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<研究ノート>サステナブル成長企業としてのテスラ の研究

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<研究ノート>サステナブル成長企業としてのテスラ の研究

著者 竹原 正篤

出版者 法政大学人間環境学会

雑誌名 人間環境論集

巻 21

号 1

ページ 129‑157

発行年 2020‑10‑31

URL http://doi.org/10.15002/00023619

(2)

〈目 次〉

1.はじめに

2.イーロン・マスクの生い立ちとテスラの発展経緯 3.自動車業界を巡る環境変化とテスラ

4.EV の歴史と現在の評価 5.電動車市場の現況 6.テスラの経営戦略

7.テスラの業績と今後の見通し 8.テスラの ESG 経営

9.まとめ社会課題解決型のビジネスエコシステムの重要性

1.はじめに

 21 世紀に入り、企業は環境や社会に配慮した事業活動を行うことが従来 以上に求められるようになった。この動きは 2015 年に持続可能な開発目標

(Sustainable Development Goals, SDGs)(1)と地球温暖化対策に関するパリ協定(2)

が採択されてから一層加速している。このため企業経営者にとって、様々な社会 的責任を果たしながら、社会課題の解決にビジネスを通して取り組むことで企業

サステナブル成長企業としての テスラの研究

竹原 正篤 研究ノート

(3)

を持続的に成長させていくことが経営課題になった。

 このような中、社会課題の解決を経営理念や企業ミッションの中心に据えて成 長を実現する企業が国内外で増えてきた。本稿では社会課題の解決にビジネス として取り組み、業績も伸ばしている代表的な企業として米国のテスラ(Tesla、

以下テスラと表記)を分析した。

 テスラを CEO として経営しているのがイーロン・マスク(Elon Musk)であ る。マスクは現在、テスラとスペース X(SpaceX、以下スペース X と表記)と いう 2 つの会社を中心に経営しているが、いずれも地球温暖化という人類が地球 規模で直面する大きな課題の解決を企業ミッションの中心に据えて事業を展開し ている。このうちテスラでは、地球温暖化を食い止めるためには、地球上からガ ソリン車を早期になくしてしまう必要があるというマスクの強い思いを経営理念 に掲げ、電気自動車(Electric Vehicle、以下 EV と略す)の製造・販売や太陽 光発電システムの供給等の事業を大きく成長させている。

 テスラは、従来、参入障壁が高いといわれていた自動車業界に、EV 製造企業 として 2003 年に参入し、設立 7 年後の 2010 年には、米自動車メーカーとしては 1956 年のフォード以来 56 年ぶりとなる株式上場を果たした。そして現在、脱炭 素化の流れが急速に進む自動車業界の中において、同社は大きな影響力を持つに 至っている。図表 1 は、テスラの概要を米国の自動車大手である GM とフォー ドを比較する形で示したものである。これを見ると、テスラと GM、フォードの 間には、歴史と企業規模に圧倒的な差があることがわかる。設立は GM が 1908 年、フォードが 1903 年と共に 100 年以上の歴史があり、長い期間を経て大企業 に成長している。一方、テスラは 2003 年の設立であり、まだ 17 年しか事業を 行っていない。販売台数も、GM が 1,000 万台、フォードが 700 万台と大量生産 体制を確立しているのに対して、テスラは、2018 年に 30 万台に到達したばか りである。しかしアメリカの株式市場は、テスラに対して GM とフォードの時 価総額を合算した以上の価値を与えている。 2017 年 4 月にはアメリカの自動車 メーカーで最も高い時価総額を実現した。そして、2020 年 7 月 1 日にはそれま で自動車業界で時価総額首位であったトヨタ自動車も抜いて世界で最も時価総額 が高い自動車メーカーとなっている(3)

(4)

 本稿では、テスラの経営を主に持続可能性の実現を目指すサステナブル経営が どのように業績に結び付いているのかという視点から分析する。

 まず 2. でイーロン・マスクの生い立ちとテスラの発展の軌跡をたどる。次に 3. で自動車業界を巡る環境変化とテスラの位置付けを考察する。そして、4. で EV の歴史と現在の EV の評価及び 5. で電動車市場の現況を概観した後、6. でテ スラの経営戦略を検討し、7. でテスラの業績と今後の見通しを考える。そして、

8. でテスラの ESG 経営をバリューチェーンとコーポレート・ガバナンスの観点 から考察する。最後に 9. でまとめに代えて、社会課題解決型のビジネスエコシ ステム構築の重要性を述べる。

2.イーロン・マスクの生い立ちとテスラの発展経緯

 図表 2 は、イーロン・マスクの生い立ちと彼が手掛けた事業の発展経緯を年表 として整理したものである。

 イーロン・マスクは、一貫して人類の進歩に貢献する分野でビジネスを通じて 課題の解決に貢献したいと起業し、その通りの事業を行ってきた。20 代にイン ターネット関連企業を起業して大きな成功を収め、そこで得た資金を基に 30 代 から現在に至るまで本格的に気候変動問題の解決という観点から事業を展開して

図表 1 テスラと GM、フォード比較

GM フォード テスラ

本  社 ミシガン州 ミシガン州 カリフォルニア州

設  立 1908 年 1903 年 2003 年

上  場 2010 年(再上場) 1956 年 2010 年 従業員数 21 万 5,000 人 19 万 9,000 人 3 万 3,000 人

販売台数 1,000 万台 700 万台 30 万台

時価総額(19. 3) 544 億ドル 341 億ドル 489 億ドル 時価総額(20. 1) 494 億ドル 366 億ドル 890 億ドル 時価総額(20. 10. 9) 460 億ドル 283 億ドル 4,044 億ドル 出所:東洋経済新報社(2019)『外国会社四季報』を基に報告者作成

*各社の時価総額については、 日経電子版 2020 年 1 月 9 日の記事及び yahoo finance で確認

(5)

いる。

 マスクが展開している事業についての大きな特徴の一つは、IT 分野での起業 が多い近年のアメリカの多くの企業家と異なり、製造業を大きく発展させている ことである。近年の米国製造企業は、アップルをはじめ、生産を他社に委託し、

自社は開発や設計、マーケティングに集中するという製造委託を行う企業が多 い。ところが、マスクは、「私はものづくりが好きだ。ものづくりは多くのイノ ベーションを注ぎ込める分野だ。生産を完全に他社に委託するようなことは我々 の計画にはない」と述べ、自社生産にこだわり続けている。

 ものづくりを成功させる上で重要な役割を果たしているマスクの考えは、「固 定観念を疑ってイノベーションを起こす」というものである。実際に、テスラや スペース X では、既存大企業の見方や手法を否定し、イノベーションを実現し た事例が多くみられる。例えばテスラでは、EV のバッテリーには鉛蓄電池を使 うのが常識という従来の考えを覆してリチウムイオン電池を採用した。しかも、

ノート PC などで使用されているリチウムイオン電池を大量に連結することで EV 第一号であるロードスターのバッテリーの開発を実現した。また、スペース X でのロケット開発では、ロケットの基本技術の多くが 50 年前から進化してい ないことに問題意識を持ち、ロケットの構造や部品、素材などをゼロベースで見 直し、低価格のロケットを実現している(桑原(2018)P. 104-105 他)。

 図表 2 の年表を見てもう一点言えることは、マスクがどのような苦境に直面し ても決して諦めず、強い精神力で逆境を脱出しているということである。

 桑原(2018)や竹内(2015)、ヘイミッシュ(2019)等は、マスクが決して諦 めなかった例として、スペース X でのロケット打ち上げの失敗と成功について 記述している。スペース X は、2002 年の設立から 4 年目の 2006 年に初のロケッ ト打ち上げに挑戦するが失敗、2 度目、3 度目の打ち上げも失敗し、マスクは巨 額の資金を失い、4 回目も失敗したら資金が尽きるところまで追い込まれた。し かし、マスクは諦めずに個人資産を売り切り、ほぼ無一文という状態に追い込ま れながらも、スペース X の幹部や社員を以下のように叱咤激励した。

 「私はこれまでもこれからも消して決してギブアップしない。生きている限り 事業を続ける」(4)

(6)

図表 2 イーロン・マスク及び関連企業年表

年 月 マスク

の年齢 出来事

1971 6 0 6 月 28 日、南アフリカ共和国プレトリアで生まれる

1979 8 両親が離婚。母親と南アフリカの都市を転々とするようになる 1981 10 コンピュータを買いプログラミングを独学

1983 12 最初の商業ソフトウェアである Blaster を販売し 500 ドルを得る 1984-86 13-15 南アの中学時代、理科の授業中に太陽光エネルギーを支持し化石燃料を激しく批判し周囲を驚かせる

1989 6 18 母親の出身地カナダに移住、労働の日々を送る。翌年カナダのクイー ンズ大学に入学

1992 21 米ペンシルベニア大学に編入、経済学と物理学を専攻(再生可能エネ ルギーの可能性に関する論文が高い評価を得る)

1995 24 スタンフォード大学院へ入学するが 2 日で退学。実弟とオンラインコ ンテンツ会社 Zip2 を起業

1999

2 28 Zip2 をコンパックへ現金 3 億 700 万ドルで売却、マスクは 2,200 万ド ルを確保

3 28 オンライン金融サービスと電子メールによる送金サービスを行う X.com 社を設立(同社は 2001 年に PayPal 社となる)

2000

3 29 X.com がコンフィニティと合併。ブランド名はコンフィニティの PayPal となる

10 妻との旅行中に X.Com の CEO を解任される。その後は筆頭株主とし て支援

2001 12 30 ロケット購入のためロシア訪問するも交渉に失敗

2002 7 31 PayPal を eBay に売却、1 億 6500 万ドルを得る。売却資金を基に民 間宇宙開発企業スペース X 社を設立、CEO に就任

2003 7 32 テスラ:エバーハードとターペニングがテスラ・モーターズを設立。

マスクが 650 万ドルを出資し筆頭株主となる

2005 1 34 テスラ:最初のロードスター試作車完成(2006 年初旬の販売開始を 計画)

2006 35 マスクの従兄弟リンドン・リーブが太陽光発電会社ソーラーシティを 設立。マスクは会長兼筆頭株主に就任

3 スペース X:ファルコン 1 最初の打ち上げ(結果は失敗)

2007 3 36 スペース X:ファルコン 1 の 2 回目の打ち上げ(失敗)

中旬 テスラ:社員数が 260 人に到達。ロードスターの量産開始

2008

1 37 テスラ:マスクが会長兼 CEO に就任

8 スペース X:ファルコン 1 の 3 回目の打ち上げ(失敗)

9 スペース X:ファルコン 1、4 回目の打ち上げで初めて成功(9 月 28 日)

12 スペース X:NASA から 12 回分の補給契約を獲得し 16 億ドルを獲得。

それをテスラに融資することにより、両社が生き残る 2009 3 38 テスラ:モデル S を記者発表会で披露

5 テスラ:ダイムラーと提携(ダイムラーがテスラに 5,000 万ドル出資)

2010 1

39

テスラとパナソニック、共同で電気自動車用の次世代バッテリーを開 発すると発表。テスラの最新型のバッテリーパックに、パナソニック のリチウム・イオン・バッテリーを採用

1 テスラ:米国エネルギー省から 4 億 6,500 万ドルの融資を受ける 5 テスラ:トヨタと電気自動車の共同開発を行う業務提携契約を締結 6 スペース X:新型ロケット「ファルコン 9」初の打ち上げで成功

(7)

2011 40 福島県相馬市を訪問し、太陽光発電機器を寄贈

2012 5 41 スペース X:民間企業では初となる国際宇宙ステーションへの物資補 給(ドッキング)に成功

6 テスラ:モデル S 販売開始

2013 2

42

テスラ:モデル S の販売不振によりテスラが危機に陥る(多くの販売 予約が本契約にならず)

5 テスラ:全社員による営業活動強化により奇跡的に黒字決算となる

(1,100 万ドルの純利益)

モデル S が「2013 年カー ・ オブ ・ ザ ・ イヤー」を受賞 2014

1 43

テスラ:モデル S にオートパイロット機能を追加 6 テスラ:全ての特許を無償開放

独ダイムラーとの提携解消。トヨタとの提携も実質的に終了 2015 44 テスラ:定置型の蓄電池販売を開始(エネルギー事業に参入)

スペース X:ロケットブースターの着地・回収に初成功 2016 45

テスラ:オートパイロットモード作動中に死亡事故が発生 テスラ:ネバダ州で「ギガファクトリー」が稼働開始 11 テスラ株主総会においてソーラーシティの買収を可決

2017 4

46

テスラ:テスラの時価総額が GM を超える

7 テスラ:コンパクトな新型 EV「モデル 3」の生産開始(約 400 万円、

但し量産は難航)

トランプ政権の大統領戦略政策フォーラムのメンバーに就任するもト ランプ政権がパリ協定離脱を表明したため辞任

2018 6

47

テスラ:初の海外工場(ギガファクトリー3)を上海に建設すること を発表

9

マスクの「テスラを非公開企業にする」とのツイートにより投資家を 惑わせたとして米証券取引委員会(SEC)がマスクを提訴。マスクと テスラが罰金を各 2,000 万ドルを支払って SEC と和解、会長職退任

(CEO には留まる)

2019 3

48

テスラ:コンパクト SUV モデル Y を発表、2020 年 1 月に生産を開始 4 テスラ:今まで他社に委託していた自動運転用半導体を自社で開発し

たと発表

10 テスラ:米国外で初の完成車の組み立て拠点となる中国・上海の新工 場で生産を開始

10-12 テスラ:2019 年 10~12 月の EV 世界販売台数が前年同期比 23%増の 11 万 2,000 台となり、四半期ベースで過去最高を更新。19 年通年の販 売台数は前年比 50%増の 36 万 7,500 台となり年間計画を達成 2020 1 49 テスラ:時価総額がゼネラル・モーターズ(GM)とフォード・モー

ターの合計額を上回る

スペース X:初の有人飛行に向け最後の安全試験に成功(宇宙船「ク ルー・ドラゴン」を搭載したロケット「ファルコン 9」が NASA のケ ネディ宇宙センターから打ち上げられ、離陸後、ドラゴンがロケット からの緊急脱出テストに成功)

7 テスラ:時価総額がトヨタ自動車を抜いて世界首位に

出所: 兼松(2018)、桑原(2018)、竹内(2015)(2016)、バンス(2015)、日本経済新聞記事等 を基に報告者作成

(8)

 そして、この後、資金を集めて何とかこぎつけた 2008 年の 4 回目のロケット の打ち上げで起死回生の成功を勝ち取った。この 4 度目のロケット打ち上げの成 功が NASA との大型契約につながり、スペース X は倒産を免れ、同時に、同じ 時期に経営危機に陥っていたテスラも、スペース X のロケットの打ち上げ成功 により NASA からもたらされた多額の現金を基に資本注入が行われ、存続する ことができた(桑原(2018)P. 116-117 他)。このように、テスラとスペース X は、何度も危機に見舞われながらも、マスクの強力なリーダーシップと経営手腕 により危機を乗り越え、業容を拡大させて現在に至っている。

 次に次章で、自動車業界に現在起こっている大きな外部環境の変化を概観し、

業界の中でのテスラの位置付けを把握することにしたい。

3.自動車業界を巡る環境変化とテスラ

 現在自動車業界は、地球温暖化の進行と地球温暖化防止に向け 2016 年にパリ 協定が発効したことにより大きな影響を受けている。パリ協定で国際社会は、産 業革命前からの気温上昇を 2 度未満に保持し、1.5 未満に抑える努力を行い、今 世紀後半に温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを世界共通の長期目

図表 3 社会課題解決を経営理念に掲げたイーロン・マスクが経営する企業

出所: 村沢義久(2017)『図解 EV 革命』 毎日新聞出版 P. 81。ソーラーシティは 2016 年にテスラが買収

クリーン・エネルギー

(=CO2削減)

人類の進歩に貢献する分野 経営する企業

X.com(PayPal)

テスラ ソーラーシティ

スペースX

(=人類救済)

宇宙開発

インターネット

(9)

標として合意した。パリ協定により世界は脱炭素化に向け大きくかじを切ること になった。

 日本政府はパリ協定に対応するために、温室効果ガスを 2030 年度までに 2013 年度比で 26 パーセント削減することを公表している(本稿執筆の 2020 年 8 月 30 日時点)。この目標に連動し、運輸部門でも約 3 割の

CO

2排出の削減が必要に なる。さらに先進国は、2050 年までに温室効果ガスの排出を、現状から 80 パー セント削減するということを約束しており、運輸部門でも同程度の削減が求めら れている。日本における 2016 年度の運輸部門における

CO

2排出量は 2 億 1,500 万トンであり、これは日本が排出する

CO

2排出総量 12 億トンの約 18%を占め る。運輸部門における全

CO

2排出量の約 9 割は自動車からの排出が占めるため、

運輸部門の対策は実質的に自動車

CO

2排出量の削減ということになる(大聖

(2018)P. 7)。

 現在製造されている自動車を動力源(パワートレイン)の観点から見た場合、

ガソリン及びディーゼル車が最も普及しているが、上記のような背景から、自動 車メーカーは、排出ガス及び

CO

2削減に向けて、既存のガソリン車やディーゼ ル車の一層の燃費改善に取り組むと共に、 ハイブリッド車(HEV)、 プラグイン ハイブリッド車 (PHEV)、 電気自動車 (EV)、 燃料電池車 (FCV) などの電動車 の一層の実用化と普及に取り組んでいる (大聖 (2018) 前掲書 P. 7、 環境省 HP)。

 自動車の脱炭素化を加速させるために、パリ協定発効以降、自動車メーカーに 内燃機関のみを搭載した自動車を段階的に販売禁止にするなど、規制強化が広

図表 4 各国で進む脱炭素化に向けた法整備

国 規制内容 実施時期

中 国 各メーカーの生産、販売規模に応じて一定比率の新エネ

ルギー車生産を義務付け 2019

ノルウェー 全ての新車販売を EV 化 2025

オランダ 全ての新車販売を EV 化 2025

イギリス ガソリン車とディーゼル車の販売を禁止 2035

フランス ガソリン車とディーゼル車の販売を禁止 2040

出所:各種資料を基に筆者作成

(10)

がっている。中国は、各メーカーの生産、販売規模に応じて一定比率の新エネル ギー車の生産を義務付ける NEV 規制を 2019 年から実施している。また、ノル ウェーとオランダでは、2025 年から全ての新車販売を EV 化する法律が制定さ れた。さらに、イギリスとフランスでは、2040 年からガソリン車とディーゼル 車の新車販売を禁止する法律が 2017 年に制定された。特に、イギリスは、2020 年 2 月 4 日に、ガソリン車とディーゼル車の新規販売禁止について、従来は対象 車種から外していたハイブリッド車(HV)も禁止対象に加え、実施時期を 2035 年に前倒する方針を表明している。

 このように、パリ協定を受けて、企業活動の脱炭素化が求められる中、特に 自動車産業については、限られた期間の中で顧客の車両運転時を含むバリュー チェーン全体での脱炭素化が求められている(5)

 バリューチェーン全体での脱炭素化とは、自社のオペレーションに限定され ず、上流・下流を含めたサプライチェーン全体で

CO

2排出量を削減することで ある。サプライチェーンとは、原料調達から製造、物流、販売、廃棄までの一連 の流れ全体をいい、そこから発生する排出量をサプライチェーン排出量と呼ぶ

(環境省・経済産業省グリーン・バリューチェーンプラットホーム)。サプライ チェーン排出量は、GHG プロトコルと呼ばれる国際標準に基づき、スコープ 1、

出所:WWF Japan

図表 5 GHG プロトコルによる CO2排出先の分類

(11)

スコープ 2、スコープ 3 から構成されている。スコープ 1 は、自社の工場やオ フィス、車両などから直接排出される

CO

2量である。スコープ 2 は、電力など 自社で消費したエネルギーを起源とする間接的な排出量である。そして、スコー プ 1 とスコープ 2 以外のすべての排出はスコープ 3(その他の間接排出量)と定 義されており、自社事業からの排出量のみならず、企業活動の上流から下流に関 わるサプライチェーン全体の排出量が該当する。具体的には、調達した材料や部 品に係る排出、輸送、従業員の通勤や出張に伴う排出、車両を購入した顧客の車 両走行時における排出、メンテナンス、廃棄時の排出などである。GHG プロト コルは、スコープ 3 を 15 種類の排出源に分類している(図表 6)。

 スコープ 3 の 15 の排出カテゴリーの中では、特に、「購入した製品・サービ ス」と「販売した製品の使用」に伴う CO2排出量が大きく、この部分の CO2排 出量を削減することが急務となっている。例えば、図表 6 の GHG プロトコルに おけるスコープ 3 の 15 カテゴリー及びスコープ 1 とスコープ 2 の合計排出量に ついて、トヨタ自動車の 2018 年度のデータを掲載したが、スコープ 1 とスコー プ 2 を合計した排出量が 765 万トンであるのに対して、スコープ 3 の排出量合計 は 4 億 1,491 万トンに達している。スコープ 3 の排出量の内訳をみると、スコー プ 3 の 15 分類のうち、最も排出量が多いのが、販売した製品の使用時、すなわ ち、消費者が購入した自動車を運転する際に排出する

CO

2である。トヨタの場 合、世界中の道路を走るトヨタ車が排出する

CO

2量が 3 億トンに達していると いうことである。

 イギリスやフランスが導入を決定した新規製造車にガソリンエンジンやディー ゼルエンジンを搭載することを禁止する規制は、このスコープ 3 の製品使用時の CO2排出量を大幅に削減することを目的とした規制強化と理解できる。したがっ て、近い将来、スコープ 3 の排出量を大幅に削減することができない自動車メー カーは、規制リスクに伴う財務面やレピュテーション面での大きなリスクを抱え ることになる。自動車メーカーは、規制が強化されるまでに、車の電動化を加速 させるなどの取り組みを行うことが、規制リスクを低減させ、また、シェアを失 わないために戦略的に重要な経営課題になる。

 既に、ビジネスモデルが化石燃料に依存している企業は、企業の環境面、社会

(12)

図表 6 GHG プロトコルにおけるスコープ 3 の 15 カテゴリーと具体例

カテゴリー 項 目 内 容 例(トヨタ

(万 t自動車)-CO2

上  流

1 購 入 し た 製 品・

サービス 原材料・部品、仕入商品・販売に係る資

材等が製造されるまでの活動に伴う排出 6,329

2 資本財 自社の資本財の建設・製造から発生する

排出 454

3 スコープ 1.2 に含 まれない燃料及び ネルギー関連活動

他者から調達している燃料の調達、電気 や熱等の発電等に必要な燃料の調達に伴

う排出 93

4 輸送、配送(上流) 原材料・部品、仕入商品・販売に係る資材等が自社に届くまでの物流に伴う排出 89

5 事業から出る廃棄

物 自社で発生した廃棄物の輸送、処理に伴

う排出 12

6 出張 従業員の出張に伴う排出 15

7 雇用者の通勤 従業員が事業所に通勤する際の移動に伴

う排出 64

8 リース資産(上流)「自社が賃借しているリース資産の操業 に伴う排出(スコープ 1.2 で算定する場

合を除く) ―

下  流

9 輸送、配送(下流) 製品の輸送、保管、荷役、小売に伴う排出 1

10 販売した製品の加工 事業者による中間製品の加工に伴う排出 117

11 販売した製品の使用 使用者(消費者・事業者)による製品の

使用に排出 33,925

12 販売した製品の廃棄 使用者(消費者・事業者)による製品の

廃棄時の輸送、処理に伴う排出 384

13 リース資産(下流) 賃貸しているリース資産の運用に伴う排出 ― 14 フランチャイズ フランチャイズ加盟者における排出 ―

15 投資 投資の運用に関連する排出 8

カテゴリー1~15 合計 41,491

〈参考〉スコープ 1+2 の合計 765

出所: 環境省(2012)経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス料出量算定に関する 基本ガイドライン Ver.1.0(案)」とトヨタ自動車(2019)「Sustainability Data Book 2019」

を基に筆者作成

(13)

面への対応とガバナンスを重視した ESG 投資を推進する機関投資家から厳しい 目を向けられている。2018 年から 2020 年にかけては、石炭火力により発電を行 う電力会社や、石油会社に対する投資家のダイベストメント(Divestment、投 資撤収)が頻発し、合わせて、これらの企業に融資を提供する商業銀行等の金 融機関に対しても、株主提案等を通じて、様々なステークホルダーから圧力がか かった。今後、自動車業界に対する脱炭素化の圧力も強まる可能性がある。

 以上概観したように、自動車業界は、パリ協定発効を受け世界が脱炭素化に加 速する流れの中で大きな影響を受けている。この国際的な流れの中で、テスラの 事業を考えてみると、テスラは、そもそも脱炭素化を実現する EV を製造し提供 することを企業ミッションとして掲げ事業展開している自動車メーカーであり、

ガソリンエンジンやディーゼルエンジンがいまだ主流を占める自動車メーカーと は明確に立ち位置が異なり、サステナビリティを求める社会や地球環境に適合し た事業を行っていると言える。EV 専業メーカーであるテスラが製造する EV の 使用時(運転時)に排出される CO2排出量はゼロである。すなわち、GHG プロ トコルの分類に従った場合、テスラのスコープ 3 の製品使用時の

CO

2排出量は ゼロということであり、これは他の自動車メーカーの状況とは大きく異なってい る(6)。テスラの EV 事業にとって、パリ協定の発効以降広がってきた EV 普及を 後押しするような規制強化等の政策は追い風になっている。

4.EV の歴史と現在の評価

 ここで、テスラの主力製品であり、気候変動対策の一つの有力な解決策になる と考えられている EV の歴史を簡単に振り返るとともに、現在の EV の評価を整 理しておきたい。テスラによる EV 製造・販売事業の成功もあり EV に注目が集 まっているが、EV 自体は最新技術というわけではない。

 世界で初めて自動車が普及し始めた 1900 年頃の米国では、車の動力源は、内 燃機関、蒸気機関に加え、電気も動力源の一つとなっていた。1900 年にアメリ カで生産された自動車約 4,000 台のうち約 4 割が EV であり、EV が主流動力源 の一つであった(風間他(2018)P. 25-27)。

(14)

 1900 年頃の EV は、蒸気やガソリン車に比べ匂いや騒音、振動がなく、操作 が簡単であり、エンジンをかける毎にクランクを手で回し、運転中はギアチェン ジが必要なガソリン車よりも操作が簡単と評価されていた。しかしその後、ヘン リー・フォードによってガソリン車が量産化され、様々な技術革新によってガソ リン車の使いやすさが改善し、価格が低下した結果、ガソリン車が主流の時代が 到来した。その結果、米国では 1935 年までに EV は衰退したという(風間他前 掲書 P. 19-20、21-25)。その後も、大気汚染の深刻化やオイルショック等の社会 問題が深刻化する度に、その対策を考える際に EV が見直されてきたが、これま ではすべて一時的なブームとして終わっている(図表 7)。

 過去の EV ブームが一過性であった理由として、風間他(2018)は、①車とし ての魅力不足、② EV に対する弱いニーズ、③メーカーにとって低いインセン ティブ、の 3 点を指摘している(風間他前掲書 P. 25-27)。

 ①車としての魅力不足は、過去の EV は主として排ガス規制対応という消極的 な理由で製造されたこともあり、従来車に比べて価格が高い上に使い勝手も悪 く、EV を積極的に買いたいと思う顧客が限られていた。

 ② EV に対する弱いニーズとは、オイルショック等でガソリン価格が高騰する と消費者の EV への関心は一時的に高まったが、ガソリン価格の下落に伴い関心

出所:風間智英他(2018) P. 19-20, 21-25 等を基に要約 図表 7 過去の EV ブーム

(15)

は低下した。また、米カリフォルニア州で深刻になっていた大気汚染は、従来 車の性能向上により相当程度改善されたため、EV に対するニーズもなくなって いった。

 ③メーカーにとって低いインセンティブとは、自動車メーカーにとって EV を 開発し販売に対するインセンティブが低く、従来車を売るために必要なコストと いう位置づけであった。

 では、EV に関する現在の評価はどうか。まず、①車としての EV の魅力は、

過去の EV と比べれば航続距離と電池コストは大幅に改善している。しかし、現 在のガソリン車と比べた場合、航続距離と価格面で優位になっているとまでは言 えない。ただ、テスラが高級 EV 市場という新しい市場を創造したことが EV 市 場の拡大に貢献している。テスラは量産車のモデル 3 を開発し、全世界で展開す るなど、EV 市場の一層の拡大に努めているが、このような動きに呼応して他の 自動車メーカーも EV の開発・市場投入を加速させている。②の EV に対する消 費者のニーズについては、先進国市場と新興国市場で状況が異なる。先進国市場 での EV 普及は時間をかけて徐々に普及している状況である。一方、新興国では 先進国よりも普及のスピードが速く、これらは特に中国とインドの都市部で顕著 である。深刻な問題となっている大気汚染対策(7)や地球温暖化対策になる上、産 業振興政策という意味もある。

 ③の自動車メーカーの EV 開発・販売に対するインセンティブは以前よりも高 くなっている。これは、内燃機関搭載を禁止し、EV 普及を後押しする補助金制 度を導入するなど、脱炭素化を促進する法制度を導入する国が増えている影響が 大きい。また、テスラが高級 EV 市場を創出したことも、多くの自動車メーカー に影響を与えている。テスラが高級 EV 市場を創出した結果、高級車市場から高 級 EV 市場へ顧客が流れている傾向が明らかになっており、既存の高級車メー カーが電動車の製造に本気で取り組む一つの要因になっている(8)

5.電動車市場の現況

 EV、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池

(16)

車(FCV)は電動車と総称されている。電動車市場は、1997 年にトヨタがプリ ウスを発売して以来、一貫して成長しており、2016 年には市場規模が約 240 万 台に達した(図表 8)。2006 年から 2016 年までの 10 年間の電動車市場の年平均 成長率は 20.8%であり、乗用車市場全体の年平均成長率 3.4%に比べて急速に市 場が拡大している。

 電動車市場が自動車市場全体に占める割合は 2.6%(2016 年時点)とまだ小さ いが、トヨタ自動車がハイブリッド車を 2018 年度に 163 万台製造(Sustainabil- ity Data Book 2019 P. 56)するなど電動車市場は急速に成長している。日本に ついては、トヨタやホンダが積極的にハイブリッド車を投入していることから、

2016 年末に電動車の普及率が 11 パーセントに達している。

 International Energy Agency(IEA)によれば、電動車の中で、EV について は、2017 年には、EV の販売台数は 100 万台を超えて過去最高となった(うち中 国が 58 万台)が、全世界の乗用車販売台数に占める割合は、7,400 万台の 1.4%

にとどまっている。

 IEA は、今後 EV を含む電動車がどのように普及していくかについて 2050 年までの見通しを示している(図表 9)。これによると、本稿執筆時点(2020 年 8 月)では、車の動力源としては内燃機関(ガソリンエンジン車、Internal- Combustion Engine Vehicle(ICEV))が主流であるが、今後は急速に減少し、

図表 8 電動車市場の推移(世界)

(単位:千台)

出所:野村総合研究所(2018)P. 42

(17)

電動車の割合が急速に高くなることが予測されている。電動車の中では、まず、

2030 年に向けて、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHV)

が大幅に増え、主流の動力源になり、その後 2040 年以降は、HEV、PHEV、

EV、FCV が並列するようになると予測している。EV の普及については、現在 1 パーセント未満の普及率が、2030 年には 16 パーセントまで高まるという試算 もなされている(9)

6.テスラの経営戦略

 テスラの経営戦略については、CEO のイーロン・マスクがトップダウンで策 定しており、自社の経営戦略をホームページ上で「マスタープラン」と題して開 示している。この中で、マスクは、テスラのミッションを、化石燃料に依存した 社会から、太陽光発電を中心とした社会へのシフトを加速することだと述べてい る。この目的を実現するために、まず、ハイスペックな EV スポーツカーを製造 し、その売上で得た資金を基に、より手頃な価格の EV を製造していくという戦 略を示している。更に、これらを進めながら、再生可能エネルギーによるゼロエ ミッションの電力を提供するとしている(10)

 実際、テスラは、2003 年にエンジニアのマーチン・エバーハードとマーク・

図表 9 2050 年に至る乗用車の販売シェアと重要技術

出所: IEA/Energy Technology Perspective 2012 及び大聖泰弘氏講演資料 https://www.marklines.com/statics/report/img/ja/rep1537_011_l.gif 大聖泰弘(2018)「自動車の環境 ・ エネルギー技術に関する将来展望」P. 21

(18)

ターペニングらがテスラ・モーターズを設立し、イーロン・マスクが 650 万ドル を出資し筆頭株主となって事業を開始してから、2007 年にロードスター、2012 年にモデル S、2017 年にモデル 3 と、発表した通りの戦略を実施してきている。

さらに、EV 製造と並行して主として太陽光発電をベースとしたゼロエミッショ ンの発電オプションを提供している。

 趙偉、寺澤(2015)は、テスラは、開発面、製造面、販売・マーケティング面 で、従来の自動車メーカーとは異なるイノベーションを実現したと指摘してい る。具体的なイノベーションとしては、開発面では、実用車ではなく高級スポー ツカーから参入し、汎用品の小型バッテリー電池セルを活用するなど開発手法を 革新したことであり、製造面では、GM とトヨタの合弁企業 NUMMI 工場を承 継しリーン生産方式を徹底するとともに、高性能多目的ロボットをフル活用して 製造した点、アルミニウムと鉄の組み合わせ等、素材面で新しい技法を採用した 点、すべてのテスラ車をインターネットに常時接続できるようにして、無線通信 でソフトウェアを自動更新し、オートパイロット等の機能を追加できるようにし た点等が挙げられる。販売・マーケティングでは、プレミアム価格戦略の採用、

ミッション

ビジョン

持続可能なエネルギーへの移行を世界で加速させる

クリーンエネルギーのエコシステムを構築する 戦略(2006年マスタープラン)

①まずスポーツカーを作る

②その売上で手頃な価格のクルマを作る

③さらにその売上でより手頃な価格のクルマを作る

④並行してゼロ・エミッションの発電オプションを提供する マーケティング戦略

テスラの哲学に共感する富裕層が当初のター ゲット・セグメント

マーケティング戦術 製品

価格 販売チャネル マーケティング 人材 インフラ 製造プロセス

高級EV車、高級スポーツカーからスタート プレミアム価格

直営ディーラー網×インターネット販売

マスク自らのSNSでの発信→直営ディーラー→インターネット販売 崇高な理念とマスクのカリスマ性で優秀な人材を採用 直営ディーラー網、蓄電池ステーション網等の整備

水平・垂直統合モデル、「SNSによる事前告知→事前の受注→生産」

出所:テスラ HP、田中道昭(2018)『2022 年の次世代自動車産業』PHP 研究所 P. 97(一部変更)

図表 10 テスラの戦略

(19)

マスク自身による SNS を通じたマーケティングと直営店による販売等である(趙 偉、寺澤(2015)P. 219-223)

 テスラの事業を考える上で重要なのは、テスラが単に EV を製造・販売してい るだけでなく、再生可能エネルギーの発電、蓄積、使用を一体化させた事業展開 を行っている点である。具体的には、太陽光発電システムを構築し、このシステ ムを通じて発電したエネルギーをテスラ車に搭載するバッテリーに充電し、EV の動力源にしようとしている(11)

 EVはリチウムイオン電池を充電し、電気がモーターを駆動して走行する。

EV の動力源であるバッテリーがどのような電力エネルギーで充電されるかが、

EV の持続可能性を左右する。バッテリーが化石燃料をベースにした火力発電等 で充電されると、EV 本体からは CO2は排出されなくても、火力発電所等から排 出されることになり、持続可能性には貢献しない(12)。そこで、テスラでは、EV の製造・販売と再生可能エネルギーの発電、蓄積、使用を統合し、バッテリーに 充電する電気も再生可能エネルギーで供給しようとしているのである(13)。 これに より、テスラの事業は、地球温暖化対策や再生可能エネルギー普及という SDGs

出所:堀雅夫(原子力システム研究懇話会(2007))

   https://atomica.jaea.go.jp/data/fig/fig_pict_01-03-04-12-03.html 図表 11 自動車の各パワートレインとエネルギーの流れ

(20)

の複数の目標達成に複合的に結びつき、持続可能性実現への貢献度を高めてい る。

7.テスラの業績と今後の見通し

 テスラの直近 6 年間の業績は、図表 12 の通りである。売り上げは 200 億ドル を超え、毎年 2 桁の成長率を示している。2017 年に発売された量販モデルのモ デル 3 が世界で売上を伸ばしている点が収益の拡大に貢献している。

 損益面では、先行投資が響き、赤字基調が続いていたが、2020 年会計年度の 上半期決算で初めて黒字化している。2020 年第 2 四半期(4~6 月)決算は、最 終利益が 1 億 400 万ドルとなり、創業以来、初めて 4 四半期連続の黒字を達成し た。業績の改善傾向が明らかになってきたことで、2020 年 12 月期に初の通期黒 字決算が期待されている。

 テスラの業績について、サステナビリティ関連で特筆すべき点がある。それ は、温室効果ガスの排出権(クレジット)の売却益を継続的に収入として計上し ている点である。排出権取引とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出枠をあ らかじめ定め、その枠が余った企業は枠を必要としている他社に売却できる制度 である。中国や EU、米国のカリフォルニア州などで実施されている。

図表 12 テスラの業績の推移

(単位:百万ドル)

決算期 売上高 営業利益 税引前利益 純利益

14.12 3,198 186 -284 -294

15.12 4,046 -716 -875 -886

16.12 7,000 -645 -746 -674

17.12 11,758 -1,606 -2,209 -1,961 18.12 21,461 -252 -1,004 -976

19.12 24,578 80 -665 -862

20.60 25,708 1,218 570 368

*税引前利益は、税金調整前当期純利益である

*純利益は、親会社株主に帰属する当期純利益である 出所:米国会社四季報、SPEEDA データを基に作成

(21)

 テスラの排出権(クレジット)の売却益は 2019 年第 2 四半期以降、継続して 増加しており、2020 年第 1 四半期のクレジット額は 3 億 5,400 万ドル((1 ドル 106 円換算で約 375 億円)、第 2 四半期は、4 億 2,800 万ドル(同レートで約 454 億円)を計上している。クレジットの売却益は営業利益を上回る金額に達してお り、収益の大きな柱になっている。テスラが排出権の売却益を計上しているとい うことは、規制強化というマイナスの影響をプラスに変えているということを意 味している。100% EV を製造しているテスラだからこそ成しえたことと言える が、逆に言えば、既存のガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車製造の比率 が高い企業は、この規制コストを負担しなければならなくなっているということ を意味している。

 今後の EV 市場の見通しを考えるにあたっては、テスラという一民間企業だ けでなく、多くの国が EV の普及を後押ししているという点が重要である。今 後も、EV の普及を後押しするような規制や支援策の導入が続く可能性が高く、

これはテスラの事業にとって追い風となる。規制強化の対価をクレジットとい う形で収益につなげているのはテスラ独自の強みといえる。ただ、他の自動車 メーカーも手をこまねいているわけではない。大手自動車メーカーからも EV の

図表 13 テスラの直近 2 年間の四半期業績

 (単位:百万ドル)

四半期 2019

第 2 四半期 2019

第 3 四半期 2019

第 4 四半期 2020

第 1 四半期 2020 第 2 四半期 自動車関連売上 5,376 5,353 6,368 5,132 5,179

(内クレジット売却益) 111 134 133 354 428

自動車関連総利益 1,016 1,222 1,434 1,311 1,317 売上総利益率 18.9% 22.8% 22.5% 25.5% 25.4%

売上高合計 6,350 6,303 7,384 5,985 6,036 総利益合計 921 1,191 1,391 1,234 1,267

営業費用 1,088 930 1,032 951 940

営業損益 -167 261 359 283 327

営業利益率 -2.60% 4.10% 4.90% 4.70% 5.40%

出所:Tesla Q2 2020 Update Financila summary を筆者要約

(22)

発売・発売の発表が相次いでおり、今後、EV 市場での競争が激化すると考えら れる(14)。テスラはモデル 3 を中心に急ピッチで量産化に取り組んでいるが、大手 メーカーに比べるとまだ十分規模の経済を生かしきれていない。引き続き、量産 化に取り組み、収益性を改善していくことが大きな課題になると考えられる。

8.テスラの ESG 経営

8.1 テスラのバリューチェーンにおける持続可能性配慮

 前章までに見てきたように、テスラは事業として再生可能エネルギーの発電、

蓄積から EV の製造販売まで一貫して行っており、これらの製品・サービスはい ずれも持続可能性に貢献するものであるといえる。しかし、テスラが真に持続可 能な企業と言えるためには、生み出す製品・サービスに加えて、それらを生み出 すプロセスであるサプライチェーンを含むバリューチェーン全体が環境面及び社 会面での配慮を徹底している必要がある。そこで、テスラの最新のサステナビ リティ報告書である TESLA Impact Report 2019 を参照しながら、テスラのバ リューチェーンにおける ESG 配慮を整理した(図表 14)。

 企業の活動は、顧客に価値を届ける活動と位置づけられ、それらの一連の活動 はバリュー・チェーン(価値連鎖)と呼ばれる。バリューチェーンは、主活動と 支援活動に分類され、主活動は購買物流、製造・オペレーション、出荷物流、販 売・マーケティング、サービスからなり、支援活動は企業インフラ、人材資源管 理、技術開発、調達から構成される(ポーター(1985))。バリューチェーン上の サステナビリティに関する取り組みについて、ポーター(2011)は、バリュー チェーンの各活動を検証し、自社が事業活動により与えているマイナスの影響を 軽減し、プラスの影響を増加させる取り組みを行う必要があると指摘しており、

多くの企業が同様の考え方で取り組みを進めている。

 テスラについても、環境や社会にマイナスの影響を及ぼしかねない取り組みに ついてはそれを削減する方向で取り組みがなされており、一方でプラスの価値創 出に関わる部分(EV の製造)では積極的な投資がなされている。

 具体的に図表 14 のテスラにおけるバリューチェーンの 5 つの主活動と 4 つの

(23)

図表 14 テスラのバリューチェーン

出所: TESLA Impact Report 2019(2020)及び趙偉他(2015)等を参考に筆者作成。バリュー チェーンの図はポーター(1985)を参考にした

主活動 購買物流 製造・オペ

レーション 出荷物流 営業・マー ケティング 調達

技術開発 人的資源管理 企業インフラ

価値 支援

活動

サービス・

リサイクル

・ 「サプライヤー行動規 範」 と 「人権・紛争鉱 物ポリシー」 を策定。

サプライヤーに自社の オペレーションにおいて 環境、社会面に最大 限配慮していることの 証明を義務付け。サブ サプライヤーへのデュー デリジェンスを徹底

・ コバルトの調達を厳格 化。国際基準に従い サプライヤーを厳しく選 別。

・ 各地域に垂直統合さ れたテスラの工場を設 置し、オペレーション上 のCO2排出量を削減

・ 取締役会内に、監査、報酬、

指名、情報開示管理の4つの常 任委員会を設置、独立取締役 が経営を監督。女性取締役比

・ 2018年後半からエネルギー効20%

率化プログラムを開始、米国内 全工場のエネルギー使用量を削

・ シャトルバス運行やカープーリング サービスを通じ従業員の通勤負 担と3300t以上のCO2を削減

・ 多様性を重視した人事政策

・ 全額会社負担による医療サービス、

従業員自社株購入プログラム、学 生ローンの整理統合支援等

・ 様々な従業員の能力開発支援プ

・ 地域コミュニティの人材育成支援ログラム

(例︓テスラの製造施設周辺の高 校を卒業し、 隣接するコミュニティ カレッジでオートメーションやロボット 工学を学ぶ学生にテスラで製造の 実務を学ぶ機会を提供)

・ 汎用品の小型バッテ リー電池セルの活用等 開発手法を革新

・ アルミニウムと鉄の組み 合わせ等、素材面で 新しい技法を採用

・ 全車をインターネット常 時接続、無線でソフト ウェアを自動更新、オー トパイロット等の機能を

・ バッテリーパックの長寿追加。

命化

・ CO2、NOX、粒子状物質を一切排出 しないEVを生産(2019年生産台数 37万台)

・ GMとトヨタの合弁企業NUMMI工場を 承継しリーン生産方式を徹底、ロボット をフル活用

・ 製造工程を100%再生可能エネルギー で稼働へ。ネバダや上海の工場は最初 から再生可能エネルギー100%で稼働 するよう設計

・ 住宅所有者、企業、電力会社が再生 可能エネルギーの発電、貯蔵、消費を 行える独自のエネルギー製品を製造

・ 2018年から19年に製造時の水使用 量を車両1台あたり5.2m3から2.9m3 に45%削減

・ 主要な市場近くに工場を 建設し、サプライチェーンを 現地化。時間を節約し、

効率が向上。

・ 上海工場は、輸送コスト の削減と輸送に伴う環境 負荷の両方を削減。生 産される車両1台あたりの CO2排出量を削減

・ 高級 EV 市場を創 造(プレミアム価格

・ マスク自身による戦略)

SNSを通じたマー ケティング

・ 直営店による販売

・ 災害時等に低グレードモデルでも電池の利用可能容量を遠 隔で増やして顧客の走行距離を延伸

・ リチウムイオンバッテリーは100%リサイクル(埋立処分なし)

・ 世界中のリサイクル業者と協力し、すべての使用済みバッテリー から希少金属を回収

(24)

支援活動を見ると、地球温暖化問題の解決に重要となる運輸セクターにおける温 室効果ガスの削減について、再生可能エネルギーの普及と EV の普及をセットで 加速させるという目的実現のために、バリューチェーンの各活動において取り組 みが行われているということが理解できる。ただ、現在のテスラのインパクトレ ポートの記述内容が、「現在取り組みを行っている」という定性的な記述が中心 であり、成果について定量的に記述している部分が少ない点には留意が必要であ る。今後、成果を定量的に測定して、タイムリーに開示していくことが期待され る。

8.2 テスラのコーポレート・ガバナンス

 コーポレート・ガバナンスは企業の重要な経営構造であり、特に取締役会は、

企業の持続的な成長に重要な責任と役割を負っている。テスラは、健全なコーポ レート・ガバナンスの重要性を理解し、企業活動の全てのレベルで業務執行状況 の適切な監視を行うとしている。

 図表 15 は、2020 年 6 月 1 日現在のテスラの取締役会メンバーと参加委員会を 図表 15 テスラの取締役会メンバーと参加委員会(2020 年 6 月 1 日現在)

氏 名 役割 就任時期 参加委員会

監査 報酬 情報開示 指名・企業統治 Robyn Denholm 独立取締役・

取締役会議長 2014 〇 〇 〇 〇

Elon Musk 取締役・CEO 2004

Ira Ehrenpreis 独立取締役 2007 〇 〇

Larry Ellison 独立取締役 2018 Antonio J. Gracias 独立取締役 2007 ○

Steve Jurvetson 独立取締役 2009 ○ ○

水野弘道 独立取締役 2020 ○

James Murdoch 独立取締役 2017 ○ ○ ○

Kimbal Musk 独立取締役 2004 Kathleen Wilson-

Thompson 独立取締役 2018 ○ ○ ○

出所:TESLA Impact Report 2019 Corporate Governance Board Committees P. 50

(25)

示したものである。テスラの取締役会は 10 名で構成され、うち独立社外取締役 が 8 名と過半数を占め、経営を監督している。また、取締役会の中に監査、報 酬、指名、情報開示の 4 つの常任委員会が設置され、独立取締役がここでも過半 を占めている。取締役の女性比率は 20%であり、取締役会議長は女性の社外取 締役である Robyn Denholm 氏が務めている。なお、年金積立金管理運用独立行 政法人(GPIF)で最高投資責任者(CIO)を務めた水野弘道氏が 2020 年 4 月か らテスラの独立社外取締役に就任している。

 以上のように、制度を見れば、テスラの経営執行を監視・監督する体制は整備 されているように見える。ただ、テスラの場合は、CEO のイーロン・マスクの 強力なリーダーシップで事業が進められてきたという印象が強く、時にマスクの 独断専行の発言が混乱を招いてきた(例えば 2018 年のマスクの非上場化発言な ど(図表 2 参照))。テスラの取締役会が実効性のある経営の規律付けを行ない、

同社のコーポレート・ガバナンスの実効性を高めることができるかどうかが引き 続き注目される。

9.まとめ社会課題解決型のビジネスエコシステムの優位性

 本稿ではテスラの経営を主に持続可能性の実現を目指すサステナブル経営とい う視点から分析した。

 まずイーロン・マスクの生い立ちとテスラの発展の軌跡をたどり、次に自動車 業界を巡る環境変化とテスラの位置付けを考察した。そして、EV の歴史と現在 の EV の評価及び電動車市場の現況を踏まえた後、テスラの経営戦略を検討し、

テスラの直近の業績と今後の見通しを考察した。そして前章で、テスラの ESG 経営をバリューチェーンとコーポレート・ガバナンスの観点から整理した。これ らを通じ確認できた点は、地球温暖化の解決という地球規模での社会課題解決を 企業ミッションに掲げ、このミッションの実現に向けて、ビジネスモデルを構築 し、時に危機的状況に陥りながらも、様々なステークホルダーからの支援を得な がら持続的に成長している姿であった。

 社会課題の解決のためにビジネスを行う経営について、モニターデロイト

(26)

(2018)は、SDGs 時代には、企業の経営戦略・事業戦略のあり方が、自社の利 益を第一に考えたものから、社会課題の解決のために、様々な主体を巻き込んだ

「エコシステム形成型」が優位になっており、企業が戦略を進化させる必要性を 指摘した。

出所:モニターデロイト(2018)『SDGs が問いかける経営の未来』P. 40 の図表を一部変更 図表 16  従来型企業のビジネスモデルと社会課題の解決に向けたエコシステム型の

ビジネスモデル

(27)

 従来、企業は自社の利益を第一に考えて行動してきた。企業活動を資金面から 支える株主も、この企業行動を支持していた。企業は、基本的に、自社の顧客が 抱える課題解決にのみ専念しておけば、既存顧客から収益がもたらされ、その 他の社会課題領域については、社会貢献活動等で部分的に関わることはあって も、本業を通じて社会課題に大規模に取り組むことは少なかった。しかし、現在 の SDGs 時代にあっては、社会課題の解決に資する企業活動が求められ、それを 通じて市場を創造し、自社を成長させていく好循環を形成することが求められて いる。この過程では、従来の自社利益第一主義のときには最小限の接点しか持っ ていなかった政府や自治体等の公的機関や、NPO や市民との協業も求められる ようになる。更に、金融機関や投資家とも、ESG 投資の拡大により、環境問題 や社会課題への取り組みが対話の重要テーマになっている。このような企業を取 り巻く外部環境が大きく変化した結果、SDGs 時代においては、競争優位を獲得 する要素が、自社の製品・サービスの機能、品質、価格の 3 つに加えて、社会課 題を解決するという大義(cause)力及びルール(秩序)形成力の 2 つが必要に なっている(モニターデロイト(2018)P. 39-41)。

 このモデルにテスラの事業を当てはめると、テスラが社会課題解決のためのエ コシステムをグローバルに構築していることがわかる。イーロン・マスクは、テ スラは地球温暖化という人類にとって最重要の環境問題を解決するために事業を 行っているということを様々な機会を通じて発信し、実際に、この大義(社会課 題解決)実現の観点から経営判断を行っている。例えばマスクは、「テスラのラ イバルは他の自動車メーカーや EV メーカーではなく膨大な数のガソリン車だ。

私は単純に成長だけを目的に事業を行っていない。会社の成長よりも EV をもっ と普及させることのほうが世界にとってはるかに重要である」と述べ(15)、2014 年 6 月にテスラが持つ 500 以上の特許技術を無償解放した。年間生産台数が 30 万 台のテスラが特許を囲い込んで自社のみが相対的に小さな利益を得るのではな く、広く無償公開することで圧倒的に生産台数が多い大手自動車メーカーが EV の普及を加速させて、温室効果ガスの削減につなげることを意図したのである。

 また、テスラは各国の政府や金融機関、企業と幅広いパートナーシップを持 ち、EV 普及を推進している。このこともテスラが事業を通じて地球温暖化に取

(28)

り組んでいるという「大義」が、政府や ESG 投資・ESG 経営を推進する金融機 関や企業を結び付け、グローバルなエコシステムを形成していると考えられる。

 テスラ初の量産モデルであるモデル 3 が世界の様々な市場で支持され、販売を 伸ばしているという事実は、モニターデロイト(2018)が指摘する企業が競争優 位を獲得する伝統的な要素である、価格、機能、品質を満たしているという事実 に加えて、地球温暖化という問題を解決するために事業を行っているという「大 義力」が多くの主体から支持を集めていると考えられる。さらに自社の製品であ る EV や再生可能エネルギーのソリューションが、地球温暖化問題の解決に資す るソリューションになることから、同様の製品を他社にも製造させるような規制 の導入が進むという「ルール(秩序)形成力」もテスラは発揮していると考えら れる。

 このように、テスラは、社会課題解決型のビジネスエコシステムを構築してお り、その対価としてクレジット収入や自動車業界で最も高い株式時価総額の実 現という市場からの高い評価につながっていると考えられる。テスラが同社の 2019 Impact report の中で「私たちは、持続可能な未来が経済的に実現可能で はないという考えはもはや正しくないと考える」(We believe the notion that a sustainable future is not economically feasible is no longer valid)と記述してい るように、テスラは自ら、社会課題解決型のビジネスエコシステムの優位性を証 明しつつあると言えるのかもしれない。課題は、テスラのような社会課題解決型 のビジネスエコシステムを構築し、社会価値を創出しながら企業として持続的に 成長し、株主を含むすべてのステークホルダーを満足させる企業が例外的な存在 でなく、それぞれの業界の中でどれだけ多く現れるかであろう。日本企業も含め テスラのような企業が世界で数多く現れ、SDGs の目標実現に貢献することを期 待したい。

( 1 ) 2015 年 9 月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」

に記載された 2030 年までの開発目標。17 のゴールと 169 のターゲットから構成される(外 務省 HP)

( 2 ) 2015 年 12 月、フランスのパリで開かれた国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議

(COP21)で合意した 2020 年以降の地球温暖化対策に関する国際的な枠組み。パリ協定に

(29)

は、気候変動枠組み条約に加盟する 196 すべての国・地域が参加し、産業革命以降の世界 の平均気温上昇を 2.0℃未満に抑えるとの全体目標を掲げ、1.5℃未満に抑え各国が努力す ることに合意した。

( 3 ) 日本経済新聞 2020 年 7 月 1 日付記事

( 4 ) 桑原(2018)P. 116-117、竹内(2015)、兼松(2018)、ヘイミッシュ(2019)

( 5 ) 企業の活動は、顧客に価値を届ける活動と位置づけ、それらの一連の活動をバリュー・

チェーン(価値連鎖)と呼ぶ。バリューチェーンは、主活動と支援活動に分類され、主活 動は購買物流、製造・オペレーション、出荷物流、販売・マーケティング、サービスから なり、支援活動は企業インフラ、人材資源管理、技術開発、調達から構成される。企業が その事業活動で持続可能性に配慮するには、バリューチェーンの各活動のそれぞれにおい て持続可能性に配慮することが求められる。バリューチェーンの持続可能性配慮について は、本稿の 9. テスラの ESG 経営で詳述している。

( 6 ) ただし、テスラの場合、スコープ 3 の 15 分類の中の「購入した製品・サービス」に伴 う CO2排出については、精査が必要である。テスラが製造する EV のコア部品の 1 つであ るリチウムイオンバッテリーの製造過程は環境負荷が高いという指摘がある。

( 7 ) 中国については、「中国の大都市では、自動車による大都市の大気汚染への寄与率は 20~

30%程度であり、EV への転換による実質的な改善効果は限られる。それよりも、従来車 の排出ガス規制の強化と古いディーゼルトラックの排除、発電所や工場、家庭における石 炭の使用削減、天然ガスや再生可能エネルギー、原子力への転換のほうが有効」との指摘 もある(大聖(2018)P. 15)

( 8 ) 日本経済新聞 2019 年 2 月 18 日付 記事「18 年の高級車販売、テスラ浮上」等

( 9 ) 日本経済新聞 2020 年 1 月 21 日付 記事「EV1 台、 年 16 万円「給電」日産、 欧州で電力 取引の実験」

(10) テ ス ラ マ ス タ ー プ ラ ン https://www.tesla.com/jp/blog/secret-tesla-motors-master- plan-just-between-you-and-me(2020 年 8 月 30 日確認)

(11) ただし、進捗は国によって異なると考えられる。エネルギーミックスは国によって異な るからである。

(12) 自動車の環境負荷度を測定する議論として、Tank to Wheel と Well to Wheel という二 つの考え方がある。Tank to Wheel とは、文字通り自動車の燃料タンクからタイヤを駆動 するまでという意味であり、燃料タンクに燃料が入っている状態から、走行時にどれだ け CO2を排出するかということである。一方で、Well to Wheel は、油田からタイヤを駆 動するまでという意味であり、燃料をタンクに入れるまでの CO2の排出(これを Well to Tank という)についても考えることである。EV は Tank to Wheel で見た場合は、CO2

排出量はゼロであるが、Well to Wheel で考えた場合、EV のバッテリーが、原油・石炭・

天然ガス等の化石燃料の燃焼によるエネルギーを充電したものであれば、発電時に CO2が 発生しており、ゼロエミッションということはできない。したがって、Well to Wheel で CO2排出量を測定することが重要になる(村瀬(2017))

(13) ただし、これらの取り組みは現時点ではアメリカ等、一部の国・地域に限られている。

(14) 2020 年は各社で EV の発売、発売の発表が相次いでいる。トヨタは LEXUS ブランドで初 の EV 市販モデル「UX300e」を 4 月に発売したほか、ホンダも初の量産型の EV「ホンダ e」

を 2020 年 10 月に国内で発売すると発表した。フォルクスワーゲンや BMW も 2020 年に 欧州や中国市場で EV を投入することを発表している(2020 年 8 月 28 日 日本経済新聞 記事)

図表 2 イーロン・マスク及び関連企業年表 年 月 マスク の年齢 出来事 1971 6 0 6 月 28 日、南アフリカ共和国プレトリアで生まれる 1979 8 両親が離婚。母親と南アフリカの都市を転々とするようになる 1981 10 コンピュータを買いプログラミングを独学 1983 12 最初の商業ソフトウェアである Blaster を販売し 500 ドルを得る 1984 - 86 13 - 15 南アの中学時代、理科の授業中に太陽光エネルギーを支持し化石燃料 を激しく批判し周囲を驚かせる 1989 6
図表 6 GHG プロトコルにおけるスコープ 3 の 15 カテゴリーと具体例 カテゴリー 項 目 内 容 例(トヨタ (万 t 自動車)- CO 2 ) 上   流 1 購 入 し た 製 品・サービス 原材料・部品、仕入商品・販売に係る資材等が製造されるまでの活動に伴う排出 6,3292資本財自社の資本財の建設・製造から発生する排出4543スコープ 1.2 に含まれない燃料及びネルギー関連活動他者から調達している燃料の調達、電気や熱等の発電等に必要な燃料の調達に伴う排出934輸送、配送(上流) 原材料・
図表 8 電動車市場の推移(世界)
図表 14 テスラのバリューチェーン

参照

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