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企業生成・発展の変動要因としての企業家

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Academic year: 2021

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(1)

前稿で検討したように1),ドラッカー(Peter Drucker)の所説においては,

営利の「製品・サービス生産の組織体」(=企業)においても非営利の「製 品・サービス生産の組織体」においてもイノベーションを創出するものはイ ノベーターである。ドラッカーは,企業においてはその規模が大きくなると,

従来の企業家概念とは異なるが,しかし共通の特質すなわちアントレプレ ネーアシツプを持つイノベーター(これを筆者は「企業家的な人々」と名づ けた)が主体となってイノベーションが生み出されるとみた。イノベーショ

1)川上義明[2008b]を参照。

企業生成・発展の変動要因としての企業家

(Ⅵ)

―― ドラッカーの所説の検討!2:スモール・ビジネスと企業家 ――

川 上 義 明

はじめに

1.企業の一般的規模別規定 2.企業規模と経営管理構造

3.ドラッカーにおける企業の規模別規定 4.ニュー・ベンチャー

5.イノベーション=新規事業化へのプロセス 6.ニュー・ベンチャーにおける企業家的マネジメント

むすび

− 1 −

( 1 )

(2)

ンを今日の大企業や巨大企業との関わりでみれば,こうしたことがいえるで あろう。

ところで,新しいサービスや製品を生み出し,市場に投入するために,創 業されたばかりのスモール・ビジネスや,新しいサービスや新しい製品を生 み出し,市場に投入している既存のスモール・ビジネスの場合には,「企業 家的な人々」ではなくまさに「企業家」が多くのイノベーションを創出して いることが考えられる。

小稿では,ドラッカーの所論によりながら,以下簡単にこうしたスモール・

ビジネスのうちでも新規創業した「ニュー・ベンチャー」(new venture:邦 訳者〔上田惇生教授〕はこれを「ベンチャー・ビジネス」と訳しているが,

ここでは概念的にはやはり「ベンチャー・ビジネス」とは区別すべきである と考えるので,以下「ニュー・ベンチャー」とする。)に焦点を当て検討し てみよう。

1.企業の一般的規模別規定

!

企業規模に関する実務的規定

さて,以下こうした作業を進めるべく,企業一般の中から規模の小さい企 業を取り出したいのだが,ドラッカーにおいて,企業の規模別規定はどうなっ ているのだろうか。その前に,参考のため他の方法をリサーチしてみよう。

実務的には,中小企業のうち(工業の場合),①従業員数10人以上を「中 企業」と,②従業員数10人〜10人までを「小企業」と,③「本来の企業」

ではないが,従業員数5人あるいは10人未満の「企業」を「零細企業」と区 分することがある2)

「中企業」と「小企業」の境目が従業員数「10人」のところに,「小企

2)中小企業PRセンター[1963年],134〜135ページ。

− 2 −

( 2 )

(3)

業」と「零細企業」の境目が従業員数「10人」のところにおかれている。

!

リーフマンの規程

研究者としては,ちなみにロベルト・リーフマン(Robert Liefmann)は,

かつて「経営」を「!大経営」(Großbetrieb)!中経営」(Mittelbetrieb)

!小経営」(Kleinbetrieb)!単独経営」(Alleinbetrieb)に区分し,!大経 営」をさらに3つに区分し,従業員数1,0人以上の経営を「巨大経 営」

(Riesenbetrieb)としている(補注)(図表1−1)

(補注)ここにおいて,リーフマンによれば「経営」(Betrieb)とは,経済活動を 営む労働の場所のことである。「経営」は技術上の1単位であり,その技術上 の特徴や場所,生産行為によって規定される。そこでは経営外部の諸設備や 組織と指導的な労働者および執行的な労働者(管理者)の活動が合わせ行わ れる。したがって,例えば商店の支店や生産工程において川上(原料や部品 生産)や川下(販売,サービス)を担当する「経営」など,1企業が多数の

「経営」をもつことが当然あり得る3)

今日の日本の統計でいう製造業や商業,サービス業における「事業所」に 近い概念と考えてよいであろう。

リーフマンはそれぞれの規模の企業の特徴を指摘してはいないけれども,

ともあれこれから従業員なしの「経営」が圧倒的に多いことが分かる。さら に,6〜50人規模の「経営」は「中経営」と考えられ,従業員数が50人を越 えればもはや「大経営」とみられ,1,0人を超えれば「巨大経営」とみら れていたことが分かる。

3) Liefmann [1923], SS.1112.邦訳書,23〜24ページ。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) − 3 −

( 3 )

(4)

図表1−1 諸企業の規模別(階層別)区分 ! 従業員数規模区分 2年 7年

!大 経 営

1,0超(巨大経営) (0.0) (0.0)

1〜1, 1,(0.0) 5,(0.0)

1〜2 8,(0.2) 6,(0.8)

!中 経 営 6〜5 7,(2.9) 0,(8.7)

!小 経 営 1〜5 1,0,(33.6) 1,5,(43.6)

!単独経営 なし 1,7,(63.1) 1,1,(46.7)

2,5,(10.0) 3,9,(10.0)

(注) )内は%。

(資料)Liefmann [1923], S.13より作成。

!

末松玄六教授の規程

ついで,末松玄六教授は諸企業を!大企業,!中堅企業,!中企業,! 企業,!零細企業の5つに区分している。末松教授は,!中堅企業〜!零細 企業までを中小企業と,!中企業〜!零細企業を本来の中小企業と考えてい 4)(図表1−2表)

図表1−2 諸企業の規模別(階層別)区分 !

規模(従業員数:人)

!

!中 堅 企 業 0〜約2,

本来の中小企業

!中 企 業 0〜約3

!小 企 業 0〜約5

!零細企業 0未満

(資料)末松玄六[12年],10〜13ページより筆者作成。

4)末松玄六[1972年],10〜13ページ。

− 4 −

( 4 )

(5)

!

本多壮一教授の規定

本多壮一教授は,諸企業をその規模別(階層別)に規定している5) 規模の大きい企業から実質的にはもちろん形式的にも企業の範疇には入ら ない規模の「経営」「生産の1単位」)までを区分している。本多教授は自 らがいう「総合的定義づけ」(量的定義と質的定義の両者)によって諸企業 を次のように規定している。

すなわち,!巨大企業,!大企業,!中堅企業,!中企業,!小企業,

!零細企業である。むろん,!家内労働は企業の範疇に入れていない。

このうち,!中堅企業〜!零細企業を「広義の中小企業」と呼び,!中企 業と!小企業を「狭義の中小企業」と呼んでいる(図表1−3)

図表1−3 諸企業の規模別(階層別)区分 !

!

!

広義の中小企業

! 狭義の中小企業 !

!

!

!

(資料)本多壮一[13年],97〜99ページ。

!

企業規模区分の基準(ないしは尺度)

例として挙げたこの3者におおよそ共通していると考えてよい基準は,労 働(家族労働か賃労働か),企業資本(同族資本か,社会的資本を糾合して いるかどうか,国内外で社債を発行しているかどうか),生産工程(労働集 約的な工程かオートメーションか),市場(大市場に対して独占的ないしは 寡占的構造をなしているかどうか),経営者(所有経営者か,ワンマン経営

5)以下,本多壮一[1973年],97〜99ページによる。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) − 5 −

( 5 )

(6)

者か,雇われ経営者か)といった質的基準である6)

2.企業規模と経営管理構造

!

経営管理構造を規定する企業規模

ドラッカーは何ゆえに企業規模を問題にするのかについて,『現代の経 営』(The Practice of Management)において,次のように言っている。「企業 規模は経営管理構造(management structure)ないし組織に大いに影響を与え」

「企業規模の違いに応じて当然マネジメント(経営管理者)活動に対する要 求も異なってくる」7)と。

このようにドラッカーは企業規模が与える経営管理構造,経営組織への影 響を説く。筆者に言わせれば,「企業規模が経営管理構造,経営組織を規定 する」ということであり,このことは言ってみれば普通の(一般的な)見方 であろう(図表2−1の①)

加えて,特徴的なのは「企業規模以上に経営組織に大きな影響を及ぼすも のは,企業が変化すること,すなわち企業の成長と発展である」8)としている ことである。もう少し言い足すならば,企業の成長が経営管理構造,経営組 織を規定するというのであり,その間の関係をドラッカーは静的に捉えるの ではなく,動的に捉えると理解することができるであろう。

!

企業規模を規定する経営管理構造

ところが,これに対して,ドラッカーは同じ『現代の経営』において独特 の視点(=マネジメントの視点)から企業規模を問題にしている。「企業規 模はその企業が必要とする経営管理構造の大きさによって決定される」とい

6)川上義明[2007a],77〜81ページ。

7) Drucker [1954], p.228.邦訳書(下),52ページ。

8) Drucker [1954], p.228.邦訳書(下),52ページ。

− 6 −

( 6 )

(7)

うのである。経営管理構造(とくにはトップ・マネジメント構造)こそが企 業規模を決める基準になるというわけである9)(図表2−1の②)

!

企業規模と経営管理構造 ―― 相互規定的関係 ―

上の!1と!2は,一見「鶏が先か,卵が先か」という見方・問いに似ている。

むろん,その解答は決まっている。鶏が先である。親(鶏)が子孫を残す(生 命を伝える)言わば手段として「卵」という形をとるのである10)

企業規模と経営管理構造の場合も,企業があって(企業が設立されて)い かなる経営管理構造をとるかが決まる。ところが,企業規模を段階論的では なく動的に,連続的に捉えるとすれば,企業規模と経営管理構造が相互規定 的であると理解することができるであろう。つまり,一定の規模の企業は一 定の経営管理構造を必要とし,逆に一定の経営管理構造をもたない企業は少 なくとも維持されないし,あるいはそれ以上成長しない(継続的事業体たり 得ない)ということである。

こうして,筆者が理解するところ,ドラッカーの所論から導かれることは,

企業規模と経営管理構造を相互規定的に捉えるということである(図表2−

1の③)

9) Drucker [1954], p.231.邦訳書(下),55ページ。

10)ついでに言えば(筆者の記憶がだんだん遠のいていき,どれほど正確なのかは もはや定かではなくなったけれども),1説によればれわれ生命体は受精したとた んに子孫へと生命を伝える入れ物(細胞)と子孫となって伝わっていくもの(細 胞)とに瞬時に分かれるのだそうである。これからすれば,鶏(生命体の入れ物)

と卵(子孫となって伝わっていく細胞)との関係がよく理解できよう。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) − 7 −

( 7 )

(8)

①企業規模が経営管理構造を規定(一般的)

企業規模 規定 経営管理構造

②経営管理構造が企業規模を規定(ドラッカー  )

経営管理構造 規定 企業規模

③経営管理構造が企業規模の相互規定  (筆者  )

経営管理構造 規定 企業規模

図表2−1 経営管理構造と企業規模

(資料)筆者作成。

3.ドラッカーにおける企業の規模別規定

企業規模を決める尺度(メルクマール)として,例えば日本の「中小企業 基本法」が典型的にそうであるように,「資本金3億円以下ならびに従業員 数30人以下」といったような定量的な尺度がある。上でみた,リーフマン にあっても末松玄六教授にあっても,質的(定性的)な指標に加えて従業員 数など定性的な(定量的な)指標から企業が規模別に規定されている。

ところが,ドラッカーは,このような規定の仕方はしない。経営管理構造 を基準にして企業規模を規定するからである。

この尺度のもと,ドラッカーは企業を規模別に4つに区分する。すなわち,

個人経営企業(one-man proprietorship),スモール・ビジネス,中企業(fair- sized business),大企業(large business),巨大企業(very large business)で

− 8 −

( 8 )

(9)

ある。

!

個人経営企業(one-man proprietorship)

ドラッカーがいうところ,個人経営企業は,スモール・ビジネスよりさら に規模の小さい「企業」である。これは,管理対象がない。個人経営企業と は,例えば職長が何人いても,彼らが単に工員仲間のリーダーであるとか熟 練工的な存在である企業である11)

すなわち,ドラッカーがいう「個人経営企業」とは経宮管理組織(manage-

ment organization)を必要としない「生産の単位」(=「企業」)であるとし

てよいであろう。

!

スモール・ビジネス

ドラッカーによれば,経営者と現場労働者との間に 管 理 階 層(level of management)を必要とするのがスモール・ビジネスである。トップ・マネ ジメントのもと工場長,経理部長,販売部長などを必要とする企業がスモー ル・ビジネスである。スモール・ビジネスではトップ・マネジメントが事業 全般の経営管理と同時に製造,販売といった職能(function)を併せ持って いる12)

スモール・ビジネスは通常,職能別に組織され,それぞれの部門を担当す る経営管理担当者が,企業全体の経営に当たるトップ・マネジメントに対し て直接責任を持つ組織を備えているのである13)

11) Drucker [1954], p.231. 邦訳書(下),56ページ。

12) Drucker [1954], p.231. 邦訳書(下),56ページ。

13) Drucker [1954], p.232. 邦訳書(下),57ページ。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) − 9 −

( 9 )

(10)

!

中企業(fair-sized business)

スモール・ビジネスのすぐ上の規模にある「中企業」は,2つの点でス モール・ビジネスとは異なっている。

第1点は,ドラッカーがみるところ,企業がこの規模に達すると,最高業 務の執行には専任者を必要とし,企業全般の目標の設定には,最高経営責任 者(CEO)以外の者が当らなければならないようになることである。目標の 設定は,場合によっては専任の職務ではなく,例えば財務部長が財務の仕事 と兼務で行なうように組織されているかもしれない。しかし,中企業におけ る目標設定の職務は,本来独立の職能として組織され,あるいは計画委員会 といった各部門の執行者からなる委員会によって行なわれるべきものなので ある。したがって中企業はつねに「最高経営執行者チーム」(chief executive team)を持たねばならない。そしてまたこの段階ではたいした問題ではない にしろ,職能的経営管理担当者(functional manager)とトップ・マネジメン トとの関係がともかく問題になってくる。中企業では,連邦的権限分散の組 織原理が適用できるばかりか,この原理による方が効果をあげる場合が多 14)

第2点は,中企業においてはじめて専門技術者(technical specialist)の組 織という問題に取り組む必要性が生まれてくることである。中企業の場合,

専門技術者は多くの領域で必要とされてくる。それゆえ,専門技術者と職能 的経営管理担当者,トップ・マネジメント,事業目標間の関係が考慮されな ければならなくなる14)

!

大企業(large business)

ドラッカーに言わせれば,大企業の特徴は,最高経営執行者の職務のいず

14) Drucker [1954], p.232. 邦訳書(下),56〜57ページ。

−10−

( 10 )

(11)

れかがチーム方式によって組織化されねばならないということである。大企 業においては,最高業務の執行にせよ,事業全般の目標設定にせよ,いずれ の職務をとってみても1人には荷が重過ぎるため,これを何人かで分担せね ばならない。そして,1つの職務が1人の専任者と数人の兼任者によって果 たされる場合も生まれてくる。例えば,1人が社長の職務を専任し,同時に 最高業務の執行に当る場合もあるであろう。しかし,製造部門担当の副社長 と販売部門担当の副社長もそれぞれの職能のほかに時間を割いて,最高業務 の一端を担うこともある。また場合によっては,執行副社長がいて事業全般 の目標設定に専任することもある15)

大企業の場合,連邦的権限分散の原理に基づく組織の方がつねに効果的で ある16)

!

巨大企業(very large business)

巨大企業の第1番目の特徴は,最高経営執行者(chief executive)の職務 のうち,実際の業務活動と事業全般の目標設定とがともにチーム方式によっ て組織されねばならないという点である。巨大企業における最高経営層の職 務は,どの1つをとってみても数人の専任者を要する性質のものである17)

第2の特徴は,企業が巨大となり複雑さを増すと,その経営構造は必ず連 邦的権限分散の原理にもとづいて組織されなければならないということであ 18)

第3の特徴は,最高経営執行者チームの組織と各経営単位の経営管理担当 者との関係は,最高経営層が最大の注意と勢力とを傾注しなければならない ほど重大な問題となることである19) (補注)

15) Drucker [1954], p.232. 邦訳書(下),57〜58ページ。

16) Drucker [1954], p.232. 邦訳書(下),58ページ。

17) Drucker [1954], p.233. 邦訳書(下),58ページ。

18) Drucker [1954], p.233. 邦訳書(下),58〜59ページ。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) −11−

( 11 )

(12)

(補注)企業規模の上限

通常,われわれは大規模組織の硬直性や規模の経済性といった視点から企 業規模の限界を議論する。

ところで,ドラッカーがいうように,経営管理構造が企業規模を規定する のであれば,では,この視点から企業規模の限界を指摘することができるの だろうか。ドラッカーも問うている。「はたして企業規模には限界があるの か?」と20)

これに対してドラッカーは言う。企業が規模を拡大しすぎて,各経営単位 の経営責任者が会社経営執行者チームと間接的にでなければ連絡がとれなく なった場合は,効果的な経営は不可能になってしまう。また社長を囲んで社 長代理や幾人もの副社長が必要になる場合にも,効果的な経営は不可能に近 くなる。さらに目標設定を担当する重役が,最高経営執行者チームを離れ,

これと直接連携が保てなくなり,両者の問の連絡および調整役として専任の 副社長などを置かねばならなくなるような場合,企業は経営不能なまでに拡 大したと解すべきである21)

経営管理階層(levels of management)が多すぎるため,各階層で十分手腕 を発揮する余裕もないほどの速さで昇進の梯子を上った者でさえ最高の地位 までいきつけないといった企業は,その規模が大きすぎると判断できる。こ うした企業では,言わば温室の中で経営担当者を育成せねばならなくなり,

その会社は,最も貴重な資源である人間の完全利用ができない22)

加えて,事業内容が多岐にわたりすぎ,各経営単位の経営担当者の間に共 通の仲間意識がなくなった場合,あるいは,企業全体に共通の目標が設定で きなくなった場合,つまり,企業が1つの全体として経営できなくなった場 合にも企業規模が大きすぎるといえよう23)

このように,ドラッカーは経営管理との関連から企業規模の限界を説く。

その際,企業分割も説くのだが,ところで,子会社化や持株会社による場合 も該当するのか,興味深い。

4.ニュー・ベンチャー

ドラッカーもとくに口にする「ニュー・ベンチャー」とは,そもそもどの ような企業なのであろうか。上の「個人経営企業」〜「巨大企業」のどこに 位置付ければよいのだろうか,あるいは上の「個人経営企業」〜「巨大企業」

19) Drucker [1954], p.233. 邦訳書(下),58〜59ページ。

20) Drucker [1954], p.233. 邦訳書(下),59ページ。

21) Drucker [1954], p.234. 邦訳書(下),59〜60ページ。

22) Drucker [1954], p.234. 邦訳書(下),60ページ。

23) Drucker [1954], p.234. 邦訳書(下),60ページ。

−12−

( 12 )

(13)

のどれと関連するのだろうか。その手がかりとすべく,「ベンチャー・ビジ ネス」について,日本で行われた初期の議論を参考に考察してみよう。

0〜70年代にかけて,しだいにコンピュータが普及し始め,電算機を利 用した様々な機器が普及していくと様々なソフトウェアが必要になった。こ れの開発・「生産」に規模の小さい企業が当たるようになった。さらに,い うところのME革命がおき,メカトロニクスが現れ,小型コンピュータを積 載した,これもいうところのME機器の開発・生産がすすむようになった。

こうした機器の開発・生産に当たったのは規模の大きい企業はもちろん規模 の小さい企業であった。これらの企業は,ハイテク企業と呼ばれ,それまで は存在しなかった新しい事業をすすめた。

さて,従来の中小企業とは異なった,こうした分野で新しく事業を展開す る企業に注目があつまった。10年代の後半にはいって,新しいタイプの中 小企業群が数多く,日本産業を担うことになったが,その最右翼に位置する 独自の特徴を有する一群の企業をベンチャー・ビジネス(和製英語)という 呼び方ではじめてとらえたのは,通商産業省の佃近雄氏で,10年5月のこ とであった。その後,中村秀一郎教授,清成忠男教授,当時の日本長期信用 銀行の平尾光司氏や当時の国民金融公庫調査部等の手で10〜11年にかけ て,その特徴づけが行われ,さらにその社会経済的意義について積極的な評 価が試みられた24)

その下敷きになったのが,米国における特殊な金融機関であるといってよ いベンチャー・キャピタルの投資先企業であった。その投資先企業は「内部 拡大を遂げつつある,新企業・投機的企業ないしは技術指向の企業(new, speculative firms or technologically oriented enterprises)「成長志向型の中小企 業(a growth-oriented small or medium-size business〔SMB〕)であった25)。筆

24)佐々木恭之助[1975年],15〜16ページ。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) −13−

( 13 )

(14)

者 が み る と こ ろ,日 本 の 研 究 者 た ち が こ の よ う に 捉 え た 新 規 企 業 こ そ

「ニュー・ベンチャー」だったのである。

ドラッカーもおりにふれ「新しい企業で技術指向の」あるいは「成長指向 の」スモール・ビジネスをニュー・ベンチャーと呼んでいる。ただし,これ また筆者がみるところ,それらのスモール・ビジネスが新サービスや新製品 の事業化(後でみるようにこれがイノベーション)を行うべく設立されたも のとして,ドラッカーはこれらの企業を「ニュー・ベンチャー」と呼んだの である。

このような企業年齢が若く,創業者(=企業家)に率いられた企業こそが ニュー・ベンチャーなのである。

こうしてみると,ニュー・ベンチャーとは新規に新しくサービスや製品を 事業化すべく設立された企業(新規開業企業)であって,企業規模に関わる 概念ではない。しかし,そうはいってもその設立の当初から大規模な企業は 少ないであろうから,新規創業の個人経営企業やスモール・ビジネスがこの ようにイノベーションと関わっているのであれば,ニュー・ベンチャーと呼 ばれるであろう。

5.イノベーション=新規事業化へのプロセス

!

企業における変革と継続のバランス

ドラッカーは,企業(=継続的事業体)において「変革と継続のバランス」

がその存続に関わる問題だと考えていた26)

この点は筆者が理解するところ,企業が生産し,市場に投入するところの 製品やサービスには必ず「寿命」がある。したがって,当分生き続けるであ ろうサービスや製品は継続して生産し,市場に投入していくが,しかし衰退

25)以上の詳細については,川上義明[1993年],第6章を参照。

26) Edersheim [2007], p. 85. 邦訳書,80ページ。

−14−

( 14 )

(15)

し,寿命を迎えかけたサービスや製品は,そのまま継続して生産するわけに はいかないであろう。市場が受け付けず(販売できずに),収益が得られな いどころか,投下した資本の回収もおぼつかないであろう。したがって,場 当たり的にではなく,「秩序立てて」廃棄せざるを得なくなるであろう。

その一方では,企業が(1つの命題として)継続的事業体であるためには,

これから成長が期待されるサービスや製品を導入していかざるを得なくなる であろう27)

この変革(「廃棄」と「新しい製品やサービスの導入」 ―― 新規事業化)

のプロセスこそがドラッカーにおいてはイノベーションなのである。一般的 には,新しい事業化に注目が集まるであろうが,「廃棄」と「新しい製品や サービスの導入 ―― 新しい事業化」をイノベーションとしているところにド ラッカーの特徴がみられるといってよいであろう。

こうしてみていくならば,ドラッカーがイノベーションを,何故に①廃棄 と準備,②機会の探求,③顧客価値の創造との関わりの中で整理しているか 理解することができるであろう(図表5−1)

27)実際,ドラッカーは別のところで次にように言っている。「イノベーションを管 理者にとって魅力的にさせるただ1つの方法は,もはや活力を失ったもの,陳腐 化したもの,生産的でなくなったものの廃棄についての体系的な政策である」―

Drucker [1954], p.151.邦訳書(下),15ページ。「もし,執行役員がそのこと(過

去の成功や失敗,とくに惜しくも失敗したもの,うまくいったはずのもの)を廃 棄することがその会社のポリシーであると知っていれば,彼らは新しいものを探 し,企業家精神を促進すべく動機付けられるであろうし,自ら企業家的であるよ うになる必要があることを受け入れるであろう」(Drucker [1954], p.152. 邦訳書

(下),5ページ)と。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) −15−

( 15 )

(16)

1.廃棄と準備

3.   顧   客   価   値   の   創   造

(ア)ブレーン・ス     トーミング

(イ)分析 (ウ)検証 (エ)事業化 2.機会の探求

(1) (2)

(3)(4)

図表5−1 イノベーションのプロセス

! イノベーションを行うために現行の製品やサービスを廃棄する。

!

イノベーションの機会を常時探す。

!

それらの機会を顧客にとっての価値に転換する。

!

人材と資金を投入する。

(資料)Edersheim [2007], p.110,邦訳書12ページより筆者作成。

!

イノベーションのプロセス

a.イノベーションの準備=事業(なじみの製品・サービス)の廃棄 ドラッカーがいうには,利益の上がらない事業や成長が止まった事業,成 長が止まってはいないとはいうものの,停滞した事業・経営環境の変化に よって競争力を失った事業が廃棄の対象になる。さらには事業に対する考え 方さえ廃棄の対象になる28)。このように,新しい製品やサービスあるいは名 前さえない製品やサービスを手に入れるためには,馴染みの製品やサービス を廃棄しなければならないというのである。

このように,「変革と継続のバランス」,言い換えれば「事業のスクラッ プ・アンド・ビルド」という論脈においてイノベーションは新規製品やサー ビスの事業化として捉えられるのである29)

28) Edersheim [2007], p. 90. 邦訳書,85ページ。

29)かつて,ドラッカーは「廃棄しなければイノベーションはできない。成果を上 げるには体系的な廃棄が必要である。体系的な廃棄を日常化しなければならない。

余分な体重は何の役にも立たない上に,心臓と脳に負担をかける」といったとい う(Edersheim [2007], p. 92. 邦訳書,86ページ)

−16−

( 16 )

(17)

b.機会の探求

イノベーションを行うためには,顧客に新たな価値を提供するための機会 を体系的にみつけなければならない。イノベーションの機会は何らかのひら めきによって偶然見つかるものではない。機会はあらゆるものを体系的に精 査することによって見つけるべきものである30)。7つの源泉・機会がある31)

①予期せぬもの(予期せぬ成功・失敗・出来事)

②不一致(現実とあるべき規範との不一致)

③プロセスにおけるニーズ

④産業構造,市場構造の変化

⑤人口の変化

⑥物の見方・感じ方・考え方の変化

⑦科学的・非科学的分野における新知識

こうした機会はいたるところに転がっているかもしれない。

そして,企業家たるには「常に変化を見つけて反応し,機会として使わな ければならない」32)。このことは,筆者が前稿で「企業的な人々」と呼んだ 者すべてに当てはまるであろう。

c.顧客価値の創造

そして,イノベーションの機会を認識し,事業化し,成果を顧客に提供す べく,顧客価値の創造が行われる。つまり,!多様な考えを持つ多様な分野 の多様な階層の人々によるブレーンストーミングが行われる。!そして,ア イデアの有効性を知り,イノベーションを成功に導くべく,アイデアを分析

30) Edersheim [2007], p. 93. 邦訳書,87〜88ページ。

31)川上義明[2008b],11ページを参照。

32) Edersheim [2007], p. 97. 邦訳書,92ページ。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) −17−

( 17 )

(18)

し,!市場での検証が行われる。!見込みが立てば,実際の事業化が行われ 33)(図表5−1を参照)

その際,緊要なのは既存の事業のマネジメントとは異なったマネジメント である。採算ではなく機会を中心においた,育てるマネジメントである34)

6.ニュー・ベンチャーにおける企業家的マネジメント

!

マネジメントの対象としてのイノベーション

ドラッカーにおいては,上でみたように,イノベーションは奇抜なもので も,突発的なものでも,偶然的なものでもなく,新規サービスや製品の事業 化のプロセスである。筆者が理解するところ,イノベーションは,ひとり,

アントレプレーナーのみの機能なのではなく,経営管理者や現場の作業者と いったイノベーター(=企業家的な人々)の言わば「産物」なのである。し たがって(当然にといってよいであろう)マネジメント(経営管理)の対象 となり得る。既存の企業や公的サービス機関(社会的機関:政府機関や非営 利組織の病院,学校,大学,地方自治体,赤十字,ボーイスカウト,ガール スカウト,ボランティア団体,宗教団体,その他の各種団体 ―― )35)はもち ろん,ここで扱うニュー・ベンチャーにおいても然りである。ある者すなわ ち,「企業家たらんとするもの」(企業家的な人々も含めて ―― 川上)は,

ニュー・ベンチャーにおいて,いかにして企業家たるべきか(いかにして企 業家的な人々たるべきか ―― 川上),いかに革新すべきか(イノベーション を起こすべきか)を学ぶべきである。そしてとりわけいかにマネジメントす

33) Edersheim [2007], pp. 104108. 邦訳書,97〜100ページ。

34) Edersheim [2007], p. 109. 邦訳書,101〜102ページ。

35)政府機関や労働組合,さらには教会,大学,学校,病院,地域の非営利組織や 慈善団体,職業別団体や業界団体などの公的サービス機関(public−Service institu- tion)も企業とまったく同様に企業家的でかつイノベーティブである必要がある。

公的サービス機関にとって今日のような社会,技術,経済の急激な変化は脅威で はあるがしかし機会でもある ― Drucker [1985b], p.177. 邦訳書(下),54ページ。

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べきか学ぶ必要がある36)

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イノベーションの車輪としてのニュー・ベンチャー

イノベーションを上記のように新規事業化のプロセスと捉えるとすれば,

イノベーションを創出する組織体こそがニュー・ベンチャーということにな る。実際,ドラッカーは言う。「ニュー・ベンチャーはイノベーションへの 主たる車輪でありつづけるだろう」と,「ニュー・ベンチャーはあらゆる主 たる企業家時代において,そして再び今日において,合衆国の新しい企業家 的経済においても主たる車輪であだろう」37) (補注)と。

(補注)ところで,ドラッカーはニュー・ベンチャーよりもむしろ中規模企業に おけるアントレプレナーシップ38)やイノベーションを評価する。

なぜなら,多くの場合,必要とされるアントレプレナーシップは既存の企 業からのみやってくるのだが,今日の何社かの巨大企業は,次の25年にはう まく生き延びないかもしれない。その一方で,小企業よりもかなり規模の大 きい,中規模企業がとりわけ成功した企業家とイノベーターとなるべくよく 位置を占めること,企業家的マネジメントへ自分自身を組織化させるといっ てよい。企業家的リーダーシップへの最高の能力(capability)を持つのは既 存の企業だからである39)

なんとなれば,それらの中規模企業は,必要な(経営)資源,とりわけ人 的資源を持っている。中規模企業は,すでにマネジメント上の能力(compe- tence)を獲得しており,そしてマネジメント・チームを作り上げている。そ れらの企業は効率的な企業家的マネジメントに対する機会と責任の双方を 持っているからである40)

ドラッカーは,個人によるマネジメント(経営管理)よりもしばしばマネ ジメント・チームによるマネジメント(経営管理)を強調しているが,この ように中規模企業になるとこのマネジメント・チームが組織され,企業家的 マネジメントがおこなわれるようになるから,イノベーションが創出され続 けるとみているのである。

36) Drucker [1985b], p.143. 邦訳書(下),2ページ。

37) Drucker [1985b], p.146. 邦訳書(下),6ページ。

38)アントレプレナーシップは,個性(パーソナリティ)であるよりもむしろ行動 や政策や実践の問題である ―Drucker [1985b], p.171. 邦訳書(下),46ページ。

39) Drucker [1985b], p.144. 邦訳書(下),4ぺージ。

40) Drucker [1985b], p.144. 邦訳書(下),4ページ。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) −19−

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ここで,問題はニュー・ベンチャーにおけるマネジメント(経営管理)で あろう。ドラッカーはいう。「合衆国においては企業家候補には,実際,事 欠かない。ニュー・ベンチャーが不足することはない。しかしながら,それ らのほとんどは,とくにハイテクのそれは,企業家的マネジメントについて 多くを学ばなければならない」41)と。

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ニュー・ベンチャーにおける企業家的マネジメント

ところで,ドラッカーがいうには,「企業家的マネジメント」においては,

既存の企業の各マネジャー(経営管理者)を「新しいものを求める存在」(re- rum novarum cupidus)ならしめねばならない。各マネジャー(経営管理者)

にとって,いかにして「イノベーションを当然のこととし,イノベーション を欲し,イノベーションに到達し,イノベーションを働かせるか」というこ とである。イノベーションは経営管理者にとって魅力的で利益をもたらすよ うにされなければならない。イノベーションがその組織を守り,永続させる べき最良の手段であり,個々の経営管理者のジョブ・セキュリティと成功の ための基礎であるということをその組織全体が理解しなければならない42)

ドラッカーは,ニュー・ベンチャーにおける企業家的マネジメントには以 下の4つが必要であるとする。

①市場に焦点を合わせること,

②財務上の見通し,とくにキャッシュ・フローと資金について計画を持つ こと,

③実際に必要となり,しかも可能となるはるか以前からトップ・マネジメ ント・チームを用意しておくこと,

④創業者たる企業家(founding entrepreneur)が自らの役割 責任,位置付

41) Drucker [1985b], p.146. 邦訳書(下),6ページ。

42) Drucker [1985b], p.151. 邦訳書(下),14〜15ページ。

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けを決断すること,である43) a.市場志向の必要性

ドラッカーがみるところ,市場はイノベーションのアイデアを生むのに最 も効力がある源泉である44)

したがって,ニュー・ベンチャーが成功するのは,多くの場合,考えても いなかった市場で,考えてもいなかった顧客が,考えてもいなかった製品や サービスを,考えてもいなかった目的のために,買ってくれることによって である。ニュー・ベンチャーは,この事実を認識し,予期せぬ市場を利用で きるよう自らを組織しておかねばならない45)

経営学の教科書は新しい市場や製品・サービスについて,「市場調査」と いう処方箋を教える。しかし,それは間違った処方箋である。人はまったく 新しいものについては市場調査はできない。人はいまだ市場に出ていないも のを市場調査することはできないのである46)

それゆえ,ニュー・ベンチャーは自らの製品やサービスが思いもしなかっ た市場において,思いもしなかった使われ方のために,なじみのない顧客に よって買われることがあっても当然であるという前提のもとに,事業をス タートさせる必要があるのである47)

b.財務上の見通し

ドラッカーがみるところ,これとは対照的に,適切な財務に焦点を当てる ことの欠如と適切な財務政策の欠如は,次の成長段階におけるニュー・ベン チャーへの最大の脅威である。ニュー・ベンチャーにとって,よりうまくい けばいくほど,財務上の見通しをもたないことは大きな危険となる48)

43) Drucker [1985b], p.189. 邦訳書(下),71ページ。

44) Drucker [1969], p.47.邦訳書,66ページ。

45) Drucker [1985b], p.189. 邦訳書(下),72ページ。

46) Drucker [1985b], p.191. 邦訳書(下),75ページ。

47) Drucker [1985b], pp.191192. 邦訳書(下),76ページ。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) −21−

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ドラッカーが言うには,ニュー・ベンチャーの財務上の問題はいつも同じ である。①現金の不足,②事業拡大のために必要な資本がないこと,③支出 や在庫や債権を管理できないこと,である。これらの3つの財務上の苦悩は しばしば同時に発生する49)

ニュー・ベンチャーをスタートさせた企業家が,カネに無頓着なことはま れである。反対に,きわめて貪欲である。それ故,かれらは利潤を重視する。

しかし,このことはそのニュー・ベンチャーにとって間違っている。むしろ,

それは結果としてもたらされるものであって,最初に考えられるものではな い。キャッシュ・フローや資本,管理が先に問題になる。これらなしには,

利潤の数字も虚構に終ってしまう。目の前の利益は12ケ月から18ケ月で消え てしまうことがある50)

ニュー・ベンチャーは,成長が健全であって速いほどより多くの財務上の

「栄養」を必要とする。新聞や株式情報で大きく取り上げられたニュー・ベ ンチャーや「史上最高益」を更新したニュー・ベンチャーが2年後には絶望 的な問題に入り込んでしまうことがある51)

ニュー・ベンチャーはキャッシュ・フローの分析やキャッシュ・フローの 予測,現金管理を必要とする52)

c.トップ・マネジメント・チームの構築

ドラッカーは随所で「チームによるマネジメント」あるいは「マネジメント・

チーム」を協調している(補注)

(補注)例えば,19世紀最大の発明家また企業家であったとドラッカーがみる,

エジソン(Thomas A. Edison)の夢は,実業家として成功し,大企業の社長に 48) Drucker [1985b], p.193. 邦訳書(下)79ページ。

49) Drucker [1985b], pp.193194. 邦訳書(下),79〜80ページ。

50) Drucker [1985b], p.194. 邦訳書(下),80ページ。

51) Drucker [1985b], p.194. 邦訳書(下),80ページ。

52) Drucker [1985b], p.194. 邦訳書(下),81ページ。

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なることであった。最高の企画力を持っていたから彼が事業に成功してもな んの不思議もなかった。しかし,彼は企業家のまま終った。マネジメントと はボスであると考えていた彼は,マネジメント・チームをつくらなかった。

それゆえに,彼の4〜5社は,中企業に成長した段階でことごとく倒産寸前 にまで追い込まれた。これらの会社はエジソン自身を追い出し,彼に代わっ て専門のマネジメントを据えることによってのみ救済された53)

市場においてしかるべき地位をうまく確立し,必要なしかるべき財務構造 と財務システムを確立してきたニュー・ベンチャーが数年後,深刻な危機に 陥ることがある。継続的事業体となる取っ掛かりがみえるようになったまさ にその時に,苦境に入り込むことがある。製品は一流であり,見通しは明る いのだが事業はただ成長することができない。収益や品質その他の主な分野 で成果が上がらない。理由はいつも同様である。トップ・マネジメントの欠 落である。その企業は1人や2人でマネジメントできなくなるほど大きく なったのである。今や,その企業はトップ・マネジメント・チームを必要と するようになったのである54)

創業者自身,いつまでも何事をもマネジメントするのではなくて,やがて はトップ・マネジメント・チームに引き継がせる必要がある。もしトップの 1人ないし2人があらゆることを自ら行い続けるつもりでいたら,数ヶ月あ るいはおそくとも数年後には経営危機が訪れるであろう55)

重要な仕事は,すべて実績によって能力が証明されている者が担当する必 要がある。

創業者は,ワンマンによるマネジメントが機能せず,失敗するはるか以前 にそのワンマン自身が同僚と協力すること,人を信頼すること,さらには人 に責任を持たせることを学ばなければならない。創業者(founder)は,「付

53) Drucker [1985b], p.188. 邦訳書(下),71ページ。

54) Drucker [1985b], pp.197198. 邦訳書(下),85ページ。

55) Drucker [1985b], p.198. 邦訳書(下),86ページ。

企業生成・発展の変動要因としての企業家(Ⅵ)(川上) −23−

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