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遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の遺伝子検査

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特  集 遺伝性乳がん・卵巣がん

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の遺伝子検査

昭和大学医学部外科学講座(乳腺外科学部門)

  横山 士郎

は じ め に

 遺伝子乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の原 因遺伝子として,BRCA1 と BRCA2 の 2 つの遺伝 子が 1994 年と続いて 1995 年に同定され,欧米で は HBOC の日常診療に広く活用されるようになっ た1‑5).日本では,当初,HBOC は欧米に比べ頻度 が少ないのではないかと報じられていたが,菅野ら の研究により欧米とほぼ同等かそれ以上の頻度で存 在することが報告され,日本でも乳癌の 5 〜 10%

が HBOC である可能性があり,HBOC を念頭に置 いた診療体制の整備が求められるようになった6‑9). しかし,遺伝性腫瘍の遺伝子検査はまだ診療報酬の 適用になったものはなく一般に認知されていないの で,今後,臨床現場で広く用いられる状況に備え,

本稿では,遺伝性腫瘍の遺伝子検査で留意すべき事 柄を,遺伝子の基礎に立ち返りながら解説する.

遺伝子変異と成人型遺伝病

 ヒトの細胞にある常染色体(性別を決める性染色 体以外の染色体)は,通常,父親と母親から 1 つず つ受け継がれていて,1 つの遺伝子が機能を失った としても,もう 1 つの遺伝子が働くので,細胞の機 能が維持される.細胞のがん化を抑制する方向に働 く遺伝子(がん抑制遺伝子)では,2 つとも機能を 失った時にがん化を抑制する能力を失う「Two hit 説」が提唱されている10).また,BRCA1 および BRCA2 遺伝子は,そのタンパクが細胞分裂の際の 遺伝子の複写ミスを修復する作用を有することか ら,ミスマッチ修復遺伝子と呼ばれている.BRCA  1/2 遺伝子の機能喪失により直ぐにがん化が進むの ではなく,細胞増殖を制御する種々の遺伝子の変異 が積み重なることによりがん化が進むと考えられて

いる.

 生まれながらに BRCA1 または BRCA2 遺伝子の 1 つに変異があっても,すぐに乳癌を発症するので はなく,年を経て体の中の細胞が分裂を繰り返す内 に,もう一方の BRCA1/2 遺伝子の複製においてミ スが起こり,更に細胞内にいくつもの遺伝子変異が 蓄積して発がんに至るので,BRCA1/2 遺伝子の変 異が遺伝性の病変であっても成人後にがんを発症す ることが多くなる.

易罹患性遺伝子検査の試料

 臨床診断に用いられるがんの遺伝子検査は大きく 分けると 2 つに分類できる.1 つは,がん細胞の中 のがん関連遺伝子を解析して,がんの性質(悪性度 や予後等)を診断する検査である.もう 1 つは,生 殖細胞系列のがん関連遺伝子を解析して,その人の がん発症リスク(易罹患性)を診断する検査である.

Her2 遺伝子や K-ras 遺伝子などが前者の検査で,

がん組織そのものを試料とする.HBOC の遺伝子 検査は,後者の易罹患性遺伝子検査である.親から 受け継いで遺伝子の変化,あるいは発生の初期段階 で起こった遺伝子の変化が全身の細胞に複写されて いるので,血液中の DNA を使用して検査を行う.

がん組織を試料とした場合は,遺伝子の変異が検出 されたとしても,その変異が遺伝的変異なのか後発 的変異なのか区別がつかないので,がん組織は易罹 患性遺伝子検査には適さない.ただし,白血病など で骨髄移植の治療を受けた患者の場合は,血液は本 人の生来の細胞ではないので,毛髪や爪から DNA を抽出して使用する必要がある.口腔内擦過細胞を DNA 検査に用いる場合も有るが,擦過細胞は口腔 粘膜細胞と血液細胞の混ざりものなので,骨髄移植 患者では試料に適さない.

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遺伝子検査の対象者

 遺伝が関与すると思われる家族に集積する乳がん

(家族性乳がん)の家系において BRCA1/2 遺伝子 に変異が検出される割合は,20 から 30%と報告さ れ, 更 に 卵 巣 が ん も 集 積 す る 家 系 に お い て は,

BRCA1/2 遺伝子に変異が検出される割合は 30 か ら 60%と報告されている.被検者とその家族の乳 がん並びに卵巣がんの発症歴により変異が検出され る確率が異なるので,臨床現場で被検者に変異の検 出確率を説明する際には,米国ミリアド社が公開し ている検出率の表(表 1)が多く用いられている.

 HBOC を疑い BRCA1/2 遺伝子検査を希望する相 談者には,家系内で既に乳がんまたは卵巣がんを発 症した人で検査を行うことが有効であることを説明 する.家族歴はあるが,乳がんも卵巣がんも発症し ていない人が BRCA1/2 遺伝子の検査を希望する時 は,陰性の結果の結果が出た場合に,本人が HBOC 家系における陰性者なのか,BRCA1/2 遺伝子に関 係しない家族性乳がん卵巣がん家系の一員なのかの 区別がつかないことを理解してもらう必要がある.

可能であれば,相談者を通じ,乳がんまたは卵巣が んを発症した血縁者に遺伝子検査に協力を求めるこ とを検討する.

 家系内で複数の既発症者が,同等に遺伝子検査を 希望している場合は,変異が検出される確率の高い 人に最初に検査を受けてもらうことを勧める.例え ば,図 1 の家系の場合,B が変異を有する可能性が 最も高いので,最初の相談者が A であっても,も し B も検査に賛同しているなら B から遺伝子検査 をすることが勧められる.しかし,実際の検査実施 の場面においては,家族の中でも遺伝子検査に関す る考え方が一致しているとは限らず,情報の共有が できていない場合もあるので,遺伝子検査の実施に 当たっては,次節で解説される遺伝カウンセリング に関する注意を順守する必要がある.

遺伝子の機能

 遺伝子にはアミノ酸の配列に関する設計図が含ま れており,特定のアミノ酸配列を有する蛋白を合成し て,その蛋白を介してさまざまな機能を発揮してい る.蛋白合成の工程(図 2)は,先ず遺伝子すなわち DNA からメッセンジャー RNA(mRNA)の前駆体

が転写され,蛋白合成に係らない領域(intron)が切 り出され(スプライシング),蛋白合成に必要な領域

(exon)だけからなる mRNA となる.更に mRNA が トランスファー RNA(tRNA)に転写された後に,

tRNA の 3 つの塩基記号の組み合わせ(表 2)により アミノ酸の配列を決定してゆく.アミノ酸配列の伸 張は,3 塩基組み合わせの中にある停止記号(Stop  Codon:UAA,UAG,UGA の 3 種類の組み合わせ がある)により終了し,蛋白が完成する.この exon の 3 塩基組み合わせに変化を生じるような塩基の変 化があると正常な蛋白合成が出来なくなり,病気の 原因となる場合がある.

遺伝子変異の種類

 遺伝子の変異には,遺伝子を構成する塩基対の中 のただ 1 つの塩基対が入れ替わる小さな変異から,

遺伝子全体が抜け落ちてしまう大きな変異まであ る.遺伝子のアミノ酸合成を指令する領域(exon 内のコーディング領域)の一つの塩基が入れ替わっ た場合において,蛋白合成に与える影響から,変異 を 3 種類に分けて分類している.1 つ目は,アミノ 酸の配列に変化を生じないサイレント変異である.

例えば GCA が GCG に変化してもどちらもアラニ ンをコードしているので,アミノ酸は変化しない.

アミノ酸配列に変化がないので,通常は病気の原因 となることはないが,この塩基の入れ替わりが,

intron と exon の接合部分に極近い場合,スプライ シングに異常が起こることがある.スプライシング に異常があると,mRNA の配列が異なり,結果と して異なるアミノ酸配列の蛋白が合成され,病気の 原因となることがある.2 つ目はアミノ酸が入れ替 わるミスセンス変異である.例えば GCA が GAA に変化した場合は,アラニンからグルタミン酸にア ミノ酸が入れ替わる.1 つのアミノ酸の入れ替わり により蛋白の機能が大きく失われることは少ない が,その蛋白が他の蛋白と反応をするためのレセプ ター部分などの立体構造を変化させるような変化の 場合は,1 つのアミノ酸の入れ替わりでもその蛋白 の機能が減弱したり,逆に機能を亢進することがあ る.3 つ目は蛋白の合成が途中で中段してしまうナ ンセンス変異である.例えば GAA が UAA に変化 した場合は,グルタミン酸から Stop Codon に指令 が変化して,アミノ酸の伸張はここで止まってしま

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1 BRCA1およびBRCA2遺伝子の病的変異保有率(Ashkenazi Jewish家系を除く) 20102月更新 家族歴(本人を除く第2度近親以内に1人以上の乳がんまたは卵巣がんの既往者がいる)

本人の 既往歴

50

がん既往者がなく,卵 巣がん既往者がない

50 がん既往者が1人いる

が,卵巣がん既往者は いない

50 がん既往者が2人以上

いるが,卵巣がん既往 者はいない 初発年齢を問わず,卵 巣がん既往者が

1人い が,50 がん既往者はいない

卵巣がん既往者が2 が, 50 往者は1人もいない

50

がん既往者および,初 発年齢を問わず卵巣が ん既往者がいる

†† ず, かかったことがない1.5%2.6%5.6%3.0%5.3%7.2% 50 がある2.2%3.8%8.0%4.9%9.5%10.6% 50 がある4.7%10.4%21.2%10.3%21.9%26.6% 男性乳がんである 6.9%17.4%36.6%15.9%33.3%28.3% ず, ことがある7.7%14.3%27.4%14.7%22.7%34.4% 50 かかったことがある12.1%23.6%50.0%23.6%44.2%39.4% 50 がある

26.3%40.0%64.5%41.2%45.5% 57.4%  † 初発時50歳以上の乳がんにかかったことのある血縁者が含まれています(女性または男性で) †† (乳がんおよび卵巣がんの)両方を診断されている血縁者を含みます. 発症の分類にはDCISのデータも含まれます.

調査対象数 表1: 162,914 N20 この表は,米国Myriad Genetic Laboratories Inc.で実施された検査(研究検査を含む)で集計されたデータを編集し,日本語訳したものです.

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い,短い蛋白しか合成できなくなる.この場合は,

蛋白の構造が大きく変わるので,機能を失うことに なる.ただ,この変異が,蛋白合成の終盤近く(N 端のすぐ近く)で起こった場合に,蛋白がほんの少 し短くなるだけで,機能に影響がないこともあるの で,病的変異の判断に注意を要する.

 次に塩基が部分的に欠失,本来はなかった塩基が 挿入される変異がある.欠失,挿入の効果から変異 を大きく 2 つに分けると,フレームシフト変異とイ ンフレーム変異になる.3 つの塩基の組み合わせで アミノ酸を規定しているので,3 の倍数以外の数で

塩基が欠失したり挿入されたりすると,たとえ 1 塩 基の欠失あるいは挿入であっても,変化した部位以 降のアミノ酸の配列指令が全て異なってくる.この 場合,変異の塩基から数十塩基後の間までに Stop  Codon の塩基組み合わせが発生して蛋白合成が中 断され,機能喪失となる.尚,フレームシフト変異 の場合も,ナンセンス変異と同様に N 端近くで起 こった場合は機能に影響しない場合がある.一方,

3 の倍数の数で塩基の欠失や挿入があるインフレー ム変異では,塩基の数の変化に応じたアミノ酸の数 の変化が発生する.アミノ酸の数の変化が少ない場

図 1 遺伝子検査を検討する家系の例

図 2 DNA からタンパク質がつくられる仕組み

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合は,蛋白の機能が保たれることもある.

 intron の塩基配列に変化が生じても,通常,蛋白 合成への影響はほとんどないと考えられるが,サイ レント変異の場合と同様に intron と exon の接合部 分に極近い塩基の配列に変化があると,スプライシ ングに異常をきたすことがあるので注意を要する.

遺伝子の検査法

 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因遺伝子とし て同定された BRCA1,BRCA2 遺伝子は,ゲノム の安定性維持に関与するがん抑制遺伝子なので,そ の機能を失うような変異があるとがん発症のリスク が高まる.機能喪失となる遺伝子変異の検出には,

遺 伝 子 全 体 の 検 査 を す る こ と が 必 要 に な る.

BRCA1 は 1,863 個のアミノ酸,BRCA2 は 3,418 個 のアミノ酸をコードする遺伝子で,遺伝子検査では アミノ酸のコーディング領域全てと,コーディン グ領域に隣接する intron の領域も解析の対象とな り,約 18,000 塩基対の配列の解析を行うことにな る.臨床検査としての解析の方法は大きく分けて 2 つの方法が用いられている.

 先ずは,遺伝子の塩基配列を 1 つ 1 つ解析するダ

イレクトシークエンシング法が基本となる.臨床検 査として BRCA1/2 遺伝子の解析を行う場合は,遺 伝子を約 180 の領域に分けて PCR 反応を行い,各 PCR 産物のシークエンシングが行われている.

 遺伝子変異には数塩基が欠失するような比較的小 さな変異から,遺伝子全体が抜け落ちたり,複数の exon にまたがり塩基が欠失する大きな変異がある.

このような大きな変異の場合は,PCR 反応を含む 解析法では目的とする変異遺伝子を増幅が出来ず,

正常な塩基配列に対して反応した PCR 産物に対し てシークエンシング解析がなされ,「変異なし」の 判定結果が報告されることになる.そのため,大き な変異を検出するためには,ダイレクトシークエン シング以外に,サザンプロット法,FISH 法,ロング PCR 法,判定量 PCR 法などの組み合わせが必要と なる.最近,このような大きな変異を効率よく検出す る方法として MLPA(Multiplex Ligation-dependent  Probe Amplification)法が開発された11).MLPA 法 では,目的とする遺伝子に対応するプローブを,同 時に複数(40 プローブ)試料に反応させ,結合でき たプローブのみを定量的に増幅することで,1 細胞 に 2 アレル存在する遺伝子の片方の大きな領域が欠

表 2 A 3 つの塩基の組合せによるアミノ酸の選択 B アミノ酸の記号と名称

第 1 第 2

第 3 Ala:A, アラニン Arg:R, アルギニン Asn:N, アスパラギン Asp:D, アスパラギン酸 Cys:C, システイン Gln:Q, グルタミン Glu:E, グルタミン酸 Gly:G, グリシン His:H, ヒスチジン I l e :I, イソロイシン Leu:L, ロイシン Lys:K, リジン Met:M, メチオニン Phe:F, フェニルアラニン Pro:P, プロリン

Ser:S, セリン Thr:T, スレオニン Tyr:Y, チロシン Try:W, トリプトファン Val:V, バリン

  Stop Codon:X

U C A G

U

Phe Ser Try Cys U Phe Ser Try Cys C Leu Ser Stop Stop A Leu Ser Stop Try G

C

Leu Pro His Arg U Leu Pro His Arg C Leu Pro Gln Arg A Leu Pro Gln Arg G

A

Ile Thr Asn Ser U Ile Thr Asn Ser C Ile Thr Lys Arg A Met Thr Lys Arg G

G

Val Ala Asp Gly U Val Ala Asp Gly C Val Ala Glu Gly A Val Ala Glu Gly G

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失していることを検出できる(図 3).

遺伝子変異の表示法

 ダイレクトシークエンシング法の臨床検査として の結果報告では,基本のデータベースの配列と同じ 塩基配列や既に多型と確定している塩基配列の場合 は「変異を認めず」と表記し,変異が認められた場 合には,塩基のアミノ酸の配列記号または塩基の配 列記号で表示される(表 3).サイレント変異,ミ

スセンス変異,ナンセンス変異の場合はアミノ酸表 記で,「T1720T」,「K2729N」,「L63X」などと,両 端に正常なアミノ酸と変異後のアミノ酸を記し間 にそのアミノ酸の位置を記載している.塩基の欠 失や挿入の変異は,「2632delA」,「3389delAG」,

「184insTT」,「5126ins13」,「1240delCACinsT」 な どと,変異が生じた塩基の頭の番号の後に欠失

(del)あるいは挿入(ins)と変化した塩基記号又 は塩基の数を記載する.また intron の変異では,

図 3 MLPA 法の原理  A:プローブの設計

B:ハイブリダイゼーションとライゲースによる 1 本化 C:PCR による同時増幅

D:PCR 産物のフラグメント解析

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「IVS20−1G > A」,「IVS26+10T > G」などと,変 異のあった intron の番号と,接合する exon との接 合部分からの塩基の数(上流よりは−,下流よりは

+)と変化する前後の塩基の記号を記載する.

 MLPA 法の検査結果報告では,「exon14-20del」

などと欠失している領域の exon の番号を記載する.

変異の臨床診断のための解釈

 遺伝子の変異が蛋白の機能喪失をきたしているか は,遺伝子解析に精通していない人には困難な場合 が多いので,臨床検査としての遺伝子検査の結果報 告には,変異の内容(塩基の変化)に加えて臨床的 な意義の解釈を添えることが求められている(図 4).結果の解釈は大きく分けて 3 種類あり,「変異 を認めず」,「Deleterious(病的変異)」,「Uncertain

(病的かどうか未確定)」となる.遺伝子の変異が合 成される蛋白の機能を消失させるかどうか確定でき ていない新しい変異が検出された場合の解釈が

「Uncertain(病的かどうか未確定)」である.これ らの分類は,蛋白の機能解析や,変異が検出された 患者家系員の中で,発症者と変異保有者の関係を解 析する Segregation Analysis などの情報を蓄積す ることによって判定がなされている.

 遺伝子変異により蛋白の合成が中断するナンセ ン ス変異やフレームシフトはそのほとんどが,

「Deleterious(病的変異)」と分類される.ミスセ ンス変異の多くは「Uncertain(病的かどうか未確 定)」に分類される.BRCA1/2 遺伝子の変異を公 開する米国 NIH の情報サイト BIC(Breast Cancer  Information Core)に登録された変異種類ごとの件 数と分類を表 4 に示す.分類欄に記載した変異例 は,分類に注意を要する特殊な例である.尚,BIC への変異登録は,登録参加者の自主的な報告による ものなので,件数は必ずしも検出頻度を示す数値と はならなく,参考に留めるものである.特に多型が 確定したようなサイレント変異は登録されることは 少なく,小さい数値となっている.

未確定の追跡調査

 「Uncertain(病的かどうか未確定)」の結果が出 た場合,一旦,検査結果報告を行った後に,その家 系員における Segregation Analysis を行い,その 変異が病気に関係するのか,関係しないのかの追跡 調査が行われることがある.追跡調査の結果と遺伝 子変異の機能解析などの結果と合わせ,後日,解釈 の検討が行われる.

 解釈の検討の段階で,病的変異と確定できないま でも,ほぼ病気に関連すると判断された場合には,

「Suspected Deleterious(病的変異疑い)」と判定さ れることがある.また,多型と断定できないが,ほ

表 3 結果報告書に記載する変異の表記

変異の型 変異の表記例 表記要領

サイレント変異 C197C,S694S 前に正常なアミノ酸,後に変異後のアミノ 酸の記号を記載し,その間にアミノ酸の位 ミスセンス変異 K2729N,R1495M 置を表記

ナンセンス変異 L63X, Q563X フレームシフト変異 2632delA,3389delAG

184insTT,5126ins13 1240delCACinsT

変異が生じた最前の塩基番号の後に欠失

(del)あるいは挿入(ins)と変化した塩基 記号又は塩基の数を表記

インフレーム変異 S616del(1965del3),

9203del126(in-frame  deletion)

欠失または挿入したアミノ酸と位置を記し,

カッコで塩基番号と変化した塩基数を表記 あるいは,塩基番号と塩基数にインフレー ムであることを付記

イントロンの変異 IVS201G > A

IVS26+10T > G IVS の後に変異のあった intron 番号,より 近い exon の上流にある場合は[],下流 にある場合は[+]を付けて塩基の接合部 からの位置を記し,変化する前後の塩基の 記号の順で表記

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図 4 検査結果報告の例

表 4 BIC に登録された BRCA1/2 遺伝子変異の数と臨床意義の分類

変異の型 登録数

(2013. 4 現在)

変異の臨床意義と分類

病的変異 未確定変異 多型

サイレント変異 1,637 R(intron 接合部) Minor Major ミスセンス変異 11,641 R(立体構造変化,

      intron 接合部)

Major Minor

ナンセンス変異 2,396 Major R(C 端に近い

  部位の変異)

Minor(BRCA2, K3326X)

R(BRCA2, K3408X)

フレームシフト 9,467 Major R(C 端に近い

  部位の変異)

R(BRCA2 10323delCins11)

インフレーム変異 139 R(非常に大きな欠失,

      Stop Codonの挿入)

Major NR

イントロンの変異 3,789 Minor

(exon 接合部)

Major Minor

(exon 接合部から遠い)

Major:各変異型における主な臨床意義の分類. Minor:比較的少ない臨床意義の分類.

R:稀な臨床意義の分類. NR:BIC では未登録.

http://research.nhgri.nih.gov/projects/bic/application.cgi

(9)

ぼ病気に関連しないと判断された場合には,「Favor  Polymorphism(遺伝子多型と思われる)」と判定さ れることもある.暫定的な判定も含めると検査結果 の解釈には 5 種類あることになるが,臨床の場での 被検者への説明では,「Suspected Deleterious(病 的変異疑い)」は「Deleterious(病的変異)」と同 等に扱われ,「Favor Polymorphism(遺伝子多型と 思われる)」は,多型(変異なし)として問題ない.

 追跡調査の結果,判定基準を変更された時に,検 査センターによっては Amended report を発行し,

解釈の変更を報告するところもあるので,HBOC の診療では検査結果の報告のためにも被検者と連絡 手段を継続しておくことが求められる.

お わ り に

 遺伝子検査は新たな技法として,様々な疾患の診 断に役立ってきているが,新しい技術であるだけ に,技術的な限界がある中で利用されており,更な る研究による技術の改良がなされている.臨床現場 においても常に遺伝子研究の成果を監視しながら,

患者への還元を心掛けることが必要と考える.

文  献

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図 4 検査結果報告の例 表 4 BIC に登録された BRCA1/2 遺伝子変異の数と臨床意義の分類 変異の型 登録数 (2013. 4 現在) 変異の臨床意義と分類 病的変異 未確定変異 多型

参照

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