幼稚園と保育園の 近接化 をどうみるか
著者 瓜生 淑子
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 11
ページ 155‑160
発行年 2002‑03‑31
その他のタイトル On the Current Approach Between Kindergartens and Day Nurseries
URL http://hdl.handle.net/10105/4118
幼稚園と保育園の"近接化"をどうみるか
瓜 生 淑 子 (奈良教育大学 幼児教育教室)
On the Current Approach Between Kindergartens and Day Nurseries
Yoshiko URIU
(Department of Early Childhood Education)
かねてから、幼稚園・保育園が二元的に存在することに対して議論や批判があり、すべての子どもに等しく発達を 保障するという視点から「幼保一元化」を要請する声が引き続いていた。近年、幼稚園が給食提供や保育時間の延長 などに積極的なことから、保育園との違いがなくなってきている、という声がよく聞かれるように、二元化政策のも とにありながら両者の"近接化"状況が進行している。幼稚園における預かり保育の拡大はその一つであるが、保育 所への待機児対策として機能している側面があり、この点では、安上がりの待機児対策ではないかと危慎される。
"近接化"傾向は、 90年代後半に、政府が両者の「連携強化」策を打ち出したことで、 「幼保一体型施設」の創設な ど、新たな展開を見せている。その結果、既存の幼稚園と保育園の競争の激化とリストラが進むことが予想される。
こうした幼稚園・保育園をめぐる情勢を検討し、今日的な「幼保一元化」の道を探るとともに、幼稚園教員養成側が 受け止めるべき現実的課題についても言及した。
辛‑ ・ワード: unified system of kindergartens and day nurseries, child care after kindergarten s hours, combined institution with a kindergarten and a day nursery, double qualifications for both institutions
幼稚園と保育園の違いがなくなってきている、と最 近よく言われる。それは、主に幼稚園での保育時間の 長時間化・給食提供などの保育形態の接近をさしてい る。 70年代半ばから出生数が前年度を下回り始めたが、
その後、年ごとに進む少子化の波は教育や保育の現場 に他分野よりも早くから様々な課題を投げかけてきた。
特に、私立依存度の高い幼稚園はこの波を深刻に受け 止め、模索を続けてきた。幼稚園と保育園の昨今の
"近接化"傾向はその模索の現れでもあるが、以下で 述べるように、政策的なバックアップもあり、今後さ
らに強くなることが予想される。
1. 「幼保一元化」要請の歴史
E]本で初めての正規の幼稚園は、 1876年創設の東京 女子師範学校附属幼稚園である。他方、保育所は、戦 前、託児所と呼ばれたが、 1890年に新潟県で個人が開 設したものが最初と言われる。前者は、唱歌や恩物教 育などが取り入れられるなど、富裕層子弟の先取り教 育的色彩が強いものだったのに対し、後者は救貧対策 として貧児を対象にしたもので、まとまった保育内容
はもたないか、 「言語矯正」など限られた内容のもの だった。その後、現代に至るまで「幼稚園と保育園は その目的も機能も違う」と暗にこうした歴史的相違を さして言われることが多かったが、既に戦前から、就 学前の子どもたちに幼稚園・保育所2つの施設がある ことについては議論のあるところであった。戦後も
「幼保一元化」の問題が国会審議でも取り上げられる などしたが(以下、両者の違いの解消を求める社会的 要請を「幼保一元化」の要請と呼ぶが、解消の中身は、
時代や要請する立場の違いから、必ずしも同一ではな い)、 1956年に「幼稚園教育要領」が学校教育体系に 強く位置づけられる形で刊行されることにより、両者 の区分けが強まった感があった。そして、 「幼稚園と 保育園の関係について」という文部省・厚生省両局長 通達(1963)で、両者のその日的・機能の違いが確認 され、これが今日まで「二元化」の公式見解となって いる。
その後も、子どもの権利保障という視点から、どち らかといえば保育園側から「幼保一元化」が引き続き 主張されていく。これにたいし、中教審答申でも二元 化の実態を再検討する必要性が指摘され、将来的には、
条件を具備した保育所に幼稚園としての地位をあわせ て付与する方法が検討されうることが提案された(19 71)。しかし、これには、保育園側の反発が強かった。
中央児童審議会も、今後、保育所の増設整備の社会的 要請が一層増大するとして、保育所の独自の意義を強 調した(意見貝申、 1971)。 2つの審議会意見の対立 は、所轄官庁である厚生省と文部省との対立を際立た せ、 「幼保一元化」の具体化の難しさを示すものだっ
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80年代になると、少子化や働く母親の増大などの新 たな社会情勢を背景に、今度は、幼稚園側から「2歳 児までは保育園、それ以降は延長保育機能を持った幼 稚園」という、いわば、両者の新たな棲み分けを骨子 とする「幼保一元化」要請が提案されていく(全日本 私立幼稚園連合会「幼稚園教育の基本構想」、 1984な ど)。これに対して、保育園側は、 「緊迫化する保育園 問題」 (全国社会福祉協議会全国保育協議会・日本保 育協会・全国私立保育園連盟、 1984)で、 「保育園は 保育に欠ける乳幼児のための児童福祉施設」であるこ
とを強調し、 「幼保一元化」提案は幼稚園の経営危機 対策であるとして、反対を強く表明した。
2.その後の幼保並列状況
既に2度のオイルショックを経験した日本の政界・
経済界は、 80年代には厳しい見通しをもち、福祉面で は保育所措置費の国庫負担率の削減(1985、 1987)が 始められた。教育面でも、 「臨教審答申」 (1985‑1987) によって、公的部門の縮小と競争重視の考え方が打ち 出され、今日の「規制緩和」路線につながっていくこ とになる。その間も、少子化・働く母親の増加は一層 進み、ベビーホテル問題等、次々と新たな社会問題が おこっていくが、臨教審では公的部門の縮小と裏腹に
「家庭教育の意義」 「家庭教育の活性化」などを重視し、
「乳児の保育は可能な限り、家庭において行われるこ とが望ましい」と旧来の姿勢を述べるとともに、 「幼 稚園・保育園は・ ・ ・それぞれの制度の中で整備に努 める」 (第三次答申、 1987)として二元化を確認した。
こうして、 90年代には、幼稚園・保育園をめぐる状況 は、少子化に加えて規制緩和という新たな波もかぶり ながら、それぞれが並列しつつ、時代の変化を受け止 める努力を求められていくことになる。
3. 90年代の子育て支援施策の中の幼保問題 1989年の合計特殊出生率は「1.57ショック」を引き 起こし、それを契機に政府も少子化対策を積極的に講 じてきた。 1994年には、 4大臣合意の「エンゼルプラ ン」が、更に翌年からその具体化としての「緊急保育 対策等5カ年事業」が実施された。これにより、低年 齢児受け入れ枠の25%増加などが進んだが、当初の目
標に達していないことと都市部を中心とした待機児童 対策が進まぬことなどから、 「新エンゼルプラン」と
して、事業は2004年まで5年延長されることになった。
こうした対策と併行して、 90年代後半には様々な幼 稚園・保育園連携政策が提案されてきた。 「地方分権 推進委員会第一時勧告」 (1996)に続き、 「教育課程審 議会答申(1998)」において「幼稚園と保育園のあり 方については、両施設間の合築等による共用化などの 運用の弾力化を推進する」ことが提案された。連携強 化は、施設の共用化など‑ード面だけでない。教員と 保母の合同研修や教育内容と保育内容の共通化の拡大
などを推進することが必要だと述べられた(「時代の 変化に対応した今後の幼稚園教育のあり方に関する調 査研究協力者会議最終報告」、 1997)。
このように、表向きは「二元化」政策のもと、幼 稚園・保育園の垣根を低くする施策が次々と打ち出さ
れてきている中、両者の"近接化"は一層進んできて いる。その一方、園児数は、幼稚園で80年代前半から 減少し始めた。増加傾向にあった保育園でも、 80年代 半ばから減少傾向が見られたが、 1995年から実数でも 再び増加に転じ、 1999年度には、保育園の園児総数が 初めて幼稚園児数を上回った。 90年代の保育園児の増 大は、低年齢児の増加に負うところが大きいが、就学 前最終卒園比率でも、徐々に両園児の比率が近づいて
きている(平成12年学校基本調査によれば、幼稚園卒 園比率は61.1%)。
4.進む幼保の"近接化"をどう見るか(1) 一本学卒業生調査から1
2001年1月に行った本学幼稚園課程全卒業生を対象 に行った幼保問題等に関わった調査(有効送付数683、
有効回収数181)によると、 「文部省等が『幼稚園と保 育園の連携強化・共用化』を進めていることを知って いるか」という内容の質問に対して、幼稚園教員群の 85%を筆頭に、全体でも65%が「よく知っている」
「知っている」と答えている(図1)。
また、 「幼稚園・保育園が実質的に形態や機能が限 りなく近づく"実質的幼保一元化"が進むという予測 をどう思うか」という内容の質問に対しては、現在の
図1 r幼保連携」を知っているか
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幼稚園と保育園の"近接化"をどうみるか
図2 r実業的幼保‑元化」傾向をどう思うか
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職業によって回答に違いが見られた(図2)。 「当然だ」
とする答えが、専業主婦群・ 「その他」の群(公務員、
会社員、塾勤務等)では25%あるのにたいして、幼稚 園教員・学校教員群では数%、保育士群では0%と低 い。 「賛成できない」 「そうなるとは患わない」という 否定的回答は、幼稚園教員群がもっとも高い。専業主 婦群などでは、 「(幼保を)区別することがおかしい」
「親の就労の有無にかかわらず、どの子にも同じよう に教育を受けさせるべき」などと、子どもの権利論か ら捉える者が多いのにたいして、 「本来の目的・機能 が違う」 「めざすものは別のものである」など批判的 な回答は、幼稚園教員群に顕著である。これ以外の回 答選択肢は、 「条件付き賛成」 「やむをえない」という ものだが、その理由は、 「教諭の研修時間が削られ質 の低下を招くことはして欲しくない」 「幼稚園のよさ は残していかないといけないと思う」 「多様な選択が 出来るようになることはよいが、働く親としては、保 育所としての役割の方を拡大してくれないと、解決に ならない」などがあげられている。子どもの権利論か らは「幼保一元化」が望ましいとする意見が一般化し てきているのに対して、その実現には、保育条件や労 働条件の面で現職者が慎重にならざるをえない、ある
いは、危倶している状況がある。
「 "実質的幼保一元化''の方向性があるか」という 問いに、幼稚園教員の23%が「はい」と応えている。
その貝体的内容は、預かり保育を含む保育時間延長と 給食提供であった。 「はい」の比率は予想より低いが、
回答者39名全員が公立園勤務であったことからすれば、
妥当な数字であろう。保育土は、 「はい」は0%であ り、幼保の"近接化"が、幼稚園側からの歩み寄りで 進んでいることが数字からもみてとれる。
5.進む幼保の"近接化"をどう見るか(2) 一幼稚園における預かり保育の実態‑
90年代後半以降、幼稚園の開園時間の長時間化が一 般化しつつある。それは、長時間化が個々の園の取り 組みを超えた政策的な動向であるからだ。すなわち、
文部省は、中教審第一次答申(1996)における「女性
の社会進出等が進む状況に対し、幼稚園においても保 育所の目的・機能の差異に留意しつつ、預かり保育等 の運営の弾力化を図っていくことが必要となっている」
を受けて、 1997年度から預かり保育の促進に関し予算 化した。さらに、前掲の幼稚園教育に関する「調査研 究協力者会議最終報告」における「私立幼稚園に対す る預かり保育実施のための特別補助の拡充」の提言を 受け、新たな予算化(1998年度)が始まって以降、預 かり保育は私立幼稚園を中心に急速に拡大してきた。
預かり保育とは、幼稚園の通常の教育時間終了後、
引き続き希望する園児を対象に行なう保育をさす。文 部科学省発表(2001年6月、表1参照)によると、予 算化以前の1993年では約20%の実施率だったのが、
2000年にはほぼ半数の幼稚園で行なわれている。とく に、私立では70%を超えている(公立約15%)。この 内、預かり保育の終了時間が5時以降の園は私立で50
%を超えている(公立約25%)。 4時までに終了する園 は公私全体の15%程度に過ぎない。長時間化は保育園 と変わらなくなってきている。
実施日も、 2000年度で、過5日もしくは6日という 園が預り保育実施園中、公立でも70%、私立では85%
近くある(前掲発表)。さらに、東京都の私立幼稚園 では、 2000年度から、 「モ‑ニング・サボ‑卜」や
表1 預かり保育の実施園数(文部科学省) *
区 分 2000年 6 月 1 日現在 1997年 8 月 1 日現在 1993年10月 1 日現在 公 立 9 2 5 (1 6.0 % ) 33 0 ( 5 .5 % ) 3 18 ( 5 .2 % ) 私 立 5 93 5 (7 1 .5 % ) 3 86 7 (4 6 .0 % ) 254 1 (2 9 .5% ) 合 計 6 86 0 (4 8ー 7 % ) 4 19 7 (2 9 .2 % ) 28 59 (19 .4 % )
Ⅰ月刊『保育情報』 2001年7月号、 p.7より作成
「サマータイムサポート」が開始されるなど、早朝や 土日・長期休暇‑の対応も始まり出した。
このように、幼稚園での預かり保育は「お残り」と か「臨時」とかではなく、開設時間・期間からみて、
保育園に急速に近づいてきている。休日開園という保 育園以上の現象も始まっている。
こうした預かり保育の急増には、様々な問題点が指 摘される。
5. 1. 安上がりの待機児対策
保育園不足から、大都市を中心に多くの待機児が生 まれている。政府は、待機児対策に力を入れてきてい るが、対策が保育需要を新たに喚起し待機児数がさら に増えるという皮肉な実態がある。その対策たるも、
98年から3度にわたる通知で、保育所入所定員の弾力 化を進めた結果、定員超過を年度後半に至っては25%
超過しても認めるとともに、保育室の面積基準の緩和 や屋外遊技場(園庭)を近隣の公園や寺社境内の代用 が可能なことを伝えるなど、詰め込みに期待している ところが大きい。その結果、既存の保育園では過密化
が問題になってきている(例えば、亀本(2001)は奈 良市の状況について「詰め込み保育が子どもたちの発 達を阻害する」と題して紹介している)0
こうした状況のもと、待機児の受け皿のひとつに、
幼稚園の預かり保育が位置づいているわけである。し かし、預かり保育を実施している園の過半数で、その ための専任教員がおかれず、通常保育を担う保育者が 兼任でローテーション等で担当している実態がある。
他方、専任がいる園でも多くはアルバイトである。ま た、兼任者の過半数が「手当無し」と回答している (杉山、 1998)c
例えば、おやつひとつを取ってみても、幼児にとっ て必要エネルギー摂取に欠かせない大事なものである が、専用調理室や調理師・栄養士の規定の無い幼稚園 では、市販品を配る方法に頼らざるをえないのが実情 であろう。保育所でも、調理業務の外部委託を可とす る規制緩和策が通達されたが(1998)、多くの園は従 来通りの方式を維持している。待機児対策としては、
保育所と比べた場合、安価な事業になりうるのである。
5. 2.保育の内容をめぐって
保育内容や形態について全国的な調査はないが、 10 人から20人くらいまでの規模で担当保育者は一人、正 規の保育終了後、集まって絵本やビデオを見、おやつ を食べて個々の自由遊びをする、というのが多くのバ ク‑ンのようである(神田・山本の愛知県の2000年の 調査など)0
これに対して、ひとつには、例えば昼寝の必要性が 生活時間全体を見渡した上で検討されているのか、と いう問題がある。 3歳児に限ってみても昼寝を取り入 れている園はほとんどない。預かり保育といっても、
既にみたように長時間化している。従って、生活の一 部を幼稚園で過ごすというのではなく、生活の大部分 を幼稚園で過ごす子もいる。このことを見据えるため には、 「預かり」という用語は問題を暖味にしてしま
・)
さらに、単に生活時間全体を見渡すだけでなく、生 活時間を含めた生活や育ちの実態全体を見渡した保育 の必要性がある。その必要性は、通常保育後、帰宅す る子どもたちについても同じように考えられるべき課 題となっている。しかし、 98年告示の「幼稚園教育要 領」では若干軌道修正されたものの、 89年の「幼稚 園教育要領」以来、園での子どもの過ごし方に関して、
子どもの主体性を尊重する立場から、意図的な方向付 けをおこなわない「自由保育」への傾斜が強まった経 緯がある。また、世をあげての「カウンセリング・マ インド」ムードが家庭にも園にも押し寄せる中、 「あ るがままの子どもの受容」の大切さのみが一面的に強 調されるきらいがある。こうした風潮の中、子どもの 意のままに過ごさせることで個々の子どもの発達が保
降されうるのか、という保育目標・保育内容・保育カ リキュラムをめぐる問題は、長時間化とその一般化状 況の下、一層、重要で緊急な課題になっている。
5. 3.子育て支援か、育児放棄助長か
預かり保育で子どもを受け入れる場合に、 「仕事」
「冠婚葬祭」 「母親の病気」などの条件を付けていると ころもあるが、 「理由を聞かない」 「リフレッシュ目的 可」という所も増えている。
少子化の原因のひとつに、育児負担感・不安感から、
子どもを持たない選択をする若い世代が増えてきてい ることがあげられる。政府も、専業主婦の方が働く母 親よりも育児不安が高いというデータを示し、母親だ
けによる密室的育児の問題性の方を強調して指摘した (厚生省、 1998)c そして、幼稚園や保育園での子育て 支援の役割が「教育要領」 (1998) 「保育指針」 (1999)
で位置づけられた。預かり保育も、育児負担感・不安 感の軽減を求める親の支援策の1つに位置づいている。
その一方で、 「もっと寄り添ってやって欲しい親ほ ど、子どもを長時間預けたがる」という保育者の声が 聞かれることがある。施設保育が(母)親の育児放棄 を助長することになるのではないかという懸念は、保 育園急増時代にも盛んに取りざたされた。しかし、共 同保育所づくり等の保育運動を背景にした地域や保育 園では、認可後も、親の労働を支えるということだけ でなく、こうした問題も投げかけつつ、預け合いや資 金作りなどが取り組まれ、結果的に自分の家庭の問題 の解決だけで良しとしない、親の視野の広がりを育て ていった園も少なくなかった。
しかし、現在のように、上からの支援策が急速に進 められる中では、園側も、親のニ‑ズに如何に応える かという対応に振り回されかねない状況がある。どこ までが、 「リフレッシュ」でどこからが「育児放棄」
なのか、それは、子どもの発達や育ちを抜きには論じ られるものではないであろう。それを論じ合うには、
まずは、一人一人の子どもについて、ふだんから保育 者と親が気軽に話し合える関係と場が必要である。こ のような意味で親を支える姿勢と余裕が保育者の側に も必要であるにもかかわらず、預かり保育を支える体 制は5. 1.で見たように、脆弱である。
5.4.欠ける、子どもの視点
前節で述べたことは、現在進行しつつある支援策は 子どもにとってどうなのかという点が不問に付された まま急速に進行しているのではないかという批判でも ある。厚生省が前述の自書で、従来の労働政策の基本 にあった家庭重視策を支えた考え方の1つである「三 歳までは常時子どもを家庭において母親の手で育てな いと、その後の発達に悪影響を及ぼす」という主張を
「3歳児神話には根拠がない」と退けたことは、小さ
幼稚園と保育園の"近接化"をどうみるか
な子どもをもって働く母親を励ます内容となった。し かし、近年進んだ世界的な研究からは、保育所保育の 悲惨さを示す研究は激減したものの、具体的な保育条 件を抜きにしては保育所保育の効果を語れないとこと
が認識されてきている(例えば、シャファー、 2001)。
保育所認可要件の種々の緩和、企業参入の開始、無認 可園の活用、駅型保育所の推奨など、規制緩和策の相 次ぐ具体化が子どもにとってどうなのか、危慎される 事態が進んでいる。
新エンゼルプランの完成年度である2004年には、延 長保育実施が、その10年前の6倍にあたる10000ヶ所 と、全体の半数近くになることが目指されている。こ こでいう延長保育とは、開園時間11時間以上であるこ とを意味するが、この数字は、単に親の長時間化する 労働実態から割り出されたものに過ぎない。子どもに とって、また、親子関係にとってどうなのか、子ども の生活時間の大半を任された園はそれにどう応えうる のか、社会全体として労働時間を短縮させることも必 要ではないかといった議論は抜け落ちてしまう。 5.
1.で述べたように、預かり保育も、こうした保育の 長時間化を支える一翼を担っている。
6.進む幼保の"近接化つ3)
‑幼保連携事業の具体化一
首都圏を中心に、 「幼保一体型施設」の新設やその 計画が相次いでいる。
待機児童を最も多く抱える横浜市では、 「よこはま 保育室」 (無認可園の補助育成)など様々な対策を講
じてきたが、新たに幼保連携モデル事業として、 「は まっこ幼保園」を民間誘致で開設を計画している (2001)c この事業は、既存幼稚園への展開につなげて いきたいとされていることから、既存幼稚園の預かり 保育の拡張事業的性格が強い。安上がりの待機児対策
ではないか、既存の保育所の存立を脅かす結果、 「保 育に欠ける」子どもたちの保育水準が預かり保育並み
に後退しないかなどが危倶される。
また、都心から1時間の埼玉県杉戸町で発表された
「幼稚園保育園一元化基本計画」 (2001)は、統廃合と 公立比重の低減が前提として出されてきており、公立 園の民営化の動向(尼崎市[兵庫県] ・堺市[大阪府]
の保育所や高石市[大阪府]の幼稚園などで始まって いる)を組み込んだ計画になっている。
千代田区では、 「子ども園」構想を発表し、本年4 月開設を目指している。ここでは、保育所入所要件に
あった「保育に欠ける」要件を撤廃したことが大きな 特徴であり、その結果、 0歳児から5歳児まで、保護 者が就労の形態にかかわらず、保育時間を選択するよ うになっている。また、一人の園長のもとで、幼稚園 教諭と保育士が働くことになる点が、新しい。保育料
は、保護者の所得と保育時間に応じて決定される。既 に述べたように、母親のリフレッシュ‑の支援も子育 て支援の大事な課題ではあるが、そのことと母親の社 会的労働‑の支援とを、 「保育に欠ける」要件を撤廃 した上で同列に置くことは、結果的には、母親の社会 的労働への支援をはずすし福祉の後退を招くことが危 供される。昨今の福祉をめぐる規制緩和の流れの中で、
就労・非就労を問わず、全ての親に同等の利用券を発 行し、その範囲でのサーヴィスを提供する「バウチャー 方式」システムが取り沙汰されている(例えば、男女 共同参画会議最終答申、 2001)が、その先取りの動き ともいえる。バウチャー方式は、イギリスの先例をみ ても、結果的には福祉予算のスリム化につながりかね ない。
制度的には二元化の枠の中でも、 「幼保一元化」を 具体化し、幼保の子どもを一緒にして同じ保育内容を 午前中に提供するシステムをとった園の実績も既にあ る(私立北須磨保育センター・幼稚園(神戸)や交野 市立園(大阪府)など)。しかし、昨今の「幼保一体 型施設」等の新設の動きは、安上がりの待機児対策と
して進行しているのではないか、結果として、既存の 幼保の競争の激化とリストラが進み、今以上の地域偏
在や施設の大型化などの問題が生じてくるのではない か等が懸念される。ここでも、子どもにとって、とい う視点が貫かれているのかが問われる。諸外国を含む 先行事例との比較を通して、 「幼保一元化」が、より
具体的に検討されるべき時期にきている。
7. 「幼保一体型施設」と免許・資格の問題
千代田区のような幼保一体型構想にとって、設置主 体の問題は、 1999年に幼稚園が保育園を、保育園が幼 稚園を設置する、いわゆる相互乗り入れが認められた
こと、さらに、 2001年から設置主体制限が撤廃され、
企業や個人にまで開放されたことで、既にクリアされ た。残るは、資格と給与である。千代田区のような幼 保一体型施設では、現行の幼稚園教諭免許と保育士資 格、二本立てシステムが問題になる。
学生の側から免許・資格の同時取得は既に進んでい る。本学でも最近、多くの学生が、幼稚園教諭免許に 加えて、都道府県で実施される保育士試験で保育士資 格を取得していること、受験開始が2回生からと早まっ てきていること、その背景には、採用試験受験段階で 両方の免許を持っていることを要件とする自治体が増 えている事情があること等については、前報(上野・
瓜生・長谷川、 2001)で報告した。
二元化の現状では、共通資格は検討課題に登らない かわりに、同時取得をし易くする方向に進んできた。
昨年改訂され、この4月からの実施になる新保育士養 成課程では、同時取得を容易にするような科目の整理
や弾力化が行われ、 「厚生労働省、ダブル取得を支援! 」 と報道された。他方、平成11年、文部省は国立大学教 員養成学部において、同時取得可能な体制の推進を打 ち出し、既に6つの国立大学で保育士資格の取得も可 能になっている(2001年4月段階。詳しくは、前報参 輿)。さらに、 「幼児教育振興プログラム」 (2001. 3) でも、 「免許・資格の併有機会の充実」が幼保連携策 推進項目にあげられた。ダブル取得の奨励自体は、表 向き、一元化がめざされない現状での苦肉の策でもあ るが、 「幼保連携」が強められる中、学生にとっては、
同時取得がし易い条件が整ってきたと言える。四年制 国立大学で保育士取得が可能になっていくことは、養 成する側にとっても、福祉や子どもの権利についての 科目が充実し、社会や家庭の変化を見据えた、より広 い視点から養成教育が展開できる点に期待もある。学 生も、保育士資格関連の勉強が授業に組み込まれるこ とは「保育士試験準備のための詰め込み勉強と質的に 異なるものになる」と、積極的な受け止めをしている (2000年11月実施の幼稚園教諭免許科目受講者対象の の調査)0
もはや、幼稚園と保育園は目的も機能も違うという 出発点の歴史を確認しているわけにはいかない事態が 進行してきている。こうした急激な変化をどう受け止 めていくのか、とりわけ幼稚園教諭をめざしてきた学 生にとっては、避けて通れぬ大きな課題となっている。
引用・参考文献
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保育50年史』 栄光教育文化研究所1997年 亀本和也 「詰め込み保育が子どもたちの発達を阻害
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]‑61貢。
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理学がいえること』 2001年 新曜杜
杉山隆一 「預かり保育の現状一私立幼稚園の実態を 中心に‑」全国保育団体連絡会・保育研究所(編)
『保育自書1998年版』草土文化
上野ひろ美・瓜生淑子・長谷川かおり 「国立大学に おける保育士養成の動向とそのニーズ」 『奈良教 育大学教育実践総合センター研究紀要』 No.10、
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山本理絵・神田直子 「幼稚園における預かり保育の 現状と課題‑愛知県における実態・意識調査から一 上・中・下」 『月刊保育情報』 Vol.277‑279.
2000年