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低経済成長とデフレのDiffusion Indexへの影響

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(1)

低経済成長とデフレのDiffusion Indexへの影響

著者 森 一夫

雑誌名 經濟學論叢

巻 56

号 3

ページ 1‑20

発行年 2004‑11‑30

権利 同志社大学経済学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004665

(2)

【論 説】

低経済成長とデフレの Diffusion Index への影響

森 一 夫

は じ め に

オーアーバック(A. J. Auerback)が,ハーバード大学の経済雑誌(Review of

Economics and Statistics)で,もっとも人気のある息の長い経済分析手法と評した

のが,バロメトリック・フォアキャストである1.数多くの経済統計を合成し て,1 つのバロメーターを作成し,景気を計測し,予測する方法は,長い歴史 を持っている.その主な系譜は,ハーバード景気指数(1919年),ディフュージ ョン・インデックス(DI,1955年),コンポージット・インデックス(CI,1968 年)と続いて,現在にいたっている2

本稿で取り上げるのは,現在の日本で主として用いられているDI である.こ

のDI が過去10 年の間に,低経済成長とデフレという2 つの強烈なテストを受

けている.ここでテストと書いたのは,アメリカでDI のパフォーマンスが悪く なり,変化方向の比較対象が,3 ヵ月先との比較から,6 ヵ月へと変更しても 改善が見込めなかった理由の1 つが低経済成長にあったと考えられたことにあ る.日本経済の景気循環の計測と予測を実行している日本のDI は,この低経 済成長というテストに対して,どのようなパフォーマンスを示したかという検 証が,本稿の1 つの目的である.

本稿の2 番目の目的は,近年のデフレという試練に対して,DI がどのような

1)Auerback〔1〕を参照されたい.

2)括弧内の年号は,それぞれの指数が公表された年を表す.

(3)

影響を受けたかという分析を詳細に行うことである.景気指数の研究では,世 界をリードしていたアメリカでは,ベトナム戦争時の不況期に物価が上昇する というスタグフレーションの景気指数への悪影響を除去するため,1972 年に一 致指数の構成指標の中の名目値で計測されていた 2 つの指標を実質化して,

Deflated CI を作成した3).日本の場合は,不況下のインフレではなく,バブル

崩壊後の物価の下落のDI に及ぼす影響の分析であり,これは我が国のDI にと って初めてのテストである.

以上で述べたように,バブル崩壊後に,ゼロ成長と呼ばれる低経済成長を経 験し,その中でデフレという現象を経た日本経済で,DI という景気循環の計測 と景気予測という2 つの目的をもった景気指数が,どのような影響を受けたか を明らかにすることが,本稿の目的である.

1

景気循環別にみた低成長とデフレ

低経済成長とデフレのDI への影響を分析する前に,バブル崩壊後のゼロ成長 と呼ばれる低経済成長の推移を景気循環別にみてみることにする.次に,デフ レと呼ばれる現象を消費者物価指数で,景気循環別にその強弱の程度をみてみ る.このようにして,ゼロ成長とデフレをどの循環でどの程度の影響があった かを,景気循環の枠組みから整理して,それぞれの特徴を明らかにする.

1. 1 景気循環別にみた実質GDP の成長率

第1 次石油危機後の6 つの循環について,実質四半期GDP 増減率を景気の1

循環(全循環と呼ばれる)と拡張期,後退期に分けて整理すると,第 1 表のよう になる.

バブル崩壊後のゼロ成長と呼ばれる期間の特徴を抽出するために,安定成長

期の4 つの循環(1975 年第2 四半期−1993 年第4 四半期)と比較することにする.

この4 つの循環については,長さはそれぞれ異なるが,景気が1 循環するごと

3)詳しくは,森〔26〕を参照されたい.

(4)

に,平均すれば,実質GDP は17.2%増大した.そして,その内訳は,拡張期

には12.2%増加し,後退期でも平均すれば,3.9%も増大した.

これが,バブル崩壊後の2 つの循環ではまったく様相を異にする.バブル崩 壊後の最初の循環である第12 循環では,1994 年第1 四半期から1999 年の第1 四半期までの,21 四半期(63ヵ月)の年月をかけて,実質GDP は5.2%増加し ただけである.安定成長期との比較では3 分の1 以下である.

この第12 循環の拡張期(1994 年第1 四半期−1997 年第2 四半期までの43 ヵ月)

では,6 度の経済対策が実施され(総額66兆3700億の財政支出)たが,結果とし

て実質GDP は5.4%増大しただけであった.これだけの財政的な梃入れをして

も,安定成長期の拡張期の平均実質GDP の増加率である12.2%の半分以下で あった.

この第12 循環の後退期(1997 年第3 四半期−1999 年第1 四半期までの20 ヵ月)

には,実質GDP は −1.9%減少した.この間において2 度の経済政策を行い,

33 兆円超の財政支出を行っても,実質GDP の減少を止められなかった.1997

年秋から1998 年年央までの金融危機の影響がいかに大きく景気を下振れさせた

かが分かる.

循 環 

平 均 

期 間  拡 張 期  後 退 期  全 循 環  第 8 循環

第 9 循環 第10循環 第11循環

31ヵ月

64ヵ月 45ヵ月

83ヵ月

63ヵ月

36ヵ月 第12循環

第13循環

75年Ⅱ−77年Ⅰ 7.549 78年Ⅰ−80年Ⅰ

9.735 83年Ⅱ−85年Ⅱ

8.623 87年Ⅰ−91年Ⅰ

23.073

94年Ⅰ−97年Ⅱ 5.448 99年Ⅱ−00年Ⅳ

1.872

77年Ⅱ−77年Ⅳ 2.082 80年Ⅱ−83年Ⅰ

8.413 85年Ⅲ−86年Ⅳ

3.690 91年Ⅱ−93年Ⅳ

1.275

97年Ⅲ−99年Ⅰ

−1.925 01年Ⅰ−02年Ⅰ

−2.531

75年Ⅱ−77年Ⅳ 10.610 78年Ⅰ−83年Ⅰ

19.003 83年Ⅱ−86年Ⅳ

13.609 87年Ⅰ−93年Ⅳ

25.625

94年Ⅰ−99年Ⅰ 5.159 99年Ⅱ−02年Ⅰ

0.306

12.246 3.865 17.212

第 1 表 バブル崩壊後の大停滞 1,GDP 増減率(実質・季調)

(5)

次に,バブル崩壊後の2 番目の景気循環である第13 循環(1999年第2 四半

期−2002年第1 四半期までの36ヵ月)では,実質GDP 成長率0.306%しか増大し

なかった.この第13 循環の拡張期の21 ヵ月間では,実質GDP は1.9%の増加 を示したが,後退期の15 ヵ月間には−2.5%の減少になった.

1. 2 景気循環別にみたデフレの様相

まずはじめに,第1 次石油危機後の安定成長期と呼ばれている期間の4 つの 景気循環,消費者物価指数の動向をみてみる.

第 2  表に示されているように,第1 次石油危機を含む第8 循環(1975年4 月−1977年10月までの31ヵ月)の物価上昇率は23.5%で,第2 次石油危機を含 む第9 循環(1977年11月−1983年2月までの64 ヵ月)の物価上昇率は22.1%で あった.これに対して,プラザ合意とその後の円高不況を含む第10 循環(1983 年3月−1986年11月までの45ヵ月)の物価上昇率は6 %と低い数値を示してい る.そして,バブル期を含む第11 循環(1986年12月−1993年10月までの83ヵ 月)の物価上昇率は13.6%であった.

これに対して,バブル崩壊後の2 つの循環では,第12 循環(63ヵ月間)での

循 環  期 間  拡 張 期  後 退 期  全 循 環  第 8 循環

第 9 循環 第10循環 第11循環 第12循環 第13循環

31ヵ月

64ヵ月

45ヵ月

83ヵ月 63ヵ月

36ヵ月

75年 4 月−77年 1 月 18.1 77年11月−80年 2 月

10.3 83年 3 月−85年 6 月

5.8 86年12月−91年 2 月

8.6 93年11月−97年 5 月

2.4 99年 2 月−00年10月

−0.8

77年 2 月−77年10月 5.4 80年 3 月−83年 2 月

11.8 85年 7 月−86年11月

0.2 91年 3 月−93年10月

5.0 97年 6 月−99年 1 月

−0.1 00年11月−02年 1 月

−0.2

75年 4 月−77年10月 23.5 77年11月−83年 2 月

22.1 83年 3 月−86年11月

6.0 86年12月−93年10月

13.6 93年11月−99年 1 月

2.3 99年 2 月−02年 1 月

−1.0 第 2 表 バブル崩壊後の大停滞 2,消費者物価変化率(全国総合 2000=100)

(6)

物価の上昇率はわずかに2.3%であった.そして,第13 循環(36ヵ月間)では,

1999 年8 月を除く全ての月で消費者物価指数の前年同月比はマイナスを示した

が、第2 表が示すように,1 循環36 ヵ月間の物価の下落は−1.0%であった.

ただし,この第13 循環では,景気の拡張期でも物価は下落し続け,21 ヵ月間 で−0.8%の下落を示した.

2

低経済成長が

DI に与える影響

実質GDP の年平均成長率は,高度成長期には約10%,安定成長期には約4

%であった.ここで取り上げるバブル崩壊後の低経済成長期には,しばしば失

われた10 年と呼ばれるように約1 %に低下している.

2. 1 直接の影響

前述のように,実質GDP の成長率が大幅に低下すると,DI を構成する個別 指標の変化率も大きく低下する.第 3 表に示されているように,DI は採用され ている個別指標のそれぞれについて,3 ヵ月前との比較で,増加した場合にプ ラス,減少した場合にマイナスの符号をつける.そして,景気観測としては,

一致指数を構成する11 個の指標において,プラスの符号の全体に占める割合が 50%以上の状態が継続している期間が景気の上昇している局面と認識している.

近年のように,極端に成長率が低くなると,個別指標の変化率も低くなる.

この事実が直接にDI に与える影響としては,3 ヵ月前と比較して決めている,

プラスとマイナスの符号が,少し増加したり,少し減少したりして符号が変化 する場合が多くなる.このことは,拡張期にプラスの符号が続くことが少なく なり,後退期にマイナスの符号が続くことが少なくなるという意味で,DI の景 気局面の判断についての安定性がそこなわれる.

この現象をより具体的にみてみる.DI の一致指数を構成する個別指標の代表 として,鉱工業生産指数を取り上げて説明する.基本的には,景気の拡張期に おいて,生産指数は3 ヵ月前より増加し,プラスの符号が続くのが普通である.

(7)

第 3 表 ディフュージョン・インデックス(DI)変化方向表 Table 1 Direction of Change in 30 Components of Diffusion Indexes 平 成 15 年平 成 16 年 列   列   列  

1 最終需要財在庫率指数(逆サイクル) 2 鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル) 3 新規求人数(除学卒) 4 実質機械受注(船舶・電力を除く民需) 5 新設住宅着工床面積 6 耐久消費財出荷指数(前年同月比) 7 消費者態度指数 8 日経商品指数(42種総合) 9 長短金利差 10 東証株価指数(前年同月比) 11 投資環境指数(製造業) 12 中小企業業況判断来期見通し(全産業)     拡 張 系 列 数     採 用 系 列 数 先行指数(D. I. Leading Index 一致指数(D. I. Coincident Index 遅行指数(D. I. Lagging Index 1 生産指数(鉱工業) 2 鉱工業生産財出荷指数 3 大口電力使用量 4 稼働率指数(製造業) 5 所定外労働時間指数(製造業) 6 投資財出荷指数(除輸送機械) 7 百貨店販売額(前年同月比) 8 商業販売額指数(卸売業)(前年同月比) 9 営業利益(全産業) 10 中小企業売上高(製造業) 11 有効求人倍率(除学卒)    拡  張  系  列  数    採  用  系  列  数 1 最終需要財在庫指数 2 常用雇用指数(製造業)(前年同月比) 3 実質法人企業設備投資(全産業) 4 家計消費支出(全国勤労者世帯、名目) 5 法人税収入 6 完全失業率(逆サイクル) 7 国内銀行貸出約定平均金利(新規)    拡  張  系  列  数    採  用  系  列  数

系  列  名  7.0 1.2 8.0 11 5.0 7

4.0 7

0 5.5 7

3.0 7

0 4.5 7

5.0 7

3.0 7

5.0 7

4.0 7

5.0 7

5.0 7

5.0 7

5.0 7

5.0 7

4.0 6

0 9.5 11

2.0 11

8.0 11

8.0 11

9.0 11

6.0 11

9.0 11

11.0 11

9.0 11

9.0 11

9.0 11

8.0 11

0 5.5 11

0 0 4.0 9

4.0 12

7.0 12

7.0 12

9.0 12

7.0 12

6.0 12

8.0 12

10.0 12

8.0 12

8.0 12

7.0 12

11.0 12

9.0 12

6.0 9

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1 2 3 4 5 6 7

234567891011121234 58.3 72.7 71.457.178.642.964.371.442.971.457.171.471.471.471.471.466.7P

86.418.272.772.781.854.581.8100.081.881.881.872.750.044.4P

33.358.358.375.058.350.066.783.366.766.758.391.775.066.7P (出所)内閣府経済社会総合研究所「景気動向指数−平成16 4 月分−」より転載. 

(8)

これと反対に景気の後退期には,マイナスの符号が継続する.

統計の利用ができる,第3 循環から現在まで,生産指数について,拡張期と 後退期における符号の変化した回数を整理したものが第 4 表である.

ただし,ここで符号の変化の回数というのは,次のようなカウントをしてい る.拡張期では,プラスの符号が継続している状態が途絶えた回数を計算して いる.したがって,単なる拡張期におけるマイナスの符号が現れた月数ではな い.後退期においても同様にマイナスの符号が何回にわたって中断されたかと いう回数を数えたものである.

この第 4 表で示されている景気循環別の生産指数の符号が変わった回数を見 て,2 の事柄が指摘できる.1 つは,予想されていたように,高度成長期と呼 ばれる,第3 循環(1951年10月−1954年11月,神武景気)から第7 循環(1971 年12月−1975年3月,列島改造ブーム)までの5 つの循環では,生産指数が符号 を変えることは非常に少なかったという事実である.特に,この時期における 拡張期は,景気の山や谷の近辺で,生産指数の循環的変動のタイミングが少し 早くなったり,遅くなったりした場合に符号が変わるだけで,拡張局面の途中

循環 第 3 循環 第 4 循環 第 5 循環 第 6 循環 第 7 循環 第 8 循環 第 9 循環 第10循環 第11循環 第12循環 第13循環

拡張期 1 1 1 1 0 2 0 2 6 7 3

後退期 1 1 2 3 1 3 4 4 6 3 1

全循環 2 2 3 4 1 5 4 6 12 10 5 第 4 表 鉱工業生産指数の 3 ヵ月前との増減の符号の変化の回数

(9)

で符号の変わることはほとんどなかった.

2 つめは,第1 次石油危機後の安定成長期,それに続くバブル崩壊後の景気 循環では,生産指数が符号を変えることは,しばしば発生しているという事実 である.特に,安定成長期と呼ばれる第8 循環から第11 循環までの景気後退 期における生産指数の符号が変換する回数が多くなる.

景気循環別にみて,生産指数の符号の変換する回数が多いのは,バブル景気

の第11 循環とそれに続く第12 循環である.いずれも10 回を越えており,他の

循環と比べて,際立って多くなる.

なお,生産指数以外の個別指標での長期間にわたる符号の変化の状態を分析 することは困難である.その理由は,景気の1 循環が終了した時点で,採用指 標のパフォーマンスの点検が行われる.そして,パフォーマンスの良くない指 標は,新しい指標に置き替えられる4)

2. 2 間接的な影響

前節で生産指数について述べたような,景気局面における符号の安定性が悪 くなる現象が,他の個別指標についても発生していることが考えられる.この ような個別指標の符号の不安定な状態が,一致指数に採用されている11 個の 中の多くの指標に発生したとすれば,次のような影響が予想される.

1 番重要で深刻な影響は,DI の不規則変動と呼ばれる現象を多発させること である.ここで不規則変動というのは,景気の拡張局面の途中で,採用指標の 半分以上が3 ヵ月前との比較でマイナスの符号を示し,一時的にDI の数値が 50 以下に落ちる現象をいう.また,後退局面の途中において,半分以上の指標

が3 ヵ月前との比較でプラスの符号を示し,DI の数値が一時的に50 以上にな

る場合も不規則変動である.

バブル崩壊後のような極端な低経済成長が,個別指標の変動幅を小さくし,

4)森〔27〕の第9 章に1960 年から1996 年までの7 回の採用指標の改訂について,具体的に既述が

してある.

(10)

このことが個別指標の3 ヵ月前の値との比較の増減の符号を不安定なものにさ せる.この個別指標の符号の不安定性が,上述のような間接的影響として,DI の不規則変動をもたらし,DI による景気局面の判断に誤りのシグナルを発生さ せることが考えられる.

言うまでもないが,外的ショック,その他の理由で,実体経済が一時的に変 調をきたし,拡張局面の途中で,一時的停滞を示したり,後退局面の途中で,

一時的にリセッションが中断されることは,これまでも再々おこった.典型的 な例としては,第12 循環の拡張局面の途中である,1995 年の年央において,

急激な円高のため,5 月から9 月までDI 一致指数は5 ヵ月にわたり,50%ライ ンを下回ったことがある.

実体経済の変調がもたらす不規則変動と,いま問題にしている個別指標の変 動幅の縮小がもたらす符号の不安定性による不規則変動とを区別することは,

現段階では困難である.したがって,過去70 数年における11 回の景気循環に おける不規則変動の推移を点検することから始めたい.過去におけるDI 一致指 数の不規則変動の月数と景気循環別に整理したものが,第 5 表としてまとめて ある.

この第5 表から判断できるのは,各局面の平均からみて,各局面で3 ヵ月以

上の不規則変動があれば,不規則変動が多い局面であると考えられる.高度成 長期には,第5,第6 循環の2 つの景気後退期に不規則変動が多い局面がある.

1 番多いのは,いざなぎ景気の後退局面の7 ヵ月,次がオリンピック景気の後

退局面の5 ヵ月である.

安定成長期には,第9 循環の後退期に9 ヵ月の不規則変動がある.これは第 2 次石油危機による不況の時期である.そして,バブル景気の長い拡張局面の

途中の1989 年に不規則変動が多発している.

バブル崩壊後は,拡張局面では,第12 循環で一致指数が50 以下になること

が15 ヵ月もある.しかしながら,第13 循環の拡張局面では3 ヵ月だけである.

また,後退局面で,DI 一致指数の数値が50 以上になる月数は,バブル崩壊直

(11)

後の第11 循環で3 ヵ月,第12 循環で2 ヵ月,第13 循環で2 ヵ月であった.

したがって, バブル崩壊後に不規則変動が多いのは, 第12循環の拡張期

(1993年11 月−1997年5 月までの43 ヵ月)だけである.この期間においては,周 知のように,1993 年(19兆2000億円)1994 年(5 兆2500億円),1995 年(21 兆 2200億円)にわたって,膨大な経済対策が実施され,景気回復が行われた時期 であり,経済は基本的に不安定であったことが,不規則変動の多い理由と考え られる.

以上で述べたように,極端な低経済成長が不規則変動に与える影響は,あま り明確な形では見出せなかった.

3

デフレーションが

DI に与える影響

日本のDI に採用されている指標には,名目値で計測された指標と実質値で

循環  拡張局面  後退局面  合計 

拡張期  後退期  継続期間 

全循環  第 3 循環

第 4 循環 第 5 循環 第 6 循環 第 7 循環 第 8 循環 第 9 循環 第10循環 第11循環 第12循環 第13循環 

平均 

0 0 3 1 0 1 1 3 8 15

3 3.2

0 3 5 7 0 3 9 1 3 2 2 3.2

0 3 8 8 0 4 10

4 11 17 5 6.4

31ヵ月 42ヵ月 24ヵ月 57ヵ月 23ヵ月 22ヵ月 28ヵ月 28ヵ月 51ヵ月 43ヵ月 21ヵ月

12ヵ月 10ヵ月 12ヵ月 17ヵ月 16ヵ月 9ヵ月 36ヵ月 17ヵ月 32ヵ月 20ヵ月 14ヵ月

43ヵ月 52ヵ月 36ヵ月 74ヵ月 39ヵ月 31ヵ月 64ヵ月 45ヵ月 83ヵ月 63ヵ月 35ヵ月 第 5 表 一致指数の不規則変動の月数 

(12)

計測された指標が混在している5),この場合,もし価格が大幅に下落すれば,実 質値であれば上昇していた指標が名目値で表示されているために下落するとい うことが起り得る.このような意味で,デフレーションはDI の数値に直接的な 影響をもっている.

第2 章で調べたように,バブル崩壊後の第12 循環と第13 循環における,当

初のデイス・インフレーション,1999 年以降の消費者物価指数(総合全国)の 下落は,下落幅こそ小さいが,長期にわたっていると言う意味で,影響の存在 が考えられる.

そこで,デフレーションの影響が,どの程度まで景気観測に及んでいるかを 分析することにする.もちろん,物価下落の影響は,先行指数や遅行指数の景 気転換点に対する先行月数や遅行月数にもあると考えられるが,一番大きな影 響は一致指数による景気判断への影響である.したがって,本章では,デフレ ーションのDI への影響として,一致指数を取り上げることにする.

現行DI 一致指数に採用されている11 個の指標のうち,名目値で表示されて

いる指標は3 つある.それは,百貨店販売額(前年同月比),商業販売額指数

(前年同月比)と営業利益(全産業)である.ただし,中小企業売上高は,中小企 業出荷指数(製造業)に中小企業物価指数を乗じて作成したものであるため実質 化の対象とはしなかった.デフレーションのDI 一致指数への影響の分析方法と しては,上述の3 つの名目値で計測された指標を実質化し,Deflated のDI を 作成し,これを現行のDI と比較することで,その影響の程度を分析することに する.

具体的な実質化の方法は,百貨店販売額と商業販売額指数について,元の指 標を消費者物価指数(総合,全国)でデフレートした上で,前年同月比の数値を 計算した.また,営業利益については,GDP デフレーターで実質化した.

まずはじめに,計算結果について,次のような諸点を指摘しておきたい.実

5)この点については,旧経済企画庁の景気指数研究会での討論の結果,名目値の方が景気実態を良 く反映している指標もあるという理由で,実質値と名目値の混在が続いてきた.

(13)

質化した数値は異なるが,3 ヵ月前と比較した符号では,元の符号と比べて,

それほど多数のものが変わるわけではない.さらに実質化したものの符号が異 なる場合でも,もっとも多い場合でも,一致指数11 個のうち実質化したものは 3 つであるため,DI の数値そのものの差異は小さい.

その結果,1994 年4 月から2002 年12 月までの105 ヵ月の分析期間の内,

現行のDI 一致指数の数値とDeflated DI で,数値が異なる月数は35 ヵ月,す

なわち全体の3 分の1 だけであった.そこで,第 1 図に示したように,現行の DI 一致指数の数値を実線で表示したグラフに,異なった数値を取った35 ヵ月 の値を×印で記入し,その差異を明示した.

このグラフを見ても分かるように,拡張期に50%以下になり,後退期に50%

以上になるという不規則変動が,実質化することによって是正されたケースは

100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0

94 95 96 97 98 99 00 01 02

第 1 図 現行 DI と Deflated DI

×印が Deflated DI

△ 基準日付の山

▼ 基準日付の谷

(14)

1 つもない.また,現行DI が50%以下なのに,Deflated DI が50%以上になっ たのは,1997 年6 月の1 回だけである.

したがって,このような結果になった理由として考えられるのは2 つある.1 つは,現行DI 一致指数を構成する11 個の指標のうち,デフレーションの影響 を直接に受けると考えられるのは3 指標だけである.2 つめは,消費者物価の 下落している期間は長いが,下落幅は小さかったという事実にあると考えられ る.

4

スパーンに与える影響

DI に採用されている指標は,3 ヵ月前の値と比較して,増加,保合,減少に よって,プラス,ゼロ,マイナスの符号が与えられる.この比較の間隔を統一 3 ヵ月スパーンと呼んでいる.初期の頃には,各指標の MCD(Months for

Cyclical Dominance)スパーンを計測して,不規則変動の平均値より循環的変動の

平均値が大きくなる,もっとも小さな月数が選択されていた.しかし,MCD ス パーンとして,3 ヵ月の指標が多かったために,全部の指標を3 ヵ月前と比較 する,統一3 ヵ月スパーンが採用されて,現在に至っている6)

バブル崩壊後の極端な低成長とデフレーションが各個別指標のMCD スパー ンを変化させ,DI のパフォーマンスに悪い影響を与えている可能性が考えられ る.

そこで,第11 循環(1986年11月−1993年10月),第12 循環(1993年10月−

1999年1 月),第13 循環(1999年1月−2002年1 月)の3 つの循環における,DI

一致指数11 個の個別指標のうち4 半期統計である営業利益を除いた,10 個の

個別指標について,MCD スパーンを計算したものが第 6 表7)である.

この第6 表より明らかなように,バブル崩壊後,MCD スパーンの月数が小

6)この点については,森〔27〕第6 章補注3 に詳しい説明がある.

7)MCD スパーンの計算には,一定以上のサンプル数が必要なため,前後に少し幅を広げて計算可能 なサンプルにした循環がある.

(15)

さくなったものが多く,10 指標のうち6 個もある.そして反対に,MCD スパ ーンの月数が多くなった指標は2 個あり,MCD スパーンの月数に変化のない指

標も2 個ある.

各個別指標のもつMCD スパーンの大きさを用いて,DI 一致指数を作成して みることにする.すなわち,第6 表のMCD スパーンが2 ヵ月の指標は,2 ヵ月 前と比較して符号を決め,MCD スパーンが5 ヵ月の指標は,5 ヵ月前と比較し て符号を決めるという意味である.

このように,統一3 ヵ月スパーンを止めて,MCD スパーンを用いたDI 一致 指数を,バブル崩壊後の第12 循環と第13循環について計算し,そのDI の不規 則変動の月数を整理したのが第 7 表である.なお,比較のために右側に,現行

の統一3 ヵ月スパーンのDI が示す不規則変動の月数が記載してある.

この第7 表が明らかにしたことは,MCD スパーンを用いたDI を作成しても,

1. 生産指数

2. 生産財出荷指数**

3. 大口電力使用量 4. 稼働率指数 5. 所定外労働時間指数 6. 投資財出荷指数 7. 百貨店販売額 8. 商業販売額指数 10. 中小企業売上高 11. 有効求人倍率

3 3 2 3 2 3 7 3 3 1

3 2 4 2 1 3 4 7 2 1

2 2 3 2 1 3 4 5 2 1 第11循環 第12循環 第13循環 第 6 表 MCD スパーンの計測結果

*  MCD スパーンを計算するにはデータが不足していたため,

   1995,1996年のデータを追加して計算した.

**  平成12年11月以前は,原材料在庫率指数が用いられていた.

*** 営業利益は四半期統計のため MCD スパーンの計算から除   外されている.

(16)

統一3 ヵ月スパーンより不規則変動が減少するという保障はないということで ある.第7 表が示すように,第12 循環では,確かにMCD スパーンを用いた

DIの不規則変動の月数は,統一3 ヵ月スパーンを用いたDI よりも,17 個から

12個へと,5 個減少している.しかし,第13 循環では,3 個から6 個に3 個増

大している.

前述のように,バブル崩壊後の第 12,第 13 循環において,DI 一致指数,

MCD スパーンが減少した指数が多かった.そこで,反対にMCD スパーンを,

現行の統一3 ヵ月スパーンから統一4 ヵ月,統一5 ヵ月スパーンへと長くした ら,不規則変動の発生にどのような影響があるのかをテストしてみた.テスト したのは,1 番不規則変動の多かった第12循環である.計算結果は第 8  表に提

第12循環   拡張期   後退期  合 計

10 2 12

15 2 17

3 3 6

2 1 3 第13循環

  拡張期   後退期  合 計

MCDスパーン 3 ヵ月スパーン

第 7 表 MCD スパーンを用いた DI 一致指数 不規則変動の月数

3 ヵ月統一スパーン 4 ヵ月統一スパーン 5 ヵ月統一スパーン

2 2 2

3 3 2

5 5 6

4 3 2

1 1 0

2 1 1

2 0 0

0 0 0

拡張期間  後退期間 

93年 11-12月

94年 1 -12月

95年 1 -12月

96年 1 -12月

97年 1 - 5月

97年 6 -12月

98年 1 -12月

99年 1 月 第 8 表 スパーンの長さと不規則変動月数(第12循環 DI 一致指数)

(17)

示してある.

この表が示すように,低成長でデフレの下の循環では,スパーンを長くすれ ば,毎年の不規則変動が少なくなるという明確な事実はなかったと言うことで ある.明確に不規則変動が減少したのは,1996 年,1997 年,1998 年であった.

また,第12 循環では,後退期における不規則変動が減少している.

さらに,統一3 ヵ月スパーン方式を,3 ヵ月移動平均と解釈する見方がある が,その意味では,4 ヵ月移動平均,5 ヵ月移動平均でみても,不規則変動の 減少の効果は小さいと考えられる.

あ と が き

バブル崩壊後の失われた10 年と呼ばれた,日本経済の停滞期におけるDI の パフォーマンスを調べたのが本稿である.

大停滞期における特徴の第1 番目は低経済成長である.この低経済成長が,

一番大きな影響力をもったのは,第13 循環である.景気循環の計測という観 点から,一致指数の不規則変動の多さを調べた結果,第12,13 循環の方が不 規則変動は多かった.しかし,本稿での分析としては,極端な低経済成長が一 致指数の不規則変動に与えた影響は,それほど大きなものではなかったと考え られる.

次に,デフレのDI に与える影響を調べた.これは1960 年にDI が公表され て以降,初めての経験である.デフレのDI への影響を,名目値で計測された3 つの個別指標を実質化し,Deflated DI を作成し,現行DI と比較するという方 法で,その影響を調べた.結果としては,第12,第13 循環ともに大きな影響 は認められなかった.

最後に,この大停滞の間に日本経済の構造が大きく変貌したと認識されてい る.そこで,個別指標のMCD スパーンに,この構造変化がどのように反映さ れているかに注目した.一致指数に採用されている個別指標に,MCD スパーン の短くなった指標が多かったが,この事実が不規則変動に与える影響は明確に

(18)

は見出せなかった.

また,現行の統一3 ヵ月スパーンを4 ヵ月,5 ヵ月と長くしたDI 一致指数を 作成したが,DI の安定性に大きな影響は認められなかった.

景気循環の計測という役割を持つDI に対して,低経済成長とデフレという 大きな圧力が,どのような影響力をもったかを分析してみて,次のような認識 を得た.それは,DI という単純な構造を持っている景気指数の特性として,意 外に経済の構造変化に対して,ある種の頑健性のような性質を持っているので はないかという考えである.なお,この点に関しては,もう少し時間が経過し た後で,詳しい分析が必要と考えられる.

(19)

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(21)

The Doshisha University Economic Review Vol.56 No.3 Abstract

Kazuo MORI,The Effects of Low-growth rates and Deflation on Diffusion Index This article investigates the effects of low-growth rates and deflation on the performance of diffusion index. The results imply that low-growth rates did not prove any evidence linked with unsatisfactory measuring business cycles.

Furthermore this analysis does not find convincing evidence that deflated diffu- sion index is useful.

参照

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