﹃飛 歩 経 ﹄ ﹃飛 行 羽 経 ﹄ 考
石 井 昌 子
はじめに
『飛歩経』 『飛行羽経』考
?1
(‑)本稿は六朝期道教上清派の経典研究の一環である︒これまで︑﹃三洞奉道科誠儀範﹄(略称﹃科誠儀範﹄)の﹁経目﹂に
著録されている経典と︑現行道蔵本所収の同名或は類似していると考えられる経典との関係を経典目録作成の作業として
(2)進めてきた︒本稿はその﹁経目﹂に著録する﹃上清飛歩天剛蹄行七元一巻﹄(略称経目本﹃飛歩経﹄)と﹃上清白羽黒翻飛
行羽経一巻﹄(略称経目本﹃飛行羽経﹄)について考察するものである︒﹁経目﹂のこの二経典は第四番目と第二十四番目
(3)に著録するものであるが︑本稿において同じく取り扱うことにしたのは︑﹃無上秘要﹄(略称﹃秘要﹄)に﹁洞真飛歩天綱
蹄行七元白羽黒翻飛行羽経﹂とあることによる︒﹃秘要﹄にいう名称は﹁経目﹂に著録する経典名の﹁上清﹂を﹁洞真﹂
とし︑二つの経典を合したもので︑名称からみるだけでは一つの経典のようにもみえる︒二つの経典が密接な関係にあみ
ことは︑この名称からも推しはかれるが︑どのような関係にあるかを古道経の引用文等からも考察する予定である︒
相当する現行本
経目本﹃飛歩経﹄﹃飛行羽経﹄に相当すると考えられる経典は︑以下の現行道蔵本五経典といえる︒
ω洞真上清太微帝君歩天綱飛地紀金簡玉字上経(略称道蔵本﹃飛歩経﹄)
②洞真太上飛行羽経九真昇玄上記(略称道蔵本﹃飛行羽経﹄)
㈹太上飛行九農玉経(略称﹃飛行九農玉経﹄)
ω白羽黒翻霊飛玉符(略称﹃白羽黒翻玉符)
㈲洞真上清龍飛九道尺素隠訣(略称﹃龍飛九道尺素隠訣﹄)
以上五経典の他に︑﹃訣経目録﹄に︑相当する経典として﹃上清廻元九道飛行羽経﹄がある︒
以下︑道蔵本の五経典について概説する︒
道蔵本﹃飛歩経﹄は︑﹃道蔵﹄右字号︑第一〇二七冊所収の二十九紙から成る経典である︒冒頭に歩綱図と符を記す︒
つづいて﹁順行法﹂︑﹁倒行法﹂︑﹁反行法﹂について詳説する︒この﹁順行﹂﹁倒行﹂﹁反行﹂を﹁三道﹂といい︑これらす
べてが畢ると︑﹁拠斗﹂﹁墓魁之道﹂﹁接真之道﹂﹁歩斗之道﹂﹁歩綱之道﹂と進む︒そして︑これらの法によって得た仙人
たちの結果を記している︒得た結果とは以下の如きものである︑十九紙以下を記す︒
被衣は歩綱して七精下遊す︑
薔鉄は歩綱して上登天堂す︑
王侃は歩綱して乗雲十天す︑
黄帝は歩綱して精為軒転︑
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許由は歩綱して鳳風群翔す︑
巣父は歩綱して上朝天皇︑
支離は歩綱して栖集閲風す︑
華封は歩綱して体生玄雲す︑
子州は歩綱して翠龍虎服す︑
善巻は歩綱して乗驕龍燭す︑
石戸は歩綱して飛行癩州︑
北人は歩綱して玉女来遊す︑
蒲衣は歩綱して遂に入北斗︑
安公は歩綱して赤龍見負す︑
桓成は歩綱して遂に文始に見え友を得て西帰す︑
半車童子二女は歩綱して倶に溝白水し乃ち金母に見え身を東陛に栖む︑
†随は歩綱して駕龍泰清す︑
務光は歩綱して身超紫庭︑
馬皇は歩綱して龍雲倶至す︑
彰祖は歩綱して流沙をゆき︑
老購は歩綱して称して聖師と日い︑関令受教して倶に雲台に会す︑
郊間は歩綱して乗龍奔辰放釣棄論して永く上真と為る︑
大項は歩綱して色嬰児に反る︑
秦始は歩綱して神龍吐符す︑
泊子は歩綱して河出霊魚服担玉液して︑遂に玄洲に昇る︑
薫史は歩綱して隠逸秦楼弄玉受教して︑倶に青丘に到る︑
接輿は歩綱して夫妻倶に仙を得︑峨媚を治め山川を封掌す︑
伯昏は歩綱して列して水霊と為る︑
庚桑は歩綱して遊行八冥す︑
歩綱の日については一月に七日とし︑一日︑五日︑九日︑十五日︑二十日︑二十五日︑二十九日という︒俗人が見てい
ては天精が降らないから無人の処がよいとある︒
(4)最後に﹁歩綱踊紀之法﹂の有ることを記す︒この法は漢の成帝陽朔元年(前二四)に大司馬王鳳が道士劉京が郁邸張君
に従って仙を学び﹁歩天綱法﹂を聞いたとある︒そして︑この法が世に行われるようになったのは劉京によってであると
結論する︒
道蔵本﹃飛行羽経﹄は︑﹃道蔵﹄内字号︑第一〇三三冊所収の十三紙から成る経典である︒一名﹁上清太上廻元九道飛
行羽経﹂という︒冒頭にその伝授の次第を説く︑それによると︑太上大道君︑上清玉帝君︑上元太素君︑太微天帝君︑展
中黄景君︑皇初紫霊君︑中央黄老君︑青童太君へと伝えられた︒つづいて︑太素三元君︑太帝君︑青童大君の言がある︒
次に﹁青童君口訣﹂﹁九真昇玄文(九真之音法)﹂﹁九真中経口訣﹂﹁青童口訣﹂を説く︒特に﹁九真中経口訣﹂は﹁九真
中経在人間施行亦有口訣︑本文似秘不書也︑今請言之﹂といって︑第一真法から第九真法までそれを行う日時を示してい
る︒
この経典は﹁太上中真之道﹂で︑﹁次第之中﹂ではなく﹁中和之中真﹂であるという︒﹁中真之道﹂については﹃上清太
(5)上八素真経﹄に﹁夫上真之道有三︑中真之道有六︑下真之道有八﹂といい︑﹁中真之道﹂の二番目に﹁三天正法鳳真之文
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九真升玄文﹂とあるが︑これに相当することになろうか︒
﹃飛行九農玉経﹄は︑﹃道蔵﹄遜字号︑第一九五冊所収の三十四紙から成る経典である︒第二十六紙裏五行から第三十四
紙五行までは︑道蔵本﹃飛歩経﹄の第九紙裏一行から第十七紙裏二行までに相当する︑文字の相違は多少見られるが全く
同じ内容である︒
最初に天・地・人にそれぞれ九気・九州・九孔があり︑九星との関係を説き︑さらに玉清之道︑上清之道︑太清之道の
実践について説く︒つづいて飛歩之道を説く︒
次に﹁歩斗魂魂﹂を説く︑以下に第一から第九までを記す︒
第一天枢星則陽明星之魂神也
第二天瑛星則陰精星之魂神也
第三天磯星則真人星之醜精也
第四天権星則玄冥星之醜精也
第五玉衡星則丹元星之魂霊也
第六閲陽星則北極星之醜霊也
第七揺光星則天関星之魂太明也
第八洞明星則輔星之魂精陽明也
第九隠元星則弼星之魂明空霊也
次に﹁九星之道﹂を説く︑以下に各星の役割のみを記す︒
陽明星天之太尉司政主非
陰精星天之上宰主禄位
真人星天之司空主神仙
玄冥星天之遊撃主伐逆
丹元星天之斗君主命録籍
北極星天之太常主昇進
天関星天之上帝主天地
輔星天尊玉帝之星也︑日常常者常陽主飛仙
弼星太帝真星也︑日空空者恒空隠也︑主変化
この後の部分は前述したとおりである︒
﹃白羽黒翻玉符﹄は道蔵張字号︑第三七冊所収の六紙からなる小部の経典である︒最初に経の由来を述べ︑次に五つの符
と説明がある︒
1上霊飛玉符玄仙羽精自然之章
む む む これを侃すること七年で﹁乗空飛行上登七元﹂︑羽経飛歩之道を修めてもこの符が無ければ﹁乗虚升玄を得ず︑(こ
の後に受者の方法を記す︑以下同じ)︒
2下霊飛玉符元始之精羽玄玉章
むむむ むこれを侃すること九年で﹁乗空飛行上登五星﹂︑飛歩升玄之道を行ってもこの符が無ければ﹁乗空而行﹂を得ず︒
3左霊飛玉符玄気始生之精素羽之章
むむむ むむこれを侃すること九年で﹁乗空飛行上登五星﹂︑飛歩升玄之道を行ってもこの符が無ければ﹁躇雲玄登﹂を得ず︒
4右霊飛玉符元気之精升玄羽章
む むむこれを侃すること九年で﹁乗飛雲行歩玉清﹂を得︑飛歩之道を修めてもこの符が無ければ﹁隔於七元而升虚﹂を得
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ず︒
5大霊飛玉符陽気黄精飛行羽章
これを侃すること九年で﹁面生金光坐立亡飛行太虚﹂︑飛歩之道を修めてもこの符が無ければ﹁仰登皇魁超升九玄﹂
を得ず︒
﹃龍飛九道尺素隠訣﹄は﹃道蔵﹄通字号︑第一〇二八冊所収の十一紙から成る経典である︒﹁白羽黒翻飛玉符﹂の見出し
がある︒六紙半からの﹁太上飛行羽経昇玄上記﹂以下は﹃白羽黒翻玉符﹄が収められている︑文字の相違が多少あるのみ
で︑全く同じ経典といえる︒前半の部分は︑符と盟文︑その書き方を記す︒
以上︑相当する現行本五経典についてみてきた︒まず︑道蔵本﹃飛歩経﹄と﹃飛行九展玉経﹄が約八紙にわたって一致
する部分があるということである︒これは経目本﹃飛歩経﹄﹃飛行羽経﹄の関係をみる上で重要なことである︒また︑﹃飛
(6)行九農玉経﹄に﹃九農玄図金簡文﹄の文を引用して︑﹁修飛歩九農之道亦当依歩天綱之日兼而行之︑益求飛天之速玄斗屡
整也︑若兼修者当先行九農而後行歩天綱也︑此二法呪呪為異原同一法﹂という︒とすると︑この二つの法はもともとは同
(7)一法であったということになる︒また︑道蔵本﹃飛歩経﹄に﹁夫四小童並天真之師也︑所受隠書施行倶一事耳︑三綱六紀
六害六絶異其名耳︑春歩七星名日歩三綱︑夏歩七星名日蹄六紀︑秋歩七星名日行六害︑冬歩七星名日登六絶︑按而密行遥
(8)遊上清﹂とある︒春夏秋冬の文句は﹃飛行九農玉経﹄にもみえる︒
﹃白羽黒翻玉符﹄の各説明文の中に︑﹁羽経飛歩之道﹂﹁飛歩升玄之道﹂﹁飛歩之道﹂を修めても︑この符(それぞれの玉
符)がなければ﹁乗虚升玄﹂﹁乗空而行﹂﹁乗空飛行上登五星﹂﹁踊於七元而升虚﹂﹁仰登皇魁超升九玄﹂を得ることができ
ない︑とあることは興味深い︑実践修行に符は必須のものということになろうか︒以下︑これらの点もふまえて考察して
いく予定である︒
二古道経の引用文と現行本の関係
(9)(10)(11)(12)引用文のある古道経は︑﹃真詰﹄﹃登真隠訣﹄(略称﹃隠訣﹄)(略称﹃珠嚢﹄)﹃上清道類事相﹄(略称﹃秘要﹄﹃三洞珠嚢﹄
(13)(14)(15)﹃事相﹄)﹃道教義枢﹄(略称﹃義枢﹄)﹃雲笈七籔﹄(略称﹃七籔﹄)﹃上清侃符文白・黄券訣﹄(略称﹃白券訣﹄﹃黄券訣﹄)
(16)﹃太平御覧﹄(略称﹃御覧﹄)の九経典である︒引用文と現行本との比較対照はすべておこなってあるが︑紙数の都合もあ
るので︑長文の引用については︑双方の相当する個所を示し︑問題点を指摘するにとどめる︒所在の表記は︑巻・紙数・
表裏・行とし︑巻三第十二紙表五行は3/12a5のように示し︑引用文の出典名は所在を示した後に﹁右出飛歩経﹂の如
く示す︒また︑経典名のみの引用の場合は︑その前後を示しておく︒
︽真詰︾
①5/3a2
むむむむむむ 君日︑仙道有飛歩七元天網之経︑在世︒
(17)ここにいう﹁飛歩七元天綱之経﹂は﹁在世﹂とある︒この条を含む十七条は﹁在霊書紫文中並瑛耳丹之所変化也﹂とあ
(18)るから︑この経名は﹃霊書紫文﹄中にあることになる︒道蔵本﹃飛歩経﹄に相当する経典と考えられる︒
②5/4b4
むむむ 君日︑仙道有飛行之羽︑以超虚隔空︒
仙道に﹁飛行之羽﹂がある︑ということであるが︑﹁在世﹂とないところからすると︑仙道としてはあったが︑経典と
して成立していなかった︑と理解してよかろう︒この仙道が︑道蔵本﹃飛行羽経﹄ということになろうか︒
③9/1a10(注記)