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竜巻等の突風による被害予測手法に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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17-1

竜巻等の突風による被害予測手法に関する研究

加藤 敢士 1. はじめに 近年、竜巻による突風被害が頻発1等)し、竜巻による 建物被害の軽減 2)が検討されるようになったが、竜巻 等の突風は局所的かつ突発的に発生し、気象学的にそ の発生を予測することは難しい。しかし、自治体の防災 対策や損害保険リスク算定の面から、ある地域を竜巻 等の突風が襲った場合の被害リスクを想定する必要が ある。著者ら3,4)は GIS を用いて竜巻経路を推定し、竜 巻被害域の建物密度を考慮した竜巻等の突風による建 物被害予測手法を検討してきた。 本論では、気象庁の竜巻等突風データベースの資料 をもとに建物や人に被害をもたらした突風等の竜巻の 発生分布の特徴を整理し、人的被害拡大要因および被 害領域での土地利用や建物密度と被害との関係を分析 し、建物および人的被害の予測手法を検討した。本報で は特に 2006 年に宮崎県延岡市で発生した竜巻被害に着 目して、被害予測検討領域の建物密度および竜巻の推 定風速から領域内の建物の被災面積を予測する手法に ついて述べる。また、検討した竜巻被害予測手法をつく ば市での竜巻被害事例に適用して、実際の被害状況と の比較をもとに被害予測精度の確認を行い、今後の竜 巻被害予測への利用可能性を検討する。 2. 延岡市竜巻の概要と建物被害の特徴 2006 年 9 月 17 日午後 2 時ごろ、宮崎県延岡市の海岸 に発生した竜巻は速度約 25m/s で北北西方向に移動し、 その被害範囲は長さ約 7.5km、幅 150〜300m、フジタス ケールは F2 と報告5)されている。住宅の強風被災度ラ ンク6)ごとの被害棟数を表 1 に示す。図 4 に被害分布を 示すが、被害帯の中心に被災度ランクの大きな建物が 分布し、川や山地などの建物の少ない領域には被害が あまり出ていない。 3. 建物被災面積の算出手順 3.1 竜巻経路の決定と被害領域の分割 建物被災面積の算出手順を図 1 に示す。竜巻経路の 推定には建物の被害分布とランキン渦モデルによる竜 巻の風速推定結果を利用する文献 4)の方法を用いた。 決定した竜巻中心経路を基準に、被害領域をグリッド 状に分割した。分割間隔は約 30m とし、竜巻の進行方 向が変化する地点では領域の面積が多少変化する。 3.2 グリッドの建物被災程度の算定 経路の推定に利用したランキン渦モデルをもとに、 グリッド位置での風速を推定し、低風速域(推定風速 30m/s 以下)と中間風速域(推定風速 30~50m/s)、高風 速域(推定風速 50m/s 以上)の 3 通りに分類した。グリ ッド内に存在する建物面積の合計をグリッド面積で除 した値を建物密度と定義する。 次に被災建物の分布図をもとに、グリッド内に位置 する建物の強風被災度ランクを整理し、建物被災面積 を算出する。表 1 より強風被災度ランクの一部では、 屋根の被災面積割合が示されているので、被災面積に おおよそ対応するように、被災度ランク 1 では 0.1、ラ ンク 2 が 0.3、ランク 3 が 0.5、ランク 4 が 0.7、ランク 5 が 1.0 の係数を定めた。被災していない建物の係数は 0 となり、以下では考慮しない。グリッド内の各建物面 積に被災度ランクに基づく係数を乗じ、グリッド内の 建物数に対して総和を求めて被災建物面積を算出した。 表 1 強風被災度ランクごとの延岡市竜巻での建物被害棟数 図 1 建物被災面積の算出手順 竜巻経路の推定 被害領域をグリッドに分割(約30m×30m) グリッドごとに ・風速の推定 ⇒3分割 推定風速および建物密度ごとに ・建物被災程度別のグリッド数を算出 ・建物密度の算出 ⇒3分割 ・建物被災面積を予測 ・建物被災面積の算出 ⇒5分割 ・建物被災程度の頻度分布を求める ⇒建物被災程度別の発生確率を算出 建物密度: :グリッド面積 建物被災面積: :建物ごとの 被災度ランクの係数 :被災程度ごとの発生確率 :被災程度の係数 内の建物数 予測建物被災面積:

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17-2 図 2(a)~(c)に各風速域での建物密度と被災面積の割 合との関係を示す。建物密度が増加するに伴い、被災面 積の割合が減少する傾向があることから、建物密度は 0 ~20%、20~40%、40%より大きい範囲の 3 通りに分 類して、それぞれの建物密度での建物被災面積を算定 した。ここで、建物被災面積の割合を 0~10%、10~30%、 30~50%、50~70%、70~100%の 5 通りに分類し、被 災程度 1 から 5 と定義した。ただし、建物被災面積が 0 のものは検討から除いた。つまり、被害領域内の全グリ ッドを、風速域(3 分割)および建物密度(3 分割)ご とに分類し、それぞれの領域の被災程度(5 分割)を求 めた。風速域および建物密度ごとに、被災程度 1 から 5 のグリッド数を集計し、図 3(a)~(i)にその頻度分布を示 す。ここでは住宅のみに着目し、被害形態が異なる工場 や商業施設、病院や学校等を含むグリッドは検討して いない。この頻度分布に正規分布の確率密度関数に当 てはめて、被災程度ごとの発生確率を算出した7) 図 3(a)~(i)の右側の第 2 縦軸には各風速および建物 密度の集計数全体に占める各被災程度の割合と正規分 布から算出した確率を示す。図 3(a)~(f)に示す低風速域 と中間風速域では、被災程度 1 と 2 で実際の被災程度 ごとの発生割合と算出した確率との間に相違がみられ る。特に低風速域の建物密度が 0~20%と 40%~の範 囲では違いが大きい。高風速域では、建物密度によらず 実際の被災程度ごとの発生割合と算出した確率がある 程度一致していた。低速域の被災程度が低い領域の予 測には課題が残るが、以降では正規分布から算出した 確率を用いて建物の被災面積の予測を行った。 3.3 予測建物被災面積と実際の被災状況との比較 各グリッドの建物密度と推定風速が分かれば、該当 する被災程度 1 から 5 の発生確率をグリッド内の建物 面積合計に乗じることで、そのグリッドで予測される 被災面積を算出できる。被災程度 1 の被災面積は 10% 以下なので被災程度に応じた係数を 0.1 とし、建物面積 3 12 22 2 2 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 5 10 15 20 25 1 2 3 4 5 集計数 算出した確立 全体に占める 割合 21 51 59 12 2 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0 10 20 30 40 50 60 70 1 2 3 4 5 集計数 算出した確立 全体に占める 割合 18 46 43 18 9 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0 10 20 30 40 50 1 2 3 4 5 集計数 算出した確立 全体に占め る割合 17 15 7 2 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0 5 10 15 20 1 2 3 4 5 集計数 算出した確立 全体に占める割合 52 34 26 13 1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0 10 20 30 40 50 60 1 2 3 4 5 集計数 算出した確立 全体に占める割合 30 29 13 12 1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0 5 10 15 20 25 30 35 1 2 3 4 5 集計数 算出した確立 全体に占める割合 5 1 1 0 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 0 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 集計数 算出した確立 全体に占める割合 7 7 4 3 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0 2 4 6 8 1 2 3 4 5 集計数 算出した確立 全体に占める割合 11 2 1 1 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 0 2 4 6 8 10 12 1 2 3 4 5 集計数 算出した確立 全体に占める割合 (h)高風速域の建物密度 20~40%の範囲 確率 グリッド 数 被災程度 (d)中間風速域の建物密度 0~20%の範囲 グリッド 数 確率 被災程度 確率 (e)中間風速域の建物密度 20~40%の範囲 グリッド 数 被災程度 (f)中間風速域の建物密度 40%~の範囲 グリッド 数 確率 被災程度 図 3 被災程度ごとの集計数と全体に占める割合、算出した確立 (a)低風速域の建物密度 0~20%の範囲 被災程度 グリッド 数 確率 (b)低風速域の建物密度 20~40%の範囲 グリッド 数 確率 被災程度 (c)低風速域の建物密度 40%~の範囲 グリッド 数 確率 被災程度 (g)高風速域の建物密度 0~20%の範囲 グリッド 数 確率 被災程度 (i)高風速域の建物密度 40%~の範囲 グリッド 数 確率 被災程度 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 図 2 建物密度と建物被災面積の割合 (a)低風速域 (b)中間風速域 (c)高風速域 被災面積 割合 被災面積 割合 被災面積 割合 建物密度 建物密度

建物密度

(3)

17-3 に係数を乗じて、予測被災面積を算出する。同様に被災 程度に応じて、被災程度 2 では 0.3、程度 3 は 0.5、程 度 4 は 0.7、程度 5 は 1.0 の係数を乗じた。図 4 の実際 の被害分布図に算出した被災面積の大小で色分けした 建物被災面積予測マップを重ね合わせる。被害が集中 し、強風被災度ランクが高い建物の多い竜巻経路付近 の領域での被災面積は高く予測されているが、竜巻経 路の右側 150~210m と左側 60~90m の低風速域では、 被害が発生していないにも関わらず大きな被災面積が 予測されている領域がある。図 5 に各グリッドでの予 測建物被災面積と実際の被害から算出した被災面積と の関係を示す。すべての風速域で、実際の被災面積が 0 ㎡でも予測値が 0 でないものがみられるが、本論の予 測手法では、グリッド内に建物が存在すれば予測被害 面積が 0 にならないためである。無被害の領域を予測 に考慮していないため、無被害の領域が多い低風速域 では、実際の被災面積よりも予測被災面積が非常に大 きい値で算出された。しかしながら、無被害の領域が少 ない高風速域では、予測被災面積と実際の被災面積が 比較的良く対応した。無被害の領域を予測値に反映さ せるとともに低風速域での領域被災程度の発生確率を 正確に算定できれば、予測精度は改善すると考えられ る。 4. つくば市竜巻での建物被災面積の予測 前節で、延岡市竜巻の建物被害から算出した被災程 度ごとの発生確率を用いて、茨城県つくば市で発生し た竜巻による建物被災面積を予測する。 2012 年 5 月 6 日 12 時 35 分ごろ、茨城県常総市から つくば市にかけて竜巻が発生した。この竜巻の移動速 度は約 15m/s、被害範囲は長さ約 17km、最大幅約 500m、 フジタスケール F3 程度と報告1)されており、コア半径 (最大接線風速に対応する半径)と最大接線風速はそ れぞれ約 35m、70m/s と推定されている。この竜巻では 漏斗雲の目撃情報や動画等からその経路がほぼ特定さ れているので、その情報をもとに被害領域を約 30m 四 方に分割した。風速分布は文献 4)と同様にランキン渦 に従うモデルで算出した。図 6 に推定される風速分布 0 50 100 150 200 0 50 100 150 200 予測被災面積(㎡) 実際の被災面積(㎡) 0 50 100 150 200 250 300 0 50 100 150 200 250 300 予測被災面積(㎡) 実際の被災面積(㎡) 0 50 100 150 200 250 300 350 0 50 100 150 200 250 300 350 予測被災面積(㎡) 実際の被災面積(㎡) 図 5 延岡市竜巻の予測被災面積と実際の被災面積との関係 (a)低風速域 (b)中間風速域 (c)高風速域 図 4 延岡市竜巻の被害分布と建物被災面積予測マップ

(4)

17-4 を示す。図 6 から竜巻の中心経路から右側 0~60mと左 側 0~30mの範囲を高風速域、右側 60~90mと左側 30 ~60mの範囲を中間風速域、右側 90~210mと左側 60 ~180mの範囲を低風速域とする。前節の方法でグリッ ドごとに建物密度を求めた。本論では、竜巻の被害域の 中でも被害が大きかったつくば市北条地区を対象とし た。グリッドの推定風速と建物密度に対応する、前節の 被災程度ごとの発生確率を用いて、つくば市竜巻の各 グリッドでの建物被災面積を予測した。図 7 に予測被 災面積を実際の被害分布図と重ね合わせる。延岡市竜 巻と同様に、高風速域では大きな被害面積が予測され ているが、低風速域でも建物が密集する領域で被災面 積が大きく予測される領域がみられた。図 8 に各グリ ッドでの予測被災面積と実際の被災面積との関係を示 す。つくば市竜巻の高風速域では、無被害の領域が少な かったため、予測と実際の被害が良く対応した。しかし、 低風速域での対応は良くない。本論の手法による被害 予測は安全側の値ではあるが、低風速域での無被害領 域の影響を考慮すれば、より精度の高い被害面積予測 が可能であると考えられる。 5. まとめ 本論では竜巻等の突風データベースから被害を生じ させる突風の特徴を把握し、建物および人的被害を予 測する手法を検討した。特に建物被害面積の予測手法 に着目した場合、以下のことが分かった。 (1) 延岡市竜巻の被害をもとに、正規分布の確率密度 関数を用いて算出した被災程度ごとの発生確率は、 低風速域では実際の発生割合と相違がみられたが、 高風速域ではおおむね一致した。 (2) 延岡市竜巻の建物予測被災面積と実際の被災面積 を比較したところ、高風速域ではよく対応したが、 無被害領域の多い低風速域では、予測被災面積が 大きく見積もられた。 (3) 延岡市竜巻の被害に基づく建物被災程度の発生確 率を利用して、つくば市竜巻での建物被災面積を 予測したところ、低風速域での対応は良くなかっ たが、高風速域では予測値と実際の被害とが定性 的に一致した。 以上のことから、一つの竜巻による建物被害事例か ら正規分布の確率密度関数を利用して建物被災面積を 予測する本手法の有用性が確認されたが、無被害領域 の影響を考慮するとともに低風速域での領域被災程度 の発生確率の推定手法を検討することで予測精度は向 上すると考えられる。 参考文献 (1) 平成 24 年度文部科学省科学研究費補助金特別研究促進費 24900001 代表:前田潤滋,平成 24 年 5 月 6 日に北関東で 発生した竜巻の発生メカニズムと被害実態の総合調査, 2013. (2) 喜々津:建築物の竜巻被害軽減に向けた研究と課題,平成 25 年度建築研究所講演会資料. (3) 加藤,友清,前田:2006 年に延岡市で発生した竜巻の突風 による建物被害棟数と建物密度との関係,日本建築学会大 会学術講演梗概集,pp. 149-150,2016.8. (4) 友清,加藤,前田:GIS を用いた竜巻による建物被害の分析 その 2 建物規模および推定風速と被害程度との関係,日本 建築学会大会学術講演梗概集,pp. 153-154,2015.9. (5) 日本風工学会,風災害研究会:2006 年台風 13 号および同年 11 月 7 日に北海道佐呂間町で発生した竜巻による強風災害 に関する調査報告書,pp. 71-96,2007.10. (6) 奥田,喜々津,西村:強風被災度ランク,第 19 回風工学シ ンポジウム論文集,pp. 223-228,2006.12. (7) 野村由司彦著:図解 確率・統計入門,コロナ社,2004.10. 図 7 つくば市竜巻の被害分布と建物被災面積予測マップ 図 6 つくば市竜巻の風速分布図 0 20 40 60 80 100 -180-150-120 -90 -60 -30 0 30 60 90 120 150 180 210 左側 竜巻経路からの距離 右側 推定風速 0 50 100 150 200 0 50 100 150 200 予測被災面積(㎡) 実際の被災面積(㎡) 0 50 100 150 200 0 50 100 150 200 予測被災面積(㎡) 実際の被災面積(㎡) 0 50 100 150 200 250 300 350 0 50 100 150 200 250 300 350 予測被災面積(㎡) 実際の被災面積(㎡) 図 8 つくば市竜巻の予測被災面積と実際の被災面積との関係 (a)低風速域 (b)中間風速域 (c)高風速域

参照

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