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中心市街地と中山間地域の協働による価値共創

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(1)中心市街地と中山間地域の協働による価値共創. 論文. 中心市街地と中山間地域の協働による価値共創. 大 和 里 美. 1.はじめに 高度成長期の人口の郊外流出やモータリゼーションの進展によって、各地 で中心市街地の衰退が見られる一方で、中山間地域においても人口減少と高 齢化が進み、地域経済の中心である農業や林業が衰退して、耕作放棄地や十 分な手入れができない山林が増えている。このような都市と山が抱える問題 を解決するために名古屋大学が中心となって 2009 年から進められているの が「都市の木質化プロジェクト (以下、木質化プロジェクト)」である。 木質化プロジェクトは、森林科学・建築学・都市計画学などの研究者が、 建築・林産実務家らと連携して伊勢湾流域の森林組合、行政、住民などの連 携先が相互理解と協力のもとに都市で木材利用を進めることで森林と都市の 再生に繋げることを目的としたもので、①材質を考慮した需給計画、②木材 利用の事例研究、③山間部と都市部の連携、④木材の適正価格の導出、を課 題に(佐々木他 2015 ) 、①都市部での木材の利用、②専門家、実務家、市民 全てに対して説明と対話の機会を設ける、③共に考え、行動する、④担い手 を育成する、ことを実践内容として掲げている (山崎 2014 )。 山林が国土の 3 分の 2 を占めるわが国においては、中山間地域が占める面 1). 積は 7 割に達し 、流域の上流に位置する中山間地域の耕作地や森林を守る ことは、洪水や土壌の崩壊を防ぐだけでなく、水の恩恵を受ける下流域に位 置する都市の生活を守ることでもある。木質化プロジェクトでは、山の問題 を都市の問題と捉え、ともに考えて解決していくことを目指している。 本研究では、木質化プロジェクトの実践地域である名古屋市中区錦 2 丁目 地域創造学研究. 1.

(2) 論文. (以下、長者町)と豊田市旭地区(以下、旭地区)の関係者に対して行ったヒ 2). アリング調査 の結果をもとに、サービス・ドミナント・ロジック( ServiceDominant Logic:以下、S-Dロジック) の視点から、2 つの地域の協働によっ て生み出される価値と価値共創のプロセスについて考察する。. 2.S-Dロジックの視点に立った価値共創 マーケティング研究においては、過去数十年にわたって有形財である製品 に焦点を当てた北米型のマーケティングが主流を占めてきた。しかしながら、 サービス経済化の進展によってサービスへの関心が高まる中で、従来の 4P' sを基礎とする分析枠組みの限界が認識され、サービスを中心とする北欧型 のマーケティングが注目されるようになった。このような製品中心からサー ビス中心へと視点が移る中で生まれたS-Dロジックは、北欧のノルディッ ク学派のサービス・マーケティングに依拠し(村松 2010 )、無形財、価値共 創、関係性に焦点を当てた新しい研究視点である( Vergo & Lusch 2004 )。 S-Dロジックは、マーケティング研究から生まれたが、その適用範囲は企 業活動のような経済的な交換にとどまらず、社会的な交換や組織内部の交換 と価値創造を捉えるための考え方およびレンズとしても有効である( Vergo & Lusch 2008 ) 。 S-Dロジックにおいては、価値提案を受けた相手が価値を認識すること で価値が実現する。すなわち価値は、常に価値提案者と提案を受ける他者に 3). よる協力的で相互作用的なプロセスを得て共創される 。価値提案者と他者 は、互いのスキルやナレッジ(知識や技術)を適用することで価値を共創し、 そこで共創される価値は、価値提案を受けた者が判断する知覚価値であるこ 4). とから文脈価値と呼ばれる ( Vargo et al. 2008 ) 。このように価値は認識す る側が主観的に判断するため、認識する主体のナレッジとスキルや価値共創 の「場」の状況によって影響を受ける( Vergo & Lusch 2008 )。また価値は個 人的認識によって決定されるだけでなく、社会的認識の中で決定・再生産さ れるという意味で社会的文脈価値である ( Edvardsson et. al. 2011 )。 以上のように、S-Dロジックにおける価値共創は、社会的認識の影響を 2.

(3) 中心市街地と中山間地域の協働による価値共創. 受けつつ価値提案者と提案を受けた他者のスキルやナレッジ、そして場の状 況に支配されるため、共創のプロセスをマネジメントすることが価値の実現 や価値を高めることに繋がることから、価値共創のプロセスについての研究 5). も見られる 。しかしその対象は企業活動であり、地域を対象とした研究は ほとんど行われていない状況である。. 3.木質化プロジェクトの実践地と活動内容 (1) 実践地域の概要 1) 旭地区の概要 旭地区は、愛知県北部の旧東加茂郡旭町に当たる地区で、2005 年の平成 の大合併により豊田市に編入された。北は矢作川を挟んで岐阜県恵那市と 接し、面積は 82.16㎢、2014 年 10 月 1 日現在の人口は 2,909 人、高齢化率は 6). 42.0%に達し、人口は毎年 2 ~ 3%の割合で減少している 。地区の 61.0%は 山林で、戦後植林した杉を中心とした林業で生計を立ててきたが、吉野や京 都の北山のようなブランド力もなく、木造住宅の減少や安価な輸入材の増加 によって林業は衰退していった。また旭地区には、隣接する足助地区の香嵐 渓や稲武地区の温泉のような観光資源もなく、高齢化と人口減少によって地 域が衰退していく中で、危機感を持った地元住民が中心となって「旭木の駅 7). プロジェクト 」 をはじめとした様々な活動に取組んでいる。 2) 長者町の概要. 8). 長者町は、名古屋城の南、名古屋駅と栄の間に位置し、町内には日本銀行 や大手企業のオフィスもある名古屋の中心地である。1966 年の住居表示の 変更により 「長者町」 という名称は地図からは消えたが、徳川家康による清須 越し以前からの歴史ある町名に誇りと愛着を持つ住民も多く、地元では今で も長者町の名称が一般的に使われている。また大正末期から昭和にかけて長 者町通りに繊維問屋街が形成され、第二次世界大戦による戦災を乗り越えて 「薄利多売・現金取引」 の商法を武器に発展し、戦後は東京日本橋、大阪船場 とともに日本三大繊維街として全国に知られるようになった。 地域創造学研究. 3.

(4) 化現象によって郊外に住居を移す人も増えて長者町の居住人口は減少してい. った。その後のバブル経済の崩壊と中国を中心とした安価な海外製品の輸入 論文. 増加により、廃業や倒産に追い込まれる繊維問屋もあり、町内には空き店舗. しかし 年代に入ると、途上国からの繊維製品の輸入が増加したため や解体された 空 き1970 ビル の跡地に作られた駐車場が目立つようになる。 繊維業界は深刻な構造不況に陥った。これに加え、同時期に始まったドーナ. こ の よ う な 状 況 を 前 に し て 、 2000 年 頃 か ら 「 シ ャ ッ タ ー ペ イ ン ト ツ化現象によって郊外に住居を移す人も増えて長者町の居住人口は減少して. 9). 」や. 「 YEBISU いった。その後のバブル経済の崩壊と中国を中心とした安価な海外製品の輸 ビ ル 事 業 10)」 な ど の 「 名 古 屋 長 者 町 織 物 協 同 組 合 ( 現 名 古 屋 長 者 入増加により、廃業や倒産に追い込まれる繊維問屋もあり、町内には空き店. 町 協 同 組 合 )」 が 中 心 と な っ た ま ち の 活 性 化 へ の 取 組 み が 始 ま る 。 ま た 2003 舗や解体された空きビルの跡地に作られた駐車場が目立つようになる。. ) 二丁目まち 年には、 「 名 このような状況を前にして、2000 古 屋 ・ 錦 二 丁 目 ま ち づ く り年頃から 連 絡 協「シャッターペイント 議 会( 現 名 古 屋 ・9 錦 」や 10 ). 「 YEBISU などの 「名古屋長者町織物協同組合 (現名古屋長者町 づくり協議 会 、 以 ビル事業 下 、 ま ち」づ くり 協 議 会 )」 が 設 立 さ れ 、 200 9 年 か ら 3 年 を 協同組合) 」が中心となったまちの活性化への取組みが始まる。また 2003 年. かけて、まちづくり構想のマスタープランである「錦二丁目まちづくりマス には、 「名古屋・錦二丁目まちづくり連絡協議会 (現名古屋・錦二丁目まちづ. が設立され、2009 タ ー プ ラ ンくり協議会、以下、まちづくり協議会) ( 以 下 、 マ ス タ ー プ ラ ン )」 」 を 作 成 し た 。 年から 3 年をかけ て、まちづくり構想のマスタープランである「錦二丁目まちづくりマスター プラン (以下、マスタープラン) 」 を作成した。. . 図 1. 図 1 長者町と旭地区の位置. 長者町と旭地区の位置. 出典:筆者作成. 出典:筆者作成. 4. (2)長者町における木質化プロジェクト.

(5) 中心市街地と中山間地域の協働による価値共創. (2) 長者町における木質化プロジェクト 1) 木質化プロジェクトの位置付け 木質化プロジェクトは、山間部と都市部を結び連携を図るプロジェクトで あり、山の実践地である旭地区と都市の実践地である長者町は、プロジェク トを立ち上げた名古屋大学を介して交流を開始した。 長者町が木質化プロジェクトに関わることになったのは、2011 年に都市 部でのプロジェクト実践地を探していた名古屋大学のM准教授から長者町の 錦二丁目まちづくり協議会でマスタープランを作成中であったE氏にプロ ジェクトへの参加の打診があったことがきっかけである。マスタープランで は、まちの人達を対象としたアンケートに基づいて、①安心居住、②元気経 済、③共生文化、という 3 つのコンセプトが掲げられているが、木質化プロ ジェクトは、 「共生文化」 というコンセプトを具体化するものであり、まちと してこのプロジェクトに取組むことになった。 また長者町は、2015 年 3 月に名古屋市の「低炭素都市 2050 なごや戦略」に 基づく「低酸素モデル地区」の認定を受け、2030 年までに CO2 排出量を 25% 削減することを目指しており、木質化プロジェクトを通じた木材の二次利用 や三次利用などの取組みは、その目的にかなったものである。 2) 木質化プロジェクトの活動内容 長者町では、長者町・旭地区の住民、研究者、学生、実務家が定期的に企 画会議を開いて、都市における木の利用・都市の木質化について議論し、木 質化を通じて多様な個人や団体の交流と協働が進められている。 2012 年には、8 月に開催される大縁会と 11 月のゑびす祭りに向けて、旭 地区で産出された木材を使った 「ストリート・ウッド・デッキ(以下、SWD) が長者町で製作された。長者町は碁盤割の町であり、区画を分割する縦横の 道路は直線で道幅も広く、繊維問屋が活況を呈していた頃は良かったが、荷 物の積み下ろしのために道路に駐車する車が減った現状では、走行速度を上 げる車が多いために安全面での不安が高まっていた。道路の縦列駐車のス ペースにSWDを設置することで車道幅を狭めることができ、走行する車の 地域創造学研究. 5.

(6) 論文. スピードを抑えられるだけでなく、 実質的には歩道を拡張することにもなり、 SWDの設置は好評であった。しかし、現在の法律では、SWDを常設する 許可を得ることは難しく、名古屋市や愛知県警に相談し協議を重ねた結果、 この時製作されたSWDは、歩道拡幅の社会実験として長者町通りの一角に 2015 年 2 月まで設置されることになった。 2015 年 12 月には、第 2 号となるSWDがT工務店の資金協力のもとに製作 され、町内にあるT工務店の敷地に 3 年間を期限として設置された。木材を 使用するに当たっては、膨張・収縮による影響を最小限に抑え、変色や腐朽 を防ぎ強度を高めるために乾燥処理をすることが必要であるが、SWDとし て太陽熱と自然の風によって天然乾燥することになり、3 年経った時点でS WDを解体して二次利用に供する予定である。 長者町は、3 年に 1 度開催される「あいちトリエンナーレ」のまちなか会場 になっており、トリエンナーレ期間中はアートを楽しむために多くの人が長 者町を訪れる。2016 年 7 月には、8 月 11 日から 10 月 23 日の 74 日間にわたっ て開催される「あいちトリエンナーレ 2016 」に向けた木質化の作業が行われ、 第 3 号となるSWDや木製のベンチなどがボランティアによってまちに設置 された。. 写真 1 T工務店前に設置されたSWD . 6. 出典:2016 年 7 月 27 日筆者撮影.

(7) 中心市街地と中山間地域の協働による価値共創. まちは、SWD製作のために 11㎝角の木材 580 本を豊田森林組合から購入 したが、木材調達と設置のための費用として 200 万円を要した。この費用は まちにある 3 つの企業が分担して負担した 11 )。設置後の管理については、ま ちづくり協議会が担っている。またSWD以外のベンチなどの費用は、あい ちトリエンナーレの関係で愛知県農林水産部が負担した。ベンチ設置に当 たっては、設置場所を探すためのまち歩きイベント「ぶら長者」が実施され、 まちの内外からの参加者によってまち中でベンチを置くのに相応しいと思わ れる場所が選ばれた。. 写真 2 ビルの壁面に設置された木製ベンチ . 出典:2016 年 7 月 27 日筆者撮影. 長者町では、町内での木の利用を促進するだけでなく、年に 1 度、木の伐 採に適した冬期に、1 泊 2 日で旭地区を訪れる「都市の木質化プロジェクト・ ツアー」 を実施している。このツアーでは、伐採の様子を見学したり、「矢作 川森の健康診断実行委員会」の手法に沿った森の調査と診断を体験して、旭 地区との交流を図るとともに、山や木に関する知識と理解を深めている。 3) 木質化プロジェクトの拡がり 長者町は、愛知県美術館・名古屋市美術館にも近く、1970 年代にはアン グラ芸術の展示スペースとして全国的に知られた「 8 号室」というギャラリー 地域創造学研究. 7.

(8) 論文. があった場所で、トリエンナーレの会場に選ばれる以前からアートとの関 係が深いまちである。2010 年の「あいちトリエンナーレ 2010 」によってアー ティストとの関わりが強まり、YEBISU ビルのように繊維問屋が撤退した後 にリニューアルしたビルの一室には、アーティストや建築家の事務所がいく つも見られる。 まちに事務所を構えるアーティストや建築家は様々な形で木質化プロジェ クトに関わっている。例えば、前述したように木質化プロジェクトではまち にSWDやベンチを設置しているが、そのデザインやネーミングは、プロジェ クトのメンバーの設計事務所が考えている。また自らの事務所の床に木材を 二次利用しているアーティストもいる。 「アート木質化」は、木質化プロジェクトのメンバーで長者町を拠点に活 動するアーティストによって結成された集団で、木製ボックスの中にアー ト作品を展示して町中に展示する活動を行っている。あいちトリエンナー レ 2016 では、 「アートと木のまち」として長者町のイメージを高めるために、 愛知県のアーティストを紹介する 「都市木ギャラリー」を企画してボックスに. 写真 3 アート作品を展示するための木製ボックス  8. 出典:2016 年 7 月 27 日筆者撮影.

(9) 中心市街地と中山間地域の協働による価値共創. 展示する作品を募集し、トリエンナーレ開催期間を 3 期に分けて、まちなか の 7 か所に設けられた 10 基のボックスに応募作品から選ばれた 30 作品を展 示した 12 )。このように、木質化プロジェクトはアートと結びつくことで新 たな拡がりを見せている。. 4.旭地区と長者町による価値共創 (1) 木質化プロジェクトが生み出す価値 長者町と旭地区の関係者を対象に、木質化プロジェクトによるそれぞれの 地域への影響やプロジェクトが生み出す価値について尋ねた。 【旭地区】 ○ 「山の公益的な価値に気付いた」 (N氏) ・昔は入会権で入れた山が入れなくなり、山が税金の対象となったことで山 を私益、すなわち経済的価値でしか見ないようになっていた。木質化プロ ジェクトによってまちと交流することで、山の公益的な価値が認識できる ようになった。 ・名古屋のA建設は、セメントのもろさに比較した木の耐性に注目して自然 素材で健康に暮らせ長持ちする木造建築住宅を建設している。まちに木に 関する知識を持った人が増えてこのような動きが広がり、木を使うことが 「産業」から「文化」になれば市場原理だけに左右されない需要が生み出され ると思う。 ○「まちとの交流によって経済的価値に繋がる可能性が高まり、山の将来に 希望が生まれた」 (TH氏) ・まちとの交流によってまちのニーズを知り、意見交換を行う場を得たこと で、山主の木の用途開発だけでなく、木をもとにした人との繋がりができ たことが刺激となり、産業化に繋げる可能性が出てきた。 ・雇用を生むためにはまちとの交流を拡大していく必要があり、今は先行投 資を行っている段階だ。まちから訪れた人は、木だけでなく山菜採りなど 山の自然を楽しみ癒されることができる。このような心の価値を生み出し ていく必要がある。 地域創造学研究. 9.

(10) 論文. 【長者町】 ○「木質化プロジェクトは社会的な価値を生んでおり、次の課題は持続して いくためにまちとして経済価値にどう繋げていくかだ」 (T氏) ・木質化を進めることで、低炭素社会の実現に貢献するだけでなく、まちな かに設けられたベンチやSWDはまちの人の憩いと交流の場になっている。 ・旭地区との交流によって木や山の知識が増え、山の問題は都市の問題だと いう認識ができた。 ・長者町での活動を見た人が中心になり川下である伊勢湾沿岸では「港まち づくり協議会」 が活動をはじめ、川上、川中、川下の交流が生まれている。 ・アーティストや建築家を含め、まちの内外の多様な人達の交流が生まれ ることで、アート木質化などの新たなプロジェクトが生まれ、木質化プロ ジェクトによって交流と活動が拡張されている。 ・将来は旭地区に木の使用権を持つ「長者町の森」を作り交流を活発化させた い。このプロジェクトを通じて長者町の住民は森をことを知っていて当た り前という状況になることを目指しており、単に木質化を進めるプロジェ クトというのではなく、新たなまちの文化を創る活動だと位置付けている。 ヒアリング調査の結果からは、旭地区では、木質化プロジェクトによる長 者町との交流によって、①山や自然という地域が持つ資源に公益的な価値を 見出し、②産業化による将来への希望という心の価値が生まれていた。また 長者町では、①プロジェクトを通じた旭地区との交流から山や木に対する価 値が高まり、②まちなかの木質化によって憩いと交流が生まれ、③まちの内 外の交流が活発化することでまちづくりの活動が加速される、という社会的 な価値が生み出されていることがわかった。. (2) 価値共創に関する考察 木質化プロジェクトは、旭地区と長者町が協働することで新たな価値を創 造し、CO2 削減や森林の再生という環境保全や地域の再生という両地域が直 面している課題の解決を図るものである。名古屋大学による仲介によって 2 10.

(11) 中心市街地と中山間地域の協働による価値共創. つの地域は出会い、 専門家や実務家、 学生やボランティアなどの外部アクター を巻き込みながら、定期的な企画会議の開催や都市の木質化プロジェクト・ ツアーなどが実施される中で価値が共創された。山側は、山や森林に関する ナレッジとスキルを適用することで価値提案を行い、まち側は環境保全や自 然・木へのニーズやアイデアというナレッジとスキルを適用することで森林 の価値を認識した。反対にまち側の木や自然へのニーズ・アイデアを適用し た木の利用法や CO2 削減における木質化が持つ意義などの提案は、山側に森 林の持つ価値についての気付きをもたらした。 社会的な課題:環境保全(CO2の削減・森林の再生等)・地域の再生 名古屋大学による木質化プロジェクトの提案と実施 (2地域を結びつけるための仲介者の役割). 価値共創の場 企画会議 木質化プロジェクト・ツアー 等. 外部 アク ター. 旭地区. 長者町. 木・森・山に 関する知識. 木・自然に関 するニーズと. 外部 アク ター. 価 値. 図 22 価値共創のプロセス 図 価値共創のプロセス . 出典:筆者作成 出典:筆者作成. 木質化プロジェクトでは両地域で社会的な価値を中心とした価値が共創さ 木質化プロジェクトでは両地域で社会的な価値を中心とした価値が共創さ れているが、そのプロセスにおいては、価値提案者と価値認識者は固定化さ. れているが、そのプロセスにおいては、価値提案者と価値認識者は固定化さ. れた関係ではなく、提案を受けた価値認識者は、共創した価値を基に相手に. れた関係ではなく、提案を受けた価値認識者は、共創した価値を基に相手に. 対して新たな価値提案を行い、提案を受けた側が価値を認識してまた新たな. 対して新たな価値提案を行い、提案を受けた側が価値を認識してまた新たな. 提案を行うという価値を高める循環が見られる。また定期的な企画会議や木. 提案を行うという価値を高める循環が見られる。また定期的な企画会議や木. 質化プロジェクト・ツアーは、会話と学習による交流の場であると同時に価. 質化プロジェクト・ツアーは、会話と学習による交流の場であると同時に価 値共創の場となっており、会話と学習によってナレッジやスキルが向上する. 地域創造学研究. 11. ことで認識される価値が高まっている。 以上のことから、高い価値を実現するためには、認識する側の主観的判断.

(12) 論文. 値共創の場となっており、会話と学習によってナレッジやスキルが向上する ことで認識される価値が高まっている。 以上のことから、高い価値を実現するためには、認識する側の主観的判断 に影響を与える 「文脈」 として、会話や学習という交流のプロセスをマネジメ ントすることが重要であるといえよう。. 5.おわりに 本論文では、S-Dロジックの視点から愛知県で実施されている木質化プ ロジェクトにおける 2 地域の協働による価値共創について考察し、会話と学 習による交流をマネジメントすることが重要性であることを指摘した。地域 の価値共創において文脈を左右する他の変数についても検討し、価値共創の プロセスを明らかにすることが今後の課題である。 わが国における急激な高齢化と少子化の進展は、中山間地域だけでなく中 心市街地においても地域の衰退を招いている。木質化プロジェクトのように 異なった特色を持つ地域間が協働することは、互いの抱える課題の解決や地 域活性化にとって有効であると思われる。 地理的に離れた地域間での価値共創を実現するためには、2 つの地域を結 ぶ仲介者が必要であり、木質化プロジェクトで名古屋大学が果たした役割は 大きい。文化交流や親善を目的とする姉妹都市のように、更に細分化したエ リアの具体的な課題を解決するための 「姉妹地域」 として地域と地域を結びつ けるためには、地域の課題を研究し、様々な地域の課題を知る機会を持つ大 学が、仲介者としてのポテンシャルを持つといえよう。. 謝辞 本研究を進めるに当たっては、名古屋長者町協同組合代表の滝一之氏をは じめ、長者町と旭地区の多くの方にご協力いただきました。この場を借りて 深謝いたします。. 12.

(13) 中心市街地と中山間地域の協働による価値共創. 注. 1) 農林水産省HP:http://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/s_ about/cyusan/( 2016 年 11 月 21 日取得)による。 2) 長者町は 2016 年 7 月 27 日に、旭地区は 2016 年 8 月 4 日に調査を行った。 3) 顧客が企業の商品開発に参画するような場合は、価値共創と区別して共同 生産と呼ばれる( Lusch and Vargo 2006 )。 4) 例えば、スマートフォンの製造企業は、自社の技術(ナレッジ・スキル)を 適用してスマートフォンを生産する(価値提案)が、購入した顧客はスマー トフォンに関する自らの知識(ナレッジ・スキル)を適用して使用する(価値 共創)。スマートフォンを使いこなせる者とそうでない者では、 スマートフォ ンによって知覚する価値は異なる(文脈価値)。 5) Le Meunier-FitsHugh et al.( 2011 )は、企業の販売行為において、①会話と 学習、②顧客や組織内部知識の活用、③価値提案、④ソリューションの共創、 ⑤サプライヤー・顧問間の仲介者の存在、⑥信頼や長期的関係の構築、と いう6つの活動が価値共創を実現することを明らかにしている。 6) 「豊田市統計書 合併特集号」 (豊田市 HP:http://www.city.toyota.aichi.jp/_ res/projects/default_project/_page_/001/004/762/gappeitokusyuu.pdf 2016 年 11 月 23 日取得)、及び「豊田市の人口 平成 26 年版」 (豊田市 HP: http://www.city.toyota.aichi.jp/shisei/tokei/sonohoka/1004759.html 2016 年 11 月 23 日取得)による。 7) 「木の駅プロジェクト」は、林地残材や間伐材を相場より若干高く買い取り、 その代金を地元で使える地域通貨で支払う仕組みで、高知県仁淀川町での 取組みを標準化して 2009 年に岐阜県恵那市で開始された。現在では、島根 県や茨城県、岡山県など全国で同様のプロジェクトが実施されている。丹 羽( 2014 )に詳しい。 8) 長者町の概要については、以下の HP に基づく。 ・長者町アート発展計画 HP:https://cmahpj.jimdo.com/about-1/( 2017 年 4 月 18 日取得) ・ 錦 二 丁 目 ま ち づ く り 協 議 会 HP:http://www.kin2machi.com/index.html ( 2017 年 4 月 18 日取得) ・国土交通省 HP「まち再生事例データベース」:http://www.mlit.go.jp/crd/ city/mint/htm_doc/table.html( 2017 年 4 月 18 日取得) 9) 老朽化したシャッターを名古屋の美術学校や専門学校の学生達の作品で飾 るプロジェクト。 10 ) 空 き ビ ル を リ ニ ュ ー ア ル し て 再 生 す る 事 業 で、「 YEBISU ビ ル Part1 」、 「 YEBISU ビル Part2 」、 「 YEBISU ビル Part3 」の 3 棟のビルがこの事業によっ て再生され新たにオープンした。詳しくは、大和 ( 2015 ) を参照のこと。 11 ) 資金提供者の希望で匿名による寄付という形にしたため、どの企業が負担 地域創造学研究. 13.

(14) 論文 したかは極秘にされている。 12 ) 展示はトリエンナーレ開催の前日である 8 月 10 日から開始された。. 参考文献. 1 ) 佐々木康寿・山崎真理子・滝一之・河崎泰了・山田政和・藤森幹人「森林と 都市の再生をめざす都市の木質化プロジェクト」 『森林遺伝育種』第 4 巻、森 林育種学会、2015 2 ) 山崎真理子「都市の木質化プロジェクト、様々なステークホルダーを巻き込 んだ総合的森林利用」 『第 125 回日本森林学会大会学術講演集』日本森林学 会、2014 3 ) 村松潤一「S-Dロジックと研究の方向性」井上崇通・村松潤一編著 『サービス・ ドミナント・ロジック ─ マーケティング研究への新たな視座 ─ 』同文舘出 版、2010 4 ) Vergo, S. L. and R. F. Lusch "Evolving to a New Dominant Logic for Marketing", Journal of Marketing, Vol.68, No.1, 2004 5 ) Vergo, S. L. and R.F.Lusch "Service Dominant Logic: Continuing the Evolution", Journal of the Academy of Marketing Science, Vol.36, No.1, 2008 6 ) Vergo, S. L., P. P. Maglio and M.A.Akaka "On Value and Value CoCreation: A Service Systems and Service Logic Perspective", European Management Journal, Vol.26, No.3, 2008 7 ) Edverdsson, B., B. Tronvoll and T.Gruber "Expanding Understanding of Service Exchange and Value Co-Creation : A Social Construction Approach", Journal of the Academy of Marketing Science, Vol. 39, No.2, 2011 8 ) Lusch, R. F. and S. L. Vargo "Service-Dominant Logic: Reactions, Reflections and Refinements", Marketing Theory, Vol.6, No.3, 2006 9 ) Le Meunier-FitzHugh. K., J. Baumann, R. Palmer and H. Wilson "The Implications of Service-Dominant Logic and Integrated Solutions on the Sales Function", Journal of Marketing Theory and Practice, Vol.19, No.4, 2011 10 ) 丹羽健司『「木の駅」軽トラ・チェーンソーで山も人もいきいき』全国林業改 良普及協会、2014 11 ) 大和里美「名古屋・長者町のまちづくりと価値創造」 『日本都市学会年報』第 48 号、日本都市学会、2015. 14.

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参照

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