ヒヤリング調査からみる公的集会施設における 飲食交流の実態に関する研究
日大生産工(院) ○竹田 良太 日大生産工 曽根 陽子
The Study of Communication in Dining Activities in Social Centers Determined through Interviews.
Ryota TAKEDA and Yoko SONE
表1. ヒヤリング調査対象施設とそのピックアップ条件
①自主的な交流週数回、②食事用スペースあり且つ自主的な交流月数回以上、③パーティー ルームあり且つ自主的な交流月数回以上、④コミュニティカフェあり且つ自主的な交流月
数回以上、⑤全ての交流あり、⑥飲酒交流以外の全ての交流あり 埼
玉 県 K C 公 民 館 埼 玉 県 S C 公 民 館 埼 玉 県 N C 公 民 館 東 京 都 K K 公 民 館 東 京 都 狛 K 公 民 館 神 奈 川 県 I H 公 民 館 神 奈 川 県 H セ ン タ ー 埼 玉 県 T 公 民 館 埼 玉 県 N セ ン タ ー 埼 玉 県 S 公 民 館 千 葉 県 H 公 民 館 東 京 都 K M 公 民 館 埼 玉 県 立 I 館
埼 玉 県 A C 公 民 館 東 京 都 M M 公 民 館 東 京 都 H K 公 民 館 東 京 都 S セ ン タ ー 千 葉 県 U T 公 民 館 東 京 都 C 公 民 館 東 京 都 B
埼 玉 県 M 公 民 館 埼 玉 県 U 公 民 館 埼 玉 県 K
千 葉 県 A 公 民 館 神 奈 川 県 O 公 民 館 千 葉 県 船 F T 公 民 館 千 葉 県 C 公 民 館 千 葉 県 S 公 民 館 東 京 都 N 公 民 館 神 奈 川 県 H H 公 民 館 神 奈 川 県 C 公 民 館
① ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
② ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
③ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
④ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
⑤ ○ ○ ○ ○ ○ ○
⑥ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
1 はじめに
本研究は、公的集会施設における飲食交流の 実態に関する研究である。昨年度は、首都圏の 公的集会施設(公民館と地域集会所)における 飲食交流の実態をアンケート調査により報告 した。本報告では、公的集会施設(公民館)に おける飲食交流の実態についてヒヤリング調 査より報告する。
2 調査方法
昨年度のアンケート調査では飲食交流の実 態(有無と頻度)及び飲食交流に関係する設備 の有無について回答を得た。その結果から以下 の条件を満たす公民館を31件ピックアップし、
2008年7月~9月にかけて施設の職員に対しヒ ヤリング調査を行った(表1)。
(1)「仲間同士で施設の料理機器で調理し飲食 交流する」が週数回以上行われている
こうした利用者による自主的な飲食交流の 調査は本研究の目的に近い。
(2)調理室に隣接する食事スペース又はパーテ ィールーム、コミュニティカフェがあり、且つ 自主的な飲食交流が日常的に行われている(月 数回以上)
これらの飲食交流を促す特殊な設備が飲食 交流に対してどのように有効に働くのか、また その適切な配置について探るため実体を明ら かにする。
(3)全てのタイプ又は飲酒交流以外の飲食交 流が年数回でも行われている
こうした施設は当然様々なタイプの飲食交 流について多くの情報量を持っているわけで 調査する価値がある。
これらの内訳は表1に示す通りである。
3 結果と考察
3.1 公民館における様々なタイプの飲食交流 の実例と一般的傾向
実際に飲食交流が行われている公民館を調 査したところ、茶菓子程度なら認められている が施設内飲食を公に認めている公民館は多く はない。しかし現実には様々なタイプの飲食交 流があり、職員はこのような利用者による自由 な活動を制限しないために黙認しているので ある。以下ではそうした様々なタイプの飲食交 流の実例を挙げ、各交流における一般的傾向を 明らかにする。
1) グループ活動中、活動後の各部屋における 飲食交流
例:千葉県S公民館の卓球サークル(S50年発足,
成員22名)では、毎月2人当番を決め飲食交流に 必要な茶菓子を購入する費用をメンバーから 徴収し仕入れてくる。活動が終わると飲食する ための机やイスを倉庫から出し並べ、飲食後は 窓を開け室内換気を行ったりモップで掃除を 行ったりと匂いや食べこぼしにも気を使って いる。
このように飲食交流するためには飲食物や
それを食すための机や椅子を並べるなど準備
が必要であり、飲食物の用意には金銭的負担も
伴うのである。また大抵の公民館では部屋の予
約待ちが1~4ヶ月と長く、利用者は活動時間を 手に入れるのに苦労している。こうした飲食交 流を行うには上記のような様々な労力が必要 とされる。活動時間を削ってでも交流するか否 かはそのサークルの成員が持つ飲食交流に対 する価値観の大小によるところが大きいと神 奈川県C公民館の水墨画サークル(50~60代女 性、6名)の方が話していた。
2) 料理サークルの成果品による飲食交流 こうした飲食交流は昼食時を挟んで調理室 を予約し利用するパターンが多い。しかし昼食 時を跨いだ調理室の利用予約ができない公民 館もあり、こうした公民館では飲食時間を踏ま えた調理室の利用は困難である。
3) 食事スペースを有する調理室における飲食 交流
食事スペースとは調理室の利用率を上げる ため調理活動以外の活動にも使用できるよう にと設けられたテーブルやイスを置いたスペ ースのことである(写真1)。このような設えの ある調理室では利用者が交流しやすいように テーブルやイスを並び替えて飲食交流してい るのだという。東京都KM公民館館長は、通常の 調理室における飲食交流が調理台のシンクと コンロに蓋をしてその上で行われるのに対し、
テーブルやイスを有する調理室ではリラック スして飲食交流を行うことができると話して いた。調理室の利用効率の向上、飲食交流に適 した環境づくりができる点を考えれば調理室 に隣接する食事用スペースを設けることは施 設利用の観点から有効な手段であるといえる だろう。
4) 外部空間における飲食交流
外部テラスや中庭、駐車場などの大きな外部 空間を有する公民館では、行事時に飲食系の模 擬店を出し、椅子や机を並べ飲食スペースをつ くるなどして積極的に外部空間が利用されて いる。また、外部空間は特に飲食行為について 施設内に適用されている規制を受けることが ないので、日常的な飲食交流にも積極的に利用 されている。東京都C公民館の中庭(写真2)には ベンチとテーブルが設けてあり、利用者が時々 持ち寄りの弁当で飲食交流しているという。
5) コミュニティカフェ及び集会室における飲 食交流
コミュニティカフェとはボランティアなど により非営利で運営されるカフェのことであ るが、公民館では障害者雇用の目的で設置され 障害者又はその親族ら、それをサポートする社 会福祉協議会などによって管理運営される併 設の喫茶コーナーのことである。
例1:東京都KC公民館では施設内飲食を禁止し ているがコミュニティカフェでは飲食可能と なっている。
例2:埼玉県SC公民館では施設内飲酒(乾杯程度 なら可)を禁止しているがコミュニティカフェ ではウィスキーや日本酒をメニューに出して いる。
このようにコミュニティカフェは公民館と は独立した独自のルールを持っている。コミュ ニティカフェが公民館とは独立した管理下に あるためである。同じように独自のルールを形 成する併設施設の例として集会室を併設して いる埼玉県Nセンターが挙げられる。外部から も直接で入りできる集会室は地域の自治会の 所有であり、利用制限も利用時間も公民館とは 異なっている。公民館が調理室以外飲食・飲酒 禁止(軽食可)を禁止しているのに対し、集会室 は飲食・飲酒ともに可能となっている。
6) 特殊な飲食交流
例:東京都MM公民館では、併設のショッピング センターで買い物を済ませた方(主に若い女 性)がよくコンビニ弁当を持ち込み休憩スペー スで飲食交流している。また給湯室からお湯を 持ち出しカップラーメンを用いて飲食交流し ていることもある。
公民館が併設施設利用者の休憩スペースと して機能している。こうした飲食交流は併設施 設のある公民館ならではの特徴的な飲食交流 であるといえる。
3.2 施設内飲食・飲酒禁止のルール形成 公民館が施設内飲食を禁止する主な理由は、
公民館は社会教育施設であり学習の場なので
施設内における飲食行為は相応しくないとい
うことである。その他の理由としては過去に飲
食物の食べこぼしや残り香がするとクレーム
があったからなどである。
飲食禁止とされる部屋にはいくつかの共通 点が見られる。一つには精密機械を有する部屋 である。食べこぼしが原因による機械の故障を 避けるためである。埼玉県M公民館のホールで は電動式の観客席を使用している場合のみ飲 食禁止としている。二つには体育館など体を動 かす活動を行う場である。食べこぼしから床が 濡れ滑って怪我する危険性があるため禁止し ている。三つには室内床仕上げがカーペットな どの汚れやすく清掃しにくい素材となってい る場合である。
しかしこのような床仕上げであるにも関わ らず施設内飲食を許可している施設もいくつ かある。これらの特例は、既に建物の老朽化が 進み汚れているため少しくらい汚れてもかま わないとする場合である。そういった意味では、
外部空間は絶好の飲食スペースに成り得る。
施設内飲酒については、公民館は公共の施設 であり他の利用者に迷惑をかけるというリス クを犯してまで許可する必要がないという理 由から禁止している公民館が殆どである。中に は、節度を守れば(乾杯程度なら)お酒もコミュ ニケーションを円滑に進める有効な手段であ る、以前からの流れで利用者もそれを望んでい るから、という考えの下に館内飲酒を許可して いる公民館もいくつかある。以前からの流れで 飲酒を許可している施設の例として、埼玉県I 館が挙げられる。I館は建物が老朽化から現在 の場所に小学校に併設移築された。当時小学校 と併設することから一部の住民より施設内飲 酒を禁止しようという声も挙がったが、前施設 からの利用者らの強い要望があり小学生の下 校後なら、という時間的制限を設け施設内飲酒 を許可している。
いずれにしても飲食・飲酒の許可・禁止を含 めた公民館における制限については館長のパ ーソナリティによるところが大きい。これにつ いては次章で報告する。
3.3 公民館のルール形成に影響を与える館長 のパーソナリティ
公民館の運営には館長のパーソナリティが 大きく関係している。というのは公民館におけ
る各種制限は市によって決められた大まかな ものの他、館長の裁量によって決定されている からである。
地域の問題を把握することを目的とした館 長始め職員らによる利用者に対する親密なコ ミュニケーションの働きかけは、地域住民に望 まれる公民館の性格形成に欠かせない作業で ある。現在、公民館の職員は公民館専任職とし て採用されることが少なくなり、殆どが市の一 般事務職員として採用されている。調査対象施 設の館長らが、任期が短く地域の問題を発見す ることができない、と言うように市の一般事務 職採用の職員の公民館任期は3年から5年程度 である。それに対し、いくつかの公民館では公 民館の職務についての知識や経験を持った社 会教育主事などの公民館専任の職員を数名置 いているところもある。またいくつかの公民館 館長は再任やОB制度によって再び公民館職 に就くこともある。
このような公民館における職務経験が比較 的長い館長らは住民同士の交流の増進活動に 熱心な傾向がある。例えば神奈川県HH公民館館 長は、利用者が日頃感じている悩みや問題を把 握するため定期的に飲食を伴う会合
注1)を開く などしてコミュニケーションをとろうと地域 に対し積極的に働きかけている。
また市の一般事務採用の職員で就任して日 の浅い館長ほどマニュアルに従った管理をせ ざるを得ず、利用者の利用を制限してしまう傾 向がある。こうした職員の前職は様々であるが 市の各課の中でも公民館の職務内容は異色で あり、職務に慣れるのには時間が必要である。
東京都KK公民館館長も、前職の税務課がスピー ドを求められる書面上の職務であるのに対し、
公民館では長い時間をかけて人とコミュニケ ーションを築いていくというような全く正反 対の職務であることに戸惑いを感じていたと 話していた。
3.4 公民館のルール形成と周辺施設との関係 周辺施設が公民館のルール形成に影響を与え る場合がある。
1) 周辺に飲食店を有する公民館の場合
周辺に飲食店が多くある千葉県T公民館では
写真2. ベンチとテーブルが設置された東京都C公民館の中庭
写真3. 東京都Bのサークル活動室で利用者が飲食交流している様子 写真1. 東京都MM公民館の食事スペースが設置された調理室
写真4. 東京都KK公民館の出入口付近にあるコミュニティカフェ
行事の際、飲食系の模擬店を出すことにより周 辺飲食店の客を奪ってしまう可能性が懸念さ れるため模擬店出店数を制限しているという。
併設の民間施設に居酒屋を有する東京都Bで は過去に酔っ払いが公民館内に入って問題を 起こすことがあったため飲酒に対する管理を 厳しくしている。
2) 周辺に集会所を多く有する公民館の場合 埼玉県NC公民館館長は、集会所が交流の場と して機能しているので公民館は学習活動に専 念すべきだとしているため、学習以外の活動で ある飲食行為に対する規制を厳しくしている。
3.5 死角となるスペースにおける飲食交流 入り口付近にあるオープンなロビーよりも 死角となる少し奥まった場にある休憩スペー スや予約なしで自由に出入りできる部屋の方 が飲食交流は盛んな傾向がある。
1) 休憩スペースにおける飲食交流の例
埼玉県KC公民館の2階図書休憩スペースでは、
書棚に囲まれ机とイス、自動販売機がありリラ ックスして飲食交流できる環境となっている ため、よく持込の弁当などにより飲食交流して いる利用者の姿を見るという。
2) 予約なしで自由に出入りできる部屋におけ る飲食交流の例
東京都KK公民館の団体利用室ではほぼ毎日 のように昼食などを3~4人のグループで飲食 交流しているという。東京都Bのサークル活動 室(写真3)では昼食時、公民館周辺で働いてい る人が昼食を取りに来たり、併設のコミュニテ ィカフェからの出前も週1以上で行われていた りするという。
これまで述べてきたことから飲食交流の生 起にはリラックスして交流できる環境づくり が関係しているのではないだろうか。東京都KK 民館の会議室で会議を行っていた主婦3人にコ ミュニティカフェ(写真4)の利用について聞い たところ、カフェは公民館の出入り口に近接し ているため入ってくる他の利用者の目が気に なりリラックスして食事や会話を楽しむこと ができないので利用したことがない、と話して いたことが前仮説を裏付けているとはいえな いだろうか。
昨年度のアンケート調査結果から、地域集会 所は公民館より飲食交流が盛んであることが わかった。今後、地域集会所についてもヒヤリ ング調査を行う予定である。
【注釈】
1) 東婦人会とかんらん交流会
明治頃から続いている婦人会の奥様方と若いお母さんのコミュニティグループ による交流会。2008年6月20日から始まり定期的に行われている。