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熱処理シミュレーション技術の現状と展望 巨東英 埼玉工業大学 Actuality and Scope on Simulation of Heat Treatment by Dong-Ying JU Saitama Institute of Technology Key words : Metallo

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熱処理シミュレーション技術の現状と展望

東英

埼玉工業大学

Actuality and Scope on Simulation of Heat Treatment

by

Dong-Ying JU

Saitama Institute of Technology

Key words : Metallo-thermo-mechanics, Diffusion, Constitutive Equation, Carburizing-nitriding, Quenching, Induction heat treatment process, Finite element

1 11 1 はははは じじ じじ めめめ め にににに 鉄鋼材料の熱処理は,鉄器の発見と使用に伴ってすで に三千年以上の歴史があると言われている.とくに,古 代から鉄で刀剣、槍などを作るときに鉄に含有する炭素 濃度を調整しながら鍛え、鉄で作った武器や生活用品に 熱処理を施工すると,鉄鋼の強さを向上できることが発 見された.すなわち,鉄鋼材料の機械的性質は組織状態 の変化によって大きく変わるため,鉄鋼組織を変化させ る一番有効な手段は熱処理技術であること,なおかつそ の重要性も物づくり技術の発展に連れて認識されたため, 熱処理は伝統な製造技術としていままでに継承されてい る.それゆえ,現代の製造技術においても,自動車や工 作機械などのさまざまな分野に使われている鉄鋼材料の 部品は,部品の強度と安全性・耐久性を向上するために 必ず焼入れ,焼戻し,浸炭焼入れおよび高周波焼入れな どの熱処理技術を実施し,最適な硬度,靭性,耐摩耗性 を求める. 一方,浸炭・窒化・焼入れなどの熱処理を実施する際, 必ず注意しなければならない問題がある.例えば,鋼の 焼入れにおいて,物体の表面と内部でマルテンサイトな どの相変態が局所的に起こるので,組織変化と生じた圧 縮残留応力によって材料の機械的性質を改善できる利点 があるが,そのうち焼入れ変形も生じるので,焼入れひ ずみの制御が難しい.しかしながら,部品設計の許容誤 差範囲を満足しないと部品の品質を保証できなく,コス トも高くなる.また,焼入れ時の冷却剤の沸騰と対流, 部材の表面につく蒸気膜の生成/消滅が冷却速度に及ぼ す影響,鋼材内部に生じる局所変形および組織変化によ る焼入れ変形のばらつき等がひずみ制御にさらに難点を 加える.このため,加熱・冷却過程における鋼材と冷却 剤などの性質に関わる要因も多いので,大量の部品を熱 処理するときに最適なプロセス条件を把握することも必 要となる.従って,物理現象論的として考えれば,鋼の 焼入れあるいは浸炭・窒化・焼入れと高周波焼入れなど の熱処理過程は熱伝導と電磁界現象,成分の拡散および 非弾性変形を含まる複雑系と言え,熱処理過程には,温 度や磁場,化学成分である炭素の拡散,組織の変化およ び力学挙動はそれぞれの独立な現象として存在している わけではなく,これらの相互作用を伴う連成現象もある. なおかつ,このような連成現象は瞬時に発生する場合が 多い,実験的にこの連成効果を解明することは困難であ り,熱処理シミュレーションは組織・ひずみ制御および 最適な熱処理プロセス条件を把握するためのカギとなり, 実際の熱処理過程における複雑な現象を再現できる技術 手段として要請された.このために,70年代から井上ら が変態・熱・力学の理論(metallo-thermo-mechanical theory)(1)-(4)を提案してから,さらにコンピュータ,有 限要素法の数値解析技術の進歩によりこの理論の連成解 析の手法が発展されており,熱処理シミュレーションへ 展開することが実現された(5)-(6).また,工業技術の要請 により,1992年にこの理論を用いて熱処理シミュレーシ ョンの汎用コードHEARTS(7)とSYSWELD(8)が発表され た後,多数な熱処理CAEコードが開発され,名称を挙げ

れば,GRANTAS(9),DEFORM-HT(10),DANTE(11)およ

びCOSMAP(12)などがある.これらのソフトウェアの使用 によって熱処理過程における変態・熱・力学の連成効果 を解明することが可能になった.熱処理を実施する前後 に,シミュレーションによって熱処理条件の設定および 熱処理効果の予測を行うことは重要であるが,シミュレ ーションを行うためには,単にシミュレーションコード の使用手順を熟練するだけではなく,理論と解析手法の 理解が不可欠である.本稿は,熱処理シミュレーション の基礎とする変態・熱・力学の理論と有限要素法の定式 化を解説し,熱処理シミュレーション技術の現状を紹介 する. 2 2 2 2 熱処理の連成現象に関する変態・熱・力学理論熱処理の連成現象に関する変態・熱・力学理論熱処理の連成現象に関する変態・熱・力学理論熱処理の連成現象に関する変態・熱・力学理論 熱処理シミュレーション,例えば,浸炭焼入れシミュレ ーションには,前章に述べたように変態・熱・力学理論 (1) を用いて,相変態のカイネティクスを考慮した拡散解析, 熱伝導解析および非弾性解析の連成解析によって実施す る必要がある.ここでは,まず変態・熱・力学の理論と 連成解析の概要を紹介する. 2.1 2.12.1 2.1 熱処理熱処理 過程の支配方程式と連成問題熱処理熱処理過程の支配方程式と連成問題過程の支配方程式と連成問題過程の支配方程式と連成問題 物質系において,2 種類上の現象の相互作用を連成効果 (coupling effect)という.熱処理における連成効果は, 図1に示すような関係が提案された.すなわち,まず物 体の温度場が変化すると,図1①のように熱ひずみや熱 応力 (thermal stress)が生じるが, この熱応力によ って 塑性変形が生じる場合には,塑性仕事の大部分が熱とし て物体内部に散逸するため,この熱応力が塑性ひずみに 対して仕事をし,この仕事は②に示すように熱に変わる ために,物体内の温度分布に影響を及ぼす. また,物質の温度が変化すると③のように相変態が起 こって,例えば液相から固相に,オーステナイトがパー ライトに,またはオーステナイトからマルテンサイトへ 変態す ることは,いわ ゆる変態状態 図(phase diagram), 等 温 変 態 図 (T-T-T diagram) , 連 続 冷 却 変 態 図 (C-C-T

(2)

diagram)などから明らかである.しかし,材料の内部に 相変態が起こると,④のようにどんな相でも他の相に変 わるときには系の自由エネルギーが変化するため潜熱の 発生や吸収をもたらすことがあり,よって温度分布の変 化を生じる. 物体中で相変態が局所的に起こると,体積の変化によ っ て , ⑤ の よ う に 変 態 応 力 (phase transformation stress)が生じることがよく知られている.また,ある温 度のときに応力の変化に伴って,パーライトあるいはベ イナイト変態が大きく生成・促進される⑥のような現象 もある (15)-(16) .一方,実際の力学実験では,準安定オー ステナイト鋼の高温引張試験を行うと,ある温度域で異 常に大きな伸びを示す応力誘起マルテンサイト変態に関 連 し た 現 象 が あ り , 変 態 誘 起 塑 性 (transformation -induced plasticity)と呼ばれる効果もある. さらに,浸炭あるいは浸炭・窒化過程における炭素濃 度や窒素の拡散現象を加えると,局所的に材料成分が変 化することによって材料の結晶構造,物性値の変化が生 じるので,熱処理における材料の熱物性,力学特性およ び相変態のカイネティックス挙動に対する影響が生じる. 以上に述べた現象をすべて考慮することは,変態・熱・ 力学理論の出発点である. 高周波焼入れの場合,電磁界による誘電加熱現象が起 こるので,電磁界⑦・熱伝導解析⑧が必要となる.

Fig.1 Outline of metallo-thermo-mechanical theory

2.2 2.22.2 2.2 熱処理における支配方程式と連成熱処理における支配方程式と連成熱処理における支配方程式と連成熱処理における支配方程式と連成 問題問題問題問題 熱処理の複雑現象を理論的に記述するために,連続体 熱・力学の立場から考察を進め,熱処理過程に支配する 各種の連成関係を導くことにする. まず, 物質中の任 意の点は体 積分率が I

ξ

(I=1,2,...,N)である N 個の相から構成されると考える. 体積分率をすべて集めたものは 1 であるから, 1 1 =

= N I I

ξ

(1) が成り立つ.さらに,第 I相の物質特性を I

χ

とすると, 混合体とした物質特性

χ

は混合則として次のように表現 することとする.

= = N I I I 1

ξ

χ

χ

(2) 熱 伝 導 方 程 式 熱 伝 導 方 程 式熱 伝 導 方 程 式 熱 伝 導 方 程 式 熱 処 理 に お け る 物 質 の 温 度 変 化 は Fourier 法則(

h

=

kgrad

T

)を用いる熱流束 hhhと温度 Th との関係は成り立つので,熱伝導方程式は次のように表 すことができる. 0 ) ( div(gard 1 = + + −

= I B N I I p ij ij l Q tr -T) k T c

σ

ε

ρ

ξ

ρ

& & & (3)

この中に,ρ,c とkはそれぞれ密度,比熱と熱伝導率で あり, p ij ij

ε

σ

&

は塑性仕事率である. I l は I 相が起こるとき 潜熱とする.Q B は高周波による誘導加熱量であり,高周 波焼入れの場合,誘導加熱量 B

Q

は次のように表される . dV A Q V B 2 2

=

σω

(4) ここで,

σ

ω

は導電率と周波数である.式(3)の第 3 項以下を省略すると,普通の非連成熱伝導方程式となり, 熱処理シミュレーションでは,第 3項の塑性仕事と第 4 項の相変態による潜熱を考慮する必要がある.熱伝導問 題の境界条件は, (a)固定境界条件 T S 上で温度Tが与えられている場 合, 0 T T = (5) (b)自然境界条件 h S 上で物体に接する流 体の温度と 熱伝達係数hが規定される場合には,

( )(

T T Tw

)

h T k ⋅ = − − grad

n

n

n

n

(6) ここで,nnnnは物体表面における外向き単位法線ベクト ル, w

T

は境界周囲の温度である.また,h

( )

T は物体と外 部環境との間の熱伝達率であり,一般には熱伝達率は冷 却 曲 線 の 実 験 値 か ら 求 め ら れ た 温 度

T

の 関 数 と し て い る. 拡散方程式 拡散方程式拡散方程式 拡散方程式 浸炭,窒素あるいは浸炭.窒化・焼入れ の場合,組織変化による影響を無視すると,ある化学成 分の濃度 C X に対する拡散方程式は,

)

C

D

C

&

X

=

div(

X

grad

X (7)

で表される.ここで,拡散係数D X は一般には化学成分濃 度の関数である.拡散解析に使用する境界条件は,

(

X XW

)

X C X X

C

C

C

D

=

grad

n

β

(8) で与えられる.ここで, X C

β

は周囲のガスなどの拡散係 数であり, XW

C

は周囲の炭素濃度である. 相変態のカイネティックス 相変態のカイネティックス相変態のカイネティックス 相変態のカイネティックス 熱処理においては,物体 内部の組織は温度変化や冷却速度によって変化している ことがよく知られているが,そのほか,相変態によって 生じた組織が,応力や塑性変形の存在による影響を受け ている.これらの影響を考慮して組織変化の生成と成長 などを記述する速度論は相変態のカイネッティクスと呼 ばれる. 相変態のカイネティックスでは,拡散型変態と無拡散 型変態の 2 種類がある. 拡散型変態: 拡散型変態:拡散型変態: 拡散型変態:オーステナイトからパーライト,ベイナイ ト,フェライトなどへの変態は拡散形であると言われて い る . 拡 散 型 の 変 態 体 積 分 率 d

ξ

に 対 し て は , Johnson-Mehl は静水応力 p の効果を導入したカイネティ ックスを以下のように提案した (15) .

(

)(

)

{

σ

τ

τ

}

ξ

f

T

m

t

d

t d 3 0

,

exp

1

=

(9) 式中の関数

(

,

)

m

T

f

σ

は,

)

exp(

)

0

,

(

)

,

(

T

m

f

T

A

m

f

σ =

σ

(10) で与えられる.ここで,関数

f

(T

,

0

)

は無応力下の組織片 Temperature Strain/Stress Metallic Structures Diffusion ① ② ③ ④ ⑤ ⑥

Electro-Magnetic-thermo coupling analysis

Induction heat domain and boundarycondition

(3)

変化から決定できる.さらに,各レベルの平均応力 m

σ

に よって,式(10)の関数と材料パラメータ Aを同定するこ とができる. 無拡散型変態: 無拡散型変態:無拡散型変態: 無拡散型変態:オーステナイトからマルテンサイトへの 変態は無拡散型変態と言われている.この場合,熱力学 的考察からMageeのカイネティックス (16) にさらに応力の 依存性を考慮すると,無拡散型変態の体積分率 M

ξ

(

)

[

− +ψψψψ::::σσσσ

]

− = MS T M

ϕ

ξ

1 exp (11) で与えられる.ここで,

ϕ

は材料定数であり, S

M

は無 負荷のもとでマルテンサイトの変態開始温度とする.ま たψψψψは自由エネルギーから導かれるパラメーターであり, マルテンサイト変態開始条件の応力依存性に関する実験 から決定する. 非弾性ひずみ速度と組織分率など内部状態変数の時間 変化率も式(3)と同様な形で表すことができる (20) . 非弾性構成式 非弾性構成式非弾性構成式 非弾性構成式 鋼材の熱処理では,材料の変形は弾・塑性変形だけで はなく,温度変化によって熱膨張(収縮),変態膨張と変 態塑性によるひずみを考慮する必要がある.すなわち, tp ij m ij T ij p ij e ij ij ε ε ε ε ε

ε& = & + & +& + & + (12) その中の弾性ひずみは以下のように導かれる.

(

)

ij ij I ij ij I I ij I I I e ij

T

E

E

σ

δ

α

Τ

δ

βδ

ν

σ

ν

ε

=

1

+

+

0

+

(13) ここで, I

E

I

ν

I

α

I β はI番目の相が生じるときの 縦弾性係数,ポアソン比,線膨張係数および変態膨張係 数を表す.式(2)の混合則を用いると,さらに,熱膨張と 変態膨張の部分を弾性ひずみから分離すると,混合体の 弾性ひずみ,熱膨張ひずみと変態膨張ひずみは,それぞ れ以下のように表される. ij ij ij N I I e ij e ij

E

E

σ

δ

ν

σ

ν

ξ

ε

ε

=

=

+

=

1

1 (14) I N I ij I th ij

α

T

T

δ

ξ

ε

=

=

1 0

)

(

(15)

=

=

N I ij I I tr ij 1

δ

ξ

β

ε

(16) 次に非弾性の部分を考えよう.相変態によって組織が 変化すると塑性挙動も変化を受けるから,そのときの降 伏関数には温度 Tと硬化パラメータ

κ

を考慮するほか, 相の分率 I

ξ

の寄与も考える必要もある.したがって降伏 関数 F を,

(

,

,

,

,

)

=

0

=

I p ij ij

T

F

F

σ

ε

κ

ξ

(17) とおく.Fの全微分が

= + + + + = N I I I p ij p ij ij d F dT T F d F d F d F dF 1

ξ

∂ξ

κ

∂κ

∂ε

σ

∂σ

ij ε (18) であることに注意すると,塑性理論で与えた負荷と除荷 の基準は 0 1 ≤ + +

= N I I I ij ij d F dT T F d F

ξ

∂ξ

σ

∂σ

;F=0 (19a) 0 1 ≥ + +

= N I I I ij ij d F dT T F d F

ξ

∂ξ

σ

∂σ

;F=0 (19b) となる.また塑性ひずみ速度は流れの法則によって次の ように表される. ij p ij

F

∂σ

ε

&

=

Λ

Λ

>0 (20) 塑性状態では,後続の降伏曲面上の応力空間を考慮した Prager の適応条件 0 1 = + + + + =

= N I I I p ij p ij ij ij d F dT T F d k F d F d F dF ξ ∂ξ∂ ∂ ∂ κ ∂ ∂ ε ∂ε∂ σ ∂σ∂ (21) に式(16)を代入すると,各種の硬化理論によって式(20) におけるパラメータ

Λ

を決定でき,例えば,加工硬化の 場合,塑性ひずみの増分は ij N I I I kl kl p ij F d F dT T F d F tr G d ∂σ ∂ ξ ∂ξ ∂ ∂ ∂ σ ∂σ ∂ ε       + + =

=1 ) ( ˆ (22) で与えられる.ここで,

G

ˆ

は次のように表される. ij ij ij F F F G ∂σ ∂ σ ∂κ ∂ ∂ε ∂         + − = ˆ / 1 (23) ここまで,式(7)で表した混合体の Gibbs 自由エネルギー に適応する弾性変形と非弾性変形を記述することができ たが,相変態中に応力を加えると塑性変形が生じる場合 があるので,これは変態超塑性あるいは変態塑性という. 変態塑性によるひずみ速度は以下のように表される.

(

)

=

=

K I ij I I I tp ij

K

s

1

1

3

ξ

ξ

ε

&

&

(24) こ こ で , K I は 材 料 パ ラ メ ー タ で あ り , ij s は 偏 差 応 力 ( /3 ij ij ij ij s =

σ

σ

δ

)である. 以上の構成式には,化学成分の変化を考慮していない. 実際の浸炭・窒化・焼入れ過程では,炭素あるいは窒素 の変化が力学物性に及ぼす影響だけではなく,さらに, 炭素と窒素原子の侵入による結晶構造の変化,または炭 素と窒素が固体内部に拡散することに伴うひずみ変化を 考慮する必要がある.これについてまだ十分に研究なさ れていないが,最近には化学成分の拡散を考慮していく つの提案がある. 3 33 3 有限要素法による連成解析有限要素法による連成解析 有限要素法による連成解析有限要素法による連成解析 上述の変態・熱・力学理論によってまとめた相変態を 伴う支配方程式は,温度,組織および応力・ひずみの間 の連成効果を厳密に考慮している.しかし,数学の立場 から考えてもこれらの方程式の厳密解を解くのは難しい. 一般には,有限要素法などの数値解析によってこの問題 の解を求める.有限要素法の基礎知識については,すで に多数の教科書に記述しているので,ここでは有限要素 法による連成解析の概要を解説しよう.なお有限要素法 定式化の詳細については文献 (17) を参照されたい. 熱処理シミュレーションでは,有限要素法による連成解 析を行う必要がある.ここで,浸炭焼入れシミュレーシ ョンを例として説明しよう.熱,相変態および応力/変 形の連成解析を行う手順として,初めに,材料を加熱す るときの温度解析を行う.このときに温度と応力/ひずみ の連成を考慮するが,初期の組織はすべての組織をオー ストナイト変態とし,加熱による逆変態を考慮しない. 次に浸炭過程における炭素濃度の分布を求める.浸炭, あるいは浸炭・窒化過程では,高温状態かつ温度が一定 であるので,単に拡散解析とクリープによる非弾性解析 を行い,温度場との連成解析を行わない.しかし ,浸炭・ 窒化に関する拡散解析では,図 2に示すように,ある時 刻に対して,拡散係数の相互影響を考慮してそれぞれ浸 炭と窒化の拡散解析を実施する.その後,固体内部の炭

(4)

素濃度や窒素濃度を安定させるために,材料を若干に冷 却した後,再び温度保持によって固体内部の拡散過程を 設定する.この段階では,温度解析によって冷却過程の シミュレーションを行うが,拡散過程ではやはり拡散解 析とクリープによる非弾性解析を実施する.拡散過程が 完了後,焼入れ過程はスタートされ,この過程から熱伝 導解析,相変態のカイネティクス,および非弾性解析に よる連成解析を実施する.熱伝導解析では,相変態によ る潜熱の発熱および応力による仕事(発熱)を考慮した. 同じ解析の時間ステップの間に次に相変態カイネティク スを用いた変態解析を行う.また,同じ時間ステップに おいて,熱膨張,変態膨張および変態塑性を考慮した非 弾性構成式を用いた非弾性解析を実施する.この一連の 解析はすべて有限要素法によるものであり,非定常・非 線形解析として,すべてニュートン・ラフソン法による 収束解析で最終的に各問題の数値解を求める. 高周波焼入れの場合,加熱過程としては,電磁界解析 によって発熱量を決めてから熱伝導解析を行う必要があ る (18-21) .その流れは以下のように表すことになる.焼入 れ過程の連成解析は上述の方法と同様である.

Fig.2 Flow chart of heat treatment simulation.

Fig.3 Coupling effects between the quantities in the induction hardening. 4 高周波焼入れ解析の例 熱処理分野では,通常の普通焼入れと浸炭焼入れは油 や PAGなどの冷却剤の中に入れて熱処理する際,部品の 表面に蒸気膜の形成と崩壊の現象によって変形のばらつ きが大きいので,今でも焼入れのひずみ制御が難しいと 言われている.このため,近年には低ひずみを実現でき る高周波焼入れと窒化処理の技術は注目されている.高 周波焼入れは直接加熱であり,部品の全体を加熱する必 要がないため熱効率が良く,短時間加熱・冷却ができる. そして,急冷処理のため酸化、脱炭、変形も少ない.ま た硬化層深さの選定も比較的容易である.しかし,高周 波焼入加熱は,コイルによって行われているので,被加 工品の形状と寸法に適したコイルを設計・製作するだけ ではなく,焼入れ部分の表面組織,硬さ,変形および残 留応力を予測しながらコイルを設計することも重要であ る.この問題を解決するために,近年,高周波焼入れシ ミュレーション用のプログラムが開発され,シミュレー ションの事例が増えている(18)-(20). 本稿は,電磁界解析プログラム JMAG を用いる高周波加 熱のシミュレーションと COSMAP による焼入れシミュレー ションとの連携で計算した例を紹介する. リングモデルの高周波焼入れシミュレーション概要: 解析手法としては,電磁界・誘導加熱解析のプログラム JMAGを用いて加熱時の温度分布を計算し,新規で開発さ れたインタフェースの変換によって熱処理シミュレーシ ョンコード COMSAP に転送し,焼入れ時の温度場,相変態 および非弾性応力・ひずみの連成解析を行う. 加熱コイルのパラメータ=周波数50kHz,通電電流5kA;加熱時間=4sec;要 素数=73033,節点数=21753リングの内径=10mm,外径=30mm

Fig.3 FEM modeling by using of JMAG

Fig.4 Temperature distribution in heating process by using of JMAG

Fig.5 Temperature distribution during quenching process by using of COSMAP.

Input parameter Analysis of temperature field

Output of result Calculation of microstructure Analysis of stress/strain End of process No ti+1= ti+ t Yes

Analysis of C profile Analysis of N profile

Temperature

Metallic Structure

Stress/Strain Electro-Magnetic-thermo coupling analysis

Induction heat domain and boundary condition

(5)

Fig.6 Distribution of Martensite volume fraction and hardness by using of COSMAP

Fig.7 Residual stressσy in axial direction

Fig.8 Deformation of ring model after quenching by using of COSMAP 5 55 5 おわりにおわりに おわりにおわりに 本文は,熱処理シミュレーションの手法を熱処理プロ セスの実施と評価に応用するために,連続体熱力学の理 論に基づく変態・熱・力学の理論とシミュレーションに 組み込んだ連成解析手法を紹介した.特に,電磁界・誘 導加熱の解析プログラム JMAG と熱処理シミュレーション コード COSMAP の連携を用いる高周波焼入れシミュレーシ ョンの手法と解析事例を取り上げて説明している.実際 のさまざまな熱処理シミュレーションを行う場合,本文 に紹介した理論,有限要素法の定式化および連成解析の アルゴリズムがシミュレーションの実施および解析結果 に対する考察に寄与できれば幸いである. 謝辞: 本稿の高周波焼入れシミュレーション事例の解 析にあたり,株式会社 JSOL の橋本洋様,アイディアマッ プ(有)坂巻健男様と埼玉工業大学向井竜二博士のご協 力を頂きました.ここに感謝いたします. 参 参 参 参 考考考考 文文文文 献献献献

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