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市 川 兼

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(1)

」−βクー   

415  

(1) 八幡製鉄政治献金事件について  

市 川 兼  

第1章 事実の概要  

昭和35年3月14日,八幡製鉄株式会社(昭和45年3月1日,富士製鉄株式  

(2)  

会社と合併して,現在の新日本製鉄株式会社となった)の代表取締役Yl,Y2  

131 の両名(被告,控訴人,被上告人)は同社を代表して自由民主党に・35b万円を  

昭和45年5月24日最高裁判所大法廷判決(昭和41年(オ)滞444号取締役の責任追及請   

求事件)最判民集24巻6号625ぺ−ジ。最高裁判所は15人の仝裁判官一致の判断によ   

り,取締役の投書賠償責任を否定した。  

(2)当時製鉄業界における第1位と第2位の合併であり,合併後の会社は粗綱生産のマー    ケットレエアにおいて,35パーセントを超えた。そ・こで合併後の会社をプライスリーダ  

−とする管理価格の成立が予想されたので,本合併が独占禁止儀(私的独占の禁止及び    公正取引の確保に関する法律)第15条1項1号に違反しないかどうかが問題となった。   

世論の大勢は合併を避ける傾向にあったが,経済界および政府・自民見ほ合併を積極的    に.推進し,十大政治問題となった。  

(3)この350万円は,同社の自民党その他の団体派閥等への政治資金としての金円の寄付    の一・部である。上告人は訴訟での印紙代を節約するために,この劇件350万円だけを取   

上げたとのことである。上告代理人の上告理由(最判民集24巻669ぺ−ジ)に・よれば,   

同社は,昭和35年下期と昭和35年上期との一年間を合わせると,自民党へ1950方円の寄    付をしているとのことであり,また上記期間中に,同社は自民党その他の団体派閥等へ    政治資金とレて1億2800フラ偶に・上る寄付をしているとのことである。なお同社は昭和35   

年の1年間に明確なものだけで1億63万円の政治献金をしているとの調査もある(市川   

房技「最高裁判決と政治資金の実態」《世界昭和由年10月引77ぺ−汐)。昭和35年上知   

(1月〜6月)における,政党,協会,その他の団体の政治資金収入はつぎのとうりで    ある。自民党4億4783万7366円,社会党本部4926万7709円,共産党中央本部7890万9103    円,民社党2850万5396円,国際政治経済文化研究会(藤山派)2790万2462円,国政研    究会(岸派)2800万,宏池会(池田派)1億1367万2774円,新政経研究会(賀屋派)   

2004万8380円,周山会本部(佐藤派)5182万2000円,新政治経済研究所(三木松村派)  

1220万,第一・国政研究会(河野派)1407万8040円,蓬庵会(石井派)1160万,(自治省   

発表による,朝日新聞昭和35年12月26日)。これに・よれば,同社の系列会社の政治献金を   

ふくめなくとも,同社の政治献金額ほ大派閥を2つや3つ養うのに十分な皇であること   

がわかる。かかる多額の政治献金のなされる理由の1つは,法人税法の運用上政治献金    の損金静入が認められていることに.ある。参照,市川同書77ぺ一汐。富山康吉「最高裁   

の政治献金論」(法学セミナ一−1970年8月号)5ぺ一−ジ。   

(2)

・−一9∂一・   第44巻 算4・5・6号   416  

(4)  

政治資金として一番付した。同社の1株主Ⅹ(原告,被控訴人,上告人)ほ.,上   記Yl,Y2の行為ほ商法第266条1項5号の「法令又は定款に違反する行為」で   あり,それに.よって一会社に損害を与えたものであるから,商法第267条の第1   項によって,会社に対して,Yl,Y2に.取締役としての責任を追及するよう要   求した。しかし会社はYl,Y2の責任を追及しなかったので,Ⅹほ.商法第267条  

2項により,会社に.代って,Yl,Y2の貴任を追及する訴を提起した。  

第2章 本事件の問題点   

●●●●●  本事件は株式会社の取締役が会社の金円を政党に寄付したという点から見れ  

●● ば,会社法上の問題である。しかし同時に・そ・れは政党の活動費調達の方法であ  

るから,公職選挙法あるいは政治資金規制法の問題であり,ひいて−ほ意法上の   問題である。   

公職選挙法第199条以下ほ.特定会社が政治献金をするこ・とおよび特定会社か   ら政治献金を受けることを刑罰をもって禁止している。このこと咋.特定会社を   のぞく一・般会社が政治献金をしても処罰されないことを意味する。公職選挙法   上は,−・般会社の政治献金ほ処罰されないことととなるが,しかし私法上− 

(6)  

般会社の政治献金が有効であるか否かほおのずから別の問題である0    本事件に.おいて,Ⅹほ商法第266条1項5号紅よって取締役の責任を追及し   ている。したがって問題となるのは,Yl,Y2の行為が商法第266条1項5号に   おける取締役の責任追及に必要な要件を備えているかどうかである。商法第266   条1項5号に.よれば,取締役の責任を追及するために・ほ,取締役の「法令又ほ   定款に違反する行為」に・よって,「会社が損害を受ける」ことが必要である0  

(4)なお,政見,協会,その他の団体紅政治資金として金円を寄付することは,政治献金    ともいわれる。教育,福祉等への金円の寄付については,単に寄付あるいは寄金という   

表現であり,政党等への政治資金としての寄付について,献金という表現が使われると   

いうことは,政治資金としての寄付が,他の寄付紅くらペ,その社会的機能紅おいて全    く異なることを,示すものと思われる。  

(5)西原寛一・「八幡製鉄政治献金事件の第一・,二屠判決について」(『商事法研究第3劉)   

315ぺ−ジ参照。   

(3)

八幡製鉄政治献金事件紅ついて  

417    ・−9ノー  

通説によれば,違反行為について「取締役の故意過失_仁を要すると解されてい  

る。   

Ⅰ.会社損害の有無  

まず第一に問題となるものは,会社の政治献金紅よって会社が損害を受けて  いるか否かである。会社に損害が発生していな心かぎり,定款または法令違反   の行為を取締役がおこなっていても,会社に・対する彼の責任は発生しない。し   かし本事件をめぐるはとんどの議論および判決ほ,350万円の寄付による損害の   発生を当然の前提としており,論争点を次の違反行為の有無紅集中している。  

したがって私もー応会社損害の発生を前提としで議論をすすめでいく。   

ⅠⅠ.違反行為の有無  

上に.のべたとうり本事件をめぐる論争は,350万円の寄付に.よって会社に.損   害の発生したことを当然の前提として,ただそのような行為が,取締役に法禅   上許されている行為であるか,許されない行為であるかをめぐっておこなわれ   

ている。   

取締役に.許されている行為によって会社に損害が発生したのであれば,取締   役の責任は原則として発生しない。取締役に許されていない行為によって会   社に損害を与えたものであれば,取締役に.損害賠償貴任が発生する。取締役   に.許されない行為は定款違反および法令違反の行為である。本事件において,  

川) 定款違反として問題となるのは,八幡製鉄株式会社の定款第2粂の目的規定で  

ある。法令違反として問題となるのほ.,民法第90条公序良俗規定と商法第254   条ノ2の取締役の忠実義務に.ついて−の規定である。定款規定ほ私企業である八   幡製鉄株式会社の固有の要請に葦づくものであり,公序良俗規定は一・般社会の   公的要請に基づくものである。定款違反と公序良俗違反はその範囲を各々独立  

(6)八幡製鉄株式会社定款穿2条「本会社は鉄鋼の製造及び販売並びに.これに附帯する事   

業を営むこ.とを目的とする」。   

(4)

第44巻 第4・5・6号  

418  

ー・92−−  

に/決定しうる。したがってある行為が定款違反であるとしても公序長俗違反で   ないこともあり,また公序長俗違反であるとしても定款違反でないこともあ   る。しかし,定款違反またほ公序良俗違反であれば,忠実義務規定ほ取締役の   業務執行上の注意義務を規定したものであるから,当然に取締役の忠実義務に  違反することとなる。しかし取締役は,その行為が定款違反でなく,また公序   良俗違反でないとしても,彼は株主の利益を尊重して業務を執行しなければな  

らないから,忠実義務に違尽することはありうる。   

ⅠⅠⅠ.故意過失の有無  

通説に.よれは,法令または定款に違反する行為に.よる会社の損害に/ついて−,  

取締役の景任を追及するばあい,その違反につき取締役の故意過失を要すると   考えられている。したがって本事件のばあいも法令または定款違反と解する立   場からは,取締役の責任追及にさいして,取締役の故意過失が問題となるはず   である。しかしこの問題についてもははとんど議論されていないのでここでは  

(7)  

一応問題としないで置くこととする。  

(8)  

第3章 判決要旨   

Ⅰ.定款違反の有無  

まず判決ほ定款規定と会社の権利能力との関係について,つぎのように論じ  

る。「会社ほ定款に定められた目的の範囲内において−権利能力を有するわけで  

あるが,目的の範囲内の行為とほ,定款に明示された目的自体紅限局されるも  

(7)大隅健一・郎「八幡製鉄政治献金事件判決紅ついて」判例時報334号61ぺ一汐ほ束京地   

裁判決を批評して次のように述べる「なおかりに本判決のいうように本件の被告たる取   

締役の行為が定款違反かつ忠実義務違反であるとしても,…・・・・・取締役の責任牲否定さ   

るぺきでないかと考える。けだし…‥この場合取締役紅遵法の認識がなかったものと認   

められるからである。」。参照,長谷部茂吉「八幡製鉄の政治献金事件を顧みて」法律の   

ひろば19巻4号13ぺ一汐。  

(8)この論文では問題を最高裁判所の判決にそくして考える,最判民集24巻625〜712ぺニ   

ジ。   

(5)

八幡製鉄政治献金事件に/ついて   一夕β−  

419  

のではなく,その目的を遂行するうえに.直接または間接に必要な行為であれ   は,すべてこれに包含されるものと解するのを相当とする。・そ・して∴必要なりや   否やほ.,当該行為が目的遂行上現実紅必要であったかどうかをもってこれを決   すべきでなく,行為の客観的性質に即し,抽象的に判断されなければならない  

(9) のであるO」   

つぎに判決ほ,無償の寄付一般が営利法人である会社の権利能力の範囲に入   るか入らないか,について論じる。「′とこ.ろで会社ほ.,−・定の営利事業を営む   ことを本来の目的とするものであるから,会社の活動の重点が,定款所定の目   的を遂行するうえ紅直接必要な行為紅存することはいうまでもないところであ   る。しかし,会社は他面に.おいて,自然人とひとしく,国家,地方公共団体,  

地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるか   ら,・それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであって,ある行為が一   見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても,会社に・,社会通念   上,期待ないし要請されるものであるかぎり,そ・の期待ないし要請に・こたえる  

ことは,会社の当然に.なうしるとこ.ろであるといわなけれぼならない。そして   また会社にとっても,−・般に,かかる社会的作用に属する活動をするこ.とは,  

無益無用のことでほなく,企業体として−の円滑な発展を図るうえに相当の価値   と効果を認めることもできるのであるから,その意味に・おいて,これらの行為   もまた,間接ではあっても,目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げ   ない。災害救援資金の寄附,地域社会への財産上の奉仕,各種福祉事業への資   金面での協力などほまさに.その適例であろう。会社がその社会的役割を果たす   ために相当な程度のかかる出指をするこ.とは,社会通念上,会社としてむしろ   当然のことに.属するわけであるから,竜も,株主その他の会社の構成員の予測   に反するものでほなく,したがって−,これらの行為が会社の権利能力の範囲内  

(10)  

に.あると解しても,なんら株主等の利益を害するおそれほないのである0」  

(9)同番628ぺ」−ジ。  

qα 同書鉛8〜飴9ぺ−汐。   

(6)

算44巻 寛4 5・6号  

−・.94−   420   

さら紅続けて,会社.が政党に.政治資金を寄付できるかどうかについて,判決  

ほつぎのように論じる。「以上の理は会社が政党に政治資金を寄附する場合にお   いても同様である。憲法ほ政党について規定するところがなく,これに特別め  

地位を与えてほいないのであるが,憲法の定める議会制民主主義㌢ま政党を無視  

してほ.到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから,憲法は.,  

政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主   義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に,政党ほ国民の政治意思を   形成する最も有力な媒体であるから,政党のあり方いかんほ,国民としての重   大な関心事でなければならない。したがって,その健全な発展に協力すること   ほ,会社に対しても,社会的実在としての当然の行為として期待されるところ  

であり,協力の一・態様としての政治資金の寄附に.ついて−も例外でほないのであ  

る。論旨のいうどとく,会社の構成員が政治的信条を同じぐするものでほない   としても,会社による政治資金の寄附が,特定の構成員の利益を図りまたその   政治的志向を満足させるためでなく,社会の−∵構成単位たる立場に.ある会社に 

対し期待ないし要請されるかぎりに.おいてなされるものである以上,会社紅そ  

(11)  

のような政治資金の寄附をする能力がないとはいえ.ないのである。」   

そして判決はまとめてつぎのように述べる。「要するに,会社による政治資金  

の寄附は,客観的,抽象的に観察して,会社の社会的役割を果たすためになさ   れたものと認められるかぎりにおいては,会社の定款所定の目的の範囲内の行  

(12)  

為であるとするに妨げないのである。」   

判旨をまとめるとつぎのようになるであろう。   

定款規定の範囲内紅おいて,会社は.権利能力を有する。会社は自然人と同じ   社会構成単位であり,社会的実在である。社会的実在としての会社に.社会通念上   期待されている行為を,会社ほ当然になしうる(社会的に.期待されている行為は  

会社の権利能力内である0)。それらの行為は会社の企業体として?円滑な発展  

(川 同書629〜630ぺ−汐。  

J12)同書630ぺ−ジ。   

(7)

八幡製鉄政治献金事件紅ついて   −95−  

421  

に役だち,したがって営利目的にも合う。災害救援資金の寄付,地域社会への財   産上の奉仕,各種福祉事業への資金面での協力などはその適例である。政党の健   全な発達に協力することほ,会社に対しても,社会的実在としての当然の行為  

として期待されている。その協力の−・態様として,会社は政治資金を寄付する   こ.とができる(会社の政治資金寄付は社会的に期待されている行為である。)。   

と.の判旨ほつぎの点に.おいて問題があるといえよう。まず第1に.,社会的実  

在という点で会社と自然人を同一・視しており,したがって,会社の営利法人で  

あるという特質を無視して−おり,したがって営利法人に.対して一社全的に期待さ  

れている行為が自然人に対して社会的紅期待されている行為とどのように異な  

るかを考えていない。第2に,判旨は会社による政治資金の寄付を政党の健全  

(13)  

な発達に役だつものと捕え,したがって社会的に期待されている行為という点  

において,政治資金の寄付を災害福祉への寄付と同一・祝しており,政治資金の  

寄付がもつ社会的機能が災害福祉への寄付のもつ社会的機能と異なることを考  

えて−いない。第3に,政治の分野に.おいて,怯秩序が何を要請しているかを十・  

分紅考えていない。国屈各人の参政力平等が,政治の分野にお仇る法秩序の第   一儀的要請であろう 

ⅠⅠ.公序違反の有無   

会社による政党に・対する政治資金の寄付と民法第90条公序良俗規定との関係   を考えるとき,問題となるのほ,会社の政治資金寄付が憲法に規定された国家   の基本秩序に反するか反しないかということである。   

判決ほ会社の政党に対する政治資金の寄付と患法との関係についてつぎのよ  

うに/論じる。「憲法上の選挙権その他のいわゆる参政権が自然人たる国民にのみ  

認められたものであることほ,所論のとおりである。しかし,会社が,納税の  

義務を有し自然人たる国民とひとしく国′税等の負担に.任ずるものである以上,  

納税者たる立場に.おいて,国や地方公共団体の施策に対し,意見の表明・その他  

(13)「第一・次,第二次選挙制皮審議会答申」およぴ「政治資金規制協議会意見書」は,会   

社の政治献金が政見の近代化および踵全な発達を阻害レている,とみている。第一・審判   

決後の各新聞論調に.見られる傾向も同趣旨である。   

(8)

−96−・  

寛44巻 発4・5・6号  

422  

の行動に出たとしでも,これを禁圧すべき理由はない。のみならず,憲法第三   葦に・定める国民の権利および義務の各条項ほ,性質上可能なかぎり,内国の法   人にも適用されるものと解すべきあるから,会社は,自然人たる国民と同様,  

国や政党の特定の政策を支持,推進しまた反対するなどの政治的行為をなす自   由を有するのである。政治資金の寄附もまさに.そ・の自由の−・環であり,会社に.  

よってそれがなされた場合,政治の動向に影響を与えることがあったとして   も,これを自然人たる国民の寄附と別異紅扱うべき憲法上の要請があるもので   ほ.ない。論旨は,会社が政党に寄附をすることは国民の参政権の侵犯であると   するのであるが,政党への寄附は.事の性質上,国民個々の選挙権その他の参   政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものではないばかりでなく,政党の資   金の−・部が選挙人の買収にあてられることがあるにしても,・それはたまたま生   ずる病理的現象に過ぎず,しかも,かかる非違行為を抑制するための制度ほ厳  

として存在するのであって,いずれにしても政治資金の寄附が,選挙権の自由   なる行使を直接に侵害するものとほなしがたい。会社が政治資金寄附の自由を   有することほ既紅説示したとおりであり,それが国民の政治意思の形成に・作用   することがあったとしても,あながち異とするには足りないのである。所論は   大企業による巨額の寄附は金権政治の弊を産むべく.また,もし有力株主が外   国人であるときは外国による政治干渉となる危険もあり,さら紅豊富潤沢な政   治資金は政治の腐敗を醸成するというのであるが,その指摘するような弊害紅   対処する方途ほ,さしあたり,立法政策にまつべきことであって,患法上ほ→  

公共の福祉に反しないかぎり,会社といえども政治資金の寄附の自由を有する   といわざるを得ず,これをもって国民の参政権を侵害するとなす論旨は採用の  

かぎりでない。   

以上説示したとおり,株式会社の政治資金の寄附はわが患法紅反するもので   はなく,したがって,そのような寄附が憲法に㌧反することを前提として−,民法  

(14ヽ  

90条に違反するという論旨は,その前提を欠くものといわなければならない。」  

(14)最判民集24巻630〜631ぺ−汐。   

(9)

八幡製鉄政治献金事件に.ついて  

−.97−・   

423  

判旨をまとめるとつぎのようになるであろう。   

会社が自然人たる国民と同じく納税の義務を負う以上,納税者たる立場に.お   いて,国や地方公共団体に対し,意見を表明できる。のみならず,忍法第三茸   の規定ほ,性質上可能なかぎり,内国の法人にも適用されるべきであるから,  

(16)(16)  

会社は,自然人たる国民と同様,政治的行為をなす自由を有する。政治資金の   寄付もまさにその自由の劇環である。また政党への寄付は国民の参政権行使に   直接影響を及ばすものではない。   

こ.の判旨はつぎの点において問題があるといえよう。判旨は,憲法第3章国   民の権利及び義務の各条項の適用にさいして,法人と自然人とを同一・祝してい  

る。しかし法人は自然人の幸福追求の手段にすぎない。憲法の立場よりすれ   ば,自然人の幸福追求は,憲法第3葦の各条項が自然人に適用されることによ   って−,実現される。憲法第3章の各条項が法人に適用されるのほ,その適用が   自然人の幸福追求に.役立つかぎりにおいてである。会社に.納税義務が認められ   るのほ,国家経費微速のテクニ−クとして一にすぎない。自然人のみが富を作り   だす。税の最終負担者ほ自然人である。会社が納税義務を負担することによっ   て,自然人の幸福追求喧,およぼされる影響と,会社が政治的行為をなす自由   を有することによって,自然人の幸福追求に,およぼされる影響とは同じでな   い。判旨は,自然人の幸福追求に∴おいて,会社の納税義務負扱がはたす機能   と,会社の政治的行為をなす自由がはたす械鹿とが異なることを,考えていな  

(15)このように解すると,政治活動に関して,法人が自然人と異なるのほ,選挙樅および   

被選挙権の有無だけとなるであろうが,なぜ法人に選挙権が認められないのか,判旨で    は説明できないであろう。参鼎,西原寛一イ政治資金の寄付と会社の権利能力等」(民    商法雑誌64巻3号139ぺ一汐。弟2審凍京高裁判決(最判民集24巻)709ぺ−・ジ。  

(16)内国の法人であることを理由として,会社の政治活動の自由を認めるのであればご労   

働組合も内国の法人であることに変わりほなく,労働組合の政治的活動の自由も認めら    れるぺきであり,したがって政治ストも合法とされるぺきであろう。とのこ・とほ労働組   

合にほ,憲法上団体行動樅が保障されているだけに,より一層よくあてはまるといいえ    よう。しかし最高裁が−潰して政治スト遵法論をとっているこ・とは周知のとうりであ   

る。参照,野村平蘭「会社と組合の政治目的の行為」(法律時報42巻10号)175ぺL−ジ。   

福岡博之「会社と政治献金」(企業法研究184輯)25ぺ一汐。   

(10)

第44巻 賃4・5・6号  

−9β−   424  

い。  

ⅠⅠⅠ.忠実義務違反の有無  

判決匿よれば,会社は政治資金を寄付する権利能力を有サーるし,また,会社   による政治資金の寄付ほ公序良俗に㌧反しない。そ・こでさらに,誰が,どのよう   な条件の下で,会社を代表して政治資金を寄付できるか,が問題となる。この   問題について,判決ほつぎのように.述べる。「商法254条の2の規定ほ,同法   254条3項民法644条に定める善管義務を敷術し,かつ一層明確にしたに.とどま  

るのであって,所論のように,通常の委任関係に.伴う善管義務とほ別個の,高   度な義務を規定したものとほ解することができない。ところで,もし取締役   が,その職務上の地位を利用し,自己またほ第3者の利益のために政治資金を   寄附した場合にほ,いうまでもなく思実義務に.反するわけであるが,論旨は,  

被上告人らに.,具体的にそのような利益をほかる意図があったとするわけでは   なく,−・般に,こ.の種の寄附ほ,国民個々が各人の政治的信条に基づいてなす   べきものであるという前提に.立脚し,取締役が個人の立場で自ら出指するので   なく,会社.の機関として一会社の資産から支出することは,結果において会社の   資産を自己ぁために費消したのと同断だというのである。会社が政治資金の寄   附をなしうることほ,さきに説示したとうりであるから,そうである以上,取   締役が会社の機関としてそ・の衝にあたることは,特段の事情ないかぎり,これ   をもって−取締役たる地位を利用した,私益追及の行為だとすることのできない   のほもちろんである。論旨ほさらに,およそ政党の資金は,その一・部が不正不   当に,もしくほ無益に,乱費されるおそれがあるにかかわらず,本件の寄附に   際し,被上告人らはこの事実を知りながら敢て目をおおい使途を限定するなど   防圧の対策を講じないまま,漫然寄附したのであり,しかも,取締役会の審議   すら経ていないのであって,明らかに.忠実義務造反であるというのである。と   ころで,右のような忠実義務違反を主張する場合にあっても,その挙証責任が   その主張者の負担に帰すべきことは,一・般の義務違反の場合におけると同様で   あると解すべきところ,原審における上告人の主張ほ.,−・般に,政治資金の寄   

(11)

八幡製鉄政治献金事件について   −99・一  

425  

附ほ定款に.違反しかつ公序を素すものであるとなし,したがって.,その支出に   任じた被上告人らは忠実義務に.違反するものであるというに・とどまるのであっ   て.,被上告人らの具体的行為を云々するものではない。もとより上告人はその   点につき何ら立証するところがないのである。したがって,論旨指摘の事実は   原審の認定しないところであるのみならず,所論のように,こ・れを公知の事実  

と目すべきものでないことも多言を要しないから,被上告人らの忠実義務違反  

(17〉  

をいう論旨は前提を欠き,肯認することができない。」   

さらに.判決は,具体的な本件寄附が被上告人らの取締役としての忠実義務に   違反するかしないかについて,つぎのように・のぺる。「いうまでもなく取締役   が会社を代表して政治資金の寄附をなすにあたっては,その会社の規模,経営   実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して,  

合理的な範囲内において.,その金額等を決すべきであり,右の範囲を越え,不   相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義務に違反するというべきではある   が,原審の確定した事実に即して判断サーるとき,八幡製鉄株式会社の資本金そ   の他所論の当時における純利益,株主配当金等の額を考慮にいれて−も,本件寄  

(18)  

附が,右の合理的な範囲を越えたものとすることはできないのである。」   

判旨をまとめるとつぎのようになるであろう。   

商法第254条の2の規定ほ,善管義務をふえんし,かつ一層明確化したに・と  

(19)  

どまる。取締役は,会社の機関として,会社を代表して政治資金を寄付でき  

(20) る。取締役が会社を代表して政治資金を寄付するにあたって,自己またほ第三  

(用 最判民集24巻632〜633ぺ−ジ0  

(18)同書633ぺ一汐。  

(1幼 周知のとうり,忠実義務を凄管義務の一層と見るか,それとも,信託関係に存する特   

殊の地位に基づく高度の義務と見るか,紅ついて学説紅争いがある。しかし,本件のば    あい,いずれの説をとるかは,結論紅関係しないと思われる。参照,星川長七「会社の   

なす政治献金の商法上の問題点」(企業法研究184輯)15ぺ−ジ「会社の資本とか経営状   

態などを考えて,どれだけの寄付をしたらよいかなどということを判断するのは,まさ    紅業務執行に当る取締役の静管義務に属することで,われわれの立場からほ忠実義務と   

は関係のない問題である。なぜなら政見に政治資金を寄付することは別に取締役が自分   

のふところを肥やすことには.ならないからである。」  

冊 すなわち取締役は.,寄付金の使途を限定することなく,また取締役会決議や株主総会    決議をへることなく,会社を・代表して,政治資金を寄付できる。   

(12)

貨44巻 鰭4小5・6号  

ーLJOクー   426  

者のために,寄付したのであれば,その行為ほ忠実義務に違反する。その違反   については,違反を主張する者に挙証責任があるが,そ・の点について上告人は   何ら立証していない。また会社の規模,経営実繚その他社会的経済的地位およ  

(2】)  

び寄付の相書方など諸般の事情を考慮して,合理的範囲を越える寄付は,忠実   義務違反であるが,本件寄付ほ合理的範囲のものである。   

この判旨はつぎの点において一問題があるといいえよう。株式会社の株主は.経   済的利益を求めて集まる。株主個々の政治的信条は全く様々である。会社の経   済的行為が個々の株主に.およばす影響ほ,一・般に等質のものであり,また株主   が前以って承諾しているものである。しかし,会社の政治的行為が個々の株主   におよぼす影響ほ,それぞれ異質なものであり,株主が前以って承諾して−いる  

(22)  

とは必ずしもいえないものである。判旨は,会社の経済的行為と,会社の政治   的行為との,株主に.およぼす影響が,異なることを考えていない。  

第4章 学   説   

Ⅰ.取締役の責任を否定する説  

会社の政治献金ほ,原則として,取締役の代理権限内の行為であり,忠実義   務に違反しない。会社の政治献金が例外的に取締役の忠実義務に違反すること   もおこりうるが,その違反に′ついては,違反を主張する老に立証の責任があ   る。したがって,会社の政治献金は,原則として,取締役の会社に.対する責任  

位1)したがって,ほ凱、に.よっては会社資産の大半を取締役の樅限によって政党に寄付す   

ることも許されるであろう。たとえば,革命時に赤旗新聞社が資産の大半を共産党に寄    付するどときほ取締役の権限で可能であろう。  

(22)八幡製鉄株式会社の株主の中には,自民蒐員もおれば共産党鼠もおる。会社が自民兇    に寄付することは,この寄付が額償であるかぎり,共産免員にとって,自己の財産の−・   

部が自民党に寄付されることであり,自己の財産をもって自己の敵対者を強化すること   

に・なるわけで,承認できないであろう。したがって,会社による政治資金の寄付は,会   

社の擬制能力内であり,かつ公序良俗に.反しないとしても,そ・の無償が前提とされるか   

ぎり,全株主の同意をもってのみなしうるというぺきであろう。参月乱富山康吉「株式   

会社のなす献金」(民商法雑誌47巻6号)904〜905ぺ−汐。西原寛一イノ\幡製鉄政治献   

金事件の第一・,ニ審判決について」(『商事法研究第3巻』)311〜312ぺ−ジ。   

(13)

八幡製鉄政治献金事件について   −∫OJ−  

427  

を生じない。この説はその理由づけによって,〔有益行為説〕と〔おつきあい説〕  

とに分かれる。   

〔有益行為説〕この説ほ.,会社構成員の利益を中心として考え,政治献金を  

会社の営利団体たる性格と結びつけて,営利目的の達成に有益な行為と見る。  

すなわち,政治献金それ自体は無償で直接に反対給付を受けるものでほないと   しても,大局的見地から見て,会社が事業を経営してしミくために,必要もしく   は有用であり,少なく とも事業上の障害が生じるこ.とを予防するというよう  

(23)  

な,漠然たる効用をもつ,と見る。   

〔おつきあい説〕会社の政治献金を会社外からの社会的要請と見る。すなわ   ち,会社も社会の1構成単位であるから,会社紅対↓社会的に要請される行為   は,それが会社の事業目的にとって,有益であるか否かを問わず,会社に許さ   れるが,政治献金もそのような行為の1つと見る。したがって,会社の政治献   金が,会社に社会的に.期待される応分の範囲を越えてなされたばあい紅ほ,取  

(24)  

締役は会社に対しその越える部分について振替賠償責任を負うこ.ととなる。そ   の越える部分を会社の行為として有効と見るかあるいは無効と見るかによっ  

(2き)  

て,この説の論者ほ2つに分かれる。一・般的に.,会社を社会的存在として捕  

(2罰 鈴木竹雄「政治献金判決について」(商事法務研究278号)5ぺ−ジ。同「政治献金事   

件の最高裁判決に・ついて」(商事法務研究531号)4ぺ−・汐。 

田中誠ニ『一会社法詳論上』   

492ぺ−ジ。  

御 大隅健一・郎「八幡製鉄政治献金事件判決紅ついて」(判例評論58号)61ぺ−ジ。石井    照久「会社の政治献金について」(経営法学ジャーナル8号)2ぺ−・汐。東京高裁およ   

び最高裁判決。  

こ.の説を〔おつき飢、艶)と呼ぶこととする。というのほ,社会を構成する1員に社   

会的に要請されている行為とほいっても,会社が社会的な義務として政治献金しなけれ    ばならない,とは考え.られないし,また,会社がその1貞となって構成する社会という   

のは,無限の,たとえば日本全体といったものを指すものではなく,会社とつながりを   

もつ限定された範囲,すなわち,会社とおつきあいのある範囲,と考えられるからであ    る。参照,西原寛一イ八幡製鉄政治献金事件の第1,葦2審判決について」(『商事法研    究第3巻』)306〜30アぺノー汐。鈴木発言「会社の政治献金の法律問題」(ジュリスト343    号)35ぺ−ジ。  

鍋 有益行為説では,このようなことは問題とならない。すなわち常に・会社の行為として   

有効であって,ただ問題となるのは,取締役の対内的な義務違反の有無だけである。鈴   

木竹雄「政治献金事件の最高裁判決について」(商事法務研究531号)4〜5ぺ−ジ。   

(14)

籍44巻 箆4・5小6弓   42さ  

−J∂2−  

え,政治献金を会社への社会的要請と考える以上,会社の政治献金に限度ほ存  

(㍍)  

しないこととなろう。しかしそれでほ株主の利益が害される恐れがある。・そこ   で,有償行為と無償行為とを分け,前者軋ついてほ取引の安全を保護する必要   があるから,常に会社の行為として蕎効と見,後者についてほそ・の必要がない   から社会的要請に基づいて定まる応分の限度を越える部分について,会社の行  

(27)  

為としては無効と見る。   

ⅠⅠ.取締役の責任を肯定する説  

会社の政治献金は取締役の忠実義務に違反して−おり,したがって,取締役の   会社に対する損害賠償責任を生じる,と見る。こ・の説はさらに・,会社の政治献   金が取締役の代理権限内であり,会社の行為として有効ではあるが,取締役の  

(幻)  

業務執行上の注意義務に違反すると見る説と,会社の政治献金は会社の権利能  

(29)  

力内の行為であるが,取締役の代理権限を越えると見る説と,さらに会社の政   

(犯 とほいえ,業務執行上の個々の具体的な活動として,取締役の忠実義務違反が問題と    なりうることは当然であり,この点に・おいて営業活動一腰と変わりはない。すなわら,   

応分の範囲ないし合理的範囲というのは,具体的な取締役の忠実義務の問題となる。し    たがって,有益行為説においても忠実義務は具体的な政治献金にそくして問額となる以    上,この立場をとれば結果的に・ほ有益行為説と同じ紅なるものと思われる。  

授7)参照,最高裁判決補足意見。石井発言「会社の政治献金」(汐ユ・リスト460号)19〜20   

ぺ−・汐。富山康吉 「株式会社のなす献金」(戌商法雑誌47巻)374〜383ぺ−・汐。  

鯛 服部栄三イ会社の目的甲範囲と取締役の賠償責任」(法律のひろば19巻4号)8ぺ− 

ジ。本間輝雄『注釈会社法(4)』娼1ぺ−ジ。西原寛一イ八幡製鉄政治献金事件の第一・,ニ    審判決について」(『腐拳法研究籍3毯』)312ぺ−ジ。  

醐 のちに.のぺる富山教授によって代表される政治的行為説を,私はこのよう紅解するの   

である。その根拠は,もし株式会社の政治献金そのものが会社の権利能力外あるいは公    序良俗違反であるとすれば,全株主の同志によっても,会社の行為として有効となると   

は思われないからである。すなわち,全株主の同意によって,株式会社の政治献金が適    法となるということほ.,株式会社の政治献金そのものは公序良俗造反でないことを意味   

するものと思われる。もちろん,富山教授は,政治献金を個人専属的性質の行為であっ   

て,株主個人が汲定すべきものを,取締役が代って決定する点紅,公序良俗違反を認め    られるのである。しかしあくまでも政治献金を個人専属的性質の行為であるとされるな    ら,たとえ全株主の同窓に・よっても,株式会社の政治献金は会社の行為(会社という法   

的枠組を利用した団体行動)として有効になりえ.ない,と解されるべきではなかろう   

か。富山教授が政治献金と同じ性質の行為とされる投票権の行使においては,会社の行    為あるいは団体行動なるものが考え.られないと思われることからも,そのよう紅解され    るべきであると思われるがいかがなものであろうか。逆に言えば,富山教授が株主全員   

(15)

八幡製鉄政治献金事件について  

一九久㌢−  

429  

冶献金そのものが公序に反すると見る説,が考えられる。第3説ほ私見である   のでこれはのちに私見をのべるさいに.のべる。ここでは第1説と第2説に.つい  

てのべる。第1説と第2説とをその主たる理由づけにより,弊害行為説と政治  

(30)  

的行為説と呼ぶこととする。   

〔弊害行為説〕会社の政治献金が営利目的に役立つこ.とは公言できない性質  

(31)  

のものであり,無償の寄付と考えるべきである。株式会社の取締役ほ他人の財   産の管理者であるから,無償の出摘をするにあたって.は特別の慎重さを要求せ  

\32)  

られる。会社の政治献金は金権政治をもたらし,社会的に.弊害のある行為であ  

(3$)  

る。取締役が会社財産を無償で出指してまで,このような社会的に.非難される  

(34)  

行為をすることほ,取締役の忠実義務に違反する。   

〔政治的行為説〕国民の政治意思ほ自由・平等な国民の意思によって形成さ  

るべきである。すなわち,いかなる政治的立場を選択して−支持するかほ.,個人  

が自ら決定すべき問題であって,他人に.ゆだねえない性質のものであり,また  

多数決紅よる決定に.なじまない性質のものである。こ.のことは憲法の原則であ   り,国家の基本秩序である。政治献金は一・定の政治的立場を支持して,国民の  

政治意思形成に影響をあたえる行為であり,その点において,投票権の行使と   同じ性質の行為である。株式会社の政治献金は,政治的立場の選択を,取締役   が独自の判断に.よって,株主全体紅代って,決定する点において,株主個人の  

の一・致によれば株式会社の政治献金を認められるということほ,富山教授も,政治献金と    いう行為が投票権の行使と同じ性質の行為ではないということを,認められている,と    いってもよいのかもしれない。参照,星野発言「会社の政治献金」(ジュリスト460号)   

20〜21ぺ−ジ 

。富山康菩「株式会社のなす献金」(民商法雑誌47巻)387ぺ」−ジ。矢沢発言   

「会社の政治献金」(ジュリスト274号)18ぺ−ジ。  

(3悌 東京地裁判決を弟1説と欝2説のいずれに属すると考えるかは問題であるが,私は    第1説に屈するものと解する。参照,大隅撞一価「八幡製鉄政治献金事件判決紅づいて」  

(判例評論58号)60ぺ一汐。鈴木・岸対談「八幡製鉄政治献金事件東京高裁判決をめぐっ    て」(商事法務研究371弓)104ぺ−・汐。  

(弧 本間輝雄『注釈会社法(4)』449ぺ−・ジ。  

闘 西原寛一イ八幡製鉄政治献金事件の第一・,二審判決について」(『商事法務研究第3   

巻』)307ぺ′−ジ。  

朗 西原同書310〜311ぺ・−ジ。服部栄三「会社の目的の範囲と取締役の賠償責任」(法律    のひろば19巻4号)7ぺ−汐。  

(34)服部同書7ぺ−ジ。   

(16)

鴬44巻 籍4・5・6号  

_・ヱ04一−  430  

政治的立場を選択する自由を侵害するとともに,取締役が,自己の財産でな   い,会社の財産を−・定の政治的立場を支持するため使用する点において−,すべ  

(き5)  

ての個人の政治意思形成への平等参加と矛盾する。したがって株式会社の政治   献金は,公序違反の行為として無効である。株主全員の合意に.基づく会社の政  

(36) 拾献金は上の原別に.反しないから有効である。   

ⅠⅠⅠ.学説相互の関係とその批判  

有益行為説ほ株主の利益を会社にとって第1義的なものと考え,会社の政治   献金も大局的に見て.株主の利益になるものとして,取締役の責任を否定する。  

そ・しておつきあい説を会社の立場からでなく,会社の外から事態を考えている  

(3ア) と批卸する。こ.れに対し会社の政治献金が営利目的に役立つと見ることは,擬  

制に.すぎると見て−,おつきあいと見る説が生じる。しかしおつきあいというこ   とほ,ある種の結びつきあるいはつながりを前提としてはじめてなりたつこと   である。したがっておつき飢、の窄め会社の財産を出指することを肯定するこ   とは,この結びつきを維持もしくは強化することが会社の利益になるというこ  とを,前提とするものと思われる。有益行為説の立場からも,会社の政治献金   を,一応無償の寄付行為としながら,大局的に.ほ会社の利益に.なるとする根拠   は,会社と寄付を受ける著すなわち政党との円滑な関係が,会社の利益紅な   る,とすること紅あると思われる。このように㌧見て.くると,両説はともに,会   社と政党との結びつきを会社の利益になると見ている点紅おいて,したがって   政治献金を会社に許された営業活動の一・環としてみている点に.おいてご,本質的  

(35)富山教授は,個人によって献金の額紅高低があり,政治意思形成への影響力が事実上   

異なるとしても,それは平等参加紅反しない,とされるが,個人が〝自己の財産からで    なく〟会社の財産から献金する点に・,平等参加との矛眉を見られる。参照,富山康膏「株    式会社のなす献金」(民商法雑誌47巻)387ぺ−ジ。  

86)富山同書386〜387ぺ−ジおよび903〜905ぺ−ジ。福岡博之「会社の政沿献金」(法学セ    ミナ・」−155号)51ぺ一−汐。同「会社と政治献金」(企業法研究184輯)22ぺ−ジ。四官発    言「会社の政治献金の法律問題」(クコリスト343号)36ぺ−・ジ。小林発言同番38ぺ」−・   

ジ。富山康吉「商事判例の特徴」(『判例の法社会学的研究』法社会学17号)104ぺ」−ジ注(2)。  

(3Ⅵ 鈴木発言「八幡製鉄政治献金事件東京高裁判決をめぐって」(商事法務研究371号)   

4ぺ−ジ。   

(17)

八幡製鉄政治献金事件軋ついて  −JO5−−  

431  

には同じであるといいえ.よう。しかし両説の主張者も,全面的に会社の政治献  

金を良しとするものではなく,政党の資金の主要な部分が会社の献金によって   鵜なわれている現状を是正すべきものとする。しかしそ・の是正は社会全般の立   場から,特別の立法によってなすぺきことであって,株主の利益の立場から,  

(38)  

商法の解釈によってなすぺきことではないとする。また会社の政治献金が政治  

の動向に.影響を与えることを認めながらも,国民の参政権行使を直接に侵害す  

(39)  

るものではなく,したがって患法に.違反するものでほないと見る。あるいほ会   社の政治献金が弊害を伴うとして.もそれは個人の政治献金のもつ弊害と異なら  

(40)  

ないと見る。   

−・方弊害行為説ほ,会社の政治献金が会社の利益になることを否定ほしない  

が,会社の政治資金の実態を直視して−,会社の政治献金を社会的弊害を伴う行  

為として,あるいほ社.会的に.非難されでいる行為としてとらえ,・そ・こから,会  

社の目的の範囲外であり,取締役の代表権限を逸脱するものであって,取締役  

し41)  

の忠実義務に違反する行為と見る。政治的行為説は,政治献金を投票権行使と  

同じ性質の政治意思形成に.参加する行為ととらえることによって,会社の政治   献金に.伴う社会的弊害の法的性質を明らかに・する。すなわち,会社の政治献金  

は,取締役が株主全体に・代って政治的立場を選択し,自己の資産でない会社の  

資産を特定政党支持のため無償で出指する点において,政治意■恩形成に.おける  

国民の自由と平等とを侵害し,したがって,患法の原則に反するものととらえ  

朋鈴木竹雄「政治献金判決牢ついて」(商事法務研究278号)6ぺ−・ジ。同「政治献金事    件の最高裁判決に・ついて」(商事法務研究531号)7ぺ」−ジ。大隅健一郎「八幡製鉄政治    献金事件について」(判例評論58号)61ぺ一ジ。  

醐鈴木竹雄「政治献金事件の最高裁判決紅ついて」(商事法務研究531号)6ぺ′−ジ。最    高裁判決(最判民集24巻6号)631ぺ−ジ。  

極0)鈴木発言「会社の政治献金の法律問題」(ジュリスト343号)30〜31ぺ−汐。  

仏力 服部栄三「会社の政治献金」(『ジュ・リスト増刊商法の判軌』)88ぺ−ジ「政治は浄財に   

よっても買われる,いなむしろ浄財によってこそ買われる。・そこで浄財の寄付もまた社    会的弊害を伴うものと認められる。」。同「会社の政治献金」(ジュリスト373号)274ぺ−・   

ジ。同「会社の目的の範囲と取締役の責任」(法律のひろば19巻4号)7ぺ−ジ  。参照,   

西原寛一「八幡製鉄政治献金事件の第一・,二屠判決について」(『商事法研究第3数』)370   

ぺ−ジ。同「政拾資金の寄付と会社の権利能力等」(民商法雑誌64巻)髭8ぺ一一汐。   

(18)

・−封招−・   舞44巻 涛4・5・6号  

432  

る。   

取締役の責任を肯定する説は.,患法秩序を含む仝法秩序のなかで会社の政治  

し・l二\ 献金を検討することを強謝する。しかし取締役の責任を否定する説も憲法秩序  

との関連で検討を怠っているわけでほない。責任否定説は,会社の政治献金が   政治の動向に・影響を与えることを認めながらも,国民の参政権行使に連接の影   轡をおよぼすものでなく,したがって,憲蔑違反ではないとするのである。   

このようにみて.くると,会社の政治献金について,取締役の責任を否定する   説と肯定する説との分かれ目は,会社の政治献金に・伴う社会的弊害をどのよう   なものとして考えるかによって,いいかえると,会社の政治献金に.伴う社会的  

(43)  

利益と社会的損失との比較衡崖によって,決まるというこ.とができよう。責任   否定説は,会社の政治献金に伴う社会的弊害を認めながらも,それよりも会社   の政治献金によって会社の得る利益を通じてもたらされる社会的利益を優先さ   せる。−・方,責任肯定説ほ,会社の政治献金が事実上会社の利益に役立ってい   ることまで否定するとほ思われないが,その会社の利益を通じて得られる社会   的利益よりも,会社の政治献金に・伴う社会的損失を重視する。   

責任否定説ほ,個人の所有せる富ほ会社に集中せる膨大な富にくらぺれば比   較にならないほど少ない,という現実,および経済界(株式会社)から出てい   る金の力が自由民主党の意思を左右している,という現実を無視するもの,と   姐西原同書529ぺ−・ジ。福岡博之「会社と政治献金」(企業法研究184輯)23ぺ−ジ。  

個 すなわち,株式会社の政治献金に伴う社会的な利益(会社と政党との結びつき紅よっ    て会社の得る利益,それを通じての企業の成長,あるいほそのことによる経済発展の促   

進)と,株式会社の政治献金に伴う社会的な損失(金権政治を生み,政治を腐敗さ私    議会制民主政治に対する大衆の不信を生む危険)との比較衡盈であろう。あるいは,会   

社と政党との結びつきが自然人の幸福追求に有益か有害かの判断であろう。参照,蕾岡    幹夫「判決と政策一八幡製鉄政治献金事件を考える」(静岡大学法経短期大学部法経論   

集27弓)75ぺ一汐「会社の特定政党に対する政治献金は,会社の存在を支えている現実   

の政治的,社会的基盤の維持と,会社の利益の確保を意図して行なわれるが一般である   

ことからして,その限りで云えば,会社の実質的ないし経済的効果をもたらすこと紅な    るのほ自明の理である。」および98ぺ」−ジ「《東京高裁と最高裁の》判決は,会社の存在性   

質を全く捨象し,その「社会的実在」を根拠・強調すること紅よって,その政治献金の   

合法性を容認し、政見を媒介として,会社とその総体とレての資本の意思を代弁する政   

治意思・政治権力の形成と担保という政策的意図によった判断と云わざるを得ない。」  

(《東京高裁と故高裁の》と強調黒点ほ筆名付加)。   

(19)

八幡製鉄政治献金事件について  

433    ーヱ07−・  

(・1い  

の批判を免れないであろう。そして−金の力が政治意思を左右するということが,  

(45)  

意放の規定している民主政治の基本秩序に反していることは明らかである。   

弊害行為説はつぎの点で問題があろう。すなわち,会社は営利目的のための  

結合であり,取締役は会社財産を利殖に遅ノ乱する義務と権限とを萌する。した  

がって政治献金が会社の利益になると信じることにつき,取締役に.過失なき以  

上,取締役の忠実義務違反を追及できないと思われる。   

政治的行為説が会社の政治献金を政治意思形成紅参加する行為としてとらえ   たことほ正しいと思われる。しかし・そのことからただちに政治献金を投票権行   使と同じ性質の行為としで個人専属的な性質のものと考えることは,十分な論  

証を欠くと言わざるをえないと思われる。また株主という立場について−政治的  

信条を問題とすべきかどうか疑わしい。というのは株主は投資すなわち資産を   譲渡することによって株主となるのであり,また株主としての地位ほ簡単に譲   舶 参照,吉村正「政党とその資金」(汐ユ.リスト274弓)31ぺ−ジによれば,西洋に・は   

「笛吹き紅金を与える者が曲冒を決定する。」ということわざがあるとのことである。そ    の意味ほ,政党に.金を出す者が政党の政策を決定する,という意味である。また同書に   

よると,昭和35年度における自由民主党への寄付総額のうら,会社団体からの番付は・   

99.89パーセントを占め,これは自由民主見の収入総額の92.07パーセン1・を占める,と    のことである。これらの数字からも明らかなように,政党の本質ほ階級政党なのであ   

り,ある党が国民政党を自称するか香かは,その政見の選挙戦術の問題にすぎない0 し   

たがって政党が国民政党であることを根拠として会社の政治献金を違法祝することはで    きないと思われる。なお,事実上日本の首相を決める自民党の総裁選挙では,公職選挙   

法の適用のないこともあって,大愚・の実弾(現金)が使用されるのが常識とすらなって    いる。参照,宮沢発言「会社の政治献金」(ジュリ.スト274弓)23ぺ−ジ′。小林発言「会    社の政治献金の法律問題」(汐ユリスト343号)29〜30ぺ一汐。白川透「政治献金の実    態」(ジュリスト343号)46〜49ぺ−ジ。鈴木孝夫『政治を動かす経営者』12〜14ぺ ̄■   

ジ。  

(49 個人の政治献金と株式会社の政治献金とは,たん紅鼻的に逢いがあるだけでなく,つ   

ぎのような質的な逢いもある。個人の献金ほ献金行為者紅とって自己の金円の献金であ    り,株式会社の献金は,直接の献金行為者で虜る株式会社の代表取締役にとっては,他    人の金円の献金である。したがって,株式会社のばあい紅は,その献金に.よって他人の   

利益が害される恐れが生じる。また,株式会社の政治献金のばあい,献金行為者のふと    ころの痛まない献金であるから,献金についての献金行為者の注意が散漫になる恐れが   

強いのみならず,献金を受ける政党側も献金を容易紀要求し,あをいは強制する恐れが    非常に.強い。ゆえ紅株式会社の政治献金が政治を腐敗させる可能性は,個人の政治献金   

軋比べ,ほるか紅大きいと思われる。参腰,西原寛一イ八幡製鉄政治献金事件の芳一・,   

ニ審判決について」(『商事法研究算3巻』)309ぺ−ジ。   

(20)

発44巻 篠4・5・6号   434  

・−J〃β・−−・  

渡可能であるから,株主という立場に関するかぎり譲渡不可能なものがあると  

(46) は思われないからである。政治献金を個人専属的な性質のものと考えること  

ほ,すべて.の団体によるいっさいの政治献金を否定し,さらにiは団体による金   銭支出を伴う一・切の政治活動を否定し,ひいては憲法の保障する結社の自由を   無意味に.する恐れがあるものといいえよう。また,全株主の同意によれば株式   会社も政治献金をなしうるとすることは,株式会社という法的機構が政治意思   形成に.利用できることを,認めることとなるが,それを憲法を頂点とする法秩   序全体が許しているかどうか問題があろう。  

第5章 私  見   

Ⅰ.株式会社の法的性質  

まずここでほ株式会社の政治献金の問題を,会社法固有の領域に限定して考   える。なぜなら,会社法という特別法の領域において違法となり,無効となる   なら,公序良俗違反あるいほ憲法違反といったような−・般原則による問題を考   える必要がないからである。   

株式会社の政治献金を会社法固有の領域で問題とするかぎり,そ鱒問題ほ.そ   れをめぐる経済的利害関係者の利益調和の問題である,と思われる。   

株式会社制度の機能は複数資本が結びついて単独資本として運動すること,  

すなわち,資本の集中にある。結合前の複数資本が資本であることは,結合後   の会社資本が資本であるこ.とと同じである。すなわちいずれも利潤を目的とす   るものであり,その利潤が不払労働つまり労働者からの搾取に基づく点におい   て同じである。資本にとって道徳的責任や政治的イ言条ほ.問題となりえない。   

株主は利潤を目的として出資をする。株主は利益に.さえなればよいのであっ   て,政治的信条は問題となりえない。政治的信条は譲渡できないものであるか   ら,出資するこ.ともできないものである。株主としての地位ほ出資(資産譲渡)  

によって得られるのであり,また,株主としての地位は簡単に譲渡できる(株   

㈹ 参照,鈴木発言「会社の政治献金の法律問題」(ジ,ユリスト343号)31ぺ一汐。   

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