あらまし
本稿は、昨年来の景気後退による採用内定者 の内定取り消しや新規学卒者に対する採用抑 制、さらには、近年深刻化する就職超氷河期世 代の年長フリーター(非正規雇用者)化等によ りその問題性が再び問われ始めている「新卒採 用に係る年齢制限の妥当性」について、検討を 試みるものである。
まず、年齢制限の弊害について、非正規雇用 者の正規雇用化が困難な現状だけでなく、生涯 賃金に換算した場合の正規雇用者との格差や、
低所得(者)ゆえに大方生活保護による支援が 必要になってくると思われる老後の試算結果等 も示し、弊害の深刻さを知る。続いて、募集・
採用段階の年齢制限の違法性が争点となった事 案や新卒採用での年齢制限を例外的に許容する 雇用対策法の法条文、そこにいたるまでの経緯 等を概観し、制限の合理性の根拠とされてきた
「長期勤続によるキャリア形成を図る」という 雇用慣行の存在を確認する。その上で、募集・
採用に係る年齢制限禁止の例外事由としてそう した取扱いが妥当なのか否か、ADEA(アメリ カ年齢差別禁止法)の定める例外等と比較する
ことにより、一応の判断を行う。さらに、当該 慣行の現場での実効性についても「知的熟練論」
の観点から考察を加える。そして最後に、当該 例外事由の取扱いを含め、年齢制限による弊害 を解決するために今後検討していくべき方向性 について私見を述べる。
₁.はじめに
₁.₁ 問題の所在
2007年6月1日に成立、同月8日に交付された
「雇用対策法及び地域雇用開発促進法の一部を 改正する法律」1(以下、「雇用対策法」と呼ぶ)
では、第10条において、それまで努力義務であっ た募集・採用に係る年齢制限の禁止(旧法7条)
が義務化され2、あわせて、厚生労働省令で定め る当該例外事由3についても参議院厚生労働委 員会での付帯決議4を受けて抜本的な見直しが 行われ、必要最小限に限定された5。そしてそれ により、本稿の検討項目である「長期勤続によ るキャリア形成を図る観点から新規学卒者等の 若年者等を期間の定めのない労働契約の対象と
新規学卒者採用における年齢制限の妥当性
在 原 幸 子
1 平成19年法律第79号。
2 雇用対策法10条が禁止するのはあくまで「年齢」による制限であって、例えば「来年3月卒業予定の方を募集」のように新規学 卒者のみを募集する場合は「年齢制限」に該当せず、規制の対象にならない。櫻庭涼子『年齢差別禁止の法理』信山社,2008年,
54ページ。
3 平成13年厚生労働省告示第295号。
4 雇用対策法及び地域雇用開発促進法の一部を改正する法律案に対する付帯決議
(中略)
五、労働者の募集及び採用に係る年齢制限の禁止の義務化に当たり、事業主等への周知徹底に努めるとともに、真に実効性あ るものとなるよう、従来、例外的に年齢制限が認められる場合として指針に定められてきた事項を抜本的に見直し、必要最低 限に限定すること。また、国家公務員及び地方公務員についても、民間事業主への義務化を踏まえ、本改正の理念の具現化に 向け適切な対応を図ること。
5 雇用対策法施行規則第1条の3第1項。これまでの10項目から6項目に限定され、かつ個々において修正が行われる。(平成19年厚 生労働省令第102号。)
して募集・採用する場合の年齢制限」について も、規制の例外として維持された一方で、「経 験不問」及び「新規学卒者以外の者の場合、新 規学卒者と同等の処遇6により募集・採用を行 う」という2つの要件7が新たに課される等、内 容に修正が加えられる。
ところで、新卒採用におけるこうした年齢制 限の存在は、離学時に不況及びそれに伴う企業 の採用抑制等が重なり初期の就職活動が上手く いかなかった者たちにとっては、それ以降、正 規での雇用の道を閉ざされかねない大きな障害 でもある。事実、新卒労働市場が極めて厳しかっ た1993~
2004年頃に入職期を迎えた、いわゆ
る「就職超氷河期世代(ロストジェネレーショ ン)」においては、景気の回復基調が継続し新 規学卒者を対象とする民間企業の求人総数がバ ブル期を超えた2007年度(2008年3月卒)の時 点8でも92万人が[年長]フリーター(総務省統 計[労働力調査]では25~34歳と定義)の状
態にあった。全体(同調査では15~34歳と限定)
でみれば、ピーク時(2003年度)の217万人か ら181万人(2007年度)とその総数は大幅に減 少している一方で、年長若年者の占める割合は 依然として横ばい状態9なのである。つまりこれ らから、25歳以降になると、景気の変動に関わ りなく正規での就職が困難な状況にいたること がうかがえる。また、この就職超氷河期世代の ような問題は年齢制限が存在する限り、新卒労 働市場の安寧を害する要因が生じるたびにその 発生が予測できるものであったが10、危惧して いた通り、景気後退が再び顕在化した2008年秋 以降、2009年度の採用内定者及び2010年度の新 規学卒者等に対しての内定取り消し、採用抑制と いうかたちで既にその影響がみえ始めている11。
₁.₂ 本稿の展開
そこで、本稿では、2007年の雇用対策法改正 においてもなお、募集・採用に係る年齢制限禁 止の例外事由の1つとして維持された「長期勤 続によるキャリア形成を図る観点から、新規学 卒者等の若年者等を期間の定めのない労働契約 の対象として募集・採用する場合」について、
その例外としての妥当性等を検討したい。当該 年齢制限の弊害を整理し(
2.
)、判例、雇用対策 法の動向を改めて概観する(3.
)。続いて、例外 の動機とされる「長期勤続によるキャリア形成 を図る」という雇用慣行について、①アメリカ の年齢差別禁止法(ADEA)が規定する例外事 項等との比較や②雇用の現場における実効性の 検証から、年齢制限の合理性の根拠として妥当 なのか否か考察を行う(4.
)。その上で、最後に、新規学卒者採用における弊害に対して今後どの ように対応していくべきなのか、筆者なりに考 える方向性を述べたい(
5.
)。₂.新規学卒者採用における年齢制限の弊害
₂.₁ 現行法と新卒(等)労働市場
1.
の冒頭でも触れたように、新卒採用におけ る年齢制限の弊害(障害)に対しては既に改善 に向けた取り組みが進められているが、それら には限界(課題)も存在していると考える。確かに、2007年の雇用対策法改正をみると、
「青少年の雇用機会の確保等」を目的に既卒者 採用・通年採用の導入等を事業主の努力義務と する第7条・9条12が新設されたのに加えて、従 来からの例外事由である新卒採用の年齢制限に
6 同等の処遇とは、新規学卒者と同様の訓練・育成体制、配置・処遇をもって育成しようとする場合を指し、賃金等が新規学卒 者と完全に一致しなければならないという趣旨ではない。(厚生労働省「労働者の募集・採用における年齢制限の禁止リーフレッ ト」<http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/other16/dl/index03.pdf>,2009/02/28,5ページ。)
7 単純な転職者といったタイプの求職者は例外事項の対象外となる。
8 (株)リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査」<https://www.works-i.com/pdf/bairitsu_2008.pdf>,2009/02/28。
9 総務省「労働力調査」<http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/ndtindex.pdf>,2008/12/01。
10 新規学卒者の就職状況が回復傾向にあった2008年4月の段階で、とりわけ「年齢制限」の存在を強調したものではないが、景気 の悪化及び採用抑制等が再び発生した場合、新卒労働市場は厳しい状態に陥るだろうと危惧していたものとして、本田由紀「若 年就労問題に対してより強力な取組みを」(『NIRA研究報告書/就職氷河期世代のきわどさ―高まる雇用リスクにどう対応すべき か―』総合研究開発機構,2008年),55ページ。
11 内定取り消しについては、日本経済新聞2009年1月23日(夕刊),16ページ。新卒採用の採用抑制は、日本経済新聞2009年2月26 日(朝刊),1ページ。
12 平成19年厚生労働省告示第275号。第7条の実効性を確保するため事業主には、人物本位(能力・経験の正当な評価)の採用と いう努力義務が課され、既卒者採用・通年採用の他、①求められる能力・資質の明確化、②トライアル雇用の活用等、有期雇 用から正社員への登用制度の導入、③職業能力開発の推進といった対処法が指針の中で示された。
も、新たに「経験不問」及び「新規学卒者以外 の者の場合、新規学卒者と同等の処遇により募 集・採用を行う」という2つの要件が課され単 純な転職者に対する年齢制限が禁止される等、
若年者に門戸を開くための法体制が整備されつ つある。また、現に第二新卒者のための労働市 場が一定程度存在していること13等から、筆者 の問題意識については、マイナス面を強調し過 ぎるのではないかとみる反論もあるかと思われ る。
しかし、実際のところ第7条はあくまで努力義 務の規定に過ぎないことに加え、第二新卒者14の 労働市場(概ね「新卒者枠」と「中途採用者枠」
に二分化される15)においても、募集・採用を「新 卒者枠」で行う企業の実に59.8%が「年齢」また は「卒業年次」いずれかの上限を課している16。 そして、年齢の上限では「25歳」が32.8%で最 も高く「30歳」がそれに次ぐ等、「25歳」を境 にして1つ年齢が上がる毎に応募を受け付ける 企業は減少していく17。これは卒業年次の場合 も然りである。そのため、この「新卒者枠」を「25
~
34歳」と定義される年長フリーターにとって
の再チャレンジの機会と位置付けようとして も、残念ながら現時点では、新卒採用における 年齢制限の存在を許容できる水準までは機能し ていないと判断せざるを得ない。一方、「中途 採用者枠」に関しても、本来即戦力となるべき 人材の確保を目的としているため83.0%の企業 が職務経験を応募の条件としている。ゆえに、
今回の法改正によりそのような職務経験を問う 募集・採用段階での年齢制限が禁止されたとは いえ、キャリアの認定がされ難い非正規から正 規雇用への組み入れを目標とする「年長フリー
ター」対策としてその実効性を判断した場合、
こちらも個人の職業能力の面でなお厳しい状況 にあるといえよう。
もっとも、2007年の改正により若年者を取り 巻く雇用情勢が従来よりも好転していく可能性 については否定しないが、昨今の景気基調をみ る限り暫くは難しいのではないかと思われる。
今後の推移に注意したい。
₂.₂ 生涯賃金と老後
好況等による新卒労働市場回復の恩恵を受け られるのは、募集・採用に係る年齢制限禁止の 例外について現行規定が維持される限り回復期 以降の新規学卒者であって、その効力が前世代 に遡及されることはない。実際、今日の「就職 超氷河期世代の年長フリーター化」はそうした 結果である。ゆえに、第7条の努力義務規定が 将来にわたって当初の期待通りに機能しない場 合には、彼らの非正規(不安定)雇用状態は職 業人生の終了時まで継続していくものと予想で きる。
以下、そうした事態が改善されない場合に予 測される経済的な問題を2点指摘したい。
₂.₂.₁ 雇用の終了までの所得試算
このとき最も深刻に受け止めなければならな いのは「所得」の問題18であろう。厚生労働省「平 成19年賃金構造基本統計調査(全国)結果19」 によると、正規雇用とそれ以外の雇用形態の者13 過去3年間に約6割の企業が正社員の採用の際に「第二新卒者」を採用対象とし、そのうち9割近く(85.9%)が実際に採用して いる。JILPT 調査シリーズ No.3『第二新卒者の採用実態調査』労働政策研究・研修機構,2005年,26ページ。
14 JILPT(2005)(企業調査)では、「第二新卒者」について、企業の中でその定義がある場合にはそれによるものとし、特にない
場合には、「学校(高校、専門学校、短大、高専、大学、大学院)卒業後おおむね3年以内の者(学校卒業後すぐに就職する「新 卒者」を除く。また、職務経験の有無を問わない。)。」と定義している。
15 業種でみると、新卒者枠では情報通信業、金融・保険業が多く、中途採用者枠では飲食・宿泊業、運輸業が多いというように 偏りがある。その他、新卒者・中途採用者とは別の枠(第二新卒者枠)で採用を行う企業もあるが少数(2.9%)である。JILPT
(2005),前掲書,27ページ等。
16 以下、第二新卒者の労働市場に関する数値は2004年にJILが行った調査報告による。個人及び企業((株)帝国データバンクの企 業概要データベースCOSMOS2に登録されている従業員300人以上の全数10,488社/有効回答率23.8%)を対象にアンケート調査を 行っている。
17 25歳では年齢制限のある企業の92.1%が応募を受け付けているが、26歳になると59.2%、31歳以降は10%程度まで下がる。JILPT
(2005),前掲書,48ページ。
18 宮島理『就職氷河期世代が辛酸をなめ続ける』洋泉社,2007年,123-125ページ。
19 「平成19年賃金構造基本統計調査(全国)結果」<http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z07/kekka1-5.html>,
2009/02/28。
との間には平均賃金に大きな隔たりが存在し、
前者が318.2千円(平均40.7歳、勤続12.7年)な のに対して後者は192.9千円(平均43.5歳、勤続5.9 年)と、正規雇用の6割程度の水準に止まって いる。また、後者では年齢が上がっても賃金
(カーブ)の上昇はあまりみられず20、生涯賃金 に換算した場合、前者が2億791万円であるのに 対して後者では、それがフルタイムである場合 に1億426万円(正規雇用の5割程度)、パートタ イムでは4637万円と21その格差はさらに開く。
そのため、非正規雇用者については生涯正規雇 用だった場合と比べると、老後に向けた生活資 金の準備(公的年金の加入と納付等)が十分に 行えない可能性(「潜在的老後生活困窮者」)が 高いと考えられる。
₂.₂.₂ 老後における生活保障費等試算
就職超氷河期世代の潜在的老後生活困窮者に 対しては、実際に生活が困窮し最終的にセーフ ティネットの最後の砦である生活保護(生活扶 助及び住宅扶助)の支援を受けることになった 場合を想定した試算が既になされている22。そ れによると、非正規雇用者の増加等によって生 じる潜在的老後被保護者がまず77.4万人に上り、そのうち全員が65歳から死亡時まで満額の生活 保護を受給すると仮定して新たに必要となる追 加的な予算額は累計で約17.7~
19.3兆円と算定
されている。これは、「現実になれば社会的に も深刻な影響を与える規模であることが予想さ れる」程の大きな負担額であるという23。ゆえに、潜在的老後生活困窮者を極力生み出さない努 力、すなわち、非正規雇用者を個々の職業人生 のなるべく早い段階で生涯賃金が高く比較的安 定した正規雇用へと組み入れていくことが求め られてくるのではないだろうか。
₂.₃ 小括
「若年者の雇用対策」という観点から改正さ れた2007年雇用対策法には、努力義務に止めら れた第7条、新卒採用における年齢制限を例外 的に許容する厚生労働省令等、周囲の期待に反 して限界も存在する。また、そうした影響を最 も受ける非正規雇用者は相対的に低所得層でも あり、現在の生活基盤だけでなく老後に向けた 備えの点でも不安を抱えているといえる。そし て、実際、彼らの老後の生活保障に関しては既 に多額の国家負担が試算されている。
₃.年齢制限をめぐる法的動向
₃.₁ 判例―国家公務員採用Ⅲ種試験受 験資格確認等請求事件
3.1
では、新卒(等)労働市場における年齢差 別事案に対する判例の動向を整理する。国家公務員採用Ⅲ種試験受験資格確認等請求 事件24は雇用対策法の旧第7条(現第10条)では なく、国家公務員法(以下、「国公法」と呼ぶ)
44条(受験の資格要件)[及び憲法14条1項(法
の下の平等)]違反が争点となった事案である。しかし、年齢制限禁止の理念に関しては、2007 年の雇用対策法の改正において、「五、…国家 公務員及び地方公務員についても、民間事業主 への義務化を踏まえ、本改正の理念の具現化に 向け適切な対応を図ること」という1項が参議 院の付帯決議に加えられる等、「改正雇用対策 法の年齢差別禁止規定は、法条文上は公務員に 適用されない25が、その趣旨は公務員法の平等 原則26に含まれていると解され27」ている。また、
同改正による新規学卒者等の募集・採用に係る 年齢制限規制の変更点に関しても、「経験不問」
20 注)19。
21 「正社員との生涯格差1億円!フリーターの描けない未来予想図」『週刊東洋経済2006年5月13日号』,2006,45ページ。
22 辻明子「就職氷河期世代の老後に関するシミュレーション」(『NIRA研究報告書/就職氷河期世代のきわどさ―高まる雇用リスク にどう対応すべきか―』総合研究開発機構,2008年),114-123ページ。データの関係上、1968~1977年出生の者を就職超氷 河期世代として算定している。
23 辻(2008),前掲論文,114ページ。
24 判例集への登載はないが、浅田訓永「公務員採用試験における受験資格の年齢制限と憲法14条―国家公務員採用Ⅲ種試験受験 資格確認等請求事件を素材として」『同志社法学』(同志社大学)第59巻1号,2007年,131-171ページ,が本論、文末脚注に続 けて、資料(1)というかたちで判決全文を載せている。
25 雇用対策法は原則公務員にも適用されるが、年齢差別禁止規定は適用除外とされている。
26 国公法27条、地方公務員法13条。
27 濱口桂一郎「雇用対策法改正と年齢差別禁止」『地方公務員月報』平成20年3月号,2008年,8ページ。なお、国会における公務 員への適用問題の審議経過等については、同論文,7-11ページ。
という要件が新たに課される等28の修正はあっ たものの、依然として「日本的雇用慣行」との 調整から禁止の例外事項として維持されてい る。よって、これらを考え合わせれば、国公法 及び雇用対策法の2つの法律間、さらに、新卒 採用に限定して雇用対策法改正前後の「年齢差 別禁止理念」には、大きな隔たりや変更はない と解釈してもよいだろう。
₃.₁.₁ 事案の概要と本稿での考察
本件は、平成15年度国家公務員採用Ⅲ種試験(以下、「本件採用試験」とする)において、人 事院規則8-18第7条1項及び別表第3(以下、「本 件受験資格規定」とする)の定める受験資格年 齢29を備えていないことを理由に本件採用試験 の申込みを受理されなかった原告(51歳)が、
本件受験資格規定の国公法44条、憲法14条1項 違反、及び被告(国)に対して本件採用試験の 受験資格を有することの確認を求めるとともに 損害賠償を請求した事案である。
以下、
3.1
では、国公法44条の定めに基づく30 本件受験資格規定(年齢制限)について、どの ような基準によって同条のいう「官職に応じ、その職務の遂行に欠くことのできない最小限度 の客観的且つ画一的な要件」として判断される のかに的を絞り31、判旨を整理する。新卒(等)
採用における年齢制限の合理性についてその根 拠を確認したい。
₃.₁.₂ 判旨
₃.₁.₂.₁ 第1審判決
32まず、かかる受験資格について、職務内容や 雇用慣行等の社会情勢を踏まえて決定されるべ きものであると解する。その上で、わが国のこ れまでの雇用について、長期雇用を前提として
新規学卒者等の一定年齢以下の若年層に優先し て就職機会を与え、組織内で基幹的人材を育成 していく形態が一般的であったとする。またそ のため、若年層以外の採用となると、適任者の 十分な確保が困難となることの他、定年制(国 公法81条の2)との関係で組織内での育成期間 が限られてしまう等の問題が生じるという。
よって、本件受験資格規定は、「長期勤続が可 能な新規学卒者等を中心とする若年層から必要 な人材を確保するため、官職に応じ、職務の遂 行に欠くことのできない最小限度の客観的かつ 画一的な要件として設けられたものであり、こ れが不合理であるということはできない。」と 判示した。
もっとも、同判決においても、雇用対策法の 旧第7条や国家公務員試験の受験資格年齢につ いてその撤廃を示唆した平成15年人事院勧告等 から雇用形態に変化の兆しがあることは認めて いるが、最終的には「基本的な枠組みは従前の まま維持されている」として反論を斥けた。
₃.₁.₂.₂ 控訴審判決
33第1審の判旨に加え、(第1審で述べられた)
長期雇用を前提として新規学卒者等の一定年齢 以下の若年層に優先して就職機会を与えること について、「社会政策、行政政策としても正当 化されてきた」として本件受験資格規定の合理 性を認めた。
しかしその一方、同判決では、本件受験資格 規定(年齢制限)により、受験すらできない者 が生じることや仮に受験が認められれば合格す ると思われる受験資格年齢を超えた優資質者を 結果的に排除してしまうこと、そもそも本件試 験がⅢ種職員の職務(官職)の性質上、将来的 に重要困難な業務を担う基幹的人材となり得る 者の採用を目的としたものではないこと等か ら、年齢制限を設けることの合理性については 疑問を抱く余地のあることを認めている。ただ、
28 注)7。
29 別表第3から、17歳以上21歳未満。
30 国公法44条は、「人事院は、人事院規則により、受験者に必要な資格として官職に応じ、その職務の遂行に欠くことのできない 最小限度の客観的且つ画一的な要件を定めることができる。」と規定している。
31 募集・採用における年齢制限と憲法14条との関係については、浅田(2007),前掲論文,137-145ページ。
32 東京地判平成16年6月18日
33 東京高判平成16年9月28日
それでも最終的には、歴史的に合理性があるも のとして制定され長年にわたり受容・実施され てきた制度であり、「明らかに不合理なものと は認められ」ないとしている。
₃.₁.₂.₃ 最高裁決定
34「本件上告理由は、違憲をいうが、その実質 は単なる法令違反を主張するものであって、明 らかに上記各項(民事訴訟法312条1項または2 項=筆者注)に規定する事由に該当しない」と して上告を棄却した。
₃.₁.₃ 評価
本判決では、等しく「長期雇用を前提として 新規学卒者等の一定年齢以下の若年層に優先し て就職機会を与え、組織内で基幹的人材を育成 していく」という雇用慣行等を根拠に新卒採用 における年齢制限の合理性を肯定する。しかし 一方では、そのような雇用形態に変化の兆しが あることや職種等によっては(組織内で育成す るとはいえ)将来的に基幹的人材となり得る者 を採用する必要がない場合(試験)もあること 等を述べ、年齢制限の合理性には疑問を呈する 余地のあることを示唆している35。前者の雇用 慣行については
4.2
で改めて検討するが、後者の 人材育成の点では、2007年より、高校卒業レベ ルである国家公務員採用Ⅲ種試験において、フ リーター等の再起を念頭に30歳代の人を対象と して36通常の試験とは別の「中途採用者選考試 験(再チャレンジ試験)」37が実施されている。すなわち、少なくとも本件事案の対象であるⅢ 種職員については、その職務(官職)の性質から、
年齢制限を設けなければならないほど長期的な
人材育成期間を要する立場とまではいえないと 解釈もできるわけである。
よって、募集・採用に係る「年齢制限の禁止」
やフリーター等の「再チャレンジ」が声高に叫 ばれる今日、現行の学卒者一括採用(方式)に 関しても、一律に年齢制限を課すのではなく、
個々に職務内容や育成期間等を検討し真に年齢 制限が必要なのか、設定した上限年齢は妥当な のか否か等について見直す時期に来ているのか もしれない。
₃.₂ 法―年齢制限禁止の例外である新 規学卒者採用
雇用対策法の2007年改正では、
1.
で述べた通 り、それまで努力義務であった募集・採用に係 る年齢制限の禁止(旧法7条)が例外を6項目に 削減して義務化(第10条)された。そこで、3.2
では、そうした過程で、第10条の例外の1つと して制約付きながらも維持された「長期勤続に よるキャリア形成を図る観点から新規学卒者等 の若年者等を期間の定めのない労働契約の対象 として募集・採用する場合」の年齢制限につい て、修正に止められた経緯等を概観する。そこ から、年齢制限の合理性を肯定する根拠が見出 せるのではないかと考える。₃.₂.₁ 審議経過とその問題点
雇用対策法等の改正議論が「人口減少下にお ける雇用対策の検討」という観点から始められ たのは、2006年8月24日の労働政策審議会職業 安定分科会と同年9月27日の同雇用対策基本問 題部会あたりからだと思われる38。しかし、本 稿との関連でいえば、青少年の雇用機会の確保
34 最三決平成17年4月19日
35 憲法14条の問題として、公務員試験の受験資格年齢(年齢制限)の合理性について疑問視する見解がある。松井茂記『日本国 憲法〈第2版〉』有斐閣,2002年,382ページ。
36 このように一定の年齢層のみを対象とした特別試験を実施することについて、その問題性を指摘するものとして、浅田(2007),
前掲論文,141ページ。
37 その他、地方公務員レベルの採用試験においても埼玉県草加市が上限年齢を43歳に、長野県庁及び鳥取県庁でもそれぞれ35歳 に引き上げている。また千葉県市川市では、年齢制限自体を完全に撤廃している。柳澤武「高齢化と年功序列制度の崩壊―日 本型雇用社会の将来像とは?―」『名城大学総合研究所総合学術研究論文集』(名城大学)5号,2006年,112ページ。
38 審議会等の審議経過については、「厚生労働省HP/審議会・研究会等」<http://www.mhlw.go.jp/shingi/index.html>,2009/03/06。柳 澤武「新しい雇用対策法制―人口減少社会における年齢差別の禁止」『季刊労働法』218号,2007年,112-113ページ。紺屋博 昭「雇用対策法の意義と問題点―若年者らの就業促進および雇用機会の確保と募集採用時の年齢制限の禁止―」『日本労働法学 会誌』111号,2008年,131-133ページ。
等を図るため、①募集・採用時の年齢制限の緩 和(事業主の努力義務化)、②若年者の能力を 正当に評価するための募集方法の改善等が議論 された一方で、募集・採用段階での年齢制限禁 止の義務化については、同年12月の「建議」及 び翌年1月19日に厚生労働大臣より同審議会に 示された「法律案要綱」においても触れられな かった。その後の与党手続(審査)である自民 党の雇用政策調査会(同月24日)の段階にいた り初めて、「募集・採用時の年齢制限により応 募の機会すら得られない」現状の問題性が指摘 され、厚生労働省へ制限禁止の義務化に向けた 申入れが行われる39。結果、同月26日に厚生労 働大臣が改正法への義務化規定の盛込みを表明 し、続いて2月13日に閣議決定、改正法案の国 会提出、4月26日には衆議院の可決と進み、参 議院では、「年齢制限の例外は必要最小限であ るべき」ことを要請する付帯決議が付された上 で6月1日に可決、成立に至った。そして、例外 事項の具現化は省令に委ねられる。
ところで、筆者は、一連の審議中、判例や旧 法等で新卒採用に係る年齢制限の合理性の根拠 とされてきた「長期勤続によるキャリア形成を 図る」という雇用慣行について、その実態や評 価(判断基準としての妥当性)等、改正時に再 検討を行うべき事項の議論がなされていない40 点を注視する。年齢制限禁止の例外事由が削減 される中にあって、なぜ新卒採用のケースが維 持されたのかが不明瞭なのである41。つまり、
改正目的である「若年層の雇用機会の拡大」の 実現を真に期待するのであれば、その障害(問 題)の1つである募集・採用段階での年齢制限 に関しても、制限の禁止あるいは緩和の義務化 に向けてより活発な議論を行うべきだったので はないか42と、個人的には考える。
もっとも、
3.1
で取り上げた判旨等にたち返れ ば、年長フリーターの増加や雇用就業形態の多 様化等といった雇用情勢の変化、さらには個人 の能力の正当な評価等という社会的要請よりも従前からの雇用慣行、特に企業の経営上の権益・
必要性への配慮が優先された結果、今回の改正 においても、当該ケースについて、従前規定の 修正・維持に止められたと推測するのは容易い ことではある。すなわち、現行法体制の下では、
新卒採用時の年齢制限が年齢に対しての一種の
「偏見・誤解」ではなく「経済活動」との関連(必 要性)から行われる場合、それを禁止すること は「企業の経済(採用)活動の自由」との整合 性から難しく、また適切ではないということな のであろう。
₃.₂.₂ 例外からの削除事項とその理由
3.2.1
の審議経過からは、新卒採用のケースが年齢制限禁止の例外として維持された理由につ いて明確にみえてこなかった。そこで、
3.2.2
で は見方を変え、逆に例外から削除された項目と その理由を整理することにより、当該ケースが 削除されなかった(すなわち、残された)理由 について可能な限り迫りたいと考える。2007年の改正では、それまでの例外事由から、
①既に働いている他の労働者の賃金額に変更を 生じさせることになる就業規則の変更を要する 場合、②商品やサービスの特性により顧客等と の関係から業務を円滑に遂行する要請がある場 合、③労働災害の防止等の観点から特に考慮す る必要がある場合、④体力、視力等が採用後の 勤務時間を通じ一定以上であることが不可欠な 業務の場合の4項目が削除されたが、省令案の 中では、現実に①のようなケースがあまりない ことから①を、②③④については個人差・能力 差があることを年齢制限に適さない理由として 説明している43。つまり、①を除いた②③④に ついては、「年をとると全員○○できなくなる、
□□ではなくなる」という単純なステレオタイ プ的な年齢制限を禁止し、極力個人の能力を正 当に評価する方向へ向かうべきだとする改正方
39 その後、与党実務者協議においても同様の合意がなされ、厚生労働省へ申入れを行っている。
40 年齢制限の禁止と日本的雇用慣行は根本的には相反するので、禁止にあたっては当該慣行及び今後の雇用政策の方向性につい て再確認すべきであった。改正法成立後の第30回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会(2008年6月22日),森 戸委員、長谷川委員の発言より。
41 もっとも(禁止の例外事項として維持された経緯も含め)省令案については、「骨太の方針2006」等で示された新規学卒者以外 に広く募集採用の門戸を広げる、「複線型採用」という雇用政策の影響もあるのだろう。
42 同旨の見解として、紺屋(2008),前掲論文,137-138ページ。
43 注)40。同部会(2008年6月22日),厚生労働省生田総務課長等による説明から。
針に基づいて削除が行われたといえる44。 一方でそうであるならば、新卒採用時の年齢 制限に関しても、やはり今回の改正において、
例外からの削除が検討されて然るべきであった と考えざるを得ない。しかし現実には、活発に 審議が行われることなく「長期勤続によるキャ リア形成を図る」という従来と同様の観点から 維持される結果となっている。つまり、新卒採 用における年齢制限の根拠に関しては、前項と は逆方向からの検討においても、結局のところ、
3.2.1
での考察結果以上の内容を導き出すことは困難といえよう。
₃.₃ 小括
新卒採用における年齢制限の存在は、近年の
「応募機会の拡大」を目指す雇用対策の方向と は相反するものであるが、それは個人の能力等 よりも「長期勤続によるキャリア形成を図る」
等、企業における雇用慣行への配慮が優先され た結果だと考えられる。またそのために、
2.
で 指摘したような弊害が生じているのだといえよ う。一方、そうした慣行にも変化の兆しがみえ 始めており、ゆえに、年齢制限の合理性の根拠 とすることには疑問も示され始めている。₄. 「長期勤続によるキャリア形成を図る」
の妥当性
₄.₁ 検討の視角
3.
では、新卒採用に係る年齢制限の根拠とさ れてきた「長期勤続によるキャリア形成を図る」という雇用慣行に対して、①募集・採用時に、
個人の純粋な能力よりも企業の経営上の必要性 等を優先し年齢制限を行うことの妥当性、及び
②雇用形態の多様化等により当該慣行にも変化 の兆しがみえ始めている中、なおも年齢制限の
「差別性」を判断する要素(基準)として用い 続けていることの実効性という2つの課題が残 された。そこで、
4.
ではこの2点について検討を 行う。①については、募集・採用に加え、解雇、報酬、
雇用期間、労働条件、雇用上の特典等、雇用の あらゆる場面での年齢差別を禁止する「雇用に おける年齢差別禁止法(The Age Discrimination
in Employment Act of 1967,以下、「ADEA」と
呼ぶ)4546」において、年齢差別の禁止と「企業 の経済活動の自由」との調整がどのように図ら れているのか、差別禁止の例外及び立証ルール 等に着目し47整理する。一方、②に関しては、当該慣行の実施会社数等といった統計的な側面 ではなく、企業の経営面からみた「長期勤続に よるキャリア形成」制度の有益性という観点か ら検討を行う。そして最後に、①②により、新 卒採用に係る年齢制限の根拠として「長期勤続 によるキャリア形成を図る」という雇用慣行が 妥当なのか否か、筆者なりの見解を述べたい。
₄.₂ ADEAからの示唆
ADEAは、「中高年齢者の雇用機会の確保」と いう政策目的の実現に向けて制定された経緯48 から、適用対象については、当初40歳以上65歳 未満の者と限定されていた。しかしその後、年 齢差別は人権に関わる問題であるという意識の 高まりにより段階的に定年制(適用上限年齢)
44 注)40。同部会(2008年6月22日),森戸委員の発言より。
45 Age Discrimination in Employment Act of 1967, Pub.L.No.90-202,81 Stat.602(アメリカ連邦法)
46 ADEAを含め年齢差別についての近年の代表的な研究成果として、柳澤武『雇用における年齢差別の法理』成文堂,2006年。櫻
庭(2008),前掲書。同「年齢差別禁止の差別法理としての特質(1)(2)(3)(4)(5・完)―比較法的考察から得られるもの―」
『法学協会雑誌』121巻12号・122巻3号・122巻5号・122巻6号・122巻9号,2004年・2005年・2005年・2005年・2005年。同「雇 用における年齢差別 アメリカおよびEUの状況」『ジュリスト』1282号,2005年。同「雇用における年齢差別の禁止―イギリス、
ドイツを中心に―」『神戸法学雑誌』(神戸大学)56巻4号,2007年。同「書評論文 雇用における年齢差別に関する一考察―柳 澤武著『雇用における年齢差別の法理』を読んで―」『季刊労働法』218号,2007年。同「雇用差別禁止法制の現状と課題」『日 本労働研究雑誌』574号,2008年。森戸英幸「雇用における年齢差別禁止法―米国法から何を学ぶか―」『日本労働研究雑誌』
487号,2001年等がある。
47 当該検討視角については、櫻庭(2008),前掲書,16-17ページによるところが大きい。
48 「雇用における恣意的な差別の禁止」も制定目的の1つではあるが、立法資料によると中高年齢者の雇用機会の確保という目的 の方が比較的重視されていたという。櫻庭(2008),前掲書,94ページ等。その他、ADEAの制定・改正経緯全般については、
中村涼子「雇用における年齢差別禁止―米国の法規制の基本趣旨―」『本郷法政紀要』(東京大学)9号,2000年,85-120ページ。
が撤廃され49、現在では、若年者の雇用機会の 確保(雇用政策)や経営陣の刷新の必要性(人 事管理)等といった政策的配慮から、一部の適 用除外を残すのみとなっている50。よって、以 上の経緯だけをみても、ADEAが、わが国の雇 用対策法10条等と同様に雇用の場面への法的介 入を強めていく一方で、労働市場・雇用慣行に 対しても政策的な配慮(例外、適用除外)を行い、
「企業の経済活動の自由」との調整を図ってい ることがうかがえる。
もっとも見方をかえれば、定年制の撤廃は、
アメリカの雇用関係の基本にある随意的雇用原 則や高年齢者の早期退職志向等の存在により現 場への影響が重大なものではない(一部の適用 除外)と予測できたからこそその実行が可能 だったともいえる51。そして、それはわが国も 然りであり、年齢制限禁止の義務化に際しては 同様の傾向がみられる。つまり、禁止の例外か ら削減された項目(
3.2.2
)は、「新卒採用に係 る年齢制限の場合」等の他の維持された項目に 比べると国の施策や企業の経営上の必要性等へ の影響が極力小さい、ステレオタイプ的な年齢 制限ではなかっただろうか。₄.₂.₁ 年齢差別禁止の例外規定
政策的配慮を伴うADEAは、雇用のあらゆる 場面での年齢差別を禁止する一方で、各種の例 外を定めている。具体的には、年齢による取扱 いが、①年齢以外の合理的な要素(Reasonable
Factors Other than Age,以下、「RFOA」と呼ぶ)
に基づく場合52、②正当な事由(good case)に よる場合53、③特定の事業の標準的な運営に合 理的に必要である、真正な職業上の資格(Bona
Fide Occupational Qualification,以下「BFOQ」
と呼ぶ)である場合54、④真正な先任権(seniority)
制度による場合55、⑤真正な給付プラン56及び早 期退職者優遇プラン57といった労働者給付制度 の条件に従う場合等について、差別規制の例外 としている。
ところで、これらの中でRFOA抗弁は、他の 規定が特定の分野のみについて例外を定めてい るのに対し、一般的・抽象的な例外を定めるに 止まっている58。加えて、その意義・趣旨が立 法史等によっても不明瞭なために59、実際のと ころ、法条文だけでは、同抗弁(政策的な配慮)
により年齢差別の禁止と「企業の経済活動の自 由」との調整がどのように図られているのかは 不明確である。何が「年齢以外」であり、かつ「合 理的」なのかがはっきりしていない60。そのため、
仮に法条文の文言のみからわが国の「長期勤続 によるキャリア形成を図る」という雇用慣行に ついてRFOAの該当性を判断した場合には61、① 年齢と関連した年功序列体制が前提にある当該 慣行を「年齢以外」と判断できるのか、②当該 慣行は年齢制限禁止の例外事由として「合理性」
があるのかという2つの課題が生じることにな ろう。ただいずれにしてもRFOA抗弁は、「差別 的な取扱いであっても」、それが年齢以外の「合 理的な要素」に基づいている場合には違法と判 断されないことから、企業の経営上の必要性(人 事管理)等に配慮した例外事由であるといえる。
49 当初65歳と設定された適用上限年齢は、1978年の改正で70歳(連邦公務員については完全撤廃)まで引き上げられた後、1986 年の改正において全面撤廃された。
50 真正な経営幹部(①65歳以上、②2年間の経営幹部業務、③年間44,000ドルの退職金を確保)、警察官、消防士等が適用除外。柳 澤(2006),前掲書,41ページ。
51 櫻庭(2008),前掲書,121ページ。
52 29U.S.C.§623(f)(1).「別の法令によって禁じられていない限り、年齢以外の合理的な要素に基づいている場合はいかなる措置を
講ずることも違法ではない。」
53 29U.S.C.§623(f)(3).
54 29U.S.C.§623(f)(1).
55 29U.S.C.§623(f)(2)(A).
56 29U.S.C.§623(f)(2)(B).
57 29U.S.C.§623(f)(2)(B)(ii).
58 「正当な事由」も同様の規定である。柳澤(2006),前掲書,50ページ。
59 櫻庭(2008),前掲書,96ページ。
60 RFOAの判断基準については、結局、判例法理の中で明らかにされてきた。柳澤(2006),前掲書,51ページ。
61 仮に(現行)ADEAの下で、わが国の新卒採用における年齢制限の妥当性を判断するとしたら、RFOAの該当性が争点となるだ ろう。
₄.₂.₂ 立証ルールの確認
「企業の経済活動の自由」への配慮について
は
4.2
、4.2.1
の他、差別の立証プロセスにおいて、その成立を阻む(責任を免れる)ために企業側 に要求される「反証」の程度からもみてとれる。
たとえば、ADEAの立証ルールの1つである差 別的インパクト法理62は、「形式的には中立的な 慣行や基準であっても、保護される集団にとっ て不利益な効果を及ぼす場合には差別が成立す る63」という判例法によって形成された法理であ る。そしてその証明は、「①原告が一応の証明と して、表面上は中立的にみえる行為が、相当程 度に差別的な効果をもつことを証明する64。②被 告 が、 そ の 行 為 に つ い て、 業 務 上 の 必 要 性
(business necessity)ないし職務関連性(job
relatedness)が存在していたことを証明する。
③原告が、被告の利益は、『差別的インパクト がより少ない別の方法』によって十分に達成可 能であることを証明する65。」という3段階のプ ロセスにより行うものと示されている66。よっ て、企業側にはそうした慣行・制度が「職務遂 行上不可欠」であることまでを証明する責任(必 要性)はないといえる。さらに、その証明にお いても、ADEA独自のRFOA抗弁の存在により、
当該慣行・制度が「合理的(reasonable)」であ ることを示せば足りると解されており67、企業 側にとって緩やかな反証基準である。
₄.₃ 長期雇用と人材育成
「長期勤続によるキャリア形成を図る」とい う雇用慣行については、その前提にある「長期 雇用」自体が崩壊しつつあることや(企業の)
労働需要がパートや派遣、請負社員といった非 正規雇用者へシフトしている現状等から、新卒 採用における年齢制限の根拠として依然用いて いることには疑問視する見解68がある。そこで、
4.3.1
では、「長期勤続によるキャリア形成を図る」という人材育成システムの有益性について、
大卒労働者の多くを占めるホワイトカラーを取 り上げて考察を試みたい。
₄.₃.₁ ホワイトカラーの人材形成
69 ホワイトカラーの人材育成の根幹は70「専門 のなかでの幅広いキャリア(不確実性をこなす 技能)」の形成にあり、それは長期にわたる実 務経験(「長期勤続によるキャリア形成」)によ り可能になるものだという。実際、小池(2005)71が取り上げる事例でも、
某大メーカー事業部の予算管理担当(経理10-
15年経験者)は、入社時の短い研修の後、工場
で1つの製造ラインの原価管理を担当(1年目)→隣のラインへ(2年目)→複数の製造ライン を担当(3年目)→同じ事業部の隣の工場へ(4 年目)‐‐‐と移動している。そして、その間 に6か月毎の標準原価と毎月出る実績との乖離 の原因分析を通して「予算管理」の技能を形成 する一方で、経験する製品、組織、市場につい ても広げていく。さらに、その後事業部に移動 してからも、製造勘定→売上勘定と段階的に経 験を積み、10-15年目でようやく収益と事業部 全体の予算担当を任されるにいたる。つまり、
工場内の様々なラインでの乖離原因の分析経験 を通して、事業部の予算編成における予算と毎 月の実績との乖離原因の分析にも対処できるノ ウハウ、不確実性の分析能力を身に付けてきた
62 差別的インパクト法理については、柳澤武「雇用における年齢差別禁止法理の変容―アメリカ年齢差別禁止法の下におけるイ ンパクト法理―」『九大法学』(九州大学)81号,2001年。同「判例紹介:Smith v. City of Jackson, 544U.S.228(2005)」『アメリカ法』
2006-2,2007年等。
63 柳澤(2006),前掲書,48ページ。
64 統計によって行われることが多い。柳澤(2006),前掲書,49ページ。
65 櫻庭(2008),前掲書,13ページ。英語のみ筆者による加筆。
66 Dothard v. Rawlinson, 433U.S.321(1977).
67 櫻庭(2008),前掲書,142-143ページ。
68 注)24。
69 主要な参考文献として、小池和男/猪木武徳編著『ホワイトカラーの人材形成―日米英独の比較』,東洋経済新報社,2002年。小 池和男『仕事の経済学[第3版]』,東洋経済新報社,2005年。
70 ブルーカラーも同様である。
71 小池(2005),前掲書,22-24ページ,60-63ページ。
のである。そして、こうした「重層的効果」こ そが企業内で長期にわたりキャリア形成を行う 意味なのであろう72。
₄.₃.₂ 外部労働市場との関係及び年齢 制限への理解
一方、「外部労働市場」から移動してくるパ ターンとしては、正社員として採用される転職 者やパート・派遣等の非正規雇用者が考えられ るが、いずれもキャリアの幅が狭い点では共通 している。つまり、企業固有の今までに発生し なかったような不確実な問題に対処する能力は 乏しいといえる。(もっとも、特に非正規雇用 者に関しては「専門のなかでの幅広いキャリア」
までは求めていない。)そのため、企業の基幹 となるような人材については依然新卒採用等の 通常の正社員採用によって確保する他ないのが 実情であり、その点において、企業の人材確保 は採用の目的にそって分化しているといえる。
ゆえに、労働需要の非正規雇用者へのシフトを 理由に、「長期勤続によるキャリア形成を図る」
という雇用慣行の実態について判断することは 適切ではない。
すなわち、長期雇用を前提にした段階的な人 材育成の方法は、企業固有の技能・ノウハウの 継承等、外部労働市場からは得ることのできな い技能の育成という点において、非常に有益な 制度である。真にその企業の基幹となるべき人 材の形成という観点だけでなく、日々発生する 不確実な(今までにない)問題への対処能力の 育成という部分からみても欠かすことのできな い制度だといえよう。そのため、その実施にあ たり、最高雇用年齢等73との関係から(新卒)
採用時に一定の年齢制限を設ける必要があるの ならば、新卒採用の年齢制限は現行の規定通り に、原則として許容していかなければならない のかもしれない。
₄.₄ 小括
募集・採用時の年齢制限について、「長期勤 続によるキャリア形成を図る」という雇用慣行、
すなわち「企業の経済活動への配慮」から禁止 の例外とする法的取扱いはADEAにおいてもみ られる。また、当該慣行についても、長期の実 務経験によってのみ得られる企業固有のノウハ ウ等があることからその存在意義は大きいとい える。よって、以上から年齢制限の根拠として 当該雇用慣行を否定することはできないと考え る。しかしその一方で、新卒採用の年齢制限に ついては、
2.
で指摘した弊害に加え、結果的に 個人からキャリア形成の機会を奪ってしまって いる現実等を考えると、別途何らかの対策は講 じていかなければならないだろう。₅.おわりに
以上、新卒採用における年齢制限の根拠であ る「長期勤続によるキャリア形成を図る」とい う雇用慣行に重点をおき、当該慣行の妥当性に ついて検討を行ってきた。新卒採用の年齢制限 を含め年齢を用いた雇用管理の問題に関して は、①「エイジ・ブラインド(age-blind)」の思 想から、年齢差別禁止法を導入し年齢基準の撤 廃を唱える見解(年齢差別禁止アプローチ)74や
②包括的な年齢差別禁止ではなく、雇用の段階 毎に個別に是正を行うのが望ましいとする見解
(政策的アプローチ)75等、既にいくつかの方向 性が示されているが、本稿はそうした「あるべ き方向性」ではなく、現行法における根拠事由 の実効性を検討の中心においている。
そして、検討の結果、
2.
で指摘した弊害や3.
で の判例の動向等から新卒採用の年齢制限に関わ る雇用問題について何らかの対応が求められて いるのは事実であると認めつつも、その一方で、年齢制限の根拠である「長期勤続によるキャリ ア形成を図る」という雇用慣行が依然企業の人 材育成面において重要な位置を占める以上、現 行法での当該(経済的)配慮を撤廃することは
72 小池(2005),前掲書,62,65-66ページ。経験を広げすぎると、個々の技能を発揮できずコストだけが高くつく。
73 その他、職務能力が未熟な若年時代に能力以上の賃金を支払うような賃金体系の下では、雇用期間の後半おいて損失分の賃金 を回収することになるため、「最高雇用年齢」よりも低い年齢が基準の年齢にされるだろう。
74 柳澤武「年齢差別」(森戸英幸/水町勇一郎編『差別禁止法の新展開』日本評論社,2008年),143-146ページ。
75 櫻庭(2008),前掲書,310-311ページ。
適切ではないと考える。むしろ、年齢制限の根 拠が人材育成の点にあるのならば、正社員化を 望む非正規雇用者の能力を、いかに企業が自社
(正)社員に求める企業固有の技能に近づけて いくのかについて、企業と外部労働市場の関わ り方、政府の対策、個人の努力等の方面から検 討を加えていくべきではないだろうか。そこで、
今後は、法規制の問題に加えて、個々の求職者 における能力開発の方法等についても検討を進 めていきたい。
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