連立共鳴器による低音域用吸音構造
川上 徹晃 1. はじめに 近年,一般家庭にもシアタールームやリスニングルー ムが普及しつつある。このような小空間では低音域に おいてブーミングなどの音響障害が発生しやすい。そ れを防止するためには低音域の吸音が必要となる。多 孔質材で低音域を吸音するには大きな背後空気層を設 ける必要があり,小空間では空間を圧迫してしまう。そ こで,当研究室ではヘルムホルツ共鳴器に着目し,低 音を広帯域で吸音できる薄型共鳴器について検討して いる。これまで,共鳴器の頸部を胴部内に延長するこ とで薄さを保ったまま低音域を吸音する手法と,単一 共鳴器を複数設置することで吸音域を広帯域化する手 法を検討し,厚み 22 mm で 125∼300 Hz の帯域に優れ た吸音性能を持つ吸音構造を提示した。しかし,125∼ 300 Hz においても吸音率の落ち込みが生じること,こ の帯域以外の吸音率が小さいという課題が残った。 実用的な吸音パネルには,低音全域で均一な吸音性 能が求められる。そこで,本研究では小空間に適用す る薄型低音域用吸音構造の開発のため,吸音域の広帯 域化と吸音率の均一化の手法について検討する。複合 共鳴器に代わる手法として,連立共鳴器 (共鳴器内部に 共鳴器を設ける) とその形状及び共鳴器内部に設置する 多孔質材が吸音特性に与える影響の検討を行った。 2. 連立共鳴器の吸音特性 2.1 連立共鳴器の基本形状図-1 に示す 4 種類 (Type A,Type B,Type C,Type D) の共鳴器を基本形状とし検討を行った。なお,共鳴 器内部には単位面積流れ抵抗 σ が 7,680 N·s/m4(密度 24 kg/m3のグラスウールに相当,以下 GW24K と表 記) の多孔質材を設置した。 2.2 解析音場 解析には時間領域差分法 FDTDM1)を用いた。図-2 に示す音響管を模した音場を想定し, 音場の左端部に吸 音構造を設け,“Sound Source” の位置で平面波を初期 音圧として与え,“Recieve Point”(16 点) で得られる音 圧から吸音率を算出した。計算条件は,解析周波数を 考慮して,空間離散幅 2 mm,時間離散幅 0.001 ms と し,無反射端には Adaptive PML2)を設定した。 2.3 FDTDM による解析の有効性検証 FDTDM による連立共鳴器の吸音特性解析の有効性 を確認するため,数値解析で求めた垂直入射吸音率 α0 を音響管 (B&K Type 4206) を用いた実測結果と比較し た。測定に使用した共鳴器を図-3 に示す。共鳴器の剛 壁部は天然ゴム板とアクリル板を用いて製作した。ま た,共鳴器内部に設置する多孔質材は密度 24 kg/m3の グラスウールを用いた。 GW GW 154 68 10 68 8 64 6 32 26 12 8 44 64 12 26 26 GW 150 50 100 100 12 44 44 100 12 44 44 Type A Type B Type C GW 60 10 70 12 44 44 100 12 78 90 GW GW 60 26 10 26 8 64 6 32 26 12 8 44 64 12 26 26 Type D 図-1 共鳴器の基本形状 (単位:mm) Adaptive PML Sound Source Receive Point
Helmholz 200 250 250 1600 2300 20 100 20 20 20 20 20 100 20 20 20 20 Resonator 図-2 解析音場 (単位:mm) 図-3 測定器の概要 39-1
63 125 250 500 1000 Frequency [Hz] α0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 63 125 250 500 1000 Frequency [Hz] Analysis Measured Analysis Measured Type A Type B 図-4 解析値と実測値の比較 結果を図-4 に示す。解析値と実測値は,値は異なる ものの 2 つの共鳴周波数の山の位置は一致している。 以上から,FDTDM によって連立共鳴器の形状およ び多孔質材の配置と σ の変化が吸音特性に与える影響 が捉えられるものと考えられる。 3. 共鳴器の形状が吸音特性に与える影響 3.1 共鳴器の連立化 吸音域の広帯域化のため複数の共鳴器の組み合わせ 方について,図-5 に示す 3 つの共鳴器を用いて検討し た。なお,Case 2 と Case 3 の共鳴器は開孔部位置以 外は同じである。 結果を図-6 に示す。結果から共鳴器の組み合わせ方 で吸音特性が変化していることがわかる。共鳴周波数 の山の数をみると,単一共鳴器 (Case 1) は 1 つの山 しかみられないが,並列共鳴器 (Case 2) と連立共鳴器 (Case 3) は 2 つの山が出現している。また,共鳴周波 数は Case 2 と比べて Case 3 の方がより低音・高音域 側になっている。 以上から,単一共鳴器の組み合わせ方によって吸音 特性は変化すること,共鳴器を連立することによって 吸音域を広帯域化できることが示唆された。 3.2 3 段の連立共鳴器 3.1 より連立共鳴器の有効性が示された。そこで,更 なる吸音域の広帯域化には共鳴器の連立数を増加させ, 共鳴周波数を増やす手法が有効ではないかと考え,図-7 に示す 3 段の連立共鳴器の吸音特性について検討した。 結果を図-8 に示す。図から 3 段の連立共鳴器によっ て共鳴周波数が増加していることがわかる。第 3 共鳴 器を第 1 共鳴器背後に設けたもの (Case 5) では,共鳴 周波数の山は 3 個出現している。また,実測値の吸音 率は共鳴周波数間で落ち込みはあるものの,830 Hz 付 近まで 0.2 以上となっており,吸音域が広帯域化して いる。しかし,第 3 共鳴器を第 2 共鳴器背後に設けた もの (Case 4) をみると解析値と実測値ともに共鳴周波 数の山が 2 個しか出現していない。これは,第 3 共鳴 器が十分に機能していないためではないかと考えられ る。そこで,原因を探るため共鳴器内部の粒子速度を 算出してみた。 結果を図-9 に示す。図は図-7 に破線で示す第 3 共鳴 器の開孔部付近を拡大したもので,値は,吸音率の算 出と同じ解析時間 50 ms の粒子速度について絶対値の GW 20 40 60 10 70 12 28 10 GW 90 12 28 40 40 GW 20 40 60 10 70 12 78 90 GW GW 20 40 60 10 70 12 28 10 90 20 20 40 40 12 48
Case 1 Case 2 Case 3
図-5 組み合わせ方の異なる共鳴器 (単位:mm)
α
図-6 組み合わせ方による吸音特性の変化 GW GW 154 10 66 66 12 64 6 32 26 12 8 44 GW 100 6 38 8 9 9 64 12 26 26 図 -11 の表示範囲 Case 4 GW 154 10 60 78 6 64 6 32 26 12 8 44 GW 12 8 40 8 9 9 24 60 64 12 26 26 GW Case 5 図-7 3 段連立共鳴器 (単位:mm) 63 125 250 500 1000 Frequency [Hz] Case 5 Case 4 α0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 63 125 250 500 1000 Frequency [Hz] Case 5 Case 4 解析値 実測値 図-8 連立形状による吸音特性の変化 39-2Depth H ei g ht Depth H ei g ht 0.000 0.005 0.010 0.015 0.020 0.025 Case 4 Case 5 図-9 開孔部付近の粒子速度 (第 3 共鳴器開孔部) 0.0000 0.0001 0.0002 0.0003 0.0004 0.0005 図-10 共鳴器内部の粒子速 度 :多孔質材 10 図-11 開孔部終端に設 置する多孔質材 和の平方根を算出したものであり,赤色に近いほど値 が大きいことを示している。図から,第 3 共鳴器を第 2 共鳴器背後に設けたもの (Case 4) は,第 3 共鳴器を第 1 共鳴器背後に設けたもの (Case 5) より粒子速度が小 さいことがわかる。すなわち,Case 4 では,第 3 共鳴 器へ伝搬する音響エネルギーが小さく,その結果,第 3 共鳴器の働きが小さくなったものと考えられる。 以上のように,連立共鳴器を多段化することで吸音 域の広帯域化が可能であるが,共鳴器の形状に留意す る必要があることがわかった。 4. 共鳴器内部に設置する多孔質材の影響 4.1 共鳴器内部の粒子速度分布 多孔質材による吸音は,入射した音のエネルギーが 細孔中の周壁との摩擦によって熱エネルギーに変換さ れることによって生じるもので,粒子速度が大きいほ ど吸音効果は大きい3)。すなわち,共鳴器内部の粒子 速度が大きい箇所に多孔質材を設置することが吸音率 の向上に繋がると考えられる。そこで,Type D の共 鳴器内部の粒子速度について調べた。 結果を図-10 に示す。値は図-9 と同条件で算出して いる。共鳴器全体をみると,粒子速度は開孔部付近,と りわけ開孔部の両端で大きくなることがわかる。 したがって,多孔質材を開孔部の両端付近に設置す ることが吸音率の向上に繋がると推察される。 4.2 多孔質材の設置と流れ抵抗 粒 子 速 度 の 大 き い 箇 所 に 多 孔 質 材 を 設 置 し た と きの吸音特性への影響を調べるために,図-11 に示 すように,開孔部終端に厚み 10 mm の多孔質材を 設置し検討を行った。また,多孔質材の流れ抵抗が 異 な る こと で 共鳴 器内 部へ の音 響入 射が変 化 し吸 音特性が変わるのではないかと考え,多孔質材の σ を,0 N·s/m4(設 置 し な い),6,093 N·s/m4(GW16K),