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総勘定合計表学説の研究

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(1)

総勘定合計表学説の研究

上野清貴

Abstract

Trialbalanceoftotalstheoryisatheoryexplainingthataccountingpurposeistocalculate businesseconomicactivitiesorbusinesscapitalmovementsentirelyandthataccountingstru ctureisexplainedbyaequationofassets+expenses=liabilities+capitals+revenues.The

characteristicsofthistheoryare;(1)processtheorynature,(2)object−accountnatureofallac counts,and(3)capitalthinkingnature.Itscontributionstoaccountingtheoryarethat(1)a transferlogicfromincomeaccounttobalanceaccountcanbeconstructed,(2)revenueandex penseaccountsarerecognizedasobject−accountsand(3)theaccountingstructuretheoryand measurementtheoryarelogiCallycombined.

I まえがき

総勘定合計表学説とは,会計の目的を企業 の経済活動ないし企業資本運動を統一的・全 体的に把握することにおき,資産+費用=負 債+資本+収益といういわゆる試算表等式を 改良した,待機分+派遣分+充用分+費消分

=算段分+蓄積分+稼得分といういわゆる企 業資本等式に基づいて会計構造論を展開する 学説である。後で詳述するように,この等式

の左辺は資本の運用形態を表し,右辺は資本 の調達源泉を表しており,[G−W−G′]と いう国民経済における資本循環シェーマを企 業会計に取り入れ,会計的に構成したもので

ある。

この学説では,企業資本等式を勘定的に集 約するのは試算表であるので,試算表が最も 重要な計算表ということになる。試算表はす

べての取引を集めたものであるから,まさに 企業の経済活動を統一的・全体的に把握して おり,さらに,これに損益計算および在高計 算という計算目的を導入することによって,

損益計算書および貸借対照表が導き出され る。したがって,試算表は会計における基点 であり,中心的な役割を果たすことになる。

このように,ここでは,試算表は従来から 簿記論で説かれている取引記入の検算表たる 役割をはるかに超えている。これはむしろ企 業資本運動を全体的に把捉するためにすべて の勘定を合計した表として機能するのであ る。そこで,この学説では,いわゆる試算表 は「総勘定合計表」と呼ばれる。筆者がこの 学説を「総勘定合計表学説」と命名したのは,

まさにここに由来している。

勘定学説史的に見れば,試算表を中心とす る学説は,これまでの純財産学説,貸借対照 表学説および損益学説における財産計算また は損益計算という一元的目的論の欠陥を超克 すべく,現代の会計実務を論理的に説明する ために提唱された。そこでは会計の目的を損 益計算および在高計算におき,二元的目的論 の見地からそれらを具現する損益計算書およ び貸借対照表の両者を重視し,これらの有機 的関係づけを目指して,会計を総合的に説明

(2)

しようとするものであった。 総勘定合計表学説を,山桝教授および笠井教 これまで,かかる観点から,欧米において 授の所論を参考として詳細に検討し,論述す この学説を提唱した有力な論者が何人かいた ることを目的とする。

が,残念ながら彼らは必ずしも成功したとは いえない。ケーファーの言を借りれば,

r

の勘定理論と現代実務の勘定計画との同調 は,確かに教授的利点を有しているが,記帳 機構の論理的理由づけにほとんど貢献してい ない。」そして特に,

r

貸借対照表等式と損益 計算等式の通例の結合は,それらの静的要素 と動的要素がどのような関係にあり,どうし てこれらが総勘定の試算表から分離されなけ ればならないかという問題を解決していな

J [ K a f e r

, 

1 9 7 4

, 

S .  6 4 Jのである。

これらの問題の解決に努力し,成功してい るのはむしろわが国であり,とりわけ山桝教 授および山桝理論をさらに精微化した笠井教 授であると,筆者は考えている。さらに,こ れまでの試算表を中心とする学説はどちらか といえば会計のアウトプットである損益計算 書および貸借対照表を試算表から導出するこ とに焦点をおいていたきらいがあるが,両教 授の総勘定合計表学説1)は試算表ないし総 勘定合計表自体に焦点をおき,これを基点と して,インプットである取引からアウトプッ トである財務諸表までを会計の重要な要素と し,会計を企業資本の統一的・全体的な管理 を行うための装置として位置づける,まこと に雄大な理論である。

そこで,本稿では,現行の会計実務を論理 的に説明しうる唯一の会計理論として,この 1)もっとも,山桝教授および笠井教授はこの「総勘 定合計表学説」という名称を使っておられず,上述 したように,これは筆者が命名したものである。笠 井教授は「企業資本等式体系」という名称を用いて おられる。しかし,筆者がこれまで論述してきた純 財産学説,貸借対照表学説および損益学説との関係 から,整合性を考えて,ここであえて「総勘定合計 表学説」の名称を用いることにする。

総勘定合計表学説の概要

既述のように,総勘定合計表学説とは,会 計の目的を企業の経済活動ないし企業資本運 動を統一的・全体的に把握することにおき,

資産+費用=負債+資本+収益という試算表 等式を改良した,待機分+派遣分+充用分+

費消分=算段分+蓄積分+稼得分という企業 資本等式に基づいて会計構造論を展開する学 説である。

本節の目的は,かかる学説の概要を山桝教 授および笠井教授の所論を参考にしながら説 明することにあるが,その主要な論点は,企 業資本運動との関係で企業資本等式が成立す る過程を解明し,かかる企業資本等式を複式 簿記において記帳する規則を見出しこの記 帳の集約としての総勘定合計表から損益計算 書が独立的に分離する論理を明らかにし,さ らに総勘定合計表から導き出された損益計算 書と貸借対照表の関係および機能を説明する ことにある。それでは,かかることを念頭に おきながら,以下ではまず,企業資本等式の 成立過程から見ていくことにしよう。

企業資本等式

山桝教授によれば,企業はそれ自体資本の 自己増殖を念願とする経営体であり,企業の 経済活動もかかる統一的な意思の支配によっ て導かれた企業資本の機能活動の具現であ る。そして,会計の目的は,このような企業 資本の増殖運動を計算的に把握し,企業資本 を統一的に管理することにあるとされる。す なわち,

r

企業の経済活動は,これを企業資 本の自己増殖運動として把握することができ

(3)

るところから,企業の簿記は,そのような運 動の経過ないし顛末を計算的に明らかにし,

計算の面から企業資本の統一的・全体的な管 理を行うための装置としての意味をもっ。し たがってそこでは,企業において不断に展開 される一切の経済活動,すなわち一切の取引 が,かの勘定形式による計算方法でもって,

終始,秩序的・有機的に遂行されることにな るわけである。

J

[山桝,

1 9 8 3

3 4

頁]

かかる企業資本の運動は資本の調達面と運 用面の二面的に把握されることになる。前者 の資本の調達は,資本がどのような源泉から 調達されたかを意味し,後者の資本の運用は,

調達された資本がどのような形態に運用され たかを意味する。調達された資本が運用され るので,両者は必然的に均衡することとなり,

これらが企業資本等式の原形を形成すること になる。ただ,後者の資本の運用は,資本を 何らかの用途に行使した分と貨幣の形のまま でまだ行使されずに待機している分とに大別 されるので,結局,企業資本等式の原形ない し本来の形式は次のようになる。

資本の待機分+資本の行使分

=資本の調達分 これらのうち,資本の行使分は資本を活用 した分と投資や債権などに資本を派遣した分 とに分けられ,前者の資本の活用分はさらに,

資本を在庫品や設備などに充用した分とこれ

らの資産を費消した分とに分別される。この 資本の費消分がいわゆる費用である。また,

資本の調達分は払込資本や負債により資本を 算段した分とこれらの資本を培養した分とに 分けられ,後者の資本の培養分はさらに,過 年度の利益を留保して資本を蓄積した分と収 益によって当期に資本を稼得した分とに分別 される。これを整理すると,図 1のようにな る[山桝,

1 9 8 3

3 5

]

そして,これらが企業資本等式の具体的な 内容を形成することになり,上記の企業資本 等式の原形は次のように具体化し,完成する

ことになる。

待機分+派遣分+充用分+費消分

=算段分+蓄積分+稼得分 この企業資本等式は

[G‑W‑G'](G: 

貨幣,

W:

在庫品・設備等)という国民経済 の資本循環シェーマを会計的に変容して形成 されたものであり,このシェーマを企業資本 の運用形態という一面として組み込み,それ に調達源泉という他の一面を導入・対比する ことによって,会計の技術的要件としてのこ 面性概念を構成しているのである。笠井教授 は国民経済の資本循環シェーマを会計的に変 容する過程を,次の

4

つのステップにまとめ ておられる[笠井,

1 9 9 4

3 6 2

頁]

( 1 )  

国民経済における資本の循環は,

[G 

‑W‑G' ‑W'‑G

つという一連の運

「資本の充用(在庫品,設備等)

「資本の活用‑j

資本の行使ーィ 」資本の費消(費用)

」資本の派遣(投資および債権)

「資本の算段(払込資本および負債) 資本の調達→ 「資本の蓄積(留保利益)

」資本の培養→

」資本の稼得(収益)

1

資本の行使分と調達分の内容

(4)

動を無限に繰り返しているが,企業資本 「企業の経済活動ないし企業資本運動の描 等式においては, [ ‑W], [ G' ‑W' ]  写」ということになる。

ーという異なった資本循環系列と考え られている。

(2)  その各資本循環系列は [G‑W‑EJ (E :費用)という運動を構成している。

(3)  資本元入れ・増資・借入れに伴う貨幣 流入(上記の

G )

のみならず,企業の目 的とする経済活動(生産・販売)に伴う 貨幣流入(上記のG',G"等)も,資本 の調達と考えられている(収益も,資本 の調達とみなされている)。

(4)  [G ‑ W ‑E]という資本循環系列と は質を異にした [G‑D‑G'] (D:債 権・投資)という資本循環系列が存在す

このようにして形成された企業資本等式の 最も重要な発想は,企業の経済活動ないし企 業資本運動の統一的・全体的な把握にあるo

この事情および認識しておくべき点を,笠井 教授は次のように述べられている「……企業 の経済活動ないし企業資本運動をどのように 統一的全体的に把握するか,という発想がそ の根底に潜んでいるのである。したがって,

基本的等式の形成にあたっても,まずもって,

企業の経済活動ないし企業資本運動の態様か ら出発しなければならないことになる。貸借 対照表といった既成のアウトプットをいわば 先験的に受入れてそれをどのように構成する か,という考え方に立つ伝統的な視点とは,

およそ異なった地平線にたって会計構造論を 構想されているのである。こうした『企業の 経済活動ないし企業資本運動の描写』という 発想を認識することが,企業資本等式……に 基づく会計構造論を正しく理解するうえで,

決定的に重要であると思われる。

J

[笠井,

1 9 8 9

3 3 8 ‑ 3 3 9

頁]したがって,総勘定合計表 学説を理解するための最も重要な概念は,

簿記記帳規則

以上が総勘定合計表学説において企業資本 等式が成立する過程であるが,これはあくま でも会計等式であり,実際に企業の経済活動 ないし企業資本運動を描写するためには,こ の企業資本等式に複式簿記を適用し,簿記に おける勘定記入規則を展開する必要がある。

その場合,統一的な簿記記帳規則の説明の出 発点となるものが,やはり企業資本等式であ

前項で明らかにしたように,企業資本等式 は[待機分十派遣分+充用分+費消分=算段 分+蓄積分+稼得分]であり,これに基づい て勘定記入規則を展開しようとする場合,こ の式の左辺は借方を表し,右辺は貸方を表す ことになる。したがって,待機分,派遣分,

充用分および費消分の各勘定におけるもとも との位置は借方であり,算段分,蓄積分およ び稼得分の各勘定におけるもともとの位置は 貸方である。

これが簿記記帳規則の基点である。それゆ え,各要素が増減する場合には,次のような 勘定記入規則が生じることになる。

(1)  待機分,派遣分,充用分および費消分 に関して,これらが増加する場合,それ らの勘定はもともと借方であるので,同 じ側の借方に記入され,減少する場合に は反対側の貸方に記入される。

(2)  算段分,蓄積分および稼得分に関して,

これらが増加する場合,それらの勘定は もともと貸方であるので,同じ側の貸方 に記入され,減少する場合には反対側の 借方に記入される。

これらの簿記記帳規則にしたがって,各勘 定が形成されるが,これらの各勘定は,企業

(5)

1

総勘定合計表の内容と各勘定の位置 総 勘 定 合 計 表

待 機 分 貨 幣 勘 定 )

派 遣 分 投 資 勘 定 ・ 債 権 勘 定 ) 充 用 分 費 用 性 資 産 勘 定 ) 費 消 分 費 用 勘 定 )

の経済活動ないし企業資本運動を統一的‑全 体 的 に 把 握 す る た め に つ の 表 に 集 約 さ れ る。これが一般に試算表と称されているもの であり,ここで「総勘定合計表」と命名され ているものである

2 L

前述したように,総勘 定合計表はこの学説における最も重要な計算 表であり,これに損益計算および在高計算と いう計算目的を導入することによって,損益 計算書および貸借対照表が導き出されること になる。上記の勘定記入規則から,総勘定合 計表の内容および各勘定の位置は表 1のよう になる。

以上が総勘定合計表学説における一般的な 簿記記帳規則であるが,ここで改めて問題と なるのは,費用勘定がどうして借方項目とし て独立に位置づけられ,収益勘定がどうして 貸方項目として独立に位置づけられるかとい

うことである。

総勘定合計表学説はその会計等式から明ら かなように均衡体系に属し,総勘定合計表に

)一般に,試算表には合計試算表と残高試算表とが あるので,この総勘定合計表はこれらのうちどの試 算表に該当するかが当然問題となるが,次節で示す 具体的な計算例から,これは合計試算表に属すると 推察される。そして,このことは, [""総勘定合計表」

という名称とも符合することになる。次に示す総勘 定合計表の雛形は一見して残高試算表のようにみえ るが,それは通常の貸借複式記入とは異なって,各 勘定の性質を明確にするためにそれらをプラスとマ イナスで計算しようとしているからであり,実質的 には合計試算表であることに注意する必要がある。

算 段 分 払 込 資 本 勘 定 ・ 負 債 勘 定 ) 蓄 積 分 留 保 利 益 勘 定 )

稼 得 分 収 益 勘 定 )

おいて借方と貸方とが必然的に一致する。こ の意味では,この学説は貸借対照表学説と素 性を同じくしている。貸借対照表学説におけ る会計等式(資産=負債+資本)は恒等式で あり,これから導き出される貸借対照表にお いて借方と貸方とが必然的に一致するので,

これも均衡体系に属するからである九ただ 両者の異なるところは,貸借対照表学説にお いては費用勘定および収益勘定は資本勘定の 下位勘定であるので,これらの勘定は貸方項 目であり,独立していないのに対して,総勘 定合計表学説においてはこれらの勘定はそれ ぞれ独立しており,費用勘定は借方に位置づ けられ,収益勘定は貸方に位置づけられる点 にある。そこで,貸借対照表学説と対比して,

総勘定合計表学説を合理的に説明するために は,上記の問題を解明しなければならないの である。

まず費用勘定の借方項目性問題であるが,

3)

これに対して,純財産学説および損益学説は非均 衡体系に属するということになる。純財産学説にお ける会計等式は[資産一負債=資本]であり,損益 学説における会計等式は[資産一負債一資本=収益 一費用]であり,これらは恒等式ではなく,方程式 である。それゆえ,前者は財産勘定および資本勘定 において貸借が必ずしも一致せず,後者は貸借対照 表および損益計算書において貸借が必ずしも均衡し ないのである。この意味で,純財産学説と損益学説 とは非均衡体系という同じ素性を有し,均衡体系に 属する貸借対照表学説および総勘定合計表学説とは 対立するのである。

(6)

これに関して,笠井教授は費用勘定借方要素 の必要性の論理と可能性の論理という観点か ら解明しようとされる。ここで,必要性の論 理は,費用勘定を借方項目として構成するこ とのメリット,つまり企業資本等式に依拠す ることの意義の問題であり,可能性の論理は,

費用勘定を借方要素として構成しうることの 理論的根拠,つまり企業資本等式が形成され うることの理論的根拠の問題である[笠井,

1 9 9 4

318

頁]。そして,これらの問題を,あ る材料で製品を生産するのに,失敗した場合 (仕損費勘定)と成功した場合(製品勘定) を例として具体的に説明されている。

必要性の論理について,笠井教授は次のよ うに述べておられる。「良品も住損品も,企 業の生産活動に伴って生じたものであり,そ れが良品になったか仕損品になったかは,こ こでの論点からするかぎり,いわば偶然的な ことあるいは結果的なことにすぎず,それが 生産活動の必然的な結果である,という事実 に何ら影響するものではない。そうであれば,

生産過程の十全な把握のためには,良品と住 損品について,同ーの処理がなされなければ ならないと思われる。この点,企業資本等式 は,仕損費勘定の処遇(借方項目性の付与) を通して,良品生産と仕損費発生とを,共に 借方側における資本運動つまり資本の運用形 態における転態として,統一的に把握してい るのである。そして,生産過程が,本来的に,

借方項目による材料の価値費消とその移転と にかかわる現象であるいじよう,製品勘定と 仕損費勘定とを借方側の資本運動とみること には,妥当性が認められるのである。

J

[笠井,

1 9 9 4 , 3 2 7 ‑ 3 2 8

頁]

つまり,仕損費勘定も製品勘定も同ーの生 産活動において同質問量の材料価値が費消さ れたという点でまったく共通しており,借方 側の資本運動を描写するという意味では「同

質性」を具えている。それゆえ,生産過程の 把握のために,仕損費勘定つまり費用勘定を 借方の概念として構成することが必要なので ある。

次に可能性の論理であるが,笠井教授によ れば,これまでの学説では,生産活動が行わ れたという事実そのものよりも生産活動の結 果である良品か佐損品かという相違だけに注 目し,会計の経験対象をもっぱら経済的財貨 を中心として構成したために,仕損費勘定の 借方概念性を認識できなかったのである。佐 損費勘定を借方概念として認識するために は,そのような財貨的思考を脱却し,会計の 経験対象を財貨の背後にある企業の経済活動 ないし企業資本の運動とみる思考を構成しな ければならない。教授はこの思考を「資本的 思考」と呼ばれており,この思考によっては じめて費用勘定の借方概念性が成立し,こう した発想に基づいて形成された等式が企業資 本等式にほかならないと主張される。

そして,次のように結論される。「したが って,その財貨的思考性を脱却し,会計の経 験対象を企業の経済活動ないし企業資本の運 動として構成する資本的思考に依拠するな ら,仕損費勘定(費用勘定)を独立の借方概 念として構成することは,十分に可能なので ある。そして,企業資本等式は,正に,この 資本的思考に立脚しているのである。かくし て,企業資本等式においては,仕損費勘定(費 用勘定)を借方概念として構成することが可 能であり,したがって,生産過程の十全な描 写の理論的根拠が存在する,と筆者は考えて いる。

J

[笠井,

1 9 9 4

3 3 4 ‑ 3 3 5

頁]

以上が,必要性の論理と可能性の論理から,

費用勘定を借方項目として認識する論拠であ り,これによって,費用勘定と製品勘定等の 費用性資産勘定との同質性が明らかとなった が,費用勘定がどうして独立して計上される

(7)

勘定であるのかがまだ明らかにされていな い。これは,費用勘定が費用性資産勘定に対 して「同格性」を有しているかどうかの問題 である。これに関して,費用勘定が同格性を 有している論拠を,笠井教授は次のように論

じられている。

費用勘定は費用性資産勘定とは明らかに異 なった性格を有している。つまり,費用性資 産勘定が資本としての力を保持している経済 的財貨を収容しているのに対し,費用勘定は そうした資本としての力が発揚されてしまっ た部分を指示しており,費用勘定の記録対象 はその意味において経済的財貨性を備えてい ない。「しかしながら,資本的思考に依拠す る企業資本等式は,この相違性を,上述した

『同質性』のもとにおける種差として理解す る。そこでは,費用勘定と製品勘定との相違 は,同ーの経済活動の表現という共通の上位 概念を共有しつつ(つまり類概念を同じにし つつ),単にその下位概念レヴェル(種概念 レヴェル)で相違している,ということを意 味しているにすぎない。つまり,費用勘定が 製品勘定とまったく対等の勘定として位置づ けられている,ということに他ならない。し たがって,上記の相違性は,企業資本等式に おいては,製品勘定に対する費用勘定の『同 格性』という意味内容として顕現化している のである。

J

[笠井,

1 9 9 4

3 5 2 ‑ 3 5 3

頁]

すなわち,費用勘定は費用性資産勘定に対 して対等・同格であり,これによって,費用 勘定は独立した勘定としての地位を与えられ ることになる。そしてさらに,上述した同質 性の性質と相侯って,費用勘定は総勘定合計 表において独立した借方項目として位置づけ

られるのである。

さて次は,収益勘定が総勘定合計表におい て独立した貸方項目として位置づけられてい る理由の論証であるが,笠井教授によれば,

これは費用勘定の場合と同様に,収益勘定の 例えば借入金勘定に対する「同質性」および

「同格性」の論証問題として説明することが できる。

現金を借入れる場合にも現金で商品を売上 げる場合にも,増加した企業資本額が,現金 (待機分)という資本形態として,あるいは 出資・生産等の経済活動に投資されることに よって他の資本形態(派遣分,充用分,費消 分)として機能している点では,何ら相違は ない。すなわち,現金という企業資本額の増 強により,借方側の資本運動の展開を可能に させたという点においては,つまりそれだけ 企業資本を調達したという点においては,借 入金勘定と売上勘定とはまったく同ーの機能 を果たしているのである。したがって,企業 資本等式において,収益勘定は借入金勘定に 対じて,資本の調達分として「同質性」を有 しているのである[笠井,

1 9 8 9

3 6 1 ‑ 3 6 2

]

次に同格性の問題であるが,収益勘定と借 入金勘定との間には,基本的な相違があるこ とは明らかである。借入金は外部からの資本 調達であるので必然的に償還が予定されてい るのに対して,収益はそのような償還が予定 されていなし、からである。しかしながら,企 業資本等式では,この相違も上記の同質性の もとにおける種差として理解される。そこで は,収益勘定と借入金勘定との相違は,資本 の調達分という共通の上位概念を共有しつ つ,単にその下位概念レベルで相違している にすぎない。つまり,収益勘定が借入金勘定 とまったく対等の勘定として位置づけられて いる。したがって,企業資本等式において,

収益勘定は借入金勘定に対して「同格性」を 有しているのである。そして,以上によって,

収益勘定は総勘定合計表において独立した貸 方項目として位置づけられることになる。

これまでの論証から明らかなように,総勘

(8)

定合計表学説では,費用勘定および収益勘定 は他の勘定に対して同質性と同格性をもった 真の意味における借方項目および貸方項目で あり, したがって,前述した費消分および稼 得分に関する簿記記帳規則も真の意味におけ る勘定記入規則であるということができるの である。

損益計算書の独立性

総勘定合計表学説では,このようにして作 成された総勘定合計表に損益計算および在高 計算という計算目的を導入することによっ て,損益計算書および貸借対照表が導き出さ れる。これは,総勘定合計表から費用勘定お よび収益勘定を抜き出すことによって損益計 算書を作成し,資産勘定,払込資本勘定,負 債勘定および留保利益勘定を抽出することに よっ貸借対照表を作成するという方法で行わ れる。ここでの問題は,総勘定合計表からど のような論拠で費用勘定および収益勘定が分 離され,このようにして作成された損益計算 書が貸借対照表に対して独立性を有している かどうかである。

この問題を考察するに際して,ここで改め て費用勘定および収益勘定の意味を明らかに しておく必要がある。というのは,この意味 がこれらの勘定の他の勘定に対する特殊性

(別格性)を明確にし,分離の論拠の鍵とな るからである。

費用勘定(費消分)および収益勘定(稼得 分)は,笠井教授によれば,企業資本総量の 絶対的収縮および絶対的膨脹を意味してい る。待機分,充用分および蓄積分は,それ自 体としては直接的には資本の収縮・膨脹には 関係していないし,また派遣分および算段分 は,外部への資本出資および外部からの資本 調達という点で,資本の収縮および膨脹に関 係しているが,それらのいずれもが将来当該

資本の還流(回収および返済)を予定してい るので,資本の絶対的収縮および膨脹は生じ ない[笠井,

1 9 8 9

3 6 7

頁]。これに対して,費 用勘定および収益勘定はそのような資本の還 流を予定していないので,資本の絶対的収縮 および膨脹が生じるのである。

この資本の絶対的収縮および膨脹が,費用 勘定および収益勘定が総勘定合計表から分離 される論拠となる。まず費用勘定に関して,

笠井教授は次のように述べられている。「こ こにおいて,企業資本総量の絶対的収縮とい う費用勘定(費消分)の特殊性は,企業資本 等式の借方側全体における費用勘定の『別格 性』という性格を意味するに至るのである。

すなわち,その他の基本的カテゴリーは,い ずれも,これから資本としての力を発揮し得 る部分を表現しているのに対し,この費用勘 定(費消分)だけは,資本としての力を既に 喪失してしまった部分を意味しているので,

企業資本の増減計算を行うために,他の基本 的カテゴリーから分離する必要があるのであ

J

[笠井,

1 9 9 4

3 8 0

頁]つまり,費用勘定 は他の待機分,派遣分および充用分の勘定に 対して別格性を有しており,これによって,

他の勘定から分離されることになるのであ

この事情は収益勘定においても同じであ る。収益勘定(稼得分)は企業資本総量の絶 対的膨脹という特質を有しており,この点に おいて他の算段分および蓄積分の勘定とは基 本的に異なっている。ここに,収益勘定は総 勘定合計表の貸方において別格性を有するこ とになり,他の勘定から分離する必要性が生 じるのである。

これによって,費用勘定および収益勘定が 他の勘定から分離される論拠が明らかとなっ たので,次に問題とすべきは,これらの勘定 がどうして共に損益計算書に収容されなけれ

(9)

ばならないかである。この理由を,笠井教授 は次のように述べておられる。「結論的に言 えば,この企業資本総量の絶対的膨脹と絶対 的収縮とに一定の対応関係があり,その意味 では単独では未完結だからである。つまり,

費用勘定(費消分)は,企業資本総量の絶対 的収縮を意味するのであるが,もちろん,費 用勘定は,それ自体を自己目的として生じた わけではない。すなわち,その犠牲を払うこ とによって,他方では一定の成果の獲得が企 図されているのである。その一定の成果が,

正に企業資本総量の絶対的膨脹を意味する収 益勘定に他ならない。逆に言えば,そうした 企業資本総量の絶対的膨脹を獲得するために は,他方で,費用勘定という犠牲が,つまり 企業資本総量の絶対的収縮が不可欠なのであ

J

[笠井,

1 9 9 4

3 8 3

頁]

そして,この企業資本総量の絶対的収縮と 絶対的膨脹とを対応させる計算表が,損益計 算書にほかならない。そこにおいて,収益勘 定から費用勘定を控除した額は,資本の犠牲 部分を補償してなお存在する資本の稼得分で あり,資本の純調達額つまり利益を意味する。

したがって,総勘定合計表から費用勘定およ

総 勘 定 合 計 表

資 産 勘 定

払込資本勘定 l

ー →

負 債 勘 定 留保利益勘定

J

収 益 勘 定 費 用 勘 定 →

び収益勘定を抜き出し,損益計算書において これらを対応させることによってはじめて,

企業の経済活動の目的である資本の増殖額つ まり利益が算定されるのである。逆にいえば,

企業利益を算出するためには,費用勘定と収 益勘定とを損益計算書に収容し,これらを対 応させて差引き計算を行う必要があるのであ

以上の論拠により,総勘定合計表から費用 勘定および収益勘定を分離して損益計算書が 作成されることになる。と同時に,他の勘定,

つまり資産勘定,払込資本勘定,負債勘定お よび留保利益勘定も総勘定合計表から分離さ れ,貸借対照表が作成される。いま,この関 係を示すと,図

2

のようになる[笠井,

1 9 9 4

3 8 4

]

そして,この図

2

から,損益計算書の貸借 対照表に対する独立性が明らかとなる。そこ では,損益計算書は借方において貸借対照表 の借方項目と同格である費用勘定を収容して おり,貸方において,貸借対照表の貸方項目 と同格である収益勘定を収容している。それ ゆえ,損益計算書自体も貸借対照表に対して 同格性を有しており,この損益計算書は貸借

貸 借 対 照 表

資 産 勘 定

払込資本勘定 負 債 勘 定 留保利益勘定

損 益 計 算 書

費 用 勘 定

収 益 勘 定

2

総勘定合計表の分離

(10)

対照表に対して独立性が認められるのであ

このことを,笠井教授は次のように表現さ れている。「ある勘定が,他の勘定に対して,

この同格性および別格性を具えるとき,その ある勘定は,他の勘定に対して,完全に自己 の独立性固有性を主張することができる。つ まり,まったき意味での『独立性』を帯びて いるのである。この意味において,この体系 における損益勘定(損益計算書一筆者)は,

残高勘定(貸借対照表一筆者)に対して独 立性を保持しており,最上位に対するひとつ のアウトプットとして,そのレーゾン・デー トルが認められるのである。

J

[笠井,

1 9 8 9

3 7 7 ‑ 3 7 8

頁]

損益計算書と貸借対照表の関係と機能 これによって,総勘定合計表学説において は,損益計算書と貸借対照表は同格性と別格 性を具えていることが明らかとなった。そこ で,この段階で次に問題になるのは,両者の 関係である。具体的には,損益計算書で算定 された利益を貸借対照表に振替えることがで きるかどうかの振替問題である。これに関し て,笠井教授は,振替関係が形成されるため には少なくとも次の

3

つの要件が必要である とされる[笠井,

1 9 8 9

3 8 4

]

(1)差額の所在および性質に関して,貸借 差額が損益計算書と貸借対照表とで逆に なっていなければならず,損益計算書の 差額が余剰性であり,貸借対照表の差額 が欠如性でなければならない九

4)勘定における貸借差額は従来一般に余剰性と考え

られてきたが,笠井教授によれば,余剰性の場合と 欠如性の場合とがある。ここで欠如性とは,当該勘 定が未完結の状態にある場合の性質であり,その欠 如した部分はいずれ充たされ,貸借が均衡すること になるはずのものである。したがって,欠如性は均

(2)  損益計算書はフロー表であり,貸借対 照表はストック表であるから,当該理論 体系のなかに,フローたる損益計算書利 益額を,ストック概念に転換する論理が

内在していなければならない。

(3)  そのようにストック概念化され,貸借 対照表に計上された項目が,貸借対照表 の他の貸方項目との加法性を具えていな ければならない。

そして,総勘定合計表学説における損益計 算書と貸借対照表はかかる振替要件を満たし ていると,笠井教授はいわれる。その理由は 以下のとおりである[笠井,

1 9 8 9

3 8 5 ‑ 3 8 6

] 1の余剰性と欠如性に関して,損益計算 書は借方と貸方において企業資本総量の絶対 的収縮・膨脹という同ーの属性に関係してお り,さらに,そこにおける収益は利益計算に 関してプラスの要素性をもっており,費用は

衡体系に属し,これに対して余剰性は非均衡体系に 属することになるが,笠井教授はさらに,余剰性概 念と欠如性を伴う均衡性概念の特質を次のように明 らかにされている。「まず余剰性概念であるが,借 方と貸方とから単一の数値が算出されるということ は,借方と貸方とが,何らかの意味でのプラスとマ イナス(あるいはマイナスとプラス)との関係にな ければならないであろう。そして,そのような正負 関係が形成されるためには,借方と貸方が共に何ら かの意味で同ーの属性にかかわっていなければなら ない。すなわち,逆に言って,借方と貸方とに同質 性がない限り,加減することはできず,その論理的 帰結として,単一の数値を算出することは不可能と なるのである。かくして,余剰性概念における借方 と貸方との関係には,①正負関係および②同質性(同 ーの属性にかかわっていること)というふたつの特 質が認められるのである。それと逆の論理によって,

均衡性概念の借方と貸方とが,独立のプラスの要素 であること,したがって,異なったふたつの属性等 にかかわっていることは,既に明らかであろう。つ まり,①プラス要素性および②異質性(異なった属 性あるいば対象・活動等にかかわっていること)と いうふたつの特質が指摘できるのである。

J

[笠井,

1 9 8 9 , 3 2

頁]

(11)

マイナスの要素性を有している。したがって,

損益計算書の差額は余剰性を帯びていること は明らかである。問題は貸借対照表の差額で あるが,これは欠如性である。なぜなら,ま ず消極的にみて,貸借対照表の借方と貸方と は,プラスの経済活動とプラスの経済活動つ まり異なった経済活動を表現しており,正負 関係を構成しているものではないから,その 差額は余剰性ではありえない。次に,積極的 にいえば,この貸借対照表においても,資本 の待機分・行使分と資本の調達分との均衡関 係が作用するはずなのであるが,この時点で は,その貸方には,本来計上されるべき,当 期に稼得された資本の増殖分が欠落している のである。したがって,いずれ(振替によっ て)埋められるべき額が欠如しているのであ るから,その差額は欠如性を帯びているので ある。

2

のフローからストックへの転換の論理 に関して,総勘定合計表学説においては,企 業の目的とする経済活動(生産,販売等)に より稼得された収益勘定は,本来的に企業資 本の調達分の一種である。したがって,例え ばその成果に対して何の犠牲もなかったとす れば,収益勘定に累積されたフロー額は,期 末においてそのまま,稼得された企業資本の 堆積額つまりストック額を示すことになるは ずである。しかし,この成果に対しては,一 般に費用勘定という犠牲が随伴するので,損 益計算書において両者を対応させたのであ る。したがって,期末時点において,損益計 算書上の貸方余剰額は,企業の目的とする経 済活動によりもたらされた純調達分という ストック概念に転化しうるのである。この純 調達分というストックを収容する勘定に対 I当期利益勘定」という用語を充てると,

[損益計算書

x X

,当期利益勘定

xxJ 

いう振替仕訳が可能となり,この学説におい

て,フロー額たる損益計算書利益額をストッ ク額に転移しうる論理が内在しているのであ

3

の加法性の問題に関して,この当期利 益勘定は期末概念かつストック概念である。

さらに,これは企業の目的とする経済活動に 基づき当期に増殖をみた純調達分であるか ら,その点でも,留保利益勘定および払込資 本勘定・借入金勘定とまったく同じ性質を具 えている。もちろん一定の相違はあるが,払 込資本勘定・借入金勘定(算段分)との相違 は,資本調達年度の差にすぎず,資本の調達 分としてはまったく同じである。かくして,

当期利益勘定(増殖分)には,留保利益勘定 (蓄積分)および払込資本勘定・借入金勘定 (算段分)との加法性が存在するのである。

これらによって明らかなように,総勘定合 計表学説では,振替関係が形成されるための 要件がすべて満たされ,損益計算書において 算定された利益を貸借対照表に振替えること ができる。さらにこれは,具体的には,期末 において,損益計算書で計算されたフロー額 としての利益をストック勘定としての当期利 益勘定に振替え,翌期首において,この当期 利益勘定額を留保利益勘定に移記することに よって行われる。したがって,それぞれの振 替仕訳は次のようになり[笠井,

1 9 9 4

3 9 5

J

損益計算書と貸借対照表との問で,振替関係 が最終的に認められるのである。

当期末

[ 損 益 計 算 書

xx

,当期利益勘定

xxJ 

翌期首

[当期利益勘定

xx

,留保利益勘定

xxJ 

ところで,この振替問題は会計の構造的問 題であるが,ここで注意すべきことは,これ がさらに会計の機能的問題をも規定すること になる,ということである。上述したように,

総勘定合計表学説では,損益計算書の差額は

(12)

余剰性を有しており,貸借対照表の差額は欠 如性を帯びているので,損益計算書で算定さ れた利益を「当期利益勘定」を通じて貸借対 照表に振替えることができたのである。とい うことは,そこでは,損益計算書のみがもっ ぱら損益計算を行っており,貸借対照表は損 益計算を行わずに,別の機能を分担している ということになる。この機能は「在高計算」

機能ということになるのであるが,ここで重 要なことは,この学説では,損益計算書と貸 借対照表がそれぞれ別々の機能を担っている

ということである。

この事情を,笠井教授は次のように述べら れている。総勘定合計表学説の「……特質と しては,損益計算書の損益計算と貸借対照表 の在高計算とが統合されている点にある。そ こでは,損益計算機能は,もっぱら損益計算 書が分担し,貸借対照表にはまったく予定さ れていなし、貸借対照表の差額は欠如性であ るから損益計算書においてのみ算定された 利益額が,その利益額だけ欠けている貸借対 照表の欠如部分に,填め込まれるにすぎない。

このように,貸借対照表が,損益計算機能を 遂行することは不可能なのである。そして,

損益計算書が損益計算機能を遂行しているい じよう,貸借対照表までもが損益計算を行う 必要はない。企業資本等式においては,貸借 対照表の損益計算機能は,不可能であるし,

不必要でもある。かくして,損益計算機能に ついては損益計算書にまったく委ね,みずか らは,在高計算機能に徹するのである。

J

[

1 9 9 4

396

頁]

このように,総勘定合計表学説では,貸借 対照表は損益計算を行わずにもっぱら在高計

算を遂行するのであるが,ここで在高計算と は,笠井教授によれば,余剰性概念である財 産計算に対立するものであり,均衡性概念の もとでのみ行われる計算である。「つまり,

財産計算とは,残高勘定等において,その貸 借を通じて唯一の差額数値の算出を企図する ものであるが,そのためには,その借方と貸 方とは,正と負との関係になくてはならない。

しかるに,この総勘定合計表の二面性結合体 系においては,残高勘定の借方と貸方とは,

正負の関係ではなく,ふたつの異なった資本 運動の関係を意味しており,常にその均衡が 予定されているのである。したがって,その 損益勘定利益額を収容した残高勘定において は,けっして財産計算ではなく,それとは区 別されたものとしての在高計算が遂行されて いるのである。

J

[笠井,

1 9 8 9

3 9 2

頁]

したがって,この在高計算が総勘定合計表 学説おける貸借対照表の唯一の機能であり,

損益計算機能をもっぱら遂行する損益計算書 と相侠って,企業の経済活動ないし企業資本 運動の描写のアウトプ、ソトを形成するのであ

総勘定合計表学説の計算例

以上によって,総勘定合計表学説の概要が 明らかとなったが,この学説の理解をさらに 完全にするために,本節では笠井教授の提示 された具体的な計算例[笠井,

1989

403‑405

頁]を,前節で明らかにしたこの学説の基本 的思考にそって詳細に解説してみよう。

まず,期首在高と期中取引は次のようであ

( 1 )

期首在高:現金

a / c

 1

000

万 円 , 借 入 金

a / c 5 0 0

万円 商品

a / c

 1

000

万 円 , 資 本 金

a / c

 1

2 0 0

万円 留保利益

a / c 3 0 0

万円

(13)

( 2 )  

期中取ヲ

1 :

①商品

5 0 0

万円を現金で購入

②商品

9 0 0

万円を現金

1

4 0 0

万円で売却

①給料

3 0 0

万円を現金で支払

④現金

1 0 0

万円を貸付

これらの期首在高および期中取引に基づい ただし,単位は万円である。

て総勘定元帳を作成すれば,次のようになる。

期首1,

0 0 0   I

9 0 0  

② 

9 0 0   I 

5 0 0   I ③ 3 0 0   I 

以上の資料に基づいて,これから総勘定合 計表学説における一連の計算表を作成するこ とになる。その場合,当該表がストック表で あるかフロー表であるかが重要な問題とな

(a)

貸 借 対 照 表 現金

a / c

貸付金

a / c

期首1,

0 0 0   I

5 0 0  

期首

② 1 ,  

4 0 0   I ③ 3 0 0

1 0 0  

④ 1 0 0  

商品

a / c

費用

a / c

AU  

UFU

一 一 蛸

留保利益

a / c

期首

3 0 0  

資本金

a / c

売上

a / c

│腕1,

2 0 0

② 1 .  

4 0 0  

る。これを念頭におきながら,まず,期首の 貸借対照表

(a)

を作成すると次のようにな

り,これはストック表を表すことになる。

(ストック表) 現 金

a / c

期首

1 , 0 0 0

商 品

a / c

期首

1 , 0 0 0

これらの期首繰越額は,当期へのインフ ローとみることができる。したがって,企業 の経済活動ないし企業資本運動を統斗的に把 握する過程において,諸勘定は,期首繰越額

借 入 金

a / c

期首

5 0 0  

資 本 金

a / c

期首1,

2 0 0  

留保利益

a / c

期首

3 0 0  

中減少額というアウトフロー額とを把握する ことになる。それらを総括したものが,次の 総勘定合計表 (b) である。ここでは,各勘 定の位置を明確にするために,貸借複式記入 および期中増加額というインフロー額と,期 ではなく,プラス・マイナスで示されている。

(b) 総勘定合計表

(フロー表)

1 / 1 ' " ' ‑ '  1 2 / 3 1  

待機分:現

a / c

期 首 +1 

0 0 0  

借 入 金

a / c

期 首 +

5 0 0  

増 加 +1 

4 0 0  

増加

+0 

減少

‑900 

減少

‑0 

派 遣 分 : 貸 付 金

a / c

期首

+0 

資 本 金

a / c

期 首 +1 

2 0 0

卜:算段分 増加

+100 

増加

+0 

減少

‑0 

減少

‑0 

(14)

充用分:商

a / c

期 首 +1 

0 0 0  

留保利益

a / c

期首

+300 

:蓄積分 増加

+500 

増加

+0 

減少 ‑900  減少 ‑0 

費消分:費

a / c

収 縮 +1 

2 0 0  

a / c

膨 脹 +1 

4 0 0  

:稼得分 総勘定合計表学説における企業資本等式

は,これを定式化したものであり,これは一 般に合計試算表と呼ばれているものにほかな らない。通常の複式簿記では,この合計試算 表から残高試算表が作成され,これを分割し てストック表としての貸借対照表とフロー表 としての損益計算書とを作成するのである

が,この学説では総勘定合計表をそのまま分 割して,フロー表としての差引き計算されて いない状態の「貸借対照表

J (c‑l)

と同じ くフロー表としての損益計算書

(c‑2)が次

のように作成される。これによって,両者は フロー表として統一され,論理的に整合する のである。

( c  ‑1 )  

I貸借対照表」

(フロー表)

1 / 1 ' " ' ‑ '  1 2 / 3 1  

a / c

期首+1,

0 0 0  

借 入 金

a / c

期首

+500

増 加 +1 

4 0 0  

増加

+0  減少 ‑900  減少 ‑0 

貸 付 金

a / c

期首

+0 

資 本 金

a / c

期 首 +1 

2 0 0  

増加

+100 

増加

+0  減少 ‑0  減少 ‑0 

a / c

期 首 +1 

0 0 0  

留保利益

a / c

期首

+300 

増加

+500  減少 ‑900 

(c ‑ 2)損益計算書

(フロー表)

増加

+0  減少 ‑0 

1 / 1 ' " ' ‑ '  1 2 / 3 1  

費 用

a / c

収 縮 + 1 , 川 収 益

a / c

膨 脹 +1 

4 0 0  

そして, I貸借対照表

J (c‑

l)の諸構成項 が,次の貸借対照表

(d‑l)

および当期利 目および損益計算書 (c‑2) の諸構成項目と 益勘定 (d‑2) であるロこの時点で,両者 のそれぞれにおけるインフローとアウトフ はストック表としての性格を帯びることにな ローとの差引き計算後の数値を集めたもの

(d ‑ 1)貸借対照表

(ストック表)

1 2 / 3 1  

a / c

期 末 +1 

5 0 0   I

借 入 金

a / c

期末

+500

貸 付 金

a / c

期末

+100 I

資 本 金

a / c

期 末 +1 

2 0 0  

a / c

期末

+600 I

留保利益

a / c

期末

+300

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