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「性の多様性」を教材とした「特別の教科道徳」における人権教育

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立教大学教職課程 2018 年 2 月

「性の多様性」を教材とした「特別の教科道徳」における人権教育

-小中学校での授業実践事例から-

内海﨑 貴子

はじめに

学校教育の場で「特別の教科道徳」(以下、

道徳科)が完全実施されるのは、小学校では 2018 年度、中学校では 2019 年度からである。

1958 年に「道徳の時間」が始まってから 60 年 後、道徳教育は大きな転換点を迎えた。一部の 地域では、高等学校における道徳の必修化とい う動きもみられる。周知のように、道徳教育の 充実化は、幼児教育から小中学校を中心として 高等学校まで、一貫して継続的に図られること になっている

1

このような学校教育における道徳教育の充実 化は、勤務先大学の教育実習生の実習報告から も推察される。報告によれば、「道徳の時間」

の授業実習は小学校 4 週間実習のうち 1 ~ 2 時 間、中学校 3 週間実習のうち 0 ~ 1 時間であっ たが、ここ数年で小学校 2 ~ 3 時間、中学校 1

~ 2 時間となり、小中学校における道徳の授業 実習時間に増加傾向が見られる

2

。実習生から 報告された道徳の授業では、読み物資料から道 徳的価値に迫るという従前の学習方法に加え、

ICT の活用、児童生徒間での討論、グループワー クなど多彩な授業方法が用いられている。また、

授業で取り扱う内容は、児童生徒の規範意識の 形成を目的とするものだけでなく、開発、格差、

貧困、生命倫理、環境問題などのいわゆる「道 徳教育の現代的課題」

3

にまで及んでいる。こ のような現代的課題には葛藤や対立のある事象

も多く、それらの事象は道徳教育とともに広く 人権教育に関わる内容を含んでいる。

ところで、近年、学校教育現場では、LGBT

(Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender) と 総称される性的少数派の児童生徒への対応が 課題となっている。「LGBT 調査 2015」によれ ば、LGBT は調査対象者の 7.6%であり、13 人 に一人の割合で存在している

4

。つまり、一ク ラス 30 ~ 35 人の児童生徒の中に、LGBT は 2

~ 3 人いることになる。LGBT であることは、

本人の心構えや保護者の育て方で変えられるも のではない。にもかかわらず、現在の学校教育 現場では、誤った知識・情報に基づく差別や偏 見が是正されていない状況である。そのため、

LGBT の児童生徒は「ホモ」「オカマ」「レズ」

などの言葉による暴力・いじめの対象になるこ とが多く、不登校や自傷行為、自殺願望の高 さなどが深刻な問題となっている

5

。LGBT を 対象とした「LGBT の学校生活に関する調査」

によれば、「LGBT についての不快な冗談やか らかい」を見聞した児童生徒は 84%、「いじめ や暴力の経験」は全体の 68%、Transgender の男子では 82%である

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。学校教育の場で、

LGBT の児童生徒に対する人権侵害が起こって いると思われる。

言うまでもなく、道徳教育の充実化/道徳の

教科化の背景のひとつには、学校でのいじめを

原因とした児童生徒の自殺が後を絶たないとい

(2)

う状況があった。したがって、いじめの問題は、

道徳教育が取り組まなければならない現代的・

最重要課題といえよう。前述のように、LGBT の児童生徒がいじめの対象になりやすいことを 考えれば、LGBT へのいじめ、人権侵害は道徳 教育の現代的課題であり、LGBT の児童生徒に 対しては、学校教育全体で配慮や支援が必要に なる

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以上のような経緯と問題意識を踏まえ、本稿 では、学校教育現場において実践された「性の 多様性」の道徳の授業を取り上げ、人権教育と して「性の多様性」を道徳教育/道徳科で取り 組むことの可能性と課題について考えたい

8

。 取り上げる道徳の授業実践例(以下、実践例)

は、神奈川県三浦市立初声小学校第 5 学年「道 徳」、福岡県大川市立大川中学校第 2 学年「道 徳」の 2 例である。これらの実践例は、人権(教 育)の課題である「性の多様性」を教材として、

ティーム・ティーチング(以下、TT と略記)、

討論、映像資料の活用などの学習方法を用いて いる。なお、これらの実践例を資料として取り 上げることについては、授業担当者を含む当該 学校関係者の承諾を得ている。

1. 人権教育と「性の多様性」

(1)「性の多様性」

本稿を進めるにあたり、「性の多様性」につ いて整理しておきたい。国際的には、性的存在 としての人は「性的指向」(Sexual Orientation  SO と 略 記 ) と「 性 自 認 」(Gender Identity  GI と 略 記 ) の 両 方 の 視 点 を 組 み 合 わ せ た

「SOGI」という枠組みで捉えられている

9

。以下、

SOGI の枠組みで人を見ていく。まず、SO の

枠組みでは、人は性的指向が異性に向いている 異性愛(ヘテロセクシュアル・heterosexual)、

性的指向が同性に向いている同性愛(ホモセク シュアル・homosexual)、性的指向が同性にも 異性にも向いている/相手の性別にこだわらな い両性愛(バイセクシュアル・bisexual)、性 愛の対象を持たない/性的欲求そのものがな い(アセクシュアル・Asexual)などとなる

10

。 一方、GI の枠組みでは、生まれながらの身体 の性別/法的な性別とは異なる性別を自認し ている性別越境(者)(トランスジェンダー・

transgender)

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、身体的/法的性別と性自認 がほぼ一致している性別適応(シスジェンダー・

cisgender)、特定の枠に属さない/典型的な男 性/女性ではないと感じているクエスチョニン グ(questioning)という人々が存在すること になる。このように、SOGI の枠組みから人の 性を捉えると、人の性のあり方は様々であるこ とがわかる

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ま た、 一 般 に 多 様 性( ダ イ バ ー シ テ ィ diversity)とは、人種、宗教、性別、ジェンダー、

年齢、障害、価値観など、人間(の世界)には 幅広く性質の異なるものが存在することを指 す。学校教育では、児童生徒それぞれの違いを 尊重し、受け入れていくという意味で「多様性 の尊重」として用いられることが多く、障害の 有無や日本語を母語としない児童生徒などを理 解し、配慮・支援していく教育活動などが挙げ られる。本稿では、 「性別、ジェンダー(gender)、

セクシュアリティ(sexuality)など性の有り 様/あり方は様々である」という意味で「性の 多様性」を使用する

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「性の多様性」を考えるにあたり、その端

(3)

緒となるのは「セクシュアル・マイノリティ

(sexual minority)」の存在である。そもそも、 「性 の多様性」が学校教育現場において顕在化した きっかけは、性同一性障害の児童生徒への対応 が課題となったことにある

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。その後、性同一 性障害を含む LGBT などの性的少数派に対す る社会的認知が進み、学校内でカミングアウト する児童生徒が散見されるようになった。その ため、性的少数派= LGBT という認識が広まっ た。しかしながら、前述したように、性的少数 派は LGBT だけではない。そこで、本稿では、

上述した SOGI の枠組みの中で多数派とされる 異性愛と性別適応とは異なる人々をセクシュア ル・マイノリティとする。

ところで、セクシュアル・マイノリティを教 材とする場合、セクシュアリティの概念を明示 しておく必要がある。セクシュアリティは、 「人 間の性行動に関わる心理と欲望、観念と意識、

性的指向と対象選択、慣習と規範などの集合を 指す」

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とされ、WHO では以下のように定義 されている。

「セクシュアリティ(性)は、生涯を通じて 人間であることの中心的側面をなし、セックス

(生物学的性)、ジェンダー・アイデンティティ

(性自認)とジェンダー・ロール(性役割)、性 的指向、エロティシズム、喜び、親密さ、生殖 がそこに含まれる。セクシュアリティは、思考、

幻想、欲望、信念、態度、価値観、行動、実践、

役割、および人間関係を通じて経験され、表現 されるものである。セクシュアリティはこうし た次元のすべてを含みうるが、必ずしもすべて が経験・表現されるわけではない。セクシュア リティは、生物学的、心理的、社会的、経済的、

政治的、文化的、法的、歴史的、宗教的、およ びスピリチュアルな要因の相互作用に影響され る。セクシュアリティは、喜びとウェルビーイ ング(良好な状態・幸福・安寧・福祉)の源で あり、全体的な充足感と満足感に寄与するもの である。」

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また、世界性科学会議(1999)の「性の権利 宣言」(Declaration of Sexual Rights)によれ ば、「セクシュアリティとは、人間ひとりひと りの人格に不可欠な要素である。セクシュアリ ティが充分に発達するためには、触れ合うこと への欲求、親密さ、情緒的表現、喜び、優しさ、

愛など、人間にとって基本的なニーズが満たさ れる必要がある。セクシュアリティとは、個人 と社会構造の相互作用を通して築かれる。セク シュアリティの完全なる発達は、個人の対人間 関係の、その社会生活上の幸福に必要不可欠な ものである

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」とされる。

以上のことから、本稿では、WHO の定義に

「人間の人格に不可欠な要素」を加えた意味で、

セクシュアリティを使用する。その視点からす れば、下線(引用者)で指摘するように、セク シュアリティの形成に関わって学校教育の果た す役割は大きいと考えられる。

(2)人権(教育)課題としての「性の多様性」

人権教育とは「人権尊重の精神の涵養を目的

とする教育活動」

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であり、「生涯学習の視点

に立って、幼児期からの発達段階を踏まえ、地

域の実情等に応じて、学校教育と社会教育とが

相互に連携を図りつつ実施」

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されている。具

体的には、「知識の共有、技術の伝達、および

態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構

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築するために行う」ものであり、その構成要素 は、①知識及び技術(人権及び人権保護の仕組 みを学び、日常生活で用いる技術を身につける こと)、②価値、姿勢および行動(価値を発展 させ、人権擁護の姿勢および行動を強化するこ と)、③行動(人権を保護し促進する鼓動を採 ること)である

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『平成 28 年版人権教育・啓発白書』によると、

人権課題として「女性」「子ども」「高齢者」「障 害のある人」など 13 項目が挙げられ、それぞ れの課題に対する取り組みが紹介されている。

この課題の中に「その他の人権課題」として、 「性 的指向を理由とする偏見・差別をなくし、理解 を深めるための啓発活動」、「性同一性障害者の 人権」が挙げられている。前者については、 「性 的指向を理由とする差別的取扱い」を不当なも のとし、法務省の人権擁護機関における啓発活 動の実施、国家公務員等の研修会における「性 的マイノリティと人権」と題した講演会の開催、

性的指向に関する嫌がらせ等の人権侵犯事件の 調査及び適切な措置を講じるなどの施策が行わ れている。後者については、「社会の中で偏見 の目にさらされ、昇進を妨げられたり、学校生 活でいじめられたりするなどの差別を受けてい る」とし、法務省では前者と同様の取り組みが 行われ、文部科学省(以下、文科省)では「性 同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やか な対応の実施等について」(2015)の通知によ る学校での適切な教育相談の実施、教職員向け の資料「性同一性障害や性的指向・性自認に係 る、児童生徒に対するきめ細やかな対応等の実 施について」(2016)の公表および全国の教育 委員会等への通知などの施策が行われている。

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このように、法務省・文科省では人権(教育)

の課題として、いわゆる「性的マイノリティ」

への偏見・差別をなくすために、様々な取り組 みを行っている。これらの取り組みをみると、

講演会や研修会の実施、教職員向けの資料の配 布など「性的マイノリティ」についての理解を めざす、いわゆる「啓発活動」が中心となって いることがわかる。本稿では、人権の課題とし て挙げられている「性的マイノリティ」につい て、文科省の「性同一性障害や性的指向・性自 認に係る、児童生徒」という表記に着目し、 「セ クシュアル・マイノリティ」と同様の人々を表 す標記と捉え、以下、「セクシュアル・マイノ リティ」を使用する。

(3)道徳教育/道徳科と「性の多様性」

すでに明らかにしたように、学校教育におけ る人権教育は学校教育全体を通して行われ、そ の中心的な役割を担っているのが道徳教育/道 徳科である

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。また、前節で、セクシュアル・

マイノリティが人権(教育)の課題として取り 上げられていることを確認したが、小中学校の 道徳科学習指導要領ではどうか。端的に言って、

道徳科の内容項目として、「性の多様性」やセ クシュアル・マイノリティおよびその関連事 項(ジェンダー(gender)、セクシュアリティ、

性的健康(sexual health)、性的権利(sexual

rights)など)

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は入っていない。道徳科学習

指導要領で示されている内容項目は、小学校で

は自律、自由と責任、親切、思いやり、相互理

解、規則の尊重、家族愛、生命の尊さなど、中

学校では真理の探究、遵法精神、公徳心、社会

参画などのいわゆる価値項目である

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(5)

また、小中学校道徳科の授業で教材として使 用されている(2017 年度まで)文科省編纂の 資料集『私たちの道徳』においても、「性の多 様性」に関わる内容を含むものや、セクシュア ル・マイノリティおよびその関連事項は掲載さ れていない。なぜなら、 『私たちの道徳』は、 「道 徳の時間はもちろん、学校教育活動全体を通じ て、また家庭や地域社会で活用されることを期 待して作成」されたものであり、「学習指導要 領に示す内容項目ごとに『読み物部分』と『書 き込み部分』とで構成」されているからである

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では、道徳科の授業で「性の多様性」を教材 として取り上げることはできないのだろうか。

結論から言えば、「性の多様性」を道徳科で取 り上げることは不可能ではない。というのも、

道徳科の授業においては、環境、貧困、人権、

平和、開発など、社会の持続可能な発展に関わ る現代的な課題を教材として取り上げ、児童生 徒がそれらの課題を自分との関係において考 え、多面的・多角的視野から議論することが推 奨されているからである。例えば『小学校学習 指導要領解説特別の教科道徳編』では、「児童 には、発達の段階に応じて現代的な課題を身近 な問題と結び付けて、自分との関わりで考えら れるようにすることが求められる」とし、「そ れらの教育的課題を主題とした教材を活用する などして、さまざまな道徳的価値の視点で学習 を深めたり、児童自身がこれらの学習を発展さ せたりして、人としてよりよく生きる上で大切 なものは何か、自分はどのようにして生きてい くべきかなどについて、考えを深めていくこと ができるような取り組みが求められる」として いる

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つまり、道徳科の授業で、児童生徒の発達段 階に応じた現代的な課題として「性の多様性」

を取り上げることは可能なのである。その際 重要なのは、「現代的課題の学習では、多様な 見方や考え方があることを理解させ、答えが定 まっていない問題を多面的・多角的視点から考 え続ける姿勢を育てることが大切」であり「安 易に結論を出させたり、特定の見方や考え方に 偏った指導を行ったりすることのないよう留意 し、児童が自分と異なる考えや立場についても 理解を深められるよう配慮」することなのであ る

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2.小中学校における道徳授業実践

(1)小学校での実践例

ここでは、2017 年 7 月 14 日、神奈川県三浦 市立初声小学校で行われた 5 年生道徳の実践例 を見ていきたい。

この授業は、旧学習指導要領(平成 20 年)

の領域 2「主として他の人とのかかわりに関す ること」の内容項目「(4)謙虚な心をもち、広 い心で自分と異なる意見や立場を大切にする」

を扱ったものである。授業のねらいは、児童自 身が性別の固定概念を省察する過程で、性の多 様性を認識することにより相互尊重の在り方を 考える、という点にある。教材は LGBT に関 する新聞記事、当事者の著作等から養護教諭が 作成した掲示資料(イラストなど)である。授 業方法は、担任教諭と養護教諭による TT であ る。授業の事前準備として、児童の「男らしさ、

女らしさ」についての考え方を把握するための

事前アンケート

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を行い、その結果を導入に

用いている。

(6)

【資料 1】

第 5 年生道徳指導案

授業者 担任  加藤 惠美子 養護教諭 及川 比呂子 1 日時 2017 年 7 月 14 日(金)

2 主題名 「男らしさ?女らしさ?」

・視点 2 主として他の人との関わりに関すること

・内容項目 (4)謙虚な心をもち,広い心で自分と異なる意見や立場を大切にする。

3 ねらいと資料

・ねらい

○ 日常生活の中で自分が意識していなかった性別の固定概念を振り返り、現代の中で多様な 性の認識を知り、お互いをどう尊重するか、自分なりに考える。

・資料

○「LGBT ってなんだろう」(著:薬師実芳他、出版:合同出版)

○ 朝日新聞,神奈川新聞の記事 4 主題設定の理由

(本時の位置づけ)

社会には様々な人が住んでいる。性に関する認識も多種多様で、「LGBT(同性愛者・性同一性 障害者などの性的マイノリティ)」は、7.2%いるといわれている。現代では、ようやく LGBT の方 たちがカミングアウトをし、自分らしく生きる社会を目指そうと動き始めたところだ。

本校では、昨年度本校の養護教諭と担任による6年生の道徳の授業で、LGBT について理解を進 めた。中学校に入学する前に多種多様な性の認識があることを理解する必要があると感じたからで ある。今回も、5 年生に向け担任と養護教諭が協力し授業を行った。LGBT に理解がある大人が身 近にいることを子どもたちに伝えたかったからである。また、養護教諭が子どもたちに語り掛ける ことは、これから思春期に入っていく 5 年生にとって大きな意味があると考えた。5 年生に身近な ところから性別についてどう理解していくか考えさせることで、自分を含めた社会の人々が自分ら しく生きていくこと、そしてそのためにお互いを尊重することの大切さを伝えたいと思い、本主題 を設定した。

(指導観)

本時は、日頃性差について思っていることを述べるところから始めた。子どもたちは何気なく言 以下の【資料 1】は学習指導案である。なお、

下線部は引用者が記入したものである。

(7)

われたこと言ったことに対して、あまり深く考えたことがないと思われる。ただ、それは教師が見 かけ上思っていることで、本当はどんな思いをしているのかわからない。まず、男らしさ、女らし さについて思っていることを事前にアンケートにとり子どもたちがどんな思いをしているか授業者 が知るところから始めた。そしてそのアンケートをもとに子どもたちが日頃思っている性別に対す る意識をお互いどう思うか意見交換することで、自分が持っている固定的概念について考えてもら いたいと考えた。

そして、展開 1 では性別について疑問に思った経験を持つ人の話をする。その話を題材にして自 分の性別に対する考え方を振り返り、これからどうしたらよいか考えさせる。そして、展開 2 とし て養護教諭により、LGBT の存在を伝え、みんなが気持ちよく過ごすために自分たちができること は何か考えさせる。

(児童観)

本学級の児童は、穏やかで思いやりのある児童が多い。また、男女の仲が良く、男女の差をあま り感じることなくグループ活動を行っている。全体的には幼く、これから性に関して関心を持ち、

意識が高まってくると思われる。この時期に今もっている性の固定観念を出し合い、それぞれに対 して、考えを深め合い、世の中には自分たちが思っている以上の多様的な性の認識があることを知 ることは自分の考えを広げるために大切であると考える。また、自分たちの他愛もないからかいや 言動に心を傷つけられる可能性がある人たちの存在を知ることは、これからの成長に大事であると 考える。

5 展開

学習活動 教師の支援・留意点

導入 1、事前のアンケートで答えた女の子らしさ、男 らしさについて結果を確認する。

〇 12 項目の中から 6 項目に絞り、次の話し合い をやりやすくする。

展開1

2、結果について思うことを話す。

・自分の意見を理由も考えて話す。

(・出た意見に対してグループで話し合う。)

(・全体で意見を交換する。)

3、女だから、男だからという理由で、させても らえなかった人たちの思いを聞く。

・どう思うか話す。

・自分もさせてあげなかったことはないか考える。

○話しやすい項目から考えさせる。

・個人

(・グループ)

・全体

全体で意見が出るようならグループの話し合いは しない。

○自分も人に嫌な思いをさせていたことを話すの は難しいので、自分の中で振り返る時間を十分と る。

(8)

4、男らしさ・女らしさよりも自分らしさを大切 にするためにはどうすればいいか考える。

・ワークシートに書く。

(発表)

〇自分なりの考えをもつことの大切さを伝える。

もし、自分の差別に気づき、これから変えていき たいと思った子がいたら、その価値について子ど もたちに伝えたい。

展開2 5、LGBT について知る。

(養護教諭による、LGBT の説明)

〇手作り教材と新聞記事を使い、現代における LGBT に関する情報を伝える。

まとめ 6、ワークシートにこの学習で学んだこと、感じ こと、考えたことを書く。

〇 LGBT のことを知る前の考えと LGBT のこと を知った上での考えの差が分かるよう、2回書か せたい。

【資料 2】

○目標

(1)多様な性の在り方があることを知り、性の在り方にかかわらずお互いを尊重しあうことの 大切さについて理解することができる。

(2)性の在り方の違いを認め、より良い人間関係を築きながら共に生きようとする態度を持つ ことができる。

(3)自他の相違を受け止め、自他を大切にすることができる。

○単元計画(3 時間)

第 1 次 多様な性(LGBTQ)について知る。(1 時間)

第 2 次 いろんな性別といろんな生き方を知る。(1 時間)

第 3 次 違いを受け入れながら共に生きていくことを考える。(1 時間)

○指導案

第 1 次 ねらい:・DVD(新設 C チーム企画 2011)を見て、LGBT について知る。

        ・ゆうきがビデオレターで伝えたかったことについて考える。

(2)中学校での実践例

ここでは、福岡県大川市立大川中学校での行 われた 2 年生の道徳実践例を見ていく。この実 践は 3 時間扱い、人権教育(男女共同参画教育)

の領域として、第 2 次は保護者参観で、第 3 次 は市教育委員会の学校訪問時に実施されてい る。教材は LGBTQ についての DVD 映像資料

(ワークシート添付)、当事者の写真と手記であ り、授業方法は生徒間での意見交換・話し合い 学習である。授業者の神代恵美教諭は授業時の 生徒の感想を整理し、次の授業につなげている。

【資料 2】は、授業の目標、単元計画、および 第 1 次から第 3 次までの指導案である。なお、

下線部と太字は引用者が記入したものである。

(9)

学習活動 指導上の留意点 1.前時を思い出す。

 ・体のしくみ(生殖器)も単純に女 ・ 男とはわけ られない。

2.3 つの性を知る。

 ・性別は何で判断するのかを考える。

3.めあてを確認する。

 多様な性について学ぼう。

4.DVD「ゆうきからのお知らせとお願い」を見て、

ゆうき(トランスジェンダー)について知る。

5.わかったこと、感じたことを交流する。

 ・DVD を見て知ったことや分かったこと  ・ゆうきがビデオレターで伝えたかったこと、自

分の心に響いたことについて

 ・Q は「クエスチョンである。」ことを知る。

6.まとめ

 ・ 感想を書き、交流する。

○いろんな人がいて当たり前なことを再度押さえ る。

○ゆうきが感じたしんどさについて考えさせ、自分 たちの周りにたくさんの問題があることに気づか せる。

○「おかま」「レズ」などの言葉をどういう意味で使っ ているのか、使ってどんな気持ちなのか、考えさ せる。

○自分がいじめられないために、いじめに荷担して しまうことがある。それをしない勇気が必要だと 気づかせる。

・どう生きても、誰を好きになってもいい。

・女や男だけでなく、自分らしく生きる。

・その人らしく生きているのを、他の人が笑うのは 悲しい。

・違いを楽しみ、仲良くする。

○人の性や生き方は多様であり、どんな生き方をす るのかは自分で決めていいことを理解させる。

第 2 次 ねらい:・性別を 4 つの要素に分けて考え、自分の性について振り返る。

        ・性は多様であり、性のあり方、生き方は自分が決めていいことが分かる。

学習活動 指導上の留意点

1.めあてを確認する。

性別の中身を知ろう。

2.DVD(キリン先生の授業~マコトさんの4つの 性のものさしまで)を見る。

 ・LGBTQについて確認する。

3.4 つの性について考える。

 ・自分の 4 つの性について考える。

○ LGBTQ という言葉を復習する。

○ LGBTQ 以外にも性分化疾患など、それに当ては まらない人もいることを思い出させる。

○「心の中で丸をつけてみて」と伝える。

○性のあり方は一人ひとり違うことを知らせ、思っ たことや感じたことが人と違っていても、不安感 を持たせないようにする。

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4.DVD の続きを見て、好きな人の性別について考 える。

○すべての人が、女→男、男→女を好きになるとは 限らないことを考えさせる。

5.LGBTQ の人が困っていることを考え、「こんな のアリ!」を考える。

6.学習しての感想を書く。

○学校生活や自分たちがよく行く場所を中心に考え させる。

第 3 次 ねらい:性的マイノリティ当事者の思いを感じ、自分との違いを偏見や差別で見るので はなく、受け入れあうことによって、自他を尊重しようとする意欲や態度を養う。

学習活動(主な発問と予想される生徒の反応) 指導上の留意点 1.写真を見て感じたことを出し合う。

杏理さんのステキな笑顔のわけを考えよう。

2.資料を見て感じたことを出し合う。

(1)手記(最初~小学生部分)を読んで、杏理さん の思いを出し合う。

杏理さんはなぜ「もやもや」したのだろう。

・自分は男の子だと思っているのに、そんな風に 見てくれないから。

 ・なんでそんな風に言うのだろうと思ったから。

・これまでずっと仲が良かったのに、どうしたん だろう。

 「そんなのが近くにいたら気持ち悪いよね」と言 われた とき、杏理さんはどんな気持ちだったで しょうか。

 ・自分も気持ち悪いと思われるんじゃないか。

 ・誰も分かってくれないんじゃないか。

 ・一人ぼっちになるんじゃないか。

(2)手記(中学生~最後)を読み、杏理さんの思い を話し合う。

 「本当の、そのままのあなたが素敵だよ」と言わ れたとき、杏理さんはどんな気持ちだったでしょ う。

・ようやく、本当の自分を理解してくれる人がで きた。

・できれば、もっと早く理解してくれる人がほし かった。

3.杏理さんの手記から、これまでの経験を想起する。

  

4.資料(最終項)を読み、教員の話を聞く。

 ・これまでの出会いや自分の考えについて。

○先ず自由に発表させる。その中で杏理さんの笑顔 や言葉に対する、子どもの反応や発言を拾い上げ、

焦点を絞っていく。

○「自分は男なんだと思っていた」という杏理さん の言葉に注目させ、「体の性と心の性が一致して いない人もいる」と言うことをおさえ、「多様な性」

について学習することを確認する。

○発問に対する子どもの考えを深化させるために、

その後の文章「絶対話せない・・涙が流れました。」

の部分に注目させる。

○自分の考えを班で交流させる。

○学級の中に実際に悩み、苦しんでいる子どもがい ることが予想されるので、子どもの心の揺れには 十分に配慮する。

○子どもの発言や班での交流で出てくる、「自分の 事を認めてくれる友達の存在への気づき」に焦点 を当て、手記に関するまとめへとつなげる。

○手記のまとめでは、設問1から設問2への杏理さ んの気持ちの移り変わりについて、その背景にあ る周囲の理解と受け入れが大切であることに気付 かせる。

○感想の中に出てくる「今までの自分」や「これか らの自分」などに着目する。

○現在の杏理さんの活動を紹介する中で、悩んでい る子どもの SOS 発信先を紹介する。

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(3)小中学校の実践例からわかること

小学校の実践では、授業後、児童は次のよう な感想を書いている。

・ 人によってそれぞれだし、自分らしさは他の 人とは違う。自分は自分、他の人は他の人と、

ひとり一人違う。性別ごとに分けなくてもい いと思った。

・ 自分が悪気なく言っている言葉でも、相手を 傷つけているときがあるかもしれないことを 学んだ。男だからって限られているわけでは ない。

・ 自分の気持ちに自信をいっぱい持っていい、

ということがわかった。

これらの感想から、児童が「性の多様性」の学 習を通して、道徳価値項目の「自分と異なる意 見や立場を大切にする」ことを学んでいること がわかる。小学校の実践例には、セクシュアル・

マイノリティについての知的理解を目的とする 学習内容は含まれていない。むしろ、LGBT に ついては新聞記事などの情報、当事者の経験を 提示することにとどめ、まず、児童が「性の多 様性」に気づくことにねらいを絞っている。そ の結果、児童は「一人ひとり違う」「自分の気 持ちに自信を持つ」という「多様性」と「自己 決定・自尊感情」、自分にも意図せず他者を傷 つける可能性があることに気づけている。

一方、中学校の実践例では、第 1 次で多様な 性についての知的理解を目的に授業が行われ、

第 2 次で自分の性を振り返ることにより「性の 多様性」を自分のこととして学習し、第 3 次で 当事者の思いを感じ取ることから自他の違いを 認め、それぞれを尊重することの大切さにつな げている。以下は 3 時間の授業終了後、生徒が

書いた感想である。

・ 世の中には色々な人がいると分かり、僕が今 まで同性愛の人をキモイと思っていたけど、

その人たちは嫌な思いをしていると分かっ た。

・ 気付かないうちに私も傷つけているかもしれ ないので、気をつけていかなければならない と思った。そして受け入れる心を持たないと いけないと思った。

・ 私は「いろんな性別」の学習をするまで、女 性、男性以外の性別はないと思っていたけど、

もっと違う性別の人がいると知れて理解が深 まったので良かった。

この実践例では、セクシュアル・マイノリティ についての知的理解は「性の多様性」を理解す るための学習過程に位置づいており、授業のね らいは自他の違いを認め、それぞれの生き方を 尊重し、共生することの大切さを理解すること にある。特に、第 2 次では、生徒が自身の性の あり方について考える時間を設定し、性のあり 方、生き方を自己決定することの大切さを確認 させている。そうすることにより、生徒は、セ クシュアル・マイノリティを特別な存在として 多数派から分離して捉えるのではなく、自分も 人間の多様な性の中の一人であることに気づけ ている。

これら小中の実践例に共通していることは、

次の 4 点にまとめられる。

①授業のねらいは、「自分と異なる意見や立場

を大切にし、相互尊重を自分なりに考えるこ

と」(小学校)、「多様な性を理解し、性のあ

り方・生き方の違いを認め、共に生きようと

する態度、自他を大切にすること」(中学校)

(12)

であり、道徳科の内容項目である。

②養護教諭(小学校)との TT による学習方法 の採用、「からだのしくみ」の学習(中学校)

など他教科(保健体育科)との連携が行われ ている。

③セクシュアル・マイノリティ/当事者の経験 や手記を教材として活用し、児童生徒に対し て相手の立場に立って考えること、意図せず 傷つけてしまうかもしれない人の存在に気づ くことを促している。

④「性の多様性」を理解する過程に、セクシュ アル・マイノリティの抱える課題を「自分の こととして、自分に引き付けて考えること」

が含まれている。

おわりに

これまで述べてきたように、人権教育として

「性の多様性」を道徳科で取り扱うことは可能 である。2 実践例からもわかるように、道徳科 の指導において重要なのは、児童生徒が自身の こととして多様な性のあり方を学習し、人権感 覚としてそれぞれの生き方を尊重できるように なることである。すなわち、それは、「私たち の『性の多様性について』」学ぶことであり、 「『私 たち』の内部の、もしくは自分自身の内部の差 異について考えること」である

29

学習指導要領「道徳科の教材に求められる内 容の観点」によれば、道徳科の指導においては 児童生徒の発達の段階や特性、地域の実情等を 考慮した上で、現代的な課題を題材とした多様 な教材の開発と活用が求められている

30

。実践 例をみると、プレ思春期の小学校 5・6 年生や 第二次成長期・思春期の中学生の発達段階を踏

まえた教材が選択されている。したがって、 「性 の多様性」の授業においても、教材選択の際に は、児童生徒の発達段階とその特性を踏まえる ことが重要と言える。

また、道徳科の学習指導においては、各教科 との関連をもたせた学習指導の多様な展開が求 められる

31

。実践例でも、担任教諭と養護教諭 との TT による学習(小学校)、他教科での学 習を踏まえた授業(中学校)など、多様な学習 指導が展開されている。つまり、「性の多様性」

関連の資料を教材として用いる場合にも、理 科、保健体育科、社会科、家庭科など他教科と の関連づけ、教科担当教員間/養護教諭との連 携、教材に関しての教員間の共通理解が必要と なる。

なお、本稿では紹介できなかったが、小学校 での実践例では、「学級通信」で「性の多様性」

を取り扱った道徳の授業の様子を掲載し、保健 室の「ほけんだより」で LGBT について解説 するなど、クラス担任教諭と養護教諭が連携し て保護者への情報提供を行っている。また、中 学校の実践例でも、「授業の意義を保護者に知 らせる取り組み」として「学年通信」で授業の 情報を提供し、当事者による人権講演会を開催 している。「性の多様性」の授業実践では、セ クシュアル・マイノリティへの偏見や差別の解 消という人権教育の視点から、正確な知識・情 報の提供を含め保護者との連携・協力が重要で ある。今後の課題としたい。

 【注】

1

「道徳教育のイメージ」文部科学省中央教

育審議会初等中等教育分科会『考える道徳

(13)

への転換に向けたワーキンググループに おける審議のとりまとめ」別添 16-4、2016 年 8 月 26 日。

2

筆者は本務校で、小学校及び中学校の「道 徳教育の指導法」を担当しており、実習 終了者から個別に「道徳の時間」の授業 実習について、回数、授業方法、内容等 を聞き取っている。

3

道徳教育の現代的課題については、拙稿「道 徳教育の現代的課題」内海﨑貴子編著『教 職のための道徳教育』(八千代出版、2017 年、pp.1 − 17)を参照されたい。

4

電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT 調査 2015」(2015 年 4 月)による。この調査の 概要は以下の通りである。調査対象:20

~ 59 歳の個人、69989 人、調査対象エリ ア:全国、調査時期:2015 年 4 月 7 ~ 8 日、

調査方法:インターネット調査。

5

杉浦郁子『LGBT 大学生に関する支援と課 題−インタビュー調査と電話相談の事例 から−』2011. 年 7 月 2 日「キャンパスセ クハラ全国ネット関東ブロック例会配布 資料」によれば、「セクシュアル・マイノ リティの多くは、幼児期から思春期にかけ て同性指向や性別違和を自覚する。しかし 現在、そうした児童/生徒に適切な対応は なされておらず、いじめ、不登校、抑うつ、

自傷、自殺願望などが深刻な問題となっ ている」という。

6

いのちリスペクト.ホワイトリボンキャン ペーン『LGBT の学校生活に関する実態 調査(2013)結果報告書』(2014 年 4 月)

による。調査の概要は以下の通りである。

調査対象:LGBT 当事者又はそうかもし れないと思っている 609 人、調査対象エ リア:小学生から高校生の間関東地方(埼 玉県を除く)に在住、調査時期 2013 年 10 月 28 日~ 12 月 31 日、調査方法:インター ネット調査。

7

2017 年 3 月 14 日、文部科学省は「いじめ の防止等のための基本的な方針」を改定 し、別添 2「学校における『いじめ防止』 『早 期発見』『いじめに対する措置』のポイン ト」に「性同一性障害や性的指向・性自認 に係る児童生徒に対するいじめを防止す るため、性同一性障害や性的指向・性自認 について、教職員への正しい理解の促進 や、学校として必要な対策について周知す る」と明記した。文部科学省『いじめ防 止等のための基本的な方針 平成 25 年 10 月 11 日文部科学大臣決定(最終改定 平 成 29 年 3 月 14 日)』別添 2 p.3。

8

「性の多様性」を題材とした授業実践は、

性教育の領域で散見される。例えば、渡 辺 大 輔 他「 中 学 校 に お け る『 性 の 多 様 性』理解のための授業づくり」『埼玉大学 教育学部付属教育実践総合センター紀要』

Vol.10、2011 年、pp.97 − 104、 田 代 美 江 子他「ジェンダー・バイアスを問い直す授 業づくり−『性の多様性』を前提とする中 学校の性教育−」『埼玉大学教育学部付属 教育実践総合センター紀要』Vol.13、2014 年、pp.91 − 98。

9

例えば、国連人権理事会が「性的指向と性 自認を理由とする暴力と差別からの保護」

(2016)に関する決議を可決するなどである。

(14)

10

WHO は、ヘテロセクシュアル以外の性的 指向を疾患とみなしていない。

11

性同一性障害(Gender Identity Disorder)

は医学的疾患名であるが、アメリカ精神 医学会による最新の診断基準 DSM − 5

(2013)では GID はなくなり、性別違和

(Gender Dysphoria)に変更された。

12

個人の性は、その個人の「性自認」を以っ てその人の「性」となる。

13

言うまでもなく、「性の多様性」という考 え方は、「性別は男または女である」(性別 二元論)や「異性間の恋愛・性関係が正 常/あるべき姿である」(異性愛主義)を 相対化する。

14

例えば、2014 年、文部科学省は「学校に おける性同一性障害に係る対応に関する 状況調査」を実施し、初めて「性同一性 障害」を抱える児童生徒の実態を明らか にしている。

15

井上輝子、上野千鶴子、江原由美子、大沢 真理、加納実紀代編『岩波女性学事典』岩 波書店、2002 年、p.293。

16

世 界 保 健 機 構 HP http://www.

who.int/reproductivehealth/topics/

gender_rights/sexual_health/en/

2017.8.21 アクセス。原文は以下の通り。

 Sexuality is a central aspect of being human throughout life and encompasses sex, gender identities and roles, sexual orientation, eroticism, pleasure, intimacy and reproduction. Sexuality is experienced and expressed in thoughts, fantasies, desires, beliefs, attitudes,

values, behaviours, practices, roles and relationships. While sexuality can include all of these dimensions, not all of them are always experienced or expressed.

Sexuality is influenced by the interaction of biological, psychological, social, economic, political, cultural, ethical, legal, historical, religious and spiritual factors.

17

http://www.worldsexology.org/wp-

content/uploads/2013/08/declaration_of_

sexual_rights_sep03_2014.pdf

18

「人権教育及び人権啓発の推進に関する法 律」(2000 年)第 2 条

19

法務省・文部科学省編『平成 28 年版人権 教育・啓発白書』2016 年 6 月 7 日、p.2。

20

国連「人権教育のための世界計画」 (United Nations World Programme for Human Rights Education)、2005 年。

21

前掲『平成 28 年版人権教育・啓発白書』、

pp.59 − 61。

22

拙稿「教職課程科目『道徳教育の指導法』

における人権教育実践−ユニセフ『子ども の権利条約カード』を用いたアクティブ・

ラーニングの試み」立教大学学校・社会教 育講座教職課程『教職研究第 29 号』2017 年 4 月、pp.25 − 38。

23

WHO / Gender and human rights http://

www.who.int.reproductivehealth/render_

rights/sexual_health/en/ 2017.8.21 ア クセス。WHO では、性的権利として「セ クシュアリティ教育(sexual education)」

を挙げている。

24

文部科学省『小学校学習指導要領解説 特

(15)

別の教科 道徳』平成 27 年 7 月(以下、 『小 学校指導要領解説道徳科』と略記)、『中学 校学習指導要領解説 特別の教科 道徳』

平成 27 年 7 月(以下、『中学校指導要領 解説道徳科』と略記)参照。

25

「私たちの道徳の特徴」「『私たちの道徳』

について 平成 26 年 6 月 文部科学大臣  下村博文」。『私たちの道徳』に添付資料 として差し込んである。

26

前掲、『小学校指導要領解説道徳科』pp.94

− 95、『 中 学 校 指 導 要 領 解 説 道 徳 科 』 pp.97 − 98。

27

前掲、『小学校指導要領解説道徳科』p.96、

『中学校指導要領解説道徳科』p.99。

28

アンケートは「道徳『男らしさ女らしさ』

アンケート」というタイトルで、女の子 らしさとして「おしとやか、かわいいも のが好き、赤やピンクが好き、おままご とが好き、料理や裁縫が得意、スカート をはいている、リボンを着ける、将来の 夢はお花屋さん、すぐに泣く、ていねい な言葉づかいをする、髪が長い、か弱い」、

男の子らしさとして「わんぱく、かっこ いいものが好き、青や緑が好き、戦隊も のが好き、工作やスポーツが得意、ズボ ンをはいている、ネクタイを着ける、将 来の夢はパイロット、めったに泣かない、

乱暴な言葉づかいをする、髪が短い、力持 ち」を調査項目に挙げ、児童がそれぞれの 項目の記入欄に「そう思う、思わない、?」

丸を書きこむ形式である。また、末尾には

「アンケートをして感じたこと、考えたこ とを書きましょう」「男らしさ女らしさは、

どんなことだと思いますか」を記入する 自由記述欄がある。

29

渡辺大輔「『性の多様性』教育の方法と課 題」三成美保編著『教育と LGBTI をつな ぐ−学校・大学の現場から考える−』青 弓社、2017 年、pp.161 − 162。

30

前掲、『小学校指導要領解説道徳科』p.99、

『中学校指導要領解説道徳科』p.102。

31

前掲、『小学校指導要領解説道徳科』p.80、

『中学校指導要領解説道徳科』pp.79 − 80。

*本稿執筆にあたっては、神奈川県三浦市

立初声小学校加藤惠美子教諭、及川比呂

子養護教諭、福岡県大川市立大川中学校

神代恵美教諭から貴重な資料を提供して

いただいた。深く感謝する次第である。

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