日本の学術研究団体における男女共同参画
-現状と課題をめぐる一考察-
島 直 子*・太 田 恭 子
†1 本稿の目的
21
世紀の国際社会において,男女がその個性と能力を十分に発揮できる社会 の実現は,重要な政策課題として共有され,取組みが進められている.日本に おいても,男女共同参画社会の形成を推進する上で法的根拠となる「男女共同 参画社会基本法」が
1999年に制定され,
2005年に策定された「男女共同参画 基本計画(第
2次)」には,「社会のあらゆる分野において,
2020年までに,
指導的地位に女性が占める割合が少なくとも
30%程度になる」ことが目標とし て明記された.しかし日本の現状をみると,政治,司法,行政,雇用,科学技 術・学術など,あらゆる分野において女性の参画が必ずしも十分に達成されて いない.なかでも科学技術・学術分野においては,女性研究者比率が
14.0%に とどまり,
30%を超える他の先進諸国に比較して著しく低いことが指摘されて いる(内閣府
2013a).
このようななか,内閣府に設置された男女共同参画会議 基本問題・影響調 査専門調査会では,あらゆる分野を対象にポジティブ・アクションを推進する 方策について検討がなされた.そしてその「中間報告」(2011年7月)において,
科学技術・学術分野におけるポジティブ・アクションの推進方策を明らかにす
* SHIMA, Naoko 首都大学東京 都市教養学部 人文・社会系 特任研究員 [email protected]
† OHTA, Kyoko 首都大学東京 都市教養学部 人文・社会系 特任研究員 [email protected]
るためとして,「日本学術会議に対して,科学者コミュニティにおける女性の 参画を拡大する方策についての検討を要請する」ことが提言された.そしてそ の提言をうけて,2011年10月に内閣府男女共同参画局長より,日本学術会議会 長に対して「科学者コミュニティにおける政策・方針決定過程への女性の参画 を拡大する方策」について審議依頼がなされ,日本学術会議科学者委員会男女 共同参画分科会において審議が進められている.この審議は広く注目を得てお り,たとえば平成25年版『男女共同参画白書』では,「平成24年度に講じた男 女共同参画社会の形成の促進に関する施策」のうち,科学技術・学術分野にお ける取組みとして,日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科会において上 記の審議がなされていること,また審議材料を得るための調査が実施されたこ とが明記されている.
このたび筆者らは,日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科会調査員と して,審議材料を得るための一連の調査の一つとして実施されることとなった,
男女共同参画に積極的に取組む学術研究団体へのヒアリング調査に従事する機 会を得た.上記のような背景から,本調査から得られる知見は,今後の日本の
「科学者コミュニティにおける女性の参画を拡大する方策」のありかたに一定 の影響を及ぼすことが予想される.そこで本稿では,この貴重な調査の概要と 知見を整理する(2節・3節).そして先行の調査研究をもとに,学術研究団 体における男女共同参画推進の取組みがもたらした成果を検証し,今後期待さ れる取組みや課題について考察する(4節・5節).
2 ヒアリング調査の概要
調査は,
13の学術研究団体と男女共同参画学協会連絡会
1)を対象として,
2013年
3月~
12月に行われた.調査対象については,以下のような手順を経て選定 された.
2012
年
1月に,日本学術会議から日本学術会議協力学術研究団体(
1,924団 体)に対して「科学者コミュニティにおける女性の参画に関するアンケート」
が依頼され,
570団体から有効回答が得られた.そして
2013年
1月~
2月に,
本調査において「代表者の選考,役員の選考,会員の選考などに関して,ポジ
るためとして,「日本学術会議に対して,科学者コミュニティにおける女性の 参画を拡大する方策についての検討を要請する」ことが提言された.そしてそ の提言をうけて,2011年10月に内閣府男女共同参画局長より,日本学術会議会 長に対して「科学者コミュニティにおける政策・方針決定過程への女性の参画 を拡大する方策」について審議依頼がなされ,日本学術会議科学者委員会男女 共同参画分科会において審議が進められている.この審議は広く注目を得てお り,たとえば平成25年版『男女共同参画白書』では,「平成24年度に講じた男 女共同参画社会の形成の促進に関する施策」のうち,科学技術・学術分野にお ける取組みとして,日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科会において上 記の審議がなされていること,また審議材料を得るための調査が実施されたこ とが明記されている.
このたび筆者らは,日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科会調査員と して,審議材料を得るための一連の調査の一つとして実施されることとなった,
男女共同参画に積極的に取組む学術研究団体へのヒアリング調査に従事する機 会を得た.上記のような背景から,本調査から得られる知見は,今後の日本の
「科学者コミュニティにおける女性の参画を拡大する方策」のありかたに一定 の影響を及ぼすことが予想される.そこで本稿では,この貴重な調査の概要と 知見を整理する(2節・3節).そして先行の調査研究をもとに,学術研究団 体における男女共同参画推進の取組みがもたらした成果を検証し,今後期待さ れる取組みや課題について考察する(4節・5節).
2 ヒアリング調査の概要
調査は,
13の学術研究団体と男女共同参画学協会連絡会
1)を対象として,
2013年
3月~
12月に行われた.調査対象については,以下のような手順を経て選定 された.
2012
年
1月に,日本学術会議から日本学術会議協力学術研究団体(
1,924団 体)に対して「科学者コミュニティにおける女性の参画に関するアンケート」
が依頼され,
570団体から有効回答が得られた.そして
2013年
1月~
2月に,
本調査において「代表者の選考,役員の選考,会員の選考などに関して,ポジ
ティブ・アクションをとったこと」が「ある」と回答した 111 団体のうち,日 本学術会議事務局が「積極的な回答が見込める」と判断した 39 団体に対して,
取組み内容や効果についてより詳細にたずねる「ポジティブ・アクション調査」
(アンケート調査)が依頼された.筆者らは,この「ポジティブ・アクション 調査」に回答された
18団体のうち,回答から男女共同参画に積極的に取組んで いることが推測された
13団体にヒアリング調査を依頼したところ,
7団体から 協力を得ることができた.さらに日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科 会委員から,男女共同参画に先進的に取組む学術研究団体として
6団体の紹介 を受け,そのすべてから協力を得ることができた.
これら
13団体のうち,日本哲学会を除く
12団体の事務局に対して,男女共 同参画の取組みに詳しい会員の紹介を依頼したところ,男女共同参画推進を担 当されている委員長や理事などをご紹介いただいた.いくつかの団体には,事 務局にもヒアリング調査に同席いただいた.なお日本哲学会については,日本 学術会議科学者委員会男女共同参画分科会委員から,直接インタビュイーをご 紹介いただいた.
13団体に対する主なヒアリング項目は,①男女共同参画に取 組むに至った経緯,②取組み内容,③取組みがもたらした効果と,効果を得る ための工夫,④男女共同参画が当該団体にもたらす効果,⑤当該団体における 男女共同参画推進上の困難・問題点,⑥今後の取組みである.13 団体の概要は,
表 1 のとおりである.ヒアリング時間は 1 団体あたり平均 2 時間,最も長いも のは 3 時間であり,すべてのヒアリングは許可を得て録音した.
なお,このヒアリング調査の過程で,自然科学系の学術研究団体における男
女共同参画推進において,男女共同参画学協会連絡会が重要な役割を果たして
いることが明らかになった.そこで同連絡会の初代委員長に,連絡会が設立さ
れた経緯や,取組み内容とその効果などについてうかがった.
表1 ヒアリング調査の対象団体
(注)次の4学会については、インタビュイーもしくは事務局に問合わせて作成
日本腎臓学会(2012年現在)、日本薬理学会(2013年現在),日本哲学会(2012年現在),日 本経済学会(2013年現在)
(注)上記4学会以外の9学会は、男女共同参画学協会連絡会の女性比率調査より作成(2013年現在)。
なお「役員」は、会長、副会長、理事、幹事とした。
(注)男女共同参画学協会連絡会については、正式加盟学協会数およびオブザーバー加盟学協会数
(2013年現在)を男女共同参画学協会連絡会のホームページより作成
NO. 学術研究団体名 インタビュイー 一般会員数
女性会員数(%) 役員数 女性役員数(%)
1 電気化学会 ・事務局長
・男女共同参画委員会委員長 4221 人
220 人(5.2%) 31 人 2 人(6.5%) 2 日本腎臓学会 ・男女共同参画委員会委員長 9244 人
2088 人(22.6%) 20 人 1 人(5.0%)
3 日本薬理学会 ・ダイバーシティ推進担当理
事 3339 人
625 人(18.7%) 18 人 1 人(5.6%) 4 日本木材学会 ・男女共同参画担当理事 1312 人
129 人(9.8%) 30 人 3 人(10.0%)
5 地盤工学会
・ダイバーシティ推進担当理
・男女共同参画・ダイバーシ事 ティに関する委員会幹事
7655 人
190 人(2.5%) 21 人 2 人(9.5%) 6 日本蛋白質科学会 ・男女共同参画担当理事 1030 人
124 人(12.0%) 26 人 3 人(11.5%) 7 日本魚類学会 ・男女共同参画委員会委員長 1111 人
66 人(5.9%) ―
8 日本哲学会 ・男女共同参画ワーキンググ
ループ座長・理事 1500 人
130 人(8.7%) 52 人 4 人(7.7%)
9 男女共同参画学協会連絡会 ・初代委員長 正式加盟学協会数 52
オブザーバー加盟学協会数 30 10 日本経済学会 ・若手・女性研究者支援ワー
キング・グループ委員長 約 3400 人
386 人(11.4%) 11 人 0 人(0.0%)
11 応用物理学会
・男女共同参画委員会初代委
・人材育成委員会男女共同参員長 画部門長
・事務局次長
20066 人
995 人(5.0%) 30 人 3 人(10.0%)
12 日本化学会
・男女共同参画推進委員会前
・男女共同参画推進委員会現委員長 委員長
21565 人
1885 人(8.7%) 30 人 1 人(3.3%)
13 電子情報通信学会 ・男女共同参画委員会委員長 27372 人
904 人(3.3%) 32 人 2 人(6.3%) 14 日本物理学会 ・男女共同参画推進委員会委
員長 14547 人
682 人(4.7%) 18 人 1 人(5.6%)
表1 ヒアリング調査の対象団体
(注)次の4学会については、インタビュイーもしくは事務局に問合わせて作成
日本腎臓学会(2012年現在)、日本薬理学会(2013年現在),日本哲学会(2012年現在),日 本経済学会(2013年現在)
(注)上記4学会以外の9学会は、男女共同参画学協会連絡会の女性比率調査より作成(2013年現在)。
なお「役員」は、会長、副会長、理事、幹事とした。
(注)男女共同参画学協会連絡会については、正式加盟学協会数およびオブザーバー加盟学協会数
(2013年現在)を男女共同参画学協会連絡会のホームページより作成
NO. 学術研究団体名 インタビュイー 一般会員数
女性会員数(%) 役員数 女性役員数(%)
1 電気化学会 ・事務局長
・男女共同参画委員会委員長 4221 人
220 人(5.2%) 31 人 2 人(6.5%) 2 日本腎臓学会 ・男女共同参画委員会委員長 9244 人
2088 人(22.6%) 20 人 1 人(5.0%)
3 日本薬理学会 ・ダイバーシティ推進担当理
事 3339 人
625 人(18.7%) 18 人 1 人(5.6%) 4 日本木材学会 ・男女共同参画担当理事 1312 人
129 人(9.8%) 30 人 3 人(10.0%)
5 地盤工学会
・ダイバーシティ推進担当理
・男女共同参画・ダイバーシ事 ティに関する委員会幹事
7655 人
190 人(2.5%) 21 人 2 人(9.5%) 6 日本蛋白質科学会 ・男女共同参画担当理事 1030 人
124 人(12.0%) 26 人 3 人(11.5%) 7 日本魚類学会 ・男女共同参画委員会委員長 1111 人
66 人(5.9%) ―
8 日本哲学会 ・男女共同参画ワーキンググ
ループ座長・理事 1500 人
130 人(8.7%) 52 人 4 人(7.7%)
9 男女共同参画学協会連絡会 ・初代委員長 正式加盟学協会数 52
オブザーバー加盟学協会数 30 10 日本経済学会 ・若手・女性研究者支援ワー
キング・グループ委員長 約 3400 人
386 人(11.4%) 11 人 0 人(0.0%)
11 応用物理学会
・男女共同参画委員会初代委
・人材育成委員会男女共同参員長 画部門長
・事務局次長
20066 人
995 人(5.0%) 30 人 3 人(10.0%)
12 日本化学会
・男女共同参画推進委員会前
・男女共同参画推進委員会現委員長 委員長
21565 人
1885 人(8.7%) 30 人 1 人(3.3%)
13 電子情報通信学会 ・男女共同参画委員会委員長 27372 人
904 人(3.3%) 32 人 2 人(6.3%) 14 日本物理学会 ・男女共同参画推進委員会委
員長 14547 人
682 人(4.7%) 18 人 1 人(5.6%)
3 ヒアリング調査の結果
以下に今回のヒアリング調査から得られた知見のうち,
1.各団体が男女共同 参画に取組むに至った経緯,
2.具体的な取組み内容と成果,
3.男女共同参画が 各団体もしくは各研究分野の発展にもたらす効果,
4.男女共同参画を推進する 上での困難・問題点,について整理する.
3.1 男女共同参画に取組むに至った経緯
日本の学術研究団体として,男女共同参画を推進する部署を最も早く設置し たのは応用物理学会である.応用物理学会では,副会長(当時)からインタビュ イー(男女共同参画委員会設置後,初代委員長に就任)に対して,各種委員会 に女性委員を登用するため女性研究者ネットワークの形成を依頼され,女性研 究者ネットワーク準備委員会がスタートしたことが,その後の男女共同参画の 取組みにつながった.今回の調査では,応用物理学会をはじめ大半の団体が,
男女共同参画に取組むに至った直接的な契機として「上層部の理解とリーダー シップ」をあげている.具体的には,理事長・会長が担当理事やワーキング・
グループを設置した,上層部の理解と支持によって,男女共同参画を担う部署 が短期的また積極的に設置された,といった事例が多数みられる.女性登用の ポジティブ・アクションについて,理事会での議論を経て制度的な手続を踏ん だことから大きな反対はない,といった指摘も多かった.一方,一部の団体で は,理事会側の体制が整わず一時的にワーキング・グループの活動が途絶えた,
年会で男女共同参画を取り上げることについて,必ずしもすべての会長が協力 的とは限らない,といった指摘があった.これらの点から,男女共同参画を組 織的・継続的に推進する上で,「上層部の理解」は不可欠といえる.
男女共同参画が推進された背景として,社会的潮流を指摘する団体も多い.
日本では
1999年に「男女共同参画社会基本法」が制定され,
2002年には,理
工学系学術研究団体が連携して男女共同参画を推進するために男女共同参画学
協会連絡会が設立された.このような社会的背景のなか,男女共同参画推進が
いわば自明の理として受け入れられているという団体も多い.特に男女共同参
画学協会連絡会の加盟団体では,同連絡会の運営委員会やシンポジウムへの参
加を通じて男女共同参画の理念や効果的な取組みを学び,それを各団体に持ち 帰って実践すること,また同連絡会を通じて社会的活動を行うことが,男女共 同参画を担当する部署の重要な任務となっている.たとえば
2001年に設立され た日本蛋白質科学会では,設立当時から男女共同参画が社会的に推進されてお り,また同連絡会の正式加盟団体であることから,当たり前のこととして取組 まれているという.
学生会員の女性比率は比較的高いものの,正会員のそれが低い団体では,女 性会員の増加促進と退会防止も意図されている.たとえば日本魚類学会では,
水産系の大学では女子学部生が過半数を占める大学もあるのに,女性会員比率 が 5%ほどにとどまることが,学会の存続・発展に関わる問題と認識されてい る.そこで男女共同参画委員会の今後の活動の一つとして,女子学生会員が増 加している理由を明らかにし,これを維持することが掲げられている.日本木 材学会でも,学生会員の 3 分の 1 は女性が占めるに至っており,彼女達が退会 して研究の担い手が失われることは,学会にとって切実な問題と受け止められ ている.日本薬理学会でも,男女共同参画を進めて若手女性を育成することは 学会の存続にかかわる重要な取組みと考えられており,女性にスポットライト をあて,若手女性に学会の意義をアピールする必要があることが指摘された.
一方,倫理的な観点から男女共同参画を推進する団体もある.たとえば地盤 工学会では,組織運営においては様々な構成員の意見が反映されるようダイ バーシティを確保すべきとして,また日本哲学会では,人事採用面で男性優遇 の風潮があり,女性の人数が少く十分に育成されていないことから,学問の健 全性を担保する最低限の条件を整えるためとして,推進されている.
なお,前述のように上層部のリーダーシップは不可欠であると考えられるが,
「横の連携」の重要性も指摘された.たとえば科学の分野では,すでに
1958年に「日本女性科学者の会」が設立されており,多分野の女性科学者がネット
ワーク化されている.日本化学会では,こうした底流のネットワークも,トッ
プダウンの働きかけとは別の作用で,理学系の男女共同参画推進に寄与したこ
とが指摘された.また経済学の分野でも,
2010年に女性経済学者のネットワー
クである
Japanese Women Economists Network(以後,
J-WENと略記)が立ち上
げられている.
J-WENは日本経済学会とは独立して活動しているが,メンバー
加を通じて男女共同参画の理念や効果的な取組みを学び,それを各団体に持ち 帰って実践すること,また同連絡会を通じて社会的活動を行うことが,男女共 同参画を担当する部署の重要な任務となっている.たとえば
2001年に設立され た日本蛋白質科学会では,設立当時から男女共同参画が社会的に推進されてお り,また同連絡会の正式加盟団体であることから,当たり前のこととして取組 まれているという.
学生会員の女性比率は比較的高いものの,正会員のそれが低い団体では,女 性会員の増加促進と退会防止も意図されている.たとえば日本魚類学会では,
水産系の大学では女子学部生が過半数を占める大学もあるのに,女性会員比率 が 5%ほどにとどまることが,学会の存続・発展に関わる問題と認識されてい る.そこで男女共同参画委員会の今後の活動の一つとして,女子学生会員が増 加している理由を明らかにし,これを維持することが掲げられている.日本木 材学会でも,学生会員の 3 分の 1 は女性が占めるに至っており,彼女達が退会 して研究の担い手が失われることは,学会にとって切実な問題と受け止められ ている.日本薬理学会でも,男女共同参画を進めて若手女性を育成することは 学会の存続にかかわる重要な取組みと考えられており,女性にスポットライト をあて,若手女性に学会の意義をアピールする必要があることが指摘された.
一方,倫理的な観点から男女共同参画を推進する団体もある.たとえば地盤 工学会では,組織運営においては様々な構成員の意見が反映されるようダイ バーシティを確保すべきとして,また日本哲学会では,人事採用面で男性優遇 の風潮があり,女性の人数が少く十分に育成されていないことから,学問の健 全性を担保する最低限の条件を整えるためとして,推進されている.
なお,前述のように上層部のリーダーシップは不可欠であると考えられるが,
「横の連携」の重要性も指摘された.たとえば科学の分野では,すでに
1958年に「日本女性科学者の会」が設立されており,多分野の女性科学者がネット ワーク化されている.日本化学会では,こうした底流のネットワークも,トッ プダウンの働きかけとは別の作用で,理学系の男女共同参画推進に寄与したこ とが指摘された.また経済学の分野でも,
2010年に女性経済学者のネットワー クである
Japanese Women Economists Network(以後,
J-WENと略記)が立ち上 げられている.
J-WENは日本経済学会とは独立して活動しているが,メンバー
全員が日本経済学会会員である.また日本経済学会の若手・女性研究者支援ワー キング・グループのメンバーは,担当理事以外は
J-WENのメンバーでもある.
そこで学会としての男女共同参画の取組みは,若手・女性研究者支援ワーキン グ・グループと
J-WENの連携によって進められている.そして日本腎臓学会で は,男女共同参画に取組む発端として,学会内で開催されていたインフォーマ ルな会が大きな役割を果たした.日本腎臓学会では
2000年ごろから,女性会員 の厚意でインフォーマルな「日本女性腎臓医の会」が開催され,若手女性会員 が,学術的な話とともにキャリア継続や女性医師がおかれている状況について 相談していた.しかし同会のリーダー的存在であった女性医師の一人が,男女 共同参画は社会的な取組みであり,もはや自分たちが個人的に相談にのる時代 ではないとして,学会として男女共同参画に取組むことを理事長に上奏した.
3.2 男女共同参画を推進するための取組みと成果
ポジティブ・アクションとしては,「女性の登用」「女性の能力の『見える 化』」「女性限定賞の設置」が進められている.
第一の「女性の登用」としては,半数近くの団体が,理事会ないしはすべて の委員会に女性を 1 名以上入れることを掲げている.たとえば日本蛋白質科学 会では,理事候補としてできるだけ女性を推薦するよう呼びかけており,また 会長が指名する理事の選考については,性による格差の是正と女性の積極的登 用を図る旨が会則に記載されている.日本魚類学会でも,評議員などの選挙で は,学会として男女共同参画を積極的に推進している旨の注意書きを付記して いる.日本化学会の男女共同参画推進委員会では,2003 年に「理事会,支部,
部会,委員会等における女性役員の比率が 2010 年までに 20%になるように女
性の登用に努める」ことを理事会に要望し,承認された.そして女性の登用を
後押しするべく,毎年,歴代の男女共同参画推進委員会委員長が会長に働きか
けている.地盤工学会でも毎年,企画部が全委員会に対して女性の登用につい
て問い合わせている.また日本腎臓学会の男女共同参画委員会では,各種委員
会から適切な女性会員の照会があったら即答できるよう,学会内に情報網をは
り,人材リストを集約している.男性中心の強固な縦社会である医局では女性
が見出されにくいため,横のネットワークを張り巡らせることで次世代を担う
若手女性を発掘し,各種委員会に送って発言権を与えているという.上層部の 男性会員が自身の医局にいる優秀な女性を委員会に紹介するなど,男性の意識 も変化していることが指摘された.
第二の「女性の能力の『見える化』」として,日本化学会の男女共同参画推 進委員会では,「日本化学会が主催する学会,講演会等において基調講演や招 待講演者の中に女性科学者を含め,ロールモデルとして示すこと」を理事会に 要望し,承認された.日本薬理学会の担当理事も,年 1 回開催される年会では,
オーガナイザー・シンポジストに女性を含むシンポジウムを優先的に採用する ことや,海外の著名研究者を迎える「特別講演」に女性を招くことを会長に依 頼している.
第三の「女性限定賞の設置」については,様々な事例がみられる.たとえば 日本化学会では,「化学に携わる若い女性の憧れとなるロールモデルを顕彰し 示すことにより,女性会員を励まし,女性会員数の増加と化学の活性化に資す ること」を目的として,40 歳未満の女性会員を対象とする女性化学者奨励賞が 設置された.一方,電気化学会では,トップクラスの賞として女性躍進賞が創 設された.その理由は,若手対象の賞はすでに多くの女性が受賞しているが,
上位の賞については自薦・他薦とも女性の応募が増えないことにある.電気化 学を専門としない研究者,つまり会員以外の女性研究者の応募も認めており,
また女性はライフイベントによって研究が中断されがちであるとして,年齢制 限を設けていない.なお日本薬理学会では,学術奨励賞の年齢制限(40 歳以下)
を女性のみ緩和し,45 歳以下としている.また応用物理学会では,女性研究者 研究業績・人材育成賞を創設し,女性の研究業績とともに,女性研究者・技術 者の育成に貢献した研究者・技術者または組織・グループを表彰している.
今回の調査では,女性限定賞について「逆差別ではないか」「女性だから選
ばれた,のでは受賞者も不満ではないか」など懐疑的な意見も出された.女性
躍進賞を創設した電気化学会でも,同様の議論があったという.しかしいざ創
設すると,受賞者の所属先が「女性の能力を活かす職場」である証拠として対
外的にアピールし,後続の女性たちも祝福したことから,女性の能力を「見え
る化」することは,受賞者のみならず組織や周囲の女性にとってもプラスにな
ると実感されている.また日本化学会の男女共同参画推進委員会では,女性化
若手女性を発掘し,各種委員会に送って発言権を与えているという.上層部の 男性会員が自身の医局にいる優秀な女性を委員会に紹介するなど,男性の意識 も変化していることが指摘された.
第二の「女性の能力の『見える化』」として,日本化学会の男女共同参画推 進委員会では,「日本化学会が主催する学会,講演会等において基調講演や招 待講演者の中に女性科学者を含め,ロールモデルとして示すこと」を理事会に 要望し,承認された.日本薬理学会の担当理事も,年 1 回開催される年会では,
オーガナイザー・シンポジストに女性を含むシンポジウムを優先的に採用する ことや,海外の著名研究者を迎える「特別講演」に女性を招くことを会長に依 頼している.
第三の「女性限定賞の設置」については,様々な事例がみられる.たとえば 日本化学会では,「化学に携わる若い女性の憧れとなるロールモデルを顕彰し 示すことにより,女性会員を励まし,女性会員数の増加と化学の活性化に資す ること」を目的として,40 歳未満の女性会員を対象とする女性化学者奨励賞が 設置された.一方,電気化学会では,トップクラスの賞として女性躍進賞が創 設された.その理由は,若手対象の賞はすでに多くの女性が受賞しているが,
上位の賞については自薦・他薦とも女性の応募が増えないことにある.電気化 学を専門としない研究者,つまり会員以外の女性研究者の応募も認めており,
また女性はライフイベントによって研究が中断されがちであるとして,年齢制 限を設けていない.なお日本薬理学会では,学術奨励賞の年齢制限(40 歳以下)
を女性のみ緩和し,45 歳以下としている.また応用物理学会では,女性研究者 研究業績・人材育成賞を創設し,女性の研究業績とともに,女性研究者・技術 者の育成に貢献した研究者・技術者または組織・グループを表彰している.
今回の調査では,女性限定賞について「逆差別ではないか」「女性だから選 ばれた,のでは受賞者も不満ではないか」など懐疑的な意見も出された.女性 躍進賞を創設した電気化学会でも,同様の議論があったという.しかしいざ創 設すると,受賞者の所属先が「女性の能力を活かす職場」である証拠として対 外的にアピールし,後続の女性たちも祝福したことから,女性の能力を「見え る化」することは,受賞者のみならず組織や周囲の女性にとってもプラスにな ると実感されている.また日本化学会の男女共同参画推進委員会では,女性化
学者奨励賞の設立にともない,会員名簿を見直して女性会員の発掘に最大限努 めた.これによって,会員数 2 万人強の大規模団体において個々の若手女性の 存在と活躍が顕在化され,女性の能力の「見える化」に大きく貢献した.
そして年 1 回ないし 2 回開催される大会・年会では,多くの団体が様々な取 組みを行っている.具体的には,男女共同参画に関するシンポジウムやセミナー の開催,保育サービスの提供,ライフイベントと研究の両立について気軽に意 見交換するための交流会やランチョンセミナーの開催,などがあげられる.日 本腎臓学会では,大会時に男女共同参画委員会の常設ブースを設置し,ライフ イベントと研究の両立などについて会員の相談に対応している.これらの交流 や相談については参加者を女性に限定しない団体が多いが,こうした機会を通 じて,各所属組織ではマイノリティとなりがちな女性会員の連携を促し,エン パワーメントしている.なお女性会員の多くが若手(学生会員など)である団 体では,「女性支援=若手の就職支援」となる.日本木材学会では,学会では 直接的にポストや研究費を与えることができないため,学会に可能な就職支援 は限定されるが,大学の研究室と比較して「たまたま先に経験した人」「これ から経験する人」といった立場で話をすることができることから,出産・育児 をしながら研究を続ける若手女性の育成は,学会にこそ可能と考えられること が指摘された.
男女共同参画に関する会員の実態やニーズなどを明らかにするため,全会員 や大会・年会参加者を対象としてアンケート調査を実施した団体も半数近い.
会員数が約 2 万人の応用物理学会や日本物理学会では,調査結果をもとに実態 と課題を明らかにし,必要な施策を提言するなどして,広く社会に働きかけた.
これが文部科学省などによるその後の施策につながるのだが,その経緯や貢献
については 4 節で論じる.なお,これら大規模団体では,国際的な連携も進め
られている.日本物理学会では,男女共同参画学協会連絡会のアンケートの英
語版を作成したり,アジアの女性物理学会のネットワークを形成したりしてい
る.また「女子中高生夏の学校」
2)は,2004 年 10 月にハノイで開催された Asia
Pacific Physics Conference 円卓会議の Women in Physics において,当時の男
女共同参画推進委員会委員長が韓国における女子高校生の物理キャンプの活動
に触発され,日本でも同様の取組みが必要だと痛感したことから始まった.そ
して日本化学会の男女共同参画推進委員会では,国際純正・応用化学連合
(IUPAC)から発せられた,「世界の女性化学者の協調・結束を深めるため,
Women Sharing a Chemical Moment in Time: Breakfast Meeting を世界各国・
各地域で同時刻に開催しよう」とのメッセージに応えて,パーティを企画した.
2011 年には初代委員長が,2013 年には現委員長が,IUPAC が創設した Distinguished Women in Chemistry or Chemical Engineering を受賞しており,
国際的に活躍する女性化学者の活躍が「見える化」されてきている.さらに4 節で論じるように,男女共同参画学協会連絡会の設立は,応用物理学会と日本 物理学会が International Union of Pure and Applied Physics(IUPAP)による 初の女性研究者国際会議への参加依頼を受けたことに端を発している.
最後に,各団体の特徴的な取組みとして,以下のような事例があげられる.
地盤工学会では,他の関連学会・団体と協力して女性土木技術者のロールモデ ル集を発行した.また日本腎臓学会の男女共同参画委員会では,育児中でも腎 臓専門医の資格を得られるよう,腎臓専門医制度規定の改訂を働きかけた.従 来の規定では認定施設で週
5日勤務する必要があったため,週
2,
3日勤務のパー ト医師は専門医資格を取得できなかった.これが週当たりの勤務日数は少なく ても,長期間勤務することで必要な総勤務時間を満たせば取得できるように改 訂された.そして日本経済学会では,学会として女性研究者支援に取組むこと に理解を得るためには,女性研究者の能力発揮が妨げられているかどうかを検 証する必要があるとして,
J-WENによって,「日本の若手・女性経済学者の現 状と課題」について明らかにするための研究が進められている.男女共同参画 は人権尊重の観点に加えて「女性の能力の活用」という観点からも必要な取組 みと考えられるが,経済学は「資源や能力の活用」に資する学問であることか ら,「女性経済学者の能力活用」という問題意識が共有されやすいという.そ
こで今後
J-WENで実施される調査では,日本経済学会から積極的な協力が得ら
れる予定である.
3.3 男女共同参画がもたらす効果
男女共同参画を進めることが,各団体もしくは各研究分野の発展にもたらす
効果についてたずねたところ,以下のような回答を得た.
して日本化学会の男女共同参画推進委員会では,国際純正・応用化学連合
(IUPAC)から発せられた,「世界の女性化学者の協調・結束を深めるため,
Women Sharing a Chemical Moment in Time: Breakfast Meeting を世界各国・
各地域で同時刻に開催しよう」とのメッセージに応えて,パーティを企画した.
2011 年には初代委員長が,2013 年には現委員長が,IUPAC が創設した Distinguished Women in Chemistry or Chemical Engineering を受賞しており,
国際的に活躍する女性化学者の活躍が「見える化」されてきている.さらに4 節で論じるように,男女共同参画学協会連絡会の設立は,応用物理学会と日本 物理学会が International Union of Pure and Applied Physics(IUPAP)による 初の女性研究者国際会議への参加依頼を受けたことに端を発している.
最後に,各団体の特徴的な取組みとして,以下のような事例があげられる.
地盤工学会では,他の関連学会・団体と協力して女性土木技術者のロールモデ ル集を発行した.また日本腎臓学会の男女共同参画委員会では,育児中でも腎 臓専門医の資格を得られるよう,腎臓専門医制度規定の改訂を働きかけた.従 来の規定では認定施設で週
5日勤務する必要があったため,週
2,
3日勤務のパー ト医師は専門医資格を取得できなかった.これが週当たりの勤務日数は少なく ても,長期間勤務することで必要な総勤務時間を満たせば取得できるように改 訂された.そして日本経済学会では,学会として女性研究者支援に取組むこと に理解を得るためには,女性研究者の能力発揮が妨げられているかどうかを検 証する必要があるとして,
J-WENによって,「日本の若手・女性経済学者の現 状と課題」について明らかにするための研究が進められている.男女共同参画 は人権尊重の観点に加えて「女性の能力の活用」という観点からも必要な取組 みと考えられるが,経済学は「資源や能力の活用」に資する学問であることか ら,「女性経済学者の能力活用」という問題意識が共有されやすいという.そ
こで今後
J-WENで実施される調査では,日本経済学会から積極的な協力が得ら
れる予定である.
3.3 男女共同参画がもたらす効果
男女共同参画を進めることが,各団体もしくは各研究分野の発展にもたらす 効果についてたずねたところ,以下のような回答を得た.
自然科学系の団体では,「女性ならではの視点」が求められる研究領域はほ とんどなく,特に基礎研究には担い手の属性が反映されないが,応用研究には
「多様な視点」が必要であり女性研究者の増加が求められる,との指摘が多かっ た.たとえば電子情報通信学会では,女性が情報通信技術の開発にかかわり,
健康管理や教育などへの応用を図ることで,技術が発展し生活の質も高まりう ることが指摘された.なぜなら日本の情報通信技術は,技術力は世界トップレ ベルであるのに国際競争力が低く,その大きな要因として技術が活用されてい ないことがあげられる.先進的な国では,教育や医療など生活と直結する領域 で技術が活用されているが,日本の技術者は技術を「生活に生かす」ことを視 野に入れていないという.そこで,より「生活」に近い女性技術者の活躍が期 待されると指摘された.また日本化学会では,人数は少ないものの,確実な成 果をあげた女性化学者が存在することから,より多くの女性が化学にたずさわ れば化学研究の進展に貢献することは自明の理であると指摘された.
研究の担い手としてのみならず,人材の育成者としても女性の活躍が求めら れている.たとえば日本腎臓学会では,多様な背景をもつ患者に対して社会的 責任を果たすためには,医師の側にも多様な人材と経験が必要だが,近年の医 学部生は,専門分化された医学を過密なカリキュラムで学ぶシステムのもと社 会経験が乏しいこと,ゆえに貴重な社会経験である育児を経験した女性が, 「大 学病院の教授として教室を主宰する」ことは有意義であると指摘された.また 日本化学会では,女性は母親として子どもと接する機会が多いという点からも,
化学の担い手として意識される必要があると指摘された.
倫理的観点からの効果もあげられている.3.1 で述べたように,地盤工学会で
は倫理的義務として男女共同参画が推進されているが,様々な立場の人が集う
学会は多様な人材の宝庫であり,ダイバーシティ推進が学会の価値を高めると
いっても過言ではないことが指摘された.日本哲学会でも,男性優遇や学閥に
よる住み分けといった問題を是正し,学問の健全性を確保する取組みとして期
待されている.また日本化学会では,ポスト獲得競争が厳しく短期間で研究成
果をあげることが期待される状況のなか,男女共同参画の取組みによって,出
産・育児のため研究時間が制約される若手女性が安心して研究できる環境を整
える必要があること,そしてこれは男女を問わず本質的・根源的な問いである
ことから,男女共同参画は広く社会の健全性に貢献しうる取組みであると指摘 された.
なお日本経済学会では,経済学の手法にもとづいて政策を評価し,投資され た資源が十分に活用されて効果を発揮しているか検証することは,経済学の重 要な使命であることが指摘された.そこで「日本の女性経済学者の現状と能力 発揮を妨げる要因」を実証的に把握し,その「要因」に対処する「女性研究者 支援策」を提言することそのものが経済学研究として大きな価値をもち,さら には,日本における働く女性の能力発揮のための支援策の一例として,社会に アピールすることも期待できるという.
3.4 男女共同参画を推進する上での困難・問題点
男女共同参画を推進する上での困難や問題点についてたずねたところ,多く の団体から,「女性自身がリーダーになることを躊躇する傾向があること」「男 女共同参画を担う次世代の育成が難しいこと」の
2点があげられた.前者につ いて,たとえば地盤工学会では,女性は所属組織ではリーダーシップを任され ない状況にあるが,学会では期待され経験をふめることの利点を説明して,若 手女性会員のリーダーとしての資質を高めたいと指摘された.後者については,
大半の団体から,委員長職や担当理事職をバトンタッチしたいが,務められる 地位(大学教授や企業役員など)にある女性会員が絶対数として少ないことが 指摘された.特に若手会員については,研究業績をあげてポストを得る必要が あるため委員や担当理事などを依頼しにくい,男女共同参画に関心を持つ若手 委員が正規職を得なければ継承が難しい,といった指摘が多い.
なおいくつかの団体からは,社会的取組みや連携の必要性について要望・提
案が示された.日本腎臓学会では,関係省庁や日本学術会議において,学会が
男女共同参画を推進する「社会的動機づけ」の制度化を検討して欲しい,との
指摘がなされた.大学については,文部科学省によって男女共同参画推進のた
めの補助事業が制度化されており,企業についても関係省庁が先進的な取組み
を表彰している.学会についても同様の社会的動機づけが与えられれば,上層
部や会員の意識啓発を進めやすく,よりスムーズに男女共同参画が推進される
ことが予想されるという.日本哲学会では,人文社会科学系にも男女共同参画
ことから,男女共同参画は広く社会の健全性に貢献しうる取組みであると指摘 された.
なお日本経済学会では,経済学の手法にもとづいて政策を評価し,投資され た資源が十分に活用されて効果を発揮しているか検証することは,経済学の重 要な使命であることが指摘された.そこで「日本の女性経済学者の現状と能力 発揮を妨げる要因」を実証的に把握し,その「要因」に対処する「女性研究者 支援策」を提言することそのものが経済学研究として大きな価値をもち,さら には,日本における働く女性の能力発揮のための支援策の一例として,社会に アピールすることも期待できるという.
3.4 男女共同参画を推進する上での困難・問題点
男女共同参画を推進する上での困難や問題点についてたずねたところ,多く の団体から,「女性自身がリーダーになることを躊躇する傾向があること」「男 女共同参画を担う次世代の育成が難しいこと」の
2点があげられた.前者につ いて,たとえば地盤工学会では,女性は所属組織ではリーダーシップを任され ない状況にあるが,学会では期待され経験をふめることの利点を説明して,若 手女性会員のリーダーとしての資質を高めたいと指摘された.後者については,
大半の団体から,委員長職や担当理事職をバトンタッチしたいが,務められる 地位(大学教授や企業役員など)にある女性会員が絶対数として少ないことが 指摘された.特に若手会員については,研究業績をあげてポストを得る必要が あるため委員や担当理事などを依頼しにくい,男女共同参画に関心を持つ若手 委員が正規職を得なければ継承が難しい,といった指摘が多い.
なおいくつかの団体からは,社会的取組みや連携の必要性について要望・提 案が示された.日本腎臓学会では,関係省庁や日本学術会議において,学会が 男女共同参画を推進する「社会的動機づけ」の制度化を検討して欲しい,との 指摘がなされた.大学については,文部科学省によって男女共同参画推進のた めの補助事業が制度化されており,企業についても関係省庁が先進的な取組み を表彰している.学会についても同様の社会的動機づけが与えられれば,上層 部や会員の意識啓発を進めやすく,よりスムーズに男女共同参画が推進される ことが予想されるという.日本哲学会では,人文社会科学系にも男女共同参画
学協会連絡会のような横断的組織が求められることが指摘された.なぜなら男 女共同参画推進とジェンダー研究は重なるようで重ならない部分が多い.そこ で,ジェンダー研究という専門分野を共有しない会員を含め,学会全体で男女 共同参画に取組む体制を整えるために,他団体との連携が求められるという.
そして日本化学会では,研究者の求人・求職のマッチングをめぐって指摘があっ た.近年,女性教員比率を高めるため理系女性研究者を求める大学が増えてい るが,「応募者がいない」といった声が聞かれる.しかし流動的なポストにと どまっている女性研究者は多いことから,マッチングが適切に行われていない と考えられる.これについて,一学会にできることは限られ国レベルでの対応 が求められるが,学会は大学と企業・社会をつなげる役割を果たしているので あるから,貢献する余地がありうることが指摘された.
(島直子)
4 日本の科学技術・学術分野における男女共同参画と今後の 課題
4節では,3節で述べたヒアリング結果を踏まえ,さらには男女共同参画学 協会連絡会のアンケート結果や文部科学省から提出された報告等の資料やデー タをもとに,学術研究団体における男女共同参画推進の取組みが科学技術・学 術分野における男女共同参画にどのような成果をもたらしたかを検証し,今後 期待される取組みや課題について考察する.
4.1 男女共同参画学協会連絡会から始まった女性研究者支援
前述したように,学術研究団体の男女共同参画を推進する取組みは,応用物
理学会が各種委員会に女性委員を登用するため,2001 年 2 月に女性研究者ネッ
トワーク準備委員会を設置したことから始まった.女性研究者ネットワーク準
備委員会では,そもそも,なぜ男女共同参画委員会をつくらなければいけない
のかという根本的な問題から活発な意見交換が行われた.そうした中で,「応
用物理学会もさまざまな男女共同参画問題を抱えていることが準備委員の共通
認識と」(渡辺・為近・堂免・岡田 2002: 510)なり,2001 年 7 月に男女共同
参画委員会を発足,まずは学会員の現状を知るためにアンケート調査を実施す ることになった.同じ頃 IUPAP 日本代表から,日本物理学会と応用物理学会 に“International Conference on Women in Physics”(通称パリ会議)への参加 の要請があり,この依頼を受けて日本物理学会でもアンケート調査を行うこと になった.そこで,両学会は共同企画のアンケートを実施するため調整を行っ たが,それぞれの目的の違いから最終的には独立してアンケート調査を実施す ることになった.「更にデータ解析の結果から,学問のベースを同じ物理学と する二つの学会でも,学会構成員の所属や基礎と応用などの研究分野によって 意識や現状に違いがあることが分かり,学協会の連携により男女共同参画の輪 を拡大しようという機運が生まれた」(小舘 2005: 856).こうして,応用物 理学会に続いて,2002 年 7 月に日本物理学会が,9 月には日本化学会が男女共 同参画推進委員会を設置し,「応用物理学会・日本物理学会・日本化学会など の 9 学会が中心となり,学術団体として認可された理工系学会・協会」(小舘 2005: 857)に対して連携を呼びかけ,2002 年 10 月に男女共同参画学協会連絡 会(以後連絡会)が設立された.
連絡会は,発足後の具体的な活動として,科学技術系専門職の現状把握と課
題の抽出および提言作成のため,平成15年度文部科学省委託事業として39学協
会の会員を対象にアンケート調査を実施し,2万人に及ぶ回答を得,その結果を
詳細に分析した.そこから明らかになったのが,各所属機関での昇進・昇給に
男女差があると考えている研究者・技術者の割合が高く,「経験を積んだ30代
後半から上の世代では科学技術専門職からの女性の離脱が顕著に見られる」 (小
舘 2005: 858)などの科学技術分野における女性研究者の実態であった.そこ
で,2004年10月7日に,2周年記念のシンポジウム「多様化する科学技術研究者
の理想像:学協会アンケートが示すもの」を開催し,政府ならびに研究諸機関
に対し「科学技術研究者に適した育児支援制度の整備に関する提言―政府なら
びに研究諸機関に対する提言―」を行ったのである.この提言では,政府なら
びに研究諸機関に対し,現在,文部科学省の女性研究者支援事業の実施機関と
して採択された多くの大学や研究機関が取り組んでいる「育児休業取得などの
環境作り」を促進するとともに,「授業,研究活動等の支援要員の配置」,「在
宅勤務の支援」などの支援策を行うための資金を準備することが記されている
参画委員会を発足,まずは学会員の現状を知るためにアンケート調査を実施す ることになった.同じ頃 IUPAP 日本代表から,日本物理学会と応用物理学会 に“International Conference on Women in Physics”(通称パリ会議)への参加 の要請があり,この依頼を受けて日本物理学会でもアンケート調査を行うこと になった.そこで,両学会は共同企画のアンケートを実施するため調整を行っ たが,それぞれの目的の違いから最終的には独立してアンケート調査を実施す ることになった.「更にデータ解析の結果から,学問のベースを同じ物理学と する二つの学会でも,学会構成員の所属や基礎と応用などの研究分野によって 意識や現状に違いがあることが分かり,学協会の連携により男女共同参画の輪 を拡大しようという機運が生まれた」(小舘 2005: 856).こうして,応用物 理学会に続いて,2002 年 7 月に日本物理学会が,9 月には日本化学会が男女共 同参画推進委員会を設置し,「応用物理学会・日本物理学会・日本化学会など の 9 学会が中心となり,学術団体として認可された理工系学会・協会」(小舘 2005: 857)に対して連携を呼びかけ,2002 年 10 月に男女共同参画学協会連絡 会(以後連絡会)が設立された.
連絡会は,発足後の具体的な活動として,科学技術系専門職の現状把握と課 題の抽出および提言作成のため,平成15年度文部科学省委託事業として39学協 会の会員を対象にアンケート調査を実施し,2万人に及ぶ回答を得,その結果を 詳細に分析した.そこから明らかになったのが,各所属機関での昇進・昇給に 男女差があると考えている研究者・技術者の割合が高く,「経験を積んだ30代 後半から上の世代では科学技術専門職からの女性の離脱が顕著に見られる」 (小 舘 2005: 858)などの科学技術分野における女性研究者の実態であった.そこ で,2004年10月7日に,2周年記念のシンポジウム「多様化する科学技術研究者 の理想像:学協会アンケートが示すもの」を開催し,政府ならびに研究諸機関 に対し「科学技術研究者に適した育児支援制度の整備に関する提言―政府なら びに研究諸機関に対する提言―」を行ったのである.この提言では,政府なら びに研究諸機関に対し,現在,文部科学省の女性研究者支援事業の実施機関と して採択された多くの大学や研究機関が取り組んでいる「育児休業取得などの 環境作り」を促進するとともに,「授業,研究活動等の支援要員の配置」,「在 宅勤務の支援」などの支援策を行うための資金を準備することが記されている
(男女共同参画学協会連絡会 2004a).さらに,11月には,政府および民間の科 学研究費等助成機関に対し, 「現在ある種々の研究費について可能な種目には,
常勤職の有無に関係なくキャリア形成期にあるすべての研究者が応募できるよ うにすること」,「常勤職に就いていない科学技術研究者の中から優れた研究 を発掘するための新しい研究費を拡充すること」などの具体的施策を盛り込ん だ「研究助成への申請枠拡大に関する提言―研究費等助成機関への提言―」を 行っている(男女共同参画学協会連絡会 2004b).
こうした連絡会の活動は,女性研究者比率や指導的地位に占める女性割合を 高めることを喫緊の課題としていた政府の新たな政策に反映されることになる.
内閣府はアンケート調査の結果を『男女共同参画白書』で取り上げ,文部科学 省は,2006 年に,優れた若手研究者が出産・育児による研究中断後に円滑に研 究現場に復帰できるように支援する「特別研究員-RPD」事業を創設し,さらに,
大学等の研究諸機関に所属するライフイベント中の女性研究者のキャリア継続 を支援する「女性研究者支援モデル育成」を開始したのである.
「女性研究者支援モデル育成」とは,独立行政法人科学技術振興機構が文部 科学省からの委託をうけ,自然科学全般又は自然科学と人文・社会科学との融 合領域の研究を行っている「女性研究者がその能力を最大限発揮できるように するため,大学や公的研究機関を対象として,研究環境の整備や意識改革など,
女性研究者が研究と出産・育児等の両立や,その能力を十分に発揮しつつ研究 活動を行える仕組み等を構築するモデルとなる優れた取組を」(独立行政法人 科学技術振興機構 2013) 助成する事業である.2009 年から「女性研究者養成 システム改革加速」
3)も開始し,2011 年からは,「女性研究者研究活動支援事 業」として,支援の範囲を出産・育児だけでなく介護にまで拡げ,支援の対象 を自然科学系の大学や公的研究機関の全ての女性研究者,さらに配偶者が女性 研究者である男性研究者にまで拡大し,現在は,
これまでの取組を踏襲する「一 般型」と,他大学や企業等の他機関との連携など,取組の普及を行う取組を支 援する「拠点型」も開始している.2006 年から始まった「女性研究者支援モデル育成」,つづく「女性研究者研
究活動支援事業」には毎年,10~13 大学・機関が採択され,2006 年から 2013
年まで,89 の大学・機関(拠点型を除く)が文部科学省からの助成を受け,そ
れぞれの大学や研究機関の状況に合わせた女性研究者支援事業を行ってきた.
2012 年 12 月に提出された『科学技術振興調整費プログラム評価報告書』には,
2006 年度から 2010 年度までに採択された 55 大学・機関における実施プログラ ムの現状が記されている.それによれば,事業実施機関における女性研究者の 割合は全国を上回り,年々増加している.また,女性研究者の離職数は事業を 開始した 2006 年以降,減少を続け,年代別にみると,とくに子育て世代の 30 代の減少率が大きくなっている.さらに,この報告書では,大学・機関による 研究支援員の配置を受けた,ライフイベント中の女性研究者の論文発表数が一 般研究者より多くなっていることが報告されており,文部科学省からの助成を 受けた事業実施機関が,女性研究者の離職抑制や研究業績の向上について着実 に成果を上げてきていると言えるだろう(文部科学省 2012: 15-16).
こうして,複数の学協会が連携したことで男女共同参画に関する大規模アン ケート調査が実現し,その結果から女性研究者が置かれている状況がデータと して明らかとなり,そのデータをもとに行った提言が政府の政策に反映され,
学協会の会員が所属する日本全国の各大学や公的研究機関による女性研究者支 援事業へとつながっていったのである.
4.2 男女共同参画のために今後必要なこと
とは言え,研究者の女性比率は徐々には増えてはいるものの,全体的にみる と,日本の研究者に占める女性比率は依然として低いままである.『男女共同 参画白書(平成 25 年版)』によれば,1992 年の「研究者に占める女性割合」
は 7.9%,20 年経った 2012 年現在でもようやく 14.0%である(内閣府 2013a).
また,「大学教員における分野別女性割合(平成 24 年)」で大学教員における 女性の割合を専門分野別に見ると,理学,工学,農学がとくに低く,比較的女 性の割合が高い分野においても,講師,准教授,教授と段階が上がるにつれて 女性の割合が低くなる傾向がみられる(内閣府 2013b).
そもそも,女性会員が少ない,学会の各種委員会に女性委員を登用したいと
いうことから始まった学協会の男女共同参画の活動であったから,連絡会では
2005 年から加盟各学協会の一般会員,学生会員の女性比率とともに,役員,評
議員,各種委員会の委員の女性比率の調査を行っている.同じ自然科学系の学
れぞれの大学や研究機関の状況に合わせた女性研究者支援事業を行ってきた.
2012 年 12 月に提出された『科学技術振興調整費プログラム評価報告書』には,
2006 年度から 2010 年度までに採択された 55 大学・機関における実施プログラ ムの現状が記されている.それによれば,事業実施機関における女性研究者の 割合は全国を上回り,年々増加している.また,女性研究者の離職数は事業を 開始した 2006 年以降,減少を続け,年代別にみると,とくに子育て世代の 30 代の減少率が大きくなっている.さらに,この報告書では,大学・機関による 研究支援員の配置を受けた,ライフイベント中の女性研究者の論文発表数が一 般研究者より多くなっていることが報告されており,文部科学省からの助成を 受けた事業実施機関が,女性研究者の離職抑制や研究業績の向上について着実 に成果を上げてきていると言えるだろう(文部科学省 2012: 15-16).
こうして,複数の学協会が連携したことで男女共同参画に関する大規模アン ケート調査が実現し,その結果から女性研究者が置かれている状況がデータと して明らかとなり,そのデータをもとに行った提言が政府の政策に反映され,
学協会の会員が所属する日本全国の各大学や公的研究機関による女性研究者支 援事業へとつながっていったのである.
4.2 男女共同参画のために今後必要なこと