グリーン・ツーリズムによる地域資源の 活用について~対馬での民泊を例として~
丸山 由希子
1.動機・目的
筆者は、学部
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年次にESD
研究所のアクションリサーチ合宿で対馬へ訪れ、対馬の地域 おこしについて学んだきっかけから、持続可能な地域づくりについて興味を持った。そこ で、卒業論文では、地域資源の活用に焦点を当て、研究することにした。その中でも特 に、対馬のグリーン・ツ―リズムに注目し、対馬グリーン・ブルーツーリズム協会のもと でインターンを行いながら民泊調査を実施し、民泊のお父さん・お母さんから様々なお話 を伺うことにした。そこで、論文の目的を「地域資源がどのようにグリーン・ツーリズム で活用されているのかを明らかにすること」と「今後の対馬の民泊はどうあるべきか」の2
つに設定し、調査を実施した。2.方法
対馬市では域学連携の取り組みで、学生実習の募集を行っている。そこで筆者はその学 生実習に応募し、対馬グリーン・ブルーツーリズム協会のもとで、民泊調査のインターン を行った。実習期間は
2017
年9
月15
日~30日である。その際に、9軒の民泊に宿泊し、それぞれの民泊先で農作業体験や郷土料理体験を行ったり、お父さん・お母さんから、聞 き取り調査を行ったりした。また、インターンの受け入れ先である対馬グリーン・ブルー ツーリズム協会のスタッフ方や市の関係者の方から話を伺った(表
1
参照)。表
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インターン実習予定3.地域資源の分類について
地域には多様な地域資源が存在するが、阿部(
2017)はその多様な資源を、人的資源
(社会関係資本)、自然資源(自然資本)、歴史的・文化的資源(文化資本)に分類してい る。そして、それらの相互作用により、地域の活性化を図っていくという。そこで卒業論 文では、阿部の
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つの分類を踏まえ、地域資源を①自然資源、②歴史的・文化的資源、③ 人的資源に分類した。そのうえで、櫻井・斎藤(2002)の分類を踏まえ、内容を付け加 え、まとめていった(以下表2
参照)。表
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地域資源の分類以下、3つの具体的な分類の詳細である。
①自然資源
自然資源は櫻井・斎藤(
2002)が示すように、潜在的自然条件や農地、観光的農地利
用、水資源などに分類する。②歴史的・文化的資源
歴史的・文化的資源は、歴史と文化を含めた広い範囲に設定した。歴史的資源は主に、
歴史的建造物や遺跡を指す。対馬は国境の島ということもあり、島内に古くからの遺跡や 重要文化財が多い。そのため、地域資源を列挙する際に、それらを地域の魅力として書き 記すために、ここに分類した。文化的資源は地域の伝統文化や伝統行事があった際に記し た。また食文化に関しても文化的資源に含めた。今回民泊で体験する食文化は、昔からあ る作り方や材料をもとにして調理した食事であり、地元の食材と調理方法が切り離せない 関係にある。そこで、その一連の流れを昔から続く対馬の文化であるととらえ、食文化も 文化資源に分類した。
③人的資源
人的資源は、民泊で関わる人に焦点をあて、民泊がどのような人の相互作用で推進され ているか調べた。民泊に関わる人は民泊先のお父さん・お母さんだけではなく、地域住民 の方や、訪問者、民泊の斡旋者などさまざまな人が存在する。また、人のはたらきかけで
地域が変わったり、民泊やグリーン・ツーリズム の体験に何かしらの変化があったりした 際も明記した。
4.結果
卒業論文では、宿泊した
9
軒の民泊それぞれで分類表を作成し、地域資源をまとめてい った。表3
はそれらを集約し、多くの民泊で挙がった資源や特徴的なものを列挙した。以 下でそれぞれの資源についての詳細を述べる。表
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民泊の地域資源分布表・自然資源の活用について
自然資源に関しては、自宅のすぐ近くのものを活かしている場合が多かった。
どの民泊も畑や田んぼ、山や漁港が徒歩圏内あるいは車で
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分ほどのところにあり、自然 に囲まれている生活であった。農林漁業に関しては、親の世代から代々続いてきたものを 受け継いだ方や、退職後に始めたご家庭もあった。また、対馬の特有性かもしれないが、対馬では農業一筋の人や漁業一筋の人はあまりいない。その代わり、野菜や漁、稲作や林 業など、様々な分野のものを
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つの家庭で作っていた。足りない分は親戚や近所の人にお すそ分けをしてもらっており、自給自足の生活が成り立っていた。これらは自然の恵みを 生かしているからこそできるものであり、そして、その生活が現在まで残っている。対馬 でのグリーン・ツーリズムの体験が価値あるものだと認識されているのは、このような自 然の恵みを活かした生活が現在も続いているからであると考えられる。農作業体験では、民泊のお父さん・お母さんの熱い思いに触れることができる。自分で 育てた作物は子どものように愛おしくて、大切に育てているそうだ。お父さん ・お母さん は近所の自然に詳しく、どこで何を育てるべきか、いつ頃が旬か、対馬の気候や地理を理 解して作業をしている方が多かった。そして、そのように丹精込めて育てた農作物を、 ぜ
資源区分
自然資源
歴史的・文化的資源
人的資源
地域資源
海、山林、、原始林、川 シイタケ狩り 田んぼ、畑 野菜・果物収穫体験 磯釣り、漁業体験、さばき方体験 船の遊覧
炭焼き体験、イノシシ罠の見回り オテカタ遺跡 サンゾーロ祭り、カンカン祭り いりやき
穂床山古墳 赤米の頭受け神事 ろくべえ 主藤家住宅 亀ト、ハギトージン、美女塚 とんちゃん クビル遺跡 豆酘雑煮 大将軍山古墳
志多留貝塚
民泊のお客さん、学生、研究者、大学関係、域学連携関係、
ツシマヤマネコ・バードウォッチングの観光客・関係者、
市役所関係の人、住民の方、果樹組合、区長会、民泊仲間、シイタケ農家、漁師の知り合い 民泊の訪問者、対馬への移住者、研究者
ひ民泊で来た人に食べてもらいたいということだった。ホテルや普通の宿では味わうこと ができない、新鮮な食をぜひ味わってほしいということだ。民泊で来たお客さんは皆、食 事がとてもおいしい、と言って帰るそうだ。その声を聞くのがまたうれしく、もっと頑張 って農作物を育てようという気になる、というお母さんもいた。対馬の、その民泊でしか 食べることのできない家庭の味だからこそ、価値があるのだと感じた。そして、農作業体 験など、グリーン・ツーリズムでの体験を通して、民泊さんの食への思いが聞くことので きる体験は、自分の食について考えるきっかけにもなるだろう。
対馬グリーン・ブルーツーリズム協会のスタッフ方の聞き取りから、民泊コーディネー タ―は、対馬の豊かな自然に注目していた。生態系の維持や自然の恵みを受けた生活をす ることで、対馬の自然を活かした人間本来の生活ができるだろう。筆者は民泊で行うこと ができる体験は、その自然を肌で感じる、とても良い機会であると考える。今回伺った民 泊では、昔からの農林漁業が続いている地域がいくつもあった。もちろん、高齢化や人口 減少で昔よりそれらに携わっている人が減少している場合も多い。しかし、少なくとも、
民泊のお父さん・お母さんは、自分で作業をし、山や海、畑、田んぼなどの自然を活かし て作業をしていた。その際に、実際に作業をしている人から話を聞くと、非常にリアリテ ィがあり、話の内容の奥深さを感じ取ることができる。このような対馬ならではの恵まれ た自然は、グリーン・ツーリズムの体験を行うことで、自然の豊かさを知るとともに、自 然の中で生きていくリアリティを感じることができると考える。
・歴史的・文化的資源の活用について
歴史的建造物や遺跡や貝塚、神社にまつわる伝統行事に関しては、民泊を通して話すよ うになったという民泊は残念ながら少なかった。ただ 、今回伺った地区のうち、豆酘地区 の民泊では、赤米の頭受け神事7など特徴的な文化が残り、さらに宮中献穀米に選定され てから一層注目されるようになったため、民泊を通して話す機会が増えたということであ った。しかし、そのほかの地区では、遺跡や神社の祭りについてはあまり話さない、とい う民泊が多かった。対馬のお祭りは子どもと関係しているものが多く、子どもが主役にな る場合も多い。そのため、学校の統廃合などにより、地区で子どもが減少している現在、
お祭りが途絶えてしまった場所が多く、話す機会もなくなったそうだ。このことから、歴 史的・文化的資源は、認知度が低く、注目度も低いことがわかった。しかし、豆酘の赤米 のように特徴的な文化は継承されていく可能性があると考える。民泊を通して、歴史的・
文化的資源が伝承されるとは言い難いが、外から注目された文化は対馬島内の人もその魅 力に気づき、継承されていくだろう。
一方で、食文化のみに関しては、違う傾向が見られた。民泊を始めたことで、ろくべえ
8やいりやき9などの郷土料理を作る機会が増えたという声がとても多かった。ろくべえと
7 赤米の頭受け神事…稲の原生種と言われる赤米が、豆酘の民俗行事のシンボルとして伝承されている。頭仲
間(とうなかま)という集団によって、赤米の植栽を行い一年交代で頭が交代するのだが、現在はたった一人 で伝統を守っている。2013年に赤米が宮中献穀米に選定されたため、全国からの注目度が上がっている。(対 馬市 2015;一般社団法人対馬観光物産協会 2017)
8 せんだんごという、砕いて団子状に練ったさつま芋を発酵させ、でんぷんだけを取り出したものが原材料と なる。せんだんごを水に浸した後、ろくべえせぎと呼ばれる器具で麺状にしたものをゆで、汁の中に入れて食 べる。(対馬市 2015;一般社団法人対馬観光物産協会 2017)
9 対馬に古くから伝わる郷土料理で、地鶏またはメジナ・ブリなどの魚と、たっぷりの野菜を具材とする寄せ
いりやきは対馬を代表する郷土料理である。(対馬市 2015)普段は親戚が集まったときや 何か地区で行事があったときなど、人が集まったときに、作っていたそうだ。そのため、
どの民泊のお母さんも作り方は元々よく知っていたが、民泊を始めたことで、さらにレシ ピを作成したり、作る機会が増えたりしたという。また、ろくべえやいりやきは、その民 泊ごとによって味が異なる。いりやきに関していえば、魚ベースなのか、鶏ベースなのか で異なる。また、家の周辺で採れる農作物や魚も異なるため、何の野菜を入れるか、何の 魚でダシをとるのかで味が変わる。ろくべえに関しては、麺状のろくべえを汁に入れて食 べるのか、いりやきの中に入れるのか、そもそも麺状にせずにだんごのようにして食べる のか、民泊によって違いが見られた。同じろくべえやいりやきでも、このように民泊によ って少しずつ味や作り方が異なる。そのため、どこの民泊に行っても、そのお母さんなら ではの味があり、魅力的な食文化があった。このことから、民泊は対馬の食文化を活性化 させ、維持させていくはたらきがあると考える。
・人的資源の活用について
民泊のお父さん・お母さんは、人と交流するの が好きである方が多く、全ての民泊でオ ープンな姿勢で迎えてくれた。夕ご飯の時など、話が止まらないことが何回もあり、とて もフレンドリーな方ばかりであった。今回宿泊した民泊のほとんどでは、民泊を行う前か ら、親戚や研究・観光で訪れた人を泊めており、もともと外から様々な人が訪れていた家 庭が多かった。そのため、常日頃から、人をもてなす機会は多いようであった。
お父さんやお母さんは地域と関わりがある方が多く、さまざまな地域団体や農協、漁協、
狩猟会、組合などに所属していた。対馬で生活するうえでは農林漁業の組合に所属するの は当たり前かもしれないが、その中でも地域をよりよくしようとしている人が多い印象を 受けた。民泊を行っている人は対馬に対して誇りをもっている方が多く、その良いところ を残したい、伝えたいという方も多かった。
民泊を行い、様々な人を泊めるなかで、お父さん・お母さんは、新たに気づかされるこ とや再認識する地域資源があるという。特に研究者は、地元住民でも知らない知識や歴史 を知っているため、言われて初めて気づくこともあるという。訪れる研究者は様々な分野 で、ヤマネコはもちろん、神社関係や遺跡・貝塚、チョウや植物、石屋根や建物など、幅 広い。このように多くの研究者が来ることに対して、お父さん・お母さんはありがたい、
とよくおっしゃっていた。自分たちでは気づかないことを調査し、対馬の魅力を掘り起こ しているので、さらに対馬に対して理解が深まるそうだ。また、調査内容が詳しくわから なくても、対馬のことについて皆で話し合ったり、それを聞いたりするのも楽しいという 方もいた。研究がきっかけで人の幅が広がり、人との交流を楽しんでいる印象を受けた。
このように、お父さん・お母さんは、自分の住む地区や対馬に対して強い思い入れがあ る方が多く、自然資源や歴史的・文化的資源を活かした営みをしていた。だからこそ対馬 の魅力を知っており、それらを民泊やそのほかの活動を通して知り合った人と交流するこ とで、多くの人に働きかけていた。
鍋の一種。味付けは地域や家庭で異なり、冠婚葬祭や各種行事などの際によく振る舞われた。(対馬市 2015;
一般社団法人対馬観光物産協会 2017)
・グリーン・ツーリズムによる地域資源の活用について
対馬の民泊では、地域資源を活かした取り組みが行われていた。自然資源に関しては、
野菜収穫体験などの農作業体験を通して、自然を体験できる内容になっている。歴史的・
文化的資源に関しては、食文化以外の資源は、民泊で伝承されるものは外から注目された ものに限定されてしまうが、郷土料理は作る機会が増えたことから、民泊が食文化の継承 を担っていることが考えられる。そして、3 つの地域資源の中でも人的資源が
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番重要で あると考える。なぜなら、民泊を通して様々な人と交流することで、お父さん ・お母さん を中心に、自然資源、歴史的・文化的資源が活かされていくからである。グリーン・ツー リズムで民泊をする際は、お父さん・お母さんから話を伺うことになる。そこで、地元住 民からしか聞けない対馬の良さについて初めて知ることができる。つまり、お父さん ・お 母さんから主に自然資源や歴史的・文化的資源を聞くことになる。お父さん ・お母さんと いう人がいなければ魅力に気づかないまま終わってしまうだろう。このことから 、地域資 源は人的資源を筆頭に活用され、人的資源が他の自然資源と歴史的・文化的資源にはたら きかけ、3つの資源が循環していくのだと考えられる。5.今後の課題
筆者は今後対馬の民泊が維持されていくためには、子どもや学生など若い世代に積極的 に働きかけていくことが必要であると考える。特に大都市圏に住む子どもや学生にとって、
田舎での非日常体験はとても新鮮な体験である。グリーン・ツーリズムを通して自然に触 れ、食を味わうことで、対馬の食材や自給自足の生活を学ぶことができる。知らなかった 世界を知ることで、将来の進路の選択肢が広がり、自分の人生について考えるきっかけに なるだろう。また、対馬に移住はしなくても、社会人になって何か仕事をするときに、対 馬に還元することもできるかもしれない。対馬でのつながりが対馬で学んだ後も続いてい けば、人の流れも流動的になると考えられる。
調査から、今後はグリーン・ツーリズムを通して民泊や郷土料理体験、農作業体験を続 けることはもちろんであるが、対馬の魅力に気づかせる人が重要であることがわかった。
民泊は対馬の文化を直接学べる良い手段となるため、後継者の育成や対馬島内外の人の交 流をさらに推進していくことで、民泊を活性化させていくことが求められている。人の交 流がうまれることで、民泊のお父さん・お母さんは対馬について話す機会が増え、全国の 多くの人に対馬の良さを認識してもらうことにつながる。その過程で後継者や
U
ターン者、I
ターン者が増えていけば、地域資源を活用した民泊も維持されていくだろうと考える。【付記】
本稿は、2017年度に提出した卒業論文の一部に加筆・修正を施したものである。卒業論 文の執筆にあたってご協力いただいた対馬市の地域の皆様やご指導いただいた 阿部治先生 に篤く御礼申し上げます。
【参考文献・資料】
阿部治,2017,『ESDの地域創生力』合同出版
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一般社団法人対馬観光物産協会,2017,『長崎県つしままるわかりガイドブック』一般社 団法人対馬観光物産協会.
櫻井清一・斎藤修,2002,「短期周遊型観光基調下における農村活性化を目指した地域資 源活用方策」『千葉大園学報』千葉大学,第
56
号:127-141.対馬市,2015,『学生実習の手引き:対馬の歩き方』対馬市.
(まるやま・ゆきこ 立教大学社会学部現代社会学科4年 阿部治ゼミ)