【学位論文審査の要旨】
提出された学位論文「臨床用画像検査機器を利用した年輪年代学における非破壊年輪計 測法の開発に関する研究」は、臨床用画像検査機器を利用して出土した木質文化財の年代 を非破壊的に計測するにあたり、出土した木質文化財の水分含有の状態に応じた臨床用画 像検査機器の適性について詳細に報告したものである。学位論文の審査会および最終試験 での概要を以下に報告する。
出土した遺物の年代を計測する代表的な方法には炭素法と年輪年代法がある。炭素法に よる年代計測法は炭素14の減少の割合から年代を計測する方法である。炭素法は簡便に年 代計測することが可能であるが、遺物の一部を破壊する必要があるのに加えて数十年の誤 差がある。年輪年代法による年代計測法は木材の年輪幅がその年の気候により変動するこ とを応用し、遺物内の年輪幅と年輪曲線を比較することで年代を計測する方法であり、非 破壊で計測可能という長所がある。遺物の表面が漆などで塗装されている場合には表面か らは年輪を直接観察できないために、マイクロCTが使われるが大きな文化財の場合には撮 像できない。また出土したばかりの木材遺物の場合には水浸状態で発見されるが、CTでは 水分含有率の高い木材はコントラストが悪く年輪が描出できない。
一般的に遺跡から出土する木材や木製遺物の多くは地表の空気に触れずに、ゆっくりと 流動する地下水に浸かった状態で発見される。その細胞壁の強度や微小構造などは著しく 劣化しているために、出土後に木製遺物が乾燥すると急速に腐敗する。
特に重要な遺物はトレハロースやpolyethylene glycol(PEG)などの高分子量材料によ り防腐・保存処理が適用されるが、この処理には半年から 1 年の処理期間や処理コストが 必要なため、重要かどうか判別のつかない木製遺物の多くは水浸や乾燥など、さまざまな 状態で保管されているのが現状である。そこで本研究ではさまざまな保存状態(乾燥保存、
水浸保存、PEG含侵中、PEG含侵後)の出土木材を想定し、比較的大きな対象でも断層画 像が得られる臨床用のCTやMRIおよび乳房の断層画像検査装置であるデジタル乳房トモ シンセシスを利用した新しい非破壊の年輪年代計測法を本研究で提案し、モダリティごと の適応範囲について検討した。
乾燥保存の木材の撮像には CTが適しており、PEG含侵中の木材はT1WI、水浸保存の 木材にはT2WIが適していることを明らかにした。
臨床用画像検査機器にはさまざまな種類があるが、それぞれの特徴を知り、木質文化財 材の保存状態に適したモダリティを選ぶことで年輪考古学の調査対象となる資料の適応範 囲が大きく広がる。本論文においては年輪曲線と標準年輪曲線との照合には至らなかった が、これは木質文化財と標準年輪曲線に使用された木材の生育地が違う可能性が考えられ る。今後、多くの木質文化財を用いて年輪曲線を作成することで、これまで標準年輪曲線 が作成された木材の生育地とは異なる生育地の標準年輪曲線が新たに作成できる可能性が あり、木材の流通ルートの解明など、今後の年輪年代学のさらなる応用が期待されること
を報告した。
2020年2月4日に施行した最終試験での口述試験および口頭試問では、研究成果に ついて明快なプレゼンテーションであった。また質疑に対する応答は的確であった。
以上から、試験担当者は一致して、森美加君は首都大学東京大学院 人間健康科学研究 科放射線科学域 博士後期課程の論文審査および所定の最終試験に合格したと判定し、博 士(放射線学)の学位を授与することが適当であることを報告する。