第 5 講 Maxwell の応力と静電エネルギー
Coulomb 力は電荷のあいだにはたらく力を表す(直達説的)。この力は,媒達説的視点から,一
方の電荷から発した電気力管に張力がはたらき,その張力が他方の電荷に達して電荷に力を及 ぼすと考えられる。電気力管には張力だけでなく圧力もはたらく。これらを総称して Maxwell の応力と呼ぶ。また,電気的エネルギーは,電荷がもつと解釈できる(直達説的)が,媒達説 的視点からは,電荷がつくる電場にエネルギーが蓄えられていると考えられる。
5.1 Maxwell の応力
5.1.1 Coulomb の定理と静電張力 Coulomb の定理( Coulomb’s theorem )
導体表面上のある点で,表面電荷密度が σ であるとき,その点における電場は E = σ
ε
0n (5.1)
で与えられる。ここで, n は導体表面の外向き単位法線ベクトルである。 σ > 0 ならば 電場は導体の内から外への向きであり, σ < 0 ならば導体の外から内への向きである。
この定理は Gauss の法則を用いて簡単に導ける。図 5.1 に示すように,導体表面上に点 P を とる。その場所における表面電荷密度を σ ,電場を E とする。点 P のまわりに,底面積が dS の直円柱を導体表面に垂直にたてる。直円柱の底面は導体表面に平行で,上の底面は導体の外 にあり,下の底面は導体の中にある。この直円柱に対して Gauss の法則を適用する。
まず,電場(電束密度)の面積積分を考える。電場は導体の内部には存在しない。従って,直円 柱の下の底面に関する積分は 0 である。導体の外の電場は導体表面に垂直である。直円柱の側 面も導体表面に垂直であるので,側面の法線ベクトルは常に電場に直交し,面積積分には寄与 しない。上の底面の法線ベクトルは導体表面に垂直で外向きである。面積積分は ±ε
0E dS に なる。ここで,複合 ± は表面電荷の正負を表し, E は電場の大きさである。一方,直円柱に囲 まれる立体の内部にある電荷は,導体表面だけにある電荷 σ dS である。 Gauss の法則により,
±ε
0E dS = σ dS より E = ± σ ε
0となる。 σ > 0 のとき電場と法線ベクトルは同じ向きであり, σ < 0 のとき電場と法線ベクト ルは逆向きである。この向きの違いを考慮して (5.1) が得られる。
65
P
σ dS dS
E E
n n n E σ > 0
P
σ dS dS
E E n E n
n σ < 0
図 5.1: Coulomb の定理.左: σ > 0 ,右: σ < 0
例題 5.1 導体平面から距離 a に点電荷 q ( q > 0 )を置いた。
(1) 導体表面に現れる電荷の面積密度を求めよ。
(2) 導体表面に現れる電荷の総和を求めよ。
解 鏡像法の例で導いたように,導体表面における電場は次の式で与えられる:
E = q 4πε
0−2a (a
2+ r
2)
3/2n
ここで, n は導体表面の外向き単位法線ベクトルである。また,点電荷から導体表面 におろした垂線の足を O とし,導体表面上で O からの距離を r とした。図 5.2 の左 図に示すように,電場は導体表面に垂直である。
q
r a
0 1 2 3 4
− 2π a
2σ q
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
図 5.2: 導体平面と点電荷.右:電荷の密度分布
(1) 電荷の面積密度は Coulomb の定理より直ちに求められる。電場が軸対称で r だけの
5.1 Maxwell の応力 67 関数であるので,電荷の面積密度も r だけの関数になり
σ(r) = − qa 2π
1 (a
2+ r
2)
3/2となる。これを,図 5.2 の右図に示す。この図の横軸は,導体表面の中心からの距離 r を,点電荷から導体表面までの距離 a で規格化してある( r/a は無次元)。縦軸に は無次元化した電荷の表面密度をとっている。
(2) 導体表面の電荷の総和は, σ(r) を導体平面全体にわたって積分して求められる。中心 O からの距離が r と r + dr のあいだにある電荷は σ(r) · (2πr) dr であるから,これ を r について 0 から ∞ まで積分して
∞0
σ(r) · (2πr) dr = − qa
∞0
r dr
(a
2+ r
2)
3/2= −q
が得られる。導体の外に置いた点電荷 q と等量で異符号の電荷が導体表面に現れる。
例題 5.2 図 5.3 に示すように,接地していない半径 a の導体球があり,その中心から距離 R ( R > a )に正の点電荷 Q を,その反対側に等量で負の点電荷 −Q を置く。導体球表面に 誘起される電荷の面積密度を求めよ。ただし, R a とする。
O R z
−Q
−R Q
R’
q
−R’
−q a
θ
図 5.3: 接地していない導体球と2つの点電荷
解 図に示すように,導体球の中心を原点として,2つの点電荷を通るように z 軸をとり,
極座標を用いて計算する。電荷,及び,導体球は z 軸対称であるので,電位,電場,
導体表面の電荷密度も全て z 軸対称である。従って,極座標の3つの座標のうち,原 点からの距離 r と, z 軸の正の向きからの角 θ で表される。
問題を解く前に,導体球がない場合に,2つの点電荷 −Q と Q が座標原点付近につ くる電場を求めてみる。まず,電位は
φ(r, θ) = Q 4πε
0− 1 r
++ 1
r
−, r
±=
r
2+ R
2∓ 2rR cos θ
1/2である。微小量 r/R で展開すると,偶数次の項は相殺し,最低次の項で近似すると φ(r, θ) ≈ − Qr cos θ
2πε
0R
2となる。電場は E = − grad φ で求められ, z 軸の正の向きの一様な電場を表してい ることがわかる:
E = E
0k, E
0= Q 2πε
0R
2.
本題にもどり,鏡像法を用いて導体球表面に誘起される電荷を求める。 −Q の鏡像の 位置を z = R
,電荷を q とすると, Q の鏡像の位置は z = −R
,電荷は −q であり,
R
= a
2R , q = aQ R が成り立つ。
真電荷 −Q と仮想電荷 q が導体球表面につくる電場は直前の例題で与えられた式で q を −Q に置き換えればよい。真電荷 Q と仮想電荷 −q が導体球表面につくる電場 は q を Q に, θ を π − θ に置き換えればよい。よって,導体球表面の電場は
E
r(a) = Q 4πε
0a
R
2− a
2(a
2+ R
2− 2aR cos θ)
3/2− R
2− a
2(a
2+ R
2+ 2aR cos θ)
3/2となる。導体表面に誘起される電荷の表面密度は σ = ε
0E
r(a) で与えられる。 E(r) の式で微小量 a/R について展開して1次の項まで取ると,誘起された電荷の表面密 度は
σ(θ) = Q
4πR
26 cos θ = 3Q cos θ
2πR
2= 3ε
0E
0cos θ
となる。最右辺は,一様な電場の強さ E
0を用いて表した。誘起された電荷は,図 5.4 の左図に示すように,正負に帯電した2つの球が少しずれて生じた電荷分布に良く似 ている。表面に誘起された表面電荷の総和は 0 である。
+ + +
++ ++ + + + +
− −
−
−−
−−
−
−
− −
O
図 5.4: 導体球に誘起された電荷(左)と導体球の近くの電気力線(右)
5.1 Maxwell の応力 69
静電張力
表面電荷(面積密度 σ )をもつ導体の表面には, σ の正負にかかわらず,単位面積あたり f = σ
22ε
0= 1
2 ε
0E
2> 0 (5.2)
の張力(外向きの力)が表面に垂直にはたらく。
この張力を 静電張力( electric tension )または 静電応力( electric stress )と呼ぶ。静電 張力の単位は国際単位で N · m
−2(圧力の単位と同じ)である。
導体の表面に微小な面積 dS をとる。その点での電荷の面積密度を σ とすると,微小面積には σ dS だけの電荷がある。この電荷が電場から受ける力を求める。ただし,電場は2つに分けて 考えなければならない。一方は, σ dS がつくる電場であり,他方は σ dS 以外の電荷がつくる 電場である。
σ dS E
E E 1 E E E 2
E E E’ 1 E E’ E 2
図 5.5: σ dS がつくる電場と,それ以外の電荷がつくる電場
図 5.5 に示すように,電荷 σ dS がつくる電場の,導体表面のすぐ外側におけるベクトルを E
1, すぐ内側におけるベクトルを E
1と表す。 E
1と E
1は大きさが等しく互いに逆向きである。
また, σ dS 以外の全ての電荷がつくる電場の,導体表面のすぐ外側におけるベクトルを E
2, すぐ内側におけるベクトルを E
2と表す。 E
2と E
2は連続である。これらは,まとめて,次 の式で表せる:
E
1= − E
1, E
2= E
2.
導体の内側では E
1と E
2とが打ち消し合っており,導体の外側では E
1と E
2とが足し合わ されて E になっている:
E
1+ E
2= 0, E
1+ E
2= E.
2組の式より,
E
1= E
2= 1 2 E
が得られる。すなわち,微小面積 dS のすぐ外側の電場 E は, σ dS 自身がつくる電場 E
1=
12E
と σ dS 以外の全ての電荷がつくる電場 E
2=
12E とが半分ずつ寄与している。
電荷 σ dS は自身がつくる電場からは力を受けない( E
1+ E
1= 0 )。力を受けるのは σ dS 以 外の電荷がつくる電場からで,その力は
F = 1
2 σ dS E = σ
22ε
0n dS
である。2番目の等号では, Coulomb の定理 (5.1) を用いて電場 E を電荷密度で表した。電 荷 σ dS にはたらく力は導体表面の外向き単位法線ベクトルの向き,すなわち,導体の内から 外への向き(張力)である。上の式は
F = f n dS, f = σ
22ε
0= 1
2 ε
0E
2と書くことができ, f は単位面積あたりにはたらく力の大きさである。また,右式の2番目の 等号では, Coulomb の定理 (5.1) を用いて電荷密度を電場で表した。
5.1.2 Maxwell の応力
導体表面上の電荷は電場から静電張力 (5.2) を受ける。作用・反作用の考え方からすれば,電 場は電荷から反作用を受けることになる。しかし,電場,すなわち,空間には反作用を受けと める足場はなく,反作用は空間を次々に伝わり,電場をつくっている電荷まで達して,そこで 受けとめられる。このように,空間には一種の弾性的性質があって,電気的な力は,その中を 応力として伝わると考えられる。この応力が Maxwell の応力である。
Maxwell の応力
電場は,電気的なひずみを受けた弾性体のように振る舞い,
電気力管に沿った方向に f =
12ε
0E
2の張力 電気力管に垂直な方向に p =
12ε
0E
2の圧力
がはたらく。この張力と圧力とを総称して Maxwell の応力 ( Maxwell’s stress )と呼ぶ。
Maxwell の張力
図 5.6 の左上図に示すように,帯電した導体表面からでる細い電気力管を考え,これを弾性体 とみなす。この電気力管を通して,導体表面の電荷は f =
12ε
0E
2の張力を受けていて,逆に,
電気力管の導体に接する面は,同じ大きさ f =
12ε
0E
2の張力を受けている。この張力は電気 力管に沿っていたるところではたらいているはずである(図 5.6 の左下図)。
電気力管から柱体を取り出して考えてみる。図 5.6 の右上図に示すように,左側の断面積を S
1, そこでの電場の大きさを E
1とし,右側の断面積を S
2,そこでの電場の大きさを E
2とする。
このとき, E
1S
1= E
2S
2が成り立つ。この柱体の左側の断面には f
1=
12ε
0E
12の張力(左向き
の力)がはたらき,右側の断面には f
2=
12ε
0E
22の張力(右向きの力)がはたらくと考える。
5.1 Maxwell の応力 71 この柱体は,左隣の柱体を,左側の断面を通して張力 f
1で右側に引っ張っていて,右隣の柱 体を,右側の断面を通して張力 f
2で左側に引っ張っている。すなわち,柱体(電気力管)は 縮もうとする性質がある。
左側の断面,及び,右側の断面にはたらく力 F
1, F
2は F
1= f
1S
1= 1
2 ε
0E
12S
1= ε
02S
1(E
1S
1)
2F
2= f
2S
2= 1
2 ε
0E
22S
2= ε
02S
2(E
2S
2)
2となる。 E
1S
1= E
2S
2を用いると,断面積 S
1と S
2の大小に応じて(一般に S
1= S
2であ る)次の不等式が成り立つ:
S
1< S
2= ⇒ E
1> E
2, f
1> f
2, F
1> F
2, S
1> S
2= ⇒ E
1< E
2, f
1< f
2, F
1< F
2.
F
1= F
2であり,電気力管の S
1と S
2で切り取られた柱体は,電気力線の張力だけではつりあ うことができない。つりあいを保つために柱体の側面にはたらく力を考えなくてはならない。
f f
f’
f’
S
1S
2f
2f
1E E E
2E
E E
1S
1S
2p
p
n n n
2n n
n
1p
p
図 5.6: Maxwell の応力:電気力管にはたらく張力と圧力 Maxwell の圧力
Faraday は,電気力線は縮もうとするだけでなく,互いになるべく離れようとする性質をもっ
ていて,この反発力が電気力管の側面に圧力としてはたらくと考えた。
柱体には,左右の断面にはたらく張力に加えて,図 5.6 の右下図に示すように,側面に垂直に 圧力 p がはたらくと考える。このとき,柱体のつりあいの条件は
−
側面
p dS + f
1S
1n
1+ f
2S
2n
2= 0
と表せる。ここで, n
1と n
2は左右の断面 S
1と S
2の外向き単位法線ベクトルである。
上の式から圧力 p を求めるのは容易ではない。そこで,柱体の全表面に静水圧 p がはたらいて いる場合にも柱体がつりあうことを利用する。2つの断面と側面にわたって力の面積積分を行 うと,つりあいの式は
p dS =
側面
p dS + pS
1n
1+ pS
2n
2= 0 と表せる。2つの式から側面の積分を消去して,次の式が得られる:
p ( S
1n
1+ S
2n
2) = − f
1S
1n
1− f
2S
2n
2.
ここで,2つの断面が十分近いとして n
1= −n
2とおく。このとき,上の式は p(S
2− S
1) = f
1S
1− f
2S
2= 1
2 ε
0E
12S
1− 1
2 ε
0E
22S
2= 1 2 ε
0(E
1S
1)
21
S
1− (E
2S
2)
21 S
2= 1
2 ε
0(E
1S
1)
2S
1S
2(S
2− S
1)
となる。最後の等式では E
1S
1= E
2S
2を用いた。両辺を S
2− S
1で割り, S
2→ S
1の極限を とって,柱体の側面にはたらく圧力 p は
p = 1 2 ε
0E
12であることがわかる。
Maxwell の応力による Coulomb 力の説明
2つの電荷のあいだにはたらく Coulomb 力を媒達説に基づいて考えると,2つの電荷を結ぶ 電気力管にはたらく張力を通して力が伝えられる。例として,点 A(a, 0, 0) に置かれた点電荷 q と点 B(−a, 0, 0) に置かれた点電荷 −q を考える。この2つの電荷によってつくられる電場は (4.9) で与えられる。 x = 0 の断面を考え, r
2= y
2+ z
2とすると,断面における電場の成分は 次の式で表される:
E
x= −2aq 4πε
01
[(a
2+ r
2)
3/2, E
y= 0, E
z= 0 応力 f =
12ε
0E
2を x = a の平面全体にわたって積分して,
F = q
2q
24πε
0 ∞0
r
[(a
2+ r
2)
3dr = q
24πε
0(2a)
2が得られる。これは距離 2a 隔てて置かれた2つの電荷 q と −q のあいだにはたらく Coulomb
力の大きさに等しい。
5.2 静電エネルギー 73
5.2 静電エネルギー
5.2.1 電場の形成と静電エネルギー
真空中の導体系では,全ての点の電荷密度が ρ(r) = 0 の状態を基準の状態と考える。正の 電荷と負の電荷が多量にあるが,正負の電荷は等量で重なり合っているので,電荷密度は 0 に なっている。この基準の状態から,外力によって電荷を移動させて最終的な位置に電荷を配置 するには,電気的な力に逆らって電荷を移動させなければならない。電荷を移動させることに よって電場が形成されていく。電場から受ける力につりあう外力によって,電荷を最終的な位 置に配置するのに要する外力がする仕事を 静電エネルギー と呼ぶ。
導体球を帯電させるのに必要な外力がする仕事
簡単な例として,孤立した半径 a の導体球に電荷 Q ( Q > 0 )を与えるのに必要な仕事を求め る。電荷を与えるとは,無限遠方から電荷を導体表面まで運ぶことである。電荷のない導体球 は電場をつくらないから,電荷 Q を運ぶのに仕事は必要ないように考えられる。しかし,これ は誤りである。電荷 Q を導体球に近づけていくと,導体球の表面には電荷が誘起されて電場 を形成する。従って,電荷 Q を一度に運ぶときの仕事を計算するのは簡単ではない。そこで,
一度に運ぶのではなく,微小な電荷を少しずつ運ぶ。 Q の一部が既に導体球に運ばれた状態で は,導体球のまわりに電場が形成されるが,微小な電荷は,この電場を乱さない。
いま,既に Q
の電荷が導体球に運ばれた状態を考える。このとき,導体球の中心に座標原 点をとると,導体球のまわりにつくられる電場は放射状に球対称で
E(r) = Q
4πε
0r
2r r
で与えられる。この電場に抗して微小電荷 ∆Q
( ∆Q
> 0 )を無限遠方から導体球表面まで 運ぶ。
電荷 ∆Q
が電場から受ける力( Coulomb 力)につりあう力 F は F = − ∆Q
E
であり,電荷 ∆Q
を導体球表面まで運ぶときに力 F がする仕事は
Q’
++ + + +
+ +
+ + + +
+
∆Q’
∆Q’ E E E F F F
0 Q’ Q
∆U
U
図 5.7: 導体球を帯電させるのに要する仕事
∆U =
P∞
F · ds = − ∆Q
a∞
Q
4πε
0r
2dr = Q
4πε
0a ∆Q
である。 ∆Q
を運んだ結果,導体球の電荷は Q
から Q
+ ∆Q
に増加する。
導体球の電荷が Q になるまで,微小電荷 ∆Q
を運ぶ過程を繰り返す。上の式を書き直すと
∆U
∆Q
= Q
4πε
0a
である。ここで, Q の分割数を無限に多くし( ∆Q
→ 0 ),同時に ∆Q
を運ぶ回数を無限に 多くする。この極限の結果,上の式は
dU
dQ
= Q
4πε
0a
となる。従って,導体球に与える電荷 Q を全て運ぶ過程で外力がする仕事は, Q
について 0 から Q まで積分して
U =
Q0
Q
4πε
0a dQ
= 1 2
Q
24πε
0a
となる。この仕事によって導体球のまわりに電場が形成される。これが静電エネルギーである。
半径 a の孤立した導体球が電荷 Q をもつときの電位を φ とすると,静電エネルギーは U = 1
2 Qφ, φ = Q
4πε
0a と表せる。
自己エネルギー
粒子に電荷を集めるために必要なエネルギーを 自己エネルギー と呼ぶ。粒子を半径が小さい 導体球と考えてもよいであろう。しかし,上の例で半径 a を小さくすると,球を帯電させるの に要する外力のする仕事は 1/a に比例して大きくなる。極限をとると U → ∞ (a → 0) と,静 電エネルギーは発散してしまう。電子は点状の粒子と考えられている。電子の大きさは,現在 の実験技術でも測定できないほど小さく,有限な大きさをもっているという実験的証拠も見出 されていない。本来,静電エネルギーには粒子に電荷を集めるのに要するエネルギーも加える べきであるが,粒子から電荷を取り出さない(取り出せない)のであれば,粒子の自己エネル ギーを考慮する必要はない。
例題 5.3 接地されていない半径 a の導体球がある。点電荷 q ( q > 0 )を無限遠方から,導 体球の中心から d ( d > a )の距離まで運ぶのに要する仕事を求めよ。
解 導体球に外から正の点電荷を近づけると,導体球表面に負電荷が誘起される。鏡像法 では,仮想点電荷 −q
を点電荷 q の鏡像の位置に,それと等量異符号の正の点電荷 q
を球の中心に仮想すればよい。 (導体球は接地されていないので,電荷の保存から,
q
の仮想電荷を置かなければならない。)
5.2 静電エネルギー 75 球の外にある点電荷は自分自身がつくる電場から力を受けることはないので,点電荷 q が力を受ける電場は仮想電荷がつくる電場である。導体球の中心を通る直線上を無 限遠方から球の中心に向かって電荷を運べば,電場は r 方向成分だけをもつ。点電荷 の距離が r であるとき, q
= qa/r であることに注意して,
E(r) = aq 4πε
0−r
(r
2− a
2)
2+ 1 r
3r r
である。第1項が鏡像電荷がつくる電場であり,第2項が球の中心に仮想した電荷が つくる電場である。点電荷が電場から受ける力につりあう外力は F = −qE であり,
この力は球の中心を向いている。この力によって無限遠方から距離 d まで点電荷を運 ぶ仕事は次のようになる:
U =
d∞
F · ds = −
d∞
aq 4πε
0−r
(r
2− a
2)
2+ 1 r
3= aq
28πε
01
d
2− 1 d
2− a
2.
5.2.2 分布している電荷のもつ静電エネルギー
分布している電荷のもつ静電エネルギー(相互作用エネルギー)は U = 1
2
n k=1q
kφ
k( 帯電粒子系 ) (5.3)
U = 1 2
ρ(r)φ(r) dV ( 連続的分布 ) (5.4)
で与えられる。帯電粒子系の場合, q
kは k 番目の帯電粒子の電荷を, φ
kは k 番目の粒 子の位置での電位である。連続的分布の場合,電荷密度 ρ と電位 φ の積を全空間にわ たって積分する。
帯電粒子系
n 個の荷電粒子からなる系を考える。ただし,粒子といっても,点電荷では自己エネルギーが 無限大になってしまうので,有限な大きさをもつ粒子を考える。ただし,粒子の大きさは粒子 間の距離に比べれば十分小さいとする。
いま,点 P
1に電荷 q
1をもった粒子がある。そこへ,無限遠方から点 P
2まで電荷 q
2をもっ た粒子を運んでくる。運んでくるのに要する外力がする仕事は
U = q
2φ
21= q
1q
24πε
0| r
2− r
1| , φ
21= q
14πε
0| r
2− r
1|
である。 φ
21は電荷 q
1が点 P
2の位置につくる電位で, U は電荷 q
2が点 P
2においてもつポ
テンシャルエネルギーである。ところで,先に点 P
2に電荷 q
2を置いておき,そこへ無限遠方
から点 P
1まで電荷 q
1をもった粒子を運んでくるとき,それに要する外力がする仕事は U = q
1φ
12= q
1q
24πε
0| r
2− r
1| , φ
12= q
24πε
0| r
1− r
2|
と書ける。両者は同じ値をもち,どちらかの粒子がポテンシャルエネルギー U をもつという ことはいえない。このエネルギーは2つの帯電粒子の相互作用エネルギーであり
U
12= 1 2
!
q
1φ
12+ q
2φ
21"
と表すほうが合理的である。
重ね合わせの原理を用いると,一般の n 個の帯電粒子の場合に拡張できる。すなわち, n 個 の帯電粒子の相互作用エネルギーは
U = 1 2
n i=jU
ij= 1 2
n i=1q
i n j=1φ
ijで与えられる。ここで,和の記号の肩につけた
は i を除くことを意味し, q
i以外の全ての電 荷が q
iの位置につくる電場の電位を表す:
U = 1 2
n i=1q
iφ
i, φ
i=
n j=1φ
ij=
n j=1
q
j4πε
0| r
i− r
j| . (5.5)
連続的に分布する電荷
上に示した帯電粒子系の議論を,電荷を含む微小な体積からなる系に適用すればよい。たとえ ば,点 P
1に微小な体積 ∆V
1があって電荷 ρ
1∆V
1をもっている。そこへ,微小な体積 ∆V
2に 含まれる電荷 ρ
2∆V
2を無限遠方から点 P
2まで運んでくる。このときの相互作用エネルギーは
U
12= 1 2
!
ρ
1∆V
1φ
12+ ρ
2∆V
2φ
21"
と表せる。重ね合わせの原理によって,複数の微小体積の和であるときは U = 1
2
i
ρ
i∆V
iφ
iとなる。さらに連続の極限(微小体積の数を増やし, ∆V を小さくする)では, ∆V の和は体 積積分になる:
U = 1 2
ρ(r)φ(r) dV, φ(r) = ρ(r
)
4πε
0| r − r
| dV
. (5.6)
これが,連続的に電荷が分布するときの静電エネルギーである。
5.2 静電エネルギー 77
5.2.3 電場がもつ静電エネルギー
帯電粒子系の式 (5.5) は,静電エネルギーが,電荷 q
iがもつポテンシャルエネルギーの和で 与えられることを表している。これは直達説的な見方である。それに対して,媒達説的な視点 からは,静電エネルギーは空間の電場がもつエネルギーであると解釈できる。
電荷系の静電エネルギーは次の全空間にわたる体積積分で与えられる:
U =
u(r) dV, u(r) = 1
2 ε
0E(r)
2. (5.7) すなわち,電場内の任意の点には,単位体積あたり u(r) の静電エネルギーが蓄えられ ている。
電荷が連続的に分布する場合の式 (5.6) を考え直してみる。 Gauss の法則の微分形を用いて 電荷密度を電場で表すと, (5.6) は
U = 1 2 ε
0φ(r) divE(r) dV ⇐ = ρ = divE となる。ここで,被積分関数をベクトル解析を用いて書き直す。すなわち,
div(φE) = ∂(φE
x)
∂x + ∂(φE
y)
∂y + ∂(φE
z)
∂z
= ∂φ
∂x E
x+ ∂φ
∂y E
y+ ∂φ
∂z E
z+ φ ∂E
x∂x + ∂E
y∂y + ∂E
z∂z
= grad φ · E + φ divE
という関係式が成り立つ。最右辺の第2項が静電エネルギーの式に現れているので,上の関係 式を代入して
U = 1 2 ε
0div(φE) dV − 1 2 ε
0grad φ · E dV
が得られる。右辺の第1項は, Gauss の定理 (2.33) を用いて 0 になることが示せる。 Gauss の 定理はベクトル関数の面積積分を発散の体積積分に書き直す定理であるが,これを逆に用いて
V
div(φE ) dV =
S
φE · dS
と書き直せる。右辺の被積分関数において,電荷が分布する領域から十分大きな距離 r だけ離 れたところでは,電位は φ ∼ 1/r に比例し,電場は E ∼ 1/r
2に比例するので,両者の積は φE ∼ 1/r
3に比例して減少する。従って,十分に大きな半径の球面について面積積分を行え ば,積分は 0 になる:
V
div(ρE) dV = 0.
残る第2項では, − grad φ = E の関係を用いて書き直すことができ,結局,静電エネルギーは
(5.7) で与えられる。
導体系の静電エネルギー
導体系の静電エネルギーは (5.6) から求められ,一般に n 個の導体からなる場合 U =
n k=11
2 q
kφ
k=
n k=11
2 C
kφ
k2=
n k=11 2
q
k2C
kとなる。 q
kは k 番目の導体の電荷, φ
kは k 番目の導体の電位である。また,導体の静電容量 C
k= q
k/φ
kを用いた。媒達説の視点に立てば,導体系の静電エネルギーは導体表面の電荷で はなく,導体間の空間(電場)に蓄えられている。
導体間の電場の静電エネルギー
導体 A から発して導体 B で終わる1つの細い電気力管に着目し,その内部に蓄えられている 静電エネルギーを求める(図 5.8 参照)。電気力線は正の電荷から発して負の電荷で終わる。電 気力管の導体 A 側の端に電荷 q があるとすると,電気力管の導体 B 側の端には電荷 −q があ る。導体 A の電位を φ
A,導体 B の電位を φ
Bとすると,それらは次の式で表される静電エネ ルギーをもつ:
U = 1 2
!
qφ
A+ (−q)φ
B" = 1
2 q (φ
A− φ
B) (5.8) ここで,電気力管に沿って導体 A から導体 B に達する曲線を n 個の微小区間に分割する。 (5.8)
A q φ
AB
− q φ
B∆ s
kE E E
kA
q E E E j
∆ S j
図 5.8: 導体をつなぐ電気力管
の右辺に現れる電位差 φ
A− φ
Bは電気力管に沿った電場の線積分で与えられ,これを n 個の 微小区間の積分の和に書く(図 5.8 の左図) :
φ
A− φ
B=
BA
E · ds =
n k=1 sk
sk−1
E · ds =
n k=1E
k∆s
k.
∆s
kは s
k−1から s
kまでの微小な長さである。 s
0は導体 A の表面にあり, s
nは導体 B の表 面にある。 E
kは s
kにおける電場の強さである。電気力管を仮想的に導体 A の内部の s
−1ま で拡張し,電気力管の s
−1と s
jにおける断面にはさまれた部分に Gauss の法則を適用する
(図 5.8 の右図)。導体内部には電場はなく,電気力管の側面では法線と電場は直交する。従っ て,面積積分に寄与するのは s
jにおける断面だけであり,
q = ε
0E · dS = ε
0E · dS
j= ε
0E
j∆S
j( j = 1, 2, · · · n )
5.2 静電エネルギー 79 が成り立つ。 ∆S
jは s
jにおける電気力管の断面積である。上の2つの式を (5.8) に代入して
U = 1
2 ε
0E
j∆S
j n k=1E
k∆s
k= 1
2 ε
0E
j∆S
j!
E
1∆s
1+ E
2∆s
2+ · · · + E
n∆s
n"
と表せる。右辺の積 E
j∆S
jで j は 1 から n のいずれの値でもよいので, ( ) 内の和の各項 に対応して j = 1, 2, · · · n として和の中に入れることができる:
U = 1 2 ε
0!
E
1∆S
1E
1∆s
1+ E
2∆S
2E
2∆s
2+ · · · + E
n∆S
nE
n∆s
n"
= 1 2 ε
0 n k=1E
k∆S
kE
k∆s
k= 1 2 ε
0 n k=1E
k2∆V
kここで, ∆V
k= ∆S
k∆s
kは電気力管の s
k−1から s
kまでの微小体積である。 n → ∞ と同時 に ∆V
k→ 0 の極限をとると,和は積分になり,
U = 1 2 ε
0V
E
2dV = 1 2 ε
0V
E(r)
2dV となる。右辺は電気力管全体にわたる体積積分である。
例題 5.4 半径が a の孤立した導体球の表面に電荷 Q が一様に分布している。この導体球 のまわりの電場がもつ静電エネルギーを求めよ。
解 導体球のまわりの電場は導体球の中心から放射状であり,その大きさは E(r) = Q
4πε
0r
2( a < r )
で与えられる。静電エネルギーは,半径 r の球面の面積が 4πr
2であるので U = 1
2 ε
0Q
4πε
0 2 ∞a
1
r
4· 4πr
2dr = Q
28πε
0a .
5.2.4 Thomson の定理
Thomson の定理( Thomson’s theorem )
導体系に電荷を与えると電荷は互いに及ぼし合う力によって導体内を移動し,最終的に は静電エネルギー U が最小になる電荷分布に落ち着く。
(系が最初にもっていたエネルギーの一部は,静電エネルギーが最小がなるように電荷
が移動するのに伴って, Joule 熱に変わって失われる。)
Thomson の定理は静電場が満たすべき基本方程式から導くことができるが,逆に,基本方程 式の一つである rot E = 0 を Thomson の定理で置き換えることができる。
導体系に境界条件を与えたとき,導体のない空間では2つの基本方程式
div E = 0 (電場の源である電荷がない) (5.9) rot E = 0 (電場はうずなし場である) (5.10) を満たす解はただ一つ定まる。同じ境界条件で (5.9) だけを満たす解の中で静電エネル ギー U が最小である解はただ一つに定まり, (5.9) と (5.10) を満たす解と同じである。
(5.9) と (5.10) を満足する解を E
0とする。同じ境界条件で (5.9) だけを満足する解を E とす る( E は一意的には定まらない)。いま,両方の解の差を E
= E
0− E とすると, E と E
0に対する静電エネルギーの差は次のように表せる:
U − U
0= 1 2 ε
0! | E |
2− | E
0|
2" dV = 1 2 ε
0(−2E
0) · E
dV + 1 2 ε
0| E
|
2dV. (5.11) 右辺の第1項が 0 になることを示せばよい。第1項が 0 であれば, E
= 0 のとき U = U
0と なり,この値が U の中で最小であることがわかる。
(5.11) の第1項が 0 になることは以下のように示せる。その際に,条件 (5.10) に注意する。
電場 E
0は (5.10) を満たすのでうずなし場であり,電位 φ
0が定義できる。しかし, (5.9) だけ を満足する解 E は (5.10) の条件を要請していないので,電位が存在するか否かはわからない。
まず,ベクトル解析により
div(φ
0E
) = E
· (grad φ
0) + φ
0divE
= E
· (−E
0) + φ
0divE
が成り立つ。2番目の等号では, E
0が (5.9) と (5.10) を満たす解であることから, grad φ
0=
−E
0が成り立つことを用いた。この式より, (5.11) の第1項の積分は次のように書き直せる:
(−E
0) · E
dV =
div(φ
0E
) dV − φ
0divE
dV.
この式の右辺の第2項は, E
= E − E
0,及び (5.9) の条件 div E = div E
0= 0 により 0 に なる。第1項は Gauss の発散定理によって
div(φ
0E
) dV =
φ
0E
· dS
と導体表面に対する面積積分に書き換えられる。ここでは導体系を考えているので,面積積分 は,系の中の各導体に対する表面の面積積分の和で表される:
φ
0E
· dS =
n k=1φ
kSk
E
· dS =
n k=1φ
kSk
E
0· dS −
Sk
E · dS
.
最右辺の2つの積分は,各導体 k に与えた電荷 q
k(を ε
0でわったもの)になるので,引き算 によって 0 になる:
Sk
E
0· dS −
Sk