挨 拶
環境と人間
佐久間 正
文化環境研究会会長
環境とは私たち人間を含む生物の生きる場と言ってよいが、人間にとっての環境は、自然環境、
社会環境そして文化環境の位相を有している。これらの三つの位相が、私たち人間存在の三つの 側面である生物的存在、社会的存在そして意識的存在に対応していることは言うまでもない。こ のように私たち人間にとっての環境を三つの位相から理解する時、留意しなければならないのは、
あくまでもこれらは位相なのであって、私たちの生きる場としての環境はそれらの統合された全 体として存在することである。
私たち人間にとっての環境を以上のように三つの位相から理解する時、資源枯渇と環境劣化の 深まりの中で地球環境の保全と人間社会の永続化を展望しようとする場合、問題の所在が明瞭に 浮かび上がってくる。すなわち、地球環境を保全し人間社会の永続化を図るためには、自然環境 が人間もその一員である多様な生物がそこで生きる生態系として存続すること、別な言い方をす るなら、自然は生物多様性biodiversityを支える場として存続しなければならない。そして社会 環境が意識的存在としての人間が生きる場として十分に整備されていること、これまた別な言い 方をするなら、人間の豊かな意識的活動が妨げられることなく保障されるような公正な社会環境 を実現しなければならない。自然環境と社会環境がそのようなものであってこそ初めて私たちは 文化環境の豊かさに言及できるのである。その場合文化環境を生態系になぞらえるなら、文化環 境の豊かさは文化的多様性cultural diversityと言ってよいだろう。こうして私たちは地球環境が 保全され人間社会が永続する未来を、生物多様性、公正な人間社会、文化的多様性の三つのキー ワードによって捉えることができるのである。
私たち人間にとっての環境をこのように分析的に自然環境、社会環境、文化環境の三つの位相 から理解することは有意義であるが、同時に私たちの生きる場を環境として捉えることのもう一 つの大切な意義は、私たちの生きる場を自然−社会−文化の統合された全体として理解するとい うことである。私たち人間にとっての環境を自然環境、社会環境、文化環境のそれぞれに還元し てしまうことは、私たちの生きる場を正しく捉えたことにはならない。このことは人間に視点を 据えて言うなら、人間存在を生物的存在、社会的存在、意識的存在に還元するのではなく、それ らの統合された全体として把握することである。このような人間存在の全体性を考察することこ そ環境学的人間学の課題であるとするなら、それは近代的人間学によって断片化された人間存在 の全体性を改めて回復するものと言えよう。
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