学会印象記 第18回世界心身医学会議
著者 近喰 ふじ子
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 6
ページ 79‑82
発行年 2006
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010034/
学会印象記
第18回世界心身医学会議
(18th World Congress on Psychosomatic Medicine)
近 喰 ふじ子
東京家政大学文学部心理教育学科 教授
第18回世界心身医学会議が久保千春、久保木富 房両組織委員長のもとに2005年8月21〜26日ま での6日間を神戸で開催された。
私たちは、「EFFECTS OF COLLAGE THERAPY ON THE PSYCHOLOGYCAL ASPECTS AND THE SALIVA IgA」のポスター発表を25日に行なうこ とになっていた。しかし、大学院生に任せていた ボスタv−…原稿が21日になっても未だに完成して いなかったのだから、準備をちゃんとしてから出 かける私としては始めての状況に遭遇した。そん な状況にも関わらず神戸へ向った。初日の21日は 天皇陛下、美智子皇后の御出席の下に神戸ポート
ピアホテルで開会式がおこなわれた。参加登録の 受け付けの場所に行くと封筒をもらった。封筒に は番号とJapanと書かれており、封筒の中には座 席のブロック指定番号とレセプションの場所の紹 介を書いたA4版の1枚の紙が入っていた。参加 者は3グループ(赤、水色、緑)に別けられてい たようで、私と同伴者の佐藤理恵(東京家政大学 で私のゼミ生で卒業論文指導をした学生で卒業後 2年が経過していた)は赤グループであった。私 たちは他のグループとは別の入り口から厳重な審 査を受けた後に座席まで誘導された。紹介された 座席に座わり前方を見ると目の前に演壇が見えた。
そこからちょっと目を右にずらすと天皇陛下、美 智子皇后が座る場所と思える場所が見えた。「わあ、
こんなにも近くで天皇陛下と美智子皇后を見るこ とができるみたいだね!」と興奮して、隣の右に 座った佐藤さんに話しかけた。左隣の席には関西 医大小児科の石崎優子先生が座っていた(写真1)。
ところで、佐藤理恵は私の研究の一部を卒論にし たので、今回の発表でも当然、共同演者になって いた。同じく共同演者の東京家政大学大学院2年 生の上野久仁子は青グループ、深田光子は緑グル ープになっていた。開会式が終わると、レセプシ ョン会場に案内された。魚が氷の中で泳いでいる 置物が目に付いた。あわび、ホタテ、キャビアな
どおいしい物が並び、神戸牛ステーキが出来上が っていた。最初は食べる事に夢中になった。知っ ている先生たちにもお会いする事ができた。吾郷 晋浩御夫妻や日野原重明先生、白井幸子先生など にお目にかかり、話しに興じた。暫くすると、天 皇陛下と美智子皇后がこちらにいらっしゃるので、
周辺に移動するように、カメラをお持ちの方はお しまい下さいとマイクで知らされた。そこで初め て、会場内の報道人用の壇とカメラが用意されて いた理由が分った。お二人が入室されると、あっ という間に美智子皇后の周囲は何重にも人で囲ま れた。何を話しているのだろうと思い、傍に行っ たがなかなか声が聞こえないし、見る事も出来な かった。天皇陛下はどうしているのだろうと屏風 の方に目をやると、久保木富房先生と立ち話しを
近喰 ふじ子
されているお姿が見え、間もなく何処かに案内さ れたのか?いなくなっていた。私は聞こえない声
を求めて暫く立ち続けていた。美智子皇后は日本 人には日本語で、外国人とは英語で話している声 がかすかに聞こえていた。突然、自分の前がすっ ぽりと空いた。目の前には美智子皇后が立ってい た。私はとっさに日本の子どもと母親の現状を話 した。すると、美智子皇后は優しく、か細い声で
「これからも子どもとお母さんのためにご尽力し て下さい」と私の両手を温に取り、握られた。美 智子皇后の顔は驚くほど色白で美人であった。
神々しく輝き眩しかった。手は温かく、柔らかで 包まれるような気持ちになった。もう充分だった。
二度とない状況に出会い、ここに来られた事に感 謝をし、それだけで充分だと思った。
さあ、翌日の22日から学会が始まるのだと思い、
奮い立った。プログラムは8時〜17時までの間に、
Plenary session, Symposium, Oral session, Poster
session, Luncheon Seminarなど目白押しの内容が 詰まっていた。佐藤理恵、上野久仁子、深田光子 らと共に、会場に向う途中、国立精神神経センタ ーの小牧 元部長に呼び止められた。小牧先生か
ら 近喰さんにメールしたのに返事がなかったい いところで会った と言われ、傍で話し合ってい た外国人を紹介された。何と、その人はDr.
Christopher Fairburnで摂食障害の第一人者でイギ リス人の先生だと分った。天にも昇る心地で興奮 していた。彼はハンサムな男性で白い肌にややピ ンク色の両頬が印象的であった。彼は26日の8時 から 「EVIDENCE−BASED TREATMENT OF
EATING DISORDERS:PROBLEMS AND SOLUTIONS」
の講演のために神戸に来たのであった。今晩、Dr.
Fairburnと夕食をするんだけど来ないか?と国立 精神神経センター 心身医学部小牧 元部長にさ そわれた。学生と一緒に来ているから、学生も一
緒に参加してもいいですか?と懇願すると、ちょ っと考えてから、小牧先生は、まあ、いいか…
と言われ、今晩の7時に懐石料理のお店で合おう と場所と名前を書いた紙を手渡された。その余韻 を引きずって、学生たちと会場へ向った。Luncheon Seminarの時間だったので、私たちは「The diagnosis and treatment ofhypochondriasis」を聞きに言った。
その後、私は小牧先生の「NEUROIMAGEING
STUDY OF AFFECT REGULATION ANDCULTURE」の発表を聞きに行くために
aRAIN−BODY INTERACTIOns: REAL DAILY PHENOMENA OF PSYCHOSOMATIC MEDICINE のシンポジウムに、学生3人は国立精神神経セン
ター 心身医学部の安藤哲也先生の
「ASSOCIATION OF GHRELIN GENE LEU MET POLYMOROHISM WITH EATING DISORDER」の発 表を聞きに行った。それが終わると早々と、私た ちはこれから後のDr. Fairburnとの会食を楽しみ に、着替えをしにホテルへ帰った。会席料理「波 勢」に到着し、部屋に案内されふすまを開けると 中央にはDR. Fairburnが笑顔で、その左隣には小 牧元部長が、右隣には安藤哲也先生が座わり、
その周囲には九州大学心療内科の先生たちと国立
写真1
レセプション会場にて
中央は筆者、左は石崎優子先生(関西医科大学小児 科学教室)、左は佐藤理恵
精神神経センター 心身医学部の先生たちで埋め 尽くされていた。小牧元部長に手招きされて私 は小牧 元部長の左隣に、学生たちは安藤哲也先 生の右隣に座わり、嬉しくてこころは踊っていた
(写真2)。DR. Fairburnは自分たちグループが行 なっている摂食障害の状況と治療グループの話し をしたが、治療は認知行動療法のみでおこなって いると話し、自信家にみえた。イギリスの全土か
ら集めているのだから意味ある仕事なのだうと思 ったが、自分たちのやり方が一番だという自負し た言い方には憤慨を覚え、発症による文化の違い をどうみているのかと思った。どのような国の人 にも、どのような治療法を取っている人にも、摂 食障害研究者としての興味深い、あくなき探求の 意思が感じられてもいいのではないかとちょっと 残念に思い、やや失望を感じたのであった。とに かく、自分が摂食障害研究の第一人者なのだとい
う自信に満ち溢れていた。お目にかかって話して
写真2 Dr.Fairburnを囲んで
Dr.Fairburnの右は小牧元先生(国立精神神経センタ ー精神保健研究所心身医学研究部部長)、筆者、深
田光子(大学院修士課程2年)、左は安藤哲也先生
(国立精神神経センター心身医学研究部ストレス 研究室室長)、滝川信先生(九州大学病院心療内科
医局長)、その後ろは上野久仁子(大学院修士課程 2年)と佐藤理恵(「波勢」にて)
みるものだと痛切に感じた私は、むしろさっぱり とした気持ちで、何の余韻をも感ぜずに別れる事
ができた。
23日のLuncheon Seminarでは「Imaging Studies of the Brain Serotonergic and Dopaminergic Systems」
を聞いたが難度の高い内容で理解するのは困難で あった。発表者のDr. Mirko Diksicは次期会長の方 でパワ・一・・一・ポイントの最後に留学生名の一覧を載せ、
多くの日本人が自分の元に勉強にきている事を述 べていた。さらに、18時〜19時半までサイコセラ
ピー国際シンポジウムが日本大学板橋病院心療内 科の村上正人教授のもとで行なわれた。シンポジ ストは交流分析を専門としている先生方であり、
アメリカのSunanne Sylveste Wilsonのクライエン トのタイプ別で治療方法を選択するという考え方 は面白かったし、同じアメリカ人のShirley Jaeger の交流分析とEMDRを用いた治療実践は、明日に でも出来そうと思わせる内容で役に立つものであ
った。
翌日の24日は全く何もないfreeな一日だった。
Dr. Fairburnは京都に小牧 元部長たちと出かけ ていった。私たちは昨夜遅くに帰った佐藤理恵と 交代し、次回発表の参考のために東京家政大学大 学院1年生の吉村梢恵を駅まで迎えに行き、その
まま私たち4人は神戸湾に向かい神戸湾クルーズ を楽しんだ(写真3)。以前、神戸大学小児科教授 が会長で主催した日本小児科学会での懇親会の際 の事を思い出していた。神戸湾のクルーズでは音 楽と真紅の夕日が目にも鮮やかな残像に残り、若 かった自分を思い出していた。この日は神戸中を 歩き、ホテルで格安のランチを食べ、コーヒーの 発生の地であるコーヒー研究所(UCC)でコーヒ ーについての知識も入れた。明日の25日はいよい よ発表の日。ポスター原稿を作らなければと急遽、
ホテルへ引き返し、缶ビール片手に原稿作成に没
近喰 ふじ子
頭した。発表時間は17時45分〜19時と遅い時間 なので、「PSYCHO BIOLOGICAL ASPECTS OF EATING DISORDERS UP TO DATE」を聞き、
Luncheon Seminarでは「Neurobiological Development and Childhood Stress」の言舌しを興味深く聞いた。
自分の研究に充分に貢献する内容であった。さあ、
いよいよだ!と言い聞かせ、ポスター会場へ向っ た(写真4)。そこでは日本人の知り合いにも多く 出会い、安心できる場でもあった。私たちと同じ IgAに関する発表、「A new stress marker
chromogranin A in saliva:compared with cortisol
saliva」、 「STUDY OF THE RELATIONSHIP
BETWEEN STRESS−RELATED DISEASE AND
SALIVARY CHROMOGRANIN A LEVELS」など、刺激となった。
最後の日の26日にはDr. Fairburnの講演
「EVIDENCE−BASED TREATMENT OF EATING DISORDER PROBLEMS AND SOLUTIONS」を聞く ために、8時までに会場にっくように向った。急 いで行った割には話しの内容はすでに「波勢」で お聞きしていたものと重なっていた。その後、続 けて3人の先生の講演が終わると、ロビーで休息 の後に帰宅の途に着いた。多忙な中、慌てて向っ た神戸だったが、二度と出会えない出会いと思い
写真3
神戸湾クルーズの船上にて
左から上野久仁子、吉村梢、筆者、深田光子
出とを残して… 、国際会議は次回のオースト ラリアに引継がれたのであった。
写真4
ポスター原稿の前で
左から上野久仁子、深田光子、ポスターを挟んで