*1 化学繊維研究所
プリント配線基板内蔵用高容量薄膜コンデンサの開発
ゾルゲル法で合成したチタン酸バリウムナノ粒子の結晶性
牧野 晃久
*1山下 洋子
*1藤吉 国孝
*1有村 雅司
*1Development of a Film Capacitor Embedded Print Wiring Board with a High Capacitance Density
Crystallinity of Nano-Sized Barium Titanate Particles Synthesized by Sol-Gel Method Teruhisa Makino, Yoko Yamashita, Kunitaka Fujiyoshi, Masashi Arimura
電子セラミック材料へ応用可能なチタン酸バリウムナノ粒子の合成について,数多くの手法が研究されている。
中でも液相を介する手法は均一微細な粒子を合成する手法として固相法などと比較して優位であるが,液相に含ま れる水酸基由来の欠陥が最終製品にまで影響を及ぼすことが報告されており,問題となっている。そこで本研究で は,高濃度ゾルゲル法によって合成したナノ粒子の欠陥についてTEMを用いて観察した。その結果,高濃度ゾルゲ ル法は合成時に水酸基を多く含む方法であるにもかかわらず,粒子内に水酸基由来の欠陥を形成することなく結晶 性の高いナノ粒子を合成できることが明らかとなった。
1 はじめに
高い誘電率を持つチタン酸バリウム(BaTiO
3)は,
セラミックコンデンサなどの電子部品に多く用いられ ている。近年,積層セラミックコンデンサの小型化,
大容量化が進み,コンデンサを構成する誘電体層の薄 層化が要求され,1µm程度の厚みの誘電体薄膜が実現 している。かかる厚みの誘電体薄膜を実現する上で,
原料の微粒化,誘電体組成の均一化が重要となってい る。特に,薄膜の電気的絶縁性を確保する上で薄膜中 に十層以上の粒子が積み重なっている必要があると経 験上言われている。すなわち,BaTiO
3を用いて薄膜を 形成する上で100nm以下の粒径及び組成が均一な粒子 が要求されている。
従来,BaTiO
3粒子を合成する方法として,炭酸バリ ウム粉末と酸化チタン粉末を出発原料として1200℃以 上の高温でBaTiO
3とする固相法が安価であり,多く用 いられてきた。しかしながらこの方法では粒子の大き さを1µm以下にするのは困難であるため,固相法によ りBaTiO
3を合成した後,機械的に粉砕してサブミクロ ンのBaTiO
3粒子を得ている。しかし粉砕による粒子微 細化では粒径分布がブロードになり,焼結時に異常粒 成長しやすく電気的特性が劣化するといった問題があ る。
一方,100nm以下のBaTiO
3粒子を合成する方法とし ては,水酸化バリウムと水酸化チタンを100℃以上で
オートクレーブ処理することにより得る水熱合成法な どがある。水熱合成法は,固相法に比べて粒径が均一 で微細なBaTiO
3粒子の合成が可能であると言われてい る
1)。しかしながら得られるBaTiO
3粒子は,100℃以上 の高温高圧で合成されるためにBaTiO
3結晶格子内に水 酸基(OH基)などが取り込まれるといった問題がある
2,3)
。これらを原料として用いるためには,熱処理を 行い粒子の結晶性を高める必要があるが,熱処理後に も粒子内にOH基が残留し,最終的に薄膜内に気孔とし て残るといった問題があり
1-3),液相法の根本的な問 題として捉えられつつある。
新たなBaTiO
3ナノ粒子合成方法として,固相法にお いて出発原料の微粒化により微細なBaTiO
3粒子を得る 方法
4)や,シュウ酸バリウムチタニルの熱分解により 微細なBaTiO
3粒子を得る方法
5)が報告されている。筆 者らは,従来合成プロセスに替わる手法として,高濃 度の前駆体溶液から結晶質BaTiO
3ナノ粒子を常圧,室 温で合成できる高濃度ゾルゲル法
6)を用いた研究を行 っており,高結晶性ナノ粒子の合成,粒子径制御につ いて研究を行っている。
本研究では,液相法である高濃度ゾルゲル法から合
成したBaTiO
3ナノ粒子についてTEM観察により結晶性
評価を行い,他研究者らが報告する水熱合成法の結果
と比較した。
2 研究,実験方法
2-1 BaTiO
3ナノ粒子の調製
図1はBaTiO
3ナノ粒子の調製方法を示したものであ る。前駆体溶液はジエトキシバリウム(Ba(OC
2H
5)
2, 高純度化学研究所製)を乾燥窒素雰囲気中にてメタノ ールとエチレングリコールモノメチルエーテル(2-メ トキシエタノール)の混合溶媒(体積比3:2)に溶解 し た 後 , 等 モ ル の テ ト ラ イ ソ プ ロ ポ キ シ チ タ ン
(Ti(OCH(CH
3)
2)
4,高純度化学研究所製)を加えて攪 拌し,濃度1.0×10
-3mol・m
-3(1.0M)となるように調 製した。
次いで前駆体溶液を-30℃に保持し,水とメタノー ルの混合溶液(体積比1:1)を滴下した。混合溶液の 滴下量は,水の添加量が前駆体溶液中のTiに対して16 モル倍となるようにした。得られたゲルは所定の温度 で 所 定 時 間 熟 成 処 理 ( エ ー ジ ン グ 処 理 ) を 施 し , BaTiO
3ナノ粒子を得た。
CH3OH+CH3OC2H4OH(3 : 2) Ba(OC2H5)2 Ti(O-isoPro)4 BaTiO3
前駆体溶液
in dry N2atmosphere
加水分解
BaTiO3
ナノ粒子 エージング処理
CH3OH+H2O (1 : 1) -30℃ H2O/Ti=16
CH3OH+CH3OC2H4OH(3 : 2) Ba(OC2H5)2 Ti(O-isoPro)4 BaTiO3
前駆体溶液
in dry N2atmosphere
加水分解
BaTiO3
ナノ粒子 エージング処理
CH3OH+H2O (1 : 1) -30℃ H2O/Ti=16
図1 BaTiO
3ナノ粒子の調製プロセス
2-2 TEMによるBaTiO
3ナノ粒子の結晶性評価
合成したBaTiO
3ナノ粒子を2-メトキシエタノール中 で濃度0.2×10
-6mol・m
-3(0.2mM)となるようにBaTiO
3ナノ粒子を投入し,超音波を2時間照射した。超音波 発生装置には,投込型の発振子を有する超音波発生器
(カイジョー製,TA-4021)を使用し,超音波の発振 周波数は50kHzとした。超音波照射時の水槽の温度は,
20℃一定となるように恒温水循環装置によって調整し た。かくして得られた溶液にマイクログリット(150-
Bメッシュ,応研商事製)を潜らせ,余分な溶媒をろ 紙にて除去した後,自然乾燥させてTEM観察に供した。
TEM観察は透過型分析電子顕微鏡(TEM;TECNAI-20,
Philips社製)を用い,加速電圧200kVで行った。また,
高 分 解 能 電 子 顕 微 鏡 ( HRTEM; JEM-4000X, 日 本 電 子 製)を用い,加速電圧400kVでBaTiO
3ナノ粒子内の結 晶構造を観察した。
3 結果と考察
3-1 エージング処理とBaTiO
3ナノ粒子の結晶性 エージング処理条件を30℃×168時間(7日間)およ び50℃×120時間(5日間)として得られたナノ粒子を 実験に用いた。図2は各々のナノ粒子をTEM観察した結 果である。いずれの粒子も粒子径はおよそ20nm程度で あり,特に30℃でエージング処理を施したナノ粒子は 均一粒径 であ り,1つ1つの 粒子に結 晶面 (ファセ ッ ト)が明瞭に観察された。しかしながら50℃でエージ ング処理を施したナノ粒子は,粒子径は20nm程度であ ったが,粒子径に若干のばらつきが見られ,各々の粒 子表面には異物もしくは空隙らしきものが数多く観察 された。そこでTEM観察中にEDXによる元素の定性分析 を行ったが,Ba,Ti,O,Cが検出され,他の元素は検 出されなかったことから,他元素などの異物の付着で はないと考えられる。
Henningsらは水熱合成法で合成したBaTiO
3ナノ粒子 の欠陥について,TEMにより観察されたコントラスト の差が熱処理後にさらに明確になり結晶格子内にOH基 由来の欠陥が取り込まれることを報告している
2),3)。 また,中野らは水熱合成法で合成したBaTiO
3ナノ粒子 のOH基由来の欠陥が熱処理により消失する様子をTEM によりIn-situ観察している
7 )。このように多くの研 究者らがOH基由来とみられる欠陥の存在をTEMなどに よって確認しており,OH基を含む原料あるいは溶媒を 用いた合成方法ではこのような欠陥が発生すると報告 している。本研究においても,50℃でエージング処理 を施したナノ粒子のTEM写真は他研究者らが報告する TEM写真と同様の形態をしており,有機物を含むOH基 由来の欠陥が存在していると考えられる。
しかしながら,30℃でエージング処理を行った場合,
欠陥と思われるようなコントラストの差は観察されな かった。欠陥が粒子内に形成されない理由としては,
前駆体濃度を高めた高濃度ゾルゲル法という方法が,
30℃という複合酸化物の合成温度としては極めて低温 で,かつ常圧で高結晶性のBaTiO
3ナノ粒子が得られる 方法であるために,粒子内に欠陥を形成することなく 結晶成長できるためだと推測される。そこで,30℃で エージング処理を施したBaTiO
3ナノ粒子について高分 解能TEM観察を行い,粒子内の欠陥の有無及び結晶の 形態について観察した。
図2 BaTiO
3ナノ粒子のTEM写真;(A)50℃×120時間 エージング処理,(B) 30℃×168時間エージング処理
3-2 HRTEMによる結晶構造評価
図3はエージング条件を30℃×168時間としたBaTiO
3ナノ粒子のHRTEM写真およびその電子線回折図形であ る。本研究で合成したBaTiO
3ナノ粒子は格子縞が明瞭 に確認でき,ファセットがはっきりとした形状となっ ていた。粒子内部には図2(A)に見られる明らかなコ ントラストの違いが存在せず,OH基由来の欠陥はない と考えられる。また,粒子が重なっていたために複数 の粒子の電子線回折図形となっているが,回折点がは っきりと確認でき,結晶質の立方晶BaTiO
3ナノ粒子で あった。
また,粒子内部には格子像の乱れがファセットと同 じ方向に直線状に2本観察された(図3(A)矢印)。こ の乱れが粒子の結晶成長方向であるファセットと同じ 方向であり,直線が明瞭ではなくアモルファス成分を 伴っていることから,ステップを形成し
8),エージン グ処理によりさらに結晶成長すると考えられる。また このようなステップが形成されることは,下地となる チタン酸バリウムの結晶性が高いことを示している。
以上より,高濃度ゾルゲル法を用いて30℃のエージ ング処理を施したナノ粒子にはOH基由来の欠陥が存在 せず,結晶性の高い粒子が得られたことが明らかとな った。
図3 BaTiO
3ナノ粒子(30℃×168時間エージング処 理)の(A)HRTEM写真および(B)電子線回折図形
4 まとめ
本研究では,液相法である高濃度ゾルゲル法から合 成したBaTiO
3ナノ粒子についてTEM観察により結晶性 評価を行い,他研究者らが報告する水熱合成法の結果 と比較した。その結果,30℃でエージング処理を行っ た場合,OH基由来と考えられている欠陥の存在は認め られなかった。本方法が30℃という複合酸化物の合成
5nm
(A) (A)
(B) (B)