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平成 30 年度伊藤光昌氏記念学術助成金(研究助成)成果報告書

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Transactions of The Research Institute of

87

Oceanochemistry Vol. 32 No. 1, Apr., 2019

平成 30 年度伊藤光昌氏記念学術助成金(研究助成)成果報告書

研究課題番号 H30‑R6

研究課題名 深海底堆積物中における生物活性微量金属元素の動態解明

研究代表者 南 秀樹

(または学年) 所属・職 東海大学生物学部・教授

1.研究目的および背景

海水中の微量金属元素には,生物代謝において 重要な役割を担っている元素が多く存在し生物活 性微量金属元素と呼んでいる.動・植物プランク トンの死骸や糞粒を含む懸濁粒子および沈降粒子 は生物活性微量金属元素のリザーバーとなる.こ れらの粒子の沈降による深層水への輸送は,大気 中の二酸化炭素の海洋への主要な搬入経路でもあ るが,プランクトン体内に蓄積(吸収あるいは吸 着)された生物活性微量金属元素も同様に運ばれ る.実際に海水中を沈降し,海水と堆積物境界層

(海底境界面)を通過して堆積する有機物のフラッ クスは(海洋から堆積物として除去される量),

海底に到達する有機物のフラックスに比べて極め て小さいことがセジメントトラップ実験などの報 告でわかっている.当然有機物と一緒に運ばれて きた生物活性微量金属元素も海底境界層で海洋に 再び回帰しているものと考えられる.更に一旦堆 積した様々な物質はそのままの状態で堆積物中に 存在している訳ではなく,埋没後に上部堆積物中

で比較的速やかに変質を受ける.この変質過程を 初期続成過程と呼び,その主要な化学変化は有機 物の微生物に媒介された酸化分解である.この時 に間隙水中に遊離した化学種は底層水との濃度差 に依存して拡散することが報告されている.そこ で本研究では,これらの親生物元素の挙動に密接 に関係している生物活性微量金属元素の堆積物中 における挙動について,分画分析などを行いて明 らかにすることを目的とする.なお,今年度につ いては,白鳳丸 KH-12-4 次航海の北太平洋横断観 測の試料を中心に研究を進め,ファンデーフカ海 嶺周辺における熱水性の堆積物について分析を 行った.

2.試料採取および分析方法

試料は 2012 年 8 月から 10 月の間に行われた独 立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)に所 属する白鳳丸の KH-12-4 次航海(GEOTRACES 航海)において,マルチプルコアラーを使用して 採取した(図 1).採取した堆積物試料は船上で 0.5

学術助成報告

図 1.白鳳丸 KH-12-4 次研究航海における堆積物試料採取位置

(2)

88

海洋化学研究 第 32 巻第 1 号 平成 31 年 4 月

〜1.0 cm 毎にカットし,窒素充填したグローブ ボックス内で間隙水を抽出した.堆積物中の全炭 素および全窒素は CHN コーダを用いて測定した.

生物起源ケイ素(Biogenic-Si)は炭酸ナトリウム を用いて抽出し,Al を同時定量することで粘土 鉱物の影響を補正して定量した.金属元素は硝酸,

過塩素酸,フッ化水素酸の混酸で全溶解(Total)

したものと,6% 酢酸で抽出した酢酸溶出フラク ション(HOAc)および 6% 酢酸と塩酸ヒドロキ シルアミンで選択溶解した還元剤溶出フラクショ ン(Reducible) を,ICP 発 光 分 析 装 置 ま た は ICP 質量分析装置を用いて分析した.

3.結果および考察

生物生産の指標となる Biogenic-Si の表層堆積 物中(0.0〜0.5 cm)含有量は BD-6 で 10% と最 も高い値を示し,47 N の測線では西から東に向 かって減少する傾向を示した.有機物の指標とな る有機態炭素(TOC)は,福島沖の日本海溝か ら西部亜寒帯域の BD-4〜 BD-6(KNOT)と,熱 水域のファンデーフカ海嶺周辺の BD-20〜 BD-22

(BD-21 で最大値 1.76%)が高含有量となった.

福島沖およびカナダ沿岸域では 0.87〜0.47%,外 洋域(BD-4〜16)でも 0.34〜1.76%であり,水深 5,000 m 以上の海域としては比較的有機物含有量 が高い海域であることが明らかとなった.また,

Total-Mn/Ti 比も 47 N 測線において,西から東 へ減少する傾向を示し,Biogenic-Si および有機 物の分布と同様な傾向を示した.これは生物生産 が比較的高く,深海(海水柱が長い)のために亜 酸化的な海底環境においては,堆積物中の生物遺 骸および有機物が分解すると共に金属元素が溶解 することを示唆している.ファンデーフカ海嶺に 位置する BD-18 および BD-20 については,Mn/

Ti 比(BD-18; 5.0,BD-20; 31.5)が極めて高い値 を示した.特に BD-20 では他の観測点の 5〜100 倍も高い値を示し,分画分析からそのほとんど還 元剤溶出フラクション(酸化物態のマンガン)と して堆積していることも明らかとなった.なお,

BD-20 については測定した多くの金属元素におい て Ti との比(Metal/Ti 比)が周辺海域と比べて 高い値を示しており,熱水活動の影響をこの堆積 物が特に強く受けていることが明らかとなった.

4.今後の課題

本研究では,北太平横断観測により,北緯 47 N 測線における堆積物中の親生物元素および生物 活性微量金属元素の水平的な分布は明らかになり つつあるが,生物活性微量金属元素の堆積物中に おける挙動の詳細について明らかにするためには,

まだ終了していない分析項目の追加や,鉛直的な

解析も今後必要となると考えられる.

参照

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