生活型福祉施設における生活支援の研究 : 場のな かで営まれるケアワーク
著者 黒田 由衣
雑誌名 評論・社会科学
号 123
ページ 67‑82
発行年 2017‑12‑31
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000017018
要約:本稿は,生活型福祉施設のなかで,ケアワークを通してどのように生活支援が営ま れているかを整理し,その上で,ケアワーク概念を捉え直し,生活型福祉施設におけるケ アワークの意義や役割の再構築を試みたものである。介護やケアワーク概念についての先 行研究を通して,ケアワークは身体的側面への支援に加え,心理的・社会的側面への支援 も含む総合的かつ包括的支援であることを明らかにした。生活は,社会関係のうえに成り 立つ。ゆえに,生活支援とは,無限の拡がりを持つ社会的関係も支援する必要がある。
様々な人やモノが存在し共有される生活型福祉施設で営まれるケアワークは,利用者の社 会性の拡大に寄与する。生理的ニーズの充足という身体的側面への支援だけでなく,社会 的関係の中でケアワークを捉え直すことにより,場に支えられるケアワーク実践の可能性 について示唆した。
キーワード:ケアワーク,生活支援,生活型福祉施設,場,社会的関係
目次 1.はじめに
2.先行研究にみる介護やケアワークの概念 2-1.辞書的定義にみる介護
2-2.研究者らによる介護やケアワークの定義 2-3.ソーシャルワークとの関係で捉えるケアワーク 3.生活型福祉施設で求められる生活支援
3-1.社会的営みとしての生活 3-2.場としての生活型福祉施設
3-3.生活支援に求められる社会関係的支援 4.「場」の力に着目したケアワーク
4-1.介助行為を通した社会性の拡大 4-2.場に支えられるケアワーク 5.おわりに
────────────
†同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程
*2017年9月28日受付,査読審査を経て2017年11月17日掲載決定
論文
生活型福祉施設における生活支援の研究
──場のなかで営まれるケアワーク──
黒田由衣
†67
1.はじめに
要介護高齢者を対象とする生活型福祉施設の一義的役割は,利用者の日常生活の支援 である。高齢による身体機能の低下や認知症により介護が必要になった高齢者は,施設 という場において,食事,排泄,入浴などの介助を受けながら,生活を営む。施設のな かで日々営まれている様々な介助行為からなるケアワークは,例えば,食事介助であれ ば栄養補給,入浴介助であれば清潔保持,排泄介助であれば体内で不要になった老廃物 の排出に対する支援であり,それらは生理的・身体的ニーズへの支援である。しかし,
それらの行為は生理的・身体的ニーズへの支援にとどまるものではない。筆者は,自ら の生活型福祉施設におけるケアワーク実践を通して,ケアワークのなかに生理的・身体 的側面を超えた,様々な生活支援の側面があると感じるようになった。
本研究では,自らのケアワーク実践の経験から生じた思いを背景に,生活型福祉施設 における様々な介助行為から成り立つケアワークに焦点をあて,ケアワークを通してど のように生活支援が営まれているかを探ることを目的とする。それにより,ケアワーク の概念を捉え直し,生活型福祉施設におけるケアワークの意義や役割を再構築できると 考える。
ここで,本稿で取り上げる「生活型福祉施設」について説明する。本稿でいう生活型 福祉施設とは,特別養護老人ホーム,介護老人保健施設,グループホーム等,一定期 間,もしくは終身にわたり,利用者の住まいとして,食事,排泄,入浴など日常生活上 の介護サービスを提供している,要介護高齢者を対象とした居住型の福祉施設のことを いう。あえて, 生活型 と記したのは,サービス提供の場であると同時に,利用者が 寝起き,食事,入浴等,日常生活を営んでいる場であることを強調するためである。
本稿では,以下,3つのプロセスに従い考察する。まずは,介護やケアワークの概念 について,生活支援に焦点をあてつつ,先行研究を通して整理する。次に,生活型福祉 施設における生活支援の実際について,生活とは何か,さらに今回対象としている高齢 者に求められる支援とはどういうものかも含め,考察する。最後に,生活型福祉施設の ユニット内の場において営まれるケアワークについて,その「場」のもつ力に注目した ケアワークのあり方について考察する。
2.先行研究にみる介護やケアワークの概念
はじめに,先行研究をもとに,生活型福祉施設で生活している利用者に対する支援の 具体的方法である介護やケアワークが,どのように定義されているかを整理する。
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ケアワークは,「介護福祉」と同義語として扱われることが多い(笠原
2000,成清
1999,西村 1999)。その介護福祉という用語は,笠原によれば,「広義で深遠な概念を
持もつ『介護』という用語から生活の全体性や自立支援といった言葉を駆使して積極的 な意味づけを行い,社会化,社会的費用化,専門職化等を強調した」(笠原
2000 : 156)
語として用いられている。ケアワークも同様,基本的に「介護」「養護」等を含む上位 概念として用いられている(根本
2000 : 19)。本稿における概念整理では,研究者の用
語定義に準じ,「介護」という語を用いるが,介護は利用者に対する具体的な生活支援 の方法であるという視点より,ケアワークと同等の意味で用いている。また,ソーシャ ルワークとの比較検討を行う際は,ケアワークという語を用いる。2-1.辞書的定義にみる介護
まず,辞事典において,「介護」がどのように語られているかをみていく。介護の概 念が明確化されたのは,1974年の『社会福祉辞典』からであり,以下のように定義さ れている。
『ねたきり老人』などひとりで動作ができない人に対する食事,排便,寝起きなど,起居 動作の手助けを『介助』といい,疾病や傷害などで日常生活に支障がある場合,介助や身の 回りの世話(炊事,買い物,洗濯,掃除などを含む)をすることを『介護』という(社会福 祉辞典編集委員1974 : 33)。
ここでは,食事,排泄,寝起き等,生きるうえで必要な基本的な動作,つまり
ADL
(日常生活動作)に加え,家事や金銭の管理,電話を掛ける等の身の回りの世話である
IADL(手段的日常生活動作)の援助も含めて「介護」である,とされている。IADL
は,人が社会生活を営むうえで不可欠な動作であり,介護は,日常生活動作のみでな く,人の社会生活上の困難も支援の対象としている。次に,1982年に出版された『現代社会福祉事典』では,「介護・介助」という項目に おいて,以下,定義されている。
あるひとの身体的機能の低下,衰退,喪失の場合に起こる生活上の困難に対して,身体的 機能をたかめ補完する日常生活上の世話を中心としたサービス活動を〈介護・介助〉という
(本間1982 : 85)。
この定義は,1988年の改訂版において,「重度の心身障害者やねたきり老人,病人な ど日常生活を営むうえで生ずる諸困難に対するサービスを介護・介助という。」(本間
1988 : 89)と修正されている。具体的には,「日常生活を営むうえで生ずる諸困難に対
するサービス」と修正され,身体機能の側面に重点がおかれた表現は取り除かれ,身体生活型福祉施設における生活支援の研究 69
的側面に限らず,日常生活上の困難に対する支援であるとされた。
以上,2つの辞事典の定義をみると,介護を提供する対象者や,援助の内容,他の近 接領域との異同等,不明確な点が多く,介護という語を説明するうえで,十分な内容に なっているとは言いがたい。しかし,日常生活を営むうえでなんらかの支障がある人々 に対する生活支援,それも社会生活を送るうえでの支援であるということは示されてい る。
2-2.研究者らによる介護やケアワークの定義
次に,研究者らによって示された,介護の定義をみる。はじめに,西村洋子は以下の ように定義している。
介護は,身体上または精神上の障害があることによって,日常生活を営むのに支障がある 者への日常の世話をいう。世話に際しては,クライエント(要介護者)の人間性の尊重にも とづき,クライエントと介護者(ケアワーカー)の共同作業により,できる限り自立生活が できるように努力する。介護は単なる機械的技術(サービス)にとどまらず,クライエンと のこれまでの生活様式(ライフスタイル)をできるだけ変えることなく,クライエンとの自 己実現にそった機能的(頭脳的)サービスであることが求められる(西村1990 : 24-25)。
西村は,介護とは日常生活に支障がある人に対する日常の世話,つまり,日常生活の 遂行に対する援助であるとしている。そして,その世話は,利用者と介護者の「共同作 業」,つまり互いの協力,信頼関係等をもって行われるものであることを強調している。
看護の立場から,社会福祉実践としての介護を論じた中島紀恵子の定義は,以下の通 りである。
健康や障害の程度を問わず,衣・食・住の便宜さに関心をむけ,その人が普通に獲得して きたところの生活の技法に注目し,もし身の回りを整える上で支障があれば,『介護する』
という独自の方法でそれを補い支援する活動である。すなわち,身体的,心理的,社会的,
すべての面において,その人自身が人間として人生になそうとしていることを病気や障害あ るいは単に老いのために無にきすことのないよう補い助け,ときには自らが積極的に行動す る役目を担うこと,また学習やレクリエーションならびに社会参加を積極的間接的に助ける ことができるようによりよい方法を企てていく活動である(中島1992 : 12-13)。
中島は,介護における支援の中身について,「身体的,心理的,社会的,すべての面 において」とあるように,身体的側面のみでなく,心理的・社会的側面にも触れ,人と して人生を全うできるよう,総合的に支援することであるとしている。加えて,「学習 やレクリエーションならびに社会参加」への促しにも触れ,文化的生活,社会生活の維 持・向上への支援についても言及している。
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次に,黒川昭登は,ケアワークの機能として以下のように整理している。
①身辺自立できていない人に対する具体的世話(摂食,排泄,入浴,着脱その他)で,そ れ自体は生存の目的になるものではないが,生きていく上で必要不可欠の行動を援助するこ と,②物的支援=掃除,洗濯,買い物,付き添い,家計の管理その他(具体的サービス),
③集団活動の支援(入所施設,デイ・ケアなどでケアワーカーが意識的に集団活動を用いて 援助する行為),④精神的支援(相談・助言,定期的訪問,安否確認その他で社会的相互作 用を高め精神的に支える行為),この他に対象者に種々の関心を抱いて行う行為がある(黒 川1989 : 24-25)。
黒川は,ケアワーク機能,つまりその働きについて,ADL(日常生活動作)と
IADL
(手段的日常生活動作),集団活動支援に加え,相談や助言等にて,利用者を精神的に支 えることをも含んでいる。すなわち,ケアワークは,日常生活動作の援助を基本にしつ つも,それのみにとどまらず,利用者の心理的・社会的ニーズの充足も支援しつつ,そ の人が所属しているさまざまなレベルの社会システムとの関係の調整も含むものである としている。
最後に,日本社会事業学校連盟(現日本ソーシャルワーク教育学校連盟)・全国社会 福祉協議会施設協議会連合会の「社会福祉実習のあり方研究会」は,以下のように介護 を定義している。
老齢や心身の障害により日常生活を営む上で困難な状態にある個人を対象にして,専門的 な対人援助を基盤に,身体的,精神的,社会的に健康な生活の確保と成長,発達をめざし,
利用者が満足できる生活の自立をはかることを目的とする(一番ヶ瀬1993 : 6)。
この定義においても,介護は,利用者が満足する生活の自立を目指し,身体的側面の みでなく,心理的・社会的側面からの生活支援であることを強調している。
以上,それぞれの研究者等における代表的な定義を通して,介護やケアワークの概念 を検討してきた。そのなかで,介護やケアワークは高齢者や障害者等,日常生活を営む のに支障がある人々への,日常生活に即した支援であり,身体的側面に加えて,心理 的・社会的側面をも含めた包括的な生活支援活動であることが示唆された。
2-3.ソーシャルワークとの関係で捉えるケアワーク
ケアワークは,同じ社会福祉援助技術であるソーシャルワークとの関係で語られるこ とが多い。ここでは,ソーシャルワークとの比較によって浮かびあがるケアワークの機 能・役割等について検討する。
はじめに,奥田いさよは,両者の関係について,以下のように論じている。
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ソーシャルワークは,ソーシャル・サービス分野において社会資源や制度を開発,活用し て,クライエントの社会的側面および心理的側面を中心にその専門援助技術を通じて援助実 践を行なう。また,ケアワークはケアサービスを主体,つまり福祉機器や施設の機能を開発
(それらの利用度を高めるための助言など),活用して介護技術を中心とするその専門援助技 術を通じて,クライエントの身体的側面および心理的側面への援助を主体とした実践を行う
(奥田1989 : 7)。
奥田は,主に両者の援助技術・機能の違いを強調している。具体的には,社会資源や 制度等の活用によってなされるソーシャルワークと比較して,ケアワークは福祉機器,
具体的には車椅子やおむつ,食事介助用品等,利用者の日常生活に必要な介助用具・用 品等を用いた,直接的かつ具体的な援助であるとしている。また,奥田の定義では,ケ アワークは,身体的,心理的側面への援助にのみ言及しており,社会的側面への援助に ついては言及していない。
次に,黒川昭登は,ソーシャルワークをケースワークと表しているが,両者を比較す るなかで,「共に福祉のクライエントに対する援助方法である」(黒川
1989 : 31)と前
置きしたうえで,以下のように比較している。ケースワークは,クライエントの社会関係の障害という問題の解決を,主として「言語表 現」という手段によって解決しようとしているが,これに対し,ケアワークは,身辺自立や 社会自立ができないクライエントの基本的欲求や心理社会的欲求の充足を,介助,ケアーな ど具体的サービスを提供することによって援助しようとしている(黒川1989 : 31-32)。
黒川は,ケースワークは利用者の社会関係の障害から派生する問題を「言語」という 手段で,ケアワークは身体的・社会的自立が困難な利用者に対して,介助等のサービス 提供を通して援助するとしている。すなわち,ケアワークの援助方法は,ケースワーク と比較して,より具体的かつ,直接的であることを指摘している。
次に,根本博司は,両者の関係に関して,「ともに社会生活上の困難を抱える人に対 し社会生活の維持・改善を目指してサービスを提供しており,同じ人間観に立ち,同じ 対象者理解の枠組みを持ち,同じ対人関係を扱う技能を共有している」(根本
2000 : 28)とし,共通点を述べる一方で,両者の異同を以下のように指摘している。
ソーシャルワークは,主としてコミュニケーション技法・対人関係技法・社会資源の開 発・活用方法を用い,相手の自発性や意志を尊重しながら主として心理・社会的側面の問題 解決を援助する。したがって,対象者は比較的身体・精神機能の健全な人である。一方,ケ アワークは,身体・精神的に障害を持つ比較的保護の必要な人に対して,日常生活場面での 日常生活動作(手段的ADL,機能的ADLを含む)の援助という具体的サービスの提供とと
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もに心理・社会的側面へもアプローチするところにその特色があり,その過程では援助者の 人格的要素がより重要な社会福祉実践方法・技術である(根本2000 : 28)。
根本は,主に,両者の提供するサービス内容と,対象者特性の違いを強調している。
具体的には,ソーシャルワークと比較して,ケアワークは身体的,もしくは精神的にな んらかの援助が必要な人に対する,食事,排泄,入浴などの日常生活の遂行にかかわ る,より具体的な援助であるとしている。加えて,根本は,ケアワークの心理的・社会 的側面へのアプローチにも言及しており,ケアワークにおける社会生活支援の可能性に も触れている。
笠原幸子は,両者の比較時に,「ケアワーク」ではなく,「介護福祉」と表記したほう が理解しやすいと前置きしたうえで,「両者は,社会福祉の実践体系の構成要素として 独立して存在するが,共通する社会福祉の原理,つまり,援助の目標を持っている。」
(笠原
2000 : 160)とし,利用者支援の目指す方向性は共通しているとし,両者の関係
を援助技術・役割の違いにより,以下のように比較している。
介護福祉は,主として身体的な接触をともなうことの多い直接的かつ具体的な技術を活用 し,サービス利用者の身体的側面や心理的側面,さらに,社会的側面からアプローチする。
一方,ソーシャルワークは,主としてケースワークやグループワークなどを駆使し,サービ ス利用者の社会的側面や心理的側面からアプローチする。介護福祉はソーシャルワークと比 較して,日々の生活に密着した現実的・具体的・可視的な人間の生活行動への援助である
(笠原2000 : 160)。
笠原も,ソーシャルワークが,ケースワーク,グループワーク等の援助技術を用いて 利用者を援助するのに対し,ケアワークは利用者の日常生活に対して,身体的接触を伴 う直接的かつ,具体的な技術を駆使する援助であることを強調している。すなわち,笠 原のいう「日々の生活に密着した現実的・具体的・可視的な人間の生活行動への援助」
という指摘の通り,日常生活行動の実態に即した援助である。さらに,笠原も定義にお いても,ケアワークの社会的側面について言及している。
以上,研究者らの見解を通して,ソーシャルワークとの比較を通して,ケアワーク機 能や役割についてみてきた。根本,笠原においては,身体的側面に加え,ケアワークの 心理的・社会的側面への援助も指摘しており,日常生活における総合的かつ包括的な援 助であることが示唆された。加えて,ソーシャルワークとの比較によって,ケアワーク は日常生活の営みに密接にかかわる,身体を介した直接的かつ,具体的な援助であるこ とが明らかにされた。
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3.生活型福祉施設で求められる生活支援
3-1.社会的営みとしての生活
私たちは,日々,生活を営んでいる。朝起きて,トイレに行き,洗面をし,朝ご飯を 食べ,好きな洋服に着替え,学校や仕事へと出かける。そして,学校や仕事が終わる と,家に帰り,家族と夕食をともにし,入浴し,床につく。生活とは,このようないく つもの日常生活動作の連続で成り立っている。しかし,加齢や障害に伴い,この日常生 活の遂行に困難が生じる。ケアワークは,このように高齢者や障害者等,身体的な障害 等により,生活の営みに支障がある人々に対する日常生活に即した支援である。そうで あるならば,その支援の向かう先である「生活」とは何かを捉える必要がある。ここで は,本稿で取り上げる生活支援における生活について検討する。
経済学者の徳永俊明は,「生活する」ということは,「日が暮れるまでの時間を過ご す,という意味の『暮らす』ということとは違う」(徳永
2014 : 8)と指摘している。
すなわち,寝て起きて,食事をして,という基本的な日常生活動作等の安定や,衣食住 の充足に加え,生活の具体的な中身を問うことの重要性を示唆している。さらに,「改 善されなければならないような状態,その人にとってヒトとしての生活になっていない 暮らしを,生活と呼んではならない」(徳永
2014 : 158)とし,生活という言葉の意味
自体に,良い状態の暮らしという積極的意味を付与しようとしている。また,生活の基 本形式の4
要素を論じるなかで,生物として存在していること,自然の法則的営みのな かに生きること,社会的関係の中で生きること,精神的活動能力をもっていることを挙 げており,それらのどれか一つが欠けても,ヒトとして存在することはできない(徳永2014 : 141-142),と述べている。徳永にならえば,衣食住や食事,排泄,入浴などの基
本的な営みの充足に加え,「無数の場でつくられた社会的関係」(徳永2014 : 96)の中
に身を置いてこそ,人の生活は成り立つのであり,生活を捉えるうえでの社会的関係の 充実の重要性を示唆している。また,社会哲学者の竹内章郎は,人間の生存について,以下のように述べている。
人間は,『社会的文化的存在』としてのみ生存できる。つまり,社会や文化抜きの,した がって生活抜きのたんなる『自然的存在』としては,現実の生存はない(竹内1993 : 106)。
竹内の指摘によれば,単に,食事,排泄,清潔保持が満たされている状態,つまり生 物学的に生が成り立っているだけでは,人として生存しているとは言えない。社会的,
文化的営み,つまり様々な人とのかかわりや体験を,日常的に持ちつつ生活すること が,人として生存する条件なのである。
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このように,人の生活の営みは,単に食事,排泄,入浴などの日常生活動作の安定や 衣食住の充足によってのみ成立するのではない。多様な人や場におけるかかわりや,さ まざま体験を経ること,つまり社会的,文化的営みとともに創造される社会との関係に おいて,初めて成り立つものであるといえる。
3-2.場としての生活型福祉施設
本稿が対象とする高齢者が体験している老年期は,「喪失の時代」とも言われている
(諸井
1995 : 11)。研究者の間でも,老年期は「喪失」という用語で特徴づけられてい
る場合が多い。例えば,藤田綾子は老年期の喪失体験に関して,「経済の喪失」「健康の 喪失」「役割の喪失」の三つを指摘しており(藤田
1995 : 48-49),井上勝也は「心身の
健康の喪失」「経済的基盤の喪失」「社会的基盤の喪失」「生きる目的の喪失」の四つを 指摘している(井上1993 : 147)。
老年精神医学の研究者である竹中星郎は,高齢期の喪失体験について,「失ったもの は,数十年の歴史が刻み込まれた精神的な財産であり,それが現在の彼ら自身のよりど ころとしての証しである。もやは,それに代わるものを手に入れることはできない」
(竹中
2000 : 63)と述べている。つまり,中高年以降の喪失体験は,「精神的な財産」,
すなわち,それまで生きてきた証,精神的拠り所となっていた人・モノ等の喪失であ り,容易に再獲得することは難しく,特別な意味を含むものとして捉えている。さらに 竹中は,高齢期の喪失体験は,「生きる空間の狭隘化」(竹中
2000 : 107)を意味すると
も指摘している。すなわち,身体的,精神的機能の低下により,それまでに獲得してき た無限の社会的関係における無数の「場」の喪失や,その幅や範囲の縮小が生じるとい うことである。このように,高齢期は身体的機能の喪失のみでなく,それに伴う他者と の交流や社会的活動機会の減少等,様々な喪失を体験する。そしてこれらの喪失は,日 常生活における社会的な場の喪失ともいえる。高齢期における施設入所も,社会的な場の喪失の一つである。生活型福祉施設とは,
意図的に作られた施設という居住空間であり,人が日常生活を営む「場」でもある。米 本秀仁は,人の生の場に関して,「人の生の歴史においては,この『自然な』生活の場 から,人為的に設立された『人工的な』生の場へと移らなければならない状況に陥るこ とがある」(米本
2012 : 4)と述べている。高齢者の場合,身体的,物理的,人的環境
等,様々な要因により,この「自然な」生活の場における日常生活を営むことが困難に なり,「人工的な」生の場,つまり,施設等へと入所を余儀なくされることがある。そ の施設という生活空間は,新たな地理的空間,建物・設備・備品や動線,他利用者・職 員を含めた人間関係,時間的スケジュール,生活習慣,生活規範,地域関係,意思決定 環境,情報環境等,それまでの自然的生活空間と比較すると異なる構成要素が多くあ生活型福祉施設における生活支援の研究 75
る。この様々な要素によって構成された場において,利用者は有形・無形,様々なサー ビス提供を受けながら,新しい日常生活を営んでいく。
このように,施設という空間は,「人工的な」生の場でありながらも,様々な身体的,
精神的,人的環境等を理由に入所している利用者が,集団での日常生活を営んでいる生 活空間としての「場」なのである。
3-3.生活支援に求められる社会関係的支援
要介護高齢者を対象とする生活型福祉施設という場において利用者は,寝て,起き て,ご飯を食べて,トイレに行って,お風呂に入ってという生活行為を繰り返しなが ら,日常生活を営んでいる。一般に,施設における一義的な役割は,そこに入所してい る利用者の安定した衣食住の提供と,食事,排泄,入浴などの日常生活の営みを保障す ることである。施設で働いている介護職員は,要介護状態により日常生活動作において 何らかの支障をきたしている利用者に対して,食事,排泄,入浴などの援助,つまりケ アワークを行いながら,彼らの日常生活を支えている。
この,食事,排泄,入浴などの日常生活行為は,人が生きていくために必要不可欠な 行為であり,そのどれか一つが欠けても,安定した生活は送れない。加えて,多様な 人,場とのかかわりや交わり,つまり社会との関係の充実も,人の生活を成立させるた めに必要不可欠なものである。空閑浩人は,個人と社会との関係を論ずるなかで,「人 間は,自らを日常の行為へと向かわせる何か,つまり生活へと向かわせる何か,その何 かを社会との関係のなかから得ることを通じて,日常の営みを行っている」(空閑
2014 : 62)とし,日常生活を捉えるうえで,個人と社会との関係に着目することの重要
性を指摘している。空閑の指摘に従えば,生活を支援するとは,単に食事,排泄,入浴 などの,生理的ニーズの支援で完結するものであってはならない。多様な人やモノとの かかわりを社会の中で体験していくことを通して,人の生活は成り立つ。そうであるな らば,生活支援は,それらのかかわりや体験をも,支援していく必要がある。特に,高齢期は,身体的機能の低下に伴い,様々な社会的な場の喪失を経験する。そ の失われつつある,また減りつつある社会的な場や,そこから紡ぎ出される社会的な関 係を維持,再構築していくことが求められる。生活が,無数の社会的関係,つまり多様 な人,場とのかかわり,交わりにおいて成り立つものであるならば,生活支援とは,無 限の拡がりを持つ社会的関係も保障し,支援していくものでなければならない。
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4.「場」の力に着目したケアワーク
4-1.介助行為を通した社会性の拡大
生活型福祉施設に入所している高齢者は,身体的な機能低下や認知症の症状等によ り,日常生活においてなんらかの介助を受けつつ生活している。具体的には,食事介 助,排泄介助,入浴介助,起き上がりや座位・立位等の起居動作への介助等である。施 設内で日々行われているそれらの介助行為は,介助する側の職員とされる側の利用者の
2
者の間で成立している。そして,利用者の生活を支えるために行われる度重なる介助 による交わりを経て,2者間の関係は築かれていく。介護現場でアドバイザーとして多 くの施設の支援に携わっている高口光子は,介助行為からなる介護の専門性について述 べるなかで,以下のように語っている。偶然出会った老人と職員が様々な体験を経て『あなたとわたし』という関係が作られ積み 重なる時間と繰り返される食事・排泄・入浴,つまり日常の営みが両者を「たった一人のか けがえのない存在」へとつなげていく(高口2008 : 49)。
高口によれば,他人同士であった職員と利用者が,ともに過ごす時間と,日常の食 事,排泄,入浴などの介助の積み重ねを通して,「たった一人のかけがえのない存在」
という,双方にとって固有の存在へと発展していく。さらに高口は,介護の専門性の一 つは,「お年寄りと職員の,あなたと私という固有名詞の関係の集合からなるチーム
(=共同体)作りへと続く,個別の関係の充実である」(高口
2008 : 42)と述べ,利用
者と職員の2
者間の関係の重要性を伝えている。また,現象学の視点から,人の生命活動や,ケアの相互関係等の研究行っている丹木 博一も,ケア行為,つまり,介助行為における,2者間の関係について,以下のように 述べている。
ケアの対象は多くの場合,意思をもった人間ですから,その方がケアを受け入れてくれな ければケアの行為は成し遂げられません。つまり,ケアとは,実はケア対象者となる方の協 力を必要とする相互行為なのです(丹木2016 : viii)。
丹木が指摘するように,意思を持った人を対象とするケア行為は,ケアを受ける利用 者の受け入れ,協力を以て,初めて成り立つものであり,その意味において,利用者と 介護者の
2
者の相互関係のうえに成立するものである。介助行為は,介助者から利用者への直接的かつ,具体的な支援である。そのため,利 用者と介護者との関係性や,利用者の受け入れなしには成立しない。介護する側の職員
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は,食事,排泄,入浴などの介助行為を通して利用者の安定した生活を支える。一方,
利用者は介助されることにより,日常生活を営むことが可能となる。このように介助行 為からなるケアワークは,利用者と職員の
2
者間の関係性を以て成立する営みである。しかし,そのケアワークは閉ざされた
2
者間の関係にとどまるものではない。利用者 が生活を営んでいる施設という場は,複数の利用者や職員,家族,さらに,テーブルや 椅子,キッチン等,様々な人やモノなどで構成されている。すなわち,施設という「場」が一つの社会を形成しており,そこで営まれる介助行為を通した人と人とのかか わりが,ケアワークを成り立たせている。たとえば,食事介助の場面について考えてみ る。利用者が食事やおやつのために離床し,居室から食堂等の共有スペースに出てく る。その場には,他利用者や職員がいる。また,利用者間,利用者と職員間で交わされ る会話や,椅子などが動く音,食事の匂い,窓から差し込む光などがある。このよう に,利用者は,食事の際に,居室ではなく,食堂等の共有スペースで過ごすことによ り,自分以外の人や音,匂い等に触れる機会を得ることができる。言い換えれば,食事 介助という介助行為は,利用者にとって生きるために必要不可欠な支援であると同時 に,自分以外の世界,つまり,開かれた社会という場を,身を以て体験する手段・方法 でもある。そして,日々,積み重ねる食事,排泄,入浴等の介助行為自体も,利用者の 社会性の拡大に寄与する社会資源であるといえる。
4-2.場に支えられるケアワーク
生活型福祉施設では,食事,排泄,入浴などの介助行為を通して,利用者の生活を支 援している。その一つ一つのケアの場面だけを切りとれば,利用者と職員の
2
者間の営 みである。しかし,それが他利用者や職員らがいる食堂などの共有スペース等の「場」において営まれることにより,2者間の関係を超えて,社会に開かれたケアの関係へと 展開していく。
社会学の視点からケアについて論じている三井さよは,施設の空間自体のもつ力につ いて「一人ひとりのケア提供者の行為や能力には還元できない,さまざまな人やモノが 織りなすことで生まれる〈場〉の力は,現場でけして小さくない役割を果たしている」
(三井
2012 : 18)と述べ,ケアワーク実践が行われている施設における,「場」の力に
ついて提起している。三井は「場」を,「ある特定の空間における,さまざまな人やモ ノが織りなす関係性」(三井
2012 : 25)と定義している。三井にならえば,場とは,特
定のところや位置という意味に加え,複数の人やモノが共有される空間における状況や 空気,雰囲気,さらにはそれらの関係性までをも含む広義の意味として捉えることがで きる。また,三井はケア提供者のケア行為に焦点があてられがちな個別ケアに関して,「利用者や患者の固有性は,多様な人やモノとのかかわりのなかでこそ浮かびあがるも
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の」(三井
2012 : 40)であり,「ケア提供者のケア行為を超えたかかわりにも目を向け
なければ,その人の『生活』を豊かにすることができない」(三井2012 : 40)とも述べ
ている。すなわち,利用者の個別性は,様々な人やモノが共有される「場」のなかでこ そ立ち現れるのであり,その場の力に注目することで,利用者の生活がより豊かになる ことを示唆している。この場の力について三井は,西川勝のいう,たくさんの人からケアのかけらをパッチ ングされることで成り立つ「パッチングケア」(西川
2007 : 122)を取り上げ,説明を
加えている。西川はパッチングケアを説明するにあたり,以下のような,入所施設にお ける事例を紹介している。具体的には,認知症の利用者が「わたしもう帰らせていただ くわ。」と,帰宅願望を訴えはじめ,その場にいた職員が対応に行き詰まった際,その 周りにいる利用者や面会中の家族,別の職員,さらには夕食の匂いや外の景色等,様々 な人やモノとの交わりにより,徐々にその女性が落ち着いていく,というような場面で ある。この場面では,一人ひとりのケア提供者の力を超えた,「小さな数え切れないケ アのかけら」(西川2007 : 124)の積み重ねが,帰宅願望のなかにあった女性の気持ち
を穏やかにさせたのであろう。つまり,その場を構成する様々な人やモノの存在によ り,行き詰っていた利用者と介助者の2
者の関係が,「場」に開かれたといえる。現在,特別養護老人ホーム等の生活型福祉施設では,身体機能の低下や認知症によ り,寝たきりであったり,自分の思い・意思を他者に十分に伝えられず,対応の困難な 利用者が多い。ゆえに,ときに,利用者と介助者という閉ざされた
2
者間の関係だけで は,行き詰まりが生じる場合もある。それは,言い換えれば,介助者の介護技術や知 識,コミュニケーション能力に頼ったかかわりを強いられた状態であるといえる。そう ではなく,利用者と介助者の2
者間の関係を超え,施設という場,つまり社会に開かれ たケアワークとして捉え直す。そうすることにより,閉ざされた2
者間の関係が開放さ れ,利用者のもつ力が引き出されるような介助行為や支援の可能性が生まれる。このよ うに,生活支援が営まれるところとしての「場」がもつ力が発揮されるようなしかけ,環境づくりを意図的に行うことで,利用者の力が引き出されるようなケアワーク実践が 可能になると考える。生活型福祉施設では,多様な人やモノが同じ空間・時間を共有し ながら生活している。多種多様な人やモノが織りなす場の力に支えられるケアワークこ そ,人々の豊かな生活の営みを成り立たせるケアのあり方であると考える。
5.おわりに
本稿では,自らのケアワーク実践の経験から生じた思いを背景に,利用者の生活を支 えているケアワークに焦点をあて,生活型福祉施設における生活支援について考察し
生活型福祉施設における生活支援の研究 79
た。
本稿で取り上げた生活型福祉施設は,利用者が日常生活を営んでいる場である。その 場は,複数の利用者や職員,家族,さらに,テーブルや椅子,キッチン等,様々な人や モノなどで構成されており,その施設という「場」が一つの社会を形成している。そし て,そこで営まれる介助行為を通した人と人とのかかわりが,ケアワークを成り立たせ ている。その意味において,ケアワークが,生活型福祉施設のユニット内の食堂や共有 スペース等,様々な人やモノが存在し共有されている場において営まれることにより,
2
者間の関係を超え,場,つまり社会に開かれたケアへと展開していく。人の生活は,社会関係のうえに成り立つ。ゆえに,生活支援とは,無限の拡がりを持つ社会的関係も 支援する必要がある。
本稿では,生理的ニーズの充足という身体的側面への支援だけでなく,社会的関係の 中でケアワークを捉え直すことにより,場に支えられるケアワーク実践の可能性につい て示唆した。今後は,施設職員へのインタビュー調査等を通して,「場」のもつ力,す なわち三井のいう「さまざまな人やモノが織りなす関係性」の重要性に明らかにし,生 活型福祉施設におけるケアワークの意義や役割を再構築していきたい。それにより,施 設で生活する利用者の社会生活の維持や,人と人とのかかわりを通して生まれる社会性 の拡大も含む,現場に根ざしたケアワークの方法論の理論化が可能になると考える。
参考文献
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・根本博司(2000)「第1章第2節 ケアワークの概念規定」一番ヶ瀬康子監修/日本介護福祉学会編 生活型福祉施設における生活支援の研究
80
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・西村洋子(1990)『介護概論』誠信書房.
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・本間真宏(1988)「介護・介助」仲村優一他編『現代社会福祉事典』全国社会福祉協議会.
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The purpose of this report is to organize how living support is run by care workers in the residential care facilities, and to reinterpret the concept of care work, rebuild significance and create a role for the care work in the residential care facilities. I present and consider the prece- dent study on care work concepts and living support demanded from elderly people. From a precedent study, it is clear that the care work is general and comprehensive support including the support for the social aspect as well as the support for the physical aspect. Our life is based on a social relationship. Therefore, it is necessary that the social relationship with all-inclusive support should be included in the living support. The care work provided in the elderly facilities where various people coexist in an environment make contributions to the expansion of the social lives of the clients.
As well as supporting the physical aspect sufficiently to meet the physiological needs, I sug- gested the possibility of care work practice supported in the fields by reinterpreting care work based on a social relationship.
Key words: Care Work, Living Support, Residential Care Facilities, Field, Social Relationship
Study of Living Support in Residential Care Facilities :
Care Work Run in the Field Yui Kuroda
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