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論文審査結果の要旨

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Academic year: 2022

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氏 名 授 与 し た 学 位 専攻分野の名称 学 位 授 与 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件

学位論文の題目 論 文 審 査 委 員

角 拓人 博 士 学 術

博甲第5369号 平成28年 3月25日

環境生命科学研究科 環境科学専攻

(学位規則第5条第1項該当)

節足動物における細胞内共生細菌Wolbachiaの時空間的感染動態についての研究 教授 宮竹 貴久 教授 坂本 圭児 准教授 高橋 一男

学位論文内容の要旨

非常に広範な節足動物の分類群,フィラリア線虫に感染する細胞内共生細菌Wolbachiaは,母系遺伝し,宿 主に繁殖操作を行うことで宿主個体群中に拡がっていく。この細菌が宿主の繁殖操作を成功させるには,一 定密度の感染が必要とされる。また,感染した細菌密度が高すぎる場合は宿主にコストとして働くことがわ かっている。宿主の体内に生息する細菌もまた,宿主と同様に外環境の影響を受け,特にWolbachiaは低温や 高温に非常に感受性が高いことが室内実験で明らかにされている。高温は Wolbachia の感染状態に強く作用 し,宿主体内からWolbachiaが消失してしまう場合や,密度が低くなるなどの影響を及ぼす。このような状態

Wolbachia が陥った時,宿主の繁殖操作や次世代への伝播に失敗する。室内で行われた先行研究で用いら

れた温度条件は自然状態で暴露されうる30℃前後の温度であった。そこで本研究は,室内実験で明らかにさ れてきたこれらの事象を野外で検証し,時空間的なWolbachia感染動態を明らかにする。

まずコウチュウ目昆虫であるヒラタコクヌストモドキの4つの系統を材料として細菌感染の有無が宿主の 歩行活動性や繁殖形質に影響を与えるかを検証した。さらに,宿主系統の持つ細菌密度が宿主の遺伝基盤に 制御されているかどうかを検証した。その結果,ヒラタコクヌストモドキでは細菌感染の有無は宿主の歩行 活動性に影響を及ぼさなかった。また,細菌からの繁殖操作は先行研究と同様に細胞質不和合を示すことが 明らかになった。細菌密度は系統依存的であったものの,オスにおいては親の細菌密度に依存するような子 の変化は見られなかった。一方で,メスにおいては細菌密度の高い親の子は高密度のままであり,低い親の 子は低密度のままであった。高密度と低密度の親を掛け合わせた場合は両親と中間的な細菌密度を示すこと が明らかになった。この結果から,細菌密度の制御はメスにとって重要な意味を持っている可能性が示唆さ れ,低密度と高密度の掛け合わせから細菌の制御が宿主ゲノムによって行われていると考えられた。この結 果は先行研究を支持している。

次にチョウ目昆虫であるヤマトシジミを対象として細菌感染率と体内の細菌密度が季節的に変化するかを 検証するため,2011年に野外観察を行った。96頭のヤマトシジミを岡山大学周辺で採集し,その感染状態を 調べた結果,96頭の内91頭が細菌に感染していることが明らかになった。また,5月から11月までの期間 においてヤマトシジミの感染率は変化しなかった。同様に,細菌密度も8月と10月,11月を比較した結果,

変化しないことが明らかになった。

さらに2014年には,日本全国から採集したヤマトシジミを用いて調査をおこなった。日本の気候帯が南北 で異なることから,暑い南の採集地点と分布の辺縁にあたり宿主が生存し辛いと推測される北の採集地点で は感染率,細菌密度の減少が予測された。また,2011年の調査では細菌密度の季節性検証に用いた個体数が 少なかった為,季節性の再検証も含め複数地点で複数月に渡り採集をおこなった。その結果,ヤマトシジミ の細菌感染率は日本国内で非常に高く,地理的に変化することはなかった。一方で,細菌密度は採集地点間 で大きく変動するものの,期待したような地理に依存した変化ではなかった。したがって,ヒラタコクヌス トモドキで明らかにしたような宿主による細菌密度の制御が個体群ごとに生じている可能性が示唆された。

また,季節に応じた細菌密度の変化が観察され,春季と秋季に比べて夏季の細菌密度が有意に低くなること が多くの地点で明らかになった。

ヤマトシジミで生じた細菌感染率の季節変動がしないという結果が,節足動物一般に生じている事象かど うかを在来ダンゴムシのコシビロダンゴムシ科2種を用いても検証した。結果として細菌感染率は変化せず,

節足動物一般に細菌感染率は季節変動を伴わないことがわかった。

(2)

論文審査結果の要旨

学位申請者は、非常に広範な節足動物の分類群,フィラリア線虫に感染し、母系遺伝し,宿主に繁殖

操作を行って宿主個体群中に拡がる細胞内共生細菌 Wolbachia の感染率と感染密度の季節的及び地理的

なダイナミクスについて、世界に先駆けて野外で個体群動態を追跡した。まずコウチュウ目昆虫である

ヒラタコクヌストモドキを材料として細菌感染の有無が宿主の歩行活動性や繁殖形質に影響を与える

かを検証した。次にチョウ目昆虫であるヤマトシジミを対象として細菌感染率と体内の細菌密度が季節

的に変化するかを検証するため,2011 年に定点で野外観察を行った。96 頭のヤマトシジミを岡山大学

周辺で採集し,その感染状態を調べた結果,96 頭の内 91 頭が細菌に感染していることが明らかになっ

た。また初夏から秋までの期間においてヤマトシジミの感染率は変化しなかった。さらに同種を対象と

して 2014 年には、日本全国からの採集したヤマトシジミを用いて調査した。日本の気候帯が南北で異

なることから,暑い南の採集地点と分布の辺縁にあたり宿主が生存し辛いと推測される北の採集地点で

は感染率,細菌密度の減少が予測された期待された。その結果,ヤマトシジミの細菌感染率は日本国内

で非常に高いことが明らかになったが,地理的に変化することはなかった。一方で,細菌密度は採集地

点間で大きく変動することが明らかになった。したがって,ヒラタコクヌストモドキで明らかにしたよ

うな宿主による細菌密度の制御が個体群ごとに生じている可能性が示唆された。また,季節に応じた細

菌密度の変化が観察され,春季と秋季に比べて夏季の細菌密度が有意に低くなることが多くの地点で明

らかになった。ヤマトシジミで生じた細菌感染率の季節変動がしないという結果が,節足動物一般に生

じている事象かどうかを在来ダンゴムシのコシビロダンゴムシ科 2 種を用いて,細菌感染率の季節変動

がしないという結果も得た。これらは、節足動物一般に、細菌感染率は季節的に変化せず,細菌感染密

度は季節変動を伴うおことを示す。野外における Wolbachia のダイナミクスを調べた研究は少なく、本

研究は学位論文として十分の価値あるものと判断した。

参照

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