は じ め に 悪性黒色腫(メラノーマ)の診療に携わる者に とって,2014 年は記念すべき年となった.いや, がん診療に携わる者全体にとってのターニングポイ ントになったといっていいだろう.日本において免 疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1 抗体ニボ ルマブが世界に先駆けて承認されたのである.海外 に遅れること4 年を要したが,2015 年には同じく 免疫チェックポイント阻害剤である抗CTLA-4 抗体 イピリムマブも日本で使用可能となった.メラノー マの治療の基本は手術療法である.遠隔転移し手 術適応が無くなったメラノーマに対しては,40 年 間にわたって有効な治療はなかった.しかし,免疫 チェックポイント阻害剤の登場で状況は一変した. 免疫チェックポイント阻害剤は免疫抑制系を阻害 し,腫瘍免疫を活性化する薬剤であるが,免疫療法 として初めて大規模ランダム化試験でその有効性を 証明した1).その作用メカニズムは完全に解明され たわけではないが,次のように考えられている2). キラーT 細胞が腫瘍を殺傷するには,樹状細胞に よってエフェクターT 細胞になることが必須である が,その際MHC クラス I と T 細胞レセプターを介 したファーストシグナルに加えて,B7 と CD28 を 介したセカンドシグナルが必要である.このときに T 細胞に発現し,CD28 と競合阻害する免疫チェッ クポイント分子がCTLA-4 である.この免疫抑制シ グナルをブロックするのが,抗CTLA-4 抗体イピ リムマブである.CTLA-4 については制御性 T 細胞 (Treg)にも発現しているため,抗腫瘍効果発現メ 総 説
免疫チェックポイント阻害剤による有害事象
福 島 聡
A review of adverse events caused by immune checkpoint inhibitors
Satoshi Fukushima
Department of Dermatology and Plastic Surgery, Faculty of Life Sciences, Kumamoto University (Accepted January 12, 2016)
summary
There has been no effective therapy in the unresectable melanoma for more than 40 years. Anti-PD-1 antibody and anti- CTLA-4 antibody have totally changed the situation. They have clearly shown the survival benefits of the patients with meta-static melanoma. However, immune checkpoint inhibitors sometimes induce various kinds of immune-related adverse events (irAEs). It is very important for the clinicians to know the reported cases of irAEs and to keep in mind the symptoms of irAEs for the early detection. This review describes the previously reported irAEs and adequate managements for irAEs induced by immune checkpoint inhibitors.
Key words immune checkpoint inhibitors; immunotherapy; adverse events; melanoma
抄 録 切除不能メラノーマに対しては,40 年間にわたって有効な治療はなかった.しかし,抗 PD-1 抗体ニボルマブや 抗CTLA-4 抗体イピリムマブといった免疫チェックポイント阻害剤の登場で状況は一変した.免疫チェックポイン ト阻害剤は免疫抑制系を阻害し,腫瘍免疫を活性化する薬剤であるが,免疫療法として初めて大規模ランダム化 試験でその有効性を証明した.夢の新薬である免疫チェックポイント阻害剤であるが,種々の免疫関連有害事象 (irAE)が起きる.免疫チェックポイント阻害の時代においては,これまでにどのような irAE が報告されており, どのような徴候に留意してフォローすべきかを頭に入れておくことは,臨床家にとって非常に重要である.irAE について概説し,皮膚,消化管,肝臓,肺など項目ごとに既報を紹介し,免疫チェックポイント阻害剤使用におけ る注意点をまとめる. 熊本大学大学院生命科学研究部皮膚病態治療再建学分野
カニズムには,Treg の抑制も想定されている.一 方,腫瘍は免疫チェックポイント分子であるPD-1 のリガンドであるPD-L1 を発現しており,エフェ クターT 細胞を抑制する.この経路を阻害するの が抗PD-1 抗体ニボルマブである.つまり,これら 2 剤の作用点は異なると考えられており,臨床治験 でも併用療法が単剤に比べてより有効であることが 示されている3).アメリカではすでに併用療法が承 認されているが,現時点ではまだ日本では認められ ていない.有効性が増すため将来的には国内での承 認も予想されるが,副作用も増強するため注意が必 要である.BRAF 遺伝子変異陽性の切除不能メラノー マに対しては,BRAF 阻害剤や MEK 阻害剤といっ た,シグナル阻害剤も臨床の現場に用いられる.シ グナル阻害剤は約50%と高い奏効率を持つが,そ の効果は数ヶ月で耐性を生じることが多い点が問題 となっている.一方,免疫チェックポイント阻害剤 の奏功率はニボルマブが約30%,イピリムマブが 約20%とやや劣る.しかし,免疫療法の長所とし て長期生存患者が出ることが重要なポイントである. イピリムマブに関する合計1800 例以上の 12 試験を 統合解析した結果,3 年生存率は 21%で,その後生 存曲線はほぼプラトーになり,最大10 年生存が確 認されている4).2015 年 12 月,日本でもついにニ ボルマブは非小細胞肺癌(扁平上皮癌と非扁平上皮 癌)に対しても承認された.現在その他様々な癌腫 で治験が進行中であり,数年以内に,各癌腫の診療 アルゴリズムが一変すると予想される. 夢の新薬である免疫チェックポイント阻害剤であ るが,当然副作用が存在する.そもそも前述のよう な免疫抑制システムは,自己免疫疾患をヒトが発症 しないようにするために必要不可欠なものである. むしろ免疫学者であれば,免疫チェックポイントを 阻害するなどという乱暴なことを,マウスでは可能 でも,本当にヒトでやって大丈夫なのか,と開発当 初考えたのではなかろうか.実際,免疫チェックポ イント阻害剤を使用した患者に種々の免疫関連有害 事象(immune-related adverse event(irAE))が起き る.間質性肺炎や重症筋無力症などでの死亡例も報 告されている.免疫チェックポイント阻害の時代に おいて,これまでにどのようなirAE が報告されて おり,どのような徴候に留意してフォローをしない といけないか.これは臨床家にとって非常に重要な ことである.本稿では,既報を紹介し,免疫チェッ クポイント阻害剤使用における注意点をまとめる. がん診療の大きな進歩を副作用マネージメントの失 敗によって後退させてはならないのである. 有害事象の種類と頻度 はじめに,イピリムマブとニボルマブに関する 副作用報告の概要を説明する.これまでにおこ なわれた複数の大規模治験データから,各臓器別 の Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE)グレード 3 あるいは 4 といった重症の irAE をまとめた論文から引用した表を示す5)(表1 ). irAE が発生する臓器で頻度が高いのは,皮膚,腸 管,内分泌,肝臓である.そのほか比較的頻度は低 いながら,重大な副作用として挙げられるのが,肺, 腎,神経筋疾患等である.このあとそれぞれについ て項目ごとに述べる.総じて,ニボルマブ,イピリ ムマブそれぞれの単剤による副作用よりも,併用時 に発生率が上がっているのがわかる.しかし,その 傾向は若干臓器ごとに異なるようである.例えば, CheckMate067 試験において,すべてのグレード合 わせた肝障害の発生率は,ニボルマブ単剤群で6.4 %,イピリムマブ単剤群で7.1%,ニボルマブとイ ピリムマブの併用群で30.0%と記載されている. グレード3 あるいは 4 といった重症の肝障害にな ると,ニボルマブ単剤群2.6%,イピリムマブ単剤 群1.6%に比較し,併用群で 18.8%とかなりリスク が増加している.一方,皮膚障害はすべてのグレー ド全体での皮膚障害は,ニボルマブ単剤群,イピリ ムマブ単剤群,ニボルマブとイピリムマブの併用群 でそれぞれ以下の通りである.そう痒(18.8, 35.4, 33.2%),紅斑(21,7, 20.9, 28.4%),紅斑丘疹型薬疹 (0.3, 11.9, 11.8%),白斑(7.3, 3.9, 6.7%).これがグ レード3 あるいは 4 といった重症の皮膚障害になる と,併用群で5.8%,ニボルマブ単剤群で 1.6%,イ ピリムマブ単剤群2.9%とそれほど併用によっても リスクが増加していない. 有害事象への対応 irAE に対するマネージメントの基本原則は irAE を早期に認識し,重症度に準じて適切な免疫抑制療 法を行うことである.2011 年から 2013 年までにイ ピリムマブ単剤で治療された患者298 人についての 副作用をまとめた論文では,254 人(85%)でなん らかのirAE を認めたと報告されている6).その内 46 人(19%)で治療中断に至り,最も多かったの は下痢であった.103 人(35%)が irAE のために,
ステロイドの全身投与が必要で,29 人(10%)で はTNFα 阻害剤インフリキシマブが必要であった報 告している.まだ論文化はされていないが,Baurain JF らは,2012 年のアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO) で,イピリムマブによる治療効果は有害事象に対す るステロイド使用の影響をうけないことを報告して いる.同様にWeber JS は 2015 年の ASCO で複数の ニボルマブ単剤試験を用いた統合解析で,ステロイ ド使用の有無で有効性には影響ないと報告してい る.一方,115 人にイピリムマブで治療する際に, ステロイドの全身投与を予防的に施行した論文で は,ステロイドとプラセボの盲検試験において,副 作用の発現もイピリムマブの有効性も差がなかった と報告されている7).つまり,irAE に対するマネー ジメントについて肝要なのは,irAE を想定してお いて早期発見し,重症度に準じて遅滞なく免疫抑制 療法を導入することである8).各種有害事象に対す る対応アルゴリズムは,抗CTLA-4 抗体イピリムマ ブ(ヤーボイ®)や抗PD-1 抗体ニボルマブ(オプ ジーボ®)の適正使用ガイドに記されているが,以 下に各種irAE についてその要点や注意点について 解説する.頻度の多いのは,皮膚障害,消化管障害, 肝障害,内分泌障害である.そして頻度は低いが重 篤な合併症である間質性肺炎,神経障害,筋障害に ついても後述する. 皮 膚 障 害 紅斑,そう痒といった皮膚障害は,抗CTLA-4 抗体であるイピリムマブで治療をうけた患者の約 50%に生ずる8, 9).中等症から生命を脅かすような 重症薬疹を発症するタイミングは,Hodi らの第 III 相試験では,3 週から 17 週であると報告されてい る1).多くの場合紅斑の程度は軽症であり.スティー ブンスジョンション症候群や中毒性表皮壊死症と いった重症薬疹は1 %未満である1, 10).一方,抗 PD-1 抗体による皮膚障害のデータとしては,すべ てのグレードを合わせると,37.4%となる9, 11−14). 軽症から中等症(CTCAE グレード 1,2)の皮膚 障害としては,紅斑丘疹型の皮疹が体表面積の10− 30%と定義されており,そう痒を伴う場合と伴わな い場合がある.この場合,ステロイド外用で十分で あり,免疫チェックポイント阻害剤を中止する必要 はない.症状が1 週間を超えて持続するときは,経 口プレドニゾロン0.5~ 1 mg/kg/day の投与が推奨さ れている.体表面積の30%を超えた場合や,粘膜 疹が出現した場合はグレード3 となり,必ず皮膚科 医にコンサルトしなければならず,皮膚生検を施行 する.免疫チェックポイント阻害剤投与は延期とし, 高用量ステロイドの静脈投与1 ~ 2 mg/kg/day を要 する.症状が消失してもステロイドは一ヶ月以上か け漸減することが重要である.ICU での全身管理が 必要なグレード4 の皮膚障害をおこした患者に投与 中の免疫チェックポイント阻害剤は中止となる. 皮膚障害の一つに白斑があるが,一度生じると永 続することが多い.白斑が生じたときに免疫チェッ クポイント阻害剤を中止する必要は全くない.むし ろ,メラノーマ患者においては,メラノサイト特異 抗原に対して免疫が成立したことを示していると考 える.実際,白斑の出現は免疫療法を受けた患者の 長期生存の明らかな指標となり得ることが,メタア ナリシスで示されている15). 自己免疫性腸炎 下痢や腸炎は,イピリムマブ開始後6 週間前後 で出現してくることが多い8).第III 層試験で抗 CTLA-4 抗体イピリムマブの投与をうけた 511 人の 患者のうち,全グレードを合わせると約30%に下 痢が生じた1, 10).グレード3 − 4 の下痢に至るのは約 表1 進行期メラノーマに対する臨床試験(CheckMate 試験)における グレード3 − 4 の免疫関連有害事象(irAE)の出現頻度(%)
CheckMate 037 CheckMate 066 CheckMate 069 CheckMate 067
ニボルマブ (n = 268) (n = 102)ICC ニボルマブ(n = 206) ダカルバジン(n = 205) ニボ+イピ(n = 94) イピリムマブ(n = 46) ニボ+イピ(n = 313) (n = 313)ニボルマブ イピリムマブ(n = 311) 皮膚 消化管 内分泌 肝 肺 腎 投与時反応 0.4 1.1 0 0.7 0 0.4 0.4 0 2 0 0 0 0 0 1.5 1.5 1 1.5 0 0.5 NR 0 0.5 0 1 0 0 NR 9.6 21.3 5.3 14.9 2.1 1.1 NR 0 10.9 4.3 0 2.2 0 NR 5.8 14.7 4.8 18.8 1 1.9 NR 1.6 2.2 0.6 2.6 0.3 0.3 NR 2.9 11.6 2.3 1.6 0.3 0.3 NR ICC; investigator’s choice of chemotherapy(ダカルバジンあるいはカルボプラチン+パクリタキセル),NR; none reported. 文献 5 より引用,一部改変.
10%である.511 人のうち,26 例( 5 %)が重篤な 大腸炎で入院加療を要し,5 例( 1 %)に消化管穿 孔が生じ,4 例(0.8%)が合併症で死亡している. 一方,抗PD-1 抗体では,抗 CTLA-4 抗体に比べて 自己免疫性腸炎の発症は少なく,ステロイドの全身 投与を要した症例は,1 − 2 %である11−14).興味深 いことに,抗CTLA-4 抗体で重篤な下痢や大腸炎を おこした患者が,その後抗PD-1 抗体で治療された 場合,下痢や大腸炎を発症しなかったことが報告さ れている11, 13).免疫チェックポイント阻害剤でirAE をおこした患者が,もう一方の免疫チェックポイン ト阻害剤を安全に使用できるかという問いは,実臨 床では十分遭遇し得るものである.その答えについ ては,今後の症例の蓄積が必要である. 自己免疫性腸炎の副作用マネージメントにおい て,最も重要な点は,下痢の回数をモニタリングす ることである.下痢の回数がベースラインに比べて, 4 回未満⊘日の増加のときはグレード 1 と判断し経 過観察であるが,このとき下痢の回数をモニタリン グし,悪化した場合はすぐに担当医に知らせるよう に患者に伝えておくことが大切である.クロストリ ジウムの検査など,下痢の鑑別診断を施行する必要 があるが,決してロペラミドなどの止痢剤を安易に 使用しない.有害事象の評価を誤らせるからであ る.ベースラインに比較して4 − 6 回の排便数増加, 腹痛,粘血便などがあればグレード2 であり,免疫 チェックポイント阻害剤投与は延期,そのまま回復 すれば再開であるが,症状が継続するときは,経口 プレドニゾロン0.5~ 1 mg/kg/day の投与が必要で ある.可能であれば内視鏡検査にて所見を確認すべ きである.下痢の回数が7 回以上増えたときは,グ レード3 以上が確定であり,イレウスや消化管穿孔 の危険がでてくる.投与中の免疫チェックポイント 阻害剤は中止,高用量ステロイドの静脈投与1 ~ 2 mg/kg/day を要する.症状が 3 − 5 日間を超えて持 続,あるいは症状改善後に再発したときは,インフ リキシマブ5 mg/kg を 1 回投与する.さらに重症の 場合は2 週間後にインフリキシマブを再度追加投与 する.上述した通り,イピリムマブで治療された 約10%の症例でインフリキシマブが必要であった という報告もある6).ところが,インフリキシマブ の国内承認された適応疾患は,関節リウマチ,ベー チェット病,乾癬,強直性脊椎炎,クローン病だけ である.免疫チェックポイント阻害剤の副作用とい う適応はない点を危惧されている読者もいるかと思 われる.しかし,海外治験の膨大なデータから,免 疫チェックポイント阻害剤の副作用として,ステロ イドだけではコントロールし得ない自己免疫性腸炎 があることは明らかであり,副作用対応アルゴリズ ムにのっとり,躊躇なくインフリキシマブを使用す べきである.そして保険審査に対しては,傷病詳記 で正々堂々と救命のために必要不可欠な適応外使用 である旨を説明すべきである.それで査定されるこ とはないと考えているが,万が一査定されるときは, 学会をあげて要望を提出すべきであろう.また,そ のようなことがないように1 日も早く,免疫チェッ クポイント阻害剤による自己免疫性腸炎に対するイ ンフリキシマブの使用,および後述する肝障害に対 するミコフェノール酸モフェチル(MMF)の使用 が認められることを期待したい. 自己免疫性肝炎 抗CTLA-4 抗体と抗 PD-1 抗体の両者ともに投与 開始から約8 −12 週後に肝酵素の上昇をみることが ある8).イピリムマブの治験時データで,グレード2 の肝障害の出現頻度は2.5%で,グレード 3 − 5 は 2 %であった1).抗PD-1 抗体による自己免疫性肝 炎の出現頻度は,複数の臨床試験において5 %と報 告されておりほぼ同等の頻度といえる9, 11−14).免疫 チェックポイント阻害剤投与中に肝酵素が上昇して きたときは,当然,自己免疫性以外の原因を鑑別す る必要がある.感染症の除外のために,各種採血. 肝転移の除外のために,CT が必要である.AST ま たはALT の基準上限値の 2.5 倍,あるいは総ビリル ビンの基準上限値の1.5 倍までの肝障害はグレード 1 とされ,免疫チェックポイント阻害剤は継続し, モニタリングを頻回に行う.AST または ALT の基 準上限値の2.5−5.0 倍,あるいは総ビリルビンの基 準上限値の1.5−3.0 倍までの肝障害はグレード 2 で あり,免疫チェックポイント阻害剤投与は延期,精 査を行う.高値が1 週間をこえて持続するときは, 経口プレドニゾロン0.5~ 1 mg/kg/day の投与を検討 する.問題は,AST または ALT の基準上限値の 5.0 倍以上,あるいは総ビリルビンの基準上限値の3 倍 以上のグレード3 − 4 の肝障害の場合である.もち ろん,投与中の免疫チェックポイント阻害剤は中止, 高用量ステロイドの静脈投与1 ~ 2 mg/kg/day で対 応する.これでも,臨床検査値が3 − 5 日こえても 軽快しないときは,躊躇なくMMF 1 g を 1 日 2 回 投与する.さらにそれでも軽快しないときは,他の
免疫抑制剤投与も検討すべし,とされている.前述 した腸炎に対するインフリキシマブと同様に,MMF にも当然,免疫チェックポイント阻害剤による肝障 害という保険適応はない.とくにMMF は,臓器移 植患者にしか適応がないため,保険審査で問題にな ることがあるかもしれない.しかし,イピリムマブ (ヤーボイ®)とニボルマブ(オプジーボ®)の両者 の適正使用ガイドに,MMF の必要性は明記されて いるので,必要な状況では躊躇なく,使用すること が死亡例を発生させないポイントとなる.ちなみに, 国内のイピリムマブの開発段階で,化学療法である ダカルバジンとの併用療法の治験が行われたが,肝 障害が80%に出現し,臨床試験が中止された経緯 がある.厳に安易な併用療法は慎むべきである16). 内分泌障害 自 己 免 疫 性 の 内 分 泌 障 害 が 生 じ う る が, 抗 CTLA-4 でも抗 PD-1 抗体でも約 10%未満の頻度と 報告されている1, 9, 11−14).しかし,内分泌障害の症状 は脳転移や敗血症,疾患の進行による症状と似てい るため,実際よりも低い頻度でしか認識されていな い可能性がある8).多いのは下垂体炎と甲状腺炎で ある.免疫チェックポイント阻害剤投与前に甲状腺 機能を測定することは必須であり,投与後内分泌障 害を疑ったら,コルチゾール,ACTH,LH,FSH, GH,プロラクチン,テストステロンなどを適宜測 定する.下垂体炎の症状は倦怠感,頭痛,視野欠損 などである.MRI で下垂体の腫脹を認めることが あるので診断に有用である.症候性の下垂体炎では, 免疫チェックポイント阻害剤の投与は延期,内分泌 内科医コンサルトの上,高用量ステロイドの静脈投 与1 ~ 2 mg/kg/day および適切なホルモン補充療法 で対応する. 甲状腺炎による甲状腺機能低下症は,抗CTLA-4 抗体による治療を受けた患者では2 %に生じるが, 抗PD-1 抗体では 8.3%にのぼる.発症する時期と しては,1 週目から,19ヶ月目とかなり幅広い.甲 状腺炎であれば,free T4 が低下し,反応性に TSH は上昇する.一方,下垂体炎の場合は,TSH も free T4 いずれもが低下する.このとき甲状腺ホルモン は補充すればよいので,免疫チェックポイント阻害 剤を中止する必要はない.一過性に急性の甲状腺炎 をおこし,甲状腺ホルモン値が上昇することもあり, 症候性の患者では高用量のステロイドが必要となる. 多くの場合は,その後甲状腺機能低下に陥り,長期 にわたってホルモン補充療法が必要となる. 頻度の低い合併症として副腎クリーゼがあるが生 命を脅かす重大な病態である.脱水や敗血症の除外 が必要であるが,常に副腎不全の可能性を念頭に置 いておくことが重要である.クリーゼではないが, 筆者もすでに抗PD-1 抗体による副腎不全を 2 例経 験している.いずれの症例も強い倦怠感が主訴で あった.コルチゾールやACTH を測定すればすぐ にわかるが,「担癌状態なのだから当然,倦怠感は ある」などと見過ごされやすいと思われる.副腎皮 質ホルモンの補充によりコントロールされるが,日 常生活の負荷によって調整が必要である.また不可 逆的な変化で生涯にわたって補充が必要であるた め,患者のQOL を大きく落とす重篤な副作用とい える. 間質性肺炎 抗CTLA-4 抗体と抗 PD-1 抗体いずれにおいても, 間質性肺炎は起こりうる1, 8−12, 14).他のirAE と同じ く,間質性肺炎の症状も非特異的である.したがっ て,免疫チェックポイント阻害剤で治療中に生じた 咳嗽や呼吸困難では,CT を取ることが重要である. ステロイドを投与する前に感染症などの除外のた めに,気管支内視鏡を施行してもよい.抗PD-1 抗 体によって引き起こされたグレード3 − 4 の間質性 肺炎の発生率は,1 %未満である.411 人が治療さ れた抗PD-1 抗体ペンブロリツマブの臨床試験デー タによると,間質性肺炎が生じる時期の平均は5 ヶ 月とかなり遅い.多くの場合は高用量ステロイドに てコントロールされるが,死亡例も報告されてい る11, 12).軽度の新たな症状を呈するグレード2 の肺 関連有害事象の場合は,免疫チェックポイント阻害 剤を延期し,呼吸器科専門医へのコンサルト及び入 院を検討する.そして高用量ステロイドの静脈投与 1mg/kg/day を投与する.低酸素症,生命を脅かす重 度の症状が出現した場合は,グレード3 − 4 となり, 2 − 4 mg/kg/day を投与.48 時間を超えて改善しな い場合は,インフリキシマブ,サイクロフォスファ ミド,静注免疫グロブリン,MMF の追加を検討す る.実臨床では,冬季などは特に感冒による咳嗽な どとの鑑別は非常に難しい.患者が咳嗽を感冒と軽 く考え,近医を受診し通常の感冒として対応された 場合,間質性肺炎の治療が遅れ,致死的となってし まう可能性がある.日頃から患者に咳嗽がでたら, かならず自院の救急外来を訪れるように教育してお
くこと,また自院スタッフにも,免疫チェックポイ ント阻害剤治療中に咳嗽を訴える患者が来院した ら,対症療法のみで帰宅させず,CT 撮影を躊躇し ないように,と周知しておくことが重要である.ま た,免疫チェックポイント阻害剤で治療中の患者の 肺転移の周囲に間質影を認めることもときに経験さ れる.腫瘍に対する免疫反応が関係しているのかも しれないが,今後,肺癌でも免疫チェックポイント 阻害剤が使用されることを考えると,注意すべき合 併症であると思われる. 重症筋無力症 稀ではあるが,重篤な有害事象として,重症筋無 力症がある17, 18).筆者も1 例経験したが,ICU で 数ヶ月での全身管理を有した.信州大の症例では, 抗アセチルコリンレセプター抗体が免疫チェックポ イント阻害剤投与前の保存血清を用いたレトロスペ クティブな測定で低値ながらすでに陽性であったこ とが報告されている18).高齢者では,無症候性に抗 アセチルコリンレセプター抗体がある頻度で陽性で ある,との報告もあり,その臨床的意義については, 今後検証が必要である19).現状では,筆者は必ず免 疫チェックポイント阻害剤投与前のスクリーニング で抗アセチルコリンレセプター抗体も検索している. その他の稀な有害事象 腎炎,無症候性の膵酵素上昇(アミラーゼ,リ パーゼ),眼合併症(上強膜炎,結膜炎,ぶどう膜 炎),貧血,ギランバレー症候群,可逆性後頭葉白 質脳症,無菌性髄膜炎,横断性脊髄炎などがある. infusion reaction は,表 1 にある通り極めて稀であ る.イピリムマブにおいて,海外治験データで151 例のうち過敏症が1 例(0.7%),注入に伴う反応 1 例(0.7%)報告されている. お わ り に 免疫チェックポイント阻害剤はがん診療を大きく 変える薬剤であることは疑いようがない.しかし, その強い効果と引き換えに,これまでの薬物療法と は全く異なるirAE の対処法に我々が習熟する必要 がある.日本では腫瘍内科医はまだ少なく,外科医 が薬物療法を行うことも少なくない.筆者自身がメ ラノーマの手術をするとともに,薬物療法を行って おり,その文化を否定するつもりは毛頭ない.しか し,免疫チェックポイント阻害剤で生じるirAE の コントロールはまさに,自己免疫疾患の治療,すな わち膠原病リウマチ内科医が通常行なっているよう な治療である.各臓器の専門医同士が院内で密接な コミュニケーションをとり,チーム医療を行うこと が大切であり,また,免疫チェックポイント阻害剤 を投与する医師は,免疫抑制療法にも精通していな ければならないのである. 文 献
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