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(1)

オペラント条件づけ場面におけるレバー押し持続時 間の分化強化に伴う反応潜時および反応位置の変化

著者 青山 謙二郎

雑誌名 人文學

号 180

ページ 1‑15

発行年 2007‑03‑20

権利 同志社大学人文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011077

(2)

オペラント条件づけ場面における レバー押し持続時間の

分化強化に伴う反応潜時 および反応位置の変化

青 山 謙 二 郎

本研究の目的は,分化強化(differential reinforcement)のメカニズムを 探ることである。反応には潜時,強度,持続時間など多数の特性が存在す るが,分化強化とはある特性を基準として強化を与える手続きを言う。例 えば,反応の持続時間を基準とし,ある値より長い場合には強化を与え,

その値より短い場合には強化を与えないといった手続きがこれにあたる。

このような場合,長い持続時間の反応の出現率が増加するが,潜時や強度 などには通常は一貫した変化は生じない。このように,ある特性を基準と する強化の結果,その特性の値が変化した場合に,分化強化が生じたと言 う。

動物がオペラント箱でレバー押しやキーつつき等の反応を行うという典 型的なオペラント条件づけの場面では,反応の潜時あるいは反応間間隔の 分化強化が代表的であり,非常に数多くの研究がなされている(例えば

Kramer & Rilling, 1970)。他にも,反応強度(例えば Fowler & Notterman, 1974),反応持続時間(例えば平芳・中島,2003 ; Platt, Kuch, & Bitgood, 1973 ; Senkowski, Voge, & Pozulp, 1978)

,さらには反応の変動性(例えば

Page & Neuringer, 1985;山岸,1998)など,多くの特性に関して分化強化

(192) 1

(3)

が生じることが知られている。また,反応の位置(例えば左右のレバーの 位置)も,分化強化と呼ばれることは少ないが,強化頻度に応じて反応の 左右への割り振りが異なることから,実際には分化強化が成立していると 見なすことができよう。本研究は,このような分化強化がいかにして生じ るか,特に,強化の基準となる特性の値のみが選択的に影響される仕組み について検討することを目的とする。

強化が依存する特性の値のみが選択的に変化する原因に関する直感的な 仮説は,動物は強化がある特性にのみ依存し,他の特性には依存しないこ とを弁別し,強化が依存する特性の値のみを変容させるという考えであ る。例えば,反応の持続時間のみに強化が依存し,潜時や位置には依存し ないことを弁別した結果,反応持続時間の値のみを変容させるというよう な考えである。以降このような考えを弁別説と呼ぶ。

これに対して,McSweeney & Aoyama(2001)は,別の仮説を提唱し た。この仮説は,オペラント条件づけ,進化,免疫系に関する選択(selec-

tion)の共通性について論じた Hull, Langman, & Glenn(2001)の論文に

対するコメントとして,彼らの考えを発展させて述べられたもので,「強 化された反応の,強化に敏感な全ての特性の値は,次の反応で再現される 確率が高まる」というものである。仮説の最大の特色は,「全ての特性」

が強化により変化すると仮定することである。すなわち,「強化が依存す る特性」だけでなく「強化が依存しない特性」も同様に,強化によって出 現する確率が高まると考えている。以降,この仮説を無弁別説と呼ぶ。一 見,強化が依存する特性に関する弁別が生じていない場合には分化強化は 生じないように思われるが,実は反応に一定の変動性が存在する(Hull et

al., 2001)ことをモデルに組み込むことにより,無弁別説によっても分化

強化が生じることが説明しうる。

このことを模式的な反応系列を示した図

1

を用いて解説する。仮に今,

2 (191) レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化

(4)

持続時間に強化が依存し,長い持続時間の反応に対して分化強化がなされ たとする。第

n

反応の持続時間が短かった場合にはその反応は強化され ない。その場合,次の第

n+1

反応では,持続時間だけでなく,強化が依 存しない特性である潜時についても,第

n

反応とは異なる値をとる確率 が高まる(ただし,値がどの方向に変化するかについては特別な仮定をお かない)。仮に,次の第

n+1

反応で,反応持続時間が長く変化し,それ によって強化された場合,長い持続時間だけでなく,(偶然)短かった潜 時も,再現される確率が高まる。そして,次の

n+2

反応でも,長い持続 時間と短い潜時が再現され,その反応も強化されるため,さらに次の反応 でも長い持続時間と短い潜時が再現される確率が高まる。ただし,反応に は変動性が存在するため,必ずしも再現されるとは限らない。仮に第

n+

3

反応で,その直前の反応では長い持続時間の反応が強化されたにもかか わらず,反応の変動性により中程度の持続時間と短い潜時となった場合,

強化されず,したがって次の反応(第

n+4

反応)では,これらとは異な る値が出現することになる。そして,仮に第

n+4

反応で短い持続時間と 中程度の潜時となった場合には,強化されず,したがって次の反応(第

n

+5反応)ではこれらとは異なる値 となる。そして仮に,第

n+5

反応 では長い持続時間と長い潜時となっ た場合には強化され,それらと同じ 値の出現確率が高まる。第

n+6

反 応でも長い持続時間と長い潜時とな った場合には再び強化される。仮 に,第

n+7

反応では持続時間が長 いままだが,潜時が中程度に変化し た場合には,やはり強化され,次の

図1 模式的な反応系列。斜め文字の 部分は,反応の変動性により,

強化の後にもかかわらず値が変 化したことを表す。囲われた部 分は強化された反応の特性値を 表す。

レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化 (190) 3

(5)

反応(第

n+8

反応)では,今度は長い持続時間と中程度の潜時が出現す る確率が高まっている。そして,そのような反応が出現した場合,やはり 強化されるのである。

このように,強化のたびに,その反応の全ての特性の値が再現される確 率が高まるとしても,強化が依存する特性(例では持続時間)は,特定の 値(例では長い持続時間)のみが強化を繰り返されるため,その特性の値 は一定の方向に収束する(すなわち,長い持続時間の反応の出現頻度が高 まる)。一方,強化が依存しない特性(例では潜時)は,様々な特性の値 が同等に強化されるため(例では短い潜時でも長い潜時でも強化確率は同 程度であるため),その特性の値は一定の方向には収束しない(すなわ ち,潜時はさまざまな長さが出現し続ける)。このようにして,無弁別説 によっても選択的な分化強化が生じることが説明できる。

弁別説でも無弁別説でも分化強化が生じることが説明できる。逆に言え ば,平均値や出現頻度といった従来の指標を用いている限り,例えば反応 の持続時間の平均値は長くなるが潜時の平均値は一貫した変化を示さない といった結果が,両方の説から予測され,仮説間の優劣を検討することが できない。そこで本研究では,これらの説のどちらが正しいのかを調べる ために,従来とは異なる指標を求めた。それは,強化の前後での特性値の 類似性である。

弁別説と無弁別説の予測を,図

2

を用いて説明する。弁別説では,例え ば持続時間が長く潜時が中程度の反応が強化された場合,強化が依存する 持続時間に関してのみ同じような値の反応が出現する確率が高まると考え る。逆に言えば,強化が依存しない特性である潜時に関しては,強化によ って同じような値の反応が出現する確率が高まるとは考えない。したがっ て,強化の前後では強化が依存する特性のみが類似すると予測される。一 方,無弁別説では,強化が依存する特性も依存しない特性も同様に,強化 4 (189) レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化

(6)

によって同じような値を有する反応 の出現確率が高まると考える。した がって,強化の前後では,強化が依 存する特性も依存しない特性も類似 すると予測される。

今回の研究では,弁別説と無弁別 説の優劣を調べることを目的とし,

反応の持続時間に強化を依存させ,

その値を計測するとともに,強化が依存しない特性として反応の潜時と反 応の位置(左右のレバーの位置)を計測する。そして,強化の前後の反応 の値の類似性を,相関を算出することにより検討する。なお,今回は持続 時間がある値より長ければ強化が与えられ,その値より短ければ強化を与 えないという通常の分化強化ではなく,持続時間が長いほど強化確率が高 くなるという確率的な分化強化を用いた。その理由は,通常の分化強化で は,反応が基準値の付近に集中するため,反応の分散が極度に小さくな り,相関を算出することが困難になると予測されたためである。

方 法

被験体

実験経験の無い

Wistar

系雄アルビノラット

4

匹を用いた。実験開始時

の体重は

296−319 g

であった。自由摂食時体重の

85% に減量,維持した。

装置

Med

社製のオペラント箱を用いた。前面パネルの中央にノーズポーク 反応用の穴,その左右に格納式レバー,ノーズポーク反応用の穴の下に餌 皿が備えられていた。装置の大きさは幅

24.0 cm,奥行き 31.0 cm,高さ

図2 類似性に関する弁別説と無弁別

説の予測

レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化 (188) 5

(7)

21.0 cm

であった。レバーは幅

4.5 cm,厚さ 0.1 cm

で,挿入された際の長

さは

1.8 cm

であった。レバーは左右の側壁から

1.0 cm,床から 7.0 cm

高さにあった。ノーズポーク用の穴は,直径が

2.5 cm

で,床から

10.0 cm

の高さに設置されていた。前面パネル中央の床から

0.5 cm

の高さに,幅

5.0 cm,高さ 4.5 cm

の長方形の穴があり,その奥に餌皿が設置されてい

た。背面中央の天井から

2.0 cm

下の高さにケージ内照明用のライト(24

V)が設置されていた。報酬には 45 mg

の餌ペレット(Noyes社

Formula

A)を用いた。

手続き

最初にノーズポーク(鼻突き)反応を,続けて左右のレバーを押す反応 を逐次的接近法により訓練した。次に,ノーズポーク反応の後にレバー押 し反応をすれば餌ペレットが与えられる反応連鎖の訓練を行った。ここま で反応のたびに餌ペレットを与えた。

最後にテストを

12

日間行った。テストではノーズポーク反応用の穴の 奥のランプが点灯することにより試行が開始された。点灯後の最初のノー ズポーク反応により左右のレバーが装置内に挿入され,ノーズポーク反応 用の穴の奥のランプは消灯された。ラットが左右どちらかのレバーを押し た時点から,レバー押し反応持続時間の計測が開始され,レバーを放した 時点でレバー押し反応終了とし,左右のレバーが格納され,後述するよう に反応持続時間に応じて強化が与えられた。その後

5

秒間の試行間間隔に 入った。試行間間隔後,再びノーズポーク反応用の穴のランプが点灯さ れ,次の試行に移った。このようにして

1

100

試行行った。

以下の

3

つの反応の特性を測定した。すなわち,漓レバーの挿入から押 すまでの時間(潜時),滷レバー押してから放すまでの時間(持続時間), 澆レバー押しの左右の位置(位置),の

3

つであった。

強化子の提示はレバー押し反応の持続時間にのみ依存し,反応の潜時,

6 (187) レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化

(8)

位置は無関係であった。すなわち,反応持続時間の分化強化を行った。持 続時間が高くなるにつれて,以下の

4

段階で強化確率(強化数/反応数)

が増加した。持続時間が

0.3

秒未満の時の強化確率は

20%,0.3

秒以上

0.6

秒未満の時は

40%, 0.6

秒以上

0.9

秒未満の時は

60%, 0.9

秒以上の時は

80

%であった。

分析の方針

ラット毎に

4

日間(計

400

試行)を

1

ブロックとして分析した。レバー 押し反応の潜時と持続時間については,平均値を算出した。また,レバー 押し反応の位置については,右への反応の比率を求めた。この比率はすべ ての反応が右に対してなされた場合に

1,左右に均等に反応がなされた場

合に

0.5,すべての反応が左になされた場合 0

となる。

さらに,反応の類似性の指標としては,潜時と持続時間については連続 する

2

反応間の相関を求めた。ただし,はずれ値の影響や分布のゆがみの 影響を考慮して,Spearmanの順位相関を求めた。相関は強化の前後と非 強化の前後で分けて分析した。例えば,図

3

のように第

n

反応,第

n+2

反応,第

n+3

反応が強化され,第

n+1

反応,第

n+4

反応,第

n+5

反 応が強化されなかった場合,強化の前後の相関とは,第

n

反応と第

n+1

反応,第

n+2

反応と第

n+3

反応,第

n+3

反応と第

n+4

反応という

3

図3 強化の前後および非強化の前後にわけての相関の算出

レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化 (186) 7

(9)

つの対を作り,その前者(すなわち強化された反応)と後者(強化の直後 の反応)の潜時や持続時間の相関を算出したものである。一方,非強化の 前後では,第

n+1

反応と第

n+2

反応,第

n+4

反応と第

n+5

反応,第

n+5

反応と第

n+6

反応,という

3

つの対を作り,その前者(すなわち強 化されなかった反応)と後者(非強化の直後の反応)の潜時や持続時間の 相関を算出した。実際にはこのような分析を,4日間

400

反応を

1

ブロッ クとして実施した。

無弁別説に基づけば,強化が依存した持続時間だけでなく,強化が依存 しなかった潜時についても強化の前後で,非強化の前後に比べて相関が高 くなると予測される。例えば,長い潜時の反応が強化された場合,実際に は潜時が長いことは強化に影響しないにもかかわらず,強化の直後の反応 では潜時が長くなる確率が高くなる。一方,短い潜時の反応が強化された 場合には,潜時は強化に影響しないにもかかわらず,強化の次の反応の潜 時が短くなる確率が高くなる。結果として,強化の前後では潜時に正の相 関が認められると予測される。一方,非強化の前後では関係が弱くなると 予測される。例えば,中程度の潜時の反応が強化されなかった場合,中程 度の潜時の反応の出現確率が低下するが,非強化の直後の反応における値 の変化の方向としては,潜時が長くなる場合と短くなる場合があり得る。

したがって,負の相関になるとまでは予測できないが,少なくとも強化の 前後に比べて相関が弱くなると予測される。

レバー押し反応の位置に関する類似性の指標としては,強化前後の反応 と非強化前後の反応とに分けて,位置の一致率を求めた。例えば,左レバ ーへの反応の直後の反応が左に対してなされた場合を一致,左レバーへの 反応の直後の反応が右に対してなされた場合を不一致と見なした。強化は 反応の位置には依存しないにも関わらず,無弁別説では,一致の占める割 合は,強化の前後で,非強化の前後に比べて高くなると予測される。

8 (185) レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化

(10)

結 果

4

上段に各ラットのレバー押し反応の持続時間および強化確率の推移 を,4日間(計

400

試行)毎に示した。中段には,レバー押し反応の潜時 の平均値の推移を,下段には右への反応の比率の推移も示した。強化が実 際に依存した反応の持続時間は,S 18をのぞく

3

匹のラットですべて増 加している。すなわち,これら

3

匹のラットについては,反応持続時間の 分化強化が成立した。それに伴い,S 18をのぞく

3

匹のラットでは強化 確率も増加した。強化が依存しない潜時については,S 23をのぞく

3

図4 各被験体の反応持続時間,強化確率(強化数/反応数),潜時,右側への 反応の比率(右側への反応数/全反応数)の4日ブロックごとの推移。

レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化 (184) 9

(11)

については減少する傾向が認められた。実際には潜時が短いほど強化確率 が増加するという関係は生じておらず,これは強化とは独立した反応の変 化である。反応の位置に関しては,S 18については左への反応が増加 し,S 19については右への反応が増加したが,残る

2

匹については,一 定の傾向は認められなかった。

5

上段には,持続時間の順位相関係数を強化の前後と非強化の前後と に分けて示した。したがって,縦軸は上にゆくほど類似性が高いことを意 味する(ただし相関係数なので順序尺度にすぎない)。強化が実際に依存 した持続時間については,S 19の最終

4

日間をのぞくすべての観測時点

図5 各被験体の反応持続時間(上段),潜時(中段)に関する順位相関係数の 推移,および反応の位置の一致率の推移。

10 (183)レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化

(12)

において,強化の前後で非強化の前後を上回る相関係数が示された。つま り,持続時間は強化の影響を受け,強化の直後には類似した値が再現され る確率が高まっていた。

5

中段には,強化が実際に依存しなかった潜時についての順位相関係 数の推移を示した。潜時についても,S 18の最初の

4

日間をのぞくすべ ての観測時点において,強化の前後において,非強化の前後に比べて高い 相関係数が示された。つまり,実際には強化に影響を与えない潜時も,強 化の影響を受け,強化の直後には類似した値が再現される確率が高まって いた。

5

の下段には,反応位置の一致率を強化の前後と非強化の前後に分け て示した。S 23の

5−8

日目の

4

日間をのぞくすべての観測時点におい て,強化の前後において,非強化の前後に比べて高い一致率が示された。

つまり,反応の位置も強化に影響を与えないが,強化の影響を受け,強化 の直後には同じ位置での反応が再現される確率が高まっていた。

考 察

本研究では持続時間の分化強化が概ね成立した。つまり,強化が依存す る特性(持続時間)の平均値は

4

匹中

3

匹のラットにおいて増加した。反 応の位置は一貫した変化を示さなかった。ただし,潜時は

1

匹を除いて短 くなって行く傾向が見られた。これは,学習が進むにしたがって,より時 間的コストの少ない反応が増加したと解釈できるであろう。また,持続時 間は増加したものの,その程度は顕著ではなかった。その理由は,今回の 分化強化の手続きが確率的なもので,短い持続時間であっても強化される 場合もあれば,長い持続時間であっても強化されない場合もあったことに よると考えられる。

レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化(182) 11

(13)

今回の研究の最も重要な発見は,連続する

2

反応間の特性値の類似性に 関するものである。強化が依存する特性である持続時間に関しては,強化 の前後で非強化の前後よりも高い相関がみられた。これは弁別説でも無弁 別でも予測された結果である。一方,強化が依存しない特性である潜時と 位置に関しても,強化の前後で非強化の前後よりも類似していた。これ は , 弁 別 説 の 予 測 に は 一 致 せ ず , 無 弁 別 説 (

McSweeney & Aoyama , 2001)の予測には一致する。したがって,本研究の結果は無弁別説を支持

するものと解釈できる。

オペラント反応の反応率はセッション内で安定して変化することが知ら れている(例えば,McSweeney, 1992)。特に強化頻度が高い場合には,反 応率はセッション内で一貫して低下する(例えば,Aoyama & McSweeney,

2001)

。反応率は単位時間当たりの反応数であるから,反応速度ととらえ

ることができ,今回測定した潜時と密接な関係にある。セッション内で安 定して潜時が変動する場合,セッションの始めの方の反応の対の潜時はと もに短く,後ろの方に進むにしたがって,反応の対の潜時はともに長くな るため,正の相関が現れる。ただし,この関係は強化の前後であるか非強 化の前後であるかによって変わらない。したがって,今回のような,強化 の前後で特に相関が高いという結果は,セッション内での変動からは説明 されない。

無弁別説および今回の研究に関する一つの疑問は,Hull et al.(2001)が すでに指摘しているように,「強化された反応の次の反応で生起確率が最 も高まっているか」というものである。強化の影響が最も強く現れるべき は次の反応であるという保証は必ずしも無い。しかし,実質的には直後の 反応での類似性を判定するのが最も純粋に効果を検討することができると 思われる。なぜなら,例えば強化された反応の

3

つ後の反応には,強化さ れた反応の次の反応に対する強化(あるいは非強化)と強化された反応の 12 (181)レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化

(14)

2

つ後の反応に対する強化(あるいは非強化)の影響も混入されているは ずだからである。例えば,図

3

の第

n

反応が(偶然)長い潜時で強化さ れた場合,その次の反応(第

n+1

反応)へは,第

n

反応より前の強化暦 に加えて,長い潜時の反応が強化された(第

n

反応)という経験を積ん だ状態が反映される。これに対して,第

n+3

反応には,第

n

反応より前 の強化暦と長い潜時の反応が強化された(第

n

反応)という経験に加え て,その後に長い潜時の反応が強化されず(第

n+1

反応),短い潜時の 反応が強化された(第

n+2

反応)という経験が反映されてくる。つま り,反応の直後でなくなるほど,当該の反応(ここでは第

n

反応)への 強化の影響には,当該の反応より後の反応への強化の影響が混入し,検出 が困難になると考えられる。したがって,今回のように直後の反応との類 似性を検討することが最も現実的と考えられるのである。

青山(2003)は,変動比率(variable ratio : VR)スケジュールと変動間 隔(variable interval : VI)スケジュールでの反 応 間 間 隔 (interresponse

time : IRT)の分析からも今回の研究と同様の結論を得ている。VR

スケ

ジュールでは

IRT

は強化にまったく関係しないが,VIスケジュールで は,実質的に

IRT

が長いほど強化確率が高くなるという関係がある。し たがって,IRTは

VR

において強化が依存しない特性であると言え,VI においては強化が依存する特性であると言えるが,その両方の強化スケジ ュールにおいて強化の前後の

IRT

に正の相関が認められた。つまり,今 回の実験のように,同じ条件の中で異なる特性を複数測定して強化が依存 する特性と依存しない特性をみた場合にも,青山(2003)のように異なる 条件(VRと

VI)において同じ特性(IRT)を測定して強化が依存する特

性と依存しない特性をみた場合にも,同様の結論が得られたのである。

本研究は,分化強化の仕組みを探ることを目的として実施し,分化強化 が成立している際にも,動物は反応のどの特性に強化が依存しているかを レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化(180) 13

(15)

弁別していない可能性を示唆した。つまり,強化が与えられた反応の全て の特性に関して,その特性の値の出現頻度を機械的に高めることで,結果 として強化が依存する特性の値のみが選択的に変容しうることが示され た。今回の研究では反応の持続時間にのみ強化が依存した。持続時間以外 の特性に強化が依存する場合にも,強化が依存しない特性の値の出現確率 が高まっているか否かを検討する必要がある。例えば,通常の並列

VI VI

強化スケジュールでは,反応の位置(例えば左右)に,確率的ではあるが 強化は依存する。その意味では今回と同様の分化強化になっており,した がって,強化の比率に対応させて反応を割り振るというマッチングの法則

(Herrnstein, 1961)も,実際には同様の仕組みで成立している可能性があ る。このように,分化強化の仕組みを探ることを通じて,多くの学習の現 象の解明につながる可能性が考えられる。

本研究は,2004年度同志社大学学術奨励研究の助成を受けた成果である。

引用文献

青山謙二郎(2003).VIとVRスケジュールにおける強化前後でのIRTの関係

(ラット)日本行動分析学会第21回年次大会発表論文集,72.

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14 (179)レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化

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レバー押し持続時間の分化強化に伴う反応潜時・位置の変化(178) 15

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