一方,モーダ ルシフトに関しては別に「モーダルシフトの更なる推進」という項目が設定さ れており,モーダルシフトの担い手にふさわしい経営体力を備える努力と適切 な政策展開の必要性,帰り荷確保や積載率向上のための関係者間の連携や協調 による合意形成,鉄道輸送に係る輸送障害時の運用改善,という3つの方針が 示されている。モーダルシフトについては,長くその必要性が認識されてきた が,思うようには進んでいないのが現状である。特に近年,企業における物流 分野の環境対策は,原則として費用増を許容しない傾向にあるようだ。各企業 が独自に実施出来る輸送の転換に加えて,今後,一層推進するためには他社と の連携や輸送環境の改善など,新たな工夫が必要となっている。よって,推進 のための方針としては中長期的な視点からモーダルシフトが行えるような土壌 を作るための地道な工夫が示されているものと理解できる。②については環境 性能に優れた物流機材の導入がその内容となっている。答申では地球環境問題 以外の公害への対応の必要性についても触れられている。③は自家用自動車同 様,従来から進めてきた環境対応車両の普及の必要性が述べられている。②,

③については使用機器の性能向上という点で共通するものであり,短期間で効 果を上げることが出来るが,費用面に問題が残るところである。

地球温暖化の問題については国際的な取り決めが国内政策を決める側面が強 いため,当面は25年12月のパリ協定を念頭に置いた政策が行われることに なるだろう。わが国の二酸化炭素排出量の17.1% を占める運輸部門のうち,

貨物自動車からの排出は自家用,営業用を合わせて34.5% にのぼる。また,

倉庫などの輸送以外の物流活動でも多くの温室効果ガスの排出が行われており,

物流分野での対策は今後一層厳しさを増すものと考えられ,政策的バックアッ プへの期待も大きいだろう。ただし,上記の①〜③の方針は従来と何ら変わる ものではなく,今後も様々な政策的工夫が行われるものと思われる。では,基 本法制定で期待されることは何だろうか。国内では根拠法が明確になったこと

―27―

(14)

で,今後は政策の推進にあたって必要な補助を与えることが容易になる可能性 がある。例えば,地球環境問題の緩和策としてモーダルシフトの推進が望まれ るが,この場合,民間の物流事業者,例えば

JR

貨物の自主的な投資が環境政 策上,必要とされる水準まで行われるかどうかが重要なポイントとなるだろう。

このような場合には,交通分野の環境政策を行うことを目的として,公的に補 助を行う根拠法となるものと思われる。

8. おわりに

交通政策基本法の制定,交通政策基本計画の策定,今後の物流政策の答申な ど,ここ数年で交通の法整備が進み,それに基づいた政策,また物流について は現在の課題と今後の政策方針が示されるなど,一気に直面する課題の整理が 進んだように思われる。中長期的な視野に立って,必要な政策的措置をとって いくべきであると思われるが,予算の制約,政策サイドが介入することが妥当 であるかどうか,または可能であるのかどうかなど,様々な論点を念頭におい て進めていくことになるだろう。

物流政策も拠り所となる法律の成立により,より積極的な対応がみられるよ うになった。筆者は,物流活動には「物流政策基本法」なるものが成立しても 良いのではないかと長く考えてきたが,今回の交通政策基本法に間接的に物流 が位置づけられたことで,様々な計画や方針が具体的に示された。基本的には 従来のマクロの物流の観点からの政策方針を踏襲するものと思われるが,今後 は企業が担ってきたミクロの物流のレベルの調整も必要になってくるであろう。

本稿で取り上げた地域物流の維持については,地方自治体が今後大きな役割を 果たすようになるであろうし,さらに状況が進めば国の役割もまた変化するの かもしれない。地方自治体は個々のサービスレベルの設定,それを実現するた めの地域資源の活用や工夫による地域間競争に移行することになるだろう。国 は予算制約の下で,効率的な費用の分配を行うことで,先進的な事例の喚起に 努めるとともに,必要に応じて特定の地域や特定の年代層に対する必要な措置 を効率的かつ効果的に進めていくことが求められる。また中長期的な視野に立 てば,コンパクトシティの形成などによる物流効率化,環境対応に資する根本 的な対応も必要となるであろう。そうなれば国には,両政策を調整するような 大局的な視野も求められることになる。

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環境問題,特に地球温暖化問題は,気候変動枠組条約の締約国会議で目標と すべき水準が外生的に決まるものであり,その目標は徐々に厳しくなることが 予想されている。そして,その対応は新しい技術や手法が確立されるというよ りは,従来どおり温室効果ガスの削減努力を続けていくことになるだろう。今 後のより厳しい環境制約の下での効果的な緩和策の実施のためには必要な投資 や新たな議論などが必要であろうが,特に政策サイドからは中長期的な視野に 立った思い切った議論を行うべきであると思われる。たとえば民間企業では行 うことが難しい低炭素の物流システムを構築するための大規模な投資を公的に 行う,または経済的手法を用いた新たな政策なども考えられるかもしれない。

また,一部で成功している工夫をより多くの企業間で行えるようにするための 仕組みづくりでバックアップすることも可能であろう。たとえば同業,異業種 間の連携,協調など,出来るだけコストをかけずに環境目標を達成する民間レ ベルの工夫は複数事例が存在するが,マッチングの前段階となる諸課題を交換 する機会の提供などは政策的に対応できるかもしれない。これも3PL事業者 などがマッチングサービスを提供すれば良いと思うが,むしろ各企業の個々事 情を知りえる立場である政策サイドでの対応が適当である面もあるだろう。

答申には物流の「目指すべき将来像」が示されていたが,これはあくまで現 在の課題を踏まえた方針であり,将来においては我々が想像もつかない斬新な サービスが提供されていてほしいものである。これまでも新たなサービスは民 間の創意工夫の中から生み出されてきた。きっとこれからも,物流活動の主た る担い手は民間企業であり,厳しくなるであろう環境問題や更なる多様化が予 想される消費者ニーズに直面しつつもこれを乗り越えていくに違いない。規制 の緩和も含め,民間が新たなサービスを提供しやすい環境を整えることも政策 サイドに求められているものと思われる。

最後に,第2章で概観したとおり物流は複数の要素で構成されるシステムで あり,今後,交通政策基本法の下で計画される物流政策が,交通政策にとどま らないよう留意すべきであろう。物流を構成する輸送以外の複数の活動の存在,

企業の経営戦略の一部としての物流活動,企業間にまたがるサプライチェーン を効果的に遂行するための物流など,さまざまなレベルにおけるより高い目標 達成の成否は,システムを構成する物流政策にもかかっている。

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参考文献

芦部信喜(2015)『憲法』,第六版,岩波書店.

交告尚史・臼杵知史・前田陽一・黒川哲志(2015)『環境法入門』,有斐閣.

環境省(1993)環境基本法.

http://law.e−gov.go.jp/htmldata/H05/H05HO091.html

喜多秀行(2014)「地域公共交通計画で定めるべき事項の考え方」『運輸と経済』,第74巻第6

号.

国土交通省(2013)交通政策基本法.

国土交通省(2014)「『小さな拠点』を活用した地域づくり」,地域を支える持続可能な物流シス テムのあり方に関する検討会資料,

http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_tk1_000046.html 国土交通省(2015)交通政策基本計画.

国土交通省 交通政策基本法に基づく政策展開

国土交通省(2015)『今後の物流政策の基本的な方向性等について(答申)「危機を乗り越え,

自ら変わる,日本を変える〜「物流生産革命」と「未来に輝く物流への進化」へ共同」

田邉勝巳(2015)「交通政策基本法と交通権に関する一考察」『運輸と経済』,第75巻第6号.

長谷部恭男(2014)『憲法』,新世社.

二村真理子(2015)「交通基本法に見る環境政策」『運輸と経済』,第75号第6巻.

宮下正房・中田信哉(2004)『物流の知識』,第3版,日経文庫.

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参照

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