• 検索結果がありません。

NPO の活動継続要因についての予備的研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "NPO の活動継続要因についての予備的研究"

Copied!
19
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

〈研究ノート〉

NPO の活動継続要因についての予備的研究

大槻 茂実 1.はじめに

 近年、「新しい公共」の担い手として NPO やボランティア団体をはじめ とした市民の活動に対する注目が地域の活性化の観点から高まっている。そ の背景には、戦後日本社会の大企業を中心とした経済発展の中、町内会・自 治会を主要な担い手として形成・維持されてきた地域社会の脆弱化があるこ とは疑いがない。

 歴史的文脈は違うものの、そうした社会の発展にともなう地域社会の希薄 化は我が国だけの問題ではなく、先進諸国が共通して抱える問題でもあるこ とも報告されている。例えば、人々の関係性が地域社会の発展に寄与する一 方でその関係性が希薄化していることはソーシャル・キャピタル論(例えば、

Putnam 2002=2013)から指摘されており、ソーシャル・キャピタル論が指 摘する関係性の蓄積の公共財として機能は国家や行政主導による「新しい公 共」の施策の骨子として参考にされてきた1。また公共性を観点に資本主義 の対抗的存在として場所としてのコミュニティの可能性を考察する都市社会 学・都市コミュニティ論の主張(例えば、Sennett 1976=1991)もその一例 と考えられる。換言すれば、個人の自由な諸活動にもとづく社会の変化・形 成と親和性をもつ公共性と、地域を中心とした安定した社会に結びつく共同 性の折り合いこそが、世界経済・グローバリゼーションの進行にともなって 多くの先進諸国で求められている課題であると指摘できよう。

 これまでの福祉国家論が行き詰まりをみせる中、個人の自由な諸活動を確 1 例えば、神戸市市民参画推進局地域力強化推進課(2011)を参照されたい。

(2)

2 例えば筆者らが 2012 年に行った東京都西東京市における NPO・ボランティア 団体に対する全数調査においても、登録はしてあるもののすでに活動を停止・

休止している団体が一定数いることが明らかとなっている(大槻・田口 2013)。

3 調査全体の詳細な説明・知見については和田ほか(2014a,b)を参照されたい。

保しながら、いかに地域社会の活性化を果たしていくのか。学術的な議論は もちろんのこと、行政レベルにおける実践的な解決も同時的に要請されてい ることに疑いの余地はない。そうした中、上述のように我が国では「新しい 公共」の担い手として NPO をはじめとした市民側からの公共サービスへの アプローチが期待されている。事実、NPO 法人認証団体数は 2000 年以降一 貫して増加傾向にあり、NPO が市民の社会参加の受け皿として、また行政 との協働の担い手として、一定の機能を果たしていることが示唆される(和 田ほか 2014a,b)。

 しかしながら、そうした NPO への参加・期待が進む一方で、様々な困難 が生じていることもこれまで様々な研究者・有識者から指摘されてきた(例 えば、労働政策研究・研修機構 2004、大槻 2013)。これらの知見を要約か ら、①ボランティア層の人材確保②後継者探し・育成③スタッフの専門能力 向上などの点において多くの団体が課題を抱えていることが明らかになって いる。

 本研究では、こうした諸点についての課題解決に向けて行政をはじめとし た様々な方面からのサポートが必要であることに疑いはないものの、方法論 的問題からその課題の提起自体に一定の留保が必要であることを指摘する。

なぜならば、これまでの研究報告で明らかにされてきた課題の多くは、あく まで活動を継続している団体に対する調査結果にもとづいた知見であり、い わば「継続事例」によって得られた知見を列挙しているに過ぎない。前述の 2000 年以降の NPO 団体数の増加もあくまで登録数による把握であり、その 中には実質的に活動を休止・停止している団体も数多く存在することが予想 される2

 「新しい公共」の担い手として NPO への期待が高まる一方、そうした NPO に対する具体的な支援はいかにして可能なのか。現実的な課題と対策

(3)

を導出していく上で、方法論的問題が横たわる。後述のインタビュー内容に もあるように、多くの NPO 団体はその活動を継続していく上で行政からの 助成金をはじめとした具体的な支援を必要としている。しかしながら、助成 金を始めとした NPO 団体への支援を検討していく上でその対象となるのは 活動が継続されている NPO 団体であれば、支援の体制そのものに一定の偏 りが生じている点は否めない。すなわち、現実に活動が活発な団体は申請手 続きや審査結果からますますサポートを受けとりやすく、一方で活動そのも のが困難な状況にある NPO 団体は助成金を始めとしたサポートを相対的に 受け取ることが難しく、ますますその活動が困難化する。

 当然ながら、活動の休止・停止、団体の解散を余儀なくされた団体(以下

「休止・解散事例」)も本来は前述のように NPO が協働の担い手として期待 されていたのであり、NPO 活動の休止や停止の要因が何らかの構造的要因 によるものであるとすれば、協働の可能性が社会構造的要因によって歪めら れていることになる。

 そこで本研究では従来の研究では見落とされてきた、何らかの理由で活動 の休止・停止、団体の解散を余儀なくされた NPO 団体に対する調査結果を 分析することで「新しい公共」の構造的欠陥を考察する。

2.調査対象インタビュー

 本研究で扱うデータは 2012 年より 2 年間にわたって「居住支援にかかわ る活動実態と多様な主体との連携」をテーマとする共同研究を通して得られ たデータである。なお、この共同研究は『コミュニティ形成・まちづくり活 動の一つである『居住』に着目し、『居住支援 NPO』を研究対象として取り 上げ、その活動実態と連携の解明をテーマとして設定し取り組』んでいる(和 田ほか 2014:85)。「高齢者住まい法」や「住生活基本法」が制定され、居 住に関する NPO への期待が高まる一方、居住支援を目的とした NPO 研究 は現在皆無であることから、居住 NPO についての基礎的な社会調査が企画・

実施された3。特に本研究では上記の調査の一貫の一環で筆者自身が行った

(4)

4 事例表記(アルファベット)については、和田ほか(2014a,b)で掲載された 表記と異なる。本研究で扱った事例はそれぞれ以下のように対応する。本事 例 A =報告書事例 L、本事例 B =報告書事例 B、本事例 C =報告書事例 R、

本事例 D =報告書事例 S。

NPO4 団体の代表者に対するデプスインタビューの内容を分析する。

 4 団体のうち、2 団体は後述のように活動の休止、団体の解散を余儀なく された団体(「休止・解散事例」)であり、残りの 2 団体は諸課題を抱えるも のの現在活動が継続的に行われている団体(「継続事例」)である。「休止・

解散事例」と「継続事例」の比較を通して、その要因を検討していく。特に これまでの社会調査では調査対象とならなかった活動休止・停止団体に注目 することで NPO への支援のあり方を今後追究していく上での予備的な考察 を行う。なお、本研究で行った分析・考察は和田ほか(2014a,b)における 事例報告内容をもとに大幅加筆修整したものである4

2-1.休止・解散事例 A

 休止・解散事例 A は高齢者同士のグループホームの設立を目的として設 立した。特にカナダのグループリビングハウスの先行事例(ユニタリアンハ ウス)を参考に、日本でグループリビングの設立を目指し、1990 年代に結 成した。東京都内の事務所を設置し、主な活動範囲は関東圏内であった。

 代表者は 1970 年代より YMCA で活動しており、YMCA 留学生のホスト ファミリーとして、海外から日本にきた留学生の宿泊の世話などをしていた という。そうして面倒をみていた留学生のうち、ある家族に招待される形で カナダ・トロントに遊びに行き、そこでユニタリアンハウスを見学したのが そもそものきっかけだった。

 それまでグループリビングについては一切知らなかったが、ユニタリアン ハウスの運営・活発さに魅せられたという。

「はじめは全然知らなかったんですよ。そういう老後の過ごし方があること 自体。でも、ユニタリアンハウスで過ごされている方が本当に生き生きとし

(5)

ていたんですね。他人同士の方々が楽しく好きなように一緒に生活している の。そういうのを私たちも日本で出来ないかなって思ったんですよ。」

 代表者は帰国後に友人たちとボランティアグループを結成し、グループリ ビングに向けての勉強会を開始した。結成当初より、会報作成を通して会員 の啓蒙活動に積極的に取り組んでいた。また、自分達の活動内容をもとに他 の NPO 団体と共同で 2000 年にはグループリビングについての出版を発刊 するにまで至った。その後、団体の出版・活動内容は 2000 年代にシルバー 新報にも掲載される。

 以上のように他の NPO 団体との交流をしながら、グループリビングにつ いての研究・啓蒙活動をしてきたが、現実にグループリビングを行うには 様々な障壁があることから、グループリビングの実行は断念することになり、

NPO としては活動を停止することとなった。

「最盛期は一般の会員も 100 名くらいはいたんですよ。ですから、会報や出 版費用なんか含めて会費で随分賄えたんですよね。出版についてはね、メン バーの中に広告代理店に務めていた方がいたんですよ。それで、そういうノ ウハウがあったんです。出版とかマスコミなんかに働きかけての宣伝とかね。

ちょうどグループリビングみたいな老後の過ごし方に注目が集まってきた時 期だったんじゃないですかね。そういう意味では、私たちの活動はそれなり に意義があったと自負しておりますけどね。」

「…でも、そのうちいくら出版をしたり、メンバー同士でグループリビングの 研究を進めてもね、いつまでたっても実際にやらないとなると、だんだんメ ンバーのモチベーションも下がっていっちゃったんですよ。主なメンバーの 方々は、ただでさえみなさん仕事を持っていたりして多忙でしたしね。それ ならみんなそれぞれの道でがんばりましょうってことでひとまず『休止』す ることになったんですよ。機会があればまた再開したって良いわけですから。」

(6)

 居住支援にかかわる NPO の場合、和田ほか(2014b)で論じられたよう に従来の NPO 論で指摘されてきた福祉的視点のみならず、住宅・建築的視 点も必要となる。すなわち、住宅施設を建築する上で多額のコストが必然的 発生することとなり、その資金の確保が NPO にとっては大きな障壁となる。

グループリビング用に住居を建築しようしたこの事例においては土地代も含 めて 10 人規模のグループリビングを実現するためには土地の確保・建築物 の設計・施行などで総額 7000 万円近くの資金が必要であったという。10 名 の希望者が見つかった場合、一人当たりの出資金は 700 万円となるが、仮に 希望者が 10 名に満たなかった場合、欠員分の負担をそれだけ希望者で負担 として加算されることになる。グループリビングという居住形態に魅力を感 じる高齢者は多いものの、情緒的人間関係を築ける保証もない中で、初期費 用として 700 万円を払える高齢者はそれほど多くなく、また数名の希望者は 見つかるものの 10 名同時に希望者がでてくることはなく、結局資金・一定 数の希望者の確保の点からグループリビングの実現が叶わなかったと代表者 は述懐した。

 また、グループ関係者が 70 歳以上の高齢者 4-5 名程度の小規模なグルー プリビングを試みたこともあったが結局うまくいかなかったと代表者は話 す。理由として、グループリビングの参加した高齢者自身が「管理人にお世 話してもらう」といった依存状態に陥ってしまい、自助努力・自己責任に基 づいた共同生活が難しかったことが挙げられる。

「結局ね。見ず知らずの人同士が一緒に暮らすということ自体は魅力的だっ てみなさんお思いになるんですけどね。実は、10 人といった大人数じゃな くて、4 人くらいの少人数で実際にやってみた方がいらしたんですよ、知り 合いで。その方が管理人という形で参加して、最初はうまくいきそうだった んですけどね。」

 

「ところが、途中からみなさんその管理人の方に依存する形になっちゃった んですよ。それこそ食事なんかも、毎回管理人の方が作る形で。それが当た

(7)

り前って意識になっちゃったのね。私たちがやりたかったカナダのグループ リビングなんかはそれぞれが独立して自分達で自分のことをする形だったの よ。高齢者といってもみなさん本当に色々できるわけでしょ。食事にしても、

基本的に当番で自分達で担当したりね。その当番だって、みんなでしっかり 議論して決めたりするのね。」

「でも、日本でもそういうことをやろうしてもどこかで『世話をする / 世話 をしてもらう』っていう風になっちゃうのね。そういう部分もあったもので すから、私たちはグループリンビングの啓蒙的な活動に時間を費やしたんで すけどね。」

 海外におけるグループリビングの形態などは確かに魅力的であるものの、

奉仕や介護の場面におけるしばしばみられる「日本的な依存関係」があるう ちは、形だけグループリビングの形態をとったとしても、高齢者が自立・自 己責任にもとづいた共同生活を送ることはなかなか難しいのではないかと代 表者は指摘する。市民社会を前提とした欧米型の高齢者居住を制度として日 本社会に適用することのリスクが本事例からみてとれる。

 一方、この事例においては、出版活動などを軸に他の NPO 団体や任意団 体との定期的な意見交換を通して連携を行っていたものの、国や自治体との 連携は一切なかった。個人の出資では通常困難な資金の確保という点では自 治体などを通しての助成金の確保が対応策として考えられるが、事例 A で はそうした対応は行わなかった。この点は、次の事例 B とも共通する。

2-2.休止・解散事例 B

 休止・解散事例 B は、年金受給者を主な対象者として一人暮らし高齢者 の居住環境を含めた日常的なサポートをすることを目的として設立された。

事務所は東京都心のビルの一室だった。

 1990 年代に年金受給者連盟の会員が中心になり NPO が結成された。2010 年代まで活動を継続したものの、諸問題の山積により、十分満足のいく活動

(8)

をするまで至らず、2010 年代に NPO を停止することになった。

 事例 B は NPO 結成以降、セミナーを中心とした活動に終始することにな る。年金受給者連盟は全国に及ぶため、その NPO の活動の範囲も全国規模 を企図したものにせざるを得なかったのである。

「NPO を作ったはいいんですけどね。うちの場合、年金受給者が対象でしょ う?そうなると、全国の年金受給者が対象になっちゃうんですよ。高齢者支 援って銘打って色々考えてもね、対象が多いもんだから逆にできることも限 られちゃったんですよ。

 例えば、セミナーなんかをうちはよくやったんだけどね。こういうのだっ て一回一回場所を確保して、会員に連絡してってなるとやっぱりお金がかか るんですよね。一応、広く募集をかけるもんだから、自宅の一部屋ってわけ にもいかないでしょ。

 それにセミナーでお医者さんやらに講演をお願いしてってなるとどうし たって無料ってわけにもいかないしね。本当はそういうセミナーがきっかけ になって、もっと色々なことができればよかったんだけどね。

 うちの場合はね、『XXXXXX』といった本を出版したんですよ。会費の 他にこういう出版物の販売利益なんかで活動資金を確保してたんですよ。他 にも『XXXXXX』っていう冊子なんかも作ってね、それも活動資金になっ ていったのね。」

 事例 B は事例 A と同様に、セミナーを中心とした広報・啓蒙活動に力を 注いでいた。事実、本を出版しその利益を団体の活動資金に充てるまでに及 んでいた。だが、そうした活動と本来活動メンバーが目指した活動内容との 乖離があったことは代表者も認めている。また、目標とする活動への展開の 障壁となっているのは事例 A も事例 B も共通して資金であったことが分か る。

「課題ってなると、活動人員の確保もあるし、指導者の育成なんかも確かに

(9)

課題ではあるけどね。結局さ、お金がないと人を雇うことも出来ないし、指 導者みたいな人も育たないわけなんだよね。あと、特にウチの場合は事務所 の確保がね。全国から人が集まりやすい場所ってなるとどうしても東京の都 心の場所に事務所がないとダメだし、そうなるとものすごく家賃がバカにな らないわけですよ。NPO を停止することにした一番の理由は家賃のことな んですよ。今までは出版で出た利益なんかで家賃も賄えたんですけど、今後 は借金を抱える形になっちゃうからね。それなら『店をたたもう』と。」

「自治体との連携?特になかったですね。うちは対象が全国に散っちゃって るから、特別、東京都とか市区町村と連携っていうこともやりづらかったで すしね。他の NPO ですか?そういうのも特になかったねぇ。どうしても、

うちがちょっと特殊な感じだったし。もっと地域に根ざした団体さんならそ ういうこともできたんだろうけどね。」

 事例 B は国・自治体との連携も特になく、また他の NPO 団体などとの交 流も特になかったと代表者は述懐する。その意味では、事例 B は他の団体 と比較してやや孤立している状況であったことが分かる。仮に事例 B の活 動範囲が全国規模ではなく、地域に根ざした規模での活動に終始できたので あれば、自治体や他の団体との連携の可能性があったことも代表者より指摘 された。

 NPO はその組織原理からしばしば「テーマ型組織」と呼称される(大槻 2013)。これはその組織原理として「地縁型組織」である町内会・自治会など と異なり NPO は専門的な知識や技能を活かした特定の分野による組織化をし ていることにその理由がある。したがって、大槻が指摘するように、NPO は テーマによる結束を前提とし、活動の範囲は地域に限定されない。その点か らすれば、事例 B はまさにテーマ型組織の典型例といえよう。しかしながら、

代表者の語りからすれば、そうしたテーマ型組織よりも、むしろ地域に根ざ した組織として組織形成された方が継続的な活動を行う上では優れている可 能性が示唆される。このことは、次の事例 C においても同様に指摘される。

(10)

2-3. 継続事例 C

 これまでの事例 A、B と異なり事例 C(後の事例 D も)は現在も活動を 継続している NPO である。本研究で扱う事例の中で、最も「成功」してい る事例と位置づけられる事例 C は居住支援、特に路上生活者・低所得者を 対象として住居提供と生活サポートを行うことを目的として組織された。生 活サポートは具体的には対象者の健康、精神的ケアなどが挙げられる。また、

上記以外の活動として、退所者(およそ 150 人ほど)に対しても仕事の斡旋 などをはじめとして継続的なサポートも行っている。

 NPO としては 2000 年代に結成された。代表者はもともと野宿支援の訪問 活動を関東圏の某市区町村郡地区で行っていた。代表者によれば活動中に支 援対象者の居住の問題が目立つようになっていたところ、ちょうど提供に適 した住居を見つけた。賃貸・売買の手続きを行っていく上で任意団体であ るより法人格を取得した方が効率的であった事から、NPO になったという。

当初のメンバーは 10 ~ 20 名前後で、今も 15 ~ 16 人のメンバーで構成され る。現メンバーのうち 12 名は有給で活動しており、2 ~ 3 人はボランティ アとしてイベントなどがあった際に手伝ってもらっている。

 特に事例 C はキリスト教会内の一室を活動拠点としている。また、教会 であることから定期的に人が集まりやすく、その結果 NPO の広報活動や協 力依頼なども比較的恵まれていると代表者は話す。また NPO メンバー全員 がキリスト教の信者ではないものの、ミサに参加していく中で NPO 活動に も参加するメンバーは多いと話す。教会が結節機関となり地域情報の交換の 一助となっていることが示唆される。

 活動の休止・解散を余儀なくされた事例 A、B はいずれも深刻な資金面の 課題がその主な理由として挙げられていた。しかし、事例 C はこの点を自 治体からの助成金という形で克服している。

「うちは『某都道府県』と連携しています。具体的には 2 つの事業を請け負っ ています。1 つはモデル事業で居住移行支援ですね。もう 1 つは法律関係も 含めた総合相談事業ですね。いずれにせよ、『某都道府県』から NPO 支援

(11)

事業として金銭的なサポートを得られています。」

「もちろん組織の収入源としては『某都道府県』からの事業委託が一番大き いですよ。入居者の家賃収入だったり、会費や寄付による収入もありますが、

それだけではメンバーの給料は払えませんし、何より NPO としての活動そ のものが出来ません。『某都道府県』との契約がある間はうちは、まぁ何と かやっていけるかなと思いますけどね。」

 上記のように事例 C は広域自治体との連携がとられており、資金的な面 でも比較的恵まれ、有給で職員を雇えるほどの状態にある。代表者の話では、

活動自体も比較的活発であり、住居提供を受けた対象者(入居者)は常時約 70 名となっている。すでに、住居から退所し自立的な生活を始めている人々 もおり、約 150 人の退所者に対して、就職斡旋や就労を継続していく上での メンタルサポートなどの継続的なサポートも行っている。こうした点から、

事例 C は他の NPO 団体などと比較すれば、相対的に良好な経営・活動状態 にあると考えられる。

「『某都道府県』だけでなく、『某市区郡町村』とも連携はしていますね。ですが、

こちらは金銭的なものではなくむしろ定期的な意見交換なんかです。市とし て「あぁしたい、こうしたい」っていう要望も理解できるんですが、現場の 判断からしたら無理なこともあるんですよ。逆に、現場の方から市に対して

「もっとこうしてほしい」とかね。そういうズレを調整する意味で定期的に 意見交換なんかをしています。市とは違うけど、福祉事務所なんかとも連絡 をとりあってますね。ここも金銭的なものではなく、情報のやりとり。例え ば、DV の被害者なんかは色んな方面からサポートしてあげないといけない わけだしね。あとは社団福祉法人・公益法人とは就労先の紹介業務なんかで 連携していますね。結局、困っている人に住まいやら仕事やらをサポートし ていこうとなったら色々なところと協力しながらやっていかないとうまくい かないんですよ。そういう意味では他の NPO やボランティア団体なんかと

(12)

も定期的な意見交換なんかはしてますけどね。」

 上記の発言からわかるように、事例 C はローカルな地域に根ざした活動 を集中させている点で事例 B と異なる。また、自治体をはじめとして様々 な組織との連携も行われている事例 C は資金確保のみならず、活動の点に おいても正のスパイラルにあることがわかる。まず、活動資金が確保でき ることで、NPO 活動の実行可能性が高まる。そのことで、他の組織との連 携も容易となり、更に NPO 活動の幅・質が上昇する。そうした実績が更に NPO として信頼を高め、次の助成金確保へと結びついていく。もちろん、

事例 C にも課題がないわけではない。たしかに活動資金の確保については、

現在のところは広域自治体からの受託事業があるためそこまで喫緊の課題で はないものの、将来的に受託事業が終了した時には深刻な課題となる可能性 はあると代表者は話す。また、活動人員の確保と指導者・代表者の育成も課 題として挙げられていた。換言すれば、事例 C のように良好な状態である NPO でさえも、活動人員の確保や指導者・代表者の育成は解決の見通しが 立ちにくい問題であることが指摘されよう。

 しかしながら、全体的にみれば解決すべき課題はあるものの、他の NPO 団体と比較して、事例 C は良好な状態にあると考えられる。事実、活動資 金の確保は現状極めて深刻な状態にあるわけではなく、何より事務所・施設 スペースや情報収集・情報発信についても恵まれた環境にある。結果とし て、他の団体・組織とも連携が果たされており、保有するネットワークも豊 富であると考えられる。また、事例 C においては広域自治体・基礎自治体 それぞれとの連携を果たすものの、その役割は資金的サポート、情報サポー トというように差別化されていることが分かる。特に金銭面以外の具体的な 諸問題の解決の相談としては現場としての立場に明るい基礎自治体との協働 が一定の効果を果たす可能性が導出される。このことは個別の具体的な問題 については広域自治体では対応が難しいことが理由として考えられる。事例 C での広域自治体の具体的な役割は事業の委託という形での資金的サポート だが、より重要なのは広域自治体と基礎自治体とでその役割が相互に差別化

(13)

されている状態が NPO 側にとっては活動が行いやすくなる状況を生み出す 可能性が高いという点であろう。

 以上のような点を踏まえた上で、事例 D を紹介する。事例 D は事例 C と 同様に現在も活動を継続している NPO である。

2-4.継続事例 D

 事例 D は主に地域における高齢者に対して、安心して生活してもらえる ようなサービスの提供を目的として活動している。2010 年代に立ち上げら れ、まだそれほど月日が経っていない5

 事例報告にあるように代表者は警察(某都道府県警)に勤務していた。白 バイを運転し機動隊にも所属し、最終的には刑事へと昇進した。しかし、

2000 年代(本人 =40 代)に警察を退職。退職の理由としてはそれまで抱え ていた大きな仕事が解決したことに加え、自分自身のアイデンティティとし て新しいことを始めたくなったことだったという。

 退職後、高校時代の同級生に誘われて民間の介護事業に 7 年ほど従事した。

そこでの経験・人的ネットワークを基盤に自分自身が中心となって 2010 年 代に当 NPO を立ち上げた。事例 D の活動特色として、新しい NPO として これまでの福祉的 NPO にみられがちな特徴を排する姿勢がある。例えば、

介護職に携わる NPO メンバーは中型バイクを常時移動手段として用いてお り、ヘルメットも無線インカムを装備し、また専用のユニフォームを用意し ている。そのユニフォームも黒地を基調としておりいわゆる福祉的色彩は薄 い。代表者自身、福祉的色彩を意図的に避けることによって「新しい NPO」

として地域住民・地域社会へアピールしていきたいという狙いがあると話 す。また、バイクは震災をはじめとした自然災害などが発生した際に最も便

5 調査時点では組織として立ち上げてまだ間もないことから、メンバーの資格・

経験から訪問介護を中心とした活動をしているものの高齢者の就労支援・空 き家活用に法人の活動を広げていく予定である。現時点での活動内容では居 住についての活動をしていないが、今後の活動として代表者が計画している ことから本分析の事例データとして扱った。

(14)

利な移動手段であるとことから、有事への備えとしてメンバーがバイクの運 転をできるようにしているという。新しく結成された NPO には、これまで の NPO や関係組織などでは対応が難しかった諸問題の解決に向けての新た な一助となる潜在能力があると考えられる。例えば、事例 D の福祉的色彩 を避けた試みはこれまでの福祉的アプローチによる対応が難しかった事柄へ のオールタナティブな試みの 1 つであるといえよう。

 事例 D は、現在のところは訪問介護・安全確保・情報収集を主に活動の中 心に据えており、関東圏の某市区郡町村を中心に活動している。ローカル地 域に根ざした活動を行っているという点では事例 D は事例 C と同様である。

 また事例 D は比較的近隣にある他の NPO 法人とは定期的な意見交換を行 い、ボランティア団体をはじめとした任意団体とは物品やサービスの受領と いった形で連携的な活動を行っている。また、代表者が元々地元の警察署に 勤務していたことから、直接的なサポートなどはないものの、相談などは今 も行っている。その意味で、地域に根ざした一定のネットワークを確保して おり、社会的に孤立した状況にはないと考えられる。しかしながら、事例 D は事例 C と異なり、国・都道府県・市区町村との具体的な連携経験は一切ない。

また NPO として新たな試みに積極的であるものの、活動としての実績に乏 しい点でも異なる。これらの点が事例 D が抱える課題という意味で大きな ポイントとなる。

「ウチは残念ながら資金問題が深刻な状態ですよ。だいたい 90 万円くらいの 収入でトントンなんですけどね。従業員の給料なんかも払って。でも、現在 収入は 60 万円くらいでずっと 30 万円の赤字状態なんです。そこは私の警察 を辞めた時の退職金やら、金融機関からの借入金、そういう所からのお金で やりくりする感じでしのいでいますね。」

「色んな助成金の申請もたしかにしてはいるんですけどね。結局のところ、

ウチの場合、NPO 結成からまだ日が浅いからさ。どうしても、『実績』って いうところ弱いんですよ。だから今は厳しい状況なんだけどとにかく耐え

(15)

るって感じですね。」

 

「今やってる訪問介護をあと 2、3 年継続させられたら、それが実績として売 り込めるかなと考えているんですよ。それで助成金なんかの獲得に結びつけ られたらね。その間の 2、3 年が正念場って感じですね。それまでは、訪問 介護の報酬なんかもあるけど…。今は、退職金なんかを切り崩せるから良い けど、それも限度があるしね。実績ってことだけじゃなくて、こちらの金銭 的な体力って意味でも実は 2,3 年が限度なんだけどね。」

 上記の発言にあるように事例 D は代表者の個人的な補填によって現在直 面している金銭的困窮にひとまずの対応をしている状況にある。当然ながら、

こうした状況は代表者に多大なリスク・負担を強いることになるが、実績を もたない新しい NPO では助成金の公募において不利な状況にあることから、

オールタナティブな対応策がないのが実情である。もちろん、自治体からの 助成金などに依存せざるを得ない状況自体、本来の協働のありようからすれ ば望まれることではない。そこに行政への依存の関係が生じてしまうからだ。

「まぁ、お金の話は別にいいんですよ。私が好きでやってることだっていって しまえばそれまでのことですから。でもね、諸先輩方(= 高齢者)はこんな 私らの力を必要としてくれてるんですよ。それをどうにかしてやらないとね。」

「今まで色々やってくださった諸先輩方を放っておくなんてできませんよ。

あの人たちは今もしっかり働けるんですよ。ただ、ちょっと手伝いが必要っ てだけで、経験って意味では私らなんかよりよっぽどすごいもん持ってるん ですよ。それなら、その手伝いを俺ら若ぇ衆がやってやりゃあいいじゃねぇ かって話なんですよ。それができれば、私の金のことなんてたいしたことじゃ ないんです。」

 協働の対等性の観点から、今後助成金のあり方が議論されるべきであるこ

(16)

とは明らかである。しかし、そうした助成金でさえ満足に申請・獲得するこ とが困難な新しい NPO は協働のありようを議論するテーブルにさえつくこ となく、設立されては消えていく状況が事例 D の報告から容易に想像され よう。

 金銭的サポートを得にくい新たな NPO の場合、その存続の条件として代 表者をはじめとしたメンバーの福祉的精神の犠牲が要求されることが上記の 代表者の発言がみてとれる。しかし、そうしたトレードオフな状況は果たし て「新しい公共」のありようとして肯定されるものなのだろうか。かつての 福祉国家論が行き詰まりをみせる中で、公共の担い手を行政に依存するので はなく、市民側にも求めたのが「新しい公共」であったはずだが、その内実 は金銭的なコストを行政から特定個人へと押しつけてしまう危険がはらむこ とが事例 D から指摘されよう。

 

3.知見の整理

 これまでの知見の整理をしておきたい。本研究では活動を休止・解散した NPO への聞き取り調査をもとに「新しい公共」の構造的欠陥を導出するこ とを分析の視座とした。本研究では分析した 4 事例から得られた知見を最後 に要約しておきたい。

① 活動休止・解散事例 A 知見

欧米型の居住支援とは異なる日本型の居住支援のあり方を検討する必要があ ることが前提の上で、グループリビングといったハード面からの居住支援に 多大な資金コストが必要となる。しかしながら、その資金確保は NPO 単体 では困難である。

② 活動休止・解散事例 B 知見

全国を活動規模とした NPO の場合、自治体との連携も含めて活動が困難で ある。活動継続性の確保という点においては、当面はローカル地域に根ざし

(17)

た活動を企図することが望まれる。

③ 活動継続事例 C 知見

自治体からの事業委託があった場合、NPO の活動は活性化していく。安定 的な資金は雇用と新たな事業展開へと結びつき、そのことが実績となり、更 なる事業委託へと結びつく。活動地域はローカルな地域に根ざしている。

④ 活動継続事例 D 知見

事業委託や助成金などの獲得には NPO の活動実績が考慮されてしまうため、

新規 NPO の活動が困難な状況にある。

 これまでの研究で指摘されてきたように NPO の活動を継続する上で資金確 保が大きな課題となっていることは本研究でも繰り返し確認されてきた。特 にその活動内容が居住支援であった場合には多額にコストが必要となり得る。

 ②の点については一定の留意が必要であろう。すなわち、NPO の活動範 囲はローカル地域の方が適するという過度な前提は、今後新たな社会問題が 生じた場合にも、NPO の活動がローカルに狭められてしまうリスクを生み 出してしまうからである。むしろ、各 NPO がローカルな地域での活動を行 いながらも、全国あるいは広域自治体レベルでの問題が生じたときに、何ら かのネットワークを介することで連携にもとづいた広域的な展開を可能とす る体制作りこそが肝要であろう。事例 C にあったように具体的な NPO との 活動上での連携が NPO から基礎自治体に期待されている点であるとすれば、

広域自治体の役割とはそうした基礎自治体と NPO との間でのローカルな問 題をより広い範囲で共有可能となるようなネットワークの作成であると考え られる。

 ③④の点から自治体からの助成金などが活動を継続する上で極めて重要な 資源となることが指摘されるが、本研究ではそうした資金獲得の構造自体 が「新しい公共」の弊害となることを指摘した。助成金獲得の条件として過 度に NPO の実績を重んじることは、新しい NPO の障壁となる。結果とし

(18)

て、優位な NPO はより優位に、劣位の NPO はより劣位に二極化(底辺は 解散であるとすれば「一極化」)の構造を招く。その構造には、自治体によ る NPO 選別において方法論的欠陥が内在していることが指摘される。本研 究は事例 C のような実績にもとづく NPO の評価自体を否定するわけではな い。しかしながら、過度な実績主義ではなく、事例 D のような今後の発展 性などを多分に含めたフレキシブルな NPO の評価の実践こそが「新しい公 共」のあり方として求められていることは証左されたといえよう。また、そ もそも過度な助成金への依存自体が協働の関係性を損なうことも考えられ る。NPO の活動に資金確保が根本的な課題であることは事実としても、そ の獲得ルートは自治体からの助成金・委託事業ばかりでなく、CSR への関 心の高まりを背景とした企業などからのルートも「新しい公共」にもとづく 協働のあり方として積極的に行われていくことが望まれる。そのためには、

NPO の活動をきめ細やかに把握できる基礎自治体と、そうした基礎自治体 の情報を集約することが可能な広域自治体とがいかに連携していくことが可 能か、今後積極的検討されていく必要がある。

 本研究では居住支援 NPO に注目して分析を行った。特に活動を継続して いる「成功事例」だけではなく、活動を休止・停止している団体にも注目す ることで NPO への支援のあり方を追究していく上での予備的な考察を行っ た。今後は先行研究を通した理論的精緻化を踏まえた上でより詳細な調査・

分析を行う必要がある。

【謝辞】

本研究で用いた 4 つの NPO 団体については、インタビューデータの内容公 開についての事前許諾をいただいた上で分析に使用しました。記して感謝い たします。

【参考文献】

神戸市市民参画推進局地域力強化推進課, 2011, 『ソーシャルキャピタルの醸成を 通じた地域づくり―5 年間の調査・分析を踏まえて』.

(19)

大槻茂実, 2013, 「年齢構成の多様性からみたテーマ型組織の連携についての一考 察―東京都西東京市における NPO/ ボランティア団体に注目して」『都市政策 研究』第 7 号, 61-79.

大槻茂実・田口曜彦,2013, 「質問紙調査の集計結果と分析」和田清美編『NPO・

ボランティア団体の実態と担い手に関する調査―東京都西東京市の社会調査 実習報告』15-49.

Putnam, Robert, D, 2002,

Democracies in Flux: the Evolution of Social Capital in Contemporary Society

, Oxford: Oxford University Press. (=2013, 猪口孝訳『流 動化する民主主義―先進 8 カ国におけるソーシャル・キャピタル』).

労働政策研究・研修機構 , 2004, 労働政策研究・研修機構編『就業形態の多様化と社 会労働政策 - 個人業務委託と NPO 就業を中心として』労働政策研究報告書 12

(2013 年 7 月 14 日取得 http://www.jil.go.jp/institute/reports/2004/012.html).

Sennett, Richard, 1976, The Fall of Public Man, London: Penguin Books. (=1991, 北 山克彦・高階悟訳『公共性の喪失』 晶文社 .)

和田清美・大槻茂実・細淵倫子・田口曜彦(a), 2014,「現代日本における居住 NPO の社会学的研究」『人文学報』第 482 号,85-109.

---(b), 2014, 『居住支援にかかわる NPO の活動実態と多様な主体との連携構築 に向けての基礎的研究に関する調査報告』.

参照

関連したドキュメント

睡眠を十分とらないと身体にこたえる 社会的な人とのつき合いは大切にしている

地域の中小企業のニーズに適合した研究が行われていな い,などであった。これに対し学内パネラーから, 「地元

厳密にいえば博物館法に定められた博物館ですらな

「心理学基礎研究の地域貢献を考える」が開かれた。フォー

 本研究所は、いくつかの出版活動を行っている。「Publications of RIMS」

概要・目標 地域社会の発展や安全・安心の向上に取り組み、地域活性化 を目的としたプログラムの実施や緑化を推進していきます

ニホンジカはいつ活動しているのでしょう? 2014 〜 2015

関係会社の投融資の評価の際には、会社は業績が悪化