京都府美山町におけるスギ不成績造林地の地形解析
櫻井聖悟,伊藤達夫
Geomorphological Analysis of Failed Sugi Plantations in Miyama, Kyoto Prefecture
Shogo SAKURAI, Tatsuo ITO
Abstract: Forest zoning is necessary for multiple use forest management and planning.
We made topography analysis of failed sugi plantations extracted by comparing forest type maps at two time points. As a result, the failed sugi plantations were characterized by distance from valley center line and slope aspect. Characterization of forest area by change in forest distribution is useful for forest zoning.
Keywords:
不成績造林地(Failed Plantation), 地形解析(Geomorphological Analysis), 林 相図
(Forest type map),スギ
(Cryptomeria japonica D.Don)1.はじめに
2001
年に改正された森林・林業基本法には,
森林の有する多面的機能の発揮と林業の持続的 かつ健全な発展という基本理念が盛り込まれた.
これによって,森林を重視すべき機能に応じてゾ ーニングし,その機能の発揮のために望ましい施 業を行うことが求められるようになった(森林・林 業基本政策研究会,2002).特に「資源の循環利 用林」は,木材等の生産機能を持続的に発揮する ために重要な地域であるとともに,それに適した 地域を明らかにすることは,今後の森林計画にと って非常に重要である.
我が国の造林は「適地適木」基本として行われ てきており,特にスギは湿潤,肥沃な土地に造林 される傾向が多くの地方で見られる.適地適木を 誤ると極端な成長不良を招く恐れがある(真下,
1983).戦後の拡大造林においては,適・不適に
かかわらず造林された箇所もあり,そのような地 域
成績造林地が存在している.
本研究では,2 時期の林相図(樹種分類図)の比 較により,スギ不成績造林地の地形的特徴につい て
GISを用いて解析することを目的とする.
資料の解析には
ESRI社製
ArcView 9.1とその 拡張機能の
Image Analysis とSpatial Analystを使用した.
2.資料と方法 2.1.
研究対象地
研究対象地は,京都府中部に位置する旧北桑田 郡美山町(現南丹市美山町)である(図-1.).面積は 約
340 km2,標高は
100~950m,1979年から
2000年の年平均降水量は
1748mm,平均気温は 12.7℃である.この地域は,旧同郡京北町とともに北桑林業地帯と呼ばれ,府内の代表的な林業地 帯である.しかし,美山町と京北町はその立地的 な要因から林業の成立・発展の歴史が異なってい る.京北町は淀川,桂川上流にあたる大堰川流域 にあることから水運を利用して,京都,大阪で販 売される木材を供給する一大林業地帯として栄 え,発展を遂げた.一方本対象地である美山町は,
日本海側へ流れる由良川流域の上流部にあたり,
では造林樹種単独では成林が期待できない不
櫻井:
606-8522京都市左京区下鴨半木町1
京都府立大学大学院農学研究科森林計画学研究室
Tel/Fax 075(703)5635 [email protected](伊藤)再造林 拡大造林 再造林 拡大造林 再造林 拡大造林
京北町 27 89 48 121 56 77
美山町 17 172 28 170 20 153
単位:ha
1973 1978 1983
下流に大都市を持たなかったため,スギ・ヒノキ の造林が進んだのは戦後に入ってからである.造 林実績を見てもわかるとおり,美山町は
1970~1980
年代にかけても京北町に比べ拡大造林の占 める割合が高くなっている(表-1.).このことから,
美山町における現在の人工林は,戦後の拡大造林 を中心に成立してきたといえる.
2.2.
林相図
京都府立大学森林計画学研究室が
1972年撮影 の空中写真から作成した林相図(図-2,以下
1972年林相図)と,2003 年撮影の空中写真から林相判 読により今回新たに作成した林相図(図-3,以下
2003年林相図)を用いた.
1972年林相図は,スギ 林,ヒノキ林,アカマツ林,広葉樹林,新植地,
スギ新植地等,
13の林相に区分されており,スギ 新植地は
10年生までのスギ林分を指している.
石川(1976)は,
1972年林相図と昭和
48年調査に よる丹波中部地域森林計画書との面積の違いは,
スギ林と新植地については
10%以内であるとしており,これら
2つの林相についてはよく把握さ れていたものと思われる.また,この地域は広葉 樹林であったところを大面積に伐採し,適・不適 に関わらず造林した傾向があることも指摘して いる.2003 年林相図は,Image Analysis を用い てオルソ化した空中写真の写真判読により作成 した.ここでいうオルソ化とは,3 次元
GCP (Ground Control Point)から計算された共線条件に基づく幾何学モデルと,対象エリアの
DEM (Digital Elevation Model)を用いて地形の影響による画像のゆがみを補正する単写真簡易オルソ 幾何補正を指す.この林相図は,スギ林,ヒノキ 林,アカマツ林等の
10項目に分類した.年代に より分類項目数が異なるのは,
1972年林相図は,
スギ・アカマツ混交林やスギ・アカマツ・広葉樹 混交林のように,混交林が多く分類されていたた めである.
本研究では,1972 年当時,下刈等の保育施業 により成林していたと思われる
10年生までのス ギ林(スギ新植地)が,約
30年間で広葉樹林化した 地域をスギ不成績造林地と定義する.
2.2.
地形解析に用いたデータ
国土地理院発行の数値地図
50mメッシュの標高データを用いて作成した
tinをもとに,10mに 補完した
DEMを作成した.これを基に,
SpatialAnalyst
のツールを用いて,流向,累積流量を計
算し,一定以上の累積流量を値に持つ河川グリッ ドから,谷線データを生成した(図-4.).その際の 累積流量の最少セル数には,生成された河道とオ ルソ化された空中写真の谷筋との重なりが最も よかった
300を採用した.この谷線からの直線距 離を表すラスターデータを作成し,
50mごとに
6クラスに再分類した.また,
10mに補完したDEMをもとに斜面方位を表すラスターデータを作成 図
-1.研究対象地
表-1. 美山町・京北町造林実績
(昭和
48,53,58年版京都府林業統計から作成)
図-2.
1972年林相図
図
-3. 2003年林相図
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500
0 - 50m 51 - 100m 101 - 150m 151 - 200m 201 - 250m 251m以上 谷線からの距離
面積(ha)
0 25 50 75 100
累積面積率(%)
1972年 スギ林 2003年 スギ林 1972年 累積面積率 2003年 累積面積率
図
-4.谷線
0 20 40 60 80 100 120
北 北東 東 南東 南 南西 西 北西
斜面方位
面積(ha)
0 25 50 75 100
成林率(%)
谷線から100m以内の範囲のスギ林 谷線から100m以上の範囲のスギ林 谷線から100m以上の範囲のスギ成林率
図-7. スギ新植地→スギ林の斜面方位に対する分布 図-5. 谷線からの距離に対するスギ林の分布
0 100 200 300 400 500 600 700 800
0 - 50m 51 - 100m 101 - 150m 151 - 200m 201 - 250m 251m以上 谷線からの距離
面積(ha)
0 25 50 75 100
成林率(%) 累積面積率(%)
1972年 スギ新植地 スギ新植地→スギ林 スギ新植地→広葉樹林 スギ成林率
スギ新植地累積面積率 スギ林累積面積率
図
-6.谷線からの距離に対するスギ新植地,スギ新植地→スギ林,スギ新
植地→広葉樹林の分布とスギ成林率
し,これら
2つのデータを解析に用いた.
2.3.
方法
1972
年林相図からスギ林とスギ新植地,2003 年 林相図からスギ林を抽出し,それぞれについて谷
図
-8.スギ林不成績危険領域の抽出
線からの距離,斜面方位ごとの分布を調べた.ま た,
1972年林相図のスギ新植地の林相変化,特にス ギの成林率について,河道からの距離,斜面方位を 用いて解析した.
図-9. スギ造林可能地域の抽出
3.結果と考察
まず,1972 年には,森林率が約
93%,うちスギ林が約
15%(4700ha)であったのに対して,2003年 に は , 森 林 率 が 約
94%, う ち ス ギ 林 が 約
22%(7000ha)と増加している.これを谷線からの距離についてみてみると,両年代ともに
100m以内の範囲にその
80%以上が分布していることがわかる(図-5.).このことから,スギの造林は忠実 に谷線に沿って行われたと推測される.一方で,
1972
年にスギ新植地となっている地域は,谷線 に近いところに多く分布する傾向はあるものの,
1972
年のスギ林の分布に比べ,谷線から遠いと ころにも分布しているといえる(図-6.).そこで,
1972
年にスギ新植地であり
2003年にもスギ林で あるところについてみると,その成林率(2003 年 スギ林面積/スギ新植地面積)は,谷線からの距離 に比例して減少しており,やはり谷線から
100m以内の範囲にその
80%以上が分布している(図-6.).谷線から 100m以上離れた地域のスギ林に
ついて,斜面方位ごとにその分布を比較した結果,
その成林率は北東を中心に両側
90°の範囲において高く,反対側である南西において低い結果と なった(図-7.).つまり,スギ林の成林には,谷線 からの距離と斜面方位が関係しており,水分条件 の影響により広葉樹林化が起こったものと推測 された.
4.解析結果の応用
以上の結果から,本対象地におけるスギの造林は,
谷線からの距離
100m以内が適地で,それ以上の範囲では斜面方位が北・北東・東である地域が可 と考えられる.しかし,2003 年林相図でスギが 谷線から
100m以内にその
80%以上が存在していることから,スギの造林は谷線から
100m以内 が望ましいといえる.これらを基に,2003 年に スギ林である地域で,上述以外の属性を持つ地域 を不成績になる可能性のある地域として抽出し た(図-8.).不成績になる可能性を保持している面 積は,スギ林全体の
7.8%であった.また,現在広葉樹林である地域の中で,谷線から
100m以内
の地域を,スギ造林可能地域として抽出した(図
-9.).5.おわりに