歴史文化観光を目的とする日本人国内観光者の観光動機
Tourist Motivations for Historical and Cultural Travel in Japanese Domestic Tourists
松永 佳澄*、井手 拓郎** MATSUNAGA Kasumi *, IDE Takuro **
観光活動の1 つとして、寺社仏閣や遺産史跡など歴史文化資源を訪れる歴史文化観光がある。なぜ、日本人国 内観光者は歴史文化観光に行くのだろうか。本研究は、歴史文化観光を目的とする日本人国内観光者の観光動 機の構造を明らかにした。既往の観光動機に関する尺度を用いて、鎌倉市および名古屋市において日本人国内 観光者を対象に質問紙調査を行い、因子分析によって観光動機の因子構造を検討した。その結果、「現地交流」 「日常からの変化」「偶発性」「文化見聞」の4 因子で、歴史文化観光を目的とする日本人国内観光者の動機は構 成されていた。
キーワード:観光動機(tourist motivation)、歴史文化観光(historical and cultural travel)、歴史文化資 源(historical and cultural resources)、日本人国内観光者(japanese domestic tourist) 1.研究の背景と目的 近年、様々な余暇活動が存在するがその1 つに観 光旅行がある。岡本(2014)は観光行動について「日 本人の重要なレジャー活動になっている」と述べて いる1)。『レジャー白書2018』 2)では、国内観光旅行 への参加人口は年間約 5,240 万人であり、余暇活動 種目の中で参加人口第1 位であると発表されている。 このように観光旅行は日本人の生活の中に定着して いる。 観光活動には、都市観光や自然観光など多数の活 動が存在する。その1 つとして歴史文化観光が挙げ られる。『旅行年報2018』 3)の調査では、日本人国内 旅行者9,692 名のうち 30.2%(複数回答)が現地活 動の1 つとして「歴史・文化的な名所の訪問」を選 んでいる。この結果からわかるように歴史文化観光 は、観光活動として一定の支持を得ている。また歴 史文化資源は、歴史を題材としたテレビドラマやア ニメなどの舞台になることもあり、その影響から一 時的に注目される場合がある。例えば、NHK 大河ド ラマの放送により、利用者数が増加した上田城跡が ある。長野県上田市に位置する上田城跡は、大河ド ラマ「真田丸」の主人公・真田幸村ゆかりの地であ る。上田城跡の2015 年の延べ利用者数は約 215 万人 であったが、「真田丸」が放送された2016 年は約 350 万人に増加した4)。 なぜ、これほど歴史文化観光に日本人国内観光者 は行くのか。観光動機一般についての研究はこれま でにも多数なされてきたが、歴史文化観光を目的と する日本人国内観光者の観光動機に関する研究は見 当たらない。そこで本研究の目的は、歴史文化観光 を目的とする日本人国内観光者の観光動機の構造を 明らかにすることである。 なお本研究においては、寺社仏閣・教会・城郭や 城跡などの建造物、古墳・貝塚などの遺産史跡、伝 統的建造物が残る町並みや城下町、絵画や彫刻など の美術工芸品、古くから伝わる民謡やおどり等の年 中行事、を歴史文化資源5)、6)とし、それらの資源を 観光対象とする観光活動を歴史文化観光とする。 2.既往研究の状況と本研究の特徴 佐々木(2000)は既往の旅行者モチベーションに 関する研究を手がかりに、次の5 つの行動タイプを 想定した7)。「緊張解消」「娯楽追及」「関係強化」「知 識増進」「自己拡大」である。これを佐々木(2007) では、観光旅行の動機として示している8)。 観光動機一般に関する研究だけでなく、特定の観 光活動に焦点をあてた研究もなされている。小林 (1993)は登山動機に着目し、因子分析を通じて「心 の安らぎと自然体験欲求」「自己実現欲求」「ストレ スの解放と孤独欲求」「冒険的欲求」「友人との交流 *杏林大学外国語学部観光交流文化学科学部生、**杏林大学外国語学部観光交流文化学科 研究ノート [観光研究]2019. 3 / Vol. 30 / No.2 日本観光研究学会機関誌
Journal of Japan Institute of Tourism Research The Tourism Studies, 2019. 3/Vol. 30/No.2 PP. 53~58
欲求」「家族同士の交流欲求」という因子を明らかに した9)。登山動機については岡本・藤原(2015)も 検討しており、登山理由の自由記述回答を「自然発 生」「精神的充実」「自然との関わり希求」「懐古・取 り戻し」「他者からの影響」「身体づくり」の6 つに 分類した10)。西尾・岡本・石盛(2013)は、スポー ツ・ツーリズムの視点からホノルルマラソン参加者 を対象に調査を行い、彼らの観光動機として「日常 以外の経験」「リラックス」「文化習得」「ショッピン グ・グルメ」「家族・友人との交流」という因子を明 らかにした11)。 小口・八城(2003)は大学生を対象にグリーン・ ツーリズムへの参加動機を調査し、因子分析によっ て男女それぞれの動機の因子構造を明らかにし た12)。男子大学生については、「好奇心」「開放感希 求」「単純接触性」が抽出された。一方、女子学生に ついては、「非日常性」「環境配慮」「田舎生活への関 心」「新奇性」が抽出された。杉本・飯塚(2012)は 農村観光への観光動機に着目し、長野県安曇野市へ の観光客に対して調査を行い、自己組織化マップに よって分析した13)。その結果、初来訪客・再来訪客 ともに、安曇野の自然景観や農村景観に出会うこと での癒しを求めていることが明らかになった。 林・藤原(2008)は日本人海外旅行者を対象に調 査を行い、観光動機の構造を検討した14)。因子分 析の結果、「刺激性」「文化見聞」「現地交流」「健康 回復」「自然体感」「意外性」「自己拡大」という 7 因子構造が明らかになった。この尺度を用いて吉川 (2012)は、大学生の海外旅行についての観光動機 を調査・分析した15)。その結果、下位尺度の得点 は、林・藤原(2008)で示された数値と近似した傾 向であった、と吉川(2012)は述べている。 以上の通り、日本人観光者の観光動機に関する研 究は、これまでにも多数なされてきた。しかし、歴 史文化観光を目的とする日本人観光者に焦点をあて た観光動機の研究はなされていない。この点に取り 組むことが、本研究の特徴である。また観光動機の 分析を踏まえて、歴史文化資源を有する観光地や、 歴史文化観光を商品とする旅行会社へ、今後の示唆 を提供する。すなわち、実践的観点からも本研究は 意義があると考えられる。 3.研究の方法 本研究では日本国内の2 か所の観光地において、 日本人国内観光者を対象に質問紙調査を行った。調 査対象および調査項目は、以下の通りである。 (1)調査対象 本研究では、鎌倉市と名古屋市を調査対象地とし た。鎌倉市を選定したのは、塩谷(2015)の調査 6) において、歴史文化観光地への訪問経験の中で訪問 率が最も高かったためである。今回は、歴史文化観 光者が多いと考えられる鎌倉大仏殿高徳院にて調査 を行った。また、関東圏外での歴史文化観光を目的 とする日本人国内観光者における観光動機について も、調査する必要があると考えた。そのため、中部 地域で最大の都市である名古屋市を調査対象地とし た。実際の調査地としては、2009 年から行われてい た本丸御殿の復元工事が終了し、2018 年 6 月 8 日に 完成・公開された名古屋城を選定した。 調査対象者は、調査対象地を訪れた日本人国内観 光者であり、インターセプト法(1)を用いて 302(鎌 倉211 件、名古屋 91 件)のサンプルを収集した。調 査対象地によってサンプル数の偏りは出たが、本研 究では対象地ごとの分析は行わず合算して取り扱う ため、この偏りは問題ないと判断した。その後、尺 度項目において無回答が 10 項目以上ある調査票を 除き、297 のサンプルを有効回答とした(有効回答 率98.3%)。 (2)調査項目 歴史文化観光を目的とする日本人国内観光者の 観光動機を明らかにするため、林・藤原(2008)で 整理された観光動機に関する尺度項目16)を参考に、 本研究で用いる尺度項目を作成した。林・藤原(2008) の尺度項目16)は日本人海外旅行者に対応した項目 であるため、日本人国内観光者に対応した尺度項目 になるよう、変更を施した(表-1)。例えば、「日 本にはない文化や風習に触れたい」という項目を、 「日常生活では触れない文化や風習に触れたい」と いうように変更した。以上の項目について、5 件法 (「1. 全く当てはまらない」~「5. とてもよく当て はまる」)で回答を求めた。 また分析をする際、調査対象者が歴史文化観光を 目的とする観光者であるかを選別するために、観光 タイプを単一回答形式で尋ねた。この調査項目にお ける選択項目は、鎌倉大仏殿高徳院の場合は「自然
観光」や「海洋観光」など、名古屋城の場合は「産 業観光」や「テーマパーク」などというように、調 査対象地周辺で行うことができる観光タイプで構成 した。以上の他に回答者の基本情報として、性別・ 年代・職業・同行者を設定した。 4.調査結果 (1)回答者の属性 本研究の目的に即し、回答データの中から「歴史 文化観光」を目的とした観光者のデータ(156 サン プル)を、以降の分析に用いる。なお、「歴史文化観 光」を選択した回答者は全体の約53%であった。 表-2 に、観光タイプで「歴史文化観光」を選択 した回答者の属性を示す。回答者の性別は「男性」 が31.4%、「女性」が 68.6%であった。回答者の年代 は「20 歳代」が 28.2%であり、次いで「40 歳代」が 24.4%であった。職業は「会社員」が 49.4%で最も 多く、次いで「主婦」が17.3%であった。同行者は 「友人」が最も多く(23.9%)、次いで「カップル」 が18.7%であった。 (2)因子分析 本研究で作成した観光動機尺度について、SPSS Statistics version 21 を用いて因子分析を行った。抽出 法は母集団まで結果を拡張し一般化する場合に用い られ、かつ適合度の検定が可能な最尤法17)を選択し、 因子間に相関があることを仮定してプロマックス回 転18)によって分析した。適合度はカイ2 乗値で表さ れる。これは「モデルがデータに適合している」こ とを帰無仮説としており、棄却されれば「モデルが データに適合していない」ということになる。共通 性.16 以上、因子負荷量.40 以上を基準に項目の取捨 選択を行った19)。また、1 つの項目が複数の因子に 高い負荷量(.30)を示す場合、その項目は削除した。 分析の結果、4 因子が抽出された(表-3)。各因 子の固有値は1 以上であり、回転前の 4 因子で 14 項目の全分散を説明する割合は58.0%であった。カ イ 2 乗による適合度検定の結果、有意確率.086 で あった。したがって「モデルがデータに適合してい 表-1 歴史文化観光を目的とする日本人国内 観光者の観光動機尺度 1 日常とは違う新しい経験をしてみたい 5 旅先では、ドキドキするような興奮を感じたい 8 生活に変化を与えるために国内観光へ行きたい 12 国内観光をすることで、決まりきった生活から抜け出したい 16 同じ環境ばかりだと退屈なので、国内観光へ行きたい 20 旅先では目新しくて変化に富んだことをしてみたい 24 日常生活では触れない文化や風習に触れたい 2 有名な建造物や神社・寺院を見てまわりたい 9 美術館や博物館で芸術品を見てまわりたい 17 その地の歴史や伝統についてよく知りたい 25 その地の芸能(音楽・演劇・踊り)を見聞きしたい 3 観光先の人たちと仲良くなりたい 10 観光先の人たちと話したい 18 他の地からやってきた観光客たちと仲良くなりたい 26 観光先の人たちの暮らしぶりに触れたい 11 日頃の生活でたまったストレスを解消したい 19 日頃の生活で疲れた心身を癒したい 27 日頃の生活を忘れて、思いきり羽を伸ばしたい 4 スケールの大きな自然を体感したい 13 野山を散策して、身近に自然を感じたい 21 空気や水の美しさを感じたい 28 観光先にしかない植物や動物を見たい 観光先では、はっきりとした目的地を決めず、流れに身を まかせたい 14 行き当たりばったりの観光がしたい 22 しっかりと日程や計画を立てて国内観光をしたい 29 自分の思うとおり自由気ままに過ごしたい 7 価値観や人生観を変えるきっかけにしたい 15 自分自身を見つめなおしたい 23 いつもの自分とは違った新たな一面を発見したい 30 自分が成長できるような経験がしたい ※2: 項目番号は本研究の質問紙における項目の表示順 ※1: カテゴリーは、林・藤原(2008)の結果16)に従っている。 カテゴリーⅦ:自己拡大 カテゴリーⅠ:刺激性 カテゴリーⅡ:文化見聞 カテゴリーⅢ:現地交流 カテゴリーⅣ:健康回復 6 カテゴリーⅤ:自然体感 カテゴリーⅥ:意外性 項目 表-2 回答者の属性 選択項目 度数 % 男性 49 31.4 女性 107 68.6 10歳代 9 5.8 20歳代 44 28.2 30歳代 26 16.7 40歳代 38 24.4 50歳代 23 14.7 60歳代 8 5.1 70歳以上 8 5.1 学生 19 12.2 公務員 22 14.1 会社員 77 49.4 主婦 27 17.3 自営業 3 1.9 アルバイト 2 1.3 無職 3 1.9 その他 3 1.9 ひとり 10 6.5 夫婦 26 16.8 こども連れ家族 23 14.8 その他家族 24 15.5 カップル 29 18.7 友人 37 23.9 仕事仲間 3 1.9 その他 3 1.9 年代 職業 同行者 質問項目 性別
る」という帰無仮説は棄却されなかったため、本研 究ではこの4 因子構造を採用した。 第1 因子は 4 項目で構成されており、「他の地から やってきた観光客たちと仲良くなりたい」や「観光 先の人たちと話したい」といった、現地での交流に 関する項目に高い負荷量を示した。そこで、この因 子を「現地交流」と命名した。 第2 因子は 4 項目で構成されており、「日頃の生活 で疲れた心身を癒したい」や「日頃の生活を忘れて、 思いきり羽を伸ばしたい」などの、日常からの変化 に関する項目に高い負荷量を示した。そこで、この 因子を「日常からの変化」と命名した。 第3 因子は、「行き当たりばったりの観光がしたい」 と「観光先では、はっきりとした目的地を決めず、 流れに身をまかせたい」などの3 項目で構成されて おり、偶然の出来事を期待する項目に高い負荷量を 示した。そこで、この因子を「偶発性」と命名した。 第4 因子は 3 項目で構成されており、「その地の歴 史や伝統についてよく知りたい」や「日常では触れ ない文化や風習に触れたい」などの、歴史や文化へ の興味に関する項目に高い負荷量を示した。そこで、 この因子を「文化見聞」と命名した。 次に、抽出された下位尺度について、その基礎統 計量と信頼性(2)を算出した。本研究においては、下 位尺度に含まれる項目平均値を下位尺度得点とした。 その結果を表-4 に示す。 (3)属性別分析 属性別の検討を行うため、観光動機の各下位尺度 得点について検定を行った。まず、男女差の検討を 行うため、対応のない 2 標本のt検定を行った (表- 5)。その結果、t(154)=2.00, p<.05 で、「偶発性」 は女性よりも男性の方が有意に高い値を示した。ま た「文化見聞」(t(154)=2.49, p<.05)についても、 男女の間に有意な差が認められ、男性よりも女性の 方が高い値を示していた。「現地交流」「日常からの 変化」については、有意差は認められなかった。 年代の差を検討するため、対応のない分散分析を 行った(表-6)。その結果、「日常からの変化」 表-3 因子分析結果 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 共通性 18 他の地からやってきた観光客たちと仲良くなりたい .917 -.056 .039 -.014 .837 10 観光先の人たちと話したい .868 -.069 .037 -.046 .736 3 観光先の人たちと仲良くなりたい .755 .033 -.085 -.064 .540 26 観光先の人たちの暮らしぶりに触れたい .544 .113 -.007 .206 .449 19 日頃の生活で疲れた心身を癒したい .076 .875 -.117 -.082 .749 27 日頃の生活を忘れて、思いきり羽を伸ばしたい .004 .838 .050 -.133 .642 12 国内観光をすることで、決まりきった生活から抜け出したい -.029 .708 .093 .038 .525 11 日頃の生活でたまったストレスを解消したい -.090 .680 .017 .133 .534 14 行き当たりばったりの観光がしたい .083 .078 .887 .094 .838 6 観光先では、はっきりとした目的地を決めず、流れに身をまかせたい -.033 .044 .756 .048 .572 22 しっかりと日程や計画を立てて国内観光をしたい .079 .109 -.617 .208 .455 17 その地の歴史や伝統についてよく知りたい .018 .037 -.012 .661 .463 24 日常生活では触れない文化や風習に触れたい -.032 .016 -.079 .660 .435 9 美術館や博物館で芸術品を見てまわりたい -.013 -.126 .073 .614 .341 因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ ― .083 .116 .320 Ⅱ ― -.017 .353 Ⅲ ― .023 Ⅳ ― ※最尤法、プロマックス回転 表-4 基礎統計量と信頼性 平均 SD α 現地交流 2.73 0.91 0.855 日常からの変化 4.08 0.77 0.848 無計画 3.11 0.95 0.788 文化見聞 3.86 0.71 0.644 表-5 男女別の平均値とSD および t 検定結果 M SD M SD 現地交流 2.60 0.99 2.79 0.87 日常からの変化 3.98 0.86 4.12 0.72 無計画 3.33 0.96 3.01 0.93 2.00* 文化見聞 3.65 0.74 3.95 0.68 2.49* 男性 女性 *p<.05 t値 1.21 1.07 関する項目に高い負荷量を示した。そこで、この因 子を「現地交流」と命名した。 第2 因子は 4 項目で構成されており、「日頃の生活 で疲れた心身を癒したい」や「日頃の生活を忘れて、 思いきり羽を伸ばしたい」などの、日常からの変化 に関する項目に高い負荷量を示した。そこで、この 因子を「日常からの変化」と命名した。 第 3 因子は、「行き当たりばったりの観光がした い」と「観光先では、はっきりとした目的地を決め ず、流れに身をまかせたい」などの3 項目で構成さ れており、偶然の出来事を期待する項目に高い負荷 量を示した。そこで、この因子を「偶発性」と命名 した。 第4 因子は 3 項目で構成されており、「その地の歴 史や伝統についてよく知りたい」や「日常では触れ ない文化や風習に触れたい」などの、歴史や文化へ の興味に関する項目に高い負荷量を示した。そこで、 この因子を「文化見聞」と命名した。 次に、抽出された下位尺度について、その基礎統 計量と信頼性(2)を算出した。本研究においては、下 位尺度に含まれる項目平均値を下位尺度得点とした。 その結果を表-4 に示す。 属性別分析 属性別の検討を行うため、観光動機の各下位尺度 得点について検定を行った。まず、男女差の検討を 行うため、対応のない2 標本のt検定を行った(表 -5)。その結果、t(154)=2.00, p<.05 で、「偶発性」は 女性よりも男性の方が有意に高い値を示した。また 「文化見聞」(t(154)=2.49, p<.05)についても、男女 の間に有意な差が認められ、男性よりも女性の方が 高い値を示していた。「現地交流」「日常からの変化」 については、有意差は認められなかった。 年代の差を検討するため、対応のない分散分析を 行った(表-6)。その結果、「日常からの変化」 (F(6,147)=3.19, p<.01)の得点差は 1%水準で有意 であった。また、「文化見聞」(F(6,148)=2.49, p<.05) 表-3 因子分析結果 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 共通性 他の地からやってきた観光客たちと仲良くなりたい 観光先の人たちと話したい 観光先の人たちと仲良くなりたい 観光先の人たちの暮らしぶりに触れたい 日頃の生活で疲れた心身を癒したい 日頃の生活を忘れて、思いきり羽を伸ばしたい 国内観光をすることで、決まりきった生活から抜け出したい 日頃の生活でたまったストレスを解消したい 行き当たりばったりの観光がしたい 観光先では、はっきりとした目的地を決めず、流れに身をまかせたい しっかりと日程や計画を立てて国内観光をしたい その地の歴史や伝統についてよく知りたい 日常生活では触れない文化や風習に触れたい 美術館や博物館で芸術品を見てまわりたい 因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ ― Ⅱ ― Ⅲ ― Ⅳ ― ※最尤法、プロマックス回転 表-4 基礎統計量と信頼性 平均 6' α 現地交流 日常からの変化 無計画 文化見聞 表-5 男女別の平均値と6'およびW検定結果 0 6' 0 6' 現地交流 日常からの変化 無計画 文化見聞 男性 女性 S <.05 t 値 偶発性 関する項目に高い負荷量を示した。そこで、この因 子を「現地交流」と命名した。 第2 因子は 4 項目で構成されており、「日頃の生活 で疲れた心身を癒したい」や「日頃の生活を忘れて、 思いきり羽を伸ばしたい」などの、日常からの変化 に関する項目に高い負荷量を示した。そこで、この 因子を「日常からの変化」と命名した。 第 3 因子は、「行き当たりばったりの観光がした い」と「観光先では、はっきりとした目的地を決め ず、流れに身をまかせたい」などの3 項目で構成さ れており、偶然の出来事を期待する項目に高い負荷 量を示した。そこで、この因子を「偶発性」と命名 した。 第4 因子は 3 項目で構成されており、「その地の歴 史や伝統についてよく知りたい」や「日常では触れ ない文化や風習に触れたい」などの、歴史や文化へ の興味に関する項目に高い負荷量を示した。そこで、 この因子を「文化見聞」と命名した。 次に、抽出された下位尺度について、その基礎統 計量と信頼性(2)を算出した。本研究においては、下 位尺度に含まれる項目平均値を下位尺度得点とした。 その結果を表-4 に示す。 属性別分析 属性別の検討を行うため、観光動機の各下位尺度 得点について検定を行った。まず、男女差の検討を 行うため、対応のない2 標本のt検定を行った(表 -5)。その結果、t(154)=2.00, p<.05 で、「偶発性」は 女性よりも男性の方が有意に高い値を示した。また 「文化見聞」(t(154)=2.49, p<.05)についても、男女 の間に有意な差が認められ、男性よりも女性の方が 高い値を示していた。「現地交流」「日常からの変化」 については、有意差は認められなかった。 年代の差を検討するため、対応のない分散分析を 行った(表-6)。その結果、「日常からの変化」 (F(6,147)=3.19, p<.01)の得点差は 1%水準で有意 であった。また、「文化見聞」(F(6,148)=2.49, p<.05) 表-3 因子分析結果 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 共通性 他の地からやってきた観光客たちと仲良くなりたい 観光先の人たちと話したい 観光先の人たちと仲良くなりたい 観光先の人たちの暮らしぶりに触れたい 日頃の生活で疲れた心身を癒したい 日頃の生活を忘れて、思いきり羽を伸ばしたい 国内観光をすることで、決まりきった生活から抜け出したい 日頃の生活でたまったストレスを解消したい 行き当たりばったりの観光がしたい 観光先では、はっきりとした目的地を決めず、流れに身をまかせたい しっかりと日程や計画を立てて国内観光をしたい その地の歴史や伝統についてよく知りたい 日常生活では触れない文化や風習に触れたい 美術館や博物館で芸術品を見てまわりたい 因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ ― Ⅱ ― Ⅲ ― Ⅳ ― ※最尤法、プロマックス回転 表-4 基礎統計量と信頼性 平均 6' α 現地交流 日常からの変化 無計画 文化見聞 表-5 男女別の平均値と6'およびW検定結果 0 6' 0 6' 現地交流 日常からの変化 無計画 文化見聞 男性 女性 S <.05 t 値 偶発性
(F(6,147)=3.19, p<.01)の得点差は 1%水準で有意 であった。また、「文化見聞」(F(6,148)=2.49, p<.05) の得点差は 5%水準で有意であった。Tukey 法によ る多重比較(5%水準)を行ったところ、「日常から の変化」においては60 歳代よりも 20 歳代の方が有 意に高い値を示した。また「文化見聞」においては、 20 歳代・30 歳代・50 歳代それぞれよりも 70 歳以上 の方が有意に高い値を示した。「現地交流」「偶発性」 については、有意差は認められなかった。 職業別・同行者別における差を検討するため、そ れぞれ対応のない分散分析を行ったが、いずれの下 位尺度得点においても有意差は認められなかった。 5.まとめ (1)得られた知見と実践的示唆 本研究で得られた知見と、その知見からの実践的 示唆を述べる。 本研究では、歴史文化観光を目的とする日本人国 内観光者の観光動機として、「現地交流」「日常から の変化」「偶発性」「文化見聞」の4 因子が抽出され た。この結果を踏まえて属性別分析を行ったところ、 「偶発性」と「文化見聞」において男女差が認められ た。「偶発性」においては女性より男性、「文化見聞」 においては男性より女性の方が有意に高い値を示し た。また、「日常からの変化」と「文化見聞」におい て年代差が認められた。「日常からの変化」において は60 歳代よりも 20 歳代、「文化見聞」においては 20 歳代・30 歳代・50 歳代それぞれよりも 70 歳以上 の方が有意に高い値を示した。これらの知見の実践 的示唆を、以下に述べる。 1)男女差を踏まえた実践的示唆 本研究によると、女性と比べ男性は、明確に旅程 を決めるのではなく、行き当たりばったりに観光を したい傾向であることがわかった。そのため、歴史 文化資源を有する観光地では、男性向けにあえて必 要最低限のこと(例えば、立入禁止区域やお手洗い) のみ示したセルフガイドの準備を提案する。セルフ ガイドとは、ツアーガイドを付けずに、自身でその 地域を観光することができるリーフレットのことで ある。 また、男性と比べ女性は、歴史や文化への興味・ 関心が強い傾向にあることがわかった。この傾向か ら、女性の歴史文化観光者には、歴史や文化の表面 だけを伝えるようなものではなく、1 つの事柄につ いてコアな部分まで知ることのできるツアーなどが 有効であろう。例えば、同様の建築様式で建造され た歴史的建築物のみを巡るツアーなどが効果的であ ると考えられる。共通の歴史文化資源を巡ることに よって、ツアーのテーマとした事柄により深く関心 をもってもらえる。 2)年代差を踏まえた実践的示唆 本研究によると、60 歳代と比べ 20 歳代の歴史文 化観光者の方が、「日常からの変化」において高い値 を示した。そのため、20 歳代の歴史文化観光者には、 日常生活をより一層忘れられるようなツアーが適し ていると考えられる。例えば、歴史文化資源をただ 巡るだけでなく、殺陣を交えた寸劇の主役体験をツ アー内容に取り入れる。体験を行う観光地の歴史や 偉人に寸劇の背景を合わせることにより、その地な らではの歴史を体験してもらえる。 また20 歳代・30 歳代・50 歳代と比べ、70 歳以上 の歴史文化観光者は、歴史や文化への興味・関心が 強い傾向にあることがわかった。この傾向から 70 歳以上の歴史文化観光者が、より詳細に歴史や文化 を知ることができる工夫をすることが効果的であろ う。例えば、これまで注目されてこなかった歴史上 の人物に焦点を絞ったツアーを提案する。それによ り、その歴史上の人物を通じて、観光地のまだ知ら れていなかった歴史や文化に触れられる。 表-6 年代別の平均値とSD および分散分析結果 M SD M SD M SD M SD M SD M SD M SD F値 現地交流 2.11 0.98 2.60 1.01 2.78 0.86 2.72 0.83 2.78 0.88 3.06 0.68 3.50 0.68 2.08 日常からの変化 4.39 0.59 4.27 0.83 4.12 0.79 4.17 0.51 3.75 0.88 3.34 0.55 3.78 0.78 3.19** 無計画 3.00 1.00 3.28 0.87 3.10 1.15 2.98 1.05 3.22 0.77 2.50 0.69 3.25 0.71 1.00 文化見聞 4.15 0.47 3.78 0.73 3.72 0.79 3.92 0.60 3.70 0.75 3.83 0.69 4.62 0.55 2.49* 70代以上 10代 20代 *p<.05,**p<.01 30代 40代 50代 60代 の得点差は 5%水準で有意であった。Tukey 法によ る多重比較(5%水準)を行ったところ、「日常から の変化」においては60 歳代よりも 20 歳代の方が有 意に高い値を示した。また「文化見聞」においては、 20 歳代・30 歳代・50 歳代それぞれよりも 70 歳以上 の方が有意に高い値を示した。「現地交流」「偶発性」 については、有意差は認められなかった。 職業別・同行者別における差を検討するため、そ れぞれ対応のない分散分析を行ったが、いずれの下 位尺度得点においても有意差は認められなかった。 5.まとめ 得られた知見と実践的示唆 本研究で得られた知見と、その知見からの実践的 示唆を述べる。 本研究では、歴史文化観光を目的とする日本人国 内観光者の観光動機として、「現地交流」「日常から の変化」「偶発性」「文化見聞」の4 因子が抽出され た。この結果を踏まえて属性別分析を行ったところ、 「偶発性」と「文化見聞」において男女差が認めら れた。「偶発性」においては女性より男性、「文化見 聞」においては男性より女性の方が有意に高い値を 示した。また、「日常からの変化」と「文化見聞」に おいて年代差が認められた。「日常からの変化」にお いては60 歳代よりも 20 歳代、「文化見聞」において は20 歳代・30 歳代・50 歳代それぞれよりも 70 歳以 上の方が有意に高い値を示した。これらの知見の実 践的示唆を、以下に述べる。 男女差を踏まえた実践的示唆 本研究によると、女性と比べ男性は、明確に旅程 を決めるのではなく、行き当たりばったりに観光を したい傾向であることがわかった。そのため、歴史 文化資源を有する観光地では、男性向けにあえて必 要最低限のこと(例えば、立入禁止区域やお手洗い) のみ示したセルフガイドの準備を提案する。セルフ ガイドとは、ツアーガイドを付けずに、自身でその 地域を観光することができるリーフレットのことで ある。 また、男性と比べ女性は、歴史や文化への興味・ 関心が強い傾向にあることがわかった。この傾向か ら、女性の歴史文化観光者には、歴史や文化の表面 だけを伝えるようなものではなく、1 つの事柄につ いてコアな部分まで知ることのできるツアーなどが 有効であろう。例えば、同様の建築様式で建造され た歴史的建築物のみを巡るツアーなどが効果的であ ると考えられる。共通の歴史文化資源を巡ることに よって、ツアーのテーマとした事柄により深く関心 をもってもらえる。 年代差を踏まえた実践的示唆 本研究によると、60 歳代と比べ 20 歳代の歴史文 化観光者の方が、「日常からの変化」において高い値 を示した。そのため、20 歳代の歴史文化観光者には、 日常生活をより一層忘れられるようなツアーが適し ていると考えられる。例えば、歴史文化資源をただ 巡るだけでなく、殺陣を交えた寸劇の主役体験をツ アー内容に取り入れる。体験を行う観光地の歴史や 偉人に寸劇の背景を合わせることにより、その地な らではの歴史を体験してもらえる。 また20 歳代・30 歳代・50 歳代と比べ、70 歳以上 の歴史文化観光者は、歴史や文化への興味・関心が 強い傾向にあることがわかった。この傾向から 70 歳以上の歴史文化観光者が、より詳細に歴史や文化 を知ることができる工夫をすることが効果的であろ う。例えば、これまで注目されてこなかった歴史上 の人物に焦点を絞ったツアーを提案する。それによ り、その歴史上の人物を通じて、観光地のまだ知ら れていなかった歴史や文化に触れられる。 今後の課題 本研究では、歴史文化観光に固有な要因が「文化 見聞」の1 つに留まった。それは今回の調査対象地 表-6 年代別の平均値と6'および分散分析結果 0 6' 0 6' 0 6' 0 6' 0 6' 0 6' 0 6' ) 値 現地交流 日常からの変化 無計画 文化見聞 70代以上 10代 20代 S <.05,**S <.01 30代 40代 50代 60代 偶発性
(2)今後の課題 本研究では、歴史文化観光に固有な要因が「文化 見聞」の1 つに留まった。それは今回の調査対象地 が、鎌倉大仏殿高徳院と名古屋城という有名観光地 であったため、観光タイプで「歴史文化観光」を選 択したとしても、関心度にバラつきがあったことが 考えられる。したがって、より歴史や文化に関心が 高い人が訪れると考えられる歴史文化観光地での調 査や、調査対象者の歴史・文化への関心度別の調査 が必要である。また、本研究では日本人国内観光者 を調査対象者としたが、訪日外国人観光者を調査対 象者とする研究も考えられる。 歴史文化観光地への集客策検討のために、歴史文 化観光における観光動機の研究は、今後も継続・発 展することが期待される。 謝辞:本研究の調査は、鎌倉大仏殿高徳院および名古屋城 総合事務所のご協力のもと実施された。ご協力を頂いた各 組織に対して、深く感謝の意を表したい。 【補注】 (1) インターセプト法とは、街路、ショッピングセンター、 出入口等で調査協力を依頼する方法である20)。 (2) クロンバックの信頼性係数算出の前に、負の因子負荷 量を示した「しっかりと日程や計画を立てて国内旅行 をしたい」は逆転項目の処理を行った。 【引用・参考文献】 1) 岡本卓也(2014):観光動機の違いが観光情報収集と 訪問地選択に与える影響~長野県松本市・安曇野市に おける観光者動向からの検討~,地域ブランド研究, 第9 号,p.31 2) 公益財団法人日本生産性本部(2018):レジャー白書 2018,公益財団法人日本生産性本部,pp.26-27 3) 公益財団法人日本交通公社(2018):旅行年報 2018, 公益財団法人日本交通公社 4) 長野県観光部山岳高原観光課(2017):平成 28 年観光地 利用者統計調査結果,長野県観光部山岳高原観光課,p.4 5) 須田寛(2009):観光~新しい地域づくり~,学芸出 版社 6) 塩谷英生(2015):歴史・文化観光に関する国内旅行 市場調査(その1),公益財団法人日本交通公社 7) 佐々木土師二(2000):旅行者行動の心理学,関西大 学出版部,pp.187-188 8) 佐々木土師二(2007):観光旅行の心理学,北大路書 房,pp.62-63 9) 小林昭裕(1993):大雪山国立公園を事例とした登山 者の満足度,動機および回答者の特性間の関連性,造 園雑誌,56 巻第 5 号,pp.175-180 10) 岡本卓也・藤原武弘(2015):登山行動に関する社会 心理学的研究:登山動機の構造とその変遷,関西学院 大学社会学部紀要,第120 号,pp.167-180 11) 西尾建・岡本純也・石盛真徳(2013):参加型海外ス ポーツイベントにおけるアウトバンド・ツーリストの 研究―ホノルルマラソン参加者の動機と制約要因に ついて―,スポーツ産業学研究,23 巻第 1 号,pp.75-88 12) 小口孝司・八城薫(2003):グリーン・ツーリズムへ の参加を規程する社会心理学的要因,観光研究,Vol.14, No.2,pp.27-36 13) 杉本興運・飯塚遼(2012):自己組織化マップによる 農村観光の動機分析―安曇野市を事例として―,観光 科学研究,第5 号,pp.59-69 14) 林幸史・藤原武弘(2008):訪問地域,旅行形態,年 令別にみた日本人海外旅行観光者の観光動機,実験社 会心理学研究,Vol.48,No.1,pp.17-31 15) 吉川茂(2012):大学生の観光動機と観光懸念に関す る心理学的考察,阪南論集,47 巻第 2 号,pp.125-133 16) 林・藤原(2008)前掲書 p.21 17) 今野勝幸(2012):因子分析―変数の背後に潜む共通 概念を検証する―(平井明代編著『教育・心理系研究 のためのデータ分析入門―理論と実践から学ぶSPSS 活用法』,東京図書),pp.181-203 18) 小塩真司(2011):SPSS と AMOS による心理・調査 データ解析(第2 版)―因子分析・共分散構造分析ま で,東京図書,p.134 19) 小塩真司(2011)前掲書 pp.140-141 20) 豊田秀樹(1998):調査法講義,朝倉書店,p.38 (受稿 2018 年 12 月 16 日) (受理 2019 年 2 月 25 日)